日弁連新聞 第585号

「民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)の見直しに関する中間試案」に対する意見書を公表

arrow_blue_1.gif「民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)の見直しに関する中間試案」に対する意見書


法制審議会民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)部会において、中間試案が取りまとめられ、本年8月に意見募集(パブリックコメント)に付された。これに対し、日弁連は、10月18日付けで意見書を取りまとめ、法務省に提出した。


対象となる手続

民事執行法、民事保全法、破産法、民事再生法、会社更生法、非訟事件手続法、民事調停法、労働審判法、人事訴訟法、家事事件手続法等の各種手続である。


中間試案で示された論点

民事訴訟手続のIT化に伴い、右記各種手続においても、①裁判所に対するインターネットを用いた申立て(その義務化など)、②提出された書面等及び記録媒体の電子化(すべての事件について電子化のルールを適用することを基本としている)、③裁判書及び調書等の電子化、④期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用(当該期日の性質を検討した上でウェブ会議を原則とする範囲を検討するなど)、⑤電子化された事件記録の閲覧、⑥送達、⑦その他の各論点が中間試案で示され、これらについて日弁連としての意見を述べた。


各手続における固有の論点

民事執行手続では、売却決定期日を経ない売却および配当期日を経ない配当の新設や、電磁的記録による債務名義については提出を不要とすることなど、中間試案の提案に賛成の意見を述べた。また、第三債務者に対する送達方法についても踏み込んだ議論を行い、意見をまとめた。


破産手続では、債権届出について、債権者は民事訴訟の対立当事者の立場ではなく、債権届出の多くが債権者本人によるものであることから、電子化をどこまで進めることができるか議論し、詳細な意見を述べている。また、公告については、その意義を重視する倒産法制度の構築を求める立場と、個人の消費者破産についてプライバシーの保護を強く求める立場とで意見の隔たりが大きく、官報公告を廃止するべきかという根本的な議論とも絡み、日弁連の意見を一つに取りまとめることはできなかったが、議論を整理した形で各意見を列記した。


人事訴訟や家事手続では、閲覧不許可事由に該当し得る事項を記録の電子化の例外とするか否かや、記録の閲覧方法の規律などについて議論し、意見を述べた。


(民事執行・保全、各種倒産、家事事件手続、非訟事件手続等のIT化に関する検討ワーキンググループ 座長 舩木孝和)



裁量労働制の見直しを求める意見書を公表

arrow_blue_1.gif裁量労働制実態調査の結果を踏まえ、規制強化も含む裁量労働制の見直しを求める意見書


日弁連は、10月19日付けで「裁量労働制実態調査の結果を踏まえ、規制強化も含む裁量労働制の見直しを求める意見書」を取りまとめ、厚生労働大臣等に提出した。


背景

裁量労働制は、労働時間の長さと賃金とのリンクを断ち切っている点で、労働基準法における原則的な労働時間規制を大幅に緩和するものであり、例外的な制度である。裁量労働制には、労働者が定められた時間に縛られず、自分の計画に従って自由に労働し得る形態として評価する考え方もある。一方で、最も重要な意味を持つ労働の量や期限は使用者によって決定されるので、命じられた労働が過大である場合、労働者は事実上長時間労働を強いられ、しかも時間に見合った賃金は請求し得ないという問題が生じかねない。しかし、1987年の労基法改正で同制度が導入されてから、基本的に規制緩和・適用対象拡大の方向で改定がなされてきた。


厚労省の調査結果

厚生労働省は、2019年11月から12月にかけて、裁量労働制の実態調査を行い、調査結果を2021年6月25日に公表している。調査結果は、裁量労働制の適用労働者のうち、1割以上が、「過労死ライン」と呼ばれる月間80時間以上の時間外労働を行っていることや、1割から2割近くの労働者が業務遂行や時間配分について裁量のない就労を強いられ、裁量労働制が違法適用されている状態にあることが推察される内容となっている。


意見書の内容

意見書では、このような調査結果を踏まえ、長時間労働の助長傾向や違法適用・濫用の傾向に対処するための規制強化も含めた制度の見直しを提言している。


厚生労働省は、調査結果を踏まえた検討会を開催し、その報告書が本年7月15日に公表された。今後は労働政策審議会で法改正に向けた審議が行われる見込みである。同審議会の審議が本意見書を踏まえたものになるよう、今後の動向にも注目していきたい。

(貧困問題対策本部  事務局員 塩見卓也)



厚生労働省「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書の身体的拘束要件の見直しに対する意見書

arrow_blue_1.gif厚生労働省「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書の身体的拘束要件の見直しに対する意見書


日弁連は10月19日、「厚生労働省「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書の身体的拘束要件の見直しに対する意見書」を取りまとめ、厚生労働大臣に提出した。


意見の趣旨

本年6月9日、厚生労働省「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」が取りまとめた「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書において、精神科病院における身体的拘束につき、処遇基準告示の見直しの方向性、すなわち精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」)第37条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(厚生省告示第130号、以下「本告示」)の要件に「治療の困難性」を加えることに反対するものである。


意見の理由

治療困難性を身体的拘束の要件とすることは、身体的拘束の要件限定にはならず、かえって医療裁量を広範に認めることになりかねない。そして、本告示の基本的考え方である、身体的拘束は生命の危機、身体の重大な損傷から患者を守るためのものであるという考え方から逸脱する恐れもある。


また、治療困難性を理由とする身体的拘束を明記することは、精神保健福祉法において認められていない、精神科病院入院者の強制治療の可能性を明文で認めることになりかねず、同法の基本構造を根底から揺るがすことになる。


今後も、本告示の改正問題は注視する必要がある。


(日弁連高齢者・障害者権利支援センター  委員 佐々木信夫)


ひまわり

2021年に放映されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」で、気象予報士を目指す主人公の百音(演:清原果耶さん)を、登米で面倒を見ていたサヤカ(演:夏木マリさん)が東京へ送り出した後、登米の森の中で、空を見上げて、「どうか、あの子に、良い未来を!」と祈るシーンがあった。サヤカの百音への想い、愛情を強く感じる素晴らしいシーンであった▼しかし、近しい人達から、「どうか良い未来を」という祈りが向けられてこなかった子どももいる。さまざまな人々との出会いを通じ、この祈りが向けられることを願う▼この祈りが向けられた子が痛ましい事故や犯罪に巻き込まれる場合もある。事故や犯罪による犠牲者の報道等に接すると、無力感や悲憤を覚える。被害者に寄り添うとともに、原因の調査・分析、再発防止策の検討・実施などが行われることを願う▼祈りをささげる方法が、多額の献金など、本人や身近な人々に大きな負担を強いるものであれば、その方法やそれを求める組織に対して疑問符が付く。このような不合理な負担や状況が一刻も早く解消されることを願う▼多くの弁護士がこれらの問題の解決に向けて熱意を持って取り組んでいることを大変心強く思う。自分自身も精進したい。

(C・H)


国際知財司法シンポジウム2022
日米欧における知的財産紛争解決10月27日・28日 オンライン開催 

arrow_blue_1.gif 【10月27日・28日】国際知財司法シンポジウム2022~日米欧における知的財産紛争解決~


知財紛争に関する司法判断や近時の知財トピックを議論するシンポジウムを開催した。本稿では1日目の裁判所パートの模様をお伝えする。

(共催:最高裁判所、知的財産高等裁判所、法務省、特許庁、弁護士知財ネット)


開会挨拶

林道晴最高裁判事は、知財分野の国際化が進み、国際的な動向や課題の適切な把握と各国の法制度への理解が重要となっていると指摘し、各国の連携がより一層緊密になることを願うと語った。


模擬裁判

事案は、メガネレンズの供給に関する発明の特許権者P社による、レンズ加工システム(以下「本件システム」)の使用者D社に対する使用差し止め請求である。

この発明は「測定ユニット」と「レンズ加工ユニット」を備えるシステムで、前者がフレームのリム(レンズを囲む部分)の形状データをもとにリム周長を算出・送信し、後者でレンズ加工を行う。他方、本件システムは、販売店からT社の装置にリム形状データを送信し、そこでリム周長を算出・送信して、D社工場がレンズ加工を行う。

争点の1つは、複数主体が関与する本件システムにおいてD社を侵害者と言えるかである。技術説明会の質疑応答などが実演され、請求認容判決が言い渡された。


パネルディスカッション等

米・英・独の裁判官を交え、模擬裁判事例を基に裁判官、弁護士が議論したほか、ビジネス・コートや各国のIT化の状況を共有した。

東海林保判事(知的財産高等裁判所部総括)は、複数主体の行為が相互に関連して一体的な行為と評価でき、ある主体が構成要件に相当する行為を認識しながら全体の実現に向けて他の行為を利用する関係があれば、当該主体は他の主体と共同して特許権を侵害したと評価できると述べた。

各国の裁判官も、法体系や特許権の特質を考慮し妥当な結論を導くという問題意識は共通であった。大鷹一郎判事(知的財産高等裁判所長)は、今後も各国と緊密に情報・意見交換していきたいと締めくくった。



日弁連短信

世界弁護士会事務総長会議

10月25日から29日まで、アメリカのワシントンDCで開催された「世界弁護士会事務総長会議」に出席した。


同会議は、その名のとおり、世界各地の弁護士会の事務総長が年に一度集まる会議である。今年は、アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダ、北アイルランド、ジンバブエ、香港、ナミビアなど15の国と地域から32名の関係者が集まった。


各国が抱える課題の報告

初日は、パンデミック後の対応など、各国の弁護士会が抱えている課題が報告され、意見交換を行った。ジンバブエの弁護士からはコロナ禍で弁護士会が受けた影響と対処などの経験が共有された。


日弁連からは、現在の課題として、法曹志望者の増加に向けた取り組みを報告した。


弁護士業務妨害

2日目は、弁護士への業務妨害をテーマに議論した。


カナダのヘイナン弁護士からは、民主主義の基本的な価値を守る弁護士の活動に対して、内容も精査せずに一方的な思想に基づく活動というレッテルを貼られることがあるとの悩みが共有され、市民に弁護士の役割や活動を理解してもらうことが重要だと語った。


デンマークのモラーアップ弁護士は、家族法や親権に関連する分野を扱う弁護士が業務妨害を受けることがあり、弁護士を守る法律が必要ではないかと述べた。


北アイルランドのラベリー弁護士からは、IRAによって1969年から98年までの間に12人の判事・弁護士の命が奪われたことを教訓とし、弁護士を守るグローバルな取り組みが必要であるとの発言があった。


マネロンへの対応

カナダのウイットコンベ弁護士は、マネー・ローンダリングに関して、弁護士自治を守るために弁護士会が自主的に対応ルールを作成し、政府への報告義務が課されないようになったと報告した。また、弁護士と依頼者の通信の秘密を保持することは憲法上の権利であり、政府への報告義務を課すことはこれに違反するという判決が出ていると紹介した。日弁連も直面している課題であり、同弁護士とは会議後も個別に意見交換を行った。


最後に

国や地域は異なっていても、弁護士・弁護士会が直面している課題は共通するものが多く、とても良い経験になった。最終日にライトアップされたリンカーン記念堂を見て、ワシントンDCに来たことを実感した。


(事務総長 谷 眞人)

企業内弁護士に関するキャリアセミナー
企業内弁護士の悩み・不安と対処方法
10月4日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif 企業内弁護士に関するキャリアセミナー「企業内弁護士の悩み・不安と対処方法」


企業内弁護士の数は年々増加しており、そのキャリアも多様化している。企業内弁護士特有の悩みや不安などを共有し、その対処方法について検討するセミナーを、会員および司法修習生を対象に開催した。


企業内弁護士として活動する会員が登壇し、キャリアの築き方、法務およびそれ以外のスキルを習得する方法、企業内での評価やマネジメントに関する事項などについて、自身の経験を紹介した。


法律事務所を経て企業に就職した小松淳一会員(住友林業株式会社・第二東京)は、キャリアアップのために法務以外の部署の案件にも積極的に関与し、業務内容が法務分野に偏らないように意識していると述べた。


南裕子会員(積水化学工業株式会社・大阪)は、訴訟対応の技術を磨くため、勤務先の企業から個別案件を受任したり、顧問弁護士と共同受任したりするなど、訴訟経験を積む機会を得る工夫をしていると紹介した。


荒川裕子会員(日本ガイシ株式会社・愛知県)は、企業内の事情を把握できることや、内部の人脈を生かした情報収集ができることは、企業内弁護士の強みであると強調した。


小松会員は、社内の勉強会やイベントに参加することは、他部署の社員から仕事の相談や情報が得られて有益だと語った。また、企業の中だけでなく、外部機関や弁護士会の研修、委員会などにも参加して研さんを積むとともに、相談相手となる弁護士を見つけることも重要であると指摘した。


荒川会員は、企業内に弁護士がいることのメリットや企業内弁護士だからこそできる業務などを自ら考えてアピールすることが、企業内での適切な評価につながると述べた。


南会員は、10年後の自分のありたい姿を具体的に描き、それに近づくために今から何をすればよいかを考え、ロードマップを作るとよいとアドバイスを送った。



シンポジウム
独立した人権救済機関の必要性を考える
10月21日 岡山弁護士会館

arrow_blue_1.gif シンポジウム「いまだに続く差別をなくすために―ハンセン病回復者およびその家族に対する差別から、独立した人権救済機関の必要性を考える」


日弁連は、政府から独立した国内人権機関の設置を実現するべく、さまざまな活動を行っている。

本シンポジウムでは、国内人権機関の果たす機能と関連付けながら、ハンセン病回復者やその家族等に対する偏見・差別の解消に向けた課題等を議論した。


基調報告

国内人権機関実現委員会の後藤睦恵副委員長(愛知県)は、国内人権機関は個別の人権救済を図る機能のみならず、国・地方公共団体に対する人権関連の政策提言や警察官・入管職員に対する人権教育などの機能を有することを紹介した。


基調講演

青木美憲氏(国立療養所邑久光明園園長)は、1996年にらい予防法が廃止されたものの、国には被害回復の発想がなく、1998年に国家賠償請求訴訟が提訴され、2001年に原告が勝訴したことで、国は初めて隔離政策の過ちを認めたと報告した。そして、差別の解消や被害救済のためにも、裁判と比べて時間や費用をかけずに人権救済を図ることができる、国から独立した人権救済機関が必要だと語った。


内田博文名誉教授(九州大学)は、「差別されない権利」を曖昧であるとして認めなかった「全国部落調査」復刻版出版事件の東京地裁判決(2021年9月27日)の背景には、国が差別の実態を学校教育などで十分に取り上げてこなかったことにも原因があると説いた。その上で、教育、被害救済などの施策に関して各省庁を指導する「センター的組織」が必要であり、国内人権機関にその役割が求められていると述べた。


パネルディスカッション

青木氏は、国の責任を問われる可能性がある問題に対し、国が自ら、療養所内における人権侵害の検証等を行うのは困難であると指摘した。藤原精吾副委員長(兵庫県)は、政府から独立した国内人権機関の設置によって、差別解消に向けた政策提言が期待できると述べた。また、内田名誉教授は、国内人権機関と車の両輪をなすものとして包括的差別禁止法の必要性を説いた。


(国内人権機関実現委員会  事務局長 小川政治)



シンポジウム
緊急事態条項と国会の役割
~緊急事態条項って、本当に必要なの?~
10月25日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif シンポジウム「緊急事態条項と国会の役割~緊急事態条項って、本当に必要なの?~」


自然災害やコロナ禍、ウクライナ情勢などを受け、憲法を改正して緊急事態条項を設けるべきとの議論が一部で高まっている。


本シンポジウムでは、緊急事態条項は本当に必要なのか、緊急事態における国会の役割とは何か、改めて議論した。


基調講演

愛敬浩二教授(早稲田大学)は、緊急事態条項について、必要なのは国家緊急権の「根拠」か「統制」か、国家緊急権が守るのは「国家」か「人権」か、と問題提起した。そして緊急事態における憲法の機能について比較憲法的に考察し、法律による事前統制と司法による事後統制の可能性を示した。その上で、憲法(立憲主義)の役割を統制に求めるのであれば、個別の緊急事態ごとに具体的な対応を法律で定めておくこと(事前統制)に意義があるとした。また、司法による事後的統制との関係においても、立法過程が重要であるとして、国会において制度設計等に関する議論・検討を十分に行うなど、国会の果たすべき役割を強調した。


パネルディスカッション

小口幸人会員(沖縄)は、緊急事態条項を憲法に創設する必要はなく、法律の制定・改正や運用の改善などによって対応が可能であるとし、災害対策基本法の例を挙げた。ただし、我が国においては臨時国会が機動的に召集されないなど、国会が十分に機能せず、司法も政治的判断に踏み込むことが少ないため、事前・事後統制が効く状態であるかは疑問だとした。


永井幸寿会員(兵庫県)は、コロナ禍と法制度について解説し、既に新型インフル特措法や災害救助法といった法整備による手当てがなされていると語った。また、憲法上に緊急事態条項を規定すれば権力による濫用の危険があると指摘した。


愛敬教授は、自然災害や感染症といった予測できない個々の事態を想定し、平時から議論を重ね、合理的な立法をしていくことが重要であると締めくくった。


連続シンポジウム 10月29日 オンライン開催
自分らしく人生を全うするために~人生の最終段階の医療・介護の決定のあり方を考える
高齢者の場合を中心に(第1回)

arrow_blue_1.gif連続シンポジウム「自分らしく人生を全うするために~人生の最終段階の医療・介護の決定のあり方を考える~ 第1回 高齢者の場合を中心に」


人生の最終段階で、自分が納得した医療・介護を受けたいという、誰しもが抱く願いをどのように実現するか。高齢者の終末期における医療や介護の在り方について議論した。


アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは

ACPとは、将来の医療およびケアについて、患者を主体に家族、医療・ケアチームが話し合いを繰り返し、患者の意思決定の実現を支援するプロセスである。


医師の西川満則氏(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)は、ACP作成時には、医療の選択に限らず、患者の生活面にも焦点を当てて、患者の意思を尊重することが重要だと説いた。


在宅看護専門の看護師である山岸暁美氏(一般社団法人コミュニティヘルス研究機構)は、医療は医者任せという風潮などから、患者本人の意思を把握することが困難である現状を語り、関係者間で情報共有するためのツールや法整備が必要であると論じた。


尊厳をもって生きられる環境整備の必要性

生命倫理等の研究者である安藤泰至准教授(鳥取大学)は、死についての意思決定である安楽死や尊厳死を論じる前に、医療やケアについての意思決定が尊重され、重い病気や障がいがあっても人間らしく尊厳をもって生きられる環境を整備することが必要だと訴えた。


大沢理尋会員(新潟県)は、医療行為の同意委託契約の公正証書を作成した実例を紹介する一方、高齢でない人や経済的な余裕がない人へのアプローチに課題があると指摘した。


パネルディスカッション

増田弘治氏(読売新聞記者)は、患者本人や家族に対し、福祉など医療以外の情報提供がスムーズに行われていないのではないかと問題提起した。これに対して、山岸氏は情報の分断があるとしつつも、ACPを活用しながら情報共有を目指す現場の取り組みを紹介した。



国際仲裁・調停セミナー
愛知から国際仲裁・調停
~依頼者が国際仲裁・調停に巻き込まれたときに役立つ基礎知識
10月11日 オンライン開催

企業活動が国際化・複雑化する中、国際的な紛争リスクは増加している。
企業の顧問弁護士等が国際仲裁・調停に関する実務や手続の理解を深めるべく、本セミナーを開催した。


仲裁合意獲得の交渉ポイントと手続上の留意点

出井直樹会員(一般社団法人日本国際紛争解決センター副理事長・第二東京)は、訴訟における国際送達や強制執行の負担に触れ、ニューヨーク条約の加盟国であれば仲裁判断の執行が容易であるなど、国際仲裁の利点を挙げた。また、企業の負担を軽減するために、仲裁地の定め方などを検討し、有利な仲裁合意を獲得することが重要だと語った。


小川新志氏(一般社団法人日本商事仲裁協会(以下「JCAA」)仲裁調停部課長)は、日本の仲裁機関で手続を行う場合の大きな利点として、日本語での対応が可能であることを指摘した。また、JCAAのウェブサイトに公開している仲裁条項のひな形を紹介し、条項は明確に記載することなど、仲裁合意を作成する際の留意点を説明した。


あわせて、仲裁手続の流れを解説した上で、仲裁人の多くは申立書と第一主張書面を重視するため、仲裁廷の決定後、最初に提出する書面で主張を出し切ることが重要であると説いた。


コストと時間

内藤順也会員(第一東京)は、審問がオンラインで実施されることが増え、利用コストが軽減している現状を報告した。一方で、JCAAが目標としている処理期間は9か月であるが、仲裁廷の構成や証拠開示手続等により、長期化する案件もあるとした。


顧問弁護士等の関与

内藤会員は、顧問弁護士や継続的に相談等を受けている弁護士は、その企業の実情を把握しており、紛争を真の解決に導くことが可能であるとして、そのような弁護士にこそ国際仲裁の理解を深め、仲裁手続に積極的に関与してほしいと語った。



JFBA PRESS-ジャフバプレス- Vol.175

世界に広がる法整備支援
JICA(独立行政法人国際協力機構)

開発途上国への法整備支援は、法の支配の促進・実現に向けた重要な活動の一つです。日弁連は、1990年代から国際協力活動に取り組み、2008年にはJICAと協定を締結して、法整備支援に取り組んでいます。JICAで活躍する枝川充志会員(東京)と澤井裕会員(第二東京)に、現在の取り組みや現地での活動などについてお話を伺いました。

(広報室嘱託 花井ゆう子)


法整備支援の内容と特色

JICAの法整備支援は、1996年のベトナム民法の起草支援から本格的に開始され、当初はカンボジア、ラオスなど、主に東南・南アジアの民法や民事訴訟法など基本法の整備が中心でした。その後、活動内容も地域も広がり、現在では刑事、知財、経済関連法の法整備や、アフリカ諸国からの研修員の受入れなども行っています。


JICAは、法令の起草や制度の立法化の支援を中心としつつ、司法に関わる組織の機能強化支援、法の普及や司法アクセス改善に向けた支援を加えた3つの支援を柱としています。また、そうした支援を通じて、そこに携わる人材の育成を行っています。


活動の特色は、日弁連のほか、法務省や最高裁判所、大学、関係省庁などと広く連携し、弁護士、裁判官、検察官などの実務家を「長期派遣専門家」として現地に派遣しているところにあります。


法律は社会を反映するものです。そのため、実際に現地を見て、当該地域の社会や制度の現状を理解しなければ議論はかみ合いません。このギャップをどう埋めていくのかが課題で、長期派遣専門家がその橋渡し役となっています。


長期派遣専門家の派遣期間は原則として2年です。その間に、現地社会や司法事情、課題を知り、現地の法曹関係者と信頼関係を構築し、協力内容に反映します。決して日本の法律や制度を押しつけるのではなく、当該国の制度作りやプロセスを通じた人材育成を手助けするのが、長期派遣専門家の重要な役割です。


長期派遣専門家の活動

2022年9月現在、長期派遣専門家としてJICAから派遣されている法曹資格を持つ専門家の数は、11人にのぼります。


派遣される国や地域、派遣時期によって、長期派遣専門家に求められるニーズは異なり、その協力の内容はさまざまです。


例えばベトナムでは、ベトナム弁護士連合会から倫理規程改訂の方針が示されたことから、JICAから委託を受けた日弁連が研修を実施したり、職務基本規程の解説書を翻訳して情報提供しています。


また、カンボジアでは、かつての紛争で多くの人材が失われたため、法案の起草とともに、早い段階から法曹人材を育成する支援を始めました。最近では、不動産登記に関わる法制度の整備や判決の公開についての支援も行っています。


長期派遣専門家は、その時々における現地の課題に応じたプロジェクトを通じて、研修などの企画立案から内容の検討、日程調整などの事務的な作業まで、現地スタッフの協力を得ながら行っています。カウンターパートとなるのは、相手国の司法省や裁判所、検察庁、弁護士会など多岐にわたります。


コロナ禍以前は法曹関係者等との交流や研修、ワークショップ等で地方に出張する機会が比較的多くありました。コロナ禍以降は、対面で交流する機会は少なくなりましたが、オンラインが普及したことで研修等への参加が容易になり、また日本だけでなく世界各国の知見を比較的容易に共有できるようになりました。


会員へのメッセージ~国際協力・法整備支援に携わるために

(枝川)法整備支援に携わるには何が必要ですか?と聞かれることが多くあります。語学はやはり必要ですが、それだけではなく、自国の社会、法律や司法制度、裁判実務を、相手国のそれらと相対化できることが必要ではないかと考えています。まずは目の前にある仕事に取り組んで経験を積み、アンテナを張って人脈をつくり、チャンスを逃さないことだと思います。特に若手の会員の方には、積極的に海外に出て、継続的に関与してほしいと思います。


(澤井)学生時代に関わった国際協力活動が、今の仕事に直結したというわけではありません。ただ、いつか仕事として携わりたいという想いは常に持ち続けていました。だからこそ、弁護士として経験を積む中で、機会が重なって今につながったのだと思います。私は今秋からラオスに赴任します。国内での経験を現地で活かし、また現地での経験を今後の国内での活動に還元していきたいと考えています。国際協力活動に関心を持っている会員の方には、是非その気持ちを強く持ち続けて挑戦してほしいと思います。


日弁連委員会めぐり119 子どもの権利委員会

arrow_blue_1.gif子どもの権利(子どもの権利委員会)


今回は、子どもの権利委員会(以下「委員会」)の安保千秋委員長(京都)、金矢拓副委員長(第二東京)、澤田稔事務局長(東京)、平谷優子幹事(広島)、柳優香幹事(福岡県)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 李桂香)


近年の動向

本年6月にこども基本法等が成立し、来年4月にはこども家庭庁が発足します。委員会では、国連子どもの権利条約を国内で完全に実現するべく、昨年9月に公表した「子どもの権利基本法の制定を求める提言」を取りまとめるなど、長い時間をかけて精力的に活動してきました。そのため、同法の制定に際し、格別の思いを抱いた委員・幹事が少なくありませんでした。


もっとも、日弁連が提言する子どもの権利擁護委員会(子どもの権利に関する独立した監視機関。子どもコミッショナーともいう。)の設置が見送られるなど、多くの課題が残されています。委員会では、子どもの権利基本法推進PTを中心に、シンポジウムを開催するなど、引き続きこれらの課題に取り組んでいます。


本年4月施行の改正少年法については、その運用を注視する必要があり、情報収集に努めています。付添人となる担い手の確保はもちろん、適切な研修の実施などにより、付添人の活動を充実させることも必須の課題です。研修情報などを積極的に発信していますので、意識的な研さんをお願いします。


改善につなげる取り組み

全国付添人経験交流集会や夏季合宿といった会員も対象とした実務研修などを、全国規模で定期的に行っています。また、弁護士会連合会ごとに開催するブロック連絡協議会では、さまざまなテーマについて各地の実情を共有しています。


委員会からの情報提供や弁護士会間の情報共有によって、各地における付添人活動、児童福祉や学校等への取り組み、少年院や少年鑑別所における処遇などが拡充・改善されていく様を目の当たりにすると、粘り強く活動することが必要なのだと強く思います。


会員へのメッセージ

委員会の活動は、子どもに関する全ての課題に携わり、その範囲は多岐にわたります。私たちは、「子どもの成長を支援し、子どもとともに」という熱意をもって取り組んでいます。


日々の弁護士業務において、子どもと関わることは少なくありません。子どもと接するときには、子どもを一人の尊厳ある権利主体として尊重し、子どもの最善の利益を図るという視座を持っていただきたいと思います。


ブックセンターベストセラー(2022年10月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

模範六法 2023 令和5年版

判例六法編修委員会/編 三省堂
2

条解刑事訴訟法〔第5版〕

松尾浩也/監修 弘文堂
3

第3版 プロバイダ責任制限法

総務省総合通信基盤局消費者行政第二課/著 第一法規
4 我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権〔第8版〕 我妻 榮、有泉 亨、清水 誠、田
山輝明/著
日本評論社
5

有斐閣コンメンタール 新注釈民法(16)債権(9)

大塚 直/編集 大村敦志、道垣内
弘人、山本敬三/編集代表
有斐閣
6

民事第一審における判決書に関する研究

司法研修所/編 法曹会
7

新版 若手弁護士のための法律相談入門

中村 真/著 学陽書房

離婚に伴う財産分与-裁判官の視点にみる分与の実務

松本哲泓/著 新日本法規出版
9 即解問 婚姻費用・養育費の算定実務 松本哲泓/著 新日本法規出版
10 後遺障害入門-認定から訴訟まで 補訂版 小松初男、小林 覚、西本邦男/編 青林書院
Q&A 実務家のためのYouTube 法務の手引き 河瀬 季/著 日本加除出版



海外情報紹介コーナー⑯
Japan Federation of Bar Associations

刑の宣告をYouTubeで公開開始(英国)

本年7月から、英国(イングランドおよびウェールズのみ。)の王室裁判所(Crown Court)は、一部事件における刑の宣告手続の動画をYouTubeで公開している。マスメディアからの長年の要望に応えたものだが、関係者からは刑の宣告全文を公開することにより刑事裁判や司法への国民の理解を促進することも期待されている。


動画では、量刑ガイドラインや判例をどのように考慮したかなど、新聞やニュースサイトの記事では省略されがちな詳細な理由付けも全て見ることができる。


なお、英国の最高裁判所や控訴院では民事判決や弁論の期日の一部が既に動画で公開されている。


(国際室室長 片山有里子)