在外日本国民の国民審査に関する最高裁判決についての会長声明


本年5月25日、最高裁判所大法廷は、最高裁判所裁判官国民審査法について、海外に在住する日本国民(以下「在外国民」という。)に最高裁判所裁判官の国民審査権(以下「国民審査権」という。)の行使を全く認めていないことは憲法15条及び79条に違反するとし、また、在外国民が国民審査権を行使する制度の創設について立法府たる国会が立法措置を何らとらなかったことにより国は国家賠償法上の賠償責任を負うとし、さらに、次回の国民審査で在外国民について国民審査権を行使させないことは違法と認められるとする判決(以下「本判決」という。)を下した。


憲法79条が定める国民審査権は、公務員の選定・罷免権を国民固有の権利と定める憲法15条に由来するもので、最高裁判所が違憲立法審査権を有することを踏まえて憲法が保障した、主権者たる日本国民の最も基本的かつ重要な権利の一つである。本判決は、国民審査権は参政権とは権利の性質及び重要性に本質的な差異があるとする国の主張を排斥し、かかる国民審査権の意義を明確に確認した上で、在外国民に国民審査権の行使を全く認めていないことを違憲とし、更に国会の立法不作為を認めたものであり、高く評価する。


当連合会は、1996年5月1日、衆参両議院議長や内閣総理大臣等に対して、在外国民が国民審査権を行使できるよう公職選挙法、最高裁判所裁判官国民審査法等の所要の改正をするよう→要望し、2002年7月30日にも同趣旨の→勧告を発した。その後も、在外国民が国民審査権を行使できるような立法や措置を全くとろうとしなかったため、2012年3月28日に改めて、衆参両議院議長や内閣総理大臣等に対して、所要の法改正を行うよう強く→勧告した。


しかしながら、その後も所要の法改正は行われず、在外国民のうちの推定審査投票権者約100万人(2021年(令和3年)10月1日現在の在外国民134万4900人の約75%)が国民審査権を全く行使できない状況にある。国は、海外に在住するという理由だけで、主権者としての国民の重要な権利が行使できない状況を長期間放置していたのであって、その不作為が違法であると判断されたことの責任を重く受け止めるべきである。


当連合会は、衆参両議院が、全ての在外国民の国民審査権が保障されるよう、速やかに最高裁判所裁判官国民審査法等を改正し、在外国民が国民審査権を行使する制度を創設することを強く求める。  



 2022年(令和4年)6月1日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治