日弁連新聞 第581号
大崎事件第4次再審請求
棄却決定を再審法改正の原動力に!
「再審法改正実現本部」を設置
日弁連は本年6月、戦前から改正されず今日に至っている再審法改正を目指し、再審法改正実現本部を設置するとともに、大崎事件第4次棄却決定を受けた会長声明を公表した。
再審法改正実現本部の設置
日弁連は本年6月16日の理事会において、再審法改正実現本部の設置を決めた。2019年の人権擁護大会で再審法の速やかな改正を求める決議を採択し、これを受けて人権擁護委員会内に設置された「再審法改正に関する特別部会」を発展的に改組したものである。同部会での2年余りの活動を基に日弁連として再審法改正に本格的に取り組む体制を整えた。
大崎事件では再審請求が棄却
再審法改正実現本部の設置から6日後の6月22日に鹿児島地裁で出された大崎事件第4次再審請求審決定は、弁護団にとって予期せぬ棄却決定であった。
日弁連は弁護団からの報告を受け、43年間一貫して無実を訴える95歳の原口アヤ子さんの雪冤のためにも再審法改正の実現が不可欠であることを確認した。その上で、日弁連は同日、「『大崎事件』再審請求棄却決定に関する会長声明」を公表するとともに記者会見を行った。会長声明では、鹿児島地裁が5人の鑑定人の証人尋問を行い、現地での進行協議期日を実施する等の積極的な訴訟指揮を行ったにもかかわらず、最高裁判所の決定に追従して再審請求を棄却した不合理さを指摘し、「本決定は、新旧全証拠の総合評価を適切に行っておらず、白鳥・財田川決定に明らかに違反しているほか、死亡時期に関する検討も不十分であって、到底是認できない。」と抗議の意を表明した。
再審法改正の実現に向けて
裁判体ごとによる審理の格差、3度も再審開始の判断がなされたにもかかわらず検察官の不服申し立てによりそれらが取り消されるなど、大崎事件は再審法の不備に翻弄され続けてきた。名張事件、袴田事件も同様の状況にある。
再審法改正は、もはや人道問題であるといえ、日弁連として全力で取り組む所存である。
改めて恣意的な生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明
~熊本・東京地裁判決を受けて~
東京地方裁判所判決を受け、改めて恣意的な生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明
熊本および東京地裁の生活保護基準の引下げに係る保護費減額処分を取り消す判決を受け、日弁連は、改めて恣意的な生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明を公表した。
2013年から2015年にかけて行われた生活保護基準の引下げ(以下「本引下げ」)に関し、熊本地裁(本年5月25日)と東京地裁(同6月24日)は、本引下げを違法として保護費の減額処分を取り消す判決を相次いで言い渡した。
これらの判決を受け、日弁連は本年6月15日および7月6日に、改めて本引下げの見直しを求める会長声明を公表した。
本引下げについては、合計約1000名の生活保護利用者が、29の地裁に30件の訴訟を提起し、減額処分の取り消しなどを求めている。本年8月1日時点で、既に12の地裁判決が言い渡され、処分の取り消しを認めた判決は、2021年2月22日の大阪地裁判決に続き2例目・3例目となった。
特に、東京地裁判決は、厚生労働大臣による生活保護基準改定の判断過程審査について、専門家の関与や専門的知見の収集の重要性を指摘し、改定が社会保障審議会生活保護基準部会等による審議検討を経ないで行われた場合には、改定の合理性について被告側が訴訟で十分説明することを要するとした。その上で、本引下げの理由の一つとされた「デフレ調整」が、専門家による審議検討を経ていないことを指摘し、①デフレ調整の必要性、②物価の変化率を用いたことの合理性、③デフレ調整の起点を2008年としたことの合理性について、いずれも認めず、④減額率を定めるに当たって厚生労働省が設定した「生活扶助相当CPI」についても、生活保護利用世帯の可処分所得の変化を正しく評価し得ないと判断し、大臣の裁量権の逸脱・濫用を認めた。
また、熊本地裁判決は、「ゆがみ調整」部分についても判断の過程および手続に過誤、欠落が認められると指摘した。
今回の会長声明では、改めて政府に対し、少なくとも2013年8月以前の生活保護基準に早急に戻すことを求めている。なお、被告側は、福岡高裁、東京高裁にそれぞれ控訴した。
(貧困問題対策本部委員 山川幸生)
アフィリエイト広告に関する対策を求める意見書を公表
アフィリエイト広告に関する景品表示法及び特定商取引法における対策を求める意見書
日弁連は、6月16日、「アフィリエイト広告に関する景品表示法及び特定商取引法における対策を求める意見書」を取りまとめ、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)等に提出した。
背景
アフィリエイト広告とは、広告主の依頼により第三者(アフィリエイター)が商品やサービスの広告をウェブサイト上に掲載し、取引高やアクセス数に応じて成果報酬が支払われる広告システムである。アフィリエイターは商品やサービスの供給者ではないため景品表示法上の不当表示の責任を負わないことから、成果報酬の獲得を目的とした誇大な表現を用いた広告に関するトラブルが増大している。
消費者庁は、アフィリエイト広告における不当表示の責任は、その内容の決定をアフィリエイターに委ねた場合を含めて委託元の広告主が負うという解釈・運用を明確化した上で、アフィリエイト広告について広告主が講ずべき表示の適正な管理上の措置(景品表示法26条)を公表する対策を進めている。
意見の要点
意見書では、前述した消費者庁の解釈・運用の強化を支持した上で、さらに景品表示法および特定商取引法上の実効性ある対策を講ずるよう、次の提言をした。
景品表示法については、事業者の表示の適正管理措置(同法26条)とこれに関する指導・助言・勧告・公表(同法27条、28条)だけでなく、広告主が法的責任を負うことについて同法に明文規定を置くこと、事業者の自主的な未然防止対策を促進するための指導・助言・勧告・公表権限を積極的に運用すること、その権限を都道府県にも付与することを求めている。
特定商取引法については、アフィリエイト広告を含む法令違反行為の未然防止を図るため、通信販売業者に業務適正化の体制整備義務を定めること、これを促進するために国と都道府県に指導・助言・勧告・公表権限を定めることなどを求めている。
消費者行政においては、法令違反行為が発生した場合の事後的な行政処分だけでなく、未然防止に向けた積極的な取り組みが求められる。
(消費者問題対策委員会委員 池本誠司)
ひまわり
デフォルトは、「破産」、「債務不履行」という意味があるが、「初期設定」、「基本的な状態」という意味で使われることもある▼制度設計に際しては、デフォルトをどの状態に設定するかが重要である▼ある会議で聞いた話だが、取引先の未払いが2か月を超えたら自動的に取引を一旦中止し、個別事情により取引を再開する(デフォルトを取引自動停止に設定する)か、未払いがあっても取引は継続しつつ、状況を見て個別に取引を停止するかどうか判断する(デフォルトを取引継続に設定する)か、という時に、デフォルトを行動しないところに置くと、事情の変化に敏速に対応できず、失敗する場合が多いということだった▼私たちもデフォルトをどこに置くかということを、無意識に行っていると思う。裁判期日が終わったら、内容にかかわらず、すぐに報告書を出すか、何か伝えるべきことや問題があったときには報告書を出すか、というような場合である。この場合も原則、何もしないことをデフォルトにしておくと、後で問題が生じる可能性が高いように思う▼迷ったときには積極策を選択するのが、後に悔いを残さない秘訣だと聞いたことがある。確かにたとえ失敗しても、何もせずに失敗するよりは後味が良いように感じる。
(M・T)
裁判員が主体的、実質的に参加できる裁判員制度を目指して
裁判員が主体的、実質的に参加できる裁判員制度にするための意見書
日弁連は6月17日に「裁判員が主体的、実質的に参加できる裁判員制度にするための意見書」を取りまとめ、法務大臣、最高裁判所長官、衆議院議長および参議院議長に提出した。
裁判員制度の現状と課題
裁判員制度が始まって13年が経過し、制度そのものは安定的に運用されている一方で、果たして裁判員が「裁判内容の決定に主体的、実質的に関与する」というこの制度の目的が十分に達成されているのか、疑問が残る。最高裁判所が公表している裁判員等経験者へのアンケートには、裁判員が「お客さん」のようになっているのではないかという感想を抱かずにはいられない回答も見受けられる。このように裁判員が「主体的、実質的に参加」することが十分にできない原因となっている制度上の問題を改善するため、必要な法改正および規則改正を求める意見書を公表した。
意見の内容
意見書では、①公判前整理手続の主宰者を受訴裁判所の構成員ではない裁判官とすること、②裁判長に対し、「事実の認定」、「法令の適用」および「刑の量定」に関して裁判官と裁判員とが対等であることの説明を義務付けること、③裁判長に対し、裁判官による「法令の解釈に係る判断」などの裁判員への説示を公開法廷で行うことを義務付けること、④被告人に不利な判断をする際の評決要件について、構成裁判官の過半数かつ裁判員の過半数の意見によるものとすることを内容とする法改正等を求めている。
このうち、①と④は過去の日弁連意見書の中でも同様の意見を述べている。新たな意見である②と③は、裁判官と裁判員が対等な関係で事実認定や刑の量定の評議ができるよう、裁判官と裁判員が対等であることを裁判長が説明することを法令によって義務付けるものである。さらに、法令の解釈などの裁判官が裁判員に説示するものは、非公開の評議室ではなく公開法廷で行わせ、評議室の中に「教える・教わる」という関係を持ち込ませないようにするものである。
真の意味での裁判員の「主体的、実質的参加」を実現するために、これらの法改正、規則改正は必要不可欠である。
(刑事調査室嘱託 趙 誠峰)
日弁連短信
この夏、意見書の季節が始まります
この夏、法制審議会の2つの部会で、国民の生活や弁護士業務に大きくかかわる中間試案を取りまとめ、それぞれに関するパブリックコメント(意見公募)を行うことが予定されている。
IT化に関する中間試案
一つ目の中間試案は、「民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)部会」で検討されている。本年5月、民事訴訟法等が改正され、民事訴訟手続のIT化の規定が整備されたため、次は、その他の民事手続のIT化である。同部会では、民事執行、民事保全、倒産、家事、人事訴訟、非訟等の各手続についてのIT化を審議している。インターネットを用いることの義務化の範囲、書面の電子化、期日におけるウェブ会議・電話会議の利用、電子化した訴訟記録の閲覧、送達など、検討項目は多岐にわたる。また、民事訴訟手続と重なる部分もあるものの、手続ごとに独自の制度があり、参加する人の立場もさまざまで、それぞれの特徴を踏まえて中間試案を取りまとめることが課題となっている。
家族法制に関する中間試案
二つ目の中間試案は、「家族法制部会」で検討されている。父母の離婚に伴う子の養育への深刻な影響や、子の養育の在り方の多様化などの社会情勢に鑑み、子の利益の確保などの観点から、離婚および関連する制度などを見直す必要があるとして設置された。現在、親子関係に関する基本的な規律の整理、父母の離婚後などの親権者や監護者に関する規律、養育費、面会交流、養子制度、財産分与に関する規律の見直しなどが審議されている。特に、共同親権については世間の関心も高く、中間試案がどうなるのか、大いに注目されている。
この2つの中間試案に関するパブリックコメントに、日弁連も意見書を提出することを検討している。といっても、最終的な中間試案がどうなるのかは、まだ誰にも分からない。そのような段階でも、想定されるパブリックコメント期間に間に合わせるためには、関連委員会を中心に意見書の素案を作成し、弁護士会などに意見照会を行い、短期間での検討をお願いせざるを得ない。そして、その後は、時間と戦いながら、意見照会の結果や法制審議会部会での議論状況などを踏まえた修正が続き、正副会長会を経て、理事会で承認され、意見書はついに完成する。まさに、意見書作成はオール日弁連。引き続き、皆様のご協力をお願い申し上げる。
(事務次長 杉村亜紀子)
全国弁護士会任官担当理事者会議
6月27日 オンライン開催
弁護士からの現職任官者は、常勤裁判官が61人(2021年3月1日現在)、非常勤裁判官(民事・家事調停官)が120人(2020年月1日現在)となっている。弁護士からの任官を推進すべく、弁護士会の担当理事者が集まり、裁判官への任官(以下「弁護士任官」)を中心に、現状や課題を共有した。
弁護士任官者による講演
2012年4月に、弁護士から常勤裁判官として任官した清野英之裁判官(東京高等裁判所・東京簡易裁判所)は、裁判官の職務は決して受け身ではないとし、当事者の主張を踏まえて真相を探り、事件像を形にするという作業は、責任は重いが大きなやりがいがあると語った。
手続の主宰や判決などの事件処理への不安についても、自ら積極的に先輩裁判官に助言や指導を求めたりすることで、研鑽を重ねられる環境があると述べた。
弁護士任官の意義と候補者増加への取り組み
弁護士任官等推進センターの柳志郎事務局長(第二東京)は、弁護士任官制度が法曹一元と判事給源の多元性という重要な意義を持つことを強調した。その上で、常勤裁判官への任官実績が2003年(10人)をピークに、2013年以降は毎年4人以下にとどまっている状況を報告し、常勤裁判官に関心のある会員の積極的な発掘と働きかけについて、協力を依頼した。
河野匡志副委員長(東京)は、任官候補者の増加に向けて、弁護士会が「弁護士任官意向アンケート」を活用しながら、会員との面談や情報提供などのサポートを積極的に行うことが効果的であると述べた。また、任官後も、任官者の支援や経験のフィードバックを得るべく、弁護士会が交流やフォローの機会を設けることを推奨した。
非常勤裁判官制度について
上松晋也委員(奈良)は、調停手続のさらなる充実・活性化とともに、常勤裁判官への任官を促進する「架け橋」となり得るという、非常勤裁判官制度の目的・機能を説明した。あわせて、実施庁の拡大や家事調停の一層の充実のため、各地での調停官の給源などの課題と克服に向けた取り組みを報告した。
シンポジウム
企業活動とLGBT
6月8日 オンライン開催
性的指向や性自認を含めたハラスメント防止措置義務が企業に課される中、対外的な企業活動においても、誰をも等しく尊重することの重要性が高まっている。LGBTを巡る取り組みや課題を共有すべく、シンポジウムを開催した。
基調報告~LGBTの権利と企業の責任~
菅原絵美教授(大阪経済法科大学)は、企業におけるLGBTの権利の問題に関して、2011年に国連が策定した「ビジネスと人権に関する指導原則」が国際的コンセンサスだとした上で、自社の事業活動のみならず、取引先を含めた全ての活動が企業の責任の対象になること、その責任を果たすことこそが「選ばれる企業」の指標になると強調した。また、人権の観点から事業に負の影響を与えうる課題を把握することが大切であると呼びかけた。
さらに、「人権課題優先度マップ」を示して、経営への影響が間接的であっても、人権への影響が深刻な課題は対応の優先度が高まると説明した。企業において人権の視点からの課題を発見するには、事業や業務でつながりを持つ当事者の声が鍵となるため、被害を受けた当事者が声を上げやすい体制を整備することも重要であると語った。
パネルディスカッション~企業での取り組み~
松岡宗嗣氏(一般社団法人fair代表理事)は、タクシー会社において、性同一性障害の従業員に対して化粧を理由にタクシー乗務を禁じた事案に関し、裁判所が就業先は性表現(化粧)を認める必要があると判断した事例を取り上げ、LGBT当事者に対する無理解が人権侵害につながると指摘した。そして、LGBT当事者を「いない存在」とせずに、具体的に認識・想像していく必要があるとし、LGBT採用を実践している企業等の取り組みを紹介した。
LGBT当事者に寄り添ったサービスを提供するため、社内勉強会を開催するほか、店舗へのレインボーマークの設置やSNSを通じた情報発信などを行う原麻衣氏(株式会社三好不動産)は、住居を賃借する際、契約締結までに同性カップルが直面する課題について報告した。賃貸人に対する丁寧な説明を実施することで、トラブルを回避でき、顧客から多くの喜びの声が寄せられていると明かした。
小山大作氏(ラッシュジャパン合同会社)は、同社が実施した同性婚法制化に向けた本年3月の啓発キャンペーンと、それに対する反響の高さを紹介した。キャンペーン期間中、店舗・SNSを通じて同性婚賛同者の声が可視化されたのみならず、届いた声には、私たちの暮らす社会が良くなることへの想いが共通していたと述べ、対話が生まれていくことの重要性を説いた。
シンポジウム
「名張事件」から、死刑えん罪を考える
6月13日 オンライン開催
2022年3月3日、名古屋高裁で名張事件第10次再審請求に対する請求人の異議申し立てを棄却する決定が出され、弁護団からは直ちに特別抗告の申し立てがなされた。この名古屋高裁での決定を受け、弁護団らとともに死刑えん罪の問題を考えるシンポジウムを開催した。
弁護団長・弁護団の報告
名張事件弁護団長の鈴木泉会員(愛知県)は、40年にわたり名張事件の再審実現に尽くしてきた立場から、必ずしも確かな証拠に基づいて下されたとは言えない死刑判決であっても、一度確定した死刑判決は確かな証拠があっても見直されることが極めて困難だとして、死刑えん罪の深刻さを指摘した。
同弁護団の野嶋真人会員(第二東京)は、第10次再審請求の争点である「封かん紙の貼り直し」と「毒物検体」の問題について解説し、合理的疑いは化学的に証明されており、再審開始決定に必要かつ十分であると棄却決定を批判した。
基調報告・基調講演
基調報告で水谷規男教授(大阪大学大学院)は、名古屋高裁での決定に関する理論的な問題点について解説し、刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」の判断枠組みに関する白鳥・財田川決定に言及し、本決定は新証拠の個別判断しかしていないと指摘した。
続いて、基調講演で小倉孝保氏(毎日新聞論説委員)は、世界から日本の死刑制度がどう見られているのかという観点から、世界の死刑制度および死刑執行状況の動向について報告した。このままでは日本は人権問題で世界に置いて行かれるのではないかと危惧していると述べ、死刑制度は国民の人権に対する考え方のバロメーターであると締めくくった。
パネルディスカッション
パネリストとして水谷教授、小倉氏、鈴木会員が登壇し、再審制度や死刑制度について議論した。
小倉氏は、死刑に関する情報の透明性を高め、議論を深めることの重要性を指摘した。水谷教授は、自由・人権・法の支配を貫徹できているのかという視点から、目を逸らさずに死刑制度の在り方を考えなければならないと述べた。鈴木会員は、誤った判断で人の命を奪う可能性がある死刑という刑罰は廃止されなければならないと改めて強く訴えた。
2022年度ESG基礎講座第1回
パイオニアたちから学ぶSDGs・ESG時代の弁護士の役割
~ビジネスと人権・環境・ジェンダーの視点とその交錯~
7月5日 オンライン開催
セミナー「パイオニアたちから学ぶSDGs・ESG時代の弁護士の役割~ビジネスと人権・環境・ジェンダーの視点とその交錯~」
ビジネスと人権・環境・ジェンダーの各分野をリードしてきた弁護士・専門家が、これまでの課題への向き合い方や現状の課題などを踏まえ、SDGs・ESG時代に期待される弁護士の役割について議論した。
「ビジネスと人権ロイヤー」という生き方
齊藤誠会員(東京)は、企業活動における人権への配慮の重要性を説き、一市民として身の回りの人権問題に関心を持つことによってこそ、依頼者の人権問題にも適切に対応できる感性が育つと強く語った。また、SDGsは人権条約の集大成であり、新たな人権保障のルールとして機能しているとした上で、弁護士には紛争や訴訟といった局面だけでなく、もっと広い分野で人権に配慮した活動が求められると指摘した。
環境・サステナビリティの法務を切り拓く
佐藤泉会員(第一東京)は、SDGsの本質は、企業が本業であるビジネス自体を改革することによって、いかに社会変革に参加できるかであり、企業はビジネスモデル自体を変えていく必要があると説いた。そして、弁護士は、依頼者である企業の権利を主張するのみならず、企業の普遍的な価値を高めることへの貢献が求められ、そのために必要な他の専門家とのパートナーシップの形成に寄与することが重要であると強調した。
ジェンダーの視点を日本社会に組み込む
橋本ヒロ子氏(国連ウィメン日本協会理事長)は、国連が進めてきたジェンダー平等の流れを紹介した。日本の企業は相応の努力をしてきているが、ジェンダー平等を定着、発展させるためには、政治の世界に女性がさらに進出すること、教育やメディアを通じて女性が活躍する姿を肯定的に伝えることが必要であると述べた。
パネルディスカッション
佐藤会員は、弁護士は、SDGs・ESGの目指すべきところを理解し、顧客にアピールすることで、新たな活躍の場を創造できる可能性があると指摘した。齊藤会員は、新しいことに関心を持ち、その解決の方法を自分なりに考えて発信することで、新たな分野を開拓できると自身の経験を踏まえて語った。橋本氏は、国連の活動は日本企業のモデルとなり得るので、弁護士はその動きに注目してほしいと述べた。
シンポジウム
第8回法化社会における条例づくり
新型コロナウイルス感染症に関する条例と自治体の対処
6月30日 オンライン開催
第8回法化社会における条例づくりシンポジウム「新型コロナウイルス感染症に関する条例と自治体の対処」
自治体の政策実現手段として条例の役割が増している。条例制定の必要が生じた場合、弁護士が関与することにより自治体担当者が直面する困難を打開できる可能性がある。第8回目となる今回は、新型コロナウイルス感染症に関する条例と自治体の対処に焦点を当て、条例の制定意義や在り方を整理し、弁護士の関わり方を検討した。
講演・報告
米村滋人教授(東京大学大学院)は、コロナ禍における法的課題について、感染症法に基づく入院などの画一的な強制措置が人権侵害を招く恐れがある一方で、各自治体の運用により不備が補われている現状を報告した。新型インフルエンザ等対策特別措置法については、緊急事態措置に関する国と地方の権限関係が不明確であり、自治体が有効な感染症対策を行うためには法的ガバナンスの改善が必要であると指摘した。
稲葉一将教授(名古屋大学大学院)は、感染症対策のために制定された条例の傾向や特徴を分析し、住民が自らの手でルールを定めるという意味での法治主義の重要性が改めて浮き彫りになったと述べた。また、地方自治の発展により住民の健康的な生活が制度的に保障されることに期待を寄せた。
井上源三氏(一般財団法人地方自治研究機構理事長)は、全国の感染症対策条例の制定状況や多くの条例に不当な差別の禁止規定が盛り込まれていることを報告した。平松修氏(名古屋市健康福祉局長)は、全国に先駆けて制定された名古屋市の感染症対策条例により、「全市一丸となって」の対策が可能となったと語った。
パネルディスカッション
鳥取県のクラスター対策等に関する条例および和歌山県の感染症に係る誹謗中傷等対策に関する条例を題材に、効果的な条例の定め方、条例制定過程で注意すべきこと、条例制定に対する弁護士の関与の在り方について意見交換がなされた。両自治体の担当者は、状況の変化に応じて、今後は感染症対策と社会活動の両立を図る施策を検討したいとの意欲を示した。
稲葉教授は、高度な専門的知見に基づく対策を講じようとするときに、弁護士が関与することで少数意見に配慮した公平な政策を実現できるとの考えを示した。
法律サービス展開本部自治体等連携センターの伊藤修太委員(沖縄)は、弁護士が日々の実務で得ている知見を生かして自治体の対策に関与することが重要であると強調した。
JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.171
若手チャレンジ基金制度・シルバージャフバ賞
受賞者インタビュー
第1回となる2021年度の若手チャレンジ基金制度において、弁護士業務における先進的な取り組みに対する表彰でシルバージャフバ賞を受賞した4人の会員に、それぞれの活動についてお話を伺いました。
(広報室嘱託 花井ゆう子・枝廣恭子)
罪に問われた障がいのある人と地域社会をつなぐ
山田 恵太 会員(東京)
活動の概要と背景
私は、一般社団法人東京TSネットの代表理事として、罪に問われた障がいのある人を、行政機関・福祉サービス等の適切な支援につなぐことにより、社会復帰後の生活を支援する活動をしています。任意団体であった時期を含めると、活動期間は10年になります。
私は心理学部の出身で、障がいがある方の法的支援、特に虐待被害などの支援をしたいと弁護士になりました。弁護士となり刑事事件を経験する中で、障がいがあり本来は支援が必要であるにもかかわらず、福祉的支援につながっていない人々が多く存在することに気付きました。このような人は、診断すら受けられず、制度のはざまに置かれてしまっているのです。罪と障がいという二つのスティグマによって社会から排除されがちなこうした方々を支えるため、一人一人の状況や希望に合わせた支援計画を組み立て、地域で共に暮らしていけるよう社会につなぐ活動を続けています。
今後の取り組み
接見等でこうした方々に最初にアプローチできるのは弁護士です。多くの会員に「気付き」を持ってもらうことが非常に重要です。かつては主に刑事責任能力という観点からしか障がいが検討されることはありませんでしたが、徐々に支援が必要だという意識が広がってきたと感じます。これが当たり前となるよう、さらなる情報発信に努めたいと思います。活動に協力してくれる多くの人の関わりが支援の深化につながります。そのためにも周知活動が重要です。
受賞の感想
今回の受賞で私たちの活動をより多くの方に知っていただく機会が得られたことをありがたく思います。他の会員の活動を知ることができたことも刺激となりました。公益的活動がより多様化し広がっていくことを期待します。
教員の長時間労働是正を目指して
江夏 大樹 会員(第一東京)
活動の概要
私は、両親が教師であり、自身もいずれ教師になりたいと考えているため、公教育の現状に関心を持っていました。そこで、若生直樹会員(埼玉)が取り組んでいた、公立小学校の教員の長時間労働の違法性を問い、時間外労働の未払い賃金の支払いを求める訴訟に加わりました。支援事務局を立ち上げ、研究者や教員を目指す学生らと共に、クラウドファンディングで資金を集めたり、SNSで情報を発信したりして、教員の労働環境の改善を訴える活動に取り組みました。
第一審(さいたま地裁)は、毎期日で意見陳述を行い、2021年10月1日に出された判決でも、請求は棄却されましたが、「給与体系の見直しなどを早急に進め、教育現場の勤務環境の改善が図られることを切に望む」と付言され、報道で大きく取り上げられるなど、私たちの活動にとって大きな意義のあるものとなりました。
受賞の感想
日弁連が、訴訟の勝ち負けだけではなく、活動の経過を見て評価してくれたことをうれしく思いました。弁護士の活動の中には、費用回収が難しくても社会的に意義のあるものは多くあります。今回私たちの活動を支援してもらえたように、今後は、私も同じような活動をする弁護士を支援したいです。
今後の展望・抱負
本年8月25日に高裁判決が予定されていますが、過去の最高裁判例に照らすと厳しい結果も考えられます。しかし、訴訟に勝つことだけでなく、教員の労働環境を改善すること、教育の重要性を社会の共通認識とすることが大きな目標なので、今後も個別の訴訟で戦いながら、目標達成に向けて訴訟外の活動にも力を尽くしたいと思います。
NPOの支援を通じて社会課題の解決と向き合う
鬼澤 秀昌 会員(第二東京)
BLP―Network設立の経緯と活動内容
大学4年生のときにNPOでインターンシップを経験したことがきっかけで、NPOの活動を法律面から支援したいと考えるようになり、まずは支援者同士のコミュニティを作りたいと、BLP―Networkを設立しました。活動の柱は、①法的なアドバイスを求めるNPOと弁護士とのマッチング、②弁護士間の情報共有、③NPO向けの情報発信の三つです。現在、70人以上の幅広い世代の弁護士が所属して、法的問題やトラブルの解消、リスク回避のアドバイス、政策提言のサポートなどを行い、NPOが安心して社会課題に取り組めるよう支援しています。
受賞の感想
コミュニティとして存続することを目標に、毎月定例会を開催するなどの活動をしてきました。10年という節目の年に、私たちの活動を認めてもらえたことはうれしく、この先の活動の励みになります。
今後の抱負
今後は、NPOや中間支援団体など外部への情報発信により力を入れていきたいです。また、BLP―Networkがより効率的に活動できるよう、事務局運営のシステムを導入することも考えています。活動を通じて得られた知識や経験を、メンバーはもちろん、NPO・弁護士業界全体にフィードバックしたいと思っています。
現在、教育関係の仕事が多いのですが、それも、ある教育関係のNPOの活動に触れたことがきっかけでした。NPOの活動は多種多様ですが、コミュニティに参加する人が多ければ、その活動が誰かの胸に刺さり支援につながるので、参加する弁護士を増やしてより多くのNPOの活動を支援したいと思います。
外国人の潜在的な相談需要に応えるために
船波 恵子 会員(群馬)
活動の概要と背景
私は、外国人の潜在的な相談需要の発掘と、これに対応するプロジェクトとして、通訳人の確保や外国語相談の広報活動等を展開しています。
私が事務所を置く群馬県館林市周辺は、外国人の方が多く居住しています。長く日本に居住していても、自らのコミュニティの中だけにとどまっている方が多く、日本語が上手ではない場合もあり、外国語での相談窓口は不十分だと思います。また、近年は外国人技能実習生の労働問題等もあります。そのため、外国人相談の潜在的需要は多いに違いないと従前から感じていました。
そこで、今までの事件処理を通じて知り合った通訳の方々をリスト化するなど、通訳人を迅速に確保する体制を整えて相談に対応し、SNS等で広報しました。通訳人の来所が困難な場合は、ウェブ会議を活用するなどの工夫もしました。
今後の取り組み
まだまだ対応しきれていない相談需要があると思っています。SNS等のさらなる活用のほか、各国のコミュニティの方ともっとつながる機会を持つことや、各国の食材店にその国の言葉と日本語を併記した事務所のチラシを置くことなど、地道な活動をこれからも続けていきたいと思います。
メッセージ
若手チャレンジ基金制度の趣旨は、若手会員が弁護士として活動の幅を広げるためのチャレンジを積極的に支援することとされています。この趣旨に基づき、より多くの若手会員が利用しやすい制度となるよう、日弁連が幅広く若手会員の活動を支援することを期待しています。
日本弁護士連合会 総合研修サイト
eラーニング人気講座ランキング(家事) 2022年6月~7月
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順位 | 講座名 | 時間 |
---|---|---|
1 | 令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント | 118分 |
2 | 知っておきたい養育費の履行確保制度とひとり親家庭の社会保障制度 | 166分 |
3 | 相続法改正後における遺留分侵害額請求訴訟の実務(遺留分計算シートの活用方法~提訴から証拠調べまで~) | 169分 |
4 | 離婚事件実務に関する連続講座 第1回 総論~相談対応・受任から調停(調停における代理人のあり方)審判・人訴・離婚後の手続(氏の変更等) | 117分 |
5 | 遺言書作成におけるトラブル予防と遺言執行トラブル対応 | 120分 |
6 | 遺産分割の基礎~よく尋ねられる内容を中心として~ | 112分 |
7 | DVをめぐる法制度の概要と相談対応 | 89分 |
2019年12月改定版標準算定方式養育費・婚姻費用算定の実務(基礎と応用への展開) |
137分 |
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9 | 成年後見実務に関する連続講座 第5回 任意後見制度の活用 | 113分 |
10 | 成年後見実務に関する連続講座 第1回 趣旨、成年後見開始審判の申立て | 67分 |
お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9927)
ブックセンターベストセラー (2022年6月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編集者名 | 出版社名・発行元名 |
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1 |
申請事例からみる交通事故後遺障害の等級認定 |
アディーレ法律事務所/編 | 中央経済社 |
2 |
7士業が解説弁護士のための遺産分割 |
狩倉博之/著 |
学陽書房 |
3 |
弁護士報酬基準等書式集〔改訂3版〕 |
弁護士報酬基準書式研究会/編 | 東京都弁護士協同組合 |
4 | 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務〔第4版〕 | 片岡 武、管野眞一/編著 | 日本加除出版 |
5 | 法律事務職員研修「基礎講座」テキスト 2022年度 | 東京弁護士会弁護士業務改革委員会/編 | 東京弁護士会 |
6 | プライバシーポリシー 作成のポイント | 白石和泰、村上諭志、溝端俊介/編著代表 小林央典、野呂悠登/編著 | 中央経済社 |
新労働相談実践マニュアル〔全面改訂〕 | 日本労働弁護団/編著 | 日本労働弁護団 | |
8 | 会社議事録の作り方〔第3版〕 | 森・濱田松本法律事務所/編 松井秀樹/著 | 中央経済社 |
9 | 知的財産契約の実務 理論と書式 意匠・商標・著作編 | 大阪弁護士会知的財産法実務研究会/編 | 商事法務 |
不貞行為に関する裁判例の分析 | 大塚正之/著 | 日本加除出版 | |
11 | ストーリー法人破産申立て |
野村剛司/監修 小川洋子、森本 純、今井丈雄、岡田雄一郎、河野ゆう、森 智幸、浅井悠太、丸島一浩、管納啓文、山本隼平/著 |
きんざい |
分かりやすい公用文の書き方〔第2次改訂版〕 |
礒崎陽輔/著 |
ぎょうせい | |
13 | 退職勧奨・希望退職募集・PIPの話法と書式 |
村田浩一/編著 |
青林書院 |
即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務 |
松本哲泓/著 |
新日本法規出版 | |
高速マスター法律英単語®Ⅱ1000 英文契約書編 |
渡部友一郎/著 |
日本加除出版 |