出入国管理及び難民認定法改正案に反対する会長声明
政府は、本年3月7日、出入国管理及び難民認定法改正案(以下「本改正案」という。)を国会に提出した。
本改正案は、在留特別許可申請手続の新設、被収容者の処遇に関する手続規定の整備、収容に代わる監理措置制度の創設、難民申請者に対する送還停止の効力の一部解除、難民に準じた者の補完的保護制度の創設、送還に応じなかった者に対する刑事罰を含む退去命令制度の創設などの内容を含むものであり、2021年の通常国会で審議された旧改正案について、収容を回避する枠組みとして収容と監理措置のいずれかを選択できるとの建前をとった上で、収容の要否を3か月ごとに必要的に見直す規定を創設し、監理措置制度における監理人の定期報告義務を削除するなど一部修正を加えたものと言える。
しかしながら、本改正案は、①人身の自由が尊重されるべきことは基本的人権の本質的要請であり、その制限は必要最低限度とされるべきであるにもかかわらず、収容と監理措置の選択を主任審査官の判断に委ね、収容に関する司法審査の導入や期間の上限設定を見送るものであって、現行の収容制度を抜本的に改善し得るものではない。また、本改正案は、②支援者や弁護士らに対してその立場と相容れない役割を強いる監理措置制度を新設し、③難民条約のノン・ルフールマン原則に反するおそれがある難民申請者に対する送還停止の効力の一部解除を認め、④必要性と相当性を欠く退去命令と罰則を新設するなど、旧改正案でも指摘されていた多くの深刻な問題を含むものであり、これらの問題には旧改正案の審議に当たり当連合会が既に述べた反対意見がそのまま妥当する(2021年2月26日付け「出入国管理及び難民認定法改正案(政府提出)に対する会長声明」、同年3月18日付け「出入国管理及び難民認定法改正案に関する意見書」、同年5月14日付け「入管法改正案(政府提出)に改めて反対する会長声明」)。
本改正案には、送還停止の効力の一部解除について3回目以降の難民申請でも難民等と認定すべき「相当の理由がある資料」を提出した場合には送還停止の効力が維持されるとの例外規定が設けられているが、例外に当たることを理由に争う制度や例外に当たるか否かの判断についての第三者機関等によるモニタリングを併せて設けるものではなく、かかる例外規定によって前記③の問題が払拭されるとは言えない。
また、本改正案で加えられた修正についても、収容の要否を3か月ごとに必要的に見直すとした点は、収容の要否を裁判所等の第三者に審査させるものではなく、当事者たる所轄庁が自ら検討判断するものにすぎない。監理措置制度における監理人の定期報告義務を削除するとした点も、主任審査官が求めた場合には監理人に報告義務が別途課されるものであることからすれば、本改正案による旧改正案の修正はいずれも不十分であると言わざるを得ない。
そして、2021年に旧改正案が廃案となった後も、名古屋出入国在留管理局で同年3月6日に発生した被収容者の死亡事件の真相究明がいまだ果たされていないばかりか、2022年11月18日に東京出入国在留管理局の収容施設内で被収容者の死亡事件が新たに発生したり、難民不認定処分に対する異議申立棄却決定の告知直後の送還を裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害等するものであり違法とした東京高等裁判所判決(2021年9月22日)や東日本入国管理センターで発生した被収容者の死亡事件について国の責任を認めた水戸地方裁判所判決(2022年9月16日)が出されたりするなど、日本の出入国在留・難民認定制度における多数の問題が顕在化している。
また、2022年10月に国連自由権規約委員会により行われた第7回日本政府報告書審査の総括所見でも、収容期間に上限を設けるべきこと、収容に関し裁判所の実効的な審査を確保すべきこと等について勧告を受けている。さらに、日本の難民認定率の低さについても懸念が示され、国際基準にのっとった包括的な難民保護法制の採用が勧告されている。
当連合会は、これらの出入国在留・難民認定制度の問題や国際的な水準を顧みて、本改正案に含まれる前記の深刻な問題が抜本的に修正されない限り、本改正案には反対である。
当連合会としては、2022年9月15日付け意見書「出入国在留・難民法分野における喫緊の課題解決のための制度改正提言 ~あるべき難民、非正規滞在者の正規化、送還・収容に係る法制度~」で指摘したとおり、出入国在留管理庁から独立した難民認定機関を設置して適正な難民認定を担保すること、収容施設への収容期間に上限を設け、収容に裁判官の令状を必要とする司法審査を導入すること等により、国際水準に適った人権保障を実現し得る法改正を求めるものである。
2023年(令和5年)3月9日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治