出入国在留・難民法分野における喫緊の課題解決のための制度改正提言 ~あるべき難民、非正規滞在者の正規化、送還・収容に係る法制度~

2022年9月15日
日本弁護士連合会


本意見書について

日弁連は、2022年9月15日付けで「出入国在留・難民法分野における喫緊の課題解決のための制度改正提言~あるべき難民、非正規滞在者の正規化、送還・収容に係る法制度~」を取りまとめ、同年10月6日付けで、法務大臣及び出入国在留管理庁長官宛てに提出しました。


本意見書の趣旨

本提言は、現行の出入国管理及び難民認定法の下で、「外国人」に対する、入管収容施設での死亡事件が後を絶たない等の深刻な人権侵害状況を一刻も早く改善し、更なる人権侵害事件の発生を防ぐため、そして、外国籍者等の基本的人権を、日本社会の中で生活を営む個人として、日本国籍者と同様に保障するため、出入国在留・難民法分野における制度改革の在り方を示すものです。


具体的な提言の概要は、以下のとおりです。


○難民認定制度(提言「第3」)

1 難民認定に係る判断主体・担当組織の独立

 ① 難民認定(一次)機関

  ・ 法務省、入管庁及び外務省から人的にも財政的にも独立した難民認定機関を設置し、同機関において専門性を有する難民認定官が調査と判断を担当する。

 ② 不服申立機関

  ・ 独立した行政委員会(法務省、入管庁、外務省及び一次審査機関からも独立)を新たに設立し、不服審査業務を行う。

  ・ 委員の任命に当たり内閣総理大臣が両議院の同意を得て政治的中立性を図る。

  ・ これに伴い、現行の難民審査参与員制度は廃止する。

※①②とも、入管庁との人事交流・異動は行わない。


2 難民に関する具体的要件の明文化

  ・ UNHCRの基準や見解に依拠すること、難民条約締約国における処分例や裁判例も踏まえた難民認定の基準を設定し公表することを法律上明記する。


3 難民認定・不服申立手続における手続保障の整備

  ・ 行政手続法の適用除外を廃止、不服申立制度の行服法の読替規定を撤回する。

  ・ 弁護士代理権(面接立会い含む)、インタビューの全件録音録画と開示などを法律で保障して、実質的な適正手続を担保する。

  ・ 出身国情報の公開を制度上保障する。


4 UNHCRの役割の明記と具体的関与

  ・ UNHCRの役割を国内法に規定、個々の難民認定申請に関する情報を参照した上での具体的なケースレビューを可能とする。


5 補完的保護における保護基準の明文化

  ・ 送還が拷問等禁止条約3条1項及び強制失踪条約16条1項に当たる場合の保護を明記、欧州資格指令やUNHCRが拡大した難民の定義などを参照する。

  ・ 対象は正規在留者も明示的に含め、補完的保護の判断に対する不服申立ても制度化する。


6 上陸時及び申請中の地位

  ・ 難民申請者の法的地位を法律により定める。

  ・ 就労が認められない難民申請者(仮滞在・仮放免許可者等)についても、申請後6か月間が経過した場合には就労を認める制度とする。就労ができない申請者も安定的生活支援制度を構築して生存権を確保する。

  ・ 一時庇護上陸許可を法律上より広く認める。


○非正規滞在者の正規化制度・退去強制制度(提言「第4」)

<退去強制手続>

  ・ 外国人の出入国に関する処分全般について行政手続法・行服法における適用除外を撤廃する。

  ・ 未成年者に対する必要的意見聴取手続を法律上明記する。

  ・ 違反調査・審査手続への代理人関与・立会権を法律上明記する。

  ・ 手続の前段階で作成・収集された記録の開示を認める。


<在留特別許可>

 ① 実体的要件

  ・ 在特判断の考慮事項として、自由権規約、子どもの権利条約等の国際人権条約により保護すべき権利(家族の分離の禁止、子の最善の利益等)を特に考慮する積極要素として法律上明記する。

  ・ 日本で成長してきた未成年者やその家族、一定期間以上日本を生活の本拠としてきた者など、一定の場合は、必ず在留特別許可を付与することを法律上明記する。

  ・ 比例原則に基づき、消極事情のある者であっても保護すべき利益との比較衡量により判断するべきことを法律上明記する。

 ② 手続的要件

  ・ 在特許可を含む外国人の出入国に関する処分について行政手続法・行服法における適用除外を撤廃した上で、在特許可を求める申立てを、退去強制令書発付の前後を問わず保障する。

  ・ 未成年者に対する必要的意見聴取手続を法律上明記する。

  ・ 条約機関の解釈を重視することを法令で明記、また、第三者機関の創設等の方策も検討する。


<送還>

  ・ 訴訟提起の機会を保障する制度を明記、送還予定時期に係る通知の対象範囲を拡大させる。

  ・ 出国費用の自己負担が難しい者は国費により速やかに送還することや、帰国希望者への支援(帰国後の生活支援等)を法律上明記する。

  ・ 上陸拒否の特例の対象拡大、判断基準を明記し透明性を向上させる。


○収容制度及び・収容中の処遇(提言「第5」)

<収容制度>

 ① 収容制度全般と収容の実体的要件

  ・ 入管収容を目的達成のため最終手段として法的に位置付けるべく、制度全体を解体的に見直す。

  ・ 収令収容(退令前収容)の実体的要件として、a嫌疑要件、b証拠隠滅要件、c逃亡要件、d必要性・相当性・補充性(収容代替措置その他の収容に代わる方法の不存在)要件のうち、adに加えb又はcの要件充足を明文で要求する。

  ・ 退令収容(退令後収容)の実体的要件として、cdの要件充足を明文で要求する。

 ② 収容の手続的要件

  ・ 退令前収容・退令後収容ともに、裁判官の事前に発付する令状によってこれを行う制度に改め、令状主義を全面適用する。

  ・ 令状発付後、収容の要件を欠くに至った場合、退令前・退令後収容ともに、申立て又は職権に基づき裁判官が収容取消を行う制度を新設する。

  ・ 退令後収容については、期間の通算上限を設けるとともに、一定期間ごとに裁判官による更新手続を要する仕組みに改める。

  ・ 退令後収容については、裁判官の判断に当たって、現行の法52条5項の「送還可能のとき」に至っていないかという観点からも審査する。

 ③ 収容の期間

  ・ 退令前収容は、原則10日間、延長1回最大10日間

  ・ 退令後収容は、原則10日間、延長1回最大1か月間、最長通算6か月間以内

 ④ 不服申立手続

  ・ 退令前・退令後収容の令状発付処分に対し、刑事手続の準抗告(・特別抗告)に準じた簡易迅速な不服申立て方法を整備する。

 ⑤ 収容代替措置

 ⑥ 仮放免制度

  ・ 仮放免制度も、少なくとも刑事手続の保釈制度並みに司法判断に服させる制度として再構築する。

  ・ 許可条件についても、行動範囲の制限や就労の制限は、事案の具体的状況に応じて必要最小限の制約になるよう、かつ、仮放免者の生命・身体の安全が確保されるように設定することを義務付ける。

 ⑦ 非収容時の生存権の保障

  ・ 生存権保障の観点から、生計維持に必要な就労を認めるべきであり、認めないのであれば、少なくとも生活保護水準と同等の生活を保障する。

  ・ 行政サービスを受ける上での支障がないよう住民登録の対象とする。


<収容中の処遇>

 ① 入管収容における行動制限は必要最小限とすること

 ② 拷問、残虐な、非人道的な、若しくは品位を傷つける取扱いの禁止

 ③ 有形力行使の制限

 ④ 処遇から独立した医療

  ・ 医療の要否に関する診療の必要性(医療の継続や外部診療の必要性を含む)は、専ら医療的な見地から判断され、入管の介入を排除する。

  ・ 被収容者の身体的又は精神的健康が、収容の継続によって悪化する場合には、収容の継続の可否について医師の判断に原則として所長は従うよう法律上明記する。

  ・ 医療情報の一元化を図る。

  ・ インフォームドコンセントの徹底、診療記録開示請求や収容からの解放時における診療情報提供書の作成の請求に関する規定を整備する。

 ⑤ 処遇に関する不服申立て及び検証の制度の整備

  ・ 処遇に関して、独立した審査機関による不服申立制度を整備し、申立対象には医療措置に対する措置も含め、代理人による申立てを認める。

  ・ arrow_blue_1.gif入国者収容所等視察委員会の改革に関する意見書」(2020年8月20日)の内容を踏まえ、独立性の確保、視察対象事項・範囲の拡張、視察活動の充実のための制度を設け、視察機能を強化する。

  ・ 死亡事案の検証のため、第三者による検証システムを設ける。

  ・ 診療記録や解剖結果、ビデオ等について遺族に開示するシステムを設ける。

 ⑥ 女性等の権利保護

 ⑦ 権利告知及び代理人と面会する権利


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