日弁連新聞 第584号

第64回 人権擁護大会開催
9月29日・30日 旭川市

arrow_blue_1.gif 【9月29日・30日】第64回人権擁護大会・シンポジウム


9月29日・30日、旭川市において、第64回人権擁護大会を開催した。29日に開催した2つのシンポジウムと30日の大会は、ウェブでも配信され、会場と合わせて多数の参加を得た。大会では4つの決議を採択した。


次回大会は、長野市で開催される。


高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を見直し、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会の実現を求める決議

原子力に依存せず、気候危機を回避して、持続可能な社会を実現するためには、エネルギー問題に対する日本全体での取り組みが必要である。そこで、国および地方自治体等に対し、①将来世代の利益・決定権を不当に侵害しないように配慮した政策決定、②高レベル放射性廃棄物の処分に関する方策、③地方自治体が原発関連の交付金に依存することなく、地域資源を最大限に活用して持続可能な地域社会を実現するための政策などを提言した。日弁連は、本決議の実現のために全力を挙げて取り組むとした。



デジタル社会において人間の自律性と民主主義を守るため、自己情報コントロール権を確保したデジタル社会の制度設計を求める決議

デジタル社会の制度設計には、あらかじめプライバシー保護措置を組み込んでおくことが必要であるとして、国に対し、プライバシー権・自己情報コントロール権を確保するための法制度などを提言した。


旧優生保護法下において実施された優生手術等に関する全面的な被害回復の措置を求める決議

旧優生保護法の被害者に対する全面的な被害回復のためには、十分な補償等の措置と併せて、優生思想に基づく差別をなくし、侵害された尊厳を回復することが必要であるとし、国に対し、一時金支給法の抜本的見直しと、優生思想に基づく差別をなくすための諸施策の実施を求めた。日弁連は、全面的な被害回復の実現に全力を尽くすとした。


アイヌ民族の権利の保障を求める決議

2007年に採択された先住民族の権利に関する国際連合宣言などに基づき、国および北海道に対し、アイヌ民族の伝統を尊重し、アイヌ語教育を受ける権利などの文化的・精神的権利を保障するための諸施策の推進と国内法の整備を求めた。日弁連は、人権擁護を使命とする法律家団体として、アイヌ民族の権利の保障に力を尽くすとした。


特別報告〜再審法改正

本年6月に新たに設置した再審法改正実現本部の取り組みなどについて報告を行った。日弁連は、同法の改正に向けて全力で取り組むとした。



第2分科会 デジタル社会の光と陰
〜便利さに隠されたプライバシー・民主主義の危機〜

デジタル社会は人々の生活に大きな利便性をもたらしている。しかし、その裏では膨大な情報が蓄積され、利活用されており、プライバシー侵害や情報流通の問題が生じている。本シンポジウムでは、自律的なデジタル社会の実現を目指し、法制度の在り方や日本における課題等を議論した。


プライバシー保護に向けた法整備の必要性

齋藤裕会員(新潟県)らは、企業がデジタルプラットフォーム(以下「DPF」)に蓄積されたデータを用いて人々の消費行動に影響を及ぼし、政府も個人情報データの利活用を促進しようとしている日本の現状に、市民の自己決定や自己実現が妨げられる恐れがあると警鐘を鳴らした。そして、プライバシー権・自己情報コントロール権を確保するための法制度を構築すべきと提唱した。


デジタル社会における海外の政策

国際ジャーナリストの堤未果氏は、巨大化した民間のDPFに対する規制に難航している米国の現状を紹介した。これに対して、情報管理の権力を政府に集中させず、プライバシー権とのバランスを取りながらデジタル化を進める台湾などの政策も報告した。民主主義を実現するには、国境を越えて憲法の精神を問い続けることが重要であると説き、弁護士や弁護士会の取り組みに期待を寄せた。


パネルディスカッション

山本龍彦教授(慶應義塾大学大学院)、若江雅子氏(読売新聞編集委員)、宮下紘教授(中央大学)、山田太郎参議院議員(前デジタル大臣政務官)が登壇し、DPFに対する世界の取り組みや日本のデジタル化の在り方をテーマに議論を交わした。


若江氏は、日本では海外と比較すると国民の多くが無自覚のまま個人情報を収集されていることを問題視し、国際水準並みの法整備を急ぐべきと強調した。


山田議員は、政府の中でも自己情報コントロール権の整備が必要だという意見があることを紹介し、国民が自らの意思で個人情報データを預けている状態が理想であるとの考えを示した。コーディネーターを務めた武藤糾明会員(福岡県)は、日弁連と政府が共通の問題意識を有している部分があると分かったのは有意義だったと語り、今後も議論や提言を続けていきたいと締めくくった。



第1分科会 高レベル放射性廃棄物問題から考える脱原発〜原発に頼らない、地域社会と日本のエネルギー自立〜

放射性廃棄物の処分方法は確立されておらず、将来世代にも過大な負担を強いる問題である。本シンポジウムでは、日本のエネルギー問題と持続可能な地域社会を実現するための方策について議論した。


脱原発、脱炭素に向けての課題


大野輝之氏(公益財団法人自然エネルギー財団常務理事)は、ロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機を受け、2035年までに国内電力の100%を自然エネルギーで供給する方針を示したドイツの動きなど、自然エネルギーへの転換が加速している欧州の現状を紹介した。日本も技術開発によるコスト低下や事業拡大によって、国内電力の100%を再生可能エネルギーで供給することが十分可能であると説いた。



高レベル放射性廃棄物処分の在り方

小野有五名誉教授(北海道大学)と伴英幸氏(特定非営利活動法人原子力資料情報室共同代表)は、処分場に埋設される放射性廃棄物の中には十数年で漏れ出す可能性があるものも含まれるなど、安全な処分方法が確立されていない現段階では、地層処分ではなく、管理が可能な環境での暫定保管とすべきだと強調した。


寺本剛教授(中央大学)と寿楽浩太教授(東京電機大学)は、高レベル放射性廃棄物の処分について、現時点では安全性が確保できない以上、子や孫を含む将来世代が自身で処分方針を決定する余地を残すためにも、監視・回収可能な地上保管とするのが得策であると説いた。


持続可能な地域社会に向けて

山本契太氏(ニセコ町副町長)らが登壇し、持続可能な地域づくりの実践例を紹介した。推名徹氏(興部町副町長)は、バイオガスプラントを建設・稼働させたことによって、酪農業の課題であった家畜ふん尿の悪臭問題が解消しただけでなく、酪農家に安価に供給できる敷料(家畜の寝床)の製造やバイオガスによる売電事業など、町の産業発展に貢献していると報告した。


パネルディスカッションでは、上園昌武教授(北海学園大学)がオーストリアの気候エネルギーモデル地域(KEM)を紹介し、事業コンセプトを作成しコーディネートするKEMマネージャーの存在に触れ、地域社会の構築において弁護士が果たす役割の新たな可能性を示した。


特別企画映画上映「すばらしき世界」

特別企画として、元殺人犯の出所後の日々を描いた映画「すばらしき世界」(役所広司さん主演)を上映し、多くの参加を得た。


上映後、主人公のモデルとなった人物とゆかりがあった八重樫和裕会員(旭川)が登壇した。同会員は、主人公が旭川刑務所で服役中、刑務官に暴行した事件の国選弁護を担当した。事件の控訴審では、裁判長が旭川刑務所に「被収容者身分帳簿」(身分帳)の提出を命じ、減刑する旨の判断をしたという。


八重樫会員は、主人公との思い出やその死後に「偲ぶ会」が開かれたこと、旭川で行われた映画の撮影を偶然見掛けたことなどを語り、会場は拍手で包まれた。


損害賠償制度の改革を提言
慰謝料額算定の適正化・違法収益移転制度

arrow_blue_1.gif 慰謝料額算定の適正化を求める立法提言

arrow_blue_1.gif 違法収益移転制度の創設を求める立法提言


日弁連は9月16日、「慰謝料額算定の適正化を求める立法提言」および「違法収益移転制度の創設を求める立法提言」を取りまとめ、法務大臣等に提出した。


経緯・背景

我が国の損害賠償制度は、被害者が受けた損害に比べ裁判所の認定額が低額にとどまり、適正な被害の回復が実現されておらず、違法行為の抑止機能も十分に果たせていないと指摘されている。


このため、日弁連は、2011年5月の定期総会で、「民事司法改革と司法基盤整備の推進に関する決議」を採択し、事案に応じて現在よりも高額な賠償が可能となるような「填補賠償を超えた損害賠償制度、違法行為抑止や違法利益はく奪を目的とする損害賠償制度」の創設を提言した。その後も、損害賠償制度改革を民事司法改革の重要課題と位置付け、検討を続けてきた。


提言の内容

今回、2つの意見書で提言した制度の内容は、次のとおりである。


①慰謝料額算定の適正化


慰謝料額算定に当たって考慮すべき事由を法文上に例示的に列挙し、裁判所の裁量により適正な慰謝料額を算定し得るような措置を講じること。具体的には「裁判所は、侵害行為の態様、故意又は重大な過失の有無、侵害された権利又は法律上保護される利益の性質、当事者の関係その他一切の事情を考慮する」との条項を民法第710条2項として新設すること。


②違法収益移転制度の創設


被害救済の充実・違法行為の抑止を目的として、裁判所が違法行為で得た加害者の収益を考慮し、その全額または一部を含めて損害賠償額を定めることができる制度(違法収益移転制度)を立法化すること。


加えて、被害者の立証負担の軽減を図るため、原告が権利侵害を証明して予想される収益額を主張・疎明すれば、収益の存在および金額が推定され、裁判所は裁量により損害賠償額を定められるものとすること。


今後の方針

損害賠償制度の改革が、民事司法分野の重要な課題として意識されてから長い年月が経過しているが、近時、政府の「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる「骨太の方針」)や民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議などにおいて課題として取り上げられたことにより、実現に向けた機運が高まっている。このような時機を失することなく、損害賠償制度改革の実現を関係各所に働きかけるとともに、シンポジウムの開催などにより、提言の意義について理解を広める活動を実施していきたい。


(民事司法改革総合推進本部福本部長 小野寺友宏)


国際分野で活躍するための法律家キャリアセミナー
9月17日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif 国際分野で活躍するための法律家キャリアセミナー


13回目となった本セミナーでは、国際機関や政府機関での業務や国内における国際業務の理解を深めるため、各分野で活躍する実務家を講師に迎えてオンラインで開催した。弁護士、司法修習生、法科大学院生など約100名が参加した。(法務省・外務省共催)


国際機関での業務

世界銀行の小川亜希子氏(法務担当副総裁部局法務開発金融プラクティス・グループ上級カウンセル)は、仕事の内容や法律家が法務担当として活躍している様子、採用の実情などを分かりやすく説明した。


国内でできる国際業務

スポーツ法務・スポーツ仲裁に携わる杉山翔一会員(第二東京)と在日外国人の支援に携わる冨田さとこ会員(第二東京)が、国際業務を取り扱うに至ったきっかけや、若手弁護士の参考となるような業務上の工夫などを紹介した。


政府機関における国際法の実務

弁護士からの任期付公務員を含む法務省・外務省の登壇者が、国際的な紛争において政府を代理することや、条約の締結、紛争予防に関わる業務など、政府機関ならではのダイナミックな業務を紹介した。


国際司法支援

国際協力機構(JICA)の長期専門家としてネパールに派遣されている磯井美葉会員(第二東京)は、日本の国際司法支援の枠組みや現地での活動、若手弁護士がどのように関わることができるかなどについて解説した。


国際機関における国際法の実務

齋藤デビッド宥雅氏(国際刑事裁判所第一審裁判部付法務官補)が、国際刑事裁判所のあるオランダからオンラインで登壇し、国際刑事裁判所での具体的な業務や必要とされる知識、採用の仕組みなどを説明した。


クロージングセッション〜国際舞台での活躍を目指す

出井直樹会員(第二東京)は、企業法務や民事事件などの弁護士業務のほか、弁護士会の会務、仲裁人などのさまざまな国際業務における経験を踏まえ、国際舞台で活躍するために求められる知識や経験を総括し、参加者にエールを送った。


最後の質疑応答では、時間内に回答しきれないほど多くの質問が寄せられた。


(国際室嘱託 尾家康介)


第18回 日本司法支援センター
スタッフ弁護士全国経験交流会
9月9日 弁護士会館

全国各地に赴任している日本司法支援センター(法テラス)のスタッフ弁護士は、地域の法的ニーズに対応するさまざまな活動を行っている。

18回目となる今回の経験交流会は、オンラインも併用し、約180人のスタッフ弁護士の他、司法修習生や学生らが参加した。


多様な連携

川澄馨子会員(法テラス埼玉)らは、コミュニティカフェを運営するNPOと連携し、カフェでの法律相談会を通じて、地域住民の法的ニーズを掘り起こす取り組みを報告した。また、井出達矢会員(法テラス安芸)は、生きづらさを抱えた方が農業分野で活躍することを通じて社会参画を実現する農福連携に参加し、法・農・福連携に発展させる取り組みを報告した。


業務における工夫

植田高史会員(法テラス秩父)は、産業カウンセラーとしての傾聴スキルを活用した法律相談例を紹介した。また、河智了顕会員(法テラス青森)は、スタッフ弁護士間でヒヤリハット経験を共有することでミスを防止できると述べた。


地域のニーズに応える活動

司法過疎地域に赴任中の可児望会員(法テラス下田)は、赴任した地域における法的ニーズを分析し、求められる役割を検討することが重要であると語った。


田中秀基会員(法テラス熊本)は、2020年7月の豪雨災害に際し、弁護士会に被災者法律相談援助を活用した相談会の開催を提案したことや、災害支援情報を集約し、その情報を相談者と共有する際に工夫した点などを報告した。


大野鉄平会員(法テラス愛知)は、死刑確定者に対するカメラ室収容についての問題点を解説し、受刑者の司法アクセスに関する活動に言及した。


PTの活動

刑務所出所者の再犯防止に向けた支援、成年後見の知見の共有、プレゼンテーション技術の向上、各地のスタッフ弁護士の経験を蓄積し共有する活動など、スタッフ弁護士をサポートする各種プロジェクトチームの活動が紹介された。


(日本司法支援センター 対応室嘱託 石田 愛)


霊感商法等の被害に関する無料法律相談を実施中

arrow_blue_1.gif 日弁連 霊感商法等の被害に関する無料法律相談の受付


日弁連は本年9月5日から、霊感商法による被害や宗教に関する法的問題に関する無料法律相談を実施している。10月31日時点で、全国から676件の相談を受け付けた。電話(フリーダイヤル)とウェブサイトで相談を受け付け、協力可能な弁護士会に受付情報を提供し、担当弁護士から相談者に折り返し連絡をする方法により、無料の法律相談に応じている。


また、弁護士会が法律相談センター等において、当該問題に関する法律相談を無料で実施した場合も、日弁連から財政的支援を行っている。


日弁連は10月17日、消費者庁「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」の報告書を受けて、「霊感商法等の被害の救済及び防止に向けての会長談話」を公表し、問題の抜本的かつ実効的な解決を目指す決意を改めて表明した。あわせて、被害実態の調査・分析や必要な政策・立法提言等の検討を行うワーキンググループの設置が決まった。


霊感商法等の相談対応については、会員向け研修を日弁連総合研修サイト(eラーニング)に掲載している。


取調べの可視化フォーラム 可視化道半ば全件全取調べの録画を
9月5日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif取調べの可視化フォーラム―可視化道半ば 全件全取調べの録画を


取調べの録音・録画の対象事件は全体の約3%にとどまり、今なお、多くの事件では密室で取調べがなされている。改正刑訴法の見直しが行われる今、全件全過程の取調べの可視化を実現するため、問題点や課題を議論した。


講演~えん罪被害者の体験

えん罪被害者であり、えん罪撲滅ライブ等を行っている土井佑輔(SUN-DYU)氏と同氏の元弁護人である辰巳創史会員(大阪)が登壇し、取調官に耳をつんざくほどの大声で罵声を浴びせられたなどと、取調べの実態を語った。


土井氏は、弁護人から説明を受けた黙秘権が精神的なよりどころとなったと話した。また、勾留中は外部との情報が遮断され、精神状態が異常であったと振り返り、可視化のみならず、取調べにおける弁護人の立会いの必要性にも言及した。


パネルディスカッション

元厚労省局長事件えん罪被害者であり、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「法制審特別部会」)の有識者委員を務めた村木厚子氏らが登壇し、パネルディスカッションを行った。


村木氏は、参考人調書が不正に作成された経験を語り、供述調書の作成が適正に行われたという証明は、取調べの全過程を客観的に記録することでしかできない、と全面的可視化の必要性を説いた。土井氏は、軽犯罪でもえん罪の可能性はあり、事件の類型によることなく、全ての事件において可視化を実現すべきであると強調した。


嶋田葉月会員(第二東京)は、録音・録画が実施されず、違法・不当な取調べが行われた可能性の高い事例を複数紹介した。在宅捜査や任意同行での事例もあり、在宅事件も含めた全ての事件における取調べの全過程の録音・録画を義務付ける必要があると論じた。


また、法制審特別部会において有識者委員を務めた村木氏、神津里季生氏、周防正行氏、安岡崇志氏、松木和道氏の5人が会場参加し、1日でも早く、全件全過程の取調べの可視化が実現されるよう強く求めた。映画監督の周防氏は、供述弱者の自白によって有罪となり、再審請求が続いている大崎事件にも触れ、法務省において改正刑訴法の3年後見直しが始まった今こそ、この間に蓄積された事例やデータなどに基づき、議論を深める必要があると訴えた。


当番弁護士30年 ~これからの改革課題と展望
9月6日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif当番弁護士30年 ~これからの改革課題と展望~


1990年9月に大分県弁護士会、同年12月に福岡県弁護士会で始まった当番弁護士制度は、その後、急速に全国へと広がり、本年、発足から30年を迎えた。本シンポジウムでは、同制度の歩みを振り返り、今後の課題や展望などを議論した。


発足と発展

国選弁護本部の山口健一副本部長(大阪)は、当番弁護士制度が被疑者国選弁護制度の創設の大きな後押しになったと強調した。また、当番弁護士制度の普及は、日弁連・弁護士会・弁護士の努力だけでなく、市民団体による全国的な活動や、多くの裁判所が被疑者に同制度の告知を行うなど、さまざまな関係者の協力があってこその成果だと語った。


当番弁護士制度の創設時に最高裁判所事務総局刑事局第二課長を務めていた村瀬均会員(神奈川県)は、弁護士・弁護士会の熱意が強く印象に残っているとし、それが被疑者弁護に与えた影響は大きいと評した。


制度の意義

大出良知会員(九州大学・東京経済大学名誉教授、東京)は、当番弁護士制度の普及は、弁護士が、えん罪や起訴後の極めて高い有罪率に対する怒りを自省へと転化し、刑事弁護における弁護士・弁護士会の責任と自覚したことによるところが大きいと指摘した。その上で、憲法34条は、抑留または拘禁の前に弁護人に依頼する権利を保障するだけでなく、その権利を行使する機会をも与えなければならないと解することができると述べ、逮捕段階からの公的弁護制度の必要性に言及した。


今後の課題と展望

パネルディスカッションでは、逮捕段階の公的弁護制度の実現につなげるには、当番弁護士制度を拡充する必要があるとし、24時間以内の接見(遠距離接見)、継続的な弁護活動(受任率)、逮捕段階における当番弁護士の要請率などの課題について議論した。


登壇者からは、被疑者にとって逮捕直後に弁護士からの助言を得られる機会は非常に重要であるとし、オンラインを活用した遠距離接見などにより、最低限の助言だけでも行えるようにすることが必要との意見が出された。また、逮捕段階での当番弁護士の要請率が、全国平均28・6%(2019年現在)にとどまることから、初回接見が無料であることなど、制度に関する広報に力を入れる重要性が確認された。


水産知財イベント
水産業の現状と水産政策の方向性
水産資源等についての知財保護の最新動向
9月26日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif水産知財イベント「水産業の現状と水産政策の方向性並びに優良系統等の水産資源等についての知財保護の最新動向」


水産養殖は、水産業において進展が期待される分野として注目されている。本イベントでは、水産養殖を中心に、水産業が置かれている状況や関連する技術開発の動向、水産資源における特許などについての知見を共有した。


水産庁講演

中村真弥氏(水産庁増殖推進部栽培養殖課課長補佐)は、養殖水産物の動向と養殖業の成長産業化に向けた水産政策などについて解説した。


中村氏は、国内の漁業生産量は減少傾向にあるものの、世界では増加しており、養殖が占める割合も50%を超えて拡大を続けていると指摘した。このように世界規模で養殖業への期待が高まっている動向を踏まえ、水産庁は養殖業の成長産業化を推進すべく、マーケット・イン型養殖の推進、技術開発による生産性の向上や経営の効率化、輸出拡大などに向けて取り組んでいると説明した。


また、養殖業において、より価値の高い品種を作り出す育種は、今後の主軸となることが期待されるが、ノウハウ等の管理や流出防止策などの議論は十分に行われてこなかったと語った。このため、水産庁は「水産分野における優良系統の保護等に関する検討会」を設置し、具体的な検討を開始したと報告した。


特許庁講演

川野汐音氏(特許庁審査第一部自然資源審査官)は、養殖関連の技術における特許出願の動向、動植物の保護に関する審査基準などについて解説した。


特許請求の範囲の末尾が「魚介類」である特許出願は、従来の「魚介類」と差異がないとして拒絶される傾向が強いものの、「飼料」や「養殖方法」などの請求項で特許を取得できる可能性があり、これにより技術保護を図ることは可能であると指摘した。あわせて、近時の事例として「近大マグロ」や「みかんフィッシュ」などを紹介した。


総括

日弁連知的財産センターの矢部耕三委員長(第一東京)は、養殖業の発展と保護のためには、技術のオープン・クローズのバランスを考える必要があると指摘し、知的財産を利用する者だけでなく、業界全体として知的財産を尊重する「知財マインド」の向上を目指し、多角的な支援を行っていきたいと述べた。



労働法制シンポジウム
シフト制労働のあるべき姿
労働時間を一方的に指定したり、減らすことは何が問題なのか
10月5日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシフト制労働のあるべき姿 –労働時間を一方的に指定したり、減らすことは何が問題なのか–


いわゆる「シフト制労働」は、労使双方にとって、希望する勤務日・時間を所定労働日等に反映できるメリットがあるとされる反面、雇用契約上、就労日や就労時間帯が明記されないなど、透明性や予見性を欠くという問題も指摘されている。また、コロナ禍での休業時補償は社会問題にもなっている。

本シンポジウムでは、労使双方の立場から実務的な課題などを検討した。


基調講演

独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郎氏は、厚生労働省が本年1月に「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」を公表したが、関係法令の確認にとどまっていると指摘した。


その上で、一つの立法例として、2019年7月にEUで成立した「EUにおける透明で予見可能な労働条件に関する指令」を紹介した。同指令では、労働パターンが予見できない場合に、使用者は最低保証賃金が支払われる労働時間数などを通知することや、労働日程が予見できない場合は、事前に決められた期間等の範囲でなければ労働者が作業を拒否できるといった定めが置かれている。



パネルディスカッション

学生アルバイトの設例をもとに、労働日・時間の決定・変更や位置付け、経営上の事情や労働者の能力不足等を理由とした労働時間の削減などを議論した。


原田仁希氏(首都圏青年ユニオン執行委員長)は、コロナ禍でシフト制労働者が雇用の調整弁になってしまっているとして、法規制の必要性を強調した。主に労働者側に携わる新村響子会員(東京)も、シフト制労働は予測可能性の確保が難しく、一定のルール作りが重要であると述べた。


柴山裕司氏(イオン株式会社人事部)は、現場では労使合意を基本とし、毎月、翌月分の月間労働時間等を合意していると、運用の実態を紹介した。主に使用者側に携わる佐藤有美会員(愛知県)は、使用者も労働者の意向を無視しては離職や紛争を招きかねず、適切な運用のための工夫を常に検討する必要があると語った。


今後も、シフト制労働のあるべき姿について、活発な議論がなされることが期待される。


JFBA PRESS-ジャフバプレス- Vol.174

事業再生スキルの向上・人材ネットワークの構築と、事業再生ADRの適切な運用を目指して
一般社団法人 事業再生実務家協会

一般社団法人事業再生実務家協会(以下「協会」)は、事業再生の実務を担う人材の育成および交流を図るとともに、事業再生ADRの実施事業者となっています。専務理事の小林信明会員(東京)と常議員の森直樹会員(第一東京)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 枝廣恭子)


設立の趣旨・目的

協会が設立されたのは、不良債権の処理が社会的に喫緊の課題となっていた2003年のことです。事業再生研究機構や全国倒産処理弁護士ネットワークも同時期に設立されるなど、倒産処理や事業再生のニーズが高まっていました。


協会は、事業再生に携わる幅広い分野の実務家が所属する団体として、当初は人材育成に重点を置いていましたが、現在は事業再生に関するノウハウの向上や実務家の交流が活動の中心となっています。


組織・活動の概要


協会には弁護士のほか、公認会計士、税理士、コンサルタントなど、約450人(約半数は弁護士)が在籍しています。


主な活動として、協会の会員を対象に交流会や勉強会を定期的に実施し、実務に即したノウハウや法改正など最新の情報を共有してています。また、事業再生の理解を広く深めるためのシンポジウムも開催しています。あわせて、事業再生に関する制度の運用や改善について、関係機関との意見交換なども行っています。


「事業再生ADR」の実施事業者として
   事業再生ADRとは

事業再生ADRは、過剰債務に陥った事業者が、企業価値を毀損しないよう、商取引を継続しながら金融機関との話し合いにより解決を図る制度です。債権放棄による損失の無償償却が認められるメリットもあります。


2001年に「私的整理に関するガイドライン」が策定され、手続の透明性が高まったことに加え、対象債権者に債権回収や担保権の実行を控えるよう求める「一時停止の通知」が盛り込まれ、私的整理の利用が促進されました。そして、2007年に準則型の私的整理手続として「事業再生ADR」が創設され、公正・中立な立場の手続実施者が関与する、法的に制度化された私的再建手続が整備されたのです。


協会は、2008年11月に法務省の認証および経済産業省の認定を受け、事業再生ADRの唯一の手続実施事業者として制度を支えています。


手続の概要

事業再生ADRの申請件数のうち約半数がグループ会社を含めた申請です。グループ全体で私的整理を行えるため、グループ全体で与信管理を行っている金融機関にとって受け入れやすく、事業再生ADRを選択するのに適した類型の一つといえます。他方で、債権構成や経営陣の姿勢などから、金融債権者の同意を得ることが困難と予想される場合など、事業再生ADRによる解決に適さない案件もあります。


適切な手続選択を行っていただくため、協会では審査員による審査のほか申請前の事前相談も受け付けています。


手続利用の正式申込を受理すると、3名の手続実施者(ほぼ全件に弁護士が含まれる)を選任し、事業再生計画案の作成に関する助言や債権者間の調整を行うとともに、計画案について調査報告書を作成します。


手続実施者の育成

手続実施者の公平性や手続遂行の手腕に対する金融機関の高い信頼が、円滑な手続進行とADRの成立につながります。十分なスキルを有する手続実施者を継続的に確保し、社会的インフラとしての事業再生ADRを適切に運用することは、協会の社会的な責務です。


協会では、若手の協会会員が、手続実施者の補助者(補佐人)や申請前の事前相談の担当者(事前相談員)としてADR手続に関与できる制度を設け、人材の育成を行っています。


最近の主な活動

2022年3月、中小企業者の事業再生等を円滑に実施するべく、新たな準則型私的整理手続を定めた「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が策定されました。同ガイドラインにおける第三者支援専門家の要件として、事業再生ADRの手続実施者の経験等が定められたことから、協会は第三者支援専門家候補者リストを作成し公表するなど、中小企業者の事業再生を推進する活動の一翼も担っています。


会員へのメッセージ

私的整理手続は、社会の要請に応じて公正かつ柔軟・迅速に手続が進行できるよう制度改善を重ねてきた結果、事業再生手続における一次的な選択肢と位置付けられるようになり、その役割は一層重要になっています。今後も、協会として情報をキャッチアップしながら、社会情勢の変化に対応していきたいと考えています。


会員の皆様におかれては、私的整理手続に関心を寄せていただき、事業再生ADRの積極的な活用をご検討ください。


日弁連委員会めぐり118 業際・非弁・非弁提携問題等対策本部

arrow_blue_1.gif隣接士業・非弁活動・非弁提携対策(業際・非弁・非弁提携問題等対策本部)


今回の委員会めぐりは業際・非弁・非弁提携問題等対策本部(以下「本部」)です。山中尚邦本部長代行(東京)、柴垣明彦事務局長(東京)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 長瀬恵利子)


弁護士による法的サービスの確実な提供を目指して

隣接士業との業務範囲の問題や非弁・非弁提携問題は、新しい分野や弁護士による法的サービスが十分ではない分野で多く発生する傾向があります。そのため、これらの問題に適切に対処し、弁護士業務の在り方を検討することは、市民に弁護士による法的サービスを確実に提供することにつながり、市民の権利・利益の保護にも資するものです。


本部では、隣接士業の士業法改正に対する意見書の取りまとめ、問題事例の分析・情報共有、会員向けマニュアルの作成などを通じて、非弁等の問題に取り組んでいます。会員向けのマニュアルや判例集は会員専用サイトに掲載されていますので、ぜひご覧ください。


弁護士会との情報共有

非弁行為が疑われる事案に関する調査や警告、告発等は各弁護士会が対応します。これまで、一部の弁護士会において個別事案の調査等を実施し、弁護士会として告発等の具体的な対応を行った事例が報告されていますが、近年は全国各地で非弁行為が疑われる事案が報告されています。そのため、各弁護士会での対応が必要になっています。


そこで、2015年からブロック別意見交換会や全国担当者協議会を開催し、各弁護士会における対応事例を共有するとともに、実務的な課題を議論しています。また、本部からも最新情報を提供しており、弁護士会の担当者等が新たな形態の非弁行為を知る場としても活用されています。


非弁提携行為が疑われる会員に対しても、弁護士会が速やかに対応しなければなりません。2022年4月には前年度の第1回に続き、弁護士会の理事者等を対象とした第2回非弁提携弁護士問題情報交換会を開催し、活発な議論がなされました。来年度以降も定期的に開催する予定です。


積極的な情報提供と相談を

非弁行為の形態は複雑化してきており、水面下で拡大していることがあります。疑わしい事例に接した場合は、ためらわず、弁護士会に情報を提供してください。


また、非弁行為の疑いがある相手方に対して何らかの法的措置を講ずる場合は、本部や弁護士会が支援できる可能性があります。ぜひ一度ご相談ください。


ブックセンターベストセラー(2022年9月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名 出版社名
1

民事執行の実務〔第5版〕債権執行・財産調査編(下)

中村さとみ、剱持淳子/編著 きんざい
2

民事執行の実務〔第5版〕債権執行・財産調査編(上)

中村さとみ、剱持淳子/編著 きんざい
3

新注釈民法(16)

大塚 直/編 大村敦志、道垣内弘人、山本敬三/編集代表 有斐閣
4 詳解 相続法〔第2版〕 潮見佳男/著 弘文堂
5

我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権〔第8版〕

我妻 榮、有泉 亨、清水 誠、田山輝明/編 日本評論社

マンション判例百選

山野目章夫、佐久間毅、熊谷則一/編 有斐閣
7

判例にみる離婚慰謝料の相場と請求の実務

中里和伸/著 学陽書房
8

民事執行の実務〔第5版〕不動産執行編(上)

中村さとみ、剱持淳子/編著 きんざい

民事執行の実務〔第5版〕不動産執行編(下)

中村さとみ、剱持淳子/編著 きんざい
10 法律事務職員研修「基礎講座」テキスト 2022年度 東京弁護士会弁護士業務改革委員会/編 東京弁護士会
家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務〔第4版〕 片岡 武、管野眞一/編著 日本加除出版
カスハラ対策実務マニュアル 香川希理/編著 島岡真弓、松田 優、上田陽太/著 日本加除出版



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eラーニング人気講座ランキング(連続講座編)2022年9月~10月

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順位 講座名
1 消費者問題〜基本法編〜(全3回)
2 離婚事件実務(全5回)
3 労働問題の実務対応(全5回)
4 コーポレート・ガバナンス(基礎編)(全3回)
5 交通事故の実務(全5回)
6 知的財産(全3回)
7 成年後見実務(全5回)
8 弁護士のための企業会計(全5回)
9 事業承継の手法としてのM&Aの実務(全5回)
10 消費者問題〜分野別編〜(全8回)

お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9927)