福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議
福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)は、福島県をはじめとする広範な地域に深刻な放射能汚染をもたらし、地域住民の人格権、幸福追求権などの基本的人権を日々侵害している。本件事故の責任は、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)はもとより、原子力政策を推進してきた国にもある。国及び東京電力は、生活の原状回復を基本として、既に発生した損害については完全かつ早急な救済を、まだ顕在化していない被害についても完全な救済を実現しなければならない。
また、放射能汚染による健康被害を未然に防止するために、希望者に対する避難する権利を実質的に保障するための必要な支援の実施、健康調査体制の充実、被ばく労働等への規制、食品汚染に関する規制、水質・大気汚染・廃棄物に関する防護などが必要だが、いずれも対策は不十分である。2012年6月に「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(以下「子ども・被災者支援法」という。)が成立したが、その内容は具体化していない。放射能汚染から健康を守るための法整備は急務である。
原子力発電所(以下「原発」という。)に関する従来の安全規制は、本件事故を防ぐことができなかった。本件事故は収束のめどが立っておらず、大量の放射性物質が環境に排出され続けており、また、事故の発生原因や具体的経緯すらいまだ明らかではなく、安全対策も不十分である。原発は、たとえ事故を起こさなくても、放射性廃棄物の処理という解決困難で深刻な問題を伴う。広島・長崎への原爆投下による放射能被ばくを含む多大な惨禍に加え、本件事故によっても大きな被害を受け、かつ地震・津波等の自然災害を今後も避け得ない我が国は、今こそ、原子力推進政策を見直し、原発をゼロとすべきである。
よって、当連合会は、国に対して、次の諸点を強く要請する。
1 国は、本件事故の加害者であることを認識し、本件事故のあらゆる被害を完全に回復するため、以下の措置をとること。
(1) 被害者が従来営んできた生活を、原状回復することを基本とし、既に顕在化している被害については、東京電力とともに、完全かつ早急に救済すること。
また、東京電力に対し、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」という。)の提示した和解案については、これを尊重し、迅速かつ誠実に履行するよう強く指導すること。
(2) 本件事故による被害は、家族の分断など生活環境の破壊、ふるさとの喪失、地域ブランドの喪失など多岐にわたる、深刻かつ継続的なものであり、また、被害者がその被害を訴えることには様々な障害があることを踏まえ、継続的な被害調査を行い、それを踏まえた損害賠償の指針の見直しを行うこと。
(3) 本件事故の損害賠償請求権については、民法上の消滅時効(民法第724条前段及び同法第167条第1項)及び除斥期間(民法第724条後段)の規定を適用せず、消滅時効に関する特別措置法を、可能な限り早期に、遅くとも本年末までに制定すること。
(4) 東京電力から、原子力損害の賠償に関する法律に基づき、被害者に支払われる損害賠償金は、相当部分が現行の各種税法上、課税対象とされる可能性があるため、非課税とするべく特別の立法措置を講ずること。
2 国は、以下の施策をはじめ、健康被害を未然に防ぐあらゆる施策を講ずること。
(1) 子ども・被災者支援法の趣旨に則って、放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないことを全ての前提とし、かつ、2011年3月11日以降の1年間の追加被ばく線量が国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の一般公衆の被ばく限度量である年間1ミリシーベルトを超えることが推定される全地域及び福島県の全域を「支援対象地域」として、同様に年間5ミリシーベルトを超えることが推定される全地域を「特別支援対象地域」とすること。「支援対象地域」の住民には、避難の権利を実質的に保障するため必要な支援を行い、「特別支援対象地域」の住民には、正当な補償及び避難先における生活全般の保障を十分に行うことを前提に、避難指示を出し、それでもなお居住を続けることを強く希望する住民については、その意思を尊重し、安心して生活できるような環境の整備等を行うことを検討するなど、被災者救済のための具体的な支援策を早急に実施していくこと。
(2) 広島・長崎の被ばく者への援護が被ばく後12年も経過してようやく健康診断を中心に制度化されたことの反省を踏まえ、今回の原発事故では速やかに血液検査、尿検査、ホールボディーカウンター検査等をはじめ、内部被ばく検査を含む多角的な検査を無償で受ける機会を被害者に保障し、検査結果は被害者に全て直接開示すること。原発事故の健康影響を長期的に調査・研究する体制を整えるとともに、検査結果はプライバシーに十分に配慮しつつも、学術機関等様々な立場の調査・研究に開かれたものとし、かつ、これに十分な支援・援助を行うこと。
(3) 事故収束作業や除染作業等に従事する労働者は一般の人々よりもはるかに健康被害を受けやすいことに鑑み、本件事故直後の記録再現を含む正確な被ばく量の記録の徹底、労働者本人が累積線量データへ常時アクセスできる保障、継続的な健康診断及び一定の被ばくをした労働者が疾病を発症した場合における労災認定を行うこと。
(4) 食品の安全基準は、住民、特に子どもの安全確保の観点から、外部被ばく・内部被ばくを合計した年間実効線量が1ミリシーベルトを超えないよう見直しを行うこと。
(5) これまでの公害対策と放射性物質による汚染等の総合した視点に立ち、従来居住していた地域において本件事故以前の環境基準を確保し、新たな汚染の拡大を防止するため、大気や土壌、海・川などの放射能汚染の実態を継続的・包括的に調査・公表し、これに対処する全面的法整備を行い、放射性物質を含む廃棄物の安易な移動や広域処理をやめ、長期にわたる管理(対象地域の指定の維持、放射線量の継続的かつ包括的測定、警告表示、除染と除去した放射性廃棄物の保管・管理)及び子どもの生活圏における適時適切な除染等を行うこと。
汚染水の漏洩など、本件事故の収束と廃炉に向けた作業について、東京電力任せにすることなく、組織、人材、予算等あらゆる資源を投入してさらなる抜本的な対策を講じ、国際社会と国民の不安を一刻も早く取り除くよう強く求め、その進捗状況を自ら国民に公表すること。
3 国は、我が国の原子力推進政策を抜本的に見直し、以下のとおり原子力発電と核燃料サイクルから撤退すること。
(1) 原発の新増設(計画中・建設中のものを全て含む。)を止め、再処理工場、高速増殖炉などの核燃料サイクル施設は直ちに廃止すること。
(2) 既設の原発について、安全審査の目的は、放射能被害が「万が一にも起こらないようにする」ことにあるところ、原子力規制委員会が新たに策定した規制基準では安全は確保されないので、運転(停止中の原発の再起動を含む。)は認めず、できる限り速やかに、全て廃止すること。
(3) 今後のエネルギー政策につき、再生可能エネルギーの推進、省エネルギー及びエネルギー利用の効率化と低炭素化を政策の中核とすること。
(4) 原発輸出は相手国及び周辺諸国の国民に人権侵害と環境汚染をもたらすおそれがあるため、原発輸出政策は中止すること。
以上のとおり決議する。
2013年(平成25年)10月4日
日本弁護士連合会
提案理由
第1 本件事故がもたらした重大な人権侵害と完全賠償の必要性
1 放射能汚染の分布と住民の避難、被害の甚大さ
本件事故は、放射性物質の大量放出という極めて重大な結果をもたらし、放射性物質の放出は、現在も続いている。チェルノブイリ原発事故では、約520万テラベクレルの放射性物質が放出されたとされ、本件事故のそれは約6分の1にとどまるとされているが、国土が狭く人口密度が高い我が国における汚染の重大さは、チェルノブイリ原発事故と全く変わるものではない。
本件事故から約半年後である2011年9月22日時点で、福島県全体の政府の指示による避難者は10万510人、いわゆる「自主避難者」は5万327人に及んでいる。さらに2013年7月に復興庁が公表した資料によると、同年6月時点で福島県全体の避難者が約15万人、避難指示区域等からの避難者数が約10万6000人とされており、その差である約4万4000人の人々が自主避難者と推定される。特に自主避難者は把握できている限りの人数であり、また福島県外の近隣の県からの避難者を含めれば、その数はさらに増えることが推測される。すなわち、事故から2年余りが経っているにもかかわらず、避難者数にほとんど変化はないといえる。
本件事故による被害額は、判明しているだけでも莫大な金額にのぼる。2011年10月3日付け「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の委員会報告では、財物価値の喪失や風評被害等一過性の損害についての要賠償額は約2兆6184億円、年度毎の賠償額は初年度分が約1兆246億円、2年度目以降分が約8972億円/年と推計されている。その後、原子力損害賠償支援機構と東京電力は特別事業計画を発表し、数回にわたり変更しているが、その度に要賠償額が膨らんでおり、2013年6月に変更認定された総合特別事業計画によると、要賠償額は約3兆9093億円の見通しとされていることからも、この額が今後さらに増大していく可能性は極めて高い。その他に、原状回復費用として少なくとも数兆から数十兆円規模の費用が予想される。また、行政費用も相当の額になる。しかも、これらは事故処理が順調に進んだ場合の金額であり、原発敷地内に貯蔵されている汚染水の海洋流出対策等の未解決かつ重大な問題の処理費用を考慮すれば、さらに損害額は拡大する。
2 重大な基本的人権の侵害
本件事故による被害は、経済的な被害にとどまらず、様々な基本的人権の侵害を招いている。
(1) 第1に、多くの人命が失われた。福島県浪江町請戸地区では、津波で被災し救助を待っていた人が多数いたにもかかわらず、2011年3月12日早朝に避難命令が出されたため、その救助を断念せざるを得なくなった。また、福島県大熊町の双葉病院をはじめ、入院中の患者や介護施設の入所者が、避難のための移送による負担や環境の変化により死亡した。さらには、本件事故で将来の展望を失ったことによる自殺者すら出ている。このように多くの人命が失われたことは、まさに、憲法第13条が保障する幸福追求権・生命権を含む人格権の侵害である。
(2) 第2に、家族が分断された。避難により、複数世帯や夫婦、親子の同居を断念せざるを得なかった家族が多く存在する。例えば農家など、ある程度の広さをもった土地建物に複数世帯で暮らしていた人々が分断され、以前より著しく住環境の劣悪な仮設住宅等で、それぞれ生活することを余儀なくされることは、多大な苦痛を伴う。働く場所を失い、転校・転院を余儀なくされるなど、家族の生活基盤も揺るがされた。これらも、幸福追求権・人格権(憲法第13条)の侵害であるとともに、居住・移転及び職業選択の自由(同第22条)、健康で文化的な生活を送る権利(同第25条)、教育を受ける権利(同第26条)、勤労の権利(同第27条)の侵害である。
(3) 第3に、旧警戒区域等では、長期の避難により建物や農地の荒廃が進み、これまでの生活の場を取り戻そうという意欲すら時間とともに奪われている。病院や商店など生活に必要なインフラや、地域にある程度の世帯数の住民が暮らすことによってはじめて成立する生活の場について、回復の見通しを立てることも困難である。
(4) 第4に、本件事故以前に形成されていた地域コミュニティが崩壊した。地域コミュニティは、至近の隣人関係や単独の自治体のみで成立するものではない。例えば、福島県川内村はいち早く帰村宣言を行い、住民の帰還に向けた努力を重ねているが、帰還事業は思うように進展していない。その理由の一つとして、川内村の住民は、就労、就学、医療及び物資の購入等、生活のあらゆる面で村の東側に位置する富岡町と密接な連携関係にあったところ、富岡町やそこに繋がる沿岸部の地域の復興の見通しが立たなければ、帰還後の生活に対する住民の不安もまた解消されないことが挙げられる。本件事故は、放射性物質による汚染とともに、避難に伴う住民の離散を生じさせただけでなく、これまで地域全体で形成してきた社会的、経済的なコミュニティ全般、すなわち、ふるさとそのものを喪失させたのである。そのことが地域社会に及ぼす影響は深刻である。
(5) 第5に、本件事故により、多くの農畜産品、水産品について出荷制限指示等が出され、また、健康被害に対する懸念から福島県やその周辺地域の農林水産業は競争力が著しく低下し、影響は食品加工業や観光業などの産業にまで及んでいる。かかる競争力の低下は、福島県及びその周辺地域の経済全体に多大な悪影響を与えており、ブランド力の喪失を招いている。ことに、農林水産業においては、先行きの不透明さから、事業の継続や次世代への事業承継を断念せざるを得ない例が、既に少なからず存在している。
3 新たな立法を含めた損害の完全賠償を実現するための制度
本件事故により既に顕在化している被害は、完全かつ早急に賠償されなければならない。原子力損害賠償支援機構法の下では、東京電力を存続させることが至上命題となっており、東京電力と並ぶ加害者である国は、賠償の主体とされておらず、「援助」をするにとどまっている。また、損害賠償の基準も、加害者である国や東京電力が決定するに等しいものとなっており、かつ、ADR手続(和解の仲介手続)を含む請求手続においては東京電力の同意がなければ和解が成立しないなど、手続が遅延している上、完全かつ早急な賠償は困難な状況にある。最近では、福島県飯舘村で被ばくをした住民からの被ばくについての慰謝料請求を認めた和解方針に対し、東京電力が否定的意見を述べる状況が生じている。そのために、以下を基本理念とすべきである。
(1) 国は、東京電力とともに、本件事故の加害者であり法的責任があることを認識し、単なる東京電力への援助者ではなく自ら損害賠償の主体となること。
(2) いわゆる差額説に基づく賠償ではなく、被害者の生活等の原状回復を基調とした賠償を基本とすること。
(3) 現在判明している被害にとどまらず、将来の生活維持や健康不安に対する賠償体制も整えるべきであること。
(4) 東京電力に対し、原紛センターの提示した和解案を尊重し、迅速かつ誠実に履行するよう強く指導すること。
法律・制度の制定には、被害実態調査の結果を十分に反映することはもとより、被害実態調査に携わる研究者、地元住民の代表者、地元業界団体の代表者など、被害者側の当事者参加による議論を十分に行うこと。
4 これまで把握されてこなかった損害の存在と継続的な調査の必要性、指針の見直しを
本件事故後、様々な調査や法律相談、原紛センターへの和解仲介申立てを経て、当初は損害として把握されていなかった被害が、時間の経過とともに顕在化してきた。これは、被害者に自らの損害を訴えるための十分な機会が保障されておらず、過酷な避難生活の中で自らの損害について考える余裕を確保できないなど、損害の把握に様々な障害があり、また、本件事故の損害に関する議論が必ずしも成熟していなかったことなどによる。
例えば、病気や高齢のため自力での移動が困難な人々の避難誘導にあたっていた病院・施設職員の被ばくの問題、被災地医療機関から避難する際の困難、また本件事故に伴い引き起こされた災害関連死など、これまで明確に把握されてこなかった損害は多岐にわたる。
本件事故による被害は、これまで把握されてきたものにとどまらず、広範かつ深刻であり、まだその全容は明らかでない。そのため、現時点で損害を確定することは到底不可能である。被害実態の綿密かつ総体的把握のためには、政府は避難指示区域等による画一的な線引きを行わず、放射性物質降下の状況や健康不安、間接被害・風評被害などの事情を踏まえ、福島県をはじめとする広範な地域に多くの被害者が存在する事実をまず認識し、国による、大規模かつ計画的・継続的な被害実態調査が不可欠であり、また、そうした被害実態調査を踏まえた損害賠償の指針の全面的な見直しを行うべきである。
5 短期消滅時効及び除斥期間を認めるべきではない
前述のとおり、本件事故による被害は、いまだその全容も明らかではなく、また、チェルノブイリ原発事故による健康被害は、同事故後27年を経過してもなお発生し続けている。自らの損害をいまだ把握できていない被害者が、権利救済の機会を絶たれることがあってはならないし、本件事故被害の全容解明のための手段として、和解仲介手続や裁判の役割はいまだ大きい。このことからすれば、本件事故の損害賠償請求権については、民法上の消滅時効(民法第724条前段及び同法第167条第1項)及び除斥期間(同法第724条後段)の適用は、いずれも許されるべきではない。
この点、本年5月29日に、原紛センターへの和解仲介申立てについて、和解が成立しなかった場合でも打ち切りの通知を受けた日から1か月以内に裁判所に訴訟提起すれば、和解仲介申立時に訴えを提起したものとみなすことを内容とする法律が成立した。同法は、時効完成前に和解仲介申立てをした被害者に関しては、時効完成後に訴訟を提起できる道を開いたという点では一定の評価ができる。しかしながら、損害の広範さに加え、被害者の置かれた状況では必ずしも請求が容易でないこと等に鑑みれば、同法による救済のみでは、カバーしきれない被害者が広範に存在すると考えられる。本件事故による賠償請求権については、消滅時効に関するさらなる立法措置が不可欠であり、かつ、裁判所や原紛センター等、紛争解決機関における混乱を防ぐためには、遅くとも本年中の立法が不可欠である。また、健康被害など晩発性の損害については、その損害が発生した時から時効期間が進行することを法律に明記すべきである。
6 損害賠償金は非課税とするべきである
(1) 現行の各種税法上の損害賠償金の取扱い
被害者が支払いを受ける損害賠償金のうち、相当部分が課税される可能性がある。所得税については、個人が支払いを受ける場合、所得税法上、収入金額に代わる性質を有するもの及び必要経費を補填するものについては課税がされる。また、法人税については、法人が支払いを受ける場合、法人税法上、益金となり、原則として課税がされる。
(2) 本件事故による賠償金の特殊性
本件事故によって避難を余儀なくされた方々は、元の住所にいつ戻れるかも知らぬまま、際限のない避難生活を続けている。放射能による汚染という、深刻な環境問題もある。その被害は未曾有のものであり、損害賠償金の支払いを受けても、生活の再建には、多大な努力が必要であることは明らかである。支払われた損害賠償金は、被害者の生活再建や事業再生に必要不可欠な資金となるものである。
しかも、収入等から控除されるべき経費等について、事故による汚染、立入制限等によりその立証手段の収集が困難である。
したがって、本件事故による賠償金は、政策的に非課税とすべく、特別の立法措置を講じる必要がある。
第2 健康被害防止のための施策
1 2011年3月11日以降の1年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以上であると推定される全地域に、避難する権利を認め避難者に必要な支援を行うこととし、同様に年間5ミリシーベルト以上であると推定される全地域に、正当な補償を行った上で、避難指示を出すことなどを検討すること
(1) 低線量被ばくの危険性
被ばくから数か月以上経て症状が出る放射線晩発影響について、原爆被ばく者の追跡調査でほぼ全てのがんに加え、心筋梗塞等非がん疾患でも被ばく線量に応じた増加が認められ、最近では放射線が炎症や免疫老化を通じて様々な疾病を促進する機序が指摘されている。チェルノブイリ原発事故の被害状況からも、放射能による深刻な健康被害が、長期に生じ続ける可能性が報告されている。
低線量被ばくの場合も、がんではLNT(しきい値無し直線)モデルが国際的コンセンサスとされ、心疾患でもしきい値無しに放射線量と発症が比例するモデルが適合するとの報告もある。直接照射された細胞だけでなく、放射線が周辺の細胞にも影響するとされるバイスタンダー効果など低線量被ばく特有の危険性も報告されている。
低線量被ばくの危険性については、専門家の間で意見が分かれる部分も多いが、放射線の影響は長期間の疫学調査によって初めて明らかになるものであり、現時点で専門家が合意している確立した科学的知見のみを基礎とすれば、被害を切り捨てる結果となりかねない。ICRP等と異なる見解も、相応の科学的根拠が呈示されている場合には、広く考慮の対象とする必要がある。
特に、成長過程にある子どもについては、放射線感受性の高いことが指摘されており、安全の確保に特別の注意が必要である。
(2) 子ども・被災者支援法の成立
2012年6月21日、衆議院で子ども・被災者支援法が全会一致で成立した。同法は、放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと(第1条)、被害者が被災地に居住するか、避難するか、又は避難した後帰還するかについて、被害者自身の自己決定権を認め、そのいずれを選択した場合であっても適切な支援を受けられること(第2条第2項)、国がこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的責任を負っていること(第3条)を認めた。また、被害者に対する医療支援の施策についても、可能な限り支援すべきものとされている(第13条第3項)。
(3) 基本方針策定の遅れと法の趣旨に反するパッケージ及び基本方針案
もっとも同法は、被害者支援の基本法的な位置付けのものであり、具体的な施策については、今後政府の政策や政令等で具体的に定められなければならない。しかし、政府の対応は極めて鈍い。
本年3月15日に、政府は、「原子力災害による被災者支援施策パッケージ~子どもをはじめとする自主避難者等の支援の拡充に向けて~」を発表したが、これは、ほとんどが既に実施されている施策を並べたものにすぎないこと、被害者から強く批判されている福島県の県民健康管理調査を継続することが示されるにとどまり、要望の強かった、より詳細で被害者の希望に沿った健康診断、内部被ばく検査及び福島県外における線量の高い地域での健康診断を実施する方針が全く示されていないことなど、子ども・被災者支援法の制定趣旨に沿ったものと評価できるものではなかった。
その後、法施行後1年2か月を経過した本年8月30日になって、ようやく「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(案)」(以下「基本方針案」という。)が公表され、意見募集(パブリックコメント)が実施されるに至った。しかし、政府は、事前に公聴会の開催等の措置を講ずることなく基本方針案を公表し、しかもパブリックコメントの期間は、わずか2週間という極めて短期間にすぎず、さらに、基本方針案についての説明会を9月11日に福島市で、9月13日に東京都江東区で開催することを、それぞれの開催日のわずか1週間前に告知し、そこで参加者からの意見を聞くとしただけであり、その手続の進め方には大きな問題がある。
基本方針案の内容についても、支援対象地域については、福島県中通り・浜通り(避難指示区域を除く。)のみを対象とするという、極めて狭い範囲に限定されており、このような対象地域の設定は立法者の意思に反するものといわざるを得ない。
被災者生活支援等施策については、そのほとんどがパッケージと同様、既存施策の寄せ集めにすぎず、また居住者や帰還者に対する施策に偏り、避難者に対する具体的な施策に乏しい。避難者から要望が強い新規避難者向けの住宅支援は含まれておらず、避難のための移動の支援に関する新たな施策も含まれていない。当事者が居住継続、避難及び帰還のいずれを選択したとしても等しく支援するという子ども・被災者支援法の理念に沿ったものであるとは評価することができない。
また、福島県外における健康診断の実施や被災者への医療費の減免措置については、さらに今後の検討に委ねられることとされ、被災者にとって最も切実で重要な健康・医療関係の施策が先送りとされた。
この施策パッケージ及び基本方針案の理念と内容は著しく不十分であり、子ども・被災者支援法の確実な実施のためには、政府内に外部委員を交えた常設の諮問機関を設け、公開の場で同法の実施のために継続的に協議していくことのできる体制を確立することが必要である。このような体制の確立と併せて、適切な内容の基本方針の策定及び具体的施策の実施が必要である。
(4) 避難解除は慎重に行うべきであること及び支援対象地域指定の必要性
避難指示等があった地域については、避難指示解除準備区域、居住制限区域及び帰還困難区域の3つに再編された。そのうち、避難指示解除準備区域は、放射線量が年間20ミリシーベルト以下になることが確実な地域とされる。
しかし、いわゆるチェルノブイリ法においては、年間1~5ミリシーベルトの被ばくを余儀なくされる地域では、被害者は他地域への移住を選択することができ、年間5ミリシーベルトを超える地域では、避難を強制される。それでも、子どもたちが現に健康を害していると報告されている。我が国の労災認定基準や放射線管理区域も、年間5ミリシーベルトが基準とされてきた。
したがって、予防原則を貫徹し、住民の健康を守るためには、避難指示解除は、年間1ミリシーベルト以下であることが確認された地域から行うべきである。2011年3月11日以降の1年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルトを超えることが推定される全地域については、子ども・被災者支援法第8条における「支援対象地域」とし、避難の権利を認め、避難(転地による保養などを含む。)を希望する住民に対し、必要な支援をなすべきである。また、健康被害がもたらす影響が重大であり、かつ長期に及ぶことに鑑みれば、同様に追加被ばく線量が5ミリシーベルトを超えることが推定される全地域については、「特別支援対象地域」と指定して、財産権や逸失利益等に対して十分な補償を行うとともに、避難先における住居、就職、学校等の生活全般についても十分に保障することを前提として、避難指示を出すものとし、それでもなお居住を続けることを強く希望する住民については、その意思を尊重し、安心して生活できるような環境の整備等を行い、とりわけその健康管理には特段の注意を払うことなどが検討されるべきである。
ICRPの『長期汚染地域住民の防護に関する委員会勧告』(パブリケーション111)にも、上記提言とほぼ同趣旨のものがある。この勧告は、ICRPの主委員会で2008年10月に承認されたもので、原発事故などの緊急事態が収束した後、一定の汚染状況の中で地域復興をしていく際の放射線防護について記したものである。
この勧告では、「3.3 個人被ばくを制限するための参考レベル/(50)汚染地域内に居住する人々の防護の最適化のための参考レベルは、この被ばく状況区分に対処するためパブリケーション103(ICRP、2007)で勧告された1~20ミリシーベルトの範囲の下方部分から選定すべきであることを勧告する。過去の経験により、長期の事故後状況における最適化プロセスを制約するために用いられる代表的な値は1ミリシーベルト/年であることが示されている。」とし、「4.2.影響を受けた人々が実施する防護措置/(64)影響を受けた人々が当局の定める措置の策定及び実施に関与することが、措置の有効性を発揮する上で非常に重要になる。ただし、その上で、被ばくを抑制するための多くの措置は、個人の行動によって進められることになる。また、これらの措置を有効かつ持続可能にするために、当局からの支援の枠組みが必要になる。」とされている。
この勧告の趣旨は、1~20ミリシーベルトの範囲の低い部分を参考レベルに定めるべきであり、防護措置の策定と実施に住民が関わるべきであるとするものである。5ミリシーベルトは、1~20の範囲の低い部分であり、避難指示などの基準を定める参考値となり得る。そして、1ミリシーベルトを超える場合に、避難という自主的な選択を認める本決議の趣旨も、このICRPの考え方と適合するものといえるだろう。
(5) 支援対象地域指定に当たっての留意事項
福島県は避難指示区域等の指定によって地域が分断されてきた経緯があり、支援対象地域の指定によりさらに地域が分断される不利益を与えるべきではなく、福島県全域は支援対象地域として保護すべきである。
また、支援対象地域の指定に当たっては、当初は空間線量に関する情報に基づく指定を行わざるを得ないと考えられるが、事故直後の内部被ばくを含む初期被ばくについても、 適切な推計を行い、上記の基準に該当する地域について、追加指定を行うべきである。また、上記の支援対象地域以外に居住をする者、過去に居住していた者であっても、事故直後の被ばく線量なども考慮し、地域ごとの事情に基づき、支援対象者に含めることができるような措置を実施するべきである。
2 被ばくデータを知る権利と情報公開
(1) 検査の重要性
本件事故で発生した放射線によって汚染された地域は広大であり、その被害の全容はいまだ明らかになっておらず、福島県民をはじめ周辺地域の住民は放射線による健康影響について強い不安を感じている。したがって、被害者各人の健康調査を継続して実施していくとともに、調査による医学的知見を集積させ、被ばくによって生じる被害について迅速に対処していくことが必要不可欠である。前述のICRPパブリケーション111勧告においても、「4.1.当局によって履行される防護対策」の(62)では、「環境の放射線に関わる特性を放射線モニタリングシステムによって評価することができ、人々の内部被ばくと外部被ばくのレベルを評価し、また被災した人々がこの情報を直接利用できるようにすること。被災した人々の健康状況を追跡調査するための健康サーベイランスの戦略。モニタリング結果を、例えば教育システムを利用して、周知することを通じて、放射線状況の制御についての実践的知識を、現在と将来の世代の住民の間で伝えていくこと。」としている。さらに、「4.2.影響を受けた人々が実施する防護措置」の(70)では、「当局は、人々が自らの置かれた放射線状況を理解し、管理することを手助けするために、既存の測定結果、情報および訓練、モニタリング機器を提供するべきである(例えば、地域当局の事務所や、測定を実施できるよう訓練された医者や薬局を通じて、機器類を利用できるようにすること)。さらに、当局は、人々が食習慣を変更したことによる効果を評価できるように、被災した住民の定期的な全身放射能測定を確実に実施すべきである。」としている。被害者本人にとって、自らの被ばく状況や健康状態について正確に把握することは、疾病の発症リスクの低減化や発症の未然防止に資するものであり、知る権利として保障されるべきである。
(2) 内部被ばくに対処するための十分な体制を構築すること
被ばくには、体外にある放射性物質から生じた放射線を受ける外部被ばくと、呼吸や食品の摂取を通じて、放射性物質自体を体内に取り込むことで受ける内部被ばくがあり、人体への被ばくによる健康被害のリスクを検討する上では、両者を総合的に捉えることが不可欠である。この点、原爆症認定集団訴訟の判決では、内部被ばくの影響について慎重に検討しなければならないと指摘されるに至ったが、その指摘までに長期間を要した。本件事故に起因する健康被害の調査に当たっては、ホールボディーカウンターによるガンマ線の計測だけではなく、アルファ線、ベータ線を測定できる血液検査・尿検査を受けられる体制を整備するとともに、内部被ばくによる健康被害のリスクに早急に対処するための体制を構築しておくことが必要である。
(3) 国が主導して健康調査を行う必要があること
現在、福島県は県民に対して県民健康管理調査を実施している。しかし、福島県内に限らず、近隣県においても、高い放射線量が検出されている地域があるため、政府が主導して、福島県民に加えて、少なくとも追加放射線量が年間1ミリシーベルトを上回る他県の地域の住民又はこれらの地域からの避難者についても、健康調査を行うべきである。また、それらの住民等が継続的に健康診断を無料で受診できるような体制を整備すべきである。
(4) 複数機関による調査機会の確保
被ばくの影響については専門家の間でも意見が分かれているのであるから、一方の見解に立つ専門家による調査・研究だけに限定するのは、医療を受ける権利はもとより学問の自由からも問題があり、行政や企業から独立した複数の機関による調査と分析を保障することが必要である。
(5) プライバシー保護とデータの公表
上記健康調査の結果は、いわれない社会的差別につながるおそれのある情報を含んでいることから、被害者個々人のプライバシーに十分配慮しながら行われるべきことは当然である。
健康調査に際しては、調査対象者に対して、検査の目的を各検査項目ごとに説明し、理解と納得を得て、検査を実施する必要がある。この健康調査は調査対象者にとっては自分が何らかの治療を受ける必要があるかどうかを判断するためのものであるから、検査結果は速やかに本人及び保護者に告知・説明されなければならない。
他方、集積された調査結果データは、日本社会にとっても、国際社会にとっても極めて有益な資料であるから、プライバシー保護に留意し、調査結果データを匿名化し、個人が識別できない状態で、分析検討結果とともに速やかに公表されるべきである。
そして、国の責任で、複数の独立した機関によって、長期間の疫学調査が十分な規模で行われる体制を整備すべきである。
3 被ばく労働に従事した作業員の健康調査・健康管理
被ばく労働は、その労働者に対する健康被害をもたらす非人道的な性格を帯びている。このような命を削る労働は、脱原発を実現することで将来的にはなくしていくべきである。しかし、既に膨大な量の放射性廃棄物が発生し、今すぐ原発の稼働を止めたとしても、本件事故の収束や汚染地域の除染など、環境を守るためにも被ばく労働は欠かせなくなっている。当面は作業員の健康を守るため、以下のとおり被ばく労働の改善が必要である。
第1に、長期間にわたり、国による健康管理が必要である。政府は、2011年3月14日、本件事故の収束のための緊急作業に従事する労働者の被ばく限度(実効線量)を事故以前の年間100ミリシーベルトから年間250ミリシーベルトにまで引き上げた(同年12月16日、100ミリシーベルトに引き下げ)。厚生労働省は、2011年10月「東京電力福島第一原子力発電所における緊急作業従事者等の健康の保持増進のための指針」を発表したが、同指針でも100ミリシーベルト以下の労働者は、がんの検診について長期的健康管理から除外されている。この100ミリシーベルトを白血病等の労災認定基準に合わせて5ミリシーベルトまで下げるべきである。そして、放射線障害が深刻化していく過程で広範に認められる前駆的症状を見逃さず、早めに治療を開始できる体制を整備しなければならない。
第2に、被ばくデータの正確な記録である。2011年7月には、250ミリシーベルトをも超えて被ばくした労働者が6名確認された。被ばく線量未測定の労働者や連絡先不明の労働者も多数に及んでいる。健康維持のためには、内部被ばくを含めて正確な被ばく量を記録し、これを本人が管理できる状態の保障が重要である。特に正確な記録の残っていない部分については、第三者機関による行動記録からの推定線量を早めに算定し、記録する作業が必要であり、また記録不要とされる2ミリシーベルト以下の内部被ばくについても計測値を記録すべきである。
第3に、手帳の管理と累積線量の本人への告知の義務付けである。労働者が、毎日自分がどれだけ被ばくをしているかを知り、また、累積してどれだけ被ばくをしているかを把握できるようにする必要がある。そのためには、きちんと記録を本人に渡し、積算のデータを本人に示すとともに、放射線管理手帳も、本人が所持、保管することにすべきである。また、日々の線量だけでなく、月単位の線量をまとめて本人に知らせることを事業者に義務付けるべきである。
第4に、原発労働の多重下請け構造と下請け労働者の無権利状態を改善していくことが重要である。形式的に契約だけを交わして、中間搾取ができるような請負形態に政府はメスを入れ、末端の労働者が受け取れる日当額の増額につながる対策を講ずるべきである。また、作業実態から明らかに労働者性がある場合にも、下請企業から非労働者(個人請負者)扱いを受けるような偽装請負事例及び組織暴力団の関与も根絶していく必要がある。さらに、年間の被ばく線量限度を超えて作業に従事した労働者について、働けない期間の経済的保障がないことは、警報付ポケット線量計(APD)を鉛ケースで覆ってでも線量を切り下げようとするような不適切な対応を生んでいる。それを防ぐためにも、失業手当類似の制度を提案、実現していく必要がある。
第5に、がんなどについても労災認定の線量基準を定立すべきである。白血病以外の一般のがんの明確な線量を示した認定基準はないが、放射線被ばくが一定量あり、他に明白ながんの発症原因がない場合には、白血病の場合と同様に労災認定を認めるべきである。また、労災認定の基準を肺がんなど他の疾病についても拡大する際に、年間等の被ばく限度につき、放射線業務従事者の被ばく限度を基準とするのではなく、白血病と同じ年間5ミリシーベルトに設定すべきである。
4 食品の安全
本件事故によって、土壌や海洋が広範囲にわたって高濃度に汚染されたことにより、水と食品にも汚染が拡がり、放射性物質が検出されるようになった。
2011年3月17日以降、暫定規制値が示され、これを上回る放射性物質が含まれる食品には、出荷制限が設けられるようになった。暫定規制値は、放射性ヨウ素の甲状腺の年間被ばく量が50ミリシーベルト、放射性セシウムの全身に対する年間被ばく量が5ミリシーベルトを超えないようにする基準とされた。この基準は、前述のICRP基準を大きく上回るものである。
食品から許容することのできる放射性セシウムの線量の基準は、現時点で低線量被ばくについて科学的に安全が確認できない以上、1990年以降20年以上にわたってリスク管理の指標となっていたICRPの勧告による年間1ミリシーベルト(外部被ばく、内部被ばく双方を含む。)とすることが相当である。また、線量を適切に把握するために、検査体制を構築し、検査結果を適切に公表していくことも必要である。特に、前述のとおり、放射線感受性の高い子どもたちについては、安全の確保に特別の注意が必要である。
5 海、大気、土壌、川の汚染と放射性廃棄物の処理
前述のとおり、本件事故により膨大な放射性物質が環境中に放出された。さらに、東京電力は2011年4月、高濃度汚染水の移送先を確保するなどのため、放射能汚染水を海水中に大量放出した。そして、本件事故における放射性物質の海水中への放出は現在も継続していたことが2013年7月になって公表された。このように、本件事故はいまだ収束のめどすら立っていない。海水中への放射性物質の垂れ流しを防止するための工事の必要性は従前から指摘されており、東京電力と国の怠慢というほかない。国は、これらの対策を東京電力任せにすることなく、可及的速やかに本件事故の収束のために、組織、人材、予算等あらゆる資源を投入してさらなる抜本的な対策を講じ、国際社会と国民の不安を一刻も早く取り除くよう強く求めるものである。
沿岸流によって放射性物質が南下して茨城県及び房総沖の海底にまで高濃度のホットスポットがあることが判明している。また、河川には放射性物質が集まるため、東京湾の海底も汚染が報告されている。
大気や土壌、川などの放射能汚染については、従来、環境基本法をはじめとする公害・環境法制から適用が除外されており、これに対応する法的根拠がなかった。「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年8月30日法律第110号)は、事故由来放射性物質によって汚染された廃棄物(焼却灰等)の埋立処分について、含有するセシウム濃度が8000ベクレル/㎏以下であれば、管理型処分場での通常どおりの処分を認め、8000ベクレル/㎏~10万ベクレル/㎏であっても、特別な方法を施せば、管理型処分場での処分を認めている。しかしながら、従来のクリアランスレベルは、セシウム137が100ベクレル/㎏以上であれば、低レベル放射性廃棄物処理施設で長期保管されていたのであり、特に、8000ベクレル/㎏を超えるものは、移動・保管の際に一般公衆の被ばく線量限度である1ミリシーベルト/年を超えるおそれがある。これは、埋立処分地域に放射能汚染をもたらし、そこに住む人々の生活・人権を脅かすものである。
本件事故以前の環境水準が確保されるよう、廃棄物については従来のクリアランスレベルを参考にし、また、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染について、人々の居住地域において追加の放射線量が1ミリシーベルト/年を大幅に下回る線量となるように環境基本法第16条の環境基準を設定し、そのための具体的施策を定めるべきである。また、汚染された地域の除染については、除染は放射性物質の量を減らすものではなく、これを場所的に移動させるに過ぎず、除染による環境浄化には本質的な限界があること、放射線量の低減には長期を要すること、を踏まえた、長期にわたる管理(対象地域の指定の維持、放射線量の継続的かつ包括的測定、警告表示、除染と除去した放射性廃棄物の保管・管理)及び子どもの生活圏における適時適切な除染等を行うべきである。福島県以外に存在する、放射性物質を含んだがれき等を全国各地の遠方に運搬して焼却処分することは、放射能による環境汚染を各地にもたらすおそれがあり、また運搬に伴う環境負荷も大きいため、直ちに取りやめるべきである。
第3 脱原発の必要性とその道筋
1 脱原発の必要性
(1) 本件事故の原因はいまだ解明されていないこと
本件事故については、政府の「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」、国会の「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(以下「国会事故調」という。)、民間の「福島原発事故独立検証委員会」、東京電力の「『福島原子力事故調査委員会』及び社外有識者で構成する『原子力安全・品質保証会議 事故調査検証委員会』」の4つの事故調査委員会(以下「事故調」という。)が設置された。
これを受け、4つの事故調は、2012年7月までにそれぞれ報告書を公表している。しかし、4つの事故調によってもなお、本件事故の直接的原因が全電源喪失であることは明らかだが、その全容と、事故原因に津波だけでなく地震動が関わっているかどうかなど重要な点が未解明なままであるといわざるを得ない。原発内の高い放射線量が直接調査することを阻んでおり、いまだに本件事故の原因は解明されていない上、いつになれば解明されるのかさえ分からない状態である。
事故防止に不可欠な事故原因の解明が未了であり、いまだに、有効な事故防止対策を講じられる状況にはない。なお、現在、原子力規制委員会が調査を行っているが、(2)で述べる原子力規制委員会の構成に鑑みれば、中立的な調査を行い得るか疑問の余地があり、さらなる調査は国会事故調が行うのが相当である。
(2) 安全審査の根本的問題は何ら解決されていないこと
安全審査は「災害の防止上支障がないこと」を審査し、当該原発によって万が一にも深刻な災害が発生しないことを保障するためのものである。そのため、安全審査に用いられる具体的審査基準が安全性を確保できない内容であるか、具体的審査基準に適合するか否かの調査・審議の過程に著しい過誤・欠落があれば、安全性が確保できないことになる。そして、本件事故の発生は、具体的審査基準や、調査・審議の過程における明らかな不備、欠陥を示している。例えば、全電源喪失は30分で終了すると考えて設計すればよい、外部電源の重要度は設備の中で一番低い等、本件事故を招来したともいえる基準が制定されていた。
この不備、欠陥を見逃してきた安全審査の根本的問題は、安全規制が原発推進の枠内に位置付けられ独立していないことにある。このような問題は、住民が提起した原発訴訟の中で繰り返し指摘されてきたが、司法はごく例外的な判決を除いてこの根本的問題を見逃してきた。その意味で原発事故の発生について司法もその責任の一端を免れない。本件事故後も、この根本的問題は解決されないままであり、原子力基本法第1条の目的から「原子力利用の推進」は削除されず、原子力委員会も廃止されていない。本件事故以前に、原子力安全・保安院による規制が、規制と推進が未分離であると批判されたことを受け、2012年9月19日、国は原子力規制委員会を原子力安全規制に専念する機関として位置付けて設置した。しかし、委員5名は安全確保を図る意欲と能力を有する者でなければ、単なる形式的安全規制機関になる。それにもかかわらず、委員5名中3名が原発関連事業出身者である等、原子力規制委員会の目的達成には不適当な人選がなされている。
このような構成の原子力規制委員会の下で、本件事故の検証も、国民的議論も尽くされないままに、新基準の策定が急ピッチで進められたが、その対象は、設計基準、地震・津波に関する基準、シビアアクシデント対策に関する基準の3つにとどまっている。これでは、対象が少なすぎ、旧安全指針類中の不備、欠陥は放置されたままである。例えば、国会事故調のヒアリングにおいて班目春樹前原子力安全委員会委員長は、立地審査指針及び安全評価指針の欠陥を認めたが、これらは改訂対象とされていない。改訂内容も、本件事故のような重大な事故が二度と起きないようにするための内容として、明らかに不足している。設計基準事故に、地震、津波等の自然現象を原因とする事故を想定して、安全施設が同時に機能しない共通要因故障を考えるべきであるのに、自然現象による事故原因を十分に想定せず、単一故障の仮定のまま安全評価をすればよいとしている上、今回明らかになった脆弱な外部電源の信頼性を高めるべきであるのに、重要度分類指針及び耐震重要度分類上の扱いは最低クラスのままである。しかも、このような不備な内容の基準でさえ、一部の対策について5年間の猶予を与える案が出されている。このような状況では原発による悲惨な被害の発生を防止することは到底できない。
(3) 事故防止には原発からの脱却以外にないこと
本件事故は、いまだ事故収束の道筋が見えず、ひとたび原発が事故を起こした場合、その被害は極めて広範囲かつ長期に及ぶことを、改めて明らかにした。原発事故が深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑みれば、原発事故による災害は、万が一にも起こらないようにしなければならない。しかしながら、日本は世界有数の地震国であって、原発は、常に地震による事故の危険に直面している。
さらに、現時点において、本件事故の再発防止策は全く確立されておらず、近いうちに確立される見込みもない。安全基準の抜本的見直しに当たっては、少なくとも本件事故の原因や発生機序等の実態解明が不可欠であるが、現時点においても本件事故の原因・発生機序すら、依然として不明である。(2)で述べたとおり、原子力規制委員会が新たに策定する規制基準では、到底、安全を確保することはできない。したがって、本件事故のような事態の再発を防ぐためには、原発からの撤退以外にない。
2 放射性廃棄物と核燃料サイクル
(1) これ以上の放射性廃棄物を発生させないためにも原発は止めるべきである
高レベル放射性廃棄物である使用済燃料は、原発の稼働に伴い不可避的に排出され、現状は各原発の敷地内で保管、管理されている。本件事故は、使用済燃料が保管されている限り、冷却機能喪失によって苛酷事故を引き起こす危険性を明らかにした。原発の稼働は、管理・処分に重大な問題を抱える放射性廃棄物を増やさないという観点からも、直ちに止めるべきである。
(2) 核燃料サイクル政策も直ちに止めるべきである
本件事故後も、核燃料サイクル政策は一貫して堅持されてきた。しかし、再処理技術は未確立で、平常運転時にも大量の放射性物質を放出し、膨大な高レベル放射性廃棄物を発生させ、地震やテロ等による施設破壊が起こると地球規模での被害が発生する。再処理工程での臨界事故、本件事故の直接的原因となった冷却機能喪失事故の再現(使用済燃料の溶融事故、高レベル廃液の水素爆発事故など)が想定される。また、再処理後に残る高レベルガラス固化体の処分方法は、いまだ確立されておらず、最終処分の目途は全く立っていない。
しかも、再処理によって抽出されるプルトニウムは、高速増殖炉が運転する可能性がない現状では、全く使い道がない。再処理を継続することは、更なるプルトニウム余剰に拍車をかけ、核不拡散と核物質防護の観点からも強い国際的非難を招く。また、六ケ所再処理工場の建設、運転及び後処理に投じられる巨額な費用は、国民に高い電気料金の負担を強いる。必要性、経済性、安全性に多くの問題を抱える再処理は直ちに廃止し、核燃料の環を絶ち切る政策こそが脱原発への最短距離である。
(3) 使用済燃料の処理
原発と核燃料サイクル廃止に伴い残存する既成の使用済燃料については、発生者責任の原則に従い、一次的には電気事業者の責任で、最終的には国も責任を負うべきである。
使用済燃料は、全量再処理する政策がとられているが、再処理には前記のように多くの問題があるから、再処理することなく直接処分の方法を講ずるべきである。最終処分方策の確立が急務であるが、少なくとも当面の間、使用済燃料は、できるだけ速やかにプールから取り出し、金属容器を使用した空冷式中間貯蔵方式を採用すべきである。
現在高レベルガラス固化体は、六ケ所村中間貯蔵施設、再処理工場及び東海再処理工場に合計1930体が貯蔵されている。使用済燃料及びガラス固化体の処分については、処分の実現性につき現在の科学的知見及び技術的能力では限界のあるところであるが、この問題の解決を次世代に押し付けてはならない。なお、核燃料政策が国策として推し進められてきた以上、国及び事業者は、地場産業の育成、雇用の確保、核燃料施設廃止作業に伴う地元優遇対策、金銭的補償などを含む代償措置を講じなければならない。
3 既存原発の取扱い
1で述べたとおり、原発事故による深刻な被害を防ぐためには原子力発電からの撤退が不可欠である。
当連合会は、2011年7月15日付けで発表した「原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求める意見書」において、以下のとおり提言した。
(1) 原発の新増設(計画中・建設中のものを全て含む。)を止め、再処理工場、高速増殖炉などの核燃料サイクル施設は直ちに廃止する。
(2) 既設の原発のうち、①福島第一及び第二原発、②敷地付近で大地震が発生することが予見されるもの、③運転開始後30年を経過したものは、直ちに廃止する。
(3) 上記以外の原発は、10年以内のできるだけ早い時期に全て廃止する。廃止するまでの間は、安全基準について国民的議論を尽くし、その安全基準に適合しない限り運転(停止中の原発の再起動を含む。)は認められない。
しかしながら、同意見書が規制基準(安全基準)について国民的議論を尽くすことを求めた趣旨は、「原発の過酷事故のリスクが微塵でもある限り、国策として原発及び核燃料サイクルを推進・保護すべきではない」という点にあるところ、原子力規制委員会が策定した規制基準では、本件事故のような事態を避けるには到底不十分である。また、政府の原子力関係の委員会から原子力発電に慎重な人材が排除されるなど、幅広い国民的議論がなされる見込みもない。
このような現状に鑑みれば、もはや原発を運転させるのは相当でなく、新増設はもとより、再稼働も認められず、速やかに廃止しなければならない。
4 今後のエネルギー政策
(1) 脱原発の現実的可能性
産業や経済力の維持のため、廉価な電力を安定供給する原発は必要との指摘がある。しかし、本件事故後、ほとんど全ての原発が停止している状態でも停電は起きなかったし、むしろこの事故は、原発の安全神話を破壊し、将来的にも低廉で安定的な電力供給を確保できないことを明らかにした。脱原発は現実的に可能な政策である。
2012年9月に電気料金が月額数百円から1400円(東京電力)値上げされた。原子力発電に代わる電源としての火力発電所燃料のLNGや石油の調達コストの増加が強調されているが、電力会社が原発に依存し、燃料コストの削減のための努力を怠ってきたことがまず指摘されなければならない。また、その中には原発事故による安全対策及び損害賠償費用が含まれており、今後ますます、原発の事故コスト及び原発の安全確保対策のためのコストは増大していくと想定される。
また、本件事故後、2012年5月までに全ての原発が停止し、その後、大飯原発3・4号機が再稼働したにとどまるが、東京電力管内での計画停電を除けば、電力供給に問題は生じていない。2012年は特段の規制措置がとられなかったが、2010年の電力需要実績を約6%下回った。
なお、CO2を大量に排出する化石燃料、特に石炭・石油にエネルギー源を依存することは、気候変動対策の観点から、許されない。後述のとおり脱原発と気候変動対策は両立可能であって、この双方を追求していくべきである。
(2) 原子力に依存しないエネルギー政策と実施
脱原発と気候変動対策を両立させるためには、エネルギー消費の削減と再生可能エネルギーの推進が必要であり、中長期的には実現可能である。また、それまでの過渡的なエネルギー源としては、比較的CO2の排出が少ない高効率の天然ガスを、低価格での入手を追求した上で拡大すべきである。このように、原発に代わるエネルギー源の確保も脱原子力の実現に不可欠である。
またそのために、需要側では、熱も含めたエネルギー消費全体の削減を実現する政策を、供給側では、再生可能エネルギーによる電力及び熱を飛躍的に拡大していく政策を、目標を設定の上、確実に実施する中長期計画が必要である。また、その移行期においては、天然ガス火力発電所の新増設、既設発電所の効率を高めることが、気候変動対策との両立の鍵となる。
(3) 電力システム改革・発送電分離
再生可能エネルギーの推進など、電力の需給両面での改革の鍵は、電力システム改革にある。これまでの地域独占による垂直一貫統合体制から、発送電事業を分離し、発電部門への新規参入を可能にする政策及び送配電事業の公益化、需要側管理及び多様な再生可能エネルギー電力の拡大を前提として、より安価に電力の安定供給を図る方針を明確にし、制度整備計画を立て、実現していくことが急務である。
(4) 従来の原発立地の支援策
電源開発促進税法に基づき電力会社から徴収される電源開発促進税(及び剰余金)は、年間数千億円に上る。その使途は、発電用施設の設置促進に加え、電源立地地域の振興などに用いられている。いわば、原発の立地地域では原発の事業者からの税金でインフラ整備等を促された形になる。また、核燃料税など、原発の存在によって立地地方自治体にもたらされる税収も多い。
このような従来の原発立地への「支援策」は、立地自治体の財政及び経済を原発に深く依存させる結果をもたらし、観光業をはじめとする従来の産業をさらに衰退させる結果をも生み出した。今後は、観光、漁業など、地域の資源を生かした産業への支援を図るとともに、例えば原発に対して支給される交付金を原発の廃止あるいは新エネルギーの立地に伴って交付するよう改めるなど、原発依存からの脱却を図る方向での支援を図る必要がある。
(5) 政策決定の民主化
我が国における原子力政策の推進は、国民が関与できない政策決定の構造に起因している。経済産業大臣の諮問機関である「総合資源エネルギー調査会」の報告に基づく「長期エネルギー需給見通し」が、原子力開発の基本政策を決めているが、その過程には国会の関与もなく、政府、原子力業界、電力業界の意図するまま、原子力政策が推進されてきた。安全規制を目的とすべき、原子力安全委員会(後の原子力安全・保安院)といった組織も、推進の立場との分離が不徹底であって、その役割を果たしていなかった。本件事故後、原子力規制委員会と改組されたが、なお1で述べた問題が残っている。 脱原発が進められる中でも、自然エネルギーの推進や既存原発の廃炉処分、放射性廃棄物の処理処分といった課題を解決するため、なお政策決定や規制面における「原子力ムラ」からの脱却は重要である。今後は、原発の危険性はもちろん、需給やコストの点についても正しく情報を公開するとともに、規制の面でも、国会事故調も言うように、①高い独立性、②透明性、③専門能力と職務への責任感、④一元化、⑤自律性に基づいた組織による厳格な安全面でのチェックが必要であり、これらは再稼働の非現実性も明らかにする。
5 原発輸出政策の中止
政府は、本件事故を踏まえて日本は世界一厳しい基準の下に原発を作れるかのように宣伝して、原発メーカー共々積極的に原発輸出を推進している。
しかし、本件事故の原因究明は、原発の安全確保のために最低限必要であるが、いまだ究明されていない。また、拙速に策定された安全基準は、本件事故を招来した安全指針類の欠陥を直視しておらず、原発の安全性を確保できない不十分、不合理な内容である。そのような状況下にある日本が、原発の安全性を宣伝して原発を輸出することは余りにも無責任である。
自然現象により重大な原発事故が起こることを本件事故は明らかにしたが、日本が輸出しようとする各国には、それぞれの憂慮すべき自然現象が存在する。ベトナムでは、マニラ海溝でマグニチュード9を超える地震が発生し、巨大津波が起きる可能性が指摘されている。ヨルダンでは繰り返し地震が起きているが、社会的インフラ全体の耐震性の確保が明確でないと指摘されている。ひとたび重大な原発事故が発生すれば、相手国及びその周辺国の広範囲にわたって深刻な放射線被害を及ぼし、環境破壊、人権侵害をもたらすことになる。また、事故発生時のみならず、平常運転中の労働者被ばくや公衆の被ばくのおそれもある。さらに、使用済燃料や放射性廃棄物の処分は、日本でも全く解決されておらず、原発輸出をすれば、その解決困難な問題を合わせて相手国に輸出することになる。
このように、原発輸出は相手国及び周辺諸国の国民に人権侵害と環境汚染をもたらすおそれがあり、原発輸出政策は中止すべきである。
6 小括
いまだ本件事故の原因すら明らかでなく、安全審査の根本的問題は何ら解決されていない。事故防止には、原子力発電からの脱却以外にはない。脱原発は現実に可能であり、その道筋を早急に定める必要がある。放射性廃棄物は数万年先の将来世代にまで影響を与えかねない。我々の世代の責任で脱原発の結論を出す必要がある。
第4 結語
東日本大震災から2年半以上経過したが、いまだ多くの人々にとって日々被害は進行中で、基本的人権も侵害され続けている。当連合会は、法律専門職の団体として、また国内最大の人権擁護団体として、一日でも早く全ての人々の基本的人権が回復されるため、また二度とこのような事態が起こらないようにするため、最大の努力を尽くすことを決意するとともに、政府をはじめとする諸機関にも、被害の完全回復及び原子力発電からの脱却を強く要望する。