日弁連新聞 第596号

第65回人権擁護大会開催
10月5日・6日 長野市

arrow 第65回人権擁護大会・シンポジウム


第65回人権擁護大会を長野市で開催した。10月5日の2つのシンポジウム、翌6日の大会は、ともにウェブでも配信され、会場と合わせて多数の参加を得た。大会では2つの決議を採択した。次回大会は、名古屋市で開催される。


人権としての「医療へのアクセス」が保障される社会の実現を目指す決議

医療は、人間が生涯にわたって尊厳ある生存を維持するために必要不可欠なものである。いつでも、どこでも、誰でも、安全で質の高い医療にアクセスする権利が基本的人権として平等に保障されており、すべての人が経済的・地理的事情、個人の属性などにかかわらず、等しく必要な医療を受けられるよう、医療制度の充実を図る必要がある。


そこで、国および地方自治体等に対し、①医療費の窓口負担がない対象者の範囲を拡大するなど、誰もが必要な医療を受けられる医療保険制度の構築、②暮らしている地域にかかわらず必要な医療を受けられる医療提供体制の充実、③保健所の増設と機能拡充、保健師の増員等の公衆衛生体制の充実、④医療・公衆衛生部門の削減は地域の疲弊を招き、さらなる医療へのアクセス阻害を生じさせる可能性があるため、地域経済への影響をも重視したエビデンスに基づく検証を前提とした政策決定を行うこと、⑤健康格差を生じさせている社会構造的要因を解消するための取り組みやその要因に関する公的調査の実施などを提言した。


日弁連は、医療と法的支援の協働による個人の権利擁護の重要性に鑑み、本決議の実現に取り組むものである。


子ども・高齢者・障害者を含む住民の人権保障のために、地域の家庭裁判所の改善と充実を求める決議

地域住民の人権保障の維持・拡充には、地域の家裁の役割は極めて重要であり、家裁の体制は、地域間で人的・物的・機能的に格差があってはならない。


急激に進む少子高齢化、家族を巡る社会状況や個人の価値観の変化を背景に、家裁が取り扱う事件数は全国的に増加し、家裁が地域で果たすべき役割は拡大している。これに対応するためには、家裁における人的・物的基盤の充実が不可欠である。


そこで、最高裁判所をはじめとする国に対し、裁判官および家裁調査官の大幅増員と配置の拡充、すべての独立簡裁所在地への家裁出張所の設置のほか、子ども・高齢者・障害者の権利保障の視点から、少年審判を扱う家裁支部の拡大、IT利用支援と誰もが利用しやすいシステムの構築などを求めるとともに、そのための予算を優先的に措置することを求めた。


日弁連は、社会的弱者救済という家裁設立の理念を踏まえ、本決議の実現に向けて、裁判所とともに全力を尽くすものである。


特別報告〜刑事司法改革

中村元弥副会長が、オンライン接見の実現や全事件・全過程における取調べの録音・録画(可視化)の必要性を訴え、日弁連はこれらの刑事司法改革にも全力で取り組むと述べた。



第1分科会
人権としての「医療へのアクセス」の保障
〜新自由主義的医療改革から住民のいのちと医療の現場が大切にされる医療保障改革へ〜

1990年代から国が医療費抑制策を進める中で、経済的理由による受診抑制や医療提供体制悪化の問題が生じている。「医療へのアクセス」を人権として捉え、住民、地域医療を支える現場の医療従事者らと、地域のニーズを踏まえた医療保障の在り方を議論した。


病院の入り口に立てない人々

新型コロナウイルス感染症により自宅待機中の弟を亡くした髙田かおり氏は、誰もが医療を受けられる体制の整備を強く訴えた。和田浩氏(飯田市健和会病院小児科医)は、患者の窓口負担を理由とする受診抑制が子どもの健康に重大な影響を及ぼしている現状があると語り、貧困対策として子どもの医療費の完全無料化が必要だと指摘した。


医療現場と医療経済学からみた医療費抑制策

本田宏氏(NPO法人医療制度研究会理事長・医師)は、医療費抑制策は慢性的な医師不足や厳しい病院経営に悩む現場の声を蔑ろにするもので、地域医療へのアクセスを一層困難にしていると批判した。兪炳匡教授(早稲田大学人間科学学術院人間科学部教授・医療経済学者・医師)は、社会保障が経済成長の障害になるとされて公立・公的病院の統廃合等の各政策が科学的根拠なく進められてきたが、むしろ、医療関連分野への投資は経済的な波及効果が高く、医療機関の拡大こそが地元経済を活性化させると述べた。


コロナ後の地域住民を守るために

茂松茂人氏(日本医師会副会長)は、日本医師会の取り組みを紹介し、コロナ禍を経て、感染症の流行下でも適切な医療を提供するために、かかりつけ医の機能が発揮される制度や医師の働き方改革の必要性を説いた。由井和也氏(佐久総合病院小海分院院長)は、目の前の患者を治すだけでなく、健康であることを人間の権利として住民に啓発していく基本的任務が医師にはあるとした故若月俊一医師の理念を受け継ぎ、地域に根ざした医療に取り組んでいると語った。松田加寿美氏(日本医療労働組合連合会看護対策委員会事務局長・看護師)は、看護師が厳しい労働環境に置かれている実態を説明し、医療の質の向上のために医療従事者の労働環境を改善する必要があると訴えた。


パネルディスカッションに登壇した本田氏は、人権といのちを守るという点で弁護士と医師は共通の使命を負うとし、弁護士と協働して医療保障改革に取り組んでいきたいと力を込めた。



第2分科会
地域の家庭裁判所が真に住民の人権保障の砦たりうるために
〜司法IT化のすき間で生じる子ども・高齢者・障害者の権利救済・権利擁護支援の視点から〜

家庭裁判所は、社会的弱者の支援を使命として発足した。しかし、社会のIT化の流れの中、効率化ばかりが重視されて家裁支部等の統廃合等が生じれば、子ども・高齢者・障害者をはじめとする地域住民の権利が犠牲になる恐れがある。本シンポジウムでは、家裁の現状を共有し、在るべき姿を議論した。


家庭裁判所の歴史、地域における家庭裁判所の役割

清永聡氏(NHK解説委員)は、日本国憲法施行後、戦争孤児をはじめとする社会的弱者の保護が社会問題化する中で、宇田川潤四郎、内藤頼博、日本初の女性弁護士の一人である三淵嘉子が中心となって、家庭問題を解決する司法機関として家裁制度を発足させたことを紹介した。制度開始から70年が経ち社会が激変する今こそ、先人が掲げた理念に立ち返り、家裁の役割を考えるべきであると語った。


家庭裁判所の現状

人口や地理的状況に見合った支部や出張所が設置されていないことや、裁判官や家裁調査官の不足、審理の長期化などの問題が各地で生じていると報告された。また、手続のIT化によって遠方でも裁判を受けられるメリットがある一方で、IT技術を利用できない人の権利が阻害される懸念が、市民の声を交えて指摘された。


子どもの権利条約から見た家庭裁判所のあり方

国連子どもの権利委員会前委員長の大谷美紀子会員(東京)は、家裁は子どもの権利が脅かされる場面で積極的にその権利を擁護する役割を果たすべき存在であり、国は子どもの最善の利益原則、子どもの意見表明権を保障する責務を負うと強調した。






地域の家庭裁判所の充実を求める活動報告

栁田清二氏(佐久市長)は、関係機関との連携や、最高裁判所、財務省への働きかけなどを続けた結果、家裁佐久支部に児童室(試行面会施設)が設置されたことを報告し、他の地域の家裁の充実に向けた支援もしていきたいと語った。


パネルディスカッション

清永氏、大谷会員、那覇家庭裁判所前所長の藤田光代会員(熊本県)、青木志帆会員(兵庫県)が、家裁の在るべき姿について意見を交わした。少子高齢社会において家裁の果たすべき役割が大きくなっているとし、家裁が関係機関とも連携して、設立理念に基づき社会的弱者の権利を守る機関であり続けることへの大きな期待を示した。




インターネット上の詐欺的な定期購入商法被害の激増への対処を求める意見書

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日弁連は、本年9月15日付けで「インターネット上の詐欺的な定期購入商法被害の激増への対処を求める意見書」を取りまとめ、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)等に提出した。


意見の背景

詐欺的な定期購入商法とは、初回に無料または低額な金額を提示し、2回目以降に高額な金額を支払わせる商法である。具体的な手口としては、消費者が定期購入であることを容易に認識できないような形で広告等の表示を行うもの、定期購入と示しつつ「いつでも解約可能」と称して契約を締結させた上で解除を困難にするといったものが挙げられる。全国の消費生活センターに寄せられた定期購入に関する相談は、2020年に約6万件に上った。


この規制強化策として、2021年に特定商取引に関する法律(以下「特商法」)が改正された(2022年6月施行)。改正法では、通信販売業者が設定した様式により申し込みを受け付ける「特定申込画面」について、商品等の分量、対価、解除に関する事項等の表示を義務付け(第12条の6第1項)、人を誤認させる表示を禁止し(同条第2項)、これらの違反を罰則の対象とし、取消権を設ける(第15条の4)等の措置が講じられた。


2021年の相談件数は2020年に比べ若干減少したものの、2022年の相談件数は再び大幅に増加しており、過去最高の件数となった。改正内容が消費者の保護には不十分だったと言わざるを得ず、法令等の整備が急務である。


意見書の要旨

本意見書では、定期購入契約に関し、法令を改正し、①広告画面および特定申込画面において、初回と2回目以降の価格・数量等の分離表示を禁止し、支払総額等を消費者が容易に認識できるよう表示すること、広告画面については定期購入であることと矛盾する表示(「お試し」等)、取引条件について誤認させる表示(実際には解約困難にもかかわらず「いつでも解約可能」とする等)も禁止すること、②事業者に最終確認画面を遅滞なく申込者へ提供する義務を課し、違反時の解約権を規定すること、③事業者に広告画面・申込確認画面を保存・開示する義務や、契約申込方法と同等の解約申出方法を設定する義務を規定することなどを求めている。


(消費者問題対策委員会  副委員長 島薗佐紀)



被告人が所在不明である場合に公判手続停止を求める意見書

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日弁連は、本年9月14日付けで「被告人が所在不明である場合に公判手続停止を求める意見書」を取りまとめ、法務大臣および最高裁判所長官等に提出した。


被告人が所在不明である場合の弁護活動の困難性

刑事弁護活動に臨むに当たっては、当事者である被告人と弁護人が意思疎通を行うことが不可欠である。被告人の主張を理解し、被告人の利益のために活動することが、最善の弁護活動として求められている。


しかし、被告人の所在が不明である事件は実務上しばしば存在する。とりわけ、控訴審および上告審では、被告人の所在が不明であっても、原則として手続の進行は妨げられないため、弁護人は、被告人と何ら協議をする機会もないまま、控訴趣意書や上告趣意書の提出を余儀なくされ、弁護活動は進退窮まることになる。


被告人と弁護人の意思疎通の機会が得られず、防御方針が定められない結果、被告人は十分な防御の機会を保障されないことになる。被告人の所在が不明である場合には公判手続が停止されるよう、立法的解決を図るべきである。


意見書の内容

本意見書は、刑事訴訟法に「被告人の所在が明らかではない状態にあるときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間、公判手続を停止しなければならない」旨の規定の新設およびその上訴審への準用を求めている。


現行の刑事訴訟法第314条1項本文では、被告人が心神喪失の状態にあるときには公判手続を停止することが定められている。被告人と弁護人の間で意思疎通ができないまま公判手続を進行させたならば、被告人に十分な防御の機会が保障されない。


この点で、被告人が心神喪失である場合と、被告人が所在不明である場合は共通する。同条の趣旨に鑑みれば、公判手続を停止すべき場合を被告人が心神喪失の状態にあるときに限るべきではない。


被告人の防御権を保障し、弁護人が最善の弁護活動を尽くすことができるように、前述した規定の新設を内容とする刑事訴訟法改正が必要不可欠である。


(日弁連刑事弁護センター  事務局次長 贄田健二郎)



罹災証明書交付申請において、被害住家の写真の提出を求める等の取扱いの是正を求める意見書

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日弁連は、本年9月15日付けで「罹災証明書交付申請において、被害住家の写真の提出を求める等の取扱いの是正を求める意見書」を取りまとめ、内閣府特命担当大臣(防災)等に提出した。


近年、全国各地で災害が相次いでいる。市町村および特別区(以下「市町村等」)の長は、被災者からの申請があったときは遅滞なく被害の状況を調査し、罹災証明書を交付しなければならない(災害対策基本法第90条の2、第110条)。罹災証明書は、被災者がさまざまな支援を受けるために必要となる。


しかし、本年6月から8月上旬までに災害救助法が適用された市町村のうち複数で、罹災証明書の交付申請手続において、被災者に被害住家の写真等の提出を求めていることが判明した。


罹災証明書の交付制度は、市町村等が住家の状況を調査するものであり、被災者に被害の証明を求めてはいない。自己判定方式(現地調査を省略する等の簡易な認定方式)を除き、交付申請の際に被災住家の写真等の被災者による提出は本来不要である。内閣府も自治体に対して被災者の負担軽減への配慮を求めている。本来不要な写真等の提出を求めることは、申請の遅れや断念、ひいては被災者支援の遅れや適切でない罹災認定につながる可能性がある。


本意見書では、市町村等に対して、自己判定方式ではない場合の罹災証明書の交付申請に当たって写真等の提出を不要として取り扱うことや、この取り扱いを被災者に広報することを求めている。また、国および都道府県に対して、市町村等の誤った運用を是正するよう助言・勧告することも求めるものである。


災害発生後の混乱時期ではなく、平時において取り扱いを変更することが必要である。各地の弁護士会においても、市町村等での取り扱い是正に向けた取り組みをお願いしたい。


(災害復興支援委員会  委員 友清一郎)



国際分野で活躍するための法律家キャリアセミナー
9月16日 オンライン開催

arrow 国際分野で活躍するための法律家キャリアセミナー


今年で14回目となった本セミナーは、国際分野で活躍する実務家を講師に迎えてオンラインで開催した。弁護士、司法修習生、法科大学院生など約120名が参加した。(共催:法務省、外務省)


国際機関での活躍

国連開発計画(UNDP)でビジネスと人権リエゾンオフィサーを務める佐藤暁子会員(東京)が、「ビジネスと人権」の分野での法律家の活躍場面について、弁護士としての自身のキャリアや現在の生活を交えて説明し、グローバル規模の課題に取り組むことのやりがいなどを語った。


国内でできる国際的な業務

中小企業の国際業務支援について、新田裕子会員(栃木県)は、主に地方都市に拠点を置く弁護士の立場から説明し、身近な地元企業の支援を通じ、地域の発展・活性化に寄与することができると述べた。


皆川涼子会員(東京)は、人権の分野に関する国際的な業務について、弁護士になる前から関心があった人身取引問題などを実際に取り扱うようになった経緯や、業務のやりがいを紹介した。


国際機関・政府機関における国際法の実務

齋藤デビッド宥雅氏(国際刑事裁判所第一審裁判部付法務官補)が、国際刑事裁判所の組織や役割、そこでの具体的な業務を解説した。


法務省および外務省の登壇者からは、国際的な紛争において政府を代理することや、条約の締結、紛争予防に関わる業務など、政府機関ならではのダイナミックな業務分野で法曹が活躍していることを紹介した。


国際司法支援

国際協力機構(JICA)の長期専門家としてラオスへの派遣経験がある入江克典会員(東京)は、他国の法整備支援における実際の活動などを解説した。


ロージングセッション

「国際舞台での活躍を目指す」と題して、国連子どもの権利委員会前委員長で、現在も委員として活躍する大谷美紀子会員(東京)が、自身の体験談に触れながら、国際分野に羽ばたこうとする参加者に力強いエールを送った。


(国際室嘱託 尾家康介)



第77回 市民会議
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進に向けた取り組みについて議論
9月19日 弁護士会館

本年度第2回の市民会議では、日弁連におけるダイバーシティ&インクルージョン(以下「D&I」)の推進に向けた取り組みについて報告し、議論した。


戸田綾美副会長、宇加治恭子副会長と服部千鶴事務次長(当時)は、日弁連におけるD&Iの推進を図るため、2022年6月に「ダイバーシティ&インクルージョンの推進に関するワーキンググループ」を設置し、本年1月のシンポジウムをはじめ、各種勉強会を開催し、D&Iの観点から日弁連が果たすべき役割について議論を重ねていることを報告した。男女共同参画の推進に関しては、基本計画を5年ごとに定め、副会長・理事の女性割合を一定程度確保するなどの成果がある一方で、女性弁護士比率の増加等に向けてさらに取り組んでいくことなどを説明した。


市民会議委員からは、社会におけるD&Iの推進に向け、日弁連・弁護士会内でこれを推進することと、法制度の見直しの必要性等を社会へ発信・啓発することを区別して検討を進めることが重要であるとの指摘があった。


また、前者においては、内部での検討だけでなく、さまざまな立場にある者を交えて多角的な視点で協議すべきとの意見のほか、D&Iの考え方を組織に定着させるためには、指標や基準などを設定し、達成目標を明確にすることや、数値目標の達成にとどまらず、会員それぞれがD&Iの意義を認識し取り組んでいくことが必要との意見が上がった。


さらに、市民会議委員からは、職場環境の改善や組織における女性割合の増加のために行っている具体的な取り組みも紹介された。法曹の魅力を社会に発信し、多様な人材確保につなげるためにも、日弁連・弁護士会の積極的な取り組みに期待が寄せられた。


市民会議委員(2023年9月現在)五十音順・敬称略

 井田香奈子 (朝日新聞論説委員)
太田 昌克 (共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
北川 正恭 (議長・早稲田大学名誉教授)
吉柳さおり (株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
河野 康子 (一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金理事長)
清水 秀行 (日本労働組合総連合会事務局長)
浜野  京 (信州大学理事(ダイバーシティ推進担当)、元日本貿易振興機構理事)
村木 厚子 (副議長・元厚生労働事務次官)
湯浅  誠 (社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)



取調べの可視化フォーラム
「泥棒に黙秘権があるか」「どつきまわすぞ」~今でも取調室で起きていること~
9月6日 弁護士会館

arrow_blue_1.gif 取調べの可視化フォーラム2023~「泥棒に黙秘権があるか」「どつきまわすぞ」~今でも取調室で起きていること~


警察による取調べでは、現在でも多くの事件で録音・録画が行われていない。本フォーラムでは、全事件・全過程において取調べの録音・録画を行う必要性などを議論した。


現行制度下での課題と事例

永井康之会員(愛知県)は、現行制度の問題点として、捜査機関に録音・録画が義務付けられる事件が裁判員裁判対象事件といわゆる特捜事件で、かつ、身体拘束後の被疑者に限定されていること、それ以外でも精神障害・知的障害等を有する被疑者の取調べなどで運用による録音・録画はあるものの、あくまで捜査機関の裁量になることを挙げた。


実際に取調べに問題がある事件をそれぞれ担当した会員らからは、①和歌山北警察署において、精神障害のある被疑者に対し自白を強要する取調べを行った事件、②奈良県警において、被疑者(奈良西警察署の巡査長)に対し、実際は紛失していない実弾5発の窃盗事件の被疑者と決めつけるなどして取調べを行った事件、③三重県鳥羽警察署において、関与を否認する被疑者に対し、終始犯人であると決めつけ長時間の取調べを行った事件が報告された。


会場では、③の事件の当事者本人も取調べ時の様子を語ったほか、②③の事件の当事者が自ら録音した実際の取調べ音声が流された。音声には、「泥棒に黙秘権があるか」、「どつきまわすぞ」などの捜査員によるどう喝や人格を否定するような発言が生々しく記録されており、えん罪事件の温床となる自白を強要する取調べの実態が浮き彫りになった。


袴田ひで子氏の特別報告

袴田事件のえん罪被害者家族である袴田ひで子氏は、同事件の取調べの音声を公開した。50年以上前と同じ違法・不当な取調べが現在も続いているとし、身近な問題として真剣に考えてほしいと参加者に呼びかけた。





パネルディスカッション

村木厚子氏(元厚生労働事務次官、元法制審議会特別部会有識者委員)、周防正行氏(映画監督、元法制審議会特別部会有識者委員)、河津博史会員(第二東京)、松田真紀会員(大阪)が登壇した。違法・不当な取調べが続く原因についての議論では、自白調書を安易に証拠として採用してきた裁判所の責任にも言及した。登壇者らは、取調べの実態を広く市民に伝え、録音・録画の対象を逮捕前を含むすべての取調べ過程に拡充すべきであると強く訴えた。



第15回貧困問題に関する全国協議会
9月13日 弁護士会館

貧困に起因する問題と各地の状況について全国的に情報共有・意見交換を行うべく、弁護士会の関連委員会委員等が参加する協議会を開催した。参加者は、事例や関連機関との連携の在り方、弁護士会の取り組みを共有し、活発な意見交換を行った。


雇用保険制度の問題点

貧困問題対策本部の房安強事務局次長(鳥取県)は、日弁連が本年2月16日付けで取りまとめた「 arrow雇用保険の抜本的な拡充を求める意見書」に基づき、いわゆる失業手当を中心に、受給者割合の低さ、受給資格の厳しさ、離職理由による給付制限などの雇用保険制度の問題を解説した。雇用保険に関する相談・回答事例を紹介しつつ、弁護士が失業手当の現状に問題意識を持って訴訟を含む業務を遂行することで、失業手当の実務・運用を改善できると語った。併せて、雇用保険に関する審査請求や取消訴訟を、民事法律扶助や日弁連法律援助事業の対象にすることで、これらの手続の利用を活性化させるべきと意見を述べた。


生活保護の自動車保有問題

太田伸二委員(仙台)は、2022年5月に厚生労働省が自治体に対して通知した「生活保護制度上の自動車保有の取扱いについて(注意喚起)」を契機として、自動車の保有を理由に生活保護を停止する事例が全国で相次いでいることを報告した。障害を持つ人などにとって、自動車利用は日常生活を送る上で不可欠であり、自動車の保有を制限することが生活保護の利用の妨げとなっている可能性が高いと指摘し、厚生労働省が示す方針について、憲法第22条が保障する移動の自由をも侵害する不当なものであると批判した。


就学援助の自治体間格差

阿部広美事務局次長(熊本県)は、就学援助制度(経済的理由により就学が困難と認められる児童・生徒の保護者に対し、市区町村が学用品費、学校給食費等の一部を援助する制度)について概説した。同制度における準要保護者の認定は各市区町村の裁量に委ねられているため、自治体間格差が大きく生じていると指摘した。準要保護者の認定を求めて自治体と交渉した事例を紹介するとともに、自治体への制度改善に向けた働きかけが必要であると訴えた。また、同制度の周知を十分に行っていない自治体が多いことにも触れ、弁護士から依頼者に周知していくことも重要であると述べた。



シンポジウム
メガソーラー及び大規模風力による開発規制条例の実効性確保~地域の自然環境及び生活環境を守るための処方箋~
9月16日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif シンポジウム「メガソーラー及び大規模風力による開発規制条例の実効性確保~地域の自然環境及び生活環境を守るための処方箋~」


全国各地で大規模な太陽光発電所等の建設による自然環境や生活環境への悪影響が懸念されており、日弁連も2022年11月16日付けで意見書を公表している。本シンポジウムでは、地域住民との合意形成による実効的な条例制定等について議論した。


再生可能エネルギー事業と地域との共生

山下英俊准教授(一橋大学)は、再生可能エネルギー事業は地域資源を有効活用して地域を豊かにする事業になり得る一方、現状ではその利益が地域に十分に還元されていないと指摘した。地域から脱炭素化を推進するためには、脱炭素化政策を地域経済政策として位置付け、土地利用・利益分配・費用負担について地域社会と利害を共有することが必要であると論じた。


環境・生活への影響、自治体の対応の在り方等

公害対策・環境保全委員会の小島智史委員(愛知県)からは、全国240以上の自治体が再生可能エネルギー発電施設に関する開発規制等を定めた条例を制定しており、その多くが地域の実情に応じて保全区域と開発促進区域を指定するゾーニング規定を取り入れていることが報告された。


マリアナ・アルヴェス・ペレイラ博士(ポルトガル・ルソフォナ大学)は、風力発電所が発する超低周波音による健康への影響について、各国で施設付近の住民が睡眠障害を訴える例があることなどを報告した。


篠田成郎教授(岐阜大学)は、メガソーラー等の建設による環境変化の仕組みを解明することにより地域が目指すべき自然エネルギーの利用の方向性が定められるとして、条例制定に当たり専門的見地からの検討が重要だと語った。


城倉良氏(伊那市市民生活部長)は、伊那市では開発業者と住民の対立を契機に、自然環境と景観を保全し、住民の生命と財産を守るため、太陽光発電事業と地域との共生を目的とする開発規制条例を制定したと説明した。


パネルディスカッションには篠田教授、大久保規子教授(大阪大学大学院)らが登壇し、住民との合意形成に向け、情報開示や事前協議の徹底など、再生可能エネルギー事業に地域が参画できる制度の在り方を議論した。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.185

少年が自分の力で歩み出すために
茨城農芸学院(茨城県牛久市)・法務省矯正局少年矯正課

少年院では、少年の社会復帰支援なども行われ、関係機関と協働したさまざまな取り組みが実践されています。茨城農芸学院(以下「学院」)を訪問し、首席専門官の西村英克氏、法務教官の藤井康成氏と福祉専門官の鵜野潤子氏からお話を伺いました。また、改正少年法の下での社会復帰支援の実情について、法務省矯正局少年矯正課の大津幸雄氏にお聞きしました。

(広報室嘱託 李桂香)


学院の特徴的な取り組み

(西村)各地の少年院では処遇の中核である矯正教育の一環として、生活指導に加え、職業指導や教科指導などを行っています。


学院では、大型特殊自動車運転免許を取得できるコースを設けており、その取得を目指す少年を他の少年院から受け入れることもあります。このほか、小型車両系建設機械やフォークリフトなどの技術講習なども実施しています。過去には、茨城県牛久市の地域再犯防止推進モデル事業の一環として、外部講師による学習支援を実施し、高卒認定試験の合格者が増加した実績もあります。


2022年の少年法改正によって職業指導種目が再編され、製品企画科に関しては、陶芸作品等の製品の制作だけではなくその企画から展示・販売等までを含めた指導を行っています。また、本年度、学院の農場で栽培したワイン用のブドウを、牛久市内のワイン醸造施設に納品しました。今後も地元企業と協働し、学院で収穫・納品したブドウのみでワインを醸造して商品名やラベル作成にも関与できればと考えています。


(藤井)少年たちは、ブドウの栽培に携わることで仕事の大変さとやりがいを知るとともに、社会とのつながりを実感できているようです。少年が制作した陶芸作品も全国矯正展などで販売していますので、ぜひ手に取っていただければと思います。


特定少年への矯正教育

(大津)少年院では、特定少年に対する矯正教育の一環として、新たに「成年社会参画指導」を導入しました。ワークブック「大人へのステップ」をもとに、社会のルールや契約などの法教育と、家族、仕事をはじめとする社会人教育を行います。二度と非行・犯罪をしないという決意の実現に向け、成人であることの自覚と責任の喚起にも注力しています。


また、少年法改正に伴い、保護観察中の遵守事項への重大な違反があり、少年院での処遇が必要な少年を収容する第5種少年院が設置されました。本年9月現在、実例はないものの、保護観察所との連携体制を構築し、入院後早期の段階から出院後の生活設計を見据え、更生への動機付けを高められるような施設として位置付けられています。


社会復帰への環境調整

(鵜野)少年院を含む矯正施設では、円滑な社会復帰を支援すべく、社会福祉士や精神保健福祉士などが活動しています。少年院では、出院する際の帰住先の調整や、地域の福祉サービスへの橋渡しなどを担っています。少年の社会復帰への第一歩として、帰住先地域での支援は要であり、その調整は私たち福祉専門職に期待される役割だと考えています。


学院には、発達障害を含めさまざまな特性を持った少年も入院しており、支援は少年それぞれの特性に合わせたオーダーメイドになります。少年の家族や関わりのある方々を把握し、従前の生活状況などを知ることができれば、支援の足掛かりになります。入院前から、少年付添人として少年と接する機会のある弁護士の方とも協働できると大変ありがたく思います。


終わりに

(藤井)少年院で生活する少年にとって、外部の方のお話は大きな刺激です。法教育として弁護士による講義などが実現できると、少年たちが新たな気付きを得る機会になると思います。


(鵜野)「刑の執行段階等における被害者等の心情等の聴取・伝達制度」が本年12月に施行されます。今後は、少年が被害者の心情や被害と改めて向き合う機会が増えると思われます。


非行と向き合う中で、被害者対応をはじめとする適正な贖罪という観点からも、弁護士の皆さんには、被害者、少年それぞれへのお力添えをいただければと思います。


(大津)少年院仮退院者の再処分率は、統計上、無職と有職(学生・生徒を含む)とで歴然とした差が見られます。再非行防止のため、就労支援・修学支援は重要です。同時に、出院後すぐに、少年が自立して社会生活を送ることができるよう、施設入所から社会復帰に至るまで、シームレスな支援が必要になります。これは少年院だけで完結できるものではありません。


今後とも、少年矯正行政へのご理解とご支援をお願いします。



日弁連委員会めぐり125
日弁連公設事務所・法律相談センター

今回の委員会めぐりは、日弁連公設事務所・法律相談センターです。石川裕一委員長(神奈川県)、角田崇彦事務局長(千葉県)に、活動内容等についてお話を伺いました。


(広報室嘱託 花井ゆう子)


法律相談センターに関する取り組み

司法アクセスの拡充を図るべく、すべての地裁支部管内への法律相談センター設置を目指しています(本年10月1日時点で46の支部管内で未設置)。弁護士過疎地域での法律相談センターの開設・運営費の援助に加え、各地の弁護士会による弁護士過疎地域での巡回型法律相談事業への援助なども行っています。


また、「どうぶつ法律相談」をはじめとする、市民に向けた広報動画の作成・活用など、法律相談センターの認知度向上と相談需要の掘り起こしにも努めています。


公設事務所への支援

過疎地型の公設事務所であるひまわり基金法律事務所の運営支援に注力しています。全国各地に支援委員会を設置して同事務所が抱える運営上の諸問題を検討したり、同事務所の弁護士による協議会を開催したりするなど、ひまわり基金法律事務所が提供する司法サービスの質の維持・向上を図るとともに、赴任する弁護士が安心して事務所を運営できるようサポートしています。


近時は、後任の確保に課題を抱えるひまわり基金法律事務所もあり、司法修習生など将来の担い手に向けた魅力発信にも力を入れたいと考えています。


弁護士過疎・偏在地域での開業等の援助

弁護士過疎・偏在地域での法律事務所開業等のための経済的援助に加え、開業後の支援策についても検討を進めています。弁護士過疎・偏在地域で被災した会員に対して復旧費用等を支援するための規則改正を行ったほか、女性弁護士ゼロ地域に赴任する女性会員への経済的援助に関する検討も進めています。


会員へのメッセージ

自身のキャリアを考える際には、弁護士過疎・偏在地域への赴任もぜひ視野に入れてみてください。その経験が業務の幅を広げるだけでなく、地域で数少ない弁護士だからこそ、その地域を動かすような仕事に携わることもできます。


赴任先での仕事や生活を紹介した動画「ここに弁護士がいてよかった」を公開しています。ぜひご覧ください。



ブックセンターベストセラー (2023年9月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

慰謝料算定の実務〔第3版〕 

千葉県弁護士会/編  ぎょうせい 
2

弁護士法第23条の2照会の手引〔七訂版〕

第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会/編 第一東京弁護士会
3

新弁護士読本 

才口千晴/著 商事法務
4 第2版 インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式  神田知宏/著 日本加除出版
5 リーガル・プログレッシブ・シリーズ 離婚調停・離婚訴訟〔四訂版〕  秋武憲一、岡健太郎/編著 青林書院
6 調停等の条項例集―家事編―  星野雅紀/著 司法協会
7

利用規約・プライバシーポリシーの作成・解釈

松尾博憲、殿村桂司、逵本麻佑子、水越政輝/編著 商事法務
8

こんなときどうする 法律家の依頼者対応

京野哲也/編著 中川佳男、岡 直幸、沖田 翼/著 学陽書房
9

有斐閣コンメンタール 新注釈民法(19)相続(1)〔第2版〕

潮見佳男/編集 大村敦志、道垣内弘人、山本敬三/編集代表 有斐閣

注釈労働基準法・労働契約法 第2巻

荒木尚志、岩村正彦、村中孝史、山川隆一/編集 有斐閣



日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング(連続講座編) 2023年9月~10月

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順位 講座名
1 相続分野に関する連続講座2022(全4回)
2 離婚事件実務に関する連続講座(全5回)
3 コーポレート・ガバナンスに関わる弁護士のための連続講座(基礎編)(全3回)
4 労働問題の実務対応に関する連続講座(全5回)
5 消費者問題に関する連続講座~基本法編~(全3回)
6 税務分野(資産課税)に関する連続講座(全2回)
7 交通事故の実務に関する連続講座(全5回)
8 コーポレート・ガバナンスに関わる弁護士のための連続講座(上級編)(全6回)
9 中小企業の事業承継支援の全体像(入門編)連続講座(全2回)
10 成年後見実務に関する連続講座(全5回)


問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9826)