日弁連新聞 第593号

第74回定期総会
2023年度予算などを可決
6月16日 大阪弁護士会館

第74回定期総会が大阪府で開催され、2023年度予算が議決されたほか、再審法の速やかな改正を求める決議などが可決された。
また、第75回定期総会は東京都で開催することを決定した。


決算報告承認・予算議決

2022年度の一般会計決算は、前年度からの繰越金65億5696万円および当年度の収入52億4893万円に対し、53億4321万円を支出し、当年度の収支は9427万円の赤字となり、次年度への繰越金は64億6268万円となったことが報告され、賛成多数で承認された。


2023年度の一般会計予算は、事業活動収入53億2191万円に対し、事業活動支出65億9245万円、予備費1億円などを計上し、単年度収支13億9053万円の赤字予算とした。新型コロナウイルス感染症の分類が本年5月に5類に変更されたことに伴う会議費支出の増額、弁護士会照会システムの運用開始に伴う支援費支出の新設などを踏まえた予算編成となる。採決の結果、賛成多数で可決された。


えん罪被害者の迅速な救済を可能とするため、再審法の速やかな改正を求める決議を可決

arrow_blue_1.gifえん罪被害者の迅速な救済を可能とするため、再審法の速やかな改正を求める決議


えん罪被害者の救済が遅々として進まない原因は現在の再審制度が抱える制度的・構造的問題にあるとし、その迅速な救済を可能とするため、①再審請求手続における証拠開示の制度化、②再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止、③再審請求手続規定の整備を中心とする再審法の改正を速やかに行うよう、国に対して改めて求め、その実現に全力を挙げて取り組むとする決議を賛成多数で可決した。


地域の多様性を支える中小企業・小規模事業者の伴走支援に積極的に取り組む宣言を可決

arrow_blue_1.gif地域の多様性を支える中小企業・小規模事業者の伴走支援に積極的に取り組む宣言


中小企業・小規模事業者は日本の産業的・文化的多様性を支えており、地域経済・社会の維持・発展にも不可欠な存在であることから、弁護士会と連携し、弁護士が中小企業・小規模事業者の経営課題の設定や解決に向けたプロセスに伴走支援できるようサポートし、さらに伴走支援における弁護士の有用性の広報推進等にも取り組むとする宣言を賛成多数で可決した。


会長選挙規程中一部改正を可決

通信システムを利用した選挙管理委員会への出席を認める改正、現金納付が通例である立候補者の納付金について、リスク管理の観点から銀行振込によることを可能とする改正などを可決した。



「名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案に係る第三者委員会」の提言書について

arrow_blue_1.gif 「名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案に係る第三者委員会」の提言書についての会長声明


6月21日、法務大臣が設置した「名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案に係る第三者委員会」(以下「第三者委員会」)が提言書を取りまとめた。これに対して日弁連は、同日に「「名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案に係る第三者委員会」の提言書についての会長声明」を公表し、法務大臣に提出した。


提言書の背景

2022年12月9日、法務大臣は名古屋刑務所での暴行・不適正処遇事案(2021年11月から2022年8月までの期間、合計22名の刑務官が、3名の受刑者に暴行や不適正な処遇を継続したというもの。以下「本事案」)が発覚したことを公表し、同月26日、再発防止のために第三者委員会を設置した。第三者委員会は、6月21日に提言書を取りまとめて公表した。


会長声明の内容

会長声明では、提言書に関して、本事案の原因・背景事情を名古屋刑務所に限らず、全国の刑事施設に共通する問題と捉えて分析した点について、賛意を示した。


また、再発防止策として、保安を担当する刑務官と教育・心理・社会福祉の専門家がチームを組んで処遇を行うべきとの方向性を示したことや、組織風土そのものを改革していくための方策などを示した点についても、適切な提言であると評価した。


他方、提言書の内容が運用改善の域を出ず、保安の考え方について必ずしも十分な改革の方向性が示されていないこと、保安と医療の分離に言及がなかったことなど、刑事施設全体に関する多くの課題が残ると指摘した。


その上で、まずは提言書の内容を早急に実現すること、刑事施設全体の改革と処遇の充実を進めることが重要であるとした。


会長声明の面談執行

6月21日、末永久大副会長は、法務省矯正局長に本会長声明を手交した。同局長は、提言書の内容はすべて受け止めるつもりであり、提言の実現については定期的に進捗状況を確認し、組織一丸となって対応したいなどと述べた。


(刑事拘禁制度改革実現本部 事務局長 水野英樹)



官報の電子化に当たって破産公告などセンシティブ情報への一定の配慮を求める会長声明

arrow_blue_1.gif官報の電子化に当たって破産公告などセンシティブ情報への一定の配慮を求める会長声明


内閣府の官報電子化検討会議において、電子官報(「インターネット版官報」)を「正本」として位置付けるための検討が進められている。
日弁連は6月19日、「官報の電子化に当たって破産公告などセンシティブ情報への一定の配慮を求める会長声明」を公表した。


破産公告は「手続に一定の利害関係を有する者への告知」のためであり、法令の公布のように「広く一般市民への周知」を目的とするものではない。官報のデジタル化に当たっては、破産者の氏名や住所などのセンシティブ情報を破産法上必要な公告の範囲を超えて、容易かつ簡便に不特定多数の者に提供する結果にならないように留意する必要がある。


現在、国立印刷局が提供しているインターネット版官報は、個人情報への配慮のため、主要検索エンジンの検索対象からウェブサイトを外し、記載されている文字列をコンピュータが画像として認識するように処理が施されたPDF形式でのみ公開するとともに、記載内容もテキスト検索することができないよう設定され、第三者の権利利益を侵害する行為や検索ロボット・クローラ等によるデータ収集行為なども禁止している。


また、現在、国立印刷局が提供している官報情報検索サービス(会員制有料)でも、利用規約において「情報を抽出するために、機械的に検索し情報を収集する処理技術(ウェブクローラ、ウェブスパイダーなど)を利用する行為」を禁止している。官報の電子化に当たっては、最低限この程度の配慮は不可欠であり、これらの行為を防止するための技術的措置を講じるべきである。


また、閲覧・頒布期間を、各公告の趣旨・目的に応じて必要とされる一定の期間に制限するなど必要な対応を取るべきである。


(消費者問題対策委員会  副委員長 三上 理)



ひまわり

この1か月で2回出張の機会を得た。大阪では定期総会開催にご協力いただき、秋田は東北弁護士会連合会定期弁護士大会にお招きいただいた。懇親会も含めコロナ禍前とほぼ同じスタイルでの開催となり、いずれも大盛況だった。準備や当日の運営が大変だったことは想像に難くない。心から感謝したい▼大阪で長い時間を過ごしたのは初めてだ。某テレビ番組で紹介された地下迷宮で迷い、北新地の賑わいに驚く。裁判所前の鳥居が天神祭の鉾流しの場所であることも教わった▼秋田は初訪問。名物や美酒を大いにご馳走にもなった。久保田城跡で歴史と秋田犬に触れ、幅20メートル余の「秋田の行事」に驚嘆した。竿燈まつりのデモを見て実物に思いをはせた▼不案内な土地に行くと、心細くなっているからか、心遣いや親切を身に染みて嬉しく感じる。はるか昔、イタリア・ナポリでトラブルに遭った際、片言の英語で助けてもらいイタリアを大好きになったことを思い出す。また、久しぶりに出張してみると、各国から日本に、各地から東京に来るのがいかに大変か身をもって知らされた▼日本・東京にはるばる来た人の心細さや苦労への想像力を働かせ、ほんの少しでも助けになれればと改めて思う。

(T・S)



シンポジウム
弁護士任官20周年、これまでの成果と課題、今後の克服策
6月3日 弁護士会館

開始から20年が経過した現行の弁護士任官制度は、常勤任官者数が伸び悩む現状にある。これまでの成果を振り返るとともに、課題や今後の対策を検討した。


裁判所から見た弁護士任官

長田雅之氏(最高裁判所事務総局総務局第一課長)は、弁護士任官制度について、豊富な実務経験を有する優れた法律家が裁判所内で活躍するのは極めて有意義だと述べた。任官しやすい環境の整備のためにしてきた採用時期や当初の配置等への配慮について説明し、国民に対する司法サービスの担い手となるにふさわしい弁護士が一人でも多く任官できるよう制度を発展させていきたいと語った。


海外の制度と任官者の声

小川達雄会員(京都)は、韓国、オランダ、ベルギーでは弁護士任官を基礎とした裁判官任用制度が採用され、裁判官業務に当事者代理人としての弁護士経験を生かすことが重要視されていることを紹介した。


工藤涼二会員(兵庫県)は、現役の常勤任官者および退官者へのアンケート結果では、多くが任官経験を肯定的に評価する一方で、初任地や異動など職業生活に関する不安、任官手続に関する課題なども浮き彫りになったと報告した。


パネルディスカッション

弁護士任官者等が、弁護士任官の意義や弁護士経験の有用性を確認した上で、常勤任官者を確保するための課題や改善策を議論した。


弁護士任官者である本多久美子氏(大阪高裁部総括判事)は、任官前は合議の重要性を十分に理解できていなかったと振り返り、任官者数の増加には、弁護士と裁判官が、職業上の苦労や価値、資質を相互に理解し、任官審査段階での評価ギャップを埋めることが重要であると語った。


初任地や任官時期を任官者の状況に配慮して定めることができれば、応募者の増加につながるとして、日弁連と最高裁判所の協議に期待する声も上がった。



日弁連短信

犯罪被害者等支援弁護士制度

画像

現在、犯罪被害者等支援弁護士制度の創設へ向けた動きが急展開を迎えている。


日弁連は、2019年11月22日、「arrow_blue_1.gif国費による犯罪被害者支援弁護士制度の導入を求める意見書」を取りまとめて以来、日弁連が委託事業として行っている犯罪被害者法律援助事業について、その援助費用を給付型の国費負担とする、犯罪被害者支援弁護士制度の導入を訴えてきた。


その後、2020年7月から法務省において開催された犯罪被害者支援弁護士制度検討会での検討を受けて、2021年10月には犯罪被害者支援弁護士制度・実務者協議会が設置された。数年にわたる制度創設の是非・内容等に関する検討・協議を経て、本年4月、実務者協議会による取りまとめが公表されるに至った。取りまとめでは、犯罪被害者等に対する、弁護士による継続的かつ包括的な支援およびこれに対する経済的援助を内容とする制度(犯罪被害者等支援弁護士制度)の必要性がうたわれている。


データ収集・整理

本年6月には、政府の犯罪被害者等施策推進会議において、犯罪被害者等支援弁護士制度の創設へ向け早急に検討を行い、法整備を含めた必要な施策を実施すべきことが決定された。これを受けて、現在、制度化へ向けた作業が急ピッチで進められている。


進行中の作業の一つは、基礎データの収集・整理である。日弁連の犯罪被害者法律援助事業に係る過去のデータの整理のほか、民事法律扶助において犯罪被害者支援関係業務が占める割合等についても、データ収集が行われている。この点については、法テラスと契約している会員の皆様宛てに、法テラスから協力のお願いが出されているところである。


今後の検討

実務者協議会の取りまとめでは、対象犯罪、支援対象者、支援内容等についての大枠は定まっているが、詳細に関してはなお検討を要する点が多い。政府が示すスケジュール感からすると、今後集中的な討議が必要となるだろう。


新制度が実現すれば、久々に、日弁連の法律援助事業が国費を投入した制度に転換することとなる。犯罪被害者の方々、そして会員の皆様にとって、充実した新制度を実現すべく、関連委員会を中心に、日弁連として一層の努力を続けていく決意である。


(事務次長 菊池 秀)



弁護士業務における情報セキュリティ
「基本的な取扱方法」の策定を!

民事・刑事その他の裁判手続のIT化に伴い、法律事務所の情報セキュリティに対する内外の関心が高まっている。これを受け、2022年6月10日、日弁連は「弁護士情報セキュリティ規程」(以下「本規程」)を制定した。
本稿では、今後施行される本規程の内容と、本規程1条に定める弁護士等が策定すべき取扱方法の内容について紹介する。


「弁護士情報セキュリティ規程」の制定

日弁連は、2022年6月10日の定期総会において、本規程を制定した。本規程は「成立の日から起算して2年を超えない範囲内において理事会で定める日」に施行される。弁護士等(本規程1条)は、施行日までに、自らの職務において取り扱う情報の「情報セキュリティを確保するための基本的な取扱方法」(以下「取扱方法」)を定める必要がある(本規程3条2項)。


本規程は全7条のコンパクトな作りとなっているが、これは弁護士の職務の独立性と執務環境の個別性に配慮した結果である。同時に、目まぐるしく変化する技術環境に柔軟に対応していけるよう、具体的な個別の対策を盛り込むことはせず、ある程度時代や環境が変わっても通用するようなセキュリティ対策の大きな枠組みを提示する形をとっている。


規程の内容

「情報セキュリティ」とは、機密性・完全性・可用性が維持された状態と定義されている(本規程2条1項)。情報セキュリティというと、漏えいによる被害のような機密性の観点に意識が向きがちであるが、裁判手続のIT化によって裁判資料の提出や受領をオンラインで行う制度が本格実施されると、完全性と可用性がこれまでとは比較にならないほど重要な要素となってくる。


本規程では、2条2項において情報セキュリティを確保すべき対象として「取扱情報」という概念が定義されている。事件類型や記録媒体にかかわらず、また、通話や会話といった媒体に固定化されていない情報も含め、弁護士が職務上取り扱う情報は基本的にすべて取扱情報に含まれる。しかし、それだけでは範囲が広くなりすぎるため、同項ただし書において、雑誌や書籍のような、移転や廃棄に際して特段の配慮を要しない性質の情報は取扱情報から除外することとしている。


取扱方法の策定

取扱情報の情報セキュリティを確保するため、弁護士等は、①取扱情報の種類、性質等に応じた情報セキュリティに対する危険を把握するよう努め(本規程3条1項)、②把握された危険を踏まえ、執務環境に応じた取扱方法を定めなければならないとしている(本規程3条2項)。


取扱方法の策定に当たって配慮すべき要素は、本規程4条から7条までに定める安全管理措置の具体的内容、情報のライフサイクル管理の方法、点検および改善の方法、漏えい等事故が発生した場合の対応の方法の4項目であるが、これはあくまでも枠組みの目安であり、実際の策定に当たっては、各自の執務環境におけるセキュリティリスクに応じて、実効性のあるルールを定める必要がある。


自らの執務環境において、どのような情報がどこに保管されているか、その取り扱いはどうなっているか、事務所の構成メンバー全員で話し合い、事務所としてのルールを策定していただきたい。会員専用サイトでは取扱方法のサンプルを公開している。参考になれば幸いである。


(弁護士業務における情報セキュリティに関するワーキンググループ  座長 柳楽久司)



第76回 市民会議
オンライン接見の権利化などを議論
6月2日 弁護士会館

本年度第1回の市民会議では、「IT化時代におけるえん罪防止~オンライン接見の権利化に向けて~」などをテーマに、日弁連の取り組みを報告し、議論した。


中村元弥副会長は、遠隔地の警察署や拘置所での適時の接見は現実的に困難が多く、被疑者・被告人が弁護人等から迅速に適切な援助を受けるためには権利としてのオンライン接見が不可欠であると説明した。現在、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会で、警察署等に実施場所(アクセスポイント)を設置する方法によるオンライン接見の導入が議論されているものの、予算等を理由に、権利としての位置付けは困難との意見もあると報告した。


市民会議委員からは、デジタル庁が設置されDXの推進が求められる時代にオンライン接見が実現しないとは信じられない、など驚きの声が上がった。少子高齢化が進む将来への対策としてもオンライン化は当然ではないか、SDGsの理念に基づきインクルーシブな社会を目指す世界的な動きにも反している、他の業界から見ると時代錯誤と感じざるを得ないという意見もあった。先行する民事裁判手続等のIT化で利用者(市民)の利益が重視されたように、刑事手続では被疑者・被告人の利益が最優先されるべきであり、予算は理由にならないとの指摘もあった。また、欧米各国と同等の制度整備やオンライン接見の実現は、日弁連や弁護士会だけでなく社会からの要請であることを示して働きかけを行うべきであるなど、心強い提案もあった。


このほか、大多和暁副会長が、弁護士の懲戒制度や手続の概要を説明し、統計調査に基づく最近の懲戒請求の傾向を紹介した上で、大量もしくは濫用的懲戒請求の論点や日弁連の対応について報告した。


市民会議委員(2023年6月現在)五十音順・敬称略

 井田香奈子 (朝日新聞論説委員)
太田 昌克 (共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
北川 正恭 (議長・早稲田大学名誉教授)
吉柳さおり (株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
河野 康子 (一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金理事長)
清水 秀行 (日本労働組合総連合会事務局長)
浜野  京 (信州大学理事(ダイバーシティ推進担当)、元日本貿易振興機構理事)
村木 厚子 (副議長・元厚生労働事務次官)
湯浅  誠 (社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)



出版記念院内集会
外国籍だと調停委員になれないの?
6月20日 参議院議員会館

arrow_blue_1.gif「外国籍だと調停委員になれないの?」出版記念院内集会


日弁連は、最高裁判所が外国籍の調停委員等の採用拒否を続けている現状などを市民に知ってもらうため、本年4月に書籍「外国籍だと調停委員になれないの?」を出版した。

2003年から20年にわたって続く問題への認識を共有し、外国籍の調停委員等の採用実現へとつなげるべく、院内集会を開催した。


採用拒否経験の報告

弁護士会の推薦を受けながら、調停委員への採用を何度も拒否された経験をもつ白承豪会員(兵庫県)は、帰化しない限り外国籍の会員が調停委員に就任することを認めないのは、基本的人権の救済という最高裁判所の役割と相いれないものであり、民主主義社会の実現を阻害する問題であると批判した。


基調報告

近藤敦教授(名城大学)は、法の規定が存在しないにもかかわらず、公務員就任には「当然の法理」として日本国籍を必要とするという考え方を分析した。その上で、調停委員への就任という自由および権利が、法律の定める手続によらずに制約されている事態は、法の支配に反すると警鐘を鳴らし、司法行政の適正手続違反であると述べた。


パネルディスカッション

高良鉄美参議院議員(沖縄の風)、近藤教授、梁英子元会員が登壇した。


梁元会員は、調停の当事者は国籍を含めて多種多様であり、司法参加の一形態としての調停委員に外国籍の方が増えることはごく自然の流れだと訴えた。行政、教育などさまざまな場面で国籍を理由とする差別が残る中、まずは司法分野での理不尽な外国人排除をなくしたいと語った。高良議員は、立法府の一員として、「当然の法理」が法の支配の原理に反し、人の支配に当たるのではないかという問題意識を持ち続けながら、司法行政が適正な手続の下で行われるよう、今後も活動していきたいと述べた。


近藤教授は、外国籍の方の調停委員等への採用拒否は憲法14条の人種差別の一例として認識する必要があり、少数者にとって最後の砦であるべき最高裁判所が自身の足元での差別を見逃している現状を解決すべく取り組んでいきたいと締めくくった。


参加した国会議員からも、採用実現に向けて活動していきたいとの声が上がった。



シンポジウム
辺野古の海から、考える
地方自治って、何だ?司法の役割って、何だ?
6月5日 弁護士会館

arrow_blue_1.gifシンポジウム「辺野古の海から、考える 地方自治って、何だ?司法の役割って、何だ?」


沖縄県辺野古の新基地建設を巡る争訟では、地方自治の在り方や国と地方の関係、民主主義の意義等、多くの問題が指摘されている。
法的な論点を確認し、これまでの争訟で浮き彫りになった課題を共有すべく、シンポジウムを開催した。沖縄県副知事や国会議員、地元関係者らをはじめ定員を超える会場参加のほか、200人超がオンラインで視聴し、関心の高さがうかがわれた。


基調講演

木村草太教授(東京都立大学)は、辺野古の埋め立てや基地の設置は、条約締結と閣議決定を根拠に進められているが、地方自治への制約であって憲法92条・95条により法律の定めと住民の同意が必要であるとして、手続の適正さに疑問を投げかけた。


白藤博行名誉教授(専修大学)は、沖縄県の設計変更不承認処分を国土交通大臣が取り消した裁決について是認する福岡高裁令和5年3月16日判決は、国の「私人へのなりすまし」を認め、地方自治の本旨を蔑ろにするものであると批判した。


猿田佐世会員(第二東京)は、米国で辺野古問題を理解している議員はほとんどいないと指摘し、沖縄県が米中有事に巻き込まれないためには、米国との事前協議で、在日米軍基地の使用や新基地建設に反対する声があることの発信が重要であると強調した。


パネルディスカッション

木村教授、白藤名誉教授、猿田会員、岡田正則教授(早稲田大学)、加藤裕会員(沖縄)は、辺野古を巡る一連の司法判断が、国民の権利利益ではなく国の権利を優先する展開となっていることに警鐘を鳴らし、行政手続の合憲性、適法性を検証する必要があることを確認した。


岡田教授は、沖縄県が上告受理を申し立てている国の関与取消訴訟に関し、最高裁によって地方自治を尊重した審理がなされるよう訴えた。そして、今後も住民の安全や生命に配慮した審査をする立場にある沖縄県を支援する姿勢を示すとともに、地方自治や司法の適切な運用のため、法律家や市民が辺野古問題を理解し声を上げていく必要があると締めくくった。



シンポジウム
個人情報保護の仕組みと組織の在り方を考える
~個人情報保護を実効あらしめるために~
6月30日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif個人情報保護の仕組みと組織の在り方を考える~個人情報保護を実効あらしめるために~


日弁連は2021年12月17日付けの意見書で、個人情報保護委員会(以下「委員会」)の機能やプライバシー保護の強化を求めている。

本シンポジウムでは、EUとの比較を踏まえ、実効的な個人情報保護の仕組みと運用の在り方を考察した。


基調講演―EUの個人情報保護と日本の課題

宮下紘教授(中央大学)は、EUのデータ保護監督機関がEU基本権憲章およびEU一般データ保護規則(GDPR)によって「完全な独立性」を保障されており、この独立性は政治的影響力の排除、十分な予算と人材の確保および調査等の職権行使への十分な説明責任の負担により担保されるとした。一方、委員会は形式的には独立性が規定されているが、一定の場合に権限を所管大臣に委任することができるなど職権行使の例外規定が多いことや、委員会の権限は民間部門に対しては監督であるが、公的部門に対しては監視にとどまることなどから、運用面で実効性に課題があると指摘した。その上で、委員会には効果的な救済方法の整備や独立調査、調査結果の説明責任、個人情報関連の立法プロセスへの関与といった機能の充実が期待されると語った。


ブルーノ・ジェンカレッリ氏(欧州委員会司法総局データ移転・保護課長)は、独立性が個人情報保護機関を機能させるための要であることを説いた。市民と民間企業・公的機関の仲介者となる個人情報保護機関は、制度上の中立性・独立性だけでなく、中立かつ独立した機関であると外部に認識されることで、個人情報保護機関の持つ権限への信頼を得られるとした。さらに、独立性は新たな技術についての解釈や規制を含む指針を示す際に一貫性を保つ鍵ともなると述べた。


パネルディスカッション

指宿信教授(成城大学)、實原隆志教授(南山大学大学院)、河合晃一准教授(金沢大学)、情報問題対策委員会の森田明副委員長(神奈川県)が登壇し、個人情報に関する同意の考え方や顔認証など具体的場面で生じる法的問題への意見を交わした。コメンテーターの山本龍彦教授(慶應義塾大学大学院)は、個人情報保護法は個人情報の保護とともに情報の利活用を目的として規定するが、土台となるべき個人情報保護の重要性を軽視してはならないと指摘した。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.182

若手チャレンジ基金制度シルバージャフバ賞
受賞者インタビュー

第2回となる2022年度の若手チャレンジ基金制度において、「弁護士業務における先進的な取組等に対する表彰」でシルバージャフバ賞を受賞した4人の会員に、それぞれの活動についてお話を伺いました。

(広報室嘱託 枝廣恭子・李桂香)


「生後0歳0日」の虐待死を防ぐ
真山 萌 会員(仙台)

活動の概要

東北地方で初めて開設された民間の妊娠相談窓口「にんしんSOS仙台」を運営するNPO法人キミノトナリを設立し、同法人の副代表理事を務めています。


予期せぬ妊娠に関する相談を匿名で受け付け、必要な支援につなげています。設置当初から、3日に1件程度、新規の相談が寄せられています。妊娠後期にもかかわらず健診を受診したことのない妊婦から相談を受け、病院や役所に同行したケースもありました。


妊娠によって、貧困や虐待、DVなど本人だけでは乗り越えられない課題が表面化することも少なくありません。住居の確保、生活保護の申請、出産後の手当てなど、難しい状況に適切に対応するため、助産師、看護師、社会福祉士、弁護士などの多種多様な専門職を中心とする12人が相談に応じています。


広がる活動

近時は、相談業務にとどまらず、予期せぬ妊娠などを防ぐために繁華街をさまよう女性に声をかける夜回り活動や、深刻な問題を抱える女性に居場所を提供する「トナカフェせんだい」の運営なども展開しています。


受賞の感想、メッセージ

仙台という一地域での小さな取り組みですが、私たちの活動の意義をくみ取っていただけたと、今回の受賞を非常に嬉しく思っています。法人設立から3年を迎え、今後はさらに多くの方に活動に参加していただければと思っています。各地でさまざまな活動を行っている同世代の弁護士たちと情報を共有し、お互いに刺激し合うことで、取り組みの裾野を広げ、社会を少しずつ良くしていけるのではないかと考えています。


言葉の壁を越えて、リーガルサービスを届ける
加藤 聡一郎 会員(第一東京)

活動の背景、概要

日本の在留外国人のうち、ベトナム国籍の方の数は中国国籍の方に次いで2番目に多くなっています。多数の外国人の刑事事件を担当する中で、ベトナムの方々が日本でさまざまな法律問題に直面していることを知りました。2021年9月、ベトナムの方々のためのウェブサイトを開設し、各種SNSも利用しつつ、刑事弁護に関する法律相談を行ってきました。



広がる活動

相談者からは、刑事事件以外でも多様な相談が寄せられています。賃金の未払い・不当解雇など、雇用主とのトラブルの相談が多い印象です。時には、ベトナム現地の日本人からの相談が寄せられることもあります。


また、駐日ベトナム大使と面会する機会があり、ベトナムの方々は文化の違いや法的知識の不足から逮捕・勾留されるケースが多く、文書による注意喚起を検討していることを聞きました。そこで、在日ベトナム人が巻き込まれやすい事件類型を調査し、2022年8月、ベトナム語でまとめた資料を大使館に提供しました。こうしたトラブルを未然に防ぐ活動にも力を入れていきたいと思っています。


受賞の感想、メッセージ

手探りの活動ですが、チャレンジし続けたことを評価していただき、励みになりました。日本で暮らすベトナムの方々は日本への親愛の情が深く、それが私の支援活動の原動力です。


今後も、積極的にベトナムの方々のコミュニティなどに出向いて活動を周知し、法的サービスを必要としている多くの方に提供し続けたいと考えています。


ウクライナ侵攻に反対するロシア人の言葉や思いを伝えたい
加部 歩人 会員(東京)

活動の背景

大学でロシア語を学習した経験と弁護士の資格やリソースを生かして、ウクライナ侵攻に反対する日本国内のロシアの方々の活動を支援しています。


ロシアによるウクライナ侵攻が開始した時期に、反戦活動をするロシアの方々に向けたロシア語のメッセージ動画を作成し、YouTubeで公開しました。これが新聞などで紹介され、ロシア国内の報道規制や人権問題について、日本で暮らすロシアの方々から話を聞く機会を得たことが活動の契機になりました。




活動の概要

当時、ウクライナ侵攻に反対するロシアの方の声はほとんど伝わっていないと感じ、ロシアの方々が反戦の思いを語る市民向けイベントを企画・開催しました。参加者は、このイベントをきっかけに日本各地で講演活動などを行っています。反戦の思いを持ったロシアの方々の声が、徐々に社会に届くようになってきたと感じます。


受賞の感想、メッセージ

今後も、ロシアの方々の思いや活動が、日本の市民に伝わるよう、支援を続けていきたいと考えています。また、ロシアから日本へ移住してきた方の法的支援など、弁護士ならではのサポートも広げるつもりです。


弁護士という資格を有することは大きな強みで、さまざまな活動につなげることが可能です。日々の業務との両立は大変なこともありますが、今回の受賞を受けて、自分の持っているスキルを生かし、やりたいことに挑戦するべきだと強く思いました。


全ての法曹のメンタルヘルスを改善したい
三浦 光太郎 会員(第二東京)

活動の背景、工夫

弁護士業務の負担などにより精神面に強い不安を覚えたことがありました。幸いにも先輩のサポートもあって大事には至りませんでしたが、その経験から同じような悩みを抱える法曹を支援したいと思い、「Ami」を設立し、法曹関係者向けのメンタルヘルスに関する講演やカウンセリングなどを行っています。


相談内容として多いのは、仕事のことが頭から離れず休日も気持ちが休まらない、自分の弱みを見せることに無意識の抵抗があり周りの人に相談できず苦しい、などです。Amiで相談を受ける臨床心理士等は、弁護士との協働や弁護士向けの講演を行う者も多く、弁護士特有の事情を理解しています。守秘義務が遵守されたストレスのない相談ができる体制を整えています。


今後の取り組み

Amiが活動を開始して約3年が経過しました。これまでは弁護士個人の相談への対応が主でしたが、今後は法律事務所単位でのサポートにも力を入れたいと考えています。Amiが法律事務所の外部相談窓口の機能を果たすとともに、法律事務所に所属する弁護士を対象として業務による心身への負荷を計測するテストを定期的に実施し、ケアが必要な方の早期発見と早期支援に向けたサービスを提供していきたいです。


受賞の感想、メッセージ

弁護士は、長時間労働や責任の重い業務などで精神的な負担がかかりやすいため、日常的なケアや悪化を予防する知識を持つことが重要です。今後も、メンタルヘルスケアに関する知識や技術の普及に努め、法曹が心身ともに健全に仕事ができるように活動を続けていきたいです。




ブックセンターベストセラー (2023年6月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

弁護士法第23条の2照会の手引〔七訂版〕

第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会/編 第一東京弁護士会
2

労働事件ハンドブック〔改訂版〕 

第二東京弁護士会労働問題検討委員会/編著 労働開発研究会
3

財産管理事件における書記官事務の研究

裁判所職員総合研修所/監修 法曹会
4

調停等の条項例集―家事編―

星野雅紀/著 司法協会
5

発信者情報開示命令活用マニュアル―令和3年改正法対応

中澤佑一/著 中央経済社
6

ChatGPTの法律

中央経済社/編 田中浩之、河瀬 季、古川直裕、大井哲也、辛川力太、佐藤健太郎、柴崎 拓、橋詰卓司、仮屋崎崇、唐津真美、清水音輝、松尾剛行/著 中央経済社
7

民事反対尋問のスキル〔第2版〕

京野哲也/著 ぎょうせい
8

実践講座 民事控訴審

佐藤陽一/著 日本加除出版
9

注釈労働基準法・労働契約法 第1巻

荒木尚志、岩村正彦、村中孝史、山川隆一/編集 有斐閣
10

失敗事例でわかる! 民事尋問のゴールデンルール30

藤代浩則、野村 創、野中英匡、城石 惣、田附周平/著 学陽書房


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eラーニング人気講座ランキング(家事) 2023年6月~7月

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順位 講座名 時間
1 よくわかる最新重要判例解説2023(家事・相続編) 115分
2 2022年度ツアー研修 第2回 相続分野に関する連続講座2022(第1回)遺産分割1(相続人確定、遺産範囲・評価、遺産分割の手続等) 148分
3 2022年度ツアー研修 第3回 相続分野に関する連続講座2022(第2回)遺産分割2(特別受益、寄与分、平成30年・令和3年民法改正) 129分
相続分野に関する連続講座2022(第4回)遺言執行 109分
5 2022年度ツアー研修 第4回 相続分野に関する連続講座2022(第3回)遺言書作成、遺留分 147分
6 離婚事件実務に関する連続講座 第4回 婚姻費用・養育費(2022) 90分
7 遺産分割調停・審判の実務 110分
8 遺言書作成におけるトラブル予防と遺言執行トラブル対応 120分
9 遺言・相続全国一斉相談会 事前研修 ~相続法改正を踏まえて~ 98分
10 2019年12月改定版標準算定方式養育費・婚姻費用算定の実務(基礎と応用への展開) 137分


お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9826)