高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を見直し、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会の実現を求める決議


現在及び将来の世代が良好な環境の中で、健康で文化的な生活を営むためには、持続可能な社会の実現が不可欠である。必然的に放射性廃棄物を生み出す原子力エネルギーの利用や地球温暖化による気候危機は、いずれも将来世代に対しリスクや負担をもたらすものであり、持続可能な社会とは相容れないものである。


当連合会は、既に1976年に原子力エネルギーの危険性について懸念を表明していたが、2011年に福島第一原子力発電所事故が発生した。その後、2013年の第56回人権擁護大会において、既設の原子力発電所(以下「原発」という。)についてできる限り速やかに全て廃止することをarrow_blue_1.gif決議し、2014年の第57回人権擁護大会においては、原子力発電の高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を撤回することを求め、一貫して、人の生命・身体の安全や環境に対する重大な脅威をもたらす原子力エネルギーの利用に反対してきた。


また、当連合会は、1997年8月に「地球温暖化防止のための日弁連提言」を公表し、2009年の第52回人権擁護大会における「arrow_blue_1.gif地球温暖化の危険から将来世代を守る宣言」、2021年の第63回人権擁護大会における「arrow_blue_1.gif気候危機を回避して持続可能な社会の実現を目指す宣言」、同年6月の「arrow_blue_1.gif原子力に依存しない2050年脱炭素の実現に向けての意見書」等において、気候危機は重大な人権問題であると指摘した上で、2050年までに脱炭素(二酸化炭素排出量を実質ゼロにすること)を実現するための道筋として、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で50%(2013年比55%)以上削減し、電力供給における再生可能エネルギーの割合を50%以上とする目標を設定すること、2050年までに電力供給における再生可能エネルギーの割合を100%とすることを目指すことなど、一貫して、地球温暖化による危機を回避するよう求めてきた。


しかしながら、政府は、2021年10月22日に閣議決定した、日本のエネルギー政策の基本方針となる第6次エネルギー基本計画においても、原子力発電について「重要なベースロード電源」との位置付けをいまだに維持し続けている。また、同基本計画では、2050年においても火力発電を相当程度維持するとしているなど、脱原発・脱炭素に向けた取組は極めて不十分である。前述の2021年の第63回人権擁護大会宣言及び意見書を踏まえた取組を強化する必要がある。


原子力発電に関しては、その危険性もさることながら、処分困難な高レベル放射性廃棄物をこれ以上生み出し続けることは到底容認できない。長期にわたり強い放射能を有する高レベル放射性廃棄物は、現在の科学的・技術的知見では、日本において将来にわたり安全性を確保できる地層処分を行うことは困難である。高レベル放射性廃棄物の処分方針については、科学的・技術的知見の進展と世代間倫理を踏まえ、国民的議論を経て決める必要がある。


原子力に依存せず、気候危機を回避して、持続可能な社会を実現するためには、エネルギー問題に対する日本全体としての取組が必要であるとともに、地方自治体が、自らの有する地域資源を最大限に活用し、持続可能な地域社会に向けた主体的取組をより一層推進させることが重要である。


よって、当連合会は、以下のとおり提言する。


1  国及び地方自治体は、気候危機問題、エネルギー政策及び原子力政策において、世代間の公平性と将来世代の人権に配慮し、短期的な利益追求や課題への対処にとらわれずに政策決定をすべきである。


2  国及び原子力発電事業者・核燃料の再処理業者等は、使用済み核燃料を含む高レベル放射性廃棄物について、以下の方策をとるべきである。

 (1) 再処理施設等の核燃料サイクルを速やかに廃止すること。


 (2) 使用済み核燃料については、原発をできる限り速やかに廃止してその総量を確定させ、また、再処理せず直接処分すること。


 (3) 地層処分を前提とする現行の「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」を一旦廃止し、一時的な保管を含む廃棄物の処分方針について、以下の内容を踏まえた新たな枠組みを持つ法制度を設けること。現在世代の責任を明確にするため、新たな法制度に基づく会議体等において処分方針に関する議論を開始するとともに、処分方針は、同制度の下で合意した内容を基本とすること。

  ①  会議体等は、高い独立性を有し、多様な意見や学術分野の知見を反映するような人選とし、その人選については公開性・透明性が確保されること。

  ②  十分な情報公開の下、市民が意見を述べる機会が保障され、話合いの過程を公開・記録し、後日、意思決定過程が検証できるようにするなどして、市民の参加権・知る権利を保障すること。

  ③  会議体等の議論においては、複数の選択肢及びそれぞれの選択肢のリスクと安全性を示すこと。議論に関連する科学的・技術的情報についてはその信頼性・不確実性を適切に認識できるようにすること。

  ④  将来世代の利益・決定権を不当に侵害しないよう、一定期間ごとに処分方針の見直しを行い、いつでも従前の方針を全面的に変更することができる制度とすること。


3  国及び地方自治体は、地方自治体が、原発や放射性廃棄物処分場等に関する交付金に依存することなく、自らの有する地域資源を最大限に活用して持続可能な地域社会を実現するために、以下の施策をとるべきである。

 (1) 地方自治体は、住民参加及び住民との情報共有を徹底するとともに、地域活性化に当たっては事業者や住民の主体的な参加を重視し、地域主体で、エネルギーの地産地消等を含めた地域経済の好循環サイクルを確立すること。


 (2) 国は、地方自治体の団体自治を侵害するような形態の広域連携等の政策の推進をやめ、地方自治体が自立的に様々な取組を行うことを可能にする法的・財政的制度を整備すること。


当連合会は、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会の実現を目指し、本決議の実現のために、今後も全力を挙げて取り組む決意である。


以上のとおり決議する。



2022年(令和4年)9月30日
日本弁護士連合会

 

提案理由

第1 気候危機と原子力施設からの放射性物質による人権侵害

1 気候危機による人権侵害

地球温暖化に起因する気候危機は、既に顕在化しつつある。世界全体の平均気温が工業化以前の水準から1℃上昇したことによって、極端な豪雨がもたらされるなど、世界各地で気候災害が日常化し、人々の生命・健康、生活環境及び産業にも甚大な被害が生じている。

日本でも、災害級の猛暑による熱中症での搬送者や死亡者が急増している。また、数十年に一度といわれる極端な集中豪雨や巨大台風が毎年のように各地を襲い、河川の氾濫や崖崩れ等によって、多くの人々の生命、住居や生活基盤に甚大な損害がもたらされている。さらに、自然災害だけでなく、農業や漁業等、経済にも大きな影響を及ぼしている。

気候危機による人権への脅威は、将来の不確実な事象ではなく、適切な対策をとらなければ必ず広い地域で現実化するものであり、現在世代がその危険性に直接さらされることはもとより、現在世代が放置すれば将来世代に対して生存の危機に至る甚大な被害を負わせることになってしまう。

この気候危機により、現在及び将来世代の生存基盤が脅かされ、生命や健康、居住、社会経済生活を営む権利(憲法第13条及び第25条、環境基本法第3条、世界人権宣言前文及び第3条、自由権規約第6条)等への脅威が現実化している。今や気候危機は、将来世代を含む重大な人権問題である。

2021年8月に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)は、地球温暖化は人間活動に起因し、大気、海洋、雪氷圏及び生態圏に、広範囲かつ急速な変化が現れていると断定し、2022年2月の同第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)は、気温上昇が1.5℃を超えると生態系が回復不能なほどに失われ、手遅れにならないためには今後10年の取組が重要であるとした。同年4月の同第3作業部会報告書(気候変動の緩和)は、既存及び計画中の火力発電所等からの二酸化炭素排出量は、気温上昇を1.5℃に抑えるための総排出量を上回るとし、2020年代末までに対策を強化しなければ今世紀末までに3.2℃の気温上昇をもたらすと警告している。


2 福島第一原発事故と原発の廃止の必要性

福島第一原発事故は、重大な環境破壊と人権侵害をもたらした。放出された放射性物質は、土壌や河川、海水に甚大な影響を与え、多くの人々がふるさとからの避難を余儀なくされ、生業を取り戻せずにいる人々も少なくなく、被害救済が十分になされていない。除染によって発生した汚染土、福島第一原発事故の廃炉作業及び発生し続ける汚染水の処理問題では今後も困難が予想される。また、事故により甲状腺がんを発症したとして損害賠償請求訴訟も提起されている。私たちは、福島第一原発事故がもたらした深刻な被害に真摯に向き合い、原発が有する重大なリスクを決して忘れてはならない。

このように一たび過酷事故を起こした場合に甚大な被害をもたらす原発は、できる限り速やかに廃止すべきである。


3 高レベル放射性廃棄物処分問題の重大性

また、原発の最も重大な問題の一つは、運転等により不可避的に発生する使用済み核燃料を含む高レベル放射性廃棄物の処分問題である。

高レベル放射性廃棄物は、強い放射性を持っており、原料のウラン鉱石と同程度の放射能レベルに低下するまでに約10万年を要する。そして、高レベル放射性廃棄物は、既に膨大な量に達しており、それを無害化する現実的な技術はなく、現在の政府の方針では、これを地層深くに隔離するとしている。しかし、地殻変動帯に位置する日本において、放射能レベルが十分に低下するまで、安全に地層深くに隔離できる場所があるかどうかは極めて疑問であり、少なくとも現在の科学的・技術的知見では超長期にわたる安全性を確認できる状況にはない。

既に大量の放射性廃棄物を生じさせ、原発による発電の恩恵を受けてきた私たち現在世代は、将来世代に対して大きな負担を残してしまった。この問題に広く国民が関心を持ち正面から取り組むことが、私たち世代が将来世代に対して負うべき最低限の責務と考えなければならない。

この意味でも、運転等により不可避的に放射性廃棄物を発生させる原発は、できる限り速やかに廃止すべきである。


4 当連合会のこれまでの取組

当連合会は、長年にわたり原子力問題、そして高レベル放射性廃棄物の問題に取り組んできた。1976年の第19回人権擁護大会における「arrow_blue_1.gif原子力の開発利用に関する決議」では、「原子力施設から日常的に放射される放射線及びその運転により生ずる放射性廃棄物並びに多量の温排水は、地域環境破壊の危険を増大させている」こと及び原子力施設の運転や原子力開発利用に伴う「住民の安全と地域環境の保全に対する具体的施策の欠如」について指摘した。1983年には、第26回人権擁護大会において「arrow_blue_1.gifエネルギーの選択と環境保全に関する決議」を採択し、「使用済核燃料の再処理、放射性廃棄物・廃炉の処理、処分などの問題がいまだに解決されず(中略)現在及び将来の国民の生存と環境をおびやかすおそれがあり、きわめて憂慮すべき状態となっている」と指摘した。2000年の第43回人権擁護大会では、「arrow_blue_1.gifエネルギー政策の転換を求める決議―原子力偏重から脱原発へ―」において、高レベル放射性廃棄物の地層処分政策を凍結するとともに、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(以下「最終処分法」という。)を抜本的に見直し、安全な処分方法及び地層処分以外の多様な選択肢のための研究を推進することなどを提言した。2013年の第56回人権擁護大会においては、既設の原発について、できる限り速やかに、全て廃止することをarrow_blue_1.gif決議し、2014年の第57回人権擁護大会では、高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を撤回することを求め、一貫して、人の生命・身体の安全や環境に対する重大な脅威をもたらす原子力エネルギーの利用に反対してきた。

また、地球温暖化・気候変動問題についても、1997年8月の「地球温暖化防止のための日弁連提言 」、2009年5月の「arrow_blue_1.gif気候変動/地球温暖化対策法(仮称)の制定及び基本的内容についての提言」、2009年の第52回人権擁護大会における「arrow_blue_1.gif地球温暖化の危険から将来世代を守る宣言」、2021年6月の「arrow_blue_1.gif原子力に依存しない2050年脱炭素の実現に向けての意見書」及び同年の第63回人権擁護大会における「arrow_blue_1.gif気候危機を回避して持続可能な社会の実現を目指す宣言」等において、気候危機は重大な人権問題であると指摘した上で、2050年までに脱炭素(二酸化炭素排出量を実質ゼロにすること)を実現するための道筋として、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で50%(2013年比55%)以上削減し、電力供給における再生可能エネルギーの割合を50%以上とする目標を設定すること、建築物の高断熱高気密化等、あらゆる需要部門でのエネルギー消費の削減とコジェネレーション等のエネルギー利用の高効率化を推進する施策を強化し、エネルギー消費量を大幅に削減すること、2050年までに電力供給における再生可能エネルギーの割合を100%とすることを目指すことなど、繰り返し地球温暖化対策を提言し、地球温暖化による危機を回避するよう求めた。

このように当連合会は、一貫して原子力の開発利用、放射性廃棄物問題、そしてこれらに密接に関連するエネルギー問題及び地球温暖化問題について、抜本的な見直しを求めてきた。


第2 世代間の公平性が求められていること-提言1

気候危機による災害は、地球温暖化の進行により、更に頻発し、甚大化することが科学的に予測されている。子や孫の世代が社会を担う将来においては、私たち世代を含むそれ以前の世代が引き起こした地球温暖化により、今以上のリスクや多くの不利益を強いられることになる。今、私たちが有効な地球温暖化対策を先送りにすればするほど、将来世代は、更に厳しい環境の中で、現在の生活基盤や社会基盤を維持できないほどの過酷な生活を余儀なくされる。


また、既に大量に存在する高レベル放射性廃棄物は、安全といえる処分方法が確立されておらず、現在の政府方針である地層処分もその例外ではない。そして、原料のウラン鉱石と同程度の放射能レベルに低下するまでに約10万年を要するということは、数百年、数千年、数万年先の将来世代にまで影響が及ぶということを意味する。また、不可逆的な方法による地層処分は、リスクと不利益のみを強いられる将来世代の処分方法に関する決定権を侵害するものである。


このように、地球温暖化問題と放射性廃棄物問題は、いずれもその原因を生み出した現在世代において解決することが極めて困難であることから、将来世代に負の影響を及ぼすことは避けられず、世代間の公平性を維持できない問題であることを私たちは認識すべきである。


私たちが、これまで短期的な利益追求や課題への対処を優先した結果、このような問題を引き起こしたことからすれば、今後は、これらの問題への取組や政策においては、世代間の公平性や将来世代の人権にも配慮することが必要であり、私たちの選択により、これ以上、将来世代への負担を増やしてはならない。


第3 高レベル放射性廃棄物の処分の在り方-提言2

1  脱原発を実現しなければならない理由の一つとして、原発の運転等により不可避的に発生する放射性廃棄物の処分方法が確立していないことを指摘することができる。核燃料サイクルは実質的に破綻しており、使用済み核燃料の再処理を継続する必要性もない。

また、最終処分法については、諸外国とは大きく異なり、地層処分に適した場所が存在しない蓋然性が極めて高いことに加え、後述のとおり処分場選定手続に関しても問題があることから、同法を一旦廃止し、放射性廃棄物の処分方針に関する国民的議論を行うための新たな枠組みを持つ法制度を構築し、検討の場となる会議体等を設置する必要がある。

2014年の第57回人権擁護大会における「arrow_blue_1.gif原発訴訟における司法判断の在り方、使用済燃料の処理原則及び原子力施設立地自治体の経済再建策に関する宣言」では、核燃料サイクルを速やかに廃止すること及び使用済み核燃料の再処理は行わず直接処分すべきことを提言した。また、地層処分方針は撤回すべきことも提言した。

しかしながら、これらはいずれも実現されておらず、2020年11月には、地層処分を前提とする最終処分法に基づく処分場選定手続である文献調査が北海道の2町村(寿都町・神恵内村)で開始された。

当連合会としては、改めて高レベル放射性廃棄物の処分方針を見直すことを求めるものである。

2  核燃料サイクルについては、その中核となる高速増殖炉「もんじゅ」の廃止措置計画が2018年3月に認可され、六ヶ所再処理工場も巨額の国費が投じられながら、当初の計画から約25年経つも稼働できない状況にあり、実質的に破綻している。「もんじゅ」の廃止措置により、使用済み核燃料の再処理によって作られたプルトニウムを高速増殖炉で利用するという方法がなくなった(その後も高速増殖炉の開発計画はない。)ことから、核燃料サイクルの廃止の必要性は、ますます高まったというべきである。

再処理をいまだ継続する理由として、第6次エネルギー基本計画(2021年10月22日閣議決定)は、「資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等」を挙げている。しかしながら、前述のとおり核燃料サイクルは既に破綻しているといえ、また、再処理によって大量の放射性廃棄物が別途発生することから、仮に高レベル放射性廃棄物を僅かに減らせるとしても、放射性廃棄物全体の量は、明らかに増大する。さらには、再処理は使用済み核燃料の直接処分よりはるかに高コストになる反面、ウラン資源の節約効果は僅か1~2%程度にすぎないことが指摘されている。このように、再処理を継続する理由はいずれも存在しないことから、使用済み核燃料は、再処理をせず、直接処分すべきである。

また、国は、プルトニウムをMOX燃料(ウランとプルトニウムの混合酸化物)にして軽水炉における核燃料として利用するプルサーマルを推進し、同基本計画においても、「稼働する全ての原子力発電所を対象にプルサーマルが導入できるよう検討を進めて、2030年度までに、少なくとも12基の原子力発電所でプルサーマルの実施を目指す」としている。

しかし、そもそもプルサーマルで使用されるMOX燃料は、通常の原発で使用される核燃料とは性質が異なり、通常の原発でMOX燃料を使用することは、安全性に大きな疑問がある。また、通常のウラン燃料よりコストが高く、昨今の発電コストに対する重要性が増す中で、あえて高コストの発電を推進する意味は乏しい。さらには、使用済みMOX燃料の処理及び処分については、具体的な方針は示されておらず、新たな問題を生じさせかねない。

3  最終処分法は、使用済み核燃料の再処理後に発生する高レベル放射性廃棄物であるガラス固化体を、地下300メートルより深い地層中に埋設処分する地層処分を前提としている。しかし、日本は4つのプレートの境界という地球上で最も地殻変動が活発な地域にあり、日本列島のほぼ全域で地震が発生する世界有数の地震多発国である。そのため、国内には、数万年にわたって安定性を確保できる地層処分に適した場所が存在しない蓋然性が極めて高い。この点は諸外国とは大きく異なる点であり、他国で地層処分方法を採用していることは、日本でも地層処分を安全に行うことができるという理由にはならない。

それに加え、最終処分法は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針を経済産業大臣が定めることとし、その決定は閣議決定で足りるとされ(同法第3条第1項及び第4項)、政府の意向のみで決定することができる。また、処分地の選定手続において、調査対象となる地方自治体の意見は、最終処分計画については「当該概要調査地区等の所在地を管轄する都道府県知事及び市町村長の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならない」(同法第4条第5項)、最終処分施設の保護区域の設定については「前項の保護区域(以下単に「保護区域」という。)の指定をしようとするときは、あらかじめ、当該区域を管轄する都道府県知事及び市町村長の意見を聴かなければならない」(同法第21条第2項)、原子力発電環境整備機構(NUMO)の業務については、「概要調査地区等及び最終処分施設の周辺の地域の住民等の理解と協力を得るよう努めなければならない」(同法第60条)とされている。すなわち、地方自治体や住民の意見は「都道府県知事及び市町村長の意見を聴き、これを十分に尊重」すること、「意見を聴」くこと、「理解と協力を得るよう努め」ることとされているに過ぎず、手続において、地方自治体や住民に拒否権や決定権はない。

このように、現行法上は地方自治体の意向に反していても選定手続が進められる規定となっている。しかし、選定手続が開始した時点では、住民に対し、十分な情報提供や説明がされていないことが想定され、地域住民や地方自治体の意見により選定手続が中止できる仕組みとされていない点において、大きな問題がある。

これに加え、文献調査が開始された特定の地方自治体の住民が、そもそも日本において地層処分に適した地域があるかという地層処分の適否についても判断を求められる状況が生じている。しかし、それは、本来であれば国全体として国民的議論をしなければならない問題を、特定の地域住民に押し付けているようなものである。

4  以上のように、最終処分法は多くの問題をはらんでおり、同法を一旦廃止し、放射性廃棄物の処分方針に関する国民的議論を行うための新たな枠組みを持つ法制度を構築し、検討の場となる会議体等を設置する必要がある。使用済み核燃料を含む高レベル放射性廃棄物が既に大量に存在していることからすれば、新たな法制度に基づく会議体等においては、一時的な保管方法を含む処分方針に関する議論を開始すべきである。そして、処分方針については、同制度の下で合意した内容を基本とするべきである。また、新たな会議体等が単に参加者の意見集約のみを行うにとどまり、最終的な方針が一部の省庁や時の政府の意向で決められるのであれば、国民の理解は到底得られるものではない。新たな法制度においては、特定の省庁や廃棄物を生み出した電気事業者の意向が反映されることを避け、実質的な国民的議論の場とするため、以下の内容を踏まえる必要がある。

  (1) 会議体等は、高い独立性を有し、幅広い関係者が参加する公開の会議であること。特に福島第一原発事故を契機に、原子力行政や電気事業者を始めとする原子力発電関係者に対する国民の信頼が失われたことを深く反省し、会議体等の中心は原子力利用を推進する省庁や団体等の利害関係者が取り仕切ることのないことが強く求められる。そのため、他からの干渉を受けず、また、特定の意見に偏ることのないような制度的措置(人選、予算及び運営等)が必要である。

具体的には、会議体等の人選は、多様な意見や学術分野の知見が反映されるようにするために学術団体等からの推薦制あるいは公募制とし、その人選については公開性及び透明性が確保されるとともに、単なる利益団体からの代表ではなく議論に必要な知識や経験を有することが求められる。特に、超長期にわたり影響が及ぶという問題の特殊性から、環境倫理や世代間の公平性、将来世代の人権論等に関する学識経験者を含めた、様々な意見を持つ主体が参加すること、将来世代の立場からの意見を代弁できる仕組み等を取り入れることが求められる。


  (2) 会議体等における議論に関しては、十分な情報公開の下、市民が意見を述べる機会が保障され、話合いの過程を公開・記録し、後日、意思決定過程が検証できるようにすること。これは、結論が国民に受け入れられるために極めて重要なことであり、密室での議論あるいは情報公開が不十分である場合には国民の理解は得られない。市民の意見について会議体等において検討するなど、議論が広く国民に開かれ、市民の参加権、知る権利が保障される必要がある。


  (3) 会議体等の議論においては、特定の結論ありきの議論を避けるため、複数の選択肢を示し、それぞれの選択肢のリスクと安全性が十分な科学的根拠を持って示されること。そして、議論に関連する科学的・技術的情報については、その信頼性、不確実性(科学的・技術的知見の限界等)を適切に認識できるようにすることが極めて重要である。また、特定の専門分野に限らず、様々な知見を有する専門家が関与しなければならない。これは福島第一原発事故で明らかになった安全神話の崩壊、科学や技術に対する国民の信頼の失墜を踏まえれば、同事故の教訓と言うべきである。


  (4) 高レベル放射性廃棄物の危険性は超長期間続くこと、及び将来新たな技術が開発されたり、社会の在り方等が変わる可能性があり、今後、現在とは事情が変わり得るため、将来世代の利益・決定権を不当に侵害しないように、20年あるいは30年といった一定期間ごとに処分方針を見直すことができる制度とし、いつでも従前の方針を全面的に変更することができる制度とすること。


日本は、前述のとおり、諸外国とは異なり、世界でも稀な地殻変動帯に位置するという特殊性があるため、科学的・技術的な知見とその限界を適切に把握することが不可欠である。また、高レベル放射性廃棄物の危険性が超長期にわたって続くことから、会議体等には将来世代からの視点や幅広い関係者の参加が求められる。


このような国民的合意形成に向けた制度や会議体等の提案については、日本学術会議が詳細な政策提言をしている(2015年4月「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言―国民的合意形成に向けた暫定保管」日本学術会議高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会)。この日本学術会議の提言は、最終処分として地層処分を前提としている点において当連合会の立場と相容れない部分があるものの、合意形成に向けた組織体制の提言については基本的立場を同じくしており賛同できる。


第4 地方自治体が、原発や放射性廃棄物処分場等に関する交付金に依存することなく、自らの有する地域資源を最大限に活用して持続可能な地域社会の実現に取り組むことが重要であること-提言3

1  現在の高レベル放射性廃棄物の処分場選定手続においては、文献調査に応じるだけで、地方自治体の現状を無視した高額な交付金(2年間の文献調査で最大20億円)を交付するという政策がとられている。過疎や人口減少等の課題に直面している地方自治体にとっては、高額な交付金は大きな財源となる。

しかし、原発立地自治体に高額の交付金を交付する現在の誘致政策が、交付金に過度に依存した歪な財政構造をもたらすという弊害については、これまでも指摘されている。

また、日本学術会議は2012年9月に「回答 高レベル放射性廃棄物の処分について」の中で「交付金などの金銭的便益提供を中心的な政策手段とするのは適切でない」として、立地選定の手続を改善する必要があると提言し、「経済的受益への関心が優越した場合、安全性の吟味が妥協的になるという可能性を伴う」とも指摘している。

よって、国は、交付金による原子力施設受入れの誘致政策は地域の課題を解消しないことを認識すべきである。そして、地域が自立して、主体的に地域資源を最大限活用し、持続可能な地域社会の実現に取り組むことは、地域の課題解決手段として原子力施設誘致に関連する交付金等に頼らないことにつながり、ひいては多額の交付金をもたらす原発依存の地域社会からの脱却につながるものといえる。

特に、地域が有するエネルギー資源の活用については、既に各地で様々な取組が行われつつあり、エネルギーの地産地消等を通して地域経済を持続可能なものにするとともに、地域からの脱原発・脱炭素社会の実現に資するものである。

2  活力のある地域とするためには、地域資源を活用した地域経済の好循環サイクルを確立し、地域経済の持続的発展を図るとともに、再生可能エネルギーの環境調和的推進をすることが必要である。

そのために、具体的には以下が挙げられる。

  (1) 地域経済の状況を把握し、自然環境や歴史的建造物を含む地域資源を再評価し、その価値を正しく把握することが必要である。


  (2) その上で、地域が目指すべきビジョンの構築、地域における起業の支援等を、行政だけでなく地域の事業者や市民の主体的な参加を重視しつつ地域主体で推進していくことが求められる。


  (3) その際、農林漁業等の第一次産業、小水力発電・各種バイオマス等の再生可能エネルギー事業、児童福祉・教育の推進等、各地域の個性を活かし、環境・社会・経済のバランスの良い統合的取組による相乗効果の創出を目指すことが肝要である。


3  地域の再生可能エネルギー資源の持続的活用は、地域の自立に向けた重要な取組となる。そこで、導入を促進するために、都道府県や市町村において、再生可能エネルギーの導入目標及び需要量の目標を設定し、それに向けた実施計画を策定することが必要である。

一方で、近年、各地での再生可能エネルギー施設の開発に関連し、森林の伐採、土砂災害の危険をはらむ土地の改変及び景観の悪化等の問題が発生している。そこで、地方自治体においては、再生可能エネルギー開発によるこれらの問題を防ぐために条例を整備し、必要な規制を行うことが早急に求められる。

4  また、地域が自立して、主体的に持続可能な地域社会の実現に取り組むためには、地方自治体の団体自治の確保が重要である。

しかし、国は、地方自治、とりわけ団体自治を侵害するおそれのある合併、中心の都市が周辺をリードするような広域連携(連携中枢都市圏や定住自立圏)の推進及び地方自治体の財源となる地方交付税の削減を行っている。このような政策は地方自治体の活力を奪いかねないものであり、地域の自立に逆行する可能性が高い。

当連合会が、2020年3月18日に公表した「arrow_blue_1.gif第32次地方制度調査会で審議中の圏域に関する制度についての意見書」では、平成の大合併についての統計的分析及び現地調査の結果では、平成の合併による弊害が生じている可能性を示唆している。また、当連合会による限られた調査であるが、連携中枢都市圏構想は多くの問題点を抱えていることを指摘することができるとしており、圏域等の中心市が主導する広域連携の仕組みの法制化は、地方の中枢都市の振興や都市機能の集積維持によって周辺部の衰退を助長し、また、地域の独自性や地域の歴史文化基盤を失わせ、憲法の下で、基礎的な自治体として住民自治・団体自治が保障されてきた市町村の存立を危うくするとの懸念が示されている。

国は、市町村等の団体自治を尊重し、地方自治体が自立的かつ主体的に様々な取組を行うことを可能にする法的・財政的制度を整備すべきである。

そして、このような地方自治体の取組を支援する政策こそが、地域の自立や課題解決につながり、原発や放射性廃棄物処分場等に関する交付金に依存しない地域や、再生可能エネルギーの導入拡大による地域主導の脱炭素社会・持続可能な地域社会の実現につながる。

5  さらに、これらの取組は、地域住民の積極的な関与の下に進められることが重要であり、様々な主体が関わることで多様な取組や工夫につながる。そして、地域住民の関与を保障するためには、住民の参加権・知る権利を確立し、実質的な住民参加を実現することが重要である。

加えて、地域における環境破壊型の開発やそれにつながる施策を防ぐために、市民・市民団体の申立てに基づく、行政や司法による審査を可能とする仕組みを整備する必要がある。具体的には、条例において、環境保護団体や市民等に、保全すべき環境がある地域等の指定・保護対象への指定の申立権や具体的な規制権限の発動の申立権を付与し、その措置がとられない場合には行政不服審査の手続や司法審査が可能とするよう規定することが考えられる(当連合会「arrow_blue_1.gif民事司法改革グランドデザイン」2022年2月18日改訂版)。

また、国においても、法律により、地方自治体の施策(基本方針や法律に規定されている計画、その他重要な計画)については、特別に、異議を申し立てて第三者機関で審査し、加えて、司法審査を可能とする仕組み(計画・施策争訟制度)を整備することが考えられる(同グランドデザイン)。

国及び地方自治体には、以上の具体的な取組を積極的に進めることが求められる。


第5 結語

地球温暖化問題や高レベル放射性廃棄物処理問題は、子や孫を含む将来世代にも重大な影響を与えることが避けられず、長期的視点からの解決を必要とするものである。現時点の政策決定においても、将来世代に対する責任や世代間公平という視点からの配慮を欠いてはならない。特に高レベル放射性廃棄物の処分については、世代間の公平性を維持することが極めて困難である。私たちは、これ以上処分困難な放射性廃棄物を生み出すことは許されず、現在の最終処分方法はその手続を含め、抜本的に見直す必要がある。


また、地方自治体が、原発や放射性廃棄物処分場等に関する交付金に依存することなく、自立した、持続的な地域社会を作るためには、地域資源を最大限に活用して、エネルギーの地産地消等を含めた地域経済の好循環サイクルを確立するなど、地域経済の持続的発展を図ること、及び住民参加と情報共有を徹底した上で、団体自治を確保していくことが重要である。それが、脱原発・脱炭素社会の実現にもつながることになる。


以上のとおり、当連合会は、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会を目指し、今後も全力を挙げて取り組む決意である。