宗教等二世の被害の防止と支援の在り方に関する意見書


icon_pdf.gif意見書全文 (PDFファイル;411KB)


2023年12月14日
日本弁護士連合会

 

本意見書について

日弁連は、2023年12月14日付けで「宗教等二世の被害の防止と支援の在り方に関する意見書」を取りまとめ、同月18日付けで、内閣総理大臣、法務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、総務大臣、消費者庁長官、文化庁長官、内閣府特命担当大臣(こども政策 少子化対策 若者活躍 男女共同参画)、こども家庭庁長官、警察庁長官、衆議院議長、参議院議長及び各政党宛てに提出しました。


本意見書の趣旨

1 国は、宗教等二世問題が子どもの人格形成に大きな影響を与え、成長発達を著しく阻害し、成人後も長期にわたって二世の人生に困難を強いる重大な権利侵害であることを認識し、以下のような施策を行うべきである。

  (1) 保護者の信仰等を理由とする子どもへの虐待行為ないしは子の福祉を著しく害する行為に対して、令和4年12月27日付け厚生労働省子ども家庭局長通知「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」などの周知を通して、児童相談所等が適切に対応するように徹底するとともに、子どもの意思を尊重した対応を行うために、子どもの意見表明を支援すること。

  (2) 学校等において宗教等二世問題に適切に対応ができるようにするために、教育委員会及び学校の取組の指針となる宗教等二世問題への対応マニュアルを策定するとともに、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、スクールロイヤーなどの配置を充実させ、教育現場で宗教等に悩む子どもを把握し、その支援を行えるようにすること。加えて学費等の支援制度を整備しつつ、教育の無償化を拡大することによって、保護者の宗教行為によって子どもの学習権が経済的理由で制限されないようにすること。

  (3) 現行の法律では、子どもの権利侵害の救済に当たり十分な対応ができない点について、以下の法改正を検討すること。

   ① 宗教法人に対し、宗教活動において子の信仰の自由その他の子どもの権利を擁護し、子の成長発達に配慮することを義務付けること。具体的には、宗教法人法に、宗教法人の義務として、子の信仰の自由及び成長発達に配慮することを規定すること。

   ② 児童の福祉に影響を及ぼす立場にある者、団体について児童の権利擁護の努力義務を規定するとともに、重大な権利侵害行為について罰則を設けること。具体的には、

    ア 児童虐待の防止等に関する法律(以下「児童虐待防止法」という。)第3条に2項を設けて、「学校の教職員、児童福祉施設の職員、児童が所属する団体及び保護者が所属する宗教団体の構成員等、児童の福祉に影響を及ぼす立場にある者は、特に児童の権利擁護に努めなければならない。」旨を規定すること。

    イ 児童福祉法第34条に、宗教活動や教義等に基づいてなされる子どもの福祉を侵害する行為を具体的に列挙して禁止するとともに、重大な権利侵害行為に対する罰則を設けること。

   ③ 児童虐待防止法第2条の児童虐待の定義に経済的虐待を加えること。

   ④ 未成年者が法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律第10条第1項各号に掲げられた権利を行使しようとする際に、弁護士費用の支援制度(償還義務を伴わない給付型の制度)を設けるとともに、未成年者と扶養義務者との間に具体的扶養義務を定める合意がなされているが、扶養義務者からの支払がない場合には、国又は地方自治体が扶養義務者に代わって扶養義務を履行した上で、扶養義務者に求償する制度を設けるといった、未成年者がより使いやすい扶養料請求の実現方法を検討すること。

  (4) 宗教等二世の子どもの中には、幼少期からの保護者の信仰ないし宗教的思想による影響により、他人に相談することに困難を抱える者が多いことに特に配慮して、宗教等二世の子どもが安心して相談できる相談体制を構築すること。

  (5) 宗教等二世の子どもが、子ども時代のみならず成人後も長期にわたり心理面、生活面等で困難を抱え続けることに配慮して、教育、福祉、医療等の多機関が連携した伴走型の支援体制を構築すること。

  (6) 宗教等二世の実情を正確に把握するために、当事者や当事者団体、その他宗教等二世を支援する団体・個人等からの聴き取りなどの実態調査や、過去の宗教等二世への権利侵害の事例を検証するとともに、被害の救済及び予防のため、保護者、子ども、社会全体のそれぞれに向けた啓発を行うこと。

  (7) 宗教等二世の支援において民間団体が重要な役割を果たすことを認識し、民間団体に対して適切な情報提供や経済的支援等の援助を行うこと。


2 地方自治体は、国が行う立法、通達・通知等及び各地方自治体の独自施策に基づいて、支援が必要な宗教等二世の把握に務め、民間団体とも連携しながら、教育、福祉、医療等の各施策を通して、宗教等二世への相談、支援を確実に行うこと。その際、多くの宗教等が各地域に存在するところ、問題の現れ方も地域によって様々であることに留意して、困難を抱える全ての宗教等二世に支援が届くように努めること。


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