技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議での中間報告書案の公表に当たっての会長声明


政府は、2022年11月22日、外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議の下に「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)を設置し、技能実習制度及び特定技能制度の在り方について、技能実習制度の存廃を含め検討を行ってきた。そして、2023年4月19日、有識者会議において、中間報告書案(以下「報告書案」という。)が公表された。


報告書案は、「検討の方向性」において、「現行の技能実習制度を廃止して人材確保及び人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討すべきである」とした。


当連合会は、技能実習制度が人材育成を通じた国際貢献という名目にもかかわらず、国内の人材確保のために利用されている実態を指摘し、この名目と実態の乖離が人権侵害や労働関係法令違反に結び付く構造的原因となっていることから、技能実習制度の廃止を強く訴えてきた。報告書案は、技能実習制度を廃止し、人材確保の目的を正面から認める新たな制度を創設する方向性を示したものとして積極的に評価することができる。


しかし、報告書案の「検討の方向性」には、以下のとおりの問題や検討すべき課題がある。


第一に、新たな制度の目的として、人材確保とともに人材育成を掲げている。しかし、当連合会がかねて指摘してきたとおり、技能実習制度が掲げる人材育成を通じた開発途上地域等への技能等の移転による国際協力という目的は、現実には機能しておらず、むしろ、この目的を理由として転籍(職場移転)を原則禁止することにより技能実習生の立場を弱め、人権侵害を招く構造的問題を生じさせてきた。人材育成を制度目的に加え、それを根拠に転職の自由を制限することがあれば、技能実習制度において生じた構造的問題を再燃させることとなりかねない。したがって、新たな制度においては、他の就労系の 在留資格と同様、人材育成の目的をあえて含めるようなことはせず、転籍は原則として自由であることとすべきである。


第二に、新制度に転籍制限を残すこととしているが、上記のとおり転籍は自由であって転籍の制限を残すべきではない。まして、人材育成や呼び寄せのために費やした雇用主の費用の回収なども考慮要素として、転籍制限の在り方を具体的に議論していくとした点は反対である。外国人の就業者の継続した雇用は、日本人の就業者と同様、労働契約のほか、雇用主による待遇改善や将来のキャリアパスの提示によって実現されるべきであって、転籍が在留資格の喪失につながることによって転籍を制限することは技能実習制度と同様の深刻な被害を再び発生させることに結び付きかねない。


第三に、技能実習制度において監理団体が担っている「国際的なマッチング機能」について、「重要である」としている。技能実習生は、送出し機関やその他のブローカーに高額な手数料を支払い、借金を抱えて来日していることが多く、それが技能実習生に劣悪な雇用環境を我慢させる要因にもなっている。このような現状を踏まえるならば、送出し機関と監理団体による現在のマッチングの方法を所与の前提とするべきではなく、国と国の間での斡旋制度を含む様々な送出しの方法、ブローカー排除の方法などが検討されるべきである。


第四に、外国人がキャリアアップしつつ国内で就労できる制度とする観点で、新制度から特定技能制度への移行が円滑なものとなるよう、対象職種や分野を一致させるような制度設計を検討するとしており、そのようなキャリアパスを用意すること自体には意義がある。しかし、それだけではなく、新しい制度や特定技能制度の在留資格についても、いわゆる短期ローテーションの発想に基づくことなく、安定した生活を展望できる更新の可能な制度として構想すべきである。


第五に、「外国人労働者に対する来日後の日本語教育に掛かる費用や必要な支援」について、「基本的に外国人労働者の負担とはせずに受入れ企業等の負担としつつも、国や自治体が日本語教育環境の整備などの支援を適切に行いながら、日本語教育の機会を充実させる方向で検討すべき」としている。日本語教育における国や自治体の役割を示したことは評価できるが、日本語教育を含む職業訓練や職業紹介制度の充実、生活者としての外国人に対する日本語教育の充実は、外国人労働者の就業支援策、外国人労働者及びその家族との共生のための施策として国等が費用を負担して自ら行うべき施策であり、これらを充実させる方向で検討がなされるべきである。


以上のとおり、報告書案が、技能実習制度の廃止と人材確保を目的とした新しい制度の創設を打ち出したことは積極的に評価することができるが、新しい制度の具体的な内容によっては、国内外から深刻な人権侵害を指摘され続けてきた技能実習制度同様の問題を残すおそれがある。


当連合会は、有識者会議において以上の点などを踏まえた十分な検討がなされ、技能実習制度の廃止後、人権侵害を生む構造的な問題を解消した新制度が創設されることを求めるとともに、新制度の実現に向けて全力を尽くす決意である。



2023年(令和5年)4月26日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治