「名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案に係る第三者委員会」の提言書についての会長声明


本年6月21日、法務大臣が設置した「名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案に係る第三者委員会」は、提言書を取りまとめて公表した。


同委員会は、2021年11月から2022年8月にかけて、合計22名の刑務官が、3名の受刑者に対して、暴行や不適正な処遇を継続して行ってきたこと踏まえて、その再発防止のために設置されたものである。


本提言は、その原因・背景事情について、名古屋刑務所に限られた問題ではなく、全国の刑事施設に共通する問題として、被収容者の人権尊重の意識が薄いこと、規律秩序の維持を過度に重視していること、個々の受刑者の特性に応じた処遇を行う体制にないことなどがあると分析している。名古屋刑務所に限った問題であるなどと対象を矮小化せず、刑事施設全体の問題と捉えて原因等を分析した点について、率直に賛意を示すところである。また、再発防止策として、保安を担当する刑務官と教育・心理・社会福祉の専門家がチームを組んで処遇を行うべきとの方向性を示したこと、人権意識が希薄で規律秩序の維持を過度に重視する組織風土そのものを改革していくための方策などを内容としており、原因や背景事情を踏まえた適切な提言である。約6か月の短期間で、このように相当踏み込んだ分析、検討を加えた本提言を取りまとめたことは積極的に評価したい。


他方で、本提言の内容がいずれも制度の運用改善の域を出ていないことの不十分さは指摘せざるを得ない。例えば、刑事施設視察委員会の権限の強化、懲罰制度の改革、不服申立制度の改革などについて、法改正による制度の改革に踏み込むことが必要なものである。また、被収容者情報の蓄積と一元管理に伴って必要となる個人の権利の保護措置について示されなかったこと、保安に対する考え方について必ずしも十分な改革の方向性が示されていないこと、保安と医療の分離について言及されなかったこと等、ほかにも刑事施設全体に関する多くの課題が残されている。


このように不十分な面はあるものの、本提言がまとめられた意義は大きく、まずはその実現が強く求められる。特に近時の刑法改正に伴い、懲役刑と禁固刑が廃止されて、受刑者の個々の特性に応じた処遇が求められる拘禁刑が導入されることを踏まえると、早急に本提言の実現に着手し、刑事施設全体の改革と処遇の充実を進めることが重要である。


当連合会は、刑事施設において人権を尊重した適正な処遇がなされるよう、更なる制度と運用の改革に向けて引き続き尽力していく。



2023年(令和5年)6月21日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治