日弁連新聞 第599号

霊感商法等により個人の意思決定の自由が阻害される被害の救済・予防と宗教等二世の被害防止等に関する意見書

arrow 霊感商法等の悪質商法により個人の意思決定の自由が阻害される被害に関する実効的な救済及び予防のための立法措置を求める意見書

arrow 宗教等二世の被害の防止と支援の在り方に関する意見書


日弁連は、2023年12月14日付けで次の二つの意見書を取りまとめ、内閣総理大臣等に提出した。


霊感商法等の悪質商法により個人の意思決定の自由が阻害される被害に関する実効的な救済及び予防のための立法措置を求める意見書

霊感商法等の悪質商法においては、法人等または事業者が、活動に参加する人の心身に強度の依存状態を作り出し、その人の価値判断の基準を不当に変容させる勧誘手法が用いられるため、継続的な寄附などの深刻な経済的被害をもたらすことが多い。


しかし、個々の出捐行為だけに着目すると、あたかも被害者が自らの意思で行っているように見えるという特徴があり、現行の法制度では被害に十分な対応ができていない。


本意見書は、現行法制度の限界を克服すべく、日弁連の取り組みや司法判断の積み重ねを踏まえ、国に対し、不当寄附勧誘防止法や消費者契約法の性質・仕組みに応じて、法人等または事業者による①正体や目的を隠した勧誘の禁止、②助言を受ける機会を奪うことの禁止、③「つけ込み型不当勧誘」の禁止、④禁止行為違反時の寄附の取り消し等の規定を設ける立法措置を求めるものである。


(霊感商法等の被害の救済・防止に関するワーキンググループ座長 釜井英法)



宗教等二世の被害の防止と支援の在り方に関する意見書

宗教等二世問題は、子どもの人格形成に大きな影響を与え、成長発達を著しく阻害し、成人後も長期にわたって困難を強いる重大な権利侵害である。


本意見書では国に対して①2022年12月27日付け厚生労働省子ども家庭局長通知「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」の周知徹底や子どもの意見の尊重等、②学校等での対応マニュアル策定、スクールソーシャルワーカー・スクールカウンセラー・スクールロイヤー等の活用、学費等の支援制度の整備等、③宗教法人に対して子の信仰の自由および成長発達への配慮を義務付ける宗教法人法の改正、④信仰等に基づく権利侵害行為の規定と重大な権利侵害行為に対する罰則の設定、児童虐待の定義に経済的虐待を加える等の児童虐待防止法等の改正、⑤宗教等二世の子どもが安心して相談できる体制や伴走型支援体制の構築、実態調査の実施および民間団体との連携を求めている。併せて、地方自治体に対しても、民間団体と連携して困難を抱えるすべての子どもに支援を届けるよう求めるものである。


(子どもの権利委員会委員、霊感商法等の被害の救済・防止に関するワーキンググループ副座長 掛川亜季)



法律扶助シンポジウム
未成年者自身にも民事法律扶助の利用を可能にするために
―司法のセーフティネットをもっと使いやすく!―
12月13日 日比谷コンベンションホール

arrow 法律扶助シンポジウム「未成年者自身にも民事法律扶助の利用を可能にするために ―司法のセーフティネットをもっと使いやすく!―」


親権争いや虐待等で支援を必要とする未成年者が弁護士に依頼をしようとしても、現在、未成年者自身による民事法律扶助の利用申し込みは認められていない。本シンポジウムでは、未成年者の権利保障と支援の在り方について議論した。当日は盛山正仁文部科学大臣が出席したほか、多くの国会議員からもメッセージが寄せられた。


子どもの意見表明権の保障

原田綾子教授(名古屋大学大学院)は、子どもの意見表明権の保障は「参加」の保障であり、子どもに関わる決定の場に子ども自身を招き入れることであると述べた。子どもと大人らとの相互の敬意に基づいた対話のプロセスが大切で、子どもの声を聞くことが子どもの最善の利益につながるとした。


弁護士が子どもの意見表明を支援する「子どもの手続代理人」制度も紹介し、意見表明により子ども自身がエンパワーメントされるだけでなく、親の認識変容が促されて、子と親の関係を調整する効果があると指摘した。同制度がより活用されるためには、子ども自身が弁護士の支援を求めることができる仕組みが必要であるとし、現在は日弁連の法律援助事業によって公的制度の不備が補われているものの、本来は国による子どもの権利擁護の一環として国費化されることが望ましく、償還義務のない民事法律扶助を未成年者が利用できるものとする改革に期待すると述べた。


子ども支援の在り方

パネルディスカッションでは子どもシェルターを運営する社会福祉法人カリヨン子どもセンターの活動が紹介された。また、シェルターに入居した子ども一人に対して一人が付く子ども担当弁護士(通称コタン)の活動を行っている玉野まりこ会員(大阪)は、子どもの代弁者・伴走者として環境調整に積極的に関与することができると話し、弁護士が支援に関わる意義を説明した。


原田教授は、子どもは弁護士との関わりの中で自身の権利を理解していくことができるとし、子どもを支援する弁護士の存在を知ってもらうとともに、子どもが頼りたいときに頼れる仕組みづくりが国の責務であると締めくくった。



金融経済教育の理念に沿った金融経済教育推進機構の組織及び運営体制の構築を求める意見書

arrow 金融経済教育の理念に沿った金融経済教育推進機構の組織及び運営体制の構築を求める意見書


日弁連は、2023年12月15日付けで標記の意見書を取りまとめ、金融庁長官、消費者庁長官等に提出した。


取りまとめの背景

政府は、2022年11月に公表した「資産所得倍増プラン」において「貯蓄から投資へのシフト」を明示し、国家戦略として投資教育を進めようとしている。


2023年には、金融商品取引法とともに、金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律(旧金融サービスの提供に関する法律)が改正された。国は、民間金融関係団体の協力を得て金融経済教育推進機構(以下「機構」)を創設し、認定アドバイザーを学校等に派遣し、金融経済教育を推進していくこととなる。


投資に関連する消費者被害が生じているにもかかわらず、投資教育が国家戦略として行われようとしている点への重大な懸念がある現状を踏まえ、本意見書を取りまとめた。


意見書の内容

本意見書は、機構が推進する金融経済教育について、投資教育の偏重にならないよう留意すること、広範な観点から金融リテラシーの向上を目指して実施することを国に対して求めるものである。


機構の運営については、民間金融関係団体の活動によって中立性が害されないよう留意すること、機構の構成員に消費者問題に精通する弁護士および消費者問題・消費者教育の有識者を選任するよう求めている。また、創設される認定アドバイザーは、顧客の立場に立つことを制度上明確に位置付け、中立性が担保され、「金融リテラシーマップ」を踏まえた上で、投資に偏重した教育を行うことがないよう求めている。


さらに、金融経済教育は、消費者教育を推進してきた関連省庁間で連携して行うことを求めている。


日弁連は本意見書により、国が進めようとしている金融経済教育への懸念とあるべき金融経済教育についての意見を表明するとともに、金融経済教育がゆがめられることのないよう今後も事態を注視していく。


(消費者問題対策委員会 副委員長 高橋真一)



臨時総会開催
12月8日 弁護士会館

少年・刑事財政基金のための特別会費徴収の件(平成20年12月5日臨時総会決議・最終改正令和5年3月3日、以下「本決議」)の一部改正、刑事再審弁護活動に対する援助に関する規程制定など5議案について、審議の結果いずれも可決された。


国選弁護事件等に関する援助制度の創設

現行の国選弁護人および国選付添人の報酬基準では十分に賄われない活動を支援する費用として、日弁連から弁護士会に対し補助金を支出する制度を創設すべく、本決議と少年・刑事財政基金に関する規程の一部改正および令和6年度暫定予算の補正の3議案が賛成多数で可決された。


記録謄写、当事者鑑定、取調べの立会い、勾留阻止、当番弁護士の接見等に伴う遠距離加算の費用を援助する。また、少年保護事件付添援助事業においても、観護措置からの解放活動等の報酬を支給する。これにより、国選弁護制度および国選付添人制度のさらなる拡充とその意義を社会全体に浸透させることにつなげ、国費化に向けての道筋を作ることを目指すものである。


刑事再審弁護活動に対する援助に関する規程の制定

えん罪被害者救済のための刑事再審弁護活動を行う弁護人等を対象に、弁護活動および通訳や専門家による意見書等の作成に係る費用について、日弁連から援助金を支給する制度の創設が賛成多数で可決された。


処置請求に対する取扱規程の一部改正

2023年5月10日に刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し、犯罪被害者等の情報保護の規定が整備され、個人特定事項の秘匿措置に係る規定が置かれた。また、個人特定事項を開示する場合の条件に弁護人等が違反した場合においても、裁判所、裁判官または検察官が弁護士会や日弁連に通知し、適当な処置をとるべきことを請求できる制度(処置請求)が設けられた。これに対応するための規程の一部改正が賛成多数で可決された。



法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の要綱(骨子)案に反対する会長声明

arrow 法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の要綱(骨子)案に反対する会長声明


刑事裁判手続のIT化に関し、2023年12月18日、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「部会」)において、事務当局作成の「要綱(骨子)案」を、部会の意見として法制審議会(総会)に報告することが決定された。日弁連は、同日付けで「法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の要綱(骨子)案に反対する会長声明」を公表した。


本会長声明では、要綱(骨子)案が国民の権利利益の保護・実現のために必要な制度を設けておらず、専ら捜査機関の便宜のための制度を羅列し、プライバシー権をはじめとする憲法上の権利を保護する仕組みを欠く内容であるとして、その基本的な姿勢を批判し、要綱(骨子)案に強く反対している。


特に問題だと指摘しているのは以下の点である。


オンライン接見の法制化見送り

要綱(骨子)案は、刑事訴訟に関する書類を電子化し、令状手続のほか、勾留質問や弁解録取手続をオンラインで実施するといった制度を新設する一方で、被疑者・被告人がオンラインで弁護人等と接見し、電子化された書類の授受を実現する制度を見送るという不公正なものである。


電磁的記録提供命令の創設

要綱(骨子)案には、裁判所や捜査機関が、刑事罰をもって電磁的記録の提供を強制できる電磁的記録提供命令の創設が含まれている。この制度は、「私的領域に侵入されることのない権利」やプライバシー権などの憲法上の権利を著しく侵害する危険を伴うことが明らかである。ところが、要綱(骨子)案で示された内容は、厳格な要件を設けていないなど、個人や団体の権利を保護する視点を全く欠いたものである。


今後の国会審議や実務者協議において、真に国民の権利利益の保護に資する制度とするための議論が必要である。


(刑事調査室嘱託 虫本良和)



日弁連短信

公正証書や官報もデジタル化

民事裁判手続のIT化が段階的に進んでいる。2024年3月1日からは、いよいよウェブ会議による口頭弁論期日が始まる。新しい裁判システム「TreeeS(ツリーズ)」は、2025年度中に本格運用が始まる見込みである。


近時、民事司法分野のデジタル化・IT化は裁判所の手続に限らない。弁護士業務に関連する3点について紹介する。


公正証書の作成に係る一連の手続のデジタル化

公証役場に赴くことなく、公正証書の作成等が可能になる。具体的には、公正証書の作成の嘱託(申請)は、インターネットを利用し、電子署名を付して行うことができるようになる。公証人の面前での手続についても、嘱託人が希望し、かつ、公証人が相当と認めるときは、ウェブ会議の利用を選択できる。公正証書の原本は原則として電子データで作成・保存されることになり、公正証書に関する証明書(正本・謄抄本)は、嘱託人が書面の交付または電子データでの作成・提供を選択することになる。2025年上旬には施行される見込みである。


官報の電子化

2023年の臨時国会で、官報の発行に関する法律が成立した。官報は1883年に創刊されたが、これまでその発行に関する法律はなく、法令の公布を官報で行うことについても、日本国憲法施行の際の「勅令」廃止以降、明文規定がないまま慣行として行われていた。新法により、官報の発行主体、掲載事項、発行方法など官報の発行に関する事項が定められた。


今後、官報の発行はウェブサイトへの掲載によって行われ、ウェブサイトでの公開は内閣府令で定める期間継続される。ただし、法令や政府調達公告等の情報は永続的に公開される。また、インターネットの利用が困難な方への配慮として、官報の情報を記載した書面を販売するなどの措置が定められ、災害等の事情が生じた場合には書面の掲示により官報(書面官報)が発行される。施行日は、公布の日から1年6月以内である。


自筆証書遺言のデジタル化

2023年10月から、公益社団法人商事法務研究会において「デジタル技術を活用した遺言制度の在り方に関する研究会」が始まった。デジタル技術を活用して、現行の自筆証書遺言と同程度の信頼性が確保される遺言を簡便に作成できるような新たな方式について検討を行っている。近く報告書が取りまとめられ、法制審議会に部会が設置される見込みである。


(元事務次長 杉村亜紀子)



犯罪被害者等の尊厳及びプライバシーを尊重し、その置かれている状況や意向に十分配慮することを求める意見書

arrow_blue_1.gif報道機関に対し、犯罪被害者等の尊厳及びプライバシーを尊重して、その置かれている状況や意向に十分配慮することを求める意見書


日弁連は、2023年12月14日付けで「報道機関に対し、犯罪被害者等の尊厳及びプライバシーを尊重して、その置かれている状況や意向に十分配慮することを求める意見書」を取りまとめ、一般社団法人日本新聞協会会長、一般社団法人日本民間放送連盟会長、一般社団法人日本雑誌協会理事長等に提出した。


報道による二次被害

犯罪被害者やその家族・遺族(以下「犯罪被害者等」)の権利利益保護に対する社会の意識が高まり、犯罪報道が二次被害になり得ることは広く知られている。報道機関も二次被害を防ぐべく、代表取材の実施や、紙面・放送での報道とインターネット上での報道とで内容を変える等の対策を講じるようになってきている。


しかし、世間の耳目を集める事件では、依然として集団過熱取材が発生し、犯罪被害者等の私生活の平穏が脅かされる事態が生じている。また、近年はSNS利用者の増加により、一度でも犯罪被害者等の氏名や顔写真が報道されると、これを情報源として二次的、三次的に情報が発信されることもある。犯罪被害者等のプライバシー侵害の程度が大きくなっていることに加え、犯罪被害者等に心無い言葉が向けられるという問題も生じている。インターネットの普及した現代では、報道機関による二次被害が犯罪被害者等に及ぼす影響は大きい。


本意見書の趣旨

本意見書は、報道の自由と犯罪被害者等の権利の調整を図る観点から、報道機関に対し、報道する事項の公共性・公益性と取材・報道による犯罪被害者等への影響を考慮し、取材・報道に当たり犯罪被害者等の尊厳とプライバシーを尊重し、その置かれている状況や意向に十分配慮すべきことを求めるものである。


報道の自由には知る権利に奉仕するという重要な意義がある。同時に、報道機関が犯罪被害者等の心情等を社会に伝えていくためには、犯罪被害者等の報道機関に対する信頼が必須である。その役割を果たすためにも、報道機関には、あらためて犯罪被害者等の意向に十分配慮することを求めたい。


(犯罪被害者支援委員会 委員 服部知之)



新事務次長紹介

杉村亜紀子事務次長(東京)が退任し、後任には、2月1日付けで井﨑淳二事務次長(東京)が就任した。


井﨑 淳二〈いざき じゅんじ〉(東京・55期)

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日弁連が取り組むべき多分野にわたる課題について、しっかり勉強し、熱意を持って向き合っていく所存です。会員の皆さまの声をくみ上げ、関係各所と折衝し、必要な施策を実施していく過程において、自らの職務を全うし、少しでもお役に立てるよう精進してまいります。


弁護士任官者の紹介

1月19日付けで次の会員が裁判官に任官した。


渡邊 典子氏


61期(元福岡県弁護士会)
思永法律事務所に勤務。
〈初任地 福岡高裁〉





市民集会
再審法改正の実現に向けて~市民とともに~
12月23日 弁護士会館

arrow 再審法改正の実現に向けて~市民とともに~


2023年8月23日、布川事件のえん罪被害者で、再審により無罪判決を獲得した櫻井昌司氏が亡くなった。櫻井氏は、自らの無罪の獲得のみならず、全国のえん罪被害者の支援や再審法改正に向けた活動に精力的に取り組んできた。
櫻井氏の功績を振り返りながら、再審法改正に向けた機運を高めるべく開催した市民集会には、えん罪被害者のほか、多数の参加を得た。


リレーメッセージ

えん罪被害者である菅谷利和氏(足利事件)、青木惠子氏(東住吉事件)、西山美香氏(湖東事件)、石川一雄氏(狭山事件)が登壇し、刑事施設に収容されている間、櫻井氏による面会での激励をはじめとして、周囲からの支援が再審を闘う原動力になったと語った。


えん罪被害者の家族である袴田ひで子氏(袴田事件)と阪原弘次氏(日野町事件)は、櫻井氏との交流を通じて出会った仲間が一刻も早くえん罪被害の苦しみから解放されて笑顔を取り戻せるよう、これからも再審法改正の実現に向けて取り組むとの決意を示した。



再審法改正への願い

櫻井氏の妻の恵子氏は、えん罪を晴らすまでの長い間、櫻井氏が希望や期待を抱くことができず、言葉にできないほどの苦悩を抱えていたことを明らかにした。裁判所に櫻井氏の声が届いたことが救いだったと語り、再審法改正の実現を願っていた櫻井氏の遺志を実現するためにも、力を貸してほしいと訴えた。






パネルディスカッション

谷萩陽一会員(茨城県・布川事件弁護団)、秦融氏(元中日新聞編集委員)、金聖雄氏(映画監督)、山崎俊樹氏(袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会事務局長)が、再審法改正の実現のためにできることについて議論した。

谷萩会員は、マスメディアなどがえん罪事件を取り上げることの影響は大きいとし、多くの人が関心を持つことが支援や法改正につながっていくと呼びかけた。


登壇者らは、メディア関係者と弁護士の連携や、司法制度の在り方を考える教育などの重要性を指摘し、再審法改正の実現に向け、えん罪被害者の支援を継続していくことを誓った。



シンポジウム
生殖医療技術の法整備について考える
12月7日 弁護士会館

arrow_blue_1.gifシンポジウム「生殖医療技術の法整備について考える」


いわゆる「生殖補助医療特例法」の成立から3年が経過した。本シンポジウムでは、同法附則に基づく今後の法整備に向けて、生まれてくる子の権利や生命倫理の観点も踏まえ、生殖医療技術の在り方について議論した。


多様化する生殖医療における法的整備の必要性

医師の吉村泰典名誉教授(慶応義塾大学)は、生殖医療技術の進歩と多様化、実施件数の飛躍的増加に伴い、生命倫理や法的な問題が生じていることを指摘した。生まれてくる子は生殖医療行為の実施に当たって自らの意思を示すことができないと強調し、子の利益を国や社会が代弁し、子の福祉が最優先されるよう、生殖医療に関する法律や制度を整備することが重要だと説いた。


生まれた子の立場から今後の法整備に求めること

「非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ」を立ち上げた石塚幸子氏(一般社団法人ドナーリンク・ジャパン理事)は、2023年11月に報道された特定生殖補助医療に関する法律案の骨子に言及し、精子または卵子提供者を人として感じられるような情報が必ずしも開示されず、情報開示の有無が提供者の意思に委ねられるなど、生まれた子の出自を知る権利を十分に保障するものとは言えないとし、子どもの権利を制限する形でしか続けられない技術であれば実施すべきでないと語った。


生殖医療技術と生命倫理

建石真公子教授(法政大学)は、法整備に当たって、誰のどのような権利をいかなる原則に基づき保護するのかを、十分に議論して明確にすべきであるとした。患者の権利(自己決定権)の側面ばかりが強調されがちであるが、生命への介入となる生命倫理に関しては、自己決定であっても制約が伴い得ると指摘した。


法整備の諸課題

平原興会員(埼玉)は、報道されている法律案の骨子は、子どもが出自を知る権利の保障や親子関係安定のためのプロセスのほか、手続規定の充実の点などで課題を残していると述べ、技術の発展も踏まえた継続的な検討のために公的な審議機関を設置することが必要であると説明した。



家事法制シンポジウム
テクノロジーの進歩と家事事件
12月16日 弁護士会館

arrow_blue_1.gif 家事法制シンポジウム「テクノロジーの進歩と家事事件」


近時、人工知能などの情報技術の社会実装が急速に進む。本シンポジウムでは、家事分野においてどのようなテクノロジーが活用され、今後いかなる技術が発展していくかについて、現状を整理し、実務や弁護士業務に与える影響を議論した。


家事事件におけるリーガルテック

家事法制委員会の白井由里委員(第二東京)はウェブ調停を中心とする家庭裁判所におけるIT化の現状を説明した。遠隔地からも参加しやすいなどのメリットがある一方で、IT化が司法アクセスの困難性に対する安易な代替措置になりかねないとの懸念を示した。さらに、国内外における家事事件のリーガルテックの実例を挙げ、その発展に伴い、新技術に対応できない人が排除される可能性や、安直な意思決定につながりやすいこと等の多くの課題を指摘した。




司法分野でのAIの応用

佐藤健教授(国立情報学研究所)は、契約文書のチェックなど、最近のAI技術の司法分野への応用事例を紹介した。ChatGPTに代表される生成系AIの原理について、これらは与えられたコンテクスト(文脈)で一番出現しやすい言葉をつなぐもので、論理的な推論ではないため、その文章はもっともらしいが間違いも多く、精査しないと正誤が分からないと解説した。その上で、AIによる司法分野へのより高度な支援のためには、生成系AIによる単純情報抽出と、記号的AI処理による単純情報を組み合わせた推論の適切な融合が今後の鍵になると説いた。


Q&Aセッション

登壇した佐藤教授、中村多美子委員(大分県)、増田大亮委員(第二東京)は、AIの登場により弁護士の仕事が奪われることを懸念する声があることに触れ、人工知能の特性はさまざまで、まずはその特性を知ることが必要であるとし、特に生成系AIの現状と限界を知ることが司法分野における適切かつ有用なAI利用につながっていくと述べた。



第78回 市民会議
12月21日 弁護士会館

2023年度第3回の市民会議では、法曹人材の確保と谷間世代問題についての日弁連の取り組みを報告し、議論した。


法曹人材の確保に向けて

宇加治恭子副会長は、弁護士として社会の期待に応える多様な人材を確保するために、弁護士の活動領域を拡大する必要性や、法曹の魅力を発信する日弁連の施策を説明した。さらに、若手の弁護士を支援するための取り組みとして、業務面や経済面でのサポートのほか、即時独立弁護士への各種支援制度等を紹介した。


市民会議委員からは、弁護士業務の多様化や魅力に関するアピールが十分ではないとの指摘があった。また、学生らに対して弁護士の魅力や役割を伝える機会や、学生らが弁護士の業務に触れられる場を増やしていく必要があるとの意見が出された。


谷間世代問題への取り組み

宇加治副会長と小川淳副会長から、いわゆる谷間世代問題の概要、日弁連による給付金の支給や対外的な働き掛けなどの活動について説明し、新たに基金を設立して給付を行うための新スキームを検討している旨報告した。


市民会議委員からは、問題の所在が国民には分かりにくいとの声が上がった。谷間世代の問題が重要であることの理解を広げるために、新スキームによって国民が得られる利益を推計して具体的に示していくべきとの提案もあった。


市民会議委員(2023年12月現在)五十音順・敬称略

 井田香奈子 (朝日新聞論説委員)
伊藤 明子(公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター顧問、元消費者庁長官)
太田 昌克 (共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
北川 正恭 (議長・早稲田大学名誉教授)
吉柳さおり (株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
河野 康子 (副議長・一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金理事長)
清水 秀行 (日本労働組合総連合会事務局長)
浜野  京 (信州大学理事(ダイバーシティ推進担当)、元日本貿易振興機構理事)
林  香里 (東京大学理事・副学長)
湯浅  誠 (社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)



日弁連新聞モニターの声

日弁連新聞では、毎年4月に全弁護士会から合計71名のモニター(任期1年)を推薦いただき、そのご意見をより良い紙面づくりの参考としています


2023年は、袴田事件や日野町事件をはじめ、日弁連が支援する再審事件で裁判所の決定が相次ぎ、再審法改正を求める取り組みに関する会長声明やシンポジウムなどの記事に注目が集まりました。


また、霊感商法等の被害の救済・防止に関する活動報告の記事について、霊感商法等をめぐる法律問題の多さを実感することができたとの評価や、坂本堤弁護士一家メモリアル追悼訪問の記事に対して、「忘れてはいけない事件」「写真が印象的だった」などのご意見をいただきました。このほか、家事法制、区分所有法制、技能実習制度・特定技能制度といった制度の見直しや、裁判手続のIT化に関連する記事にも高い関心が寄せられました。


4面の「JFBA PRESS」では、広報室嘱託による特集記事を掲載しています。犯罪加害者家族への支援を扱ったNPO法人World Open Heartへの取材記事(2023年7月号)には、今まで考えなかった問題について興味深く読んだとの好意的な声をいただきました。若手チャレンジ基金制度の受賞者インタビュー(同年8月号)も、分かりやすく充実した記事であったと好評でした。


今後も会員のニーズにお応えできる、有益な紙面づくりに努めます。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.184

誰も自殺に追い込まれることのない社会へ
NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク

2010年以降連続して減少していた自殺者数は、コロナ禍を境に増加傾向に転じ、特に若年層の増加が顕著になっています。自殺対策に取り組むNPO法人自殺対策支援センターライフリンクを訪問し、副代表の根岸親氏にお話を伺いました。

(広報室嘱託 花井ゆう子)


日本の現状

近年の自殺者数は年間2万人超で推移しています。年間3万人を超えたピーク時と比較すると30%以上の減少となっているものの、2020年には11年ぶりに前年を上回り、小中高生の自殺者数は2022年に過去最多となりました。自殺対策は、今も喫緊の社会的課題です。


個人ではなく、社会の問題として捉える

2004年に設立したライフリンクの活動は、自殺対策の必要性を訴えることから始まりました。設立当初、社会では「自殺は個人の問題」と捉えられる傾向が強く、自殺対策が社会的な取り組みとして行われることはほとんどありませんでした。ライフリンクは「自殺は社会の問題」でもあり、社会的な取り組みとして自殺対策を推進するための基盤をつくる必要があることを訴えてきました。法整備に向けた署名運動を行うなどし、2006年には自殺対策基本法の成立に至りました。


大規模な実態調査を行い自殺の要因を分析した結果、自殺は危機因子が複合的に連鎖して起こっており、一定の共通した危機経路があることが明らかになりました。ライフリンクでは、自殺に至る危機の連鎖や経路を遮断すべく、自治体や専門家らと連携して、支援やそのモデル構築に取り組んでいます。


「死にたい」気持ちを受け止める

2017年には座間市で衝撃的な事件が起こりました。SNSで自殺願望を投稿した若い男女9人が殺害された痛ましい事件です。死にたいという悩みを聞くことができる仕組みが整っていればとの思いから、SNS相談事業にも乗り出しました。


相談では、相談者の「死にたいくらいの気持ち」を正面から受け止めるよう心掛けています。それを否定してしまうと、「やはりここでも話せない」となりかねないからです。その上で、背景要因を探り、支援の要否を一緒に考えながら支えていきます。


自殺という選択の回避はもちろん、必要な支援につなぐためにも、相談の入口に立ってもらうことが重要です。心理的なハードルをできるだけ低くし、あらゆる世代・環境の人の受け皿となれるよう、SNS・電話・メール等を活用して間口を広げています。SNS相談の利用者は、20代以下が6割、30代までを含めると8割を占めます。また、意を決して連絡した相談者のSOSを受け止める機会を逸しないよう、初回の連絡を優先的につないだり、緊急度が高い人からつないだりする独自の相談窓口システムを構築しています。


全国各地から毎月約9千件に上る相談が寄せられています。対応状況をフォローし、必要に応じて相談員に助言を行うスーパーバイザーや適切な支援先へつないでいくコーディネーターを配置するなど、組織的に取り組んでいます。


みんなでつながり、いのちを守る

自殺の背景にあるさまざまな社会的要因を取り除くことは、ライフリンクだけではできません。生きづらさを抱える人を支えていくためには、その人たちが社会資源とつながることも重要になります。


まずは気持ちを受け止め、その先の支援につなぐことがライフリンクの役割です。全国の自治体と協定を結び(2023年12月末時点で26自治体)、行政と連携して対策に当たっています。自殺対策に取り組む民間団体との連携も進め、複数の弁護士会とも協定に向けた協議が始まっています。


貧困や暴力、差別・偏見などに苦しみ、追い詰められてしまった相談者の抱える問題を解決することが、生きることの阻害要因を取り除くことになるということを、一人でも多くの方に知っていただきたいと思います。弁護士の皆さんには、予防的な取り組みとして、人権に対する理解を社会に広める活動や、困ったときにはSOSを出して良いという子どもや若者へのメッセージ発信など、死にたいと思うまで追い詰められることのない社会づくりにも協力していただければと思っています。


ライフリンクという名称には、「いのち(ライフ)を守るために、みんなでつながろう(リンク)」という意思を込めています。重なり合いフォローし合う、自殺のない「生き心地の良い社会」の実現のために力を尽くしていきたいです。



日弁連委員会めぐり127
ダイバーシティ&インクルージョンの推進に関するワーキンググループ

今回の委員会めぐりは、2022年6月に設置されたダイバーシティ&インクルージョンの推進に関するワーキンググループ(以下「WG」)です。松村眞理子座長(第一東京)、芹澤眞澄副座長(東京)、石川剛副座長(第一東京)、杉田明子副座長(栃木県)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 李桂香)


D&Iについて

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は、多様な人々がそれぞれの個性や能力を発揮できるよう、さまざまな属性の違いを認め尊重して生かしていくという考え方です。WGの構成も、男女共同参画推進本部、両性の平等、業務改革、人権擁護、若手弁護士サポートセンター、法曹養成等の各種委員会等から推薦を受けた多様な委員で構成されています。


WGの活動

WGは、委員会等の取り組みをD&Iの観点から集約し、各分野の知見を深めるための勉強会を7回にわたって行ったほか、2023年1月にシンポジウムを開催しました。また、全会員を対象に、D&Iに関するハラスメントや差別的取り扱いに関するアンケート調査を行いました。その集計結果は理事会で報告しました。


無意識のバイアスに気づく

ハラスメントの原因の一つに、無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)があると言われます。自覚することが難しいこのバイアスを適切に理解し、気づくためにWGが開催したワークショップには、2023年度の日弁連執行部からも多数の参加がありました。


D&I推進宣言の策定に向けて

これまでの活動を踏まえ、現在、日弁連におけるD&Iの基本方針に関する宣言の策定作業を進めています。日弁連がD&Iの推進方針を掲げることで、社会に対するメッセージにもなると期待しています。 また、D&Iを推進するためには、理念を掲げるだけでなく一人一人がその理念を自覚し、実践していく必要があります。今後は研修等を通じた啓発にも力を入れていく予定です。



会員へのメッセージ

日弁連が積極的にD&Iを体現していくことで、社会における弁護士の信頼を高めることにつながります。会員一人一人がD&Iを理解し、その実現を推進していただければと思います。



ブックセンターベストセラー (2023年12月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

企業における裁判に負けないための契約条項の実務

 阿部・井窪・片山法律事務所/編著  青林書院 
2

破産・再生マニュアル〈上巻〉  

 岡口基一/著  ぎょうせい

模範六法 2024 令和6年版 

上原敏夫、判例六法編修委員会/編  三省堂
4 有斐閣判例六法 Professional 令和6年版 2024  佐伯仁志、大村敦志、道垣内弘人、荒木尚志/編集代表  有斐閣
5 破産・再生マニュアル〈下巻〉  岡口基一/著  ぎょうせい 
6 裁判官からみた離婚事件における債務名義作成・強制執行・保全の実務  武藤裕一/著  新日本法規出版
7

弁護士法第23条の2照会の手引〔七訂版〕 

第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会/編  第一東京弁護士会
8

家庭裁判所における財産管理・清算の実務 

片岡 武、村主幸子、日野進司、川畑晃一、小圷恵子/著  日本加除出版
9

交通事故事件の実務―裁判官の視点―〔改訂版〕

 大島眞一/著  新日本法規出版
10

慰謝料算定の実務〔第3版〕 

千葉県弁護士会/編  ぎょうせい



日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング(刑事編)  2023年12月~1月

日弁連会員専用サイトからアクセス

順位 講座名 時間
1 少年法2021年改正の概要と実務上の留意点 61分
2 【コンパクトシリーズ】被疑者の不必要な身体拘束からの解放に向けた弁護活動 28分
3 医師から学ぶ精神鑑定ビギナーズ~教えて、安藤先生!~ 37分
4 捜査段階の弁護活動AtoZ(接見のイロハから立会い実践まで) 115分
5 罪に問われた高齢者・障がい者の刑事弁護の新たな潮流を学ぶ~地域生活定着支援センターと弁護人の協働の現状と課題 159分
6 よくわかる最新重要判例解説2021(刑事) 115分
7 刑事弁護のひやりはっと 142分
8 刑事弁護の基礎(捜査弁護編) 136分
9 情状ってなぁに~いろんな角度から事件に光を当てよう 165分
10 供述の自由を守る~立会い弁護実践と弁護人の役割~ 165分


お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9826)