官報の電子化に当たって破産公告などセンシティブ情報への一定の配慮を求める会長声明


内閣府は、2023年1月の閣議了解を経て、電子官報(「インターネット版官報」)を「正本」として位置付けるため、官報の発行に関する新法の検討を開始した。2023年3月から開催している官報電子化検討会において、近々取りまとめを行うとのことである。


官報の掲載事項には、破産公告として、破産者のセンシティブ情報も含まれるところ、官報の電子化に当たっては、個人情報への配慮が必要であることはいうまでもない。検討会で示された官報電子化の基本的方針(案)でも、特定の名宛人を対象とする処分等に関するものについては、「永続的にインターネットによる公衆の閲覧に供し続けることは、個人情報への配慮の観点から望ましくない場合もあり得る」とし、また「適切な技術を活用し、個人情報への配慮のための必要な措置をとることも必要である。」としており、かかる観点は重要である。


当連合会は、「arrow_blue_1.gif公告された破産者情報を含む「本人が破産、民事再生その他の倒産事件に関する手続きを行ったこと」に関する情報の拡散を防止する措置を求める意見書」(2020年7月16日)及び「arrow_blue_1.gif破産者情報を拡散するウェブサイトによる個人の権利利益の侵害を防ぐため、抜本的な対策をとることを国に求める会長声明」(2022年8月25日)を公表している。同声明においては、国に対し、「公告により公表された破産者情報を拡散するウェブサイトによる個人の権利利益の侵害を防ぐために、インターネット時代における破産公告の在り方を検討しつつ、更に抜本的な対策をとること」を求めた。


しかし、2022年6月に公開された「新・破産者マップ」は今も閉鎖されず、公開され続けている。そして、破産者の情報を非表示にするためには、所定の手数料がかかるとして金銭を要求するなど官報に掲載された情報が公告の趣旨・目的とは無関係に営利目的や犯罪に利用され、結果的に破産制度の「経済生活の再生の機会の確保」(破産法第1条)という趣旨を失わせる事態が続いている。


このような状況の中で、官報を電子化するのであれば、破産者の氏名や住所などのセンシティブな情報を、破産法が想定している公告の範囲(破産者との間で債権債務関係を有するなどの利害関係人への告知)を超えて、容易かつ簡便に不特定多数の者に提供する結果にならないように、留意する必要がある。


この点、現在、国立印刷局が提供しているインターネット版官報は、個人情報への配慮のために、主要検索エンジンの検索対象から、ウェブサイトを外し、記載されている文字列が画像としてのみコンピュータが認識できるような処理が施されたPDF形式でのみ公開するとともに、記載内容もテキスト検索することができないよう設定されている。同ウェブサイトの「ご利用に当たって」においては、禁止事項として、「第三者の権利利益を侵害する行為」「検索ロボットやクローラ等によるデータ収集行為」などが示されてもいる。また、現在、国立印刷局が提供している官報情報検索サービス(会員制有料)でも、利用規約において「本サービスから情報を抽出するために、機械的に検索し情報を収集する処理技術(ウェブクローラ、ウェブスパイダーなど)を利用する行為」を禁止している。今後、電子化された官報についても、最低限この程度の配慮は不可欠であるため、同様の行為を明確に禁止するとともに、できるだけこれらの行為を防止するための技術的措置を講じるべきである。


また、破産公告については、所定の異議申立期間、意見申述期間等が経過すれば、本来の目的は達するところ、これを永続的にインターネットにより公衆の閲覧に供し続けることは、個人情報への配慮の点から望ましくないと考えられる。官報を電子化するのであれば、その閲覧・頒布期間を、各公告の趣旨・目的に応じて必要とされる一定の期間に制限するなど必要な対応をとるべきである。


さらに、指定信用情報機関以外の者が、官報に掲載された個人の破産者の情報を第三者に提供することを禁止する旨を定め、違反した場合の罰則を定めることも検討すべきである。


当連合会は、改めて国に対し、官報の電子化に当たっては、拙速な議論にならないように、破産公告などのセンシティブな情報の取扱について、上記の各論点のほか、このインターネット時代における公告の在り方をどう考えるかという問題を含め、破産者の経済生活の再生の機会の確保、名誉・プライバシー、個人情報保護といった観点も踏まえて、十分な検討を求める。



2023年(令和5年)6月19日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治