日弁連新聞 第591号

「人種等を理由とする差別的言動を禁止する法律の制定を求める意見書」を公表

arrow_blue_1.gif人種等を理由とする差別的言動を禁止する法律の制定を求める意見書


日弁連は4月14日付けで、「人種等を理由とする差別的言動を禁止する法律の制定を求める意見書」を取りまとめ、内閣総理大臣、法務大臣、衆議院議長、参議院議長等に提出した。


取りまとめに至る経緯

日弁連は2015年5月に「人種等を理由とする差別の撤廃に向けた速やかな施策を求める意見書」を、2020年9月に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律の適正な運用を求める意見書」(以下同法を「解消法」)を公表したが、解消法の運用改善では限界があると判断し、実効性のある法律の制定を提言することとした。


意見書の内容

本意見書では「公然と」、「人種的差別を誘発、助長、扇動する目的でなされる言動」であり、かつ「特定の人種等に対して生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨の言動(例:○〇人を皆殺しにしよう。)」などの5つの類型に該当するものを「人種等を理由とする差別的言動」と定義した上で禁止することを求めた。


また、「人種等を理由とする差別的言動」の根絶に向けた施策の提言や、勧告・禁止命令・過料処分を行う専門機関を設置すること、命令に違反して同様の言動を繰り返す者に対して過料処分を科すことも求めた。


他方で、言動を禁止する以上、慎重な制度設計が必要であることも指摘した。規制目的の合理性・正当性はもちろん、規制対象が明確であること、規制は合理的で必要やむを得ない限度にとどめるべきであること、命令や過料処分を行うに当たり当該言動者に告知聴聞の機会を与えることなどを求めている。罰則についても、刑事罰とすれば表現行為に対する過度の制約となり得るので、現時点では行政罰としての過料が相当とした。


本意見書の取りまとめに際しては、この規制で十分かという意見や、言動を禁止して処分を科すことに対する意見など、多くの意見・疑問が出され、慎重な議論を行った。本意見書の趣旨の実現に向け、取り組みを続けていきたい。


(人権擁護委員会  委員 加藤高志)




G7バーリーダーズ会議を日本で開催
4月29日 日本国際紛争解決センター

arrow G7バーリーダーズ会議(日本)での決議


G7バーリーダーズ会議(G7 Bars and Law Societies Ro-undtable)は、主要国首脳会議(G7)に参加する国の弁護士会のリーダーが集まり、各弁護士会に共通する課題について情勢の報告や意見交換を行う会議である。本年は、G7の開催地である日本で、日弁連がホストとなって開催された。





テーマ別意見交換

弁護士・依頼者間の秘密保護とマネロン対策

片山達会員(第二東京)がモデレーターを務め、マネー・ローンダリング対策に関して、疑わしき取引の報告義務など、各国の法制度や最近の情勢が紹介された。また、弁護士が干渉等を受けずに職務を遂行するためには、弁護士と依頼者の間の秘密保護が不可欠であることが確認された。


ウクライナ情勢と法律サービスの規制

矢吹公敏会員(東京)がモデレーターを務め、昨年に引き続き、ウクライナ情勢への憂慮と同国の弁護士への連帯を示した。その上で、欧州で導入されたロシアに関係する法律サービスの規制について、議論が交わされた。


弁護士倫理

國谷史朗会員(大阪)がモデレーターを務め、企業内弁護士にとっての弁護士倫理や、環境問題への対応と弁護士倫理の関係について、英国ローソサエティから問題提起がなされ、議論した。


採択された決議

議論を踏まえ「依頼者と弁護士の間の守秘義務に関する決議」、「ウクライナ問題に関する決議」が採択された。


会議前日にレセプション、会議後に昼食会も開催され、コロナ禍を経て久々に日本での開催となった国際会議として、弁護士会同士の友好関係の強化と懇親を深める貴重な機会となった。


(国際室嘱託 尾家康介)




憲法改正手続法における国民投票に関するインターネット広告の規制に関する意見書

arrow_blue_1.gif憲法改正手続法における国民投票に関するインターネット広告の規制に関する意見書


日弁連は4月13日付けで、「憲法改正手続法における国民投票に関するインターネット広告の規制に関する意見書」を取りまとめ、衆議院議長・憲法審査会会長、参議院議長・憲法審査会会長等に提出した。


本意見書では、国民投票に関するインターネット広告(以下「ネット広告」)を適正に規制する法改正を行うこと、法改正がなされるまで憲法改正の発議を行わないことを求めた。


ネット広告の現状

ネット広告は、現状ではテレビ等を上回る広告費が使われており、その影響力はテレビ等の広告と同等かそれ以上となっている。そして、大手媒体社による広告枠の寡占状況となっており、大規模な広告を行う場合に多額の費用がかかる点で、テレビ広告と同様である。


また、ネット広告は、①虚偽情報が流布される危険性がある上、ターゲティング広告により投票行動に大きな影響を与え得る、②放送法のような公平中立に関する法的枠組みがない、③外国資本などからの発信が容易で国民主権の問題を生じかねないなど、テレビ広告にはない複数の問題点が指摘されている。以上を踏まえると、国民投票に関するネット広告には、テレビ広告等と同等あるいはそれ以上の規制が必要である。


改正すべき内容

禁止期間

憲法改正手続法がテレビ広告を「投票日前14日間」禁止しているのは、投票前に2週間の冷却期間を置くためである。ネット広告については、これを延長し、1か月以上の禁止期間を設けることが相当である。


虚偽情報の抑制と公正さの確保

虚偽情報の拡散を制限すると同時に、資金力の差による不公正をなくすため、広告主などを表示すること、広告主などが支出できる上限額を定めることが必要である。


国民投票広報協議会の役割

憲法改正案の広報に関する事務を行う国民投票広報協議会(以下「協議会」)に、国民投票に関するインターネットを利用した広報・広告についての規定を設けることを求めている。


具体的には、①憲法改正の発議後、国民投票期日までの間、賛成意見・反対意見の公平性を確保した上で、協議会の費用で国民投票に関するネット広告を行い、②禁止期間以前に行われるネット広告に関するガイドラインを定め、事業者が自主規制を行う根拠となる規定を設けるべきである。


(憲法問題対策本部  事務局次長 神保大地)




技能実習制度および特定技能制度の在り方に関して
会長声明・会長談話を公表

arrow 技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議での中間報告書案の公表に当たっての会長声明
arrow 元技能実習生の双子死産に関する最高裁無罪判決を受けての会長談話


政府は、2022年11月22日、技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(以下「有識者会議」)を設置し、本年5月11日付けで中間報告書を取りまとめた。日弁連は、有識者会議の検討経過を踏まえ、4月26日に「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議での中間報告書案の公表に当たっての会長声明」を公表した。


中間報告書案に関する会長声明

日弁連は、2022年4月15日付け「技能実習制度の廃止と特定技能制度の改革に関する意見書」などで、技能実習制度の廃止を求めてきた。有識者会議の中間報告書案も技能実習制度を廃止する方向性を示しており、この点は積極的に評価することができる。


しかし、技能実習制度の廃止後の新制度については、人材確保に加えて人材育成を目的として掲げている。さらに、現行制度でも構造的な問題点として指摘されていた労働者の転籍(職場移転)の制限についても許容する内容になっている。このため、新制度が技能実習制度と同様に、重大な人権侵害の温床となる危険がある。


また、現在、監理団体が担う「マッチング機能」が重要であるとしているが、これを前提とすると、技能実習生が来日時に送り出し機関やブローカーに高額な手数料を支払うことで多額の債務を背負ってしまう現状と何ら変わらない可能性がある。


そもそも、特定技能制度(特に1号)も、短期ローテーションに基づく受け入れを前提としているため、外国人労働者は生活者として安定した地位を築くことができない。生活者として必要な日本語教育を含む職業訓練や職業紹介制度の充実についても、検討が不十分である。


元技能実習生の無罪判決に関する会長談話

3月24日には、双子を死産した元技能実習生に対する死体遺棄被告事件について、最高裁判所が無罪判決を言い渡した。日弁連は4月24日付けで会長談話を公表し、技能実習制度の構造的問題が事件の一因となったことを指摘した。なるよう、議論状況を注視していきたい。


今後、有識者会議において検討される技能実習制度の廃止後の新制度が、人権侵害を生じさせない制度となるよう、議論状況を注視していきたい。


(人権擁護委員会  特別委嘱委員 中村優介)




日弁連短信

AIチャットボット、生成AIの発展への対応

AIによる分析

『AI技術の発展に伴い、AIチャットボットが弁護士業界にも進出してきており、業界全体が変化の波に直面しています。(略)


まず、AIチャットボットの導入により、事務作業の効率化が期待できます。例えば、書類作成や検索、契約書のチェック、法律相談対応など、従来時間がかかっていた業務が効率化されます。これにより、弁護士は専門的な知識やスキルを活かした業務に集中できるようになります。


しかし、AIチャットボットは弁護士の専門性や人間性が求められる局面では限界があります。クライアントとのコミュニケーションや審判・裁判の戦術立案など、AIチャットボットには難しいとされています。このため、弁護士とAIチャットボットが協力し、互いの長所を活かすことが重要です。


また、AIチャットボットの普及に伴い、弁護士の役割や業務のあり方も変化していくことが予想されます。その中で、弁護士は自身の専門性や人間性を活かし、クライアントに対して最適なサポートを提供することが求められます。そのためには、AI技術の理解や活用方法についても学び続ける姿勢が重要です。


さらに、弁護士会も主体的な役割を果たすべきです。研修やセミナーを通じて、弁護士がAI技術の基礎知識や活用方法を習得できる環境を整えることが求められます。また、業界全体で情報共有やデータ活用に取り組むことで、競争力が高まり、弁護士業務の質の向上が図られるでしょう。


最後に、AIチャットボットがもたらす未来に備え、弁護士業界は柔軟な変革を追求しなければなりません。弁護士自身が専門性と人間性を高めつつ、AIチャットボットと協働することで、業務の効率化やクライアントへのサービス向上が図れるでしょう(略)』


以上はChatGPT(GPT-4)が書いた。一部省略した以外は一字一句手を入れていない。



弁護士業務への影響と課題

AIチャットボットや生成AIは既に社会に大きなインパクトを与えており、弁護士業務・業界への影響も不可避であろう。


一方、虚偽情報や偏向的・差別的な情報が示される恐れ、犯罪等への悪用の恐れなど、さまざまな懸念も指摘されている。法的観点・人権擁護の観点からの検討も必要である。弁護士が利用する場合は情報セキュリティも問題となる。


課題は多岐に及ぶ。日弁連としても検討を本格化する必要がある。


(元事務次長 石井邦尚)




院内学習会
いまこそ、代用監獄廃止を~相次ぐ警察留置場保護室での死亡事案を契機に自白強要の温床である代用監獄の問題点を考える~
4月28日 衆議院第一議員会館

arrow_blue_1.gif院内学習会「いまこそ、代用監獄廃止を~相次ぐ警察留置場保護室での死亡事案を契機に 自白強要の温床である代用監獄の問題点を考える~」


2022年12月、警察留置場保護室での死亡事案が相次いで発生した。留置施設における保護室収容と身体拘束の危険性を踏まえ、人質司法の現状や代用監獄の問題について議論した。


代用監獄はなぜ問題か

刑事拘禁制度改革実現本部の田鎖麻衣子事務局次長(第二東京)は、2002年の名古屋刑務所保護房における受刑者の死亡事案を契機に旧監獄法が全面改正され、警察の留置施設に保護室が整備されたが、ベルト手錠や捕縄等の戒具の併用を安易に行う実務が常態化していると指摘した。また、留置施設での勾留はあくまでも刑事施設の代替であるにもかかわらず、捜査機関の取調べの便宜から拘置所への移送が進まない現状の問題点を解説した。


その上で、代用監獄の廃止に向け、まずはその機能を縮小すべく、危険な戒具の使用や一定の疾病等がある被勾留者の収容を禁止すべきだと訴えた。


事例報告

髙田剛会員(第二東京)は、主任弁護人として弁護活動に携わった大川原化工機事件における被疑者らの逮捕・勾留、取調べの経過を詳説した。自白獲得目的であることが明らかな逮捕・勾留や、身体拘束に加えて取調べによる精神的疲弊という圧倒的に不利な環境下で自白を得ようとする不当な捜査の実態を明らかにし、代用監獄が自白強要のツールに使われていると指摘した。


海渡雄一副本部長(第二東京)は、2017年に発生した新宿警察署における取調べ中の死亡事案について、被疑者を保護室に収容して戒具3点を同時に装着していた実態や、国家賠償請求事件において戒具の拘束により血流を妨げられたことが死因であると認められたことを説明し、保護室で戒具を使用することの危険性を改めて強調した。


福井秀剛会員(愛知県)は、2022年の岡崎警察署における死亡事案について、精神疾患のある被疑者を保護室に収容の上、裸の状態で延べ140時間にわたり戒具を装着するなど深刻な人権侵害が行われたと報告した。この事案では弁護人も選任されておらず、医療体制が整わない留置施設では障害に応じた適切な処遇がなされない危険があると指摘した。




新事務次長紹介

石井邦尚事務次長(第二東京)が退任し、後任には、6月1日付けで中村新造事務次長(第二東京)が就任した。


中村 新造(なかむら しんぞう) (第二東京・58期)

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近時、社会情勢の変化、価値観の多様化などに伴い、弁護士が活躍する分野も広がりを見せています。事務次長として、全国の弁護士会、弁護士会連合会、日弁連が有機的に連携できるように、そして一人一人の会員や市民の声を日弁連の活動に反映できるように微力を尽くしたいと思います。



民事司法改革シンポジウム
実効性ある民事裁判制度実現のために―損害賠償制度改革の課題と展望
3月29日 日本国際紛争解決センター

arrow 民事司法改革シンポジウム「実効性ある民事裁判制度実現のために―損害賠償制度改革の課題と展望」


日弁連は、2022年9月に「慰謝料額算定の適正化を求める立法提言」および「違法収益移転制度の創設を求める立法提言」を公表した。

これらの提言に基づく損害賠償制度改革の課題と展望を多角的に議論し、提言の実現に結び付けるべく、シンポジウムを開催した。


基調報告

小野寺友宏会員(仙台)は、慰謝料額について、被害者が心身の障害を発症するなど被害が具体化しているセクハラ事案でも、認定額が低額に留まると裁判例の実態を報告した。また、週刊誌の報道に対する名誉毀損事件を例に挙げ、事実とは異なる内容を掲載したと認定されたにもかかわらず、認められた損害賠償額は、週刊誌の収益に比べて少なく、結果として出版社が違法な報道で利益を得たと評価せざるを得ないと指摘した。


その上で、2020年の民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議の取りまとめで、知財分野における懲罰的損害賠償や利益吐き出し請求権の導入の要否が検討課題となったと説明し、適正な損害賠償額の認定が可能となるような制度への改革と違法行為抑止を目的とした違法収益移転制度の創設に向けて、積極的な働きかけを行う時期にあると訴えた。


パネルディスカッション

慰謝料額算定について、窪田充見教授(神戸大学大学院)は、例えばハラスメントで退職を余儀なくされた事例では、退職によって将来の可能性を失ったことを財産的に評価することができると示唆し、慰謝料額を具体的な被害内容から検討すべきと指摘した。


違法収益移転制度の創設について、渋谷高弘氏(日本経済新聞編集委員)は、漫画の海賊版サイトを例示し、現行の制度では被害を受けた企業等の経済的損害は十分に補填されないと指摘した。その上で、加害者が違法に得た収益を考慮して損害賠償額を定めることができるとした日弁連の提言を評価した。


冨山和彦氏(株式会社経営共創基盤IGPIグループ会長)は、昨今の技術革新のスピードに法整備が追いついていない現状を踏まえ、違法行為の抑止のためには刑事処罰のみならず経済的制裁の検討も必要だと強調した。窪田教授も、ドイツのカロリーネ・モナコ妃事件判決に触れ、損害賠償制度に将来の不法行為の抑制機能を持たせる可能性について言及した。




シンポジウム
若者に届け!未来を創る消費者教育~成年年齢引下げ1年後のリアルを踏まえて~
4月7日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「若者に届け!未来を創る消費者教育~成年年齢引下げ1年後のリアルを踏まえて~」


成年年齢の引き下げにより、消費者教育の重要性は高まっている。若年者に消費者教育は届いているのか、効果的な消費者教育には何が必要か、当事者である若年者の意見を直接聞いて、消費者教育の在り方を議論した。


若年者の消費者トラブルの現状・行政の取り組み

安井大智氏(独立行政法人国民生活センター)は、契約当事者が18歳・19歳の消費生活相談を分析して報告した。成年年齢の引き下げ後、相談の総件数は微増にとどまるが、脱毛エステなどの美容関連や副業・金融商品などの相談が増え、被害金額が高額化する傾向も見られると解説した。


山地あつ子氏(消費者庁消費者教育推進課長)は、関係4省庁が連携した、学校等での消費者教育やSNSを活用した情報発信などを紹介した。昨年度は消費生活相談員等による出前講座を約200校で実施し、現在は企業の新人従業員向け研修に消費者教育を導入するプログラムを開発していると語った。


池垣陽子氏(埼玉県立蓮田松韻高等学校教諭・文部科学省消費者教育アドバイザー)は、生徒が商品・サービスの優良誤認・有利誤認表示を調査した結果を県に提出し、県が必要に応じて行政指導等を行う、埼玉県と学校が連携・協働した消費者教育事例を報告した。成果が目に見えるため、生徒が意欲的に取り組めたと振り返り、自分の行動が社会に影響を与える実体験の重要性を指摘した。


パネルディスカッション

現役の高校生1名、大学生2名、大学院生1名が登壇し、これまでに受けた消費者教育の内容は記憶にない、何百万円の被害と言われても実感が湧かないと、本音の感想を語った。一方、自分も被害に遭いそうな事例が記憶に残った、被害者から直接聞いた話に強烈な印象を受けたとの意見も出された。


消費者ホットライン188について、学生からは、SNSに慣れており、電話での相談には心理的ハードルが高いとの発言があった。これに対し、江花史郎会員(新潟県)は、出前授業で実際に生徒の前で188に架電すると、相談員の対応が分かり不安を払拭できると、実践的な消費者教育の効果を語った。


パネリストらは、学生の率直な意見を教材作成や授業内容に生かし、より効果的な消費者教育を推進したいと意欲を示した。




公開講座
社外取締役の活動と投資家と~社外取締役ガイドラインを参考に~
4月14日 弁護士会館

arrow_blue_1.gif公開講座「社外取締役の活動と投資家と~社外取締役ガイドラインを参考に~」


上場企業のコーポレートガバナンス上の課題について、社外取締役がどのように向き合い、行動していくべきか、さまざまな立場のパネリストを迎え、具体例を基に議論した。


関与の在り方や社外取締役間の情報交換

塚原一男氏(元IHI代表取締役副社長・アスクル社外取締役・DIC社外取締役)は、社外取締役はさまざまなバックグラウンドに基づく知見を生かし、客観的に過去の事業を総括できる立場にあるため、企業の中長期戦略の策定において、その本領を発揮できると述べた。


小出寛子氏(元ユニリーバ・ジャパン取締役・J.フロントリテイリング社外取締役・J︲オイルミルズ社外取締役・三菱電機社外取締役)は、社外取締役のみで定期的に意見交換を行い、決議事項に至っていない中長期的な論点について認識を共有することで、取締役会の議論を充実させ、執行役への提言にもつなげられると紹介した。また、取締役会の事前準備の際に、担当の管理職から案件の説明を直接受けることで、次期経営陣候補の人材を知る機会にもなると語った。


寺沢徹氏(アセットマネジメントOneエグゼティブESGアドバイザー)は、機関投資家の立場から、東京証券取引所のコーポレートガバナンスコードをそのまま議決権行使の基準とはしておらず、最終的には会社ごとの個別事情も勘案すると述べた。その前提として、社外取締役には、当該体制や制度が資本政策上合理性を有するのかについて、時に厳しい指摘もすることで社内の議論を充実させてほしいと要望した。



ダイバーシティと人材育成

社外取締役を務める柴田美鈴会員(第二東京)は、女性役員の比率向上、若手を含む幅広い世代や社外からの役員登用など、ダイバーシティへの取り組みを紹介した。社外取締役として、高い目標を明確に設定することや、長期的な要請を行うことによって、ダイバーシティが実現しつつあるとした上で、女性役員や管理職だけの会合を開くなどして、役員に選任された後の活動も後押ししていると説明した。


社外取締役らは、企業の取り組みを支援しつつ、厳しい意見も投じることで企業価値の向上に努めたいと締めくくった。




事業再生シンポジウム
再チャレンジ支援の実務と課題
4月10日 弁護士会館

arrow 事業再生シンポジウム「再チャレンジ支援の実務と課題」


コロナ禍、物価高などの影響により、中小企業の借入金残高は大幅に増加し、過剰債務問題が顕在化してきている。

2022年3月には廃業型私的整理手続の定めを含む「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下「中小版GL」)が公表されるなど、私的整理手続による再チャレンジ支援が注目される中、中小企業に関わる団体、専門家が参加して、再チャレンジ支援の実務を議論した。


冒頭挨拶

神﨑忠彦氏(中小企業庁事業環境部金融課長)は、中小企業を取り巻く現状の厳しさを指摘し、事業継続に向けた収益力や事業再生支援だけでなく、その実現が困難な中小企業への再チャレンジ支援の重要性を強調した。


小林元治会長は、中小企業を取り巻く関係者が協力し、再チャレンジを支援することが日本経済全体にとって必要だと述べた。


基調講演

古川せひろ氏(中小企業庁事業環境部金融課課長補佐)は、近時の中小企業の再チャレンジ支援施策として、中小版GLに基づく私的整理を行った場合に、支援専門家の費用の一部を国が補助する「経営改善計画策定支援事業」と、経営者保証に依存しない融資慣行を確立するために策定された「経営者保証改革プログラム」を解説した。


中小版GLに基づく再チャレンジ支援について、中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジを一元的に支援すべく設置された中小企業活性化協議会(以下「協議会」)に関与する会員と、私的整理の支援専門家(代理人等)として関与する会員から、具体的な事例が報告された。


加藤寛史会員(第一東京・中小企業活性化全国本部統括事業再生プロジェクトマネージャー)は、手続選択を担う弁護士には、直ちに破産させるのではなく、私的整理を検討する姿勢が望まれていると語った。


パネルディスカッション

金融機関、協議会、支援専門家弁護士らが登壇し、中小企業を取り巻くプレイヤーの立場から、再チャレンジ支援の実務と課題を議論した。


登壇者らは、経営者にとって廃業の決断は容易でないが、私的整理であれば安心感・納得感があり、早期に決断できるため、問題の深刻化を回避して債権毀損を最小限にとどめることにもつながると指摘し、再チャレンジ支援が債務者・債権者の双方にとって相当性・合理性があるとの一致した認識を示した。




JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.180

公益財団法人
ジョイセフ(JOICFP)
すべての人が心身ともに満たされ健康で幸せに生きられる社会へ

日弁連は本年1月、包括的性教育の実施とセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(以下「SRHR」)の保障を求める意見書を公表しました。そこで、日本におけるSRHRの推進活動に関して、長い歴史と多くの実績を有する団体の一つである公益財団法人ジョイセフ(以下「ジョイセフ」)のアドボカシー分野で活躍する草野洋美氏にお話を伺いました。

(広報室嘱託 花井ゆう子)


SRHRとジョイセフの活動

SRHRは多くの場合「性と生殖に関する健康と権利」と訳され、人が生まれながらに持つ権利、基本的人権であると考えられています。具体的には、性と生殖について一人一人が適切な知識と自己決定権を持ち、心身ともに健康で幸せを感じられること、そしてその状態が社会的に保障されていることを言います。


ジョイセフは、開発途上国における家族計画・母子保健分野の試験研究法人・技術協力機関として1968年に設立されました。


その後、東日本大震災で女性や母子が必要とする生活物資の配給などの支援活動を行ったことを契機に、国内での活動をはじめ、国内の課題に関する啓発や、政府・国会議員などに対する提言や働き掛け(アドボカシー活動)にも活動範囲を広げています。



アドボカシー活動

最近のアドボカシー活動として、若者支援と市民団体との連携に力を入れています。


若者支援では、国内のSRHRやジェンダー課題に関心を持つ若者が集まり、国会議員や政府との対話や、オンラインキャンペーンなどを通じ、国に働きかける支援をしています。


また、市民団体と連携した活動として、国連人権理事会による日本政府の普遍的・定期的審査(UPR)に向け、国内7団体と海外2団体とで共同執筆したSRHRレポートを提出し、国連の事前セッションで発表しました。その結果、本年1月末の第42回UPRでは、24か国から36ものSRHRに関する勧告が日本政府に提出されました。


勧告では、包括的性教育が学校で実施されていないこと、緊急避妊薬を含む避妊薬(具)や安全な中絶へのアクセスに障壁があること、LGBTQI+の人々への差別を撤廃し権利を守る法律がないことなどが指摘されました。また、日本ではSRHRの保障が十分ではないことが国連人権理事会でも指摘されました。


日本におけるSRHRの現在地

SRHRの国内における課題は山積みであり、その現在地は、世界経済フォーラムが2022年に公表したジェンダー・ギャップ指数(146か国中116位)と同程度であると言ってよいと考えています。


例えば、避妊薬(具)へのアクセス障壁が挙げられます。入手できる避妊薬(具)の種類が少なく、WHOが必須医薬品とし、性交後72時間以内に服用すれば高い確率で妊娠を防ぐ緊急避妊薬(アフターピル)にも、医師による診療と処方が必要です。また、諸外国に遅れること約30年、ようやく今年4月末に承認された経口中絶薬も、薬剤価格が高く、服用に入院または院内待機が必須のため、容易に入手できません。これらは産むか産まないか、生殖に関する全てのことを自分で決める権利(リプロダクティブ・ライツ)と健康(リプロダクティブ・ヘルス)に関わる問題です。


最近、女性がたった一人で出産した後、子を殺害・遺棄したというニュースが頻繁に報道されます。その背景には、性別に関わらず、性と生殖に関する知識不足、貧困や家庭での虐待などによる家出、インターネット等の普及でリスクが高まった性暴力や性的虐待、貧困による性産業への関与、外国人技能実習生の待遇などの問題があります。これら弱い立場に置かれがちな若者や外国人が追い込まれた結果として、意図しない妊娠等に至っているのです。


SRHRと包括的性教育

私たち一人一人のSRHRが守られ、適切なサービスを享受できるようになるためには、早い段階から年齢に適した包括的性教育を受けることが必要です。包括的性教育は、性を人権の視点で捉え、生殖の仕組みだけではなく、SRHRとは何か、ジェンダー平等や性の多様性、人間関係や情報リテラシーなどを多角的に学び、自分と他者を尊重し、互いの権利を守ることを学ぶ教育です。日本では性に関する事柄には蓋をしておくべきという風潮が根強くあり、義務教育でも性交(妊娠の経過)については教えないという歯止め規定があります。そのため、自分の心と身体の健康を守る方法を学ぶ機会が少なく、誤った情報をうのみにした性加害を防止できません。人権という視点で包括的性教育を行うことで、人権を侵害している、されているという意識もないまま加害者・被害者になるという事態を防ぐことができるのです。


SRHRを人権と捉え、それが社会の共通認識となるためには、国による若い世代への包括的性教育を早期に実施することが不可欠です。


弁護士に期待すること

SRHRのみならず、日本では人権への感度が全般的に低いように感じます。ジョイセフが国に政策等を提言したり、国際社会に発信する際に、法律家の皆さんと連携することができれば大変力強いです。一人一人が幸せに生きることができる社会を目指し、協働していければと思います。




日弁連委員会めぐり122
「日本知的財産仲裁センター」の事業に関する委員会

今回の委員会めぐりは、「日本知的財産仲裁センター」の事業に関する委員会(以下「委員会」)です。今井優仁委員長(東京)、堀籠佳典委員(第二東京)、日野修男委員(第一東京)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 長瀬恵利子)


活動の概要

委員会では、日本知的財産仲裁センター(以下「センター」)の運営とバックアップに関する諸活動を行っています。


センターは、日弁連と日本弁理士会が共同で設立した知的財産の紛争処理などを行うADR機関です。本年3月で設立25周年を迎えました。委員会の委員は、センターの役員または運営委員として事業の運営に携わっています。


センターの事業

センターが実施する調停・仲裁では、知的財産分野に精通した弁護士や弁理士、学識経験者が調停人や仲裁人として紛争解決に当たっています。また、全国8か所に支部・支所を展開し、事案にかかわらず費用を低額に設定することにより、広く市民がアクセスしやすい体制を整えています。


センターではその他にも、JPドメイン名の移転・取消に関する紛争処理や、特定の特許が標準規格に規定される機能および効用の実現に必須か否かの判定(センター必須判定)、事業の遂行に影響を与える特許の有無等の判定(事業適合性判定)など、知的財産に特有の手続も取り扱っており、多くの方にご利用いただいています。


国際化と手続の電子化

企業の国際展開に伴い、海外の企業が当事者となるケースや、海外に進出した日本の企業同士が現地で対立するケースなど、知的財産に関する紛争の内容も国際化・複雑化しています。センターではこの流れに対応して、手続などを英語で行えるように取り組んでいます。


また、利便性を高めるために手続の電子化にも力を入れています。既に、事案によっては、申し立てから解決に至るまで、書面のやりとりをオンラインで完結させることが可能です。


会員へのメッセージ

ADRの最大のメリットは、事案に即した柔軟な解決を図ることができる点にあります。同じ第三者を入れた紛争解決手段であっても、裁判所での手続と比べてハードルが低く、利用しやすい制度になっています。


センターでは、紛争解決に関わる専門的な技術を習得するための研修を定期的に開催し、より良いサービスを提供できるように努めています。センターの活用を是非ご検討ください。




ブックセンターベストセラー (2023年4月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

令和4年度重要判例解説(ジュリスト臨時増刊)

有斐閣
2

会社法〔第4版〕

田中亘/著 東京大学出版会
3

調停等の条項例集―家事編―

星野雅紀/著 司法協会
4 ゼロから信頼を築く 弁護士の顧問先獲得術 高橋喜一/著 学陽書房
5 Q&A若手弁護士からの相談199問 特別編―企業法務・キャリアデザイン  京野哲也/編著 ronnor、dtk/著 日本加除出版
6 紛争類型別の要件事実―民事訴訟における攻撃防御の構造〔4訂〕 司法研修所/編 法曹会
7

法律相談 個人情報保護法

岡村久道/著 商事法務
8

否認事件の弁護(上)

後藤貞人/編著 現代人文社
9

弁護士法第23条の2照会の手引〔七訂版〕

第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会/編 第一東京弁護士会

認知症高齢者をめぐる法律実務

水谷英夫、小島妙子/共編 新日本法規出版

否認事件の弁護(下)

後藤貞人/編著 現代人文社



海外情報紹介コーナー⑱
Japan Federation of Bar Associations

民間の弁護士紹介プラットフォーム事業への対応(韓国)

大韓弁護士協会は、近年急速に拡大した民間の弁護士紹介プラットフォーム事業について、法律サービスの質の低下や消費者の誤判断を生じさせるほか、弁護士の独立性にも関わるとして、問題視している。


2021年には弁護士広告に関する内規および弁護士倫理章典の改正により、弁護士のプラットフォーム利用を規制した。2022年には大韓弁護士協会自らがプラットフォームサービスを開始するに至った。本年1月の会長選挙でも、公的プラットフォームサービスの発展を訴えたキム・ヨンフン氏が当選し、民間のプラットフォーム事業に対しては厳正な対応を継続している。


(国際室嘱託 松本 成)