日弁連新聞 第582号

早期開示命令制度の新設を提言

arrow_blue_1.gif早期開示命令制度新設の立法提案


日弁連は7月15日、「早期開示命令制度新設の立法提案」を取りまとめ、同月21日に法務大臣および最高裁判所長官に提出した。


経緯・背景

日弁連は、2012年2月16日付け「文書提出命令及び当事者照会制度改正に関する民事訴訟法改正要綱試案」(以下「要綱試案」)で、文書提出義務・文書特定のための手続・当事者照会制度の改正と秘密保持命令制度の新設を内容とする提言を行った。


2014年から2016年まで、日弁連は最高裁と証拠収集手段の拡充に関する民事訴訟法改正の課題について協議を行い、2018年には法務省を加えた「民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会」に、民事訴訟における情報・証拠収集制度の拡充を検討するワーキンググループ(WG)が設置された。同WGでは、訴訟手続の早期の段階で当事者の所持する文書等を開示する新制度(早期開示制度)などが検討された。


日弁連においても、要綱試案に加え、情報・証拠収集制度のさらなる拡充に向けた検討を行い、今回の立法提案を公表するに至った。


今後、「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会」(公益社団法人商事法務研究会)などにおいて立法化に向けた議論がなされる予定である。


趣旨・内容

今回提言した早期開示命令制度では、「訴訟関係を明瞭にするため又は争点及び証拠の整理を行うため必要があるとき」に「当事者の主張と相当の関係を有する文書その他の物件」の開示命令を申し立てることができるとした。文書提出命令より必要性の要件を緩和し、争点整理の初期段階で相当程度の包括性をもって文書等を収集できる仕組みとするためである。


また、当事者の自治を重視し、裁判所は、開示命令に先立ち、開示する文書等の範囲、調査費用の負担、秘密保護措置などにつき、当事者間での協議を命じることができるとしている。


さらに、実効性の観点から、開示命令違反に対する過料の制裁とそれに対する不服申立て(即時抗告)を提案している。


(民事裁判手続に関する委員会副委員長 上田 純)



日弁連中小企業法律支援センター10周年記念シンポジウム
これからの中小企業支援について考える
7月19日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif日弁連中小企業法律支援センター10周年記念シンポジウム


日弁連中小企業法律支援センターの設置10周年を記念したシンポジウムが開催され、約150人が参加した。開会冒頭、小林元治会長の挨拶に続き、髙井章光副本部長(第二東京)からシンポジウムの趣旨説明がなされた。


基調報告

池田耕一郎副本部長(福岡県)はセンター発足の経緯と活動を紹介した。藤岡亮委員(大阪)は、中小企業支援に携わる弁護士数は増加した一方、いまだ弁護士へのアクセス障壁が存在すると今後の課題を語った。


中小企業庁長官と日弁連会長の対談

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土森俊秀事務局長(東京)から、事前に実施した中小企業庁の⻆野然生長官と小林会長の対談の報告があった。小林会長は、弁護士による中小企業への日頃の法的アドバイスや事業承継時における関与の具体的な事例を紹介した。中小企業の経営において弁護士が果たす役割は非常に大きく、さらに弁護士を活用してもらいたいと述べた。


⻆野長官からは、多様化する中小企業の法的ニーズに日頃から寄り添う伴走型の支援を進めていくため、引き続き日弁連および弁護士の取り組みに期待しているとの発言があった。


パネルディスカッション

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熊本県でブライダル企業を経営する山﨑崇氏と、長野県で漬物製造業を営む宮城恵美子氏が登壇した(モデレーター:東健一郎事務局次長(熊本県)、丸田由香里委員(長野県))。


山﨑氏は、弁護士を活用して法的トラブルを解決した経験を紹介し、弁護士には日頃から法改正や法的課題など最新の情報を提供してほしいと述べた。宮城氏は、かかりつけ医のように予防的に相談できる弁護士が近くにいると安心だと語った。


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今回のシンポジウムでは、中小企業支援に対する弁護士の意識の高まりと成果が確認されるとともに、いまだ弁護士を活用できていない事業者に積極的に寄り添っていく伴走型支援の必要性が課題として浮き彫りになった。


*シンポジウムの動画は、日弁連ウェブサイトの「イベント動画を見る」からご覧いただけます。



特定商取引法の抜本的改正を求める意見書

arrow_blue_1.gif特定商取引法平成28年改正における5年後見直し規定に基づく同法の抜本的改正を求める意見書


日弁連は7月14日付けで「特定商取引法平成28年改正における5年後見直し規定に基づく同法の抜本的改正を求める意見書」を取りまとめ、消費者庁長官や内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)等に提出した。


背景

特定商取引法は、訪問販売等、消費者トラブルを生じやすい特定の取引類型を対象に、事業者による不公正な勧誘行為等の取り締まりなどを行う法律であり、これまで幾度も改正が繰り返されてきた。


しかし、「令和3年版消費者白書」によれば、全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談のうち、同法の対象取引分野に関する相談が全体の56%と高い比率を占める。消費者被害の実情に大きな改善が見られないばかりか、例えば、訪問販売・電話勧誘販売では、判断力の衰えた高齢者が悪質商法のターゲットにされるなど、超高齢社会において今後さらに被害が拡大する恐れがある。そこで、日弁連は、平成28年改正附則第6条における5年後見直しを契機として、抜本的な見直しを求める意見書を公表した。


意見の内容

意見書では、同法の対象となる取引類型について、それぞれ以下の内容を含む抜本的な法改正等を行うよう求めている。


①訪問販売・電話勧誘販売

ステッカーの貼付等により、あらかじめ勧誘拒否の意思を表明した者に対する勧誘禁止の明確化、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度の導入など。


②通信販売

インターネットを通じた勧誘等による申し込みや契約締結についての行政規制およびクーリング・オフや取消権の導入、インターネット広告画面に関する規制の強化、通販事業者や勧誘者等を特定するための情報開示請求権の導入など。


③連鎖販売取引等

国による登録・確認等の開業規制の導入、「後出しマルチ」(連鎖販売取引に加入させる目的で、まず経済的な負担を伴う契約をさせ、後から利益を得るための取引に誘い込むもの)についても連鎖販売取引の拡張類型として規制が及ぶことの明確化、22歳以下の者など不適合者に対する紹介利益提供契約の勧誘禁止など。


なお、本件に関するオンラインシンポジウムを10月14日に開催する。


(消費者問題対策委員会委員 釜井英法)



ひまわり

昔からサザンオールスターズや桑田佳祐の音楽が好きでよく聴く。彼の歌詞は絶妙に韻を踏んだり、語呂合わせをしたりすることが特徴である▼日本語なのに英語っぽく聞こえるようにしたり、その逆もあったりする。その結果、歌全体が意味不明なものも実は結構あると感じており、それはそれで楽しい。勿論しみじみと歌詞で泣かせる素晴らしい曲もあるが、いずれにしても言葉の使い方の巧みさは凄い▼そんな桑田さんが同級生(世良公則、Char、野口五郎、佐野元春)とバンドを組んで「時代遅れのRock'n' Roll Band」というチャリティソングを最近発表した。毎週ラジオを聴いている私としては、こういう活動自体は何となく想定内だったのだけれど、びっくりしたのがサビの「No More No War...」である▼いや、どんだけストレートなんだ!?というのが最初に強烈に感じたことである。いつもの意味不明ともいえる巧みな歌詞はどこへやらである▼しかし、今の時代に彼が音楽人としてあえて伝えたいこと、次世代に託したいこと等々に思いを致すと、聴けば聴くほど何とも染み入るものがある▼はっきり言ってカッコいい。時代遅れ?何のその。大事なことはストレートに大声で▼66歳のミュージシャン達に敬意を表したい。


(M・K)



法律事務所への捜索についての判決に関する会長談話

arrow_blue_1.gif法律事務所への捜索についての判決に関する会長談話


本年7月29日、東京地方裁判所は、東京地方検察庁による法律事務所への捜索に係る国家賠償請求訴訟の判決において、捜索が不適法なものだったと判断した。
これを受けて日弁連は、8月3日、今後同様の行為を二度と繰り返すことのないよう求める会長談話を公表した。


事案の概要

2020年1月29日、東京地方検察庁の検察官らが、刑事被疑事件について、関連事件の弁護人であった弁護士らの法律事務所を訪れた。同弁護士らが、刑事訴訟法105条に基づく押収拒絶権を行使して立ち入りを拒んだにもかかわらず、検察官らは裏口から法律事務所に侵入し、捜索を行った。


国家賠償請求訴訟の判決

この捜索に関し、弁護人であった弁護士らは同年12月23日に国家賠償請求訴訟を提起し、本年7月29日に判決が言い渡された。判決では、検察官らが「法令の解釈を誤った」としたものの、当時、その法令解釈につき「明確に指摘した文献や裁判例」は存しなかったことを指摘し、「法令の調査において職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったもの」とはいえないことを理由に、損害賠償は命じなかった。


他方で、「本件事務所内に立ち入ることは適法であるとする被告の主張は採用することができず」、本件各行為は、刑訴法218条1項の規定または同法105条の「押収拒絶権の趣旨に違反したものといわざるを得ない」として、検察官らによる捜索は刑事訴訟法の押収拒絶権の趣旨に違反する不適法なものであったとの判断を明確に示した。


今後、同様の違法な捜索が行われたときは、本判決の存在を根拠に「法令の調査において職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったもの」として、国家賠償義務も生じることになると考えられる。なお、原告は控訴せず、判決は確定している。


会長談話の公表

日弁連は、法律事務所への捜査が行われた2020年1月に会長談話を公表している。今回の判決を受け、日弁連は、弁護士の押収拒絶権の効力について判決で示された具体的内容を引用しつつ、改めて、対立当事者である検察官が、弁護人の権利を侵害する違法行為に及ぶことは、我が国の刑事司法の公正さを著しく害するものであることを確認し、同様の行為を二度と繰り返すことのないよう求める会長談話を公表した。



日弁連短信

日弁連らしさを目指して

感染症の拡大は、会議の持ち方にも大きな影響を与えた。人が対面で集まる機会を少なくするという古典的だが効果の高い対策をとり、日弁連における会議の多くもオンラインの方法が取り入れられ、変革は急速に進む。


オンライン会議は、手軽で経済性に優れており、物理的距離、時間的制約から生じる会議参加への障壁を解決する効果は顕著だ。これまでさまざまな事情で会務への参加を控えざるを得なかった会員が、積極的に議論に参画できる可能性を大きく広げた。これにより、さらに広範な会員の力を会務執行に生かせるようになったことは、日弁連の活動をより深化させていくものである。


一方で、オンライン会議における課題も無視することができない。リアルで開催する会議の場合、参加者の息遣いを感じることができ、議論を集約する上でプラスに働く場面が多いと思われるが、オンライン会議では、参加者の人的関係が深まっていないと、進行する者の力だけでは充実した議論を実現することが難しい場面も散見される。このことは、参加者が多い上に実質的な議論が必要となる会議体ではなおさらであろう。


日弁連最大の会議体は、総会である。感染症の影響下で開催する総会については、さまざまに感染症対策を講じながらも、従前どおりの充実した議論を尽くして意見集約を図るための新たな取り組みを2021年7月の本欄で紹介した。


さらに、2022年6月には、総会のオンライン化の可能性や課題を探るワーキンググループも設置された。検討すべき事項は多い。単に技術的にオンライン化を進めればいいという問題ではない。強制加入団体であり自治権を有する日弁連という特別な組織において、会員の意思形成の在り方を検討しなければならない。瑕疵なく、会員の意見を十二分に積み上げられるものであることはもちろん、会務執行にいささかの揺るぎがあることも許されまい。急速なオンライン化で指摘される課題の洗い出しは続いており、その解決策の検討は一朝一夕にはできないことも多そうだ。多面的に、重層的な視点を持ってあらゆる角度からの検討、検証が必要である。


議論は緒についたばかりであるが、次代の意見集約方法として堪え得る日弁連らしさを備えた議論が期待される。


(事務次長 木原大輔)



2022年度
包括外部監査人等経験交流会
7月22日 オンライン開催

全国22の地方公共団体において、弁護士が包括外部監査人に就任している(2021年度版「弁護士白書」)。
本交流会では、包括外部監査人および補助者を務める会員が、監査テーマの選定方法や実務上の工夫・悩みなどについて意見を交わした。


地方公共団体の行政運営について専門的知識を有する第三者が監査を行う包括外部監査制度は、都道府県、政令指定都市、中核市で導入が義務付けられており、その他の自治体も条例を定めることにより導入できる。


難波泰明会員(大阪)は、大阪では11の地方公共団体が本制度を実施しているが、その全てで弁護士が包括外部監査人に就任することを目指して、応募しやすい環境の整備などに取り組んでいると述べた。


続いて地方公共団体の職員から、監査報告書に記載された指摘事項への具体的対応など、地方行政における包括外部監査制度の活用状況が報告された。


最後に参加者による意見交換が行われ、監査テーマの選定方法や補助者の選任、監査報告書に記載する「指摘」と「意見」をどのように整理するか等について、活発に意見が交わされた。


日弁連は、より多くの地方公共団体において弁護士が包括外部監査人に選任されるよう、研修の実施等の各種取り組みを今後も行っていく。



弁護士職務の適正化に関する全国協議会
8月5日 弁護士会館

全国の弁護士会会長や懲戒担当役員等が、弁護士会独自の立件(いわゆる会請求)や事前公表制度の事例を共有し、弁護士職務の適正化に向けた取り組みに関して意見交換を行った。


弁護士会からの事例報告

次の会請求事例について報告がなされた。


①弁護士費用の徴収等を業者に委託し、報酬の一部を対価として支払う旨の業務委託契約を締結して金銭を支払ったとして、業務停止9か月となった事例。


②受任した事件処理の遅滞・放置、連絡が取れないなどで2回の懲戒処分を受け、業務停止6か月となった事例。


③期日を欠席した上に敗訴判決を確定させたり、送達された審判書を依頼者に送付せずに不服申立の機会を失わせたことなどを理由に業務停止8か月となった事例。


日弁連の取り組みなど

弁護士職務の適正化に関する委員会の上田英友委員(福岡県)は、元会員が依頼者から金員を詐取した事案で、福岡県弁護士会が元会員に対する指導監督権限の行使を怠ったとして提起された損害賠償被告事件(原告らの請求は棄却)を報告した。あわせて、市民窓口に苦情が寄せられた際の調査体制を紹介した。


石本哲敏副委員長(東京)は、弁護士法人に対する業務停止処分の執行手続の留意事項を説明した。


柴垣明彦委員長(東京)は、日弁連の取り組みについて、①非行探知、②被害拡大防止、③非行発生自体を防止、④重大非行防止、⑤重大非行への対応という項目に沿って、課題や具体的な施策を紹介した。


近藤行弘副委員長(大阪)は、採用活動において法律事務所と求職者との間の採用条件に関するミスマッチ等を防止するため、ひまわり求人求職ナビをリニューアルしたことを報告した。



第15回高校生模擬裁判選手権
8月6日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif第15回高校生模擬裁判選手権


2020年、2021年に続きオンライン開催となったが、全国各地から30校が参加し、地域を越えた対戦が可能となった。生徒たちは、支援弁護士の助言を受けながら、実際の刑事事件さながらの模擬刑事記録を事前に読み込み、準備を整えて本番に臨んだ。

(共催:最高裁判所、法務省・検察庁ほか)


模擬裁判の題材―脅迫事案

今回の題材は、被害者宅に「過去、アルバイト先でパワハラをしていたのは知っている。内定先の企業にばらしてやる。」と記載された差出人不明の文書が届いたという脅迫事案である。被告人は過去に被害者と交際関係にあり、文書と同内容のデータが入ったUSBメモリ等が自宅から発見されて逮捕された。しかし、被告人は否認している。文書を作成し送付したのは被告人なのか、犯人性が争点となる事案である。


実施方法

参加校は、実際の刑事手続と同様、検察側・弁護側の各立場に立って証拠に基づき主張・立証を行う。被告人、証人および裁判官役は弁護士が担当した。審査員は、現役の裁判官・検察官・弁護士のほか、学者やジャーナリストが務めた。


参加校は15のオンライン法廷に分かれ、各校2試合ずつ(弁護側・検察側各1試合)行われた。


活気と熱意に満ちた模擬裁判

弁護士役・検察官役の生徒は、被告人質問や証人尋問で被告人役・証人役に対し、緊張しながらも分かりやすく的確な質問を投げかけた。論告・弁論では、画面共有機能を活用しながら理路整然とした主張を展開した。主張の流れや表現方法、声の抑揚など伝わりやすさまで練り上げられた論告・弁論を披露する参加校もあった。


講評・表彰

審査員による講評では、「実務と遜色のないレベルに驚いた」、「証人尋問・被告人質問では獲得目標を明確にして質問をうまく組み立て具体的な事情を引き出せていた」など、参加校の工夫が高く評価された。


奮闘した生徒には互いを称える拍手が送られ、特に優れた参加校8校が優秀賞を受賞した。


優秀賞受賞高校

●太田高校(群馬)
●市川高校(千葉)
●東邦大付属東邦高校(千葉)
●学習院女子高等科(東京)
●大阪教育大附属高校天王寺校舎(大阪)
●同志社香里高校(大阪)
●灘高校(兵庫)
●高知追手前高校(高知)



第13回環境法サマースクール
資源循環~プラスチック新法をはじめとした近時の動向について~
7月30日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif第13回環境法サマースクール


法曹を目指す学生や受験生の学習の場として、また、環境法に携わる実務家の知識・経験を共有する場として、今年も環境法サマースクールを開催した。
本稿では、2日間にわたる「気候変動訴訟と法の支配」など6つのプログラムのうち、筑紫圭一教授(上智大学)による「資源循環」をテーマにプラスチック資源循環法をはじめとする近時の政策の動向を取り上げた講義を紹介する。


日本における動向

プラスチックは、その有用性から、国民の生活に広く浸透している。しかし、プラスチック廃棄物による海洋汚染、地球温暖化の問題や、廃棄物の輸入規制に伴う対応が課題となっている。


日本では、廃棄物処理法や各種リサイクル法を整備し、自動車などの品目ごとに3R(Reduce, Reuse, Recycle)の取り組みを推進してきた。近年では、国際社会と企業の動向を踏まえ、政府は、2019年に3Rの徹底とRenewable(再生可能資源への代替)を基本原則とする資源循環戦略を立て、数値目標を明示した。


また、2022年4月施行のプラスチック資源循環法では、製品設計からプラスチック廃棄物処理まで、関係するあらゆる事業者等に対し、資源循環等の取り組みを促進する措置を講じることを求めている。


これらの近年の政策は、全体として企業の自主的な取り組みを重視した制度設計となっている。


今後の課題

筑紫教授は、政府が循環経済への移行を加速するという目標を明確にし、目標達成のための手段が整備・拡充されているとしつつも、今後は具体的な運用が問題になると指摘した。


プラスチック資源循環法は、国が認定製品を買い取る方法で、企業に対し、環境に配慮した製品設計を求めている。筑紫教授は、この方法が循環経済への十分な誘因となるかは検討すべき課題であり、認定制度の適切な運用に加え、企業努力が社会から適切に評価される環境の整備が必要であると述べた。また、この観点から注目する取り組みとして、日弁連が2018年に公表した「ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引)」を紹介し、企業などに対して法的助言を行う弁護士への期待が示された。



第32回夏期消費者セミナー
若年者を取り巻く消費者被害~儲け話にご用心~
7月16日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif第32回日本弁護士連合会夏期消費者セミナー「若年者を取り巻く消費者被害~儲け話にご用心~」


成年年齢の引き下げに伴い、若年者の消費者被害やトラブルの増加が懸念されている。
若年者が被害に遭いやすいマルチ商法等を中心に、国や行政が果たすべき役割、在るべき法整備、弁護士の関わり方などを議論した。


消費者被害・トラブルの現況

独立行政法人国民生活センターの加藤玲子氏は、近年の消費生活に関する相談状況を報告した。特に20代以下の若年層で、商品の購入ではなく投資や副業などの儲け話を人に紹介すると報酬が得られる「モノなしマルチ」や、借金するよう指示する手口、SNSをきっかけとしたトラブルが目立つと分析し、若年者への注意喚起・啓発の重要性が高まっていると語った。


マルチ商法の実態~弁護団の活動~

若年者投資マルチ被害対策弁護団として活動する上原伸幸会員(埼玉)は、近年のマルチ・マルチまがい商法の具体的手口や裁判の状況等を報告した。上原会員は、成年年齢の引き下げも相まって若年層への被害が拡大する恐れが極めて高いと警鐘を鳴らした。


必要な法整備

消費者問題対策委員会の石戸谷豊委員(神奈川県)は、マルチ商法に代表されるピラミッド型スキームが、電子データで提供される内容の乏しい情報商材など社会経済的に無価値なものを効率よく拡散させるために使われていると指摘した。マルチ商法被害の根絶には、規制の枠組みを抜本的に見直し、不適切な取引を行う業者を市場から排除する厳しい規制が不可欠であると訴えた。


パネルディスカッション

加藤氏、上原会員、石戸谷委員が登壇し、道尻豊委員(札幌)をコーディネーターとして、若年者がトラブルに巻き込まれる原因や背景、被害防止・救済のために在るべき法制度、消費生活センターと弁護士・弁護団との連携などについて、意見を交わした。デジタルネイティブ世代は非対面・非言語コミュニケーションへの抵抗が少ない傾向にあるが、マルチ事業者はこうした手段を活用して若年者が抱える将来への不安と社会経験の不足に巧妙に付け込んでくるとし、若年者への消費者教育の重要性を共有した。


大迫惠美子委員長(東京)は、成年年齢の引き下げは、若年者に義務を課すのではなく、社会に若年者を受け入れる制度を整える義務を課すものであるとして、引き続き被害の防止・救済に取り組んでいくと、力強くセミナーを締めくくった。



自治体等公務員を目指す!キャリアアップセミナー
7月25日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif自治体等公務員を目指す!キャリアアップセミナー


自治体や行政機関の公務員として行政の現場で活躍する弁護士(以下「自治体内弁護士」)が増えている(登用行政・自治体は185、登用人数は252人(2021年度版「弁護士白書」))。
自治体の担当職員や自治体内弁護士が、弁護士、司法修習生、法科大学院生などを対象に、自治体等が弁護士を採用する理由、やりがいやキャリアプランなどを語るセミナーを開催した。


自治体内弁護士が求められる理由

自治体内弁護士の職務内容は、訴訟、条例規則等の法制執務のみならず、議会対応、住民対応、選挙事務、自治体等の職員向け研修講師、災害復興に関する業務など多岐にわたる。


岐阜県岐阜市の採用担当職員は、新型コロナウイルス感染症などの過去に経験のない分野における対応や、判断が困難な審査請求などで、自治体内弁護士から適切なアドバイスを得ることができたと、実例に基づき紹介した。複雑化、多様化する住民からのニーズに応じて、自治体が担う役割は拡大・高度化の一途を辿っており、今後も弁護士等の専門家職員が自治体の業務を担っていくことが重要だと説明した。


自治体内弁護士の魅力

兵庫県姫路市に勤務する坪山元会員(広島)は、職員と協力しながら業務に取り組むため、周囲から頼りにされていることが実感でき、モチベーションの向上につながっていると述べた。また、組織として個々の案件に対応するため、一人でストレスを抱え込むことがなく働きやすいと魅力を紹介した。


キャリアプランの形成

岡山県赤磐市に勤務する堤大地会員(岡山)は、勤務時間が決まっているという利点を生かし、将来のキャリアのためにも大学で知的財産法を学んでいると語った。


国税不服審判所で国税審判官として勤務する吉田渉氏(元会員)は、法律事務所での勤務時には租税事件を扱ったことがなかったが、税務に関する実務経験が豊富な同僚と意見を交わしながら業務に取り組むことで視野が広がり、想定していた以上のキャリアアップにつながっていると述べた。


登壇した自治体等の担当職員は、自治体内弁護士は行政に関連する分野の実務経験がなくても、一般民事の基礎的な知識や経験を生かし、さまざまな場面で活躍できると語った。あわせて、自治体や行政機関などの公務員への応募を、積極的に検討してほしいと呼びかけた。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.172

平等かつインクルーシブな社会の実現を目指して
LGBTとアライのための法律家ネットワーク(LLAN)

性的少数者が直面している困難な状況について、社会的認知が広まり、改善に向けた多くの取り組みがなされています。法律実務家としての知見を生かし、性的少数者に対するさまざまな支援を行うLLANの共同代表理事の藤田直介会員(第二東京)とアレキサンダー・ドミトレンコ会員(第二東京)、理事の竹野康造会員(第二東京)、細谷夏生会員(第二東京)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 李 桂香)


設立経緯と組織の特徴

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(藤田)2010年ころ、勤務先企業が開催した管理職向けLGBT研修に参加しました。講師から「あなたが研修を受けただけでは何も変わらない。部下の皆さんと話すなど、行動してください。」と言われ、研修で得た知識を部下と共有し、アライ(ally=味方という意味から転じて、支援する人)のマーク(会社が用意したもの)を自席デスクに置くなど、できることから実行しました。


2015年の部下のカミングアウトをきっかけに、私は部下が生きがいをもって働けるようにするためには、職場のみならず社会的状況も変える必要があると実感し、できることから始めていきました。その結果、共同代表理事のアレキサンダー会員や志を同じくする国内外の弁護士との出会いを経て、2016年にLLANが立ち上がりました。現在、法律事務所・企業の法律実務家など150人を超えるメンバーがLLANの活動に参加しています。


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(竹野)LLAN創生期に、藤田会員からご提案いただき、私が所属する法律事務所で研修会を開催したところ、予想以上に多くの弁護士から活動に参加したいとの反応があったことが、事務所全体でこの問題に取り組んでいく契機となりました。他の弁護士の気付きや行動のきっかけとなったという意味でも、研修会という具体的な一歩を踏み出して良かったと心から思っています。


(アレキサンダー)ニューヨークなど海外では支援団体の構成員の大半が性的少数者であることが一般的です。LLANはほとんどがアライで、また普段の業務では競合する弁護士が一つの目標に向かって強力なタッグを組んでいる、非常にユニークなプラットフォームになっています。


これまでの活動

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(細谷)「Equality Gala(Gala=イベント)」と銘打って、毎年、国内外から講師を招き、啓発・交流を行っています。私は、弁護士登録1年目に第1回Galaに参加し、こんな問題があるのかと衝撃を受けました。それ以来LLANの活動に関わっており、私の弁護士としてのスタンスを方向付ける出会いとなりました。


(藤田)性的少数者の問題に取り組んでいる団体はいくつもありますが、企業法務の専門家が多く、外国弁護士の海外ネットワークも活用できるところにLLANのユニークさがあります。LGBTQ関連の映画の上映会、企業向け研修やロースクールでの演習、書籍出版・人事実務誌等への寄稿などを行っています。その他にも、海外ネットワークを活用して、同性婚が実現した11の国や地域について、成立までの経緯を法令・判例を含めてまとめた報告書を公表しています。


今後の展望

(藤田)2021年3月に札幌地裁が婚姻に伴う利益を同性カップルが享受できないことを違憲と判断する一方で、今年6月には大阪地裁が合憲と判断しました。ここ数年、世論は大きく動いており、法律家が果たすことのできる役割はますます高まっています。


LLANも、問題の本質を分かりやすく伝え、より効果的に人々の価値観に訴求する方法を、海外の事例も含め一つ一つの事象から学びながら、練っていきたいと考えています。


同性婚をはじめ海外における活動事例を見ても、社会の変化が一進一退となるのは不可避ですが、何よりも諦めず信じて取り組むことが肝心だと感じています。


会員へのメッセージ

(アレキサンダー)平等への道のりは決して平たんなものではなく、人々のコンセンサスを形成した上での実現でなければ、その価値観は根付きません。今、時代は大きな転換点を迎えています。LLANを含め、この大きな転換を起こそうとしている活動を、多くの会員に支援していただけると嬉しく思います。


(藤田)性的少数者の人口比は5%とも10%とも言われています。人口比5%と言えば、日本の4大苗字の人口と同程度の割合です。性的少数者はあなたの身近にいますし、差別・偏見も厳然と存在します。この記事をきっかけに性的少数者の問題に関心を持って、行動していただくきっかけとなれば嬉しく思います。



日弁連委員会めぐり116
住宅紛争処理機関検討委員会

今回の委員会めぐりは、住宅紛争処理機関検討委員会です。日野義英委員長(第二東京)、栗原稔事務局長(東京)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 枝廣恭子)


活動の概要

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住宅紛争処理機関検討委員会(以下「委員会」)は、関係機関と連携しながら、弁護士会に設置された住宅紛争審査会の活動支援を行っています。住宅紛争審査会は「住宅の品質確保の促進等に関する法律」および「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」に基づく紛争処理手続(以下「住宅紛争処理手続」)を実施しています。


また、最高裁判所、国土交通省、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター(以下「支援センター」)との四者による定期的な意見交換会を開催し、支援センター主催の全国住宅紛争処理機関連絡会議に参加しています。このように関係機関と住宅紛争処理の動向について情報共有し、法改正や制度運用に関する情報発信も行っています。


法改正への対応

2021年5月の法改正により、同年9月30日から住宅紛争処理手続に時効の完成猶予効が付与されました。また、本年10月1日からは、紛争処理の対象が評価住宅および瑕疵保険付きの新築住宅だけでなく、瑕疵保険付きの既存住宅にも拡充され、リフォームや既存住宅売買等も対象となります。これに対応すべく、委員会では規則改正PTを設置し、モデル規則の作成などを行いました。また、対象の拡充に伴い申立件数の増加が見込まれており、受付や審理が円滑に進むよう、支援センター発行のマニュアル集の改訂に協力しました。


ウェブ会議システムの活用

コロナ禍を契機として、専門家相談へのウェブ会議システムの導入を検討するPTを立ち上げ、既に16の弁護士会で試行されています。遠隔地の居住者や高齢者からも好評で、他の弁護士会での導入や住宅紛争処理手続での活用に向けて、引き続き活動していきます。


会員へのメッセージ

住宅紛争処理手続は、訴訟と比較して申立手数料が安価である(1件あたり1万円程度)、紛争解決までの時間が比較的短い(平均審理回数4.7回、平均審理期間7.3か月)などのメリットがあります。住宅に関する紛争の相談を受けた際は、建設住宅性能評価書もしくは保険の有無を確認の上、住宅紛争処理手続の利用をご検討ください。



ブックセンターベストセラー (2022年7月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元名

ローヤリングの考え方

榎本 修/著 名古屋大学出版会

最新 公用文用字用語例集〔増補版〕

ぎょうせい公用文研究会/編

ぎょうせい

条解民事執行法〔第2版〕

伊藤 眞、園尾隆司/編集代表 弘文堂
詳解 相続法〔第2版〕 潮見佳男/著 弘文堂
水町詳解労働法公式読本QA〔第2版〕 水町勇一郎/著 日本法令

弁護士職務便覧 令和4年度版

東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会/編 日本加除出版

パワハラ防止の実務対応

帯刀康一/著 労務行政

法律事務職員研修「基礎講座」テキスト 2022年度

東京弁護士会弁護士業務改革委員会/編 東京弁護士会

7士業が解説 弁護士のための遺産分割

狩倉博之/著 学陽書房

プライバシーポリシー作成のポイント

白石和泰、村上諭志、溝端俊介/編著代表 小林央典、野呂悠登/編著 中央経済社



海外情報紹介コーナー⑮
Japan Federation of Bar Associations

新しい離婚法(英国)

2022年4月6日、英国で「無過失離婚」(No-fault divorce)の制度が導入された。これまで英国では、当事者が離婚に合意していたとしても、一方当事者に離婚原因があることを立証するか、長期の別居を経なければ離婚が認められなかった。しかし、無過失離婚制度の導入により、婚姻が修復不能なほどに破綻していることを理由に離婚を申し立てることが可能になった。


英国政府は「責任のなすり合いは終わり」で子どもや財産の問題に集中できるようになるとしているが、費用や時間がかかりすぎるとの批判も出ている。


(国際室嘱託 尾家康介)