原発訴訟における司法判断の在り方、使用済燃料の処理原則及び原子力施設立地自治体の経済再建策に関する宣言
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当連合会は、2013年10月4日の第56回人権擁護大会における「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」において、「既設の原発について、安全審査の目的は、放射能被害が『万が一にも起こらないようにする』ことにあるところ、原子力規制委員会が新たに策定した規制基準では安全は確保されないので、運転(停止中の原発の再起動を含む。)は認めず、できる限り速やかに、全て廃止すること」等を決議した。
しかし、政府は、2014年4月11日のエネルギー基本計画において、原発を「重要なベースロード電源」とし、更に核燃料サイクルを堅持するとし、従来と変わらない原発政策を継続しようとしている。同年9月10日には、原子力規制委員会は、九州電力川内原発1、2号機について、新規制基準に適合するとして、原発再稼働への一歩を踏み出そうとしている。当連合会は、こうした原発再稼働の動きに対して、原発事故による甚大な人権侵害を回避する観点から、深い懸念と憂慮を表明するものである。
政府・原子力規制委員会のこうした現状の下では、原発事故による人権侵害を未然に防止するため、裁判所による原発の安全性に関する司法審査の役割が、極めて重要である。福島第一原発事故以前の原発訴訟において、裁判所は、行政庁や事業者の専門的技術見解を尊重するとして、これを追認する判断をしてきた。しかし、原発のように、一たび重大事故が発生すれば、広範囲に、長期的かつ不可逆的な人権侵害を引き起こしかねない技術を審理の対象とする司法審査においては、万が一にも重大な人権侵害が起きないようにするために、科学には不確実な部分があること、事業者が施設の安全性に関する重要な情報を秘匿している可能性があることを踏まえて、安全性を最大限尊重する立場から十分な審査を行うことが不可欠である。
次に、そもそも原発は、重大事故を起こさなくても、使用済燃料の処理という困難な問題を内包しており、その対策は不可欠である。その点、政府の方針は深い地層に埋設処分する方法(地層処分)であるが、地震国である日本国内において地層処分に適した場所を見つけることは困難である。原発を再稼働させず、また、核燃料サイクルは速やかに廃止した上で、既に発生した使用済燃料の当面の保管については乾式貯蔵を原則とし、保管場所や将来の処分を決めるに当たっては、安全性、意思決定の民主性を確保するとともに、将来世代の意思決定を不当に拘束しないことが不可欠である。
また、国の原子力推進政策は、核燃料サイクル再処理施設を含め、原子力施設立地自治体が原子力施設に依存せざるを得ない体質を生み出した。原子力施設立地自治体が原子力施設依存から脱却し、自立できるよう再生していくことへの支援も、急を要する課題である。
よって、当連合会は、以下のとおり提言する。
1 原発の設置・運転の適否が争われる訴訟に関する司法判断において、行政庁が依拠する特定の専門的技術見解を尊重し、これを前提に危険性がないと判断する従前の方法を改め、今後は、科学的・経験的合理性をもった見解が他に存在する場合には、当該見解を前提としてもなお原発が安全で人権侵害が発生しないと認められない限り、原発の設置・運転を許さないなど、万が一にも原子炉等による災害が発生しないような判断枠組みが確立されること。
2 国は、原子力災害を二度と繰り返さないことを目的に、原発の安全性を検討するために必要な情報が確実に公開されるよう、情報収集制度、情報公開制度、裁判における文書提出命令制度を改善するなど、情報開示の仕組みを整備すること。
3 国及び電気事業者は、使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物について、以下の方策を採ること。
- (1) 再処理施設等の核燃料サイクルを速やかに廃止すること。
- (2) 使用済燃料については、原発を再稼働させずその総量を確定し、また再処理せず直接処分すること。
- (3) 使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物の最終処分は、地層処分方針を撤回した上で、日本の地学的条件と、安易に海外の市民に負担を転嫁すべきでないことの双方を十分考慮して決定すること。
- (4) 最終処分方針決定までの間、当面は可能なものから乾式貯蔵に切り替えて地上保管をすること。当面の保管場所は、国が一方的に決定するのではなく、安全性、地域間の負担の公平を踏まえて、計画立案の段階から、十分な情報公開や、反対意見を踏まえた実質的かつ十分な議論を経た上で決定すること。
4 原子力施設立地自治体の経済再建を図るために、以下の措置を採ること。
- (1) 国は、電源三法交付金制度のうち、原子力施設に関する部分を廃止し、過去の産業転換時の施策の功罪を踏まえて、原子力施設に依存した地域経済を再生するため、原子力施設立地自治体に対し、一定期間具体的な支援を行うこと。
- (2) 国及び自治体は、地域再生の重要な資源の一つである再生可能エネルギーの利用を促進する制度を整備すること。
- (3) 国及び自治体は、再生可能エネルギーの利用は資源の特性に応じた、持続可能なものとし、地域の合意に基づき、地域の経済的自立が図られるよう制度的支援をすること。
当連合会は、福島第一原発事故の悲劇を決して忘れることなく、その被害者の救済の先頭に立つとともに、司法判断において、万が一にも原子炉等による災害が発生しないような判断枠組みが確立され、核燃料サイクルの即時廃止及び放射性廃棄物の処分、並びに脱原発後の地域再生等の脱原発にかかる重要な諸課題が解決されるよう、全力を尽くす決意であることを表明する。
以上のとおり、宣言する。
2014年(平成26年)10月3日
日本弁護士連合会
提案理由
はじめに
1 福島第一原発事故による人権侵害と人権擁護大会決議
福島第一原発事故により、莫大な量の放射性物質が原発施設外に放出され、極めて広範囲かつ多数の人々が被ばくし、環境が汚染された。そのため、現在まで、幸福追求権、居住の権利、職業選択の自由、生存権、教育を受ける権利及び財産権等、原発事故被害者の数々の基本的人権が奪われ続けている。福島県外に避難している避難者数は47、149人、福島県内に避難している避難者数は79、000人(2014年8月14日現在:復興庁ホームページから)に及ぶ。長期に及ぶ避難を強いられている人々は、生活再建の確たる展望を描けない中で、避難生活は以前にも増して苛酷なものとなりつつある。
放出された放射性物質は、無害化するまでに極めて長い期間を要し、その被害は、将来の世代も含め、広範囲、長期間にわたって極めて重大な権利侵害を生み出し続ける。このような事故が二度とあってはならないことは、もはや誰の目にも明らかである。
当連合会は、第56回人権擁護大会における「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」において、原発事故被害の完全救済と健康被害の未然の防止及び原子力政策の抜本的見直しを求めた。とりわけ、原子力政策については、原発の新増設(計画中・建設中のものを全て含む。)を止め、再処理工場、高速増殖炉等の核燃料サイクル施設は直ちに廃止すること、既設の原発について、安全審査の目的は、放射能被害が「万が一にも起こらないようにする」ことにあるところ、原子力規制委員会が新たに策定した規制基準では安全は確保されないため、運転(停止中の原発の再起動を含む。)は認めず、できる限り速やかに、全て廃止すること等を求めた。
2 脱原発のために解決すべき課題
しかるに、政府は、2014年4月11日、新しいエネルギー基本計画を閣議決定した。同計画は、原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、核燃料サイクルも堅持するとし、「原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める」としている。
さらに、同年9月10日には、原子力規制委員会は、九州電力川内原発1、2号機について、新規制基準に適合するとして、原発再稼働への一歩を踏み出そうとしている。
現行の規制基準が「世界で最も厳しい規制基準」といえないことはいうまでもないが、政府・原子力規制委員会のこうした現状の下では、安全の確保ができない原発が再稼働されないようにするために、裁判所による司法審査の役割は、極めて重要である。また、核燃料サイクルを直ちに廃止し、脱原発を決定して、処分すべき高レベル放射性廃棄物をこれ以上増やさないことにした上で、高レベル放射性廃棄物の処分について検討すること、脱原発後の地域再生を図ることは、困難な問題であるが、早急に取り掛からなければならない問題である。
よって以下のとおり、万が一にも原子炉等による災害が発生しないような司法判断の枠組み、核燃料サイクルの即時廃止と高レベル放射性廃棄物の処分、脱原発後の地域再生について提言するものである。
第1 原子力発電の廃止と司法審査の改善
1 我が国における従来の司法審査の状況
これまで、我が国では、行政訴訟、民事訴訟を含め、数多くの原発訴訟が提起されたが、福島第一原発事故以前には、下級審で2件の住民側勝訴判決があるほかは、司法により、最終的に原発の運転を止めるべきであるという判断がなされたことはなかった。
すなわち、従来の原発訴訟においては、原発による深刻な災害が「万が一にも起こらないようにする」べきである(伊方原発最高裁判所判決)とされながらも、このことが判断に生かされることなく、行政庁の専門技術的裁量を広く認め、住民側に過度の主張・立証上の負担を負わせることによって、原発の危険性は認められないとして、原発の運転を安易に認めてきた。
福島第一原発事故以前から、チェルノブイリ原発事故や柏崎刈羽原発事故をはじめとして、国内外における原発事故は後を絶たなかった。にもかかわらず、司法は、これらの事故を目の前にしてもなお、原発は安全であるという行政庁や事業者の主張をそのまま採用して、住民側の訴えを退け続けてきたのである。
2 2014年5月21日福井地方裁判所判決
これに対して、2014年5月21日、福島第一原発事故後としては初めての原発差止訴訟に対する判断として、大飯原発運転差止訴訟に関する福井地方裁判所判決が出された。
この判決は、福島第一原発事故のような人格権侵害の危険性判断を避けることは、裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい、と述べた上で、人の生命及び生活を維持するという人格権の中核部分が原発の運転という経済的自由よりも優位にあることを指摘し、原発に内在する本質的な危険性に照らして、人格権が広汎に奪われるという事態を招く具体的危険性が万が一でもあれば、その差止めが認められるのは当然である、と判示した。そして、わずか10年足らずの間に、基準地震動を超える地震が5回も到来している事実等を重視して差止めを認めた。この判決は、行政庁の新規制基準に基づく判断がなされる前に、民事訴訟において、裁判所が自ら安全性判断を行ったものである。本判決が示した基本的な考え方、すなわち、「地震は地下深くで起こる現象であるから、その発生の機序の分析は仮説や推測に依拠せざるを得ないのであって、仮説の立論や検証も実験という手法がとれない以上過去のデータに頼らざるを得ない。」として科学における不確実性を正面から認め、さらに、「地震という自然の前における人間の能力の限界」を前提に安全性を判断すべきとした枠組みは、人権侵害の防止という、司法本来の役割に立ち帰ったものとして高く評価されるべきものであり、今後の原発裁判において生かされていくべきものである。
3 ドイツにおける司法判断の在り方
ドイツでは、原子力に関する訴訟において司法が継続して積極的な判断を行ってきた。ドイツ連邦行政最高裁判所は、1998年に、70億マルクを投じて完成していたミュルハイム・ ケルリヒ原発について、「国が安全審査において過去の地震のリスクを適切に評価していない」とする下級審裁判所の判断を是認し、同炉の廃炉を決定した。ドイツにおいては、行政裁判所において原発の認可の是非が判断されてきたが、認可処分の際にあらゆる見解に対して適切な考慮がなされなければならず、行政の調査不足、考慮不足があれば認可は取り消されるという判断枠組みが採られてきた。また、原発の安全性に関する見解に対して評価をする際に、行政が恣意的な判断をすることは許されず、ある見解を採用しない場合には、その根拠が十分に示されなければ、そのような判断は恣意的な判断として取消しの対象となるとされてきた。我が国の安全審査で見られたように、理由が示されなかったり、割り切るしかないなどとしてある見解を退けるならば、まさに恣意的な判断として認可取消しの対象となる。このような判断の枠組みは、日本においても参考にすることができる。
4 科学における不確実性と限界
前記福井地方裁判所判決やドイツにおける司法判断に共通するのは、科学には不確実な部分も存在するということである。複雑な問題やデータが不足している問題、研究途上の問題等の場合には、専門家の意見は常に一致するとは限らず、ある時点における多数的見解が、将来覆ることもしばしば起こる。原発の安全性に関する判断は、様々な領域における科学の知見に依拠することになるが、そこで用いられる専門的知識には高度の不確実性が内在するため、特定の科学的見解に依拠すれば安全性が確保されるとはいえない。
このように、科学の専門的知識に高度な不確実性が内在する場合、安全性の判断に当たって、確率が低いとされている事象を考慮するか、考慮するとしてもどの程度考慮するかといった問いは、科学の専門家だけでは決着することができない。
こうした領域に属する問題では、対立する見解を慎重に吟味して、社会的な判断を行う必要がある。原発については、一たび事故が現実化した場合には、被害が甚大であることから、万が一にも災害が起きないような判断枠組みが求められる。
にもかかわらず、司法は、原発の安全性判断を、専門的科学技術の問題として扱い、科学の専門家の中での支配的見解を「科学的に正しいと思われる説」としてそれに依拠し、その見解と異なる見解は、一定の合理性があっても、「抽象的危険に過ぎない」、「危険性の立証が尽くされていない」等としてきた。
例えば、浜岡原発について2007年10月26日に言い渡された静岡地方裁判所判決は、「想定東海地震を超える地震動が発生するリスクは依然として存在する」との原告の立証を認めつつ、「しかし、このような抽象的な可能性の域を出ない巨大地震を国の施策上むやみに考慮することは避けなければならない」と判断したのである。
福島第一原発事故は、司法が支配的な見解ではないとして看過してきた見解・事故シナリオが現実になったものであり、安全神話が崩壊した今、司法は、安易に行政庁の専門技術的裁量を認めることは許されず、深刻な原子力災害を二度と起こさせないという視点から、行政の判断に対して、法的な見地から厳格な判断を行うべきである。
5 あるべき司法審査
人権侵害を未然に防ぐという司法の重要な目的からすれば、原発のように、事故が起こった場合に甚大な被害が生じる施設については、大飯原発訴訟において福井地方裁判所が判示したように、「万が一にも」事故が起こらないように審査がなされる必要がある。とすれば、行政庁が依拠する特定の見解を前提とするのではなく、少数ではあっても、科学的・経験的合理性をもった見解が他に存在する場合には、当該見解を考慮してもなお、原発が安全で人権侵害が発生しないと認められない限り、原発の設置・運転を許さない、という判断枠組みを採るべきである。
また、「万が一にも事故が起こらないようにする」ためには、訴訟手続として、事故被害の重大性・不可逆性や証拠の偏在等、原発訴訟の特殊性を踏まえ、実質的に公平な審理がなされなければならない。
具体的には、①訴訟において、認可等の判断の基礎となった科学技術情報や判断過程が十分に公開されていることを前提とし、②住民側が一定の科学的・経験的合理性を有する見解を主張した場合には、その見解を考慮してもなお原発が安全であることを事業者ないし国に主張・立証させ、③住民側が立証すべき命題を、「人権侵害の具体的危険性」(確実に危険であることに近い。)ではなく、「具体的危険性があり得ること」(危険の発生が否定しきれないこと。)と捉え、一定の科学的・経験的合理性をもった危険発生の可能性を主張・立証させることで足りることとし、④住民側の証明度を軽減し、住民側の立証に「高度の蓋然性」(住民の主張が確実であることに近い。)を求めるのではなく、さらに、証拠の優越に達しないレベルであっても、相当程度の立証ができていればよい(事業者・国側主張の科学的確実性が不完全と認められればよい。)とするといった工夫が考えられる。
第2 原発の安全性確保のための情報開示のシステム
1 隠された情報へのアクセスの重要性
過去の原発訴訟で原告勝訴の判決が出されたことのある、もんじゅ訴訟においては、事業者の行った重要な実験結果や事故のシミュレーション結果が国にすら提出されず、そのことが偶然明らかになったことが、「安全審査の欠落」があるという判断につながった。情報に乏しく、専門的な知識も有しない住民側は、原発の危険性について過度の主張・立証等の負担を強いられており、内部告発や偶然の要素がなければ、多くの場合この立証に成功できず、司法による安全性確保の機能が果たされないまま、結果として、福島第一原発事故による大規模な人権侵害が引き起こされたといえる。
2 国際条約と基準
日本政府はまだ批准していないが、環境と開発に関する国際連合会議宣言(リオ宣言)に基づいて策定され、2001年に発効したオーフス条約は、環境問題について、市民(NGOを含む。)が環境を守ることができるように、市民に、①情報へのアクセス権、②意思決定への参画権、③司法アクセス権(訴訟の権利)を具体的に保障し、国等が環境情報を集め、市民の求めに応じて、環境情報を開示する制度を設けることを求めている。また、国の秘密指定の在り方について決めた国際準則であるツワネ原則では、10項Hにおいて、「(1)公衆衛生、市民の安全又は環境に対する差し迫った実際的な脅威がある場合において、その脅威から生じる損害を理解したり、防止・軽減する手段をとったりすることを可能にするすべての情報。その脅威の原因が自然か人間活動(国家によるものか民間企業によるものか)かを問わない。」とし、環境情報について積極的に開示されるべきであると強く推奨され、場合によってはその公開は最優先の義務になるとされている。
3 証拠開示制度の導入と文書提出命令制度の改善
我が国の現行の情報公開法や民事・行政訴訟における文書提出命令制度においては、情報を特定できなければ、公開を求めることもできない可能性があるから、欧米の裁判における証拠開示制度に倣った裁判における情報収集制度の導入が検討されるべきである。
また、特定することができたとしても、原子力安全に関して必要な情報が、安全保障、テロ対策、企業秘密等を理由に公開されない場合がある。現に、浜岡原発運転差止訴訟において、設計及び工事方法に関する書類について、一審の静岡地方裁判所では、情報公開の重要性を根拠に文書提出命令を認めたが、二審の東京高等裁判所では、電力会社の企業秘密に当たるとする主張に対して民事訴訟法第197条第1項の「技術又は職業の秘密に関する事項」に該当する場合には文書が重要なものであっても文書提出命令は認められないとした。
原発の安全性を検討するための情報のように、多くの市民の生命や健康に重大な影響を及ぼすような情報が、仮に企業の「技術又は職業の秘密に関する事項」にあたるとしても、文書が確実に開示されるように、民事訴訟法第220条第4号ハに例外規定を盛り込む等の改正が必要である。
さらに、当連合会は、2012年12月20日付けの「『信頼性確認制度』の創設に反対し、核情報に関わる情報公開の推進を求める意見書」において、「電力会社等国民の安全に著大な危険を及ぼしかねない施設を有する法人を独立行政法人等情報公開法の対象法人とし、その原子力発電所に関する文書を対象法人文書とすることを検討すべきである。」と指摘しているところである。このような制度の導入も求められる。
第3 核燃料サイクル・放射性廃棄物による人権侵害の防止
1 再処理中止の必要性
(1) 核燃料サイクル政策の必要性の欠如とその不経済性
我が国は、使用済燃料を再処理して、高速増殖炉等においてプルトニウムを「有効活用」する核燃料サイクル政策を推進しており、東日本大震災を経た2014年4月11日に閣議決定された新たなエネルギー基本計画においてもなお、原発を「重要なベースロード電源」とし、核燃料サイクルの推進を図ること等が示された。
国は、再処理を継続する理由として、「資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化、有害度低減化」(前記エネルギー基本計画)を挙げ、その他にウラン資源の節約効果を挙げている。
しかし、核燃料サイクルの要となる高速増殖炉について、アメリカは技術的困難性を理由に1985年に開発を断念し、その後イギリス及びフランスが開発に取り組んだが、結局撤退するに至った。日本では実験炉「常陽」に続き、1994年に原型炉「もんじゅ」が稼働したが、「もんじゅ」は1995年のナトリウム漏出火災等の数々の事故・トラブルが発生し、現在に至るまでわずかな期間を除き、運転を停止したままである。電力各社は、2013年度のプルトニウム利用計画さえも提示できておらず、国策としての「プルトニウム・リサイクル」計画は既に破綻している。前記基本計画もこの事実を前提として、「もんじゅ」のプルトニウム増殖は断念して、「廃棄物の減容、有害度の低減等のための研究拠点」と位置付けるに至った。
また、再処理によって発生する大量の放射性廃棄物及び工場の解体廃棄物は膨大であり、仮に高レベル放射性廃棄物をわずかに減らせるとしても、放射性廃棄物全体の量は明らかに増大する。これに加え、再処理は直接処分よりはるかにコスト高になる。しかも、ウラン資源の節約効果はわずか1~2%程度にすぎない。このように、再処理には資源の有効利用としての意義は認められず、逆に莫大なコスト負担を国民に強いることになる。
再処理によって作られたプルトニウムを高速増殖炉で利用するという方法がなくなる中、プルトニウムをMOX燃料(ウランとプルトニウムの混合物)にして軽水炉における核燃料として利用するプルサーマル計画が浮上している。しかし、プルサーマル計画は、通常のウラン燃料よりコストが高く、また、原子炉のコントロールが困難であることから、経済性・安全性の面から疑問が提起されている。
現在、MOX燃料を利用してプルトニウムを消費する中核的施設として、青森県大間町で大間原発が建設中である。しかし、大間原発は、世界で初めてMOX燃料だけを用いる商業炉であり、その運転や安全性について、実験、実証による裏付けは取られていない。とりわけ東日本大震災後は、北海道函館市による訴訟提起に見られるように、周辺住民の同意を得ていくことがより困難となった。
(2) 再処理の危険性
再処理技術は、いまだ確立段階に至っていない。
燃焼度の高い使用済燃料の溶解や、多様な成分を化学処理することは容易でないことに加え、放射線が強いため通常の化学反応の工程に比べて著しく危険性が高い。しかも、低温で引火したり、爆発するような化学物質が工程内に多量に存在する。また、特に液体の状態では、常に臨界の危険が付きまとう。実際、茨城県東海村の東海再処理工場におけるアスファルト固化処理施設における火災爆発事故、プルトニウム溶液の誤送事故や、青森県六ヶ所村の再処理工場のウラン・プルトニウム混合溶液の二重装荷事故等、多数の事故が報告されている。
また、平常運転においても、再処理過程で放射性廃棄物が発生する。このうち放射能レベルの比較的低いものは、気体・液体廃棄物として排気塔や放流管から環境に放出されるが、その放射能レベルは原発の通常運転時のそれをはるかに超えている。また、青森県六ヶ所村の再処理工場では、高レベル廃液はガラス固化して工場内に保管することとなっていたが、白金族元素が不溶解残渣となってガラス固化に失敗し、現在も高レベル廃液のまま貯蔵された状態となっており、保管方法も確立していない。
海外においては、イギリスやフランスの再処理工場で深刻な放射能漏れ事故が発生し、工場周辺住民の被ばくや広範囲の海洋汚染が報告されている。
(3) 立地住民に対する人権侵害
日本国内の再処理工場は、青森県六ヶ所村と茨城県東海村にある。また、青森県むつ市には中間貯蔵施設がある。原発の設置地域と同様、その設置地域は例外なく、いわゆる過疎地域である。
一方、この地域においても核燃料サイクル施設の設置に反対する住民がおり、まだ選挙権等のない将来世代に至っては反対意見すら述べることができなかった。施設それ自体の危険性に加え、住民の自己決定権が侵害されているという点でも、核燃料サイクルは重大な人権侵害をもたらすものである。
(4) 軍事利用等の危険性
再処理は、そもそも原子爆弾という核兵器開発を目的として生まれた技術である。また、余剰プルトニウムを保有することは核不拡散条約に抵触する。それにもかかわらず、政府は再処理政策の継続に固執し、核燃料サイクル施設を設置して再処理技術や濃縮技術を確保しようとしているが、こうした政策に対し、核不拡散という観点から、アメリカを含めた諸外国からも国際的な非難を招いている。こうした中で核燃料サイクル政策を継続させることに対しては、潜在的な核武装能力の保持が目的ではないかという指摘が国内外からなされている。
(5) 小括
以上のように、核燃料サイクルとりわけ再処理施設はそれ自体危険であるとともに、放射性廃棄物の処理を更に困難とする。さらには、核不拡散という観点からも、国際的な非難を招いている。使用済燃料の再処理は、直ちに廃止しなければならない。
2 放射性廃棄物の処分原則
(1) 放射性廃棄物の総量確定と使用済燃料の直接処分
半世紀近くにわたる原発稼働により、現時点においても使用済燃料を含む処理困難な高レベル放射性廃棄物は、既に大量に存在する。今後原発を運転することになれば、処分の当てのない廃棄物を更に増加させることになる。
何万年もの長期にわたり極めて有害な放射線を発生させる高レベル放射性廃棄物については、これ以上増やさない政策決定が早急に求められる。原発を稼働させず速やかに廃止し、放射性廃棄物の総量を確定させることは、将来世代の負担を軽減するために、最も必要かつ重要なことである。
使用済燃料の再処理は、いかなる観点からも合理的な政策とはいえない。前述のとおり再処理による廃棄物減容化の効果はなく、一方で危険性はあまりにも大きい。
使用済燃料のこれ以上の増量は許されないとともに、既発生の使用済燃料については、再処理せずに直接処分すべきである。
(2) 地層処分方針の撤回と最終的な処分の方針について
政府の高レベル放射性廃棄物処分政策は、数十年間一時貯蔵した後、地下300メートルより深い地層中に埋設処分するという方法である。しかし、日本は、4つのプレートが複雑に重なり合う、地球上で最も地殻変動が活発な地域であり、日本列島のほぼ全域で地震が発生する世界有数の地震多発国である。そのため、国内には、数万年にわたり安定し、地層処分に適した地層が存在しない可能性が極めて高い。この点は諸外国とは大きく異なる点であり、他国で地層処分方法を採用していることは、我が国でも地層処分が可能であるという理由にはならない。
一方、原発の稼働により発生する放射性廃棄物は長期間にわたり極めて強い毒性を有するもので、国外で処分することには、倫理上重大な問題がある。
原発から発生するゴミの処分という問題は、特に我が国においては極めて困難な問題である。このことをもってしても、私たちは、将来世代に極めて大きな負担を強いる状況を既に引き起こしているということ、また、原発を稼働し続けることがどれだけ無責任極まりない行為であるかを認識しなければならない。
使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物の処分については、今後、十分な調査・研究をしていかなければならない。特に日本の地学的条件を考慮すれば、性急に答えを出すことにこだわらず、十分な期間をかけて、より安全性の高い方法を確立すべきである。
(3) 当面の保管方法としての乾式貯蔵
最終的な処分方針の決定までの間、既に発生した廃棄物の当面の保管については、少しでも安全な方法で管理することが不可欠である。
既発生の使用済燃料は、その多くが各原発敷地内において冷却プールで湿式貯蔵されているが、その他に乾式貯蔵方式がある。保管において最も重要となるのは、使用済燃料から発生する崩壊熱をいかに除去するかという点である。キャスク(円筒状の貯蔵容器)貯蔵ではキャスク周辺の空気の自然対流を利用するため、管理が比較的容易であり費用が抑えられるなどの利点がある。また、湿式貯蔵の場合、地震等の際に電源を喪失することなく冷却を継続させられるかが課題となる。東日本大震災の際に、福島第一原発の敷地内のキャスクは大きな被害を受けておらず、災害時の放射能漏れリスクに対しても優れていることが示された。
乾式貯蔵についても問題点が皆無とはいえないが、安全性及び経済性の観点からは、乾式貯蔵に比較的優位性があることから、現在保管されている使用済燃料については、順次乾式貯蔵に切り替えるのが相当である。
当面の保管場所の選定においては、日本の地学的条件や輸送時等の事故の危険性等に配慮し、より安全に管理できる場所であることが重要である。特定地域に一方的に負担を押し付けるのではなく、計画立案段階から十分に情報を公開した上で、実質的かつ十分な議論を経て決定されるべきであることはいうまでもない。とりわけ、反対意見の十分な聴取と、反対意見を踏まえた計画の柔軟な変更は,この問題の性質上、不可欠である。
第4 原発依存から再生可能エネルギー等を通じた地域の自立へ
1 電源三法交付金制度のうち、原子力施設に関する部分の廃止とそれに代わる原子力施設立地自治体支援
(1) 原子力施設立地自治体の現状
1974年に、原子力を中心とする電源開発を更に促進していくために、原子力施設立地自治体に交付金を交付する制度が創設された。いわゆる電源三法(「電源開発促進税法」・「電源開発促進対策特別会計法(後に、特別会計に関する法律に統合される)」・「発電用施設周辺地域整備法」の三つの法律)による交付金制度である。この制度の下、電力会社が販売電力量に応じて納税する電源開発促進税が、原子力施設立地自治体やその周辺自治体・都道府県に対して交付されるようになった。この電源開発促進税(及び剰余金)は、年間数千億円に上り、そのうち年間1000億円以上が電源立地対策費用として自治体に交付されている。
これに加え、原子力施設からもたらされる固定資産税収入の自治体財政への影響も大きい。例えば、村内に原発及び原子力関連施設を設置する青森県六ヶ所村は、現在でも村の税収72億円の大半を原子力関連施設の固定資産税収入に依存している。このほか、核燃料税等、原発の存在によって立地自治体にもたらされる税収も多い。
このような従来の原子力施設立地自治体への電源三法交付金制度を中心とする莫大な経済的支援は、その自治体の財政力を一時的に高める。しかし、交付金と固定資産税収入による財政力の強化は地域の持続可能な発展にはつながらない。交付金や固定資産税収入は原子力施設の運転開始後確実に減少していくため、電源三法交付金制度等によって整備した公共施設の維持管理費や債務償還費が自治体財政の圧迫要因となる。
また、原子力施設立地地域においては、雇用の相当部分が、建設業や原発従業員等を対象とする飲食・宿泊業など、原子力施設の関連産業に集中する。しかし、地元での就職を希望する新規学卒者を十分に吸収することはできず、原子力施設立地地域でも地域外への人口流出が止まっていない。一方で、原子力施設の建設により、伝統的な農林水産業は目に見えて衰退し、観光業の発展も望めない。
このため、原子力施設立地自治体は、財政力の低下を防ぐために原子力施設の更なる建設を希望せざるを得なくなり、ますます原子力施設への依存傾向を深めていく現実がある。その結果、地元経済の原子力施設への依存度は更に強まり、地元の自律的な発展の可能性は完全に失われてしまう。
このような負の循環は、一刻も早く断ち切り、原子力施設立地自治体が自らの力で自律的に発展していくための制度を構築していかなければならない。
(2) 電源三法交付金制度のうち、原子力施設に関する部分を廃止し、国は原子力施設立地自治体のために暫定的な支援策を講じる必要があること
原子力施設立地自治体を原発依存の不健全な財政から解放し、自立した地方経済を回復するためには、電源三法交付金制度のうち、原子力施設に関する部分を廃止することが不可欠である。
しかし、原子力施設立地自治体の収入の大部分を担ってきた電源三法交付金制度のうち、原子力施設に関する部分が廃止されれば、地域の経済の急激な疲弊と、自治体による地域住民に対するサービスの急激な低下、更なる人口の流出等をもたらすことが懸念される。このため、国は原子力施設立地自治体が自立した健全な財政を創出するまでの間、暫定的な支援策を講じるべきである。
その一つとして原子力施設立地自治体住民から「廃炉交付金」という構想が唱えられている。この構想は、旧式・高経年炉その他の原子炉を廃炉にした場合、廃炉後数十年間、一定の交付金を支給するというものである。地域が脱原発に向けて舵を切るための地域支援策として、このような期限を区切った交付金制度も有効である。産炭地域の場合は、廃坑後、産炭地域振興臨時措置法に基づき地方自治体に対して産炭地域振興臨時交付金が交付されており、福岡県飯塚市のように産炭地域振興として大学等の研究機関の誘致を行い、産業構造をうまく転換させた例も存在する。
他方、北海道夕張市は、産炭地域振興臨時交付金として1969年から2001年にかけて合計67億円を受給し、観光産業育成の名目で多くの大規模な観光施設を建設した。しかし、建設した施設の管理維持費、人件費、借入金の返済が市の財政を圧迫するようになり、産炭地域振興臨時交付金が2001年で打ち切られてから数年で、財政再建団体へと転落した。この夕張市の財政破綻は、交付金を頼りに財政規模に見合わない過大な投資を行ったことが原因であるが、交付金の支給は常にこうした危険をはらむことに留意しなければならない。したがって、国による経済的支援は、地方独自の健全な財政を創出するまでの一時的なものとし、最終的には自立的な地域経済の創設が目指されるべきである。
2 地域再生の重要な資源の一つである再生可能エネルギーの利用を促進する制度の整備
我が国の地方の過疎化は、極めて深刻である。その要因は多数あるが、地方に雇用の場が減少したことが大きな原因の一つに挙げられる。原発誘致は、このような過疎化する地方の究極の生き残り策でもあったが、負の遺産に目をつぶった持続不可能な策であった。
政府は、福島第一原発の悲惨な事故を経験した現在においても原発を「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付け、原発中心のエネルギー政策に固執している。しかし、既に述べたとおり、原発等の巨大施設を中心とする中央集権的なエネルギー政策は、一時的な雇用の創出等を生み出すとしても、地域の持続可能な発展を生み出さないばかりか、それを阻害する。こうした政策の構造を改め、地域が主体となって決定する政策へと転換させることは、地域が経済的に自立し、持続可能な発展を実現する上で不可欠である。
原子力施設立地自治体をはじめとする過疎化する地域の経済的自立にとって必要な方策は、地域によって様々なものが考えられる。現に全国数多くの自治体において、企業誘致、教育機関誘致をはじめ、観光振興、商業振興、農業・水産業振興、特産品の開発・ブランド化等の、様々な取組がなされている。
この点、再生可能エネルギー資源は地域に分散しているため、どこでも活用できる性質を有しており、極めて重要な選択肢である。
地域が独自に有するエネルギーには多種多様なものがある。太陽光、風力、地熱はもちろんのこと、山林があれば木質バイオマス(木材からなる再生可能な生物由来の有機性資源。間伐材等をチップ化したものやガス化したものを燃焼させ、熱や電気として利用できる。)、河川があれば(小)水力、家畜がいればバイオガスといった様々な利用可能な再生可能エネルギーが存在している。こうした各地に分散している再生可能エネルギーの活用を進めれば、その地域の住民が単なるエネルギーの消費者ではなく、生産者になり、風力や太陽光による発電、家畜の糞尿とエネルギー作物によるバイオガス発電が新たな収入源になる。これらのエネルギー施設は、原発等の大規模な発電施設とは異なり、構造が比較的簡易であり、経済規模の小さい地域の地元企業、地縁団体、金融機関等の協力で設置し保守運営していくことができる。それによって、事業が生み出す経済的利益の大部分をその地域に帰属させることが可能となる。
実際、ドイツ等の欧米諸国では、自治体が大手エネルギー企業から電気・ガスの供給網を買い戻し、自治体が地元の再生可能エネルギー資源によって100%エネルギー供給することを目指す動きが広がっており、「バイオエネルギー村」のように、バイオエネルギーの活用によって既に目標を達成している自治体も数多く出現している。自治体が地元の再生可能エネルギー源を活用したエネルギー供給を行うことによって、住民が支払う電気料金等のエネルギー関連支出の多くが地域に残り、また、地域での雇用創出にもつながっている。
特に、原子力施設立地自治体においては、送電網が既に整備されていることから、これらを有効活用することも考えられる。
3 資源の特性に応じた「持続可能な」再生可能エネルギーの利用
(1) 資源の特性に応じた効率的なエネルギー利用へ
再生可能エネルギーの活用に当たっては、資源の特性に応じた適切かつ効率的な利用を図ることが重要である。
その際に特に重要になるのは、エネルギーの熱利用である。これまでの我が国のエネルギー政策では電力に過度の比重が置かれ、熱利用の重要性が顧みられることはほとんどなかった。しかし、電力のエネルギー変換効率は発電に投入されたエネルギーの3分の1が最終消費に充てられるだけで、発電に投入されたエネルギーの3分の2が捨てられている。熱エネルギー需要を電力で賄おうとすると、直接に熱エネルギーとして利用できるものを、投入エネルギーの3分の1にすぎない電力を再変換して熱エネルギーとして利用することになり、エネルギーのロスが大きい。一般家庭や農林水産業においては、高温ではない熱エネルギー(温水)の需要がほとんどであり、その需要を電力によって賄うとするのはエネルギー資源の浪費にほかならない。むしろ、木質バイオマスや太陽熱によって得られたエネルギーは、できる限り直接利用していくことが必要である。例えば、木質バイオマスでは、間伐材を薪やチップ、ペレットにし、それらをボイラーで燃焼させて作った温水を地域の暖房や温水に使用すればエネルギー効率は格段に向上し、また、間伐の促進等の林業の活性化、チップやペレットの生産、ボイラーの製造やメンテナンス事業等の新たな産業の開拓にもつながる。
また、これにより、無駄な電力消費を抑制し、再生可能エネルギーによって電力需要の多くをカバーしていくことも可能となる。
(2) 「持続可能な」再生可能エネルギー資源の利用へ
同時に、再生可能エネルギー資源の利用は、地域の自然環境に大きなマイナスの影響をもたらすものであってはならない。また、「使い捨て」ともいうべきエネルギー資源の利用は、地域の経済の活性化にもつながらず、持続可能性を欠くエネルギー資源利用に対しては、その抑制を図るべきである。
特に、木質バイオマスに関しては、こうした懸念が当てはまる。すなわち、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下「再生可能エネルギー法」という。)の制定後、各地で大規模な木質バイオマス発電施設の建設が計画されている。しかし、その多くは出力5000キロワット以上の規模であり、熱の利用は全く想定されていない発電専用の施設である。こうした発電専用の施設は、エネルギー効率が極めて低く、また、燃料として膨大な量の木材を必要とするため、地元の林業から産出される間伐材等によってその需要を賄うことは不可能に近く、広範囲にわたる森林の伐採等、山林の自然環境に破壊的な影響を及ぼすことも強く懸念されている。
こうした問題が生まれた背景には、現行の再生可能エネルギー法では施設 の規模にかかわらず電力買取価格が一定であるため、大型施設の建設を誘発する構造になっていること、再生可能エネルギーの持続的な利用あるいは発電時に出る熱の利用を買取の要件にするなどの手当てが全く欠けているといった問題もある。バイオマス施設においては、原料の持続可能性や廃熱の利用を要件とするなどの制度的な方策を早急に講じることが不可欠である。
森林資源は、一旦使用しても再び森林が成長することから再生可能なエネルギーとされているが、森林の過度の利用は、森林を荒廃させ、持続不可能な状態を招きかねないことは、歴史が何度も示している。戦後の復興期には木材需要の高まりにより、我が国の森林は過剰に利用されてきた。1986年の第29回人権擁護大会における「自然保護のための権利の確立に関する宣言」において述べたように、森林は人間を含めた動植物の生存基盤であり、こうした収奪型の過剰な利用は厳に戒めなければならない。
森林資源のバイオマス利用は、森林資源の末端の利用方法であり、そうした利用であるからこそ、持続可能な再生可能エネルギーたり得る。森林資源のバイオマス利用が可能な地域であっても、林業の産業としての健全な発展とともに進めることが不可欠であり、このことの認識なくして、バイオマス利用による地域の持続可能な経済的自立は望めない。
(3) 地域の特性に応じた地域主体のエネルギー計画の策定へ
長く続いた中央集権的なエネルギー政策の下、自治体関係者の間では「エネルギー政策は国の役割である」との意識が今なお強固である。原発は、中央集権的なエネルギー政策の最たるものであり、原子力施設立地自治体は、原発以外の選択をすることが極めて困難な状況に陥っている。
再生可能エネルギーは、地域で生産し、その地域で消費することが最も効率的であるため、このような中央集権的なエネルギー政策を覆す高いポテンシャルを有している。
ただし、このためには、再生可能エネルギー資源が地域固有の資源であって、その活用は当該地域の主体的な決定に委ねられること、エネルギーの創出・供給・消費・エネルギー効率の向上について、当該地域が自ら計画を策定する制度を導入することが重要である。
例えば、風車やメガソーラーにおいては、地域の自然環境との整合性を全く顧みない地元外の企業による建設計画が数多く出現しており、地元住民との間のトラブルも多く発生している。地域から資源や資金を奪ってしまう、収奪型の「再生可能」エネルギーの利用は、これまでの中央集権的なエネルギー政策の性質を残している。
原子力施設立地自治体を含む地域の経済的自立を図るためには、ウィンドファームやメガソーラー、大規模バイオマス施設等の建設も、地元自治体のエネルギー計画に沿って行い、それに反する施設の設置に対しては、自治体に拒否権を与えることを検討すべきである。
例えば、ドイツでは、大規模施設からの電力の買取は地元自治体の土地利用計画に基づく場合に限定されており、地元議会を無視した大規模施設の建設が事実上排除されている。国内においても、長野県飯田市が「地域環境権」を謳った条例を制定しており、地域住民の主体的な関与の下で地域の再生可能エネルギーの利用を図ることを市が積極的に支援していこうとしている。自治体が住民の主体的な参加の下、自らエネルギー計画を策定することは不可欠である。
再生可能エネルギーの活用は、計画から実現までの全ての過程において地域の住民が果たす役割が大きい。再生可能エネルギーの活用は、ごく身近な場所に潜んでいるが、これまでは顧みられることがなかった資源を「発掘」することにほかならないからである。地域版エネルギー計画の策定は、こうしたプロセスを引き出すための第一歩であるが、それが「再生可能エネルギーによる自給自足」という目標に結びついていけば、地域社会の統合という意味でシンボル的な価値を発揮することも期待される。
おわりに
福島第一原発事故は、原発の本質的危険性と原発技術の脆弱性を明らかにした。当連合会はその事実を直視し、第56回人権擁護大会において原発の新増設の禁止、原発の再稼働の禁止及び核燃料サイクルの廃止を決議した。
原発を推進してきた国、電力会社は、福島第一原発事故を真摯に受け止めて、原発を廃止するべきである。しかし、政府のエネルギー基本計画は、まるで福島第一原発事故はなかったかのように、原発推進政策のままである。このような現状において、人権侵害の予防を重要な任務とする裁判所には、安易な安全論に依拠して原発の推進の一翼を担ってきたことを反省し、本来の司法の役割を果たすことが求められている。大飯原発運転差止めを認めた福井地方裁判所判決は、福島第一原発事故の事実を判断の基礎に据え、二度と原子力災害を発生させない判断枠組みを採るべきであるとした。また、エネルギー基本計画で謳っている核燃料サイクルは、現状では実現不可能である上、原発利用を廃止すれば不要な政策であり、直ちに廃止すべきである。そして、原発運転の開始以来解決を迫られている放射性廃棄物の処分、とりわけ高レベル放射性廃棄物の処分は解決困難な問題であり、これ以上放射性廃棄物を発生させるべきではなく、直ちに原発利用をやめて放射性廃棄物の総量を確定した上で、保管方法、処分方法を検討する必要がある。
さらに、原発廃止のプロセスにおいて、原子力施設を受け入れた自治体の再生は重要かつ困難な問題であるが、早急に検討を要する問題である。再生可能エネルギー事業の導入は、中央集権的な原発事業と反対の地域主導の事業であり、その考え方は、地域再生のヒントになるものである。
第56回人権擁護大会決議の実現と、エネルギー基本計画に示された原発推進政策の変更のために、当連合会は、以上の問題について積極的に提言し、脱原発にかかる重要な諸課題の解決のため全力を尽くす決意であることを表明する。
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