日弁連新聞 第580号

第73回 定期総会
2022年度予算などを可決
6月10日 弁護士会館

2022年度予算が議決されたほか、弁護士情報セキュリティ規程の制定などが可決された。弁護士情報セキュリティ規程は、今後2年以内に施行される。


また、来年の第74回定期総会は大阪府で開催することを決定した。


決算報告承認・予算議決

1.jpg2021年度の一般会計決算は、収入61億5045万円および前年度からの繰越金52億997万円に対し、48億346万円を支出し、次年度への繰越金は65億5696万円となったことが報告され、賛成多数で承認された。


2022年度の一般会計予算は、事業活動収入52億4614万円に対し、事業活動支出66億4173万円、予備費1億円などを計上し、単年度では15億1559万円の赤字予算となっている。


本年4月1日からの会費減額に伴う会費収入減、新型コロナウイルス感染拡大の影響による司法修習期間変更に伴い今年度の一斉登録が2回(第74期・第75期)となることによる登録料収入増、いわゆる若手チャレンジ基金制度の支出増などを見込んだ予算編成となる。採決の結果、賛成多数で可決された。


弁護士情報セキュリティ規程制定を可決

規程の概要

arrow_blue_1.gif第73回定期総会 議案書


高度情報化社会が進展する中で、裁判実務におけるITの活用を含め、弁護士等の取り扱う情報が電子データに置き換わっていく流れにある社会情勢を踏まえ、情報セキュリティの確保に関して、弁護士、弁護士法人、外国法事務弁護士、外国法事務弁護士法人、弁護士・外国法事務弁護士共同法人に共通する義務を定めるものである。


弁護士等が職務で取り扱う情報を対象とし、民事や刑事等の事件類型による限定や差異はない。弁護士等は、所属する法律事務所等の規模および業務の種類、態様等に応じて、情報セキュリティを確保するための「基本的な取扱方法」の策定などが求められる。


討論、採決等

討論では、規程による義務化の必要性への疑問のほか、時期尚早といった観点からの反対意見が出される一方で、情報セキュリティが重視される社会情勢において、弁護士等は積極的かつ組織を挙げて情報セキュリティ確保への対策を講じていくべきなどの賛成意見が出された。採決の結果、賛成多数で可決された。


併せて、執行部より本規程に基づき弁護士等が策定する「基本的な取扱方法」のモデル案の提示を予定していることが報告された。



若手チャレンジ基金 申請スタート!
若手会員のチャレンジを支援します

弁護士登録後一定期間を経た若手会員に対し、弁護士としての活動の幅を広げるためのチャレンジを支援する若手チャレンジ基金制度(若手会員の公益的活動等に対する支援制度)を本年度も実施します。


対象の若手会員が行う特定の活動に対して日弁連が支援金を支給するもので、7月1日から申請の受付を開始しています。


制度概要

新第65期から第71期までの会員が対象で、対象となる活動は以下の4種類です。


①公益的活動

2021年12月1日から2022年9月30日までの間に行った公益的活動に対する費用支援(5万円または10万円を支給)


②研修・学習

2021年12月1日から2022年9月30日までの間に支出した弁護士業務に資する研修・学習費用の支援(実費額が10万円以上の場合に、実費額の3割を支給。上限10万円)


③先進的取り組みへの表彰

弁護士資格を生かした弁護士業務の枠にとらわれない活動など、2021年12月1日から2022年8月31日までの間に行った弁護士業務における先進的な取り組みに対する表彰(10万円~30万円を贈呈)


④先進的取り組みへの助成

現在は実現していないものの、将来予定している弁護士業務に画期的な進歩・改善をもたらすことが期待される先進的な取り組みに対する助成(10万円~30万円を支給)


申請受付期間・申請方法

申請受付期間は2022年7月1日から同年10月10日まで(③・④は同年9月10日まで)です。日弁連会員専用サイトに掲載している申請フォームから、疎明資料を添えて申請してください(オンライン申請のみ)。本制度の詳しい内容については、会員専用サイトで案内しています。


積極的なご利用を!

本制度は、対象となる4活動それぞれについて申請が可能です。本年度の対象となる若手会員の皆さま、ぜひ積極的に本制度を利用してください。本制度の利用を契機として、弁護士業務の幅が広がることを期待しています。


(研修・業務支援室長 西村 健)


*③先進的取り組みへの表彰に関し、2021年度ゴールドジャフバ賞の受賞者インタビューを日弁連新聞6月号に掲載しています。



在外投票を認めない国民審査法に違憲判決
~判決を評価する会長声明を公表~

arrow_blue_1.gif在外日本国民の国民審査に関する最高裁判決についての会長声明


国民審査の在外投票を認めない国民審査法を違憲と判断した最高裁判決を受けて、日弁連は、6月1日、「在外日本国民の国民審査に関する最高裁判決についての会長声明」を公表した。


5月25日、最高裁大法廷は、最高裁判所裁判官国民審査法が海外に在住する日本国民に最高裁裁判官の国民審査権の行使を全く認めていないことは憲法15条・79条に違反するとの判決を下した。本判決は、憲法79条の定める国民審査権が、国民主権の原理および公務員の選定・罷免権を国民固有の権利と定める憲法15条に由来するものであり、最高裁が違憲法令審査権を有することなどに鑑みて憲法が保障した主権者の権能であることを明確に認めて、違憲判決を下したものである。また、本判決は、在外国民が国民審査権を行使する制度の創設について国会が立法措置をとらなかったことにより国は国家賠償法上の賠償責任を負うとし、次回の国民審査で在外国民に国民審査権を行使させないことは違法と認められるとした。


これを受けて日弁連は、6月1日、会長声明を公表した。会長声明では、本判決を高く評価するとともに、国に対して、在外国民が国民審査権を全く行使できない状況を長期間放置していた責任を重く受け止めるべきとして、速やかに最高裁判所裁判官国民審査法等を改正し、在外国民が国民審査権を行使する制度を創設するよう強く求めている。


日弁連は、25年以上前の1996年に、在外国民が国民審査権を行使できるよう国に所要の法改正を要望し、2002年7月にも同趣旨の勧告を発した。しかしその後も立法措置がとられなかったため、2012年3月に改めて強く勧告した。現在も、在外国民のうちの推定審査投票権者約100万人が、国民審査権を全く行使できない状況にある。このような状況が一刻も早く解消されるよう、日弁連としても継続して国に法改正を求めていく。




(人権擁護委員会委員長 金 喜朝)



ひまわり

舞台鑑賞が好きだ。多忙を理由に長らく鑑賞を中断していたが、感染症の拡大後、客席が埋まらないと聞き、微力ながら舞台を応援したいと思ったこと、そして、出演者の痛ましい事件が起こり、再演等で後日観られる保証はないと痛感したことから鑑賞を再開した▼舞台鑑賞は断然リアル派。なんと言っても音が違う上、たとえ見づらくても全体を見渡すか1箇所に集中して見るかを選べる▼役員等を務める組織の会議もリアル派。画面越しに見聞きする情報よりも、その場を見渡しながら見聞きする情報の方が格段に多いし、会議前後の会話で得られる情報が何かと役立つ▼他方、顧問を務める組織からの法律相談関係の会議は、オンラインでよいものも多い。日常的にはオンラインで往復の時間を節約しつつ、節目でリアルの会議を持つパターンも見られる▼委員会活動も、引き続き感染症対策が必要であること、業務の合間を縫って参加しているのが実態であることから、オンラインも続けてほしいというのが本音だ▼リアルとオンラインの分水嶺に関する分析も見られるが、明確な意識なく使い分けてきた。今後もオンラインの利用は続くであろうし、リアルとオンラインの長所短所を把握し、会議の相手の意向も踏まえながら両者を駆使したい。


(Y・M)



特殊詐欺を典型とする組織犯罪からの被害回復を求めて
刑事事件記録の閲覧・謄写制度の拡充を求める意見書を公表

arrow_blue_1.gif特殊詐欺を典型とする組織犯罪の被害回復に資するために刑事事件記録の閲覧・謄写制度を拡充することを求める意見書


特殊詐欺の被害はいまだ高い水準で発生しており、2020年の被害額は285億円を超えた。


日弁連は5月10日、「特殊詐欺を典型とする組織犯罪の被害回復に資するために刑事事件記録の閲覧・謄写制度を拡充することを求める意見書」を取りまとめ、法務大臣および警察庁長官に提出した。


意見書の背景

特殊詐欺事件のうち、指定暴力団の関与が認められる事案は、当該暴力団の組長等に対して、代表者等責任に基づく損害賠償請求訴訟(以下「組長訴訟」)を提起することにより、相応の被害回復が図られている。


しかし、組長訴訟における主張・立証は、当該特殊詐欺事件において立件された実行犯の刑事記録に大きく依拠するところ、組長訴訟で必要となる証拠は実行犯の刑事責任を問うためには必ずしも必要ではなく、実行犯の刑事裁判に提出されないことも多い。


また、特殊詐欺等の組織犯罪では、すべての被害を立件することは困難であり、不起訴事案の被害者が組長訴訟を提起するためには、自身の被害に係る不起訴事案の刑事記録の開示が必要不可欠となる。


このように、特殊詐欺事件の被害回復をあまねく実現するためには、公判不提出記録や不起訴記録の開示が不可欠といえる一方で、これらの開示基準は極めて厳格に定められている。とりわけ供述証拠については、原則として民事訴訟で文書送付嘱託を申し立てることが求められる等、重い手続的負担が課されている。


こうした齟齬は、現行の刑事事件記録の閲覧・謄写制度が、個々の生命・身体犯の被害者の支援という視点で、専ら起訴事実の被害者と刑事被告人を対立当事者とする民事訴訟を想定して構築されており、不起訴事案を含む組織犯罪の被害者が、刑事事件で起訴されていない組織の上位者を被告とする民事訴訟を提起するケースを全く想定していないという構造的な問題に起因すると考えられる。


提言

このような観点から、意見書では、組織犯罪被害者が民事訴訟の提起およびその主張・立証の準備として行う刑事事件記録の閲覧・謄写について、抜本的な見直しを求めている。


(民事介入暴力対策委員会事務局次長 内藤勇樹)



改正刑法等が成立

侮辱罪の法定刑引き上げ、「拘禁刑」創設など

6月13日、刑法等の一部を改正する法律(以下「本法」)が成立した。本法の主な内容は、①侮辱罪の法定刑引き上げ、②懲役・禁錮の廃止(拘禁刑への単一化)、③処分保留中の被疑者を対象に含む社会内処遇制度の創設等である。


①侮辱罪の法定刑引き上げ
これまで拘留または科料のみであった侮辱罪の法定刑に、「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」が加えられた(ただし、懲役と禁錮は、本法により拘禁刑に単一化される。)。


日弁連は、本法成立に先立ち、懲役刑の導入は、正当な論評を萎縮させ表現の自由を脅かすものとして不適切であり、また、インターネット上の誹謗中傷への対策としても的確ではないとして、改正に反対する意見書を公表した。また、本法成立を受け、今後表現の自由に対する不当な制約が行われないよう、運用状況を監視するとともに、規定の見直しを視野に入れて問題点の解消に努めていく旨の会長談話を公表した。


②拘禁刑への単一化
懲役・禁錮を廃止して拘禁刑として単一化するとともに、拘禁受刑者に対し、改善更生を目的として、必要な作業を行わせることや、必要な指導を行うことができること等を内容とする改正が行われた(公布から3年以内に施行予定。)。


本改正により、受刑者の真の改善更生と円滑な社会復帰の促進が期待される。作業や指導は、いかに有用でも、受刑者が自発的に向き合うのでなければ十全な効果は得られないことから、懲罰の威嚇による矯正処遇の強制ではなく、受刑者の自発性や尊厳を重視した運用が必要である。


③社会内処遇制度の創設
更生保護法を改正し、検察官が必要と認めるときに、被疑者の同意を得て、勾留中から保護観察所長による環境調整を行わせることや、処分保留として釈放した場合でも更生緊急保護を開始することを可能とする制度等が創設された。


本制度を、罪を犯した被疑者の円滑な社会復帰に資するものとするためには、被疑者の同意が真意によってなされることを確保した上で、適正な運用を不断に図っていくことが必要である。



(刑事調査室嘱託 虫本良和)



医療事故調査制度の改善を求める意見書を公表

arrow_blue_1.gif医療事故調査制度の改善を求める意見書


日弁連は5月10日、「医療事故調査制度の改善を求める意見書」を取りまとめ、厚生労働大臣および法務大臣に提出した。


医療事故調査制度の現状と課題

医療事故調査制度は、医療の安全を確保するため、医療機関の管理者が「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産」で、「当該死亡は死産を予期しなかった」と判断した「医療事故」について、医療事故調査・支援センター(以下「センター」)に報告し、院内で事故調査を行い、その結果を遺族とセンターに報告する制度である。当該医療機関の管理者または遺族の依頼により、センターが調査を実施することもできる(センター調査)。


本制度は2015年10月1日から施行され、2022年4月末日までの医療事故報告件数は2328件、センター調査結果報告件数は105件である。本制度の意義は非常に大きく、センターが報告事例を集約して取りまとめた医療事故の再発防止に向けた提言は医療事故の防止に役立っている。他方で、積極的に報告をして事故調査に取り組む医療機関とそうでない医療機関とで格差があり、院内事故調査の内容や在り方にも格差があるなど、課題も多い。


意見の趣旨

本制度をより医療の安全に資する制度とするため、国に対し、①制度を周知すること、②医療機関や遺族から相談を受けたセンターが必要と判断した場合には、当該医療機関に調査の実施を促すことができ、当該医療機関が一定期間内に調査を開始しないときはセンターが調査を実施できる制度を創設すること、③遺族および医療事故調査を実施する医療機関に対して、速やかに司法解剖の結果報告書を開示するよう通達などで定めること、④センター調査の結果報告書を公表する制度を創設すること、⑤医療事故調査を実施する医療機関を財政的に支援する制度を創設すること、⑥「医療事故」を対象とする無過失補償制度を創設することを求めている。


(人権擁護委員会委員 増田聖子)


沖縄の本土復帰50年に当たっての会長談話

arrow_blue_1.gif沖縄の本土復帰50年に当たっての会長談話


5月15日、沖縄が本土復帰50周年を迎えるに当たり、日弁連は会長談話を公表した。


沖縄が本土に復帰した1972年5月15日、日弁連は「沖縄復帰にあたっての会長談話」を公表し、「復帰は人権回復であり、あるべき姿としての日本国憲法のもとへの復帰でなければならない」と指摘した。


沖縄には今も国内の米軍専用施設の7割が集中しており、米軍に由来する事件や事故も後を絶たない。米軍基地の整理縮小と日米地位協定の改定を求める沖縄の人々の願いの実現には程遠く、政府が進めている辺野古への新基地建設問題には、いまだ多くの課題が残されている。


日弁連は、1954年に人権擁護委員会内に沖縄の人権問題に関する小委員会(当時)を設置して以降、沖縄における人権の回復と擁護のため幾度となく調査や提言を行ってきたが、まだ道半ばである。沖縄の人々の権利が十分に保障されるよう施策を行うのは政府の責任であり、それを推し進めるのは国民の責務でもある。


沖縄が他に類を見ない自然、歴史、文化を礎にしながら豊かに花開く未来を築いていくことができるよう、沖縄の人々と手を携え、これからも平和と人権のためにたゆまぬ努力を続けていく所存である。




シンポジウム
子どもたちからのSOS
子どもの相談救済機関の意義とその活動を考える
5月9日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「子どもたちからのSOS~子どもの相談救済機関の意義とその活動を考える~」


児童相談所が対応した児童虐待の件数は、2020年度には20万件を超え、子どもの自殺件数も500人を超えた。解決しなければならない子どもの問題が山積する中、本シンポジウムでは、国の子ども施策である「こどもまんなか社会」には何が必要か、子どもの権利保障について議論した。


基調講演


半田勝久准教授(日本体育大学/世田谷区子どもの人権擁護委員)は、条例による子どものための相談救済機関をすでに38自治体が設置しており、5自治体が開設に向けて準備している(2022年度現在)現状を説明した。相談救済機関では、LINEやZoomといった多様なツールを活用する等、子どもが相談しやすい環境整備に工夫を凝らしていると報告し、面談時には子どもの気持ちを尊重した上で、関係当事者との対話によりすれ違いの原因を把握して、改善に向けて両者の気持ちを橋渡しすることが重要だと指摘した。相談救済機関は、権利侵害から子どもを救済することに加えて制度改善につなげることも求められているとし、国レベルにおいて独立した機構を設置する必要があると説いた。


報告


中島早苗氏(認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン代表理事)は、2021年度のイベントを通じて行われたアンケート結果において、圧倒的多数の子どもが、「子どもの権利を子どものうちに教えてほしい」と要望していると報告した。学校で意見をもっと聞いてほしいという声も多く、教育者に対する研修が必要であると指摘した。


栁優香会員(福岡県)は、2021年9月17日付けの日弁連の提言を概説した上で、国会におけるこども家庭庁設置法案等の審議状況を共有した(同法案は6月15日に成立した。)。各地の相談救済機関の活動には限界があり、子どもが権利の主体であることを国内法に明記すること、子どもの施策に関する総合調整機関および子どもの権利擁護委員会を設置することが不可欠であると訴えた。




シンポジウム
学ぶ権利と生活保護
大学生等への生活保護の適用を考える 
5月13日 弁護士会館

arrow_blue_1.gifシンポジウム「学ぶ権利と生活保護―大学生等への生活保護の適用を考える―」


現在の生活保護制度では、大学生等が在学中に生活保護を利用することが原則として認められておらず、生活に困窮する大学生等が進学や修学の継続を断念せざるを得ない現状にある。

本シンポジウムでは、大学生等への生活保護の適用を取り巻く現状や制度的課題について取り上げ、学ぶ権利を保障するための方策について議論した。


問題の所在

貧困問題対策本部の太田伸二委員(仙台)は、2017年10月18日付け日弁連意見書に言及しつつ、現在の実務運用では、生活保護世帯の子どもが大学等へ進学する場合、その子どもを世帯分離しなければならず、受給できる保護費が減少すると指摘した。そして、この運用が生活保護世帯の子どもの進学を妨げているとして、一日も早い改善を求めた。


運用改善への取り組み

署名活動や国への働き掛け等を行う中村舞斗氏(特定非営利活動法人虐待どっとネット代表理事)は、かつて自身が虐待を乗り越え大学に進学して生活保護を受けようとしたところ、窓口で「大学はぜいたく品です」と言われて絶望し中退を余儀なくされた経験を語り、早急な運用改善への強い思いをにじませた。


飛田桂会員(神奈川県)は、積極的なロビー活動の結果、虐待を受けて自立援助ホームに避難している大学生等に生活費相当額を一定期間支給する横須賀市の独自制度の設立につなげた実績を報告した。適切な保護を受けて学ぶことは自立につながるとし、一時的にでも生活保護が適用されることが必要だと強調した。


社会全体の問題へ

桜井啓太准教授(立命館大学)は、この問題は生活保護世帯に限った進学問題ではなく、大学生等が生活に困窮したときにいかに保護するかという問題であると指摘し、生活保護の制度的欠陥を社会全体の問題として解決していかなければならないと述べた。




事業再生シンポジウム
アフターコロナに向けて金融機関と弁護士はどのような支援ができるのか
~事業再生等に関するガイドラインと経営者保証ガイドラインへの期待
5月11日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif事業再生シンポジウム「アフターコロナに向けて金融機関と弁護士はどのような支援ができるのか~事業再生等に関するガイドラインと経営者保証ガイドラインへの期待」


本年3月、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)と「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」が公表された。日弁連では、アフターコロナの施策の一つとして、これらのさらなる普及を目指し、シンポジウムを開催した。


新しいガイドライン・中小企業施策等の解説

小林信明会員(東京)は、ガイドラインは平時、有事、計画成立後のフォローアップの各段階で中小企業と金融機関が果たすべき役割を明確化しており、相互に基本的な考え方を共有して信頼関係を構築することで円滑な事業再生を実現できると指摘した。横田直忠氏(中小企業庁事業環境部金融課課長補佐)は、ガイドラインが中小企業者と支援者の共通の物差しとして機能することへの期待を述べ、活用を促進するための中小企業庁の補助政策を紹介した。


パネルディスカッション

パネリストらが、ガイドラインの手続の特徴や論点を、中小企業活性化協議会の手続と比較しながら議論した。小西一彦氏(商工組合中央金庫融資管理室長)は、ガイドラインで廃業型私的整理手続が明記され、地域経済への影響の少ない形で中小企業が廃業を進めることを可能にした意義は大きいと強調した。中井康之会員(大阪)は、中小企業の実態に即した新たな準則型の私的整理手続が定められて選択肢が増えたため、制度間競争が働いて私的整理手続がより適切に実施されることに期待を寄せた。中小企業活性化全国本部統轄事業再生プロジェクトマネージャーの加藤寛史会員(第一東京)は、ガイドラインと中小企業活性化協議会がそれぞれ機能して一社でも多くの中小企業の事業再生支援ができるよう、ガイドラインが安心・信頼できる手続として定着することを願うと締めくくった。




行政不服審査法シンポジウム
―5年後見直しに関する最終報告を踏まえた今後の運用改善―
5月27日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif行政不服審査法シンポジウム-5年後見直しに関する最終報告を踏まえた今後の運用改善


行政不服審査法は改正法の施行(2016年4月1日)から5年が経過し、「5年後見直し」に係る総務省の検討会の最終報告では、法改正は行わず運用改善を図るとの結論が示された。


本シンポジウムでは、検討会の最終報告を踏まえ、今後の運用改善のあるべき方向性について議論を深めた。


報告

髙橋滋教授(法政大学)は、最終報告の概要を報告し、法改正の評価等を踏まえた総括として①審理手続の担い手の確保・育成、②不服申し立てに関わる各主体の体制整備、③運用マニュアルに沿った手続の徹底、④国民への情報提供と審査庁・処分庁間の連携の推進、⑤行政不服審査会等の答申における付言の活用を挙げた。行政不服審査法の改正により、国民の権利利益の迅速な救済が図られたが、改正の狙いや目標、制度趣旨に沿った運用が徹底できていないなどの課題があるとし、今後、総務省において作成されるマニュアルの徹底が極めて重要であると指摘した。


夏目哲也氏(総務省行政管理局)は、最終報告を踏まえ、国民の利便性の向上や負担の軽減、行政運営の効率化に資するため、案内所の設置や審理等支援要員の育成・派遣などを行う「自治体サポート構想」について解説した。


パネルディスカッション

パネリストとして日弁連行政問題対応センターの石川美津子委員(東京)、矢田圭委員(滋賀)、和田浩委員(京都)が登壇し、質の高い弁明書が適時に提出されることの重要性、理由提示の不備など手続違法に対する審理の在り方、不当を理由とする取り消しについての考え方、付言の取り扱いなど、実務的課題について議論を交わした。また、積み残し課題として、自治体が設置する審議会等に諮問するものについても、審査庁の判断により行政不服審査会への諮問を可能とする制度の構築等を挙げた。



G7 Bars in Germany
5月27日 ドイツ・ベルリン(オンライン併用)

5月27日、G7Bars and Law Societies Roundtable(以下「G7Bars」)が開催された。


G7Barsは、G7首脳会議の開催に併せて、G7参加国の弁護士会等が共通の課題について議論する国際会議である。初回は2017年のイタリア開催のG7に併せて行われ、2019年にはフランスで開催されたが、新型コロナウイルスの影響で2020年と2021年はオンラインで実施された。ドイツのベルリンで開催された本年は、現地開催としては3年ぶりとなる。


今回の会議の主なテーマは、①依頼者と弁護士の間の秘密保護の尊重を求める決議、②人権保障や法の支配の推進等のためにG7における各国法務大臣の会合を求める決議、③ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を非難しウクライナの市民や弁護士への支援を表明する決議の採択であった。


会議では、ホスト国ドイツの弁護士会の進行で、各決議案に関し活発な意見交換が行われた。確定した最終的な決議文のうち、前記③には参加全7か国の弁護士会が、前記①および②については、ABA(米国法曹協会)を除く6か国の弁護士会が賛成した。


日弁連からは、小林元治会長、松村眞理子副会長、国際活動・国際戦略に関する協議会の片山達副議長(第二東京)らが弁護士会館からオンラインで参加し、前記の意見交換に積極的に参加した。小林会長は、会議冒頭の挨拶で、本会議のテーマの一つである通信の秘密の重要性について述べた。国別報告では、松村副会長が、コロナ禍での人権擁護のための取り組みや民事法律扶助制度の改革等について報告を行った。

(国際室嘱託 坂野維子)




JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.170

岡正晶最高裁判事を訪ねて

4-1.jpg

2021年9月3日付けで弁護士(第一東京)から最高裁判事に就任した岡正晶氏を訪ね、現在の執務状況や今後の抱負、会員へのメッセージ等を伺いました。

(広報室嘱託 田中和人)


最高裁判事に就任して

判事になって実感するのは、社会では実に多様でたくさんの紛争・事件・事故が起こっているということです。社会の安定や安心のために、裁判・司法の役割はとても重要で、それが多くの司法関係者の奮闘によって支えられていること、自分もその一翼を担っていることを日々感じています。


弁護士時代も専門分野を中心に紛争解決に取り組んできましたが、判事という立場となり、裁判所が紛争解決に果たしている役割をより深く知ることができるようになりました。


最高裁判事としての生活

職務の中心は裁判事務です。平日は9時半ごろに登庁して16時半ごろに退庁します。新件の数は平均すれば一日十件ほどでしょうか。平日に十分な検討時間が取れない事件については、休日に自宅で対応しています。


弁護士生活と比べると、オンとオフのメリハリがありますね。夕方以降も仕事をして夜遅くに帰宅することが多かった弁護士時代とは違い、今は執務終了時刻までに集中して仕事をこなし、夕方には帰宅するという生活です。


ただ、多くの生々しい紛争等と毎日向き合いますので、心と体がとても疲れるというのが正直な感想です。仕事の合間に、執務室に飾った家族写真や広い窓から皇居の豊かな緑を見て癒やされています。また、時間を見つけて趣味の山歩きなども楽しんでいます。何より、家族で過ごす時間と孫の成長が原動力ですね。


多角的な深みのある議論を尽くす

対面評議を行う事件では、判決や上告受理申立書などの一件記録、判例・文献などを精査・検討した上で評議に臨みます。


小法廷の評議では、5人の判事が一人一人、自分が最終責任を負っていることを大前提に議論を重ね、合議体としての結論を出していきます。他の判事の発言に、なるほどそういう見方があるのかと刺激や示唆を受けることも多く、多角的な評議ができていると思います。


最近の家事事件、特に、監護権者指定や面会交流といった子どもを巡る判断などは、本当に悩ましいと感じます。また、直接証拠がなく、間接証拠を総合して事実認定しなければならない難しい刑事事件では、ヒリヒリとした緊張感を持ちます。


よく考えて、分かりやすく伝える

私が心掛けていることは、「よく考えて、分かりやすく伝える」ということです。自分の意見を端的に表現するとともに、その論拠を丁寧に伝えることを意識しています。


これは弁護士時代から変わりません。例えば、論文の執筆では、ある論点を記述するに当たって、理解の助けとなる関連論点への言及などを幅広く、積極的に行うようにしていました。


しかし、裁判という司法権力を行使する文書で「分かりやすく伝える」という視点は、論文とは全く異なります。


最高裁の判決は、補足意見なども含めて社会に大きな影響を与え得るものです。軽々であってはならないのはもちろんですが、その判断が、拡張・縮小のいずれの方向でも、予期せぬ影響を及ぼしてはいけません。そのため、判決の射程についても吟味して、何をどこまで、どう表現すべきかを慎重に検討しています。


最高裁の判決・決定としての「分かりやすさ」とはどういうものか、少数意見の在り方・書き方などについて、これからもっと追求していきたいです。


会員へのメッセージ

裁判に臨むときは、事実審での訴訟活動を大切にしてほしいと思います。もちろん最高裁は独自の立場で事件に向き合い十分な検討を行いますが、事件を担当する弁護士としては、最高裁は事実認定には原則関与しない所という意識を持って、第一審を重視し、そこに全力投球してほしいです。


また、紛争や問題の中には裁判だけでは解決しないものがかなりあると感じます。弁護士として裁判に勝つための努力をすることはもちろんですが、それだけでなく、紛争が真に解決するよう、心理面のサポートなどを含めて頑張ってほしいと感じています。その実践はとても大変なことですが、その役割を担うことができる法曹は弁護士だけです。皆さんの取り組みに期待しています。


岡正晶最高裁判事のプロフィール

1980年 東京大学法学部卒業
1980年 司法修習
1982年 弁護士登録(第一東京弁護士会)
2009年 法務省法制審議会民法(債権関係)部会委員
2015年 日本弁護士連合会副会長・第一東京弁護士会会長
2021年 最高裁判所判事




第64回人権擁護大会・シンポジウム(於:旭川市)にご参加を!

arrow_blue_1.gif第64回人権擁護大会・シンポジウムのご案内


シンポジウム

2022年9月29日(木)12時30分~18時00分

1分科会「高レベル放射性廃棄物問題から考える脱原発」
~原発に頼らない、地域社会と日本のエネルギー自立~
 旭川市民文化会館大ホール


2分科会「デジタル社会の光と陰」
~便利さに隠されたプライバシー・民主主義の危機~
アートホテル旭川ボールルーム


大会

2022年9月30日(金)12時30分~17時00分
旭川市民文化会館大ホール


特別企画

 2022年9月30日(金)9時20分~11時30分
 映画『すばらしき世界』上映
 旭川市民文化会館大ホール


本年9月29日・30日に、第64回人権擁護大会が北海道旭川市で開催されます。コロナ禍が続いており、昨年の岡山大会に続いて全体懇親会はありませんが、前日9月28日のゴルフ、大会翌日10月1日の日帰り観光・1泊2日観光など旭川を楽しんでいただける企画を設けておりますので、ぜひ旭川にお越しいただければ幸いです。詳しくはパンフレットや日弁連会員専用サイトのご案内をご覧ください。


旭川での人権擁護大会は、1990年の第33回大会以来となります。32年前の大会でも幌延町の放射性廃棄物処理施設に関する決議がされましたが、今大会のシンポジウム第1分科会「高レベル放射性廃棄物問題から考える脱原発」は、寿都町および神恵内村で開始されている最終処分場選定手続問題等を取り上げながら、再び旭川の地で原発について考える機会となります。第2分科会「デジタル社会の光と陰」は、デジタル社会の進展とプライバシー保護の緊張関係がまさに最前線の人権問題であることを明らかにする分科会となっております。ぜひご参加ください。


また、旭川刑務所からの出所シーンから始まる役所広司さん主演の映画『すばらしき世界』の上映会も30日午前中に企画しております。お時間のある方はこちらもぜひご参加ください。


昨年に引き続き、シンポジウムと本大会はウェブ配信予定ですので、旭川にお越しになれない方も、事務所やご自宅でご視聴いただけます。


旭川弁護士会一同、皆さまのご参加を心よりお待ちしております。


(旭川弁護士会 第64回日弁連人権擁護大会実行委員会事務局長 丸山冬子)




ブックセンターベストセラー (2022年5月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元名

法律事務職員研修「基礎講座」テキスト2022年度

東京弁護士会弁護士業務改革委員会/編 東京弁護士会

プライバシーポリシー作成のポイント

白石和泰、村上諭志、溝端俊介/編集代表・小林央典、野呂悠登/編著


中央経済社

法律事務職員研修「中級講座」テキスト2022年度

東京弁護士会弁護士業務改革委員会/編 東京弁護士会
不貞行為に関する裁判例の分析 大塚正之/著 日本加除出版
7士業が解説 弁護士のための遺産分割 狩倉博之/編著 学陽書房

個人情報保護法[第4版]

岡村久道/著 商事法務

第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務

片岡武 管野眞一/編著 日本加除出版

弁護士報酬基準等書式集[改訂3版]

弁護士報酬基準書式研究会/編 東京都弁護士協同組合

弁護士の現場力 破産事件編

破産事件の現場力研鑽会/編 ぎょうせい
10

即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務

松本哲泓/著 新日本法規出版
新労働相談実践マニュアル 日本労働弁護団/編集 日本労働弁護団



日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング(家事編) 2022年5月~6月

日弁連会員専用サイトからアクセス

順位 講座名 時間
1 令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント 118分
2 LAC制度の概要 12分
3 建物明渡請求訴訟〜正当事由の主張立証を中心に〜 164分
4 交通事故を中心とした偶発事故対応弁護士費用保険について 38分
5 労働問題の実務対応に関する連続講座(2021)第4回「セクハラ・パワハラ・労 災」 175分
6 個人情報保護法2020年改正を踏まえた個人情報取扱の留意点 113分
7 【コンパクトシリーズ】戸籍・住民票等の取得(職務上請求)の基本〜戸籍、住民 票の写し、固定資産評価証明書自動車の登録事項等証明書の取得について〜 34分
8 交通事故の実務に関する連続講座 第1回 交通事故をめぐる保険と損害賠償

148分

9 離婚事件実務に関する連続講座 第1回 総論〜相談対応・受任から調停(調停に おける代理人のあり方)審判・人訴・離婚後の手続(氏の変更等) 117分
10 できる!インターネット被害対応2020-入門編- 113分

お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9927)