出入国管理及び難民認定法改正案(政府提出)に対する会長声明



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政府は、本年2月19日、出入国管理及び難民認定法改正案を国会に提出した。


同法案は、在留特別許可申請手続の新設、被収容者の処遇に関する手続規定の整備、収容に代わる監理措置制度の創設、難民申請者に対する送還停止の効力の一部解除、難民に準じた者の補完的保護制度の創設、送還に応じなかった者に対する退去命令制度(刑事罰を含む。)の創設などの多くの内容を含んだ改正案である。


当連合会は、下記の問題点等について抜本的な修正がなされない限り、同法案に反対である。


1 収容の長期化を防止するために、かねて当連合会が主張してきたとおり、収容の要件及び収容期間の上限を定めた上で、裁判所によって収容の可否及び期間を審査する制度を創設するべきであるが、今回の改正においてもこの点の改正が見送られた。国会においては、この点の修正を行い、これに伴って各種の制度枠組を構築し直すべきである。


2 収容に代わる監理措置は、不必要な収容を防ぎ、対象者が社会において生活をすることができる制度とされ、同制度における監理人になる者は、支援者や弁護士等が想定されている。しかし、監理人は、対象者の生活状況、許可条件の遵守状況を監督し、その状況を国に届け出る義務を負い、これに反すれば罰則を科せられ得るとされた点に大きな問題がある。即ち、上記届出義務は、支援する者という立場と相容れない監視する者としての役割を強いることになるため、支援者は監理人に就任しがたい。また、弁護士は、当局に対する各種申請の代理人や訴訟代理人として、対象者の利益を守り、守秘義務を負うが、この立場と監理人の当局への上記届出義務は両立しがたく、弁護士も監理人に就任しがたい。このように、監理人に厳格な届出義務が課される結果、監理人となる者は見出しがたく、不必要な収容の回避という制度目的は達成できない。


また、収容令書発付段階での監理措置において一定の条件下での就労が認められることとされたのに対し、退去強制令書発付後の監理措置では就労が認められないが、退去強制令書発付後であっても、難民不認定処分や退去強制令書発付処分の取消訴訟が相当期間行われ得ることなどを考慮すれば、就労が認められることとするべきである。


3 在留特別許可申請手続が創設され、家族の事情、日本における在留の期間などが積極要素として明記されたが、他方で、1年を超える実刑の刑事処分を受けた者等は原則として在留特別許可を認めないこととされている。しかし、家族の統合及び子どもの最善の利益を積極的に考慮すべきことを事情要素として明記すべきである一方、刑罰前科の存在は、その内容により消極的な考慮事情要素の一つと位置付けることがやむを得ないとしても、原則的な不許可事由とすべきではない。また、手続に当たっては、申請者が意見を述べる機会、代理人を選任する権利などを明記するとともに、退去強制令書発付後の申請も認めるべきである。


4 法案は、難民条約に規定する難民に該当しないものの、条約上あるいは人道上の観点から国際的にも保護されるべき者について、「補完的保護対象者」として保護する制度を設けた。しかし、難民条約の規定ぶりにとらわれるあまり、補完的保護対象者を難民条約上の難民に準じる者に限定しており狭きに失している。EUその他の国の定義を参照しつつ、紛争地から逃れてきた者などを適切に保護する定義を規定するべきである。


5 法案は、3回以上の難民認定申請者等について、原則として送還を停止する効力を解除することとしている。しかし、難民認定手続の適正化に向けた法整備や具体的措置を先行させるべきであり、ノン・ルフールマン原則(迫害を受けるおそれのある国への追放・送還を禁じる国際法上の原則)に反するおそれがあることから、反対である。仮に、このような送還停止効の解除を行う規定を設けるとしても、出身国の情勢や申請者を巡る状況は日々変わることなどを想起し、送還停止効の解除の例外に当たることを争うことのできる手続を設けるべきである。また、送還停止効の解除の例外に当たるか否かの判断について、第三者機関などによるモニタリングが実施されるべきである。


6 退去強制令書の発付を受けた者に対する退去命令を発して、これに従わないときは刑事罰を課する制度の創設については、法案は、対象となる者を一定の者に限定したが、刑罰をもってして強制することの必要性を欠き、なお要件の明確性も欠くから削除されるべきである。



 2021年(令和3年)2月26日

日本弁護士連合会
会長 荒   中