日弁連新聞 第568号

「新型コロナウイルス・ワクチン予防接種に係る人権・差別問題ホットライン」を実施

arrow_blue_1.gif「新型コロナウイルス・ワクチン予防接種に係る人権・差別問題ホットライン」を実施します


2021年5月14日・15日の2日間、新型コロナウイルスのワクチン接種を巡る人権侵害の実態を把握し、必要な助言を行うため、ホットラインを実施した。相談件数は2日間で208件に上った。


相談者と相談内容

看護学生・医学部生、医療関係者、高齢者介護施設の介護士・利用者(高齢者)からの相談が多かった。相談内容は、主に①ワクチン接種の強制・接種しない場合の不利益的取り扱い、②同調圧力・差別に対する不安、③医師の説明・自治体の対応・政府の情報公開に対する疑問、④持病・アレルギー体質や副反応の懸念による接種への不安などであった。


相談の具体例

相談の様子看護学校から「ワクチンを接種しないと実習を受けさせない(そのため単位を与えられない)」などと言われて接種を強制された看護学生や、学生寮関係者から「ワクチンを打たないと退寮させる」と言われた医学部生から相談が寄せられた。


看護師・技師・薬局関係者等の医療従事者からは、「病院からワクチン接種を強制された」「ワクチンを接種しなければ退職と言われた」などの相談があった。特に、ワクチンを「受ける」「受けない」にチェックする表が職場に張り出されたり、名札に接種の有無が表示されたりする事例もあり、非接種者に対する差別的取り扱いやプライバシー侵害の実態も明らかになった。


高齢者介護施設の職員からも、職場で全員接種が求められ、接種しない場合は退職・休職・配置転換などを求められているとの相談が寄せられた。


またワクチン接種を拒否した場合の同調圧力や不利益、周囲からの差別を恐れる声は、さまざまな職種の人から寄せられた。


接種の是非については「かかりつけ医が十分な説明をしてくれない」「自治体の相談窓口でまともに取り合ってくれない」などの相談や、政府が副反応の情報を十分に公表していないとの声もあった。


ホットラインを実施して

政府の記者会見やマスコミ報道はワクチン接種の必要性や実施状況を伝える傾向にあるが、今回のホットラインでワクチン接種に疑問や不安を持つ市民が多いことが明らかになった。


ワクチン接種はあくまで個人の選択により行われるべきものであり、接種を巡る人権侵害や差別を防ぐための取り組みが必要である。


(人権擁護委員会 副委員長 黒木聖士)



プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案についての会長声明を公表

arrow_blue_1.gifプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案についての会長声明


日弁連は5月21日、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案についての会長声明」を公表し、同日、環境大臣および経済産業大臣に提出した。


既に日弁連は、本年3月18日に「今後のプラスチック資源循環政策についての意見書」(以下「意見書」)を取りまとめ、国に対し、①リデュース(発生抑制)の徹底を図ること、②熱回収の割合を限りなく低減させること、③拡大生産者責任および事業者責任を徹底した循環型社会にふさわしい統一的な法制度を整備すること、④プラスチックに使用される有害化学物質を規制することを含む政策を実施すべきことを求めていた。


ところが、第204回通常国会に提出され、審議されていた「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」(以下「本法案」)は、プラスチックの資源循環の促進について事業者の自主性に任せて行政指導を重視するものであり、プラスチック問題の抜本的解決とはならないことが強く懸念された。また、本法案は、プラスチック資源の分別・回収コストを生産者ではなく市町村の負担とする容器包装リサイクル法の問題点を固定化するものでもあった。このため、改めて会長声明を公表し、十分な検討を求めたものである。


しかし、本法案は内容が変更されることなく、6月4日、成立に至った。環境省は2022年4月の施行を目指すとしている。


日弁連としては、会長声明で述べたとおり、プラスチック問題の抜本的解決のため、意見書の①および②の趣旨に沿った運用がなされるよう注視していくとともに、意見書の③および④の趣旨の施策の実現を求め、引き続き活動を進めていく。


(公害対策・環境保全委員会廃棄物部会 部会長 小島寛司)



自然災害義援金の差し押さえを禁止する法律が成立

arrow_blue_1.gif自然災害義援金に係る差押禁止等に関する法律の成立に当たっての会長談話


会長談話を公表

6月4日、自然災害義援金に係る差押禁止等に関する法律(以下「本法」)が成立した。日弁連は同日、「自然災害義援金に係る差押禁止等に関する法律の成立に当たっての会長談話」を公表した。


本法は、自然災害の被災者等の生活を支援し、被災者等を慰藉する等のため自発的に拠出された金銭を原資として、都道府県または市町村(特別区を含む)が一定の配分基準に従い被災者等に交付する金銭である「自然災害義援金」について、交付された金銭や交付を受ける権利を差し押さえることなどを禁止するものである。 


自然災害義援金の差し押さえ禁止に関しては、これまで一般法は制定されておらず、東日本大震災や平成28年熊本地震等の大規模災害に関して5つの個別立法がされ、限定的に対処されてきた。


日弁連は、災害ごとに義援金差し押さえの可否の取り扱いが異なる不公平等の問題を指摘し、災害対策基本法2条1号に定める災害を対象として義援金の差し押さえを禁止する一般法の制定を求めてきた(2020年1月17日付「災害を対象とした義援金の差押えを禁止する一般法の制定を求める意見書」)。


日弁連は、本法が災害の規模や範囲、地域、時期に限定を加えず、広く自然災害一般を対象としている点について、高く評価している。


本法により、被災者等に交付される自然災害義援金の差し押さえが禁止され、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を含む債務整理の手続上も、自由財産と同視して被災者等の手元に残すことができるようになるため、被災者等の生活再建に大きく資することになる。


今後とも被災者等の支援のために、日弁連として対応すべきさまざまな課題について引き続き検討を行い、徹底して取り組んでいきたい。


(災害復興支援委員会 幹事 在間文康)



ひまわり

今年はスポーツの日が7月23日になった▼スポーツの日は、東京五輪の開会式が1964年10月10日に開催されたことに由来する。開会式を記念して1966年から10月10日が体育の日と定められ祝日となった。学生の頃、体育の日に運動会が開催され、競技に応援に汗を流された方も多いだろう▼2000年にはいわゆるハッピーマンデー制度の導入に伴い、日にちが10月第2月曜日に変更となった。2020年には名称がスポーツの日に改められた。五輪を機に、学校教育のイメージの強い体育という言葉から、世界的に広く使われているスポーツという言葉にしたい、自発的に楽しむ意味を持たせたいといった議論があったという。その意義も、「スポーツにしたしみ、健康な心身をつちかう」から「スポーツを楽しみ、他者を尊重する精神を培うとともに、健康で活力ある社会の実現を願う」に変わった▼だが、生活の変容に伴い、スポーツどころか日常的に身体を動かすことさえ難しく、他者を尊重する精神も従前とは何か異なる感がある。社会の活力等もまだ戻っているとは言い難い。名称変更当時読み流していたスポーツの日の意義が今更ながら心に染みる。その意義に思いを致し、まずは階段を上ることからコツコツ始めたい。


(Y・M)



中小企業庁との共同コミュニケを公表

arrow_blue_1.gif中小企業庁との共同コミュニケ「中小企業の事業承継・引継ぎ支援に向けた中小企業庁と日本弁護士連合会の連携の拡充について」


中小企業の事業承継・引継ぎ支援に向けて

日弁連と中小企業庁は、共同コミュニケ「中小企業の事業承継・引継ぎ支援に向けた中小企業庁と日本弁護士連合会の連携の拡充について」を策定し、6月9日に公表した。中小企業庁との共同コミュニケは、2007年2月に第1回を公表し、今回で6回目となる。


今回、共同コミュニケを策定・公表することになった背景は、次のとおりである。


近時、中小企業経営者の高齢化や、新型コロナウイルス感染症の影響による事業再構築の必要性の高まりから、「事業承継」が社会的な問題となっている。特に、後継者がいない中小企業のM&Aを促進することなど、中小企業の経営資源を円滑に引き継ぐことが課題とされている。


中小企業庁は「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」を開催し、本年4月28日に、安心・安全なM&Aに向けた取り組みの一つとして、M&Aに関する知識に乏しい中小企業に対し、早期に弁護士等の専門家がサポートに入れるよう、「2021年度中に、事業承継・引継ぎ支援センターと弁護士会の連携強化に向けて、地域の実情に応じて弁護士の紹介やお互いの人材育成等を行う組織的な取組を開始する」との取りまとめを公表した。


これを受けて、中小企業庁と日弁連は共同コミュニケを公表し、各地の事業承継・引継ぎ支援センターと弁護士会が連携を強化し、M&Aや転廃業を含む、中小企業の事業承継に関する法的課題を弁護士がサポートするための体制の整備・拡充を進めることになった。


共同コミュニケの全文は、日弁連ウェブサイトに掲載されている。


(日弁連中小企業法律支援センター 事務局次長 大宅達郎)



日弁連短信

しなやかな変革をして進む

前事務次長

2021年6月11日、弁護士会館講堂クレオで、第72回定期総会が開かれ、本人出席、代理出席、代理人による書面行使分を含め1万個を超える議決権が行使された。今回の定期総会は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて以降、3回目の総会となる。


例年、日弁連の定期総会は、東京と地方での開催を交互に行っており、本年は、当初、広島県を開催地として準備が進められてきた。


しかし、感染拡大によって人の移動が困難となる中、この状況は、新たに整備された会則第37条ただし書の規定、すなわち「災害の発生その他のやむを得ない事由により指定された地において定期総会を開催することが困難な場合」に当たるとして、本年5月、理事会の議決をもって東京都に変更されたものである。


日弁連は、法律家の集まりであるから、当然ではあるものの、総会、代議員会、理事会等の基幹会議の運営は、極めて厳格な規律の下に行われている。


これまでに想定をしてこなかった今回のような感染症の流行以来、安定し、切れ目のない会務運営を実現し、あわせて会員の意思である議決権行使を一つでも多く可能にする総会の在り方が模索されてきた。前記のとおり総会の開催場所の変更や議決権の委任を受けた代理人が総会の開催場所に赴くことができない事態に備えた書面行使の方法等が本年3月の臨時総会で整備されたが、今回の定期総会でこれらの対応策が早速、活用されたものである。書面による議決権の行使は、2700個を超える数に上った。


また、3月の臨時総会からは、総会の模様について、各弁護士会への中継や録画したものを総合研修サイトへ掲載することも開始している。時間の制約があって会場に足を運ぶことができない会員に対しても、会務に関する情報はリアルタイムに十分に届けられることが重要であるし、関心のあるテーマについて、その審議の模様を確認したいとの会員の要望にも応えるものである。まだまだ視聴数は伸びていないが、従前の運用を常に見直すことをいとわず、時代やニーズを前向きに捉えて、組織を構成する人々の意思を十分にくみ取ることができる会議体とはどのようなものか、その実現を目指した模索を続けていくことも日弁連に期待される重要な役割であろう。


(事務次長 木原大輔)



法律相談センター全国協議会
6月1日 オンライン開催

日弁連公設事務所・法律相談センター(以下「センター」)では、全国の弁護士会の法律相談担当者が一堂に会する全国協議会を定期的に開催している。今回は、コロナ禍での法律相談の在り方や法律相談の質の向上等について意見交換をした。


コロナ禍における法律相談の在り方

センター第1部会の北古賀康博部会長(福岡県)は、緊急事態宣言下における相談体制などのアンケート結果を踏まえて、コロナ禍における各地の法律相談センターの対応状況を報告した。パネルディスカッションでは、竹本真紀委員(青森県)が、ウェブ相談は法律相談への敷居を下げ、遠隔地でも法律相談をしやすくする効果がある一方で、高齢者にとっては面談相談の方が満足度が高いとの悩みを語った。曽場尾雅宏副委員長(長崎県)は、弁護士が便利なウェブ相談に流れ、出張相談が行われなくなることを危惧した。城﨑建太郎委員(東京)からは、相談内容ごとにウェブの使い方を考えるべきとの意見があり、非対面型の法律相談の在り方について活発な議論がなされた。その他、ウェブ相談における録音・録画の問題や相談料の減額、クレジットカード払いなど人を介さない支払いについても意見交換がなされた。


法律相談件数を増やすための取り組み

センター広報PTの上椙裕章座長(当時/広島)が、本年2月に公開した「戦国法律相談アニメ」について、視聴回数が100万回を超えた動画もあり、センターの認知度向上に一定の成果が見られたと報告した。


法律相談の質の向上~eラーニング研修

センターで制作した模擬法律相談のeラーニング教材を上映し、弁護士会での活用を呼びかけた。曽場尾副委員長は相談者の言い分をいったん受け入れた上で自分の考えを述べるアサーティブコミュニケーションなどの手法を解説した。



G7 Bars and Law Societies Roundtableに参加
5月17日 オンライン開催

G7参加国の弁護士会が一堂に会し、共通の課題について議論するG7 Bars and Law Societies Roundtableが、G7首脳会議の開催に合わせて開催された。英国ローソサエティーがホストを務め、大韓弁護士協会とオーストラリア弁護士連合会がオブザーバー参加した。


挨拶をする荒会長Roundtable(座談会)では、ホストの英国ローソサエティーから提案された5つのテーマ(弁護士の活動に対する攻撃、ローテック、気候変動、コロナ禍からの経済復興、司法の継続性)について、参加弁護士会による共同決議発出に向けて協議した。


ボイス会長(英国)からは、コロナ禍からの復興の場面で、法の支配と弁護士の独立が極めて重要であるとの認識のもとテーマ選択に至った旨報告された。


5決議は、座談会期日後も検討が重ねられ、G7首脳会議開幕日の6月11日に公開され、G7首脳会議にも通知された。


弁護士の活動に対する攻撃に関する決議は、全弁護士会で合意に至ったが、その他の決議は各弁護士会の取り組み・検討状況に差異があることから、一部の弁護士会の合意による発出となった。日弁連は、ローテック以外の決議で合意している。


なお、座談会では、全弁護士会から、コロナ禍における活動が紹介された。カナダの弁護士会からは、コロナ対応のタスクフォースを設置し、コロナ禍で加速した司法アクセスのIT化を、今後も継続していくこと等の提言をまとめたこと、フランスの弁護士会からは、ロックダウン時に弁護士がエッセンシャルワーカーとして指定されるよう政府に求めたことが報告された。日弁連からは、無料法律相談実施の報告に加え、長引くコロナ禍で、市民が抱える法律問題に変化が見られること等を紹介した。


(国際室嘱託 尾家康介)



憲法記念シンポジウム
改めて考える!「専守防衛」と憲法9条
敵基地攻撃能力とスタンド・オフ防衛能力とは?
5月22日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif憲法記念行事オンラインシンポジウム「改めて考える!『専守防衛 』と憲法9条」~敵基地攻撃能力とスタンド・オフ防衛能力とは?~


「戦争放棄」「戦力保持禁止」を規定する憲法9条の下、真に戦争の危機を防ぎ近隣諸国との平和を維持するため、「専守防衛」の在り方を考えるシンポジウムを開催した。(共催:東京三弁護士会)


クロストーク「憲法の魅力について語ろう」

せやろがいおじさんと津田二郎会員

トーク芸人のせやろがいおじさん(榎森耕助さん)をゲストに迎えたクロストークでは、津田二郎会員(東京)が、夫婦別姓や同性婚、校則などの生活に身近な事柄から安全保障にわたるまで、さまざまな問題が憲法と深く関わっていることを紹介した。

パネルディスカッション

志田陽子教授(武蔵野美術大学造形学部)は、憲法学者の立場から、日本は現行憲法において、平和的生存権を中心とする人権を守る手段として武力行使・戦争によらないことを選択しており、軍事力に頼ることには違憲推定が働くと論じた。憲法の弾力的解釈を行うとしても、軍事力が必要となる切迫した状況の有無を常に問わなければならないと語った。


半田滋氏(防衛ジャーナリスト/元東京新聞論説兼編集委員)は、日本の防衛政策や保有装備の歴史的推移を紹介した上で、現在強化が進むスタンド・オフ防衛能力に疑問を呈した。政府は安全保障政策という「意思」を決定・表明せずに手段たる「能力」を高めるという、ちぐはぐな態度であると批判した。


栁澤協二氏(元内閣官房副長官補/NPO国際地政学研究所理事長)は、戦後日本の防衛史を紹介し、安全保障の目的は戦争の不安からの解放だが、戦争への備えだけでは不安は解消されず、不安の原因を考えなければならないと指摘した。戦争は、国家目的の手段である以上、戦争を防ぐことは可能であると述べ、危機をあおり分断する政治から、多様な意見を尊重する政治へと、憲法の精神に新たな生命力を与えていくべきであると力を込めて語った。



第6回法化社会における条例づくり
法化社会における弁護士と条例のかかわり
―条例制定による高齢者・障がい者の権利擁護―
5月14日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifオンライン研修会「法化社会における弁護士と条例とのかかわりー条例制定による高齢者・障がい者の権利擁護ー」


自治体の政策実現手段として条例の役割が増している。新条例制定に際して弁護士が支援することにより、地方議会議員や自治体担当者が直面する困難を打開できる可能性があると考えられる。条例制定による高齢者・障がい者の権利擁護に焦点を当て、条例の制定意義や在り方を整理し、弁護士の関わり方を検討した。


講演・報告

川﨑政司氏(参議院法制局長)は、行政の方向性等を宣言することに力点を置いた「理念型条例」について、社会に対するメッセージとしての役割を評価した。一方で、実効性が低く法治主義の空洞化を招きかねないなどの問題点を指摘し、条例制定に関与する弁護士が住民と行政の間の通訳者の役割を果たすことに期待を寄せた。


德田靖之会員(大分県)は、障がいのある当事者とともに大分県および別府市の障がい者差別禁止条例の制定に関わった経験を語った。当事者が行政に要求したり批判したりという両者の関係が、同じ方向を向いて共に問題を解決する関係へと変化していくのを感じたと振り返った。


金子匡良教授(法政大学法学部)は、2006年から2020年の間に各地で制定された障がい者差別禁止条例の内容を比較検討し、条例数のさらなる増加や市民社会の成熟度格差の是正など今後の課題を指摘した。


パネルディスカッション

川﨑氏、長岡健太郎会員(兵庫県)、青木志帆会員(明石市常勤職員・兵庫県)、世田谷区高齢福祉部介護予防・地域支援課長が、条例制定に対する弁護士の関与の在り方、自治体に期待すること、自治体が外部の意見を取り入れる際の具体的方法などさまざまな切り口から意見交換を行った。



行政不服審査法シンポジウム
―5年後見直しの課題―
5月17日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif行政不服審査法シンポジウム-5年後見直しの課題-


2016年4月に改正行政不服審査法が施行されてから5年が経過した。本シンポジウムでは、本年度予定されている5年後見直しに向けた論点整理および個別分野における問題点を報告するとともに、5年後見直しの方向性について議論した。


第1部 報告

5年後見直しに向けた論点整理

髙橋滋教授(法政大学法学部)は、①簡易迅速性の確保に関する論点として、審理員の指名の迅速化や弁明書への処分要件充足性の記載の義務付け等、②公正性の向上に関する論点として、審査庁の調査権限や審査庁に対する事案に関する情報提供の義務付け等、③その他の論点として、付言への応答義務等を挙げた。


各分野の審査請求の問題点

日弁連行政問題対応センターの髙橋済委員(東京)は、難民不服審査の分野では入管法による行政不服審査法の特例が多く、弁明書の適用除外や口頭意見陳述を不要とする例外が広く認められるなど手続保障が不十分であると述べた。小林展大会員(神奈川県)は、情報公開の分野について自治体ごとの運用のばらつきや口頭意見陳述の形骸化を指摘した。長岡健太郎会員(兵庫県)は、障害者総合支援法の分野について標準審理期間の定めがなく審理が長期化すると指摘した。


第2部 パネルディスカッション

第1部の報告者が5年後見直しの方向性について議論した。弁明書については処分要件充足性の記載を義務付けるほか、記載内容の充実とレベルの向上が審理の迅速化のために重要であること、口頭意見陳述は争点を整理し審理員の理解を深めるため極めて有意義な手続であること、審査会の答申に運用上の問題を指摘する付言があった場合は応答義務を課すことが運用改善につながることなどで意見が一致した。



シンポジウム
自然災害における宅地被害の救済と予防を考える
6月3日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「自然災害における宅地被害の救済と予防を考える」


宅地を開発・造成して供給する業者と、宅地を取得する消費者の情報量等の格差に着目し、自然災害における宅地被害を消費者被害と捉え、消費者が安全な住宅に居住する権利を実現するために必要な取り組みを考えるべく、シンポジウムを開催した。


報告・講演

消費者問題対策委員会の三浦直樹幹事(大阪)は、2012年3月15日の「宅地被害者の救済及び予防のための法改正等を求める意見書」で日弁連が提言した対策は、いまだ十分に達成されていないと報告した。


朝津陽子氏(国土交通省都市局都市計画課開発企画調整官)は、都市計画法の改正で開発許可の技術基準(33条)・立地基準(34条)が見直され、自己業務用施設でも災害レッドゾーンでの開発が原則禁止されたと述べた。また、いわゆる11号条例・12号条例の区域から災害ハザードエリアを除外することが徹底されたと説明した。


釜井俊孝教授(京都大学防災研究所斜面災害研究センター)は、宅地被害を高度成長期に下地が作られた「遅れてきた公害」と評した。その対策は1978年の宮城県沖地震の際に提言されていたが、それを実現できなかったことが東日本大震災での大規模宅地被害に繋がっただけでなく、いまだに多くの対策が実現していないと指摘した。


パネルディスカッション

自然災害における宅地被害の救済と予防

島川英介氏(NHK社会部副部長)は、宅地被害は災害の「顔」になり得ると警鐘を鳴らし、住民に災害リスク情報を適切に伝えることや、宅地被害を自分の問題として捉えることの必要性を説いた。


美濃部雄人氏(国土交通省都市局都市安全課長)は、大規模盛土造成地を含む「重ねるハザードマップ」などの今の施策が到達点ではなく、今後も解決策を常に考えたいと述べた。


消費者問題対策委員会の齋藤拓生幹事(仙台)は、宅地の安全性確保は人権問題であり、日弁連は問題解決のため引き続き全力を尽くすと締めくくった。



セミナー
人権・環境デュー・ディリジェンスの実務
~責任ある企業行動と弁護士の役割~
5月31日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif【オンライン開催】日本弁護士連合会OECD共催セミナー人権・環境デュー・ディリジェンスの実務~責任ある企業行動と弁護士の役割~(日弁連ESGセミナーシリーズ「2021年度ESG(環境・社会・ガバナンス)基礎講座第1回」)


2020年10月、政府がビジネスと人権に関する行動計画(NAP)を発表し、日本企業に対する人権・環境デュー・ディリジェンス実施への要望が高まっている。人権デュー・ディリジェンスを巡る国内外の政策動向を紹介し、日本の企業・法律実務が実践すべき方策を議論した。(共催:経済協力開発機構(OECD))


山田美和氏(日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所新領域研究センター法・制度グループ長)は、企業には人権を尊重する責任があり、それを果たすために実施するのが人権デュー・ディリジェンスであって、その本質はステークホルダーとのエンゲージメント(対話)から情報を得ることにあると強調した。デュー・ディリジェンスが人々の権利向上に繋がることが重要で、それが持続可能性や企業価値の向上に結び付くと語った。


バーバラ・ビジェリック氏(OECD責任ある企業行動センター法律専門家兼金融セクターリーダー)、日ノ下レナ氏(同センターサプライチェーン・デュー・ディリジェンス政策アナリスト)は、EUにおけるデュー・ディリジェンスに関する規制や法制化の動向を紹介し、日本企業も対応を求められることになると指摘した。また、企業がOECD多国籍企業行動指針に従ってデュー・ディリジェンスを実施する上で、OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスが有用であると説明し、その枠組みなどを解説した。


弁護士業務改革委員会CSRと内部統制に関するPTの高橋大祐副座長(第一東京)は、日本企業に対する投資家・取引先・市民社会からの期待が高まる中、弁護士は企業の人権・環境デュー・ディリジェンスの実施を促進・支援することで、環境保全・人権尊重に貢献するのみならず、企業価値の向上に貢献できると説いた。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.159

法務省の人権擁護機関の取り組み
「『誰か』のこと じゃない。」

昨今、インターネット上の誹謗中傷や新型コロナウイルス感染症に関連する差別や偏見などが大きな社会問題になっています。そこで今回は、人権啓発や人権救済などの人権擁護活動を行っている法務省人権擁護局の佐藤しずほ局付、同局調査救済課の服部弘幸補佐官、上田博章係長、東京法務局人権擁護部の相川真由美第二課長から、法務省の人権擁護機関の活動についてお話を伺いました。

(広報室嘱託 花井ゆう子)


組織概要

左から服部補佐官、佐藤局付、上田係長。人権イメージキャラクターの「人KENあゆみちゃん」(左)・「人KENまもる君」とともに

法務省人権擁護局、法務局・地方法務局(支局含む)の人権擁護部門と、法務大臣が委嘱した民間のボランティアである人権擁護委員を合わせて「法務省の人権擁護機関」と呼んでいます。人権擁護委員制度は諸外国にも例を見ないものです。


人権啓発

コロナ差別に関するリーフレット(表紙)

世界人権宣言が採択された12月10日は、国際連合が定めた「人権デー」です。法務省の人権擁護機関では、毎年12月4日から10日までを「人権週間」と定め、全国各地で集中的に人権啓発活動を行っています。新型コロナウイルス感染症に関連する差別や偏見をなくすための啓発活動も積極的に行っています。


人権相談

相談窓口

法務局に常設の人権相談窓口を置いています。相談は無料です。現在は感染拡大防止の観点から、できる限り電話等による相談をお願いしています。


2006年度から実施している「子どもの人権SOSミニレター」事業では、料金受取人払の便箋兼封筒を全国の小中学校の児童・生徒に配布して、教師や保護者にも相談できない子どもの悩み事の把握に努めています。届いたミニレターは、人権擁護委員らが一通一通目を通し、返事をしています。これを端緒とする人権相談の受理件数は年間1万件以上に上り(2020年度は1万704件)、いじめや虐待など人権侵害の疑いのある相談については、人権侵犯事件として調査を開始し、必要に応じて適切な救済措置を講じています。


新型コロナウイルス感染症関連相談

相川課長。東京法務局相談ブースにて

全国で新型コロナウイルス感染症関連の相談を受け付けています。東京法務局にも多くの相談があります。電話相談が中心ですが、必要とする方のため常設窓口も維持しています。感染が広がり始めた当初は、国民全体に正しい知識がない中、漠然とした感染への不安による相談が多く見られました。相談を受ける側も情報が少なく苦慮しましたが、厚生労働省のウェブサイト等の情報を参照して事例集を作るなどして対応しました。全国的に感染が拡大すると、自分や周囲の人が感染して差別的な取り扱いを受けた等の相談が増えました。直近ではワクチン接種に関する相談も増えています。局面の変化に応じて相談内容も変化していくので、適時適切な対応に努めています。


2020年における人権侵犯事件の取組状況

新規開始件数は、9589件(前年1万5420件)でした。件数は年々減少傾向にありますが、人権侵害そのものが減少したということではなく、相談機関の拡充等により相談が分散していることも背景にあると考えています。昨年は、コロナ禍により特設会場での相談窓口を設置できないなど対面相談の機会減少等も影響しているのではと考えています。


処理内訳は、「援助」(関係機関への紹介や法律上の助言等)81.5%で最多、次いで「要請」(実効的対応ができる者に対し具体的な措置を執るよう求める)が6.4%でした。


特徴的な動向としては、インターネット上の人権侵害情報に関する人権侵犯事件の処理件数が2011年の3倍以上、プロバイダ等に削除要請をした件数は578件と過去最高となりました。また、新型コロナウイルス感染症に関する人権侵犯事件の新規開始件数は175件でした。


詳細は、法務省ウェブサイトに掲載されています。


弁護士・弁護士会との協力・連携

例年、日弁連には人権週間に人権啓発活動の協力依頼をしています。また、約1万4000人の人権擁護委員のうち390人(約3%)が弁護士であり、委嘱の際には各地の弁護士会に意見を聞いています。さらに昨年度からは、インターネット事案等の複雑困難化する事案への対応として、弁護士を法務局に配置し法的助言を受けるという取り組みを大阪法務局で実施しています。大阪以外の管区局(東京・名古屋・広島・福岡・仙台・札幌・高松)においても弁護士を配置していく予定です。


弁護士・弁護士会に期待すること

法務省の人権擁護機関が行う調査救済手続は、中立・公正の立場から関係者の任意の協力を得て関係調整を行うなど、柔軟な解決ができるという強みがあります。他方、弁護士による問題解決のアプローチは、任意の交渉から訴訟まで幅広く、損害賠償等の法的責任を問うなど法務省の人権擁護機関が対応できない解決手法を取り得るところに強みがあると思います。それぞれの強みを生かしながら時代と共に変化し多様化する人権問題に共に取り組むことが、国民から求められている役割ではないかと考えています。



第15回国選弁護シンポジウムのご案内
取調べ前に国選弁護人による接見を!
―逮捕段階の公的弁護制度、接見交通権最前線、そして取調べ立会いへの展望―

arrow_blue_1.gif第15回国選弁護シンポジウム「取調べ前に国選弁護人による接見を!―逮捕段階の公的弁護制度、接見交通権最前線、そして取調べ立会いへの展望―」


2021年9月10日(金)午後1時~午後5時
広島国際会議場「フェニックスホール」から中継

オンライン参加が可能です!


全4部構成(予定)

 第1部  刑事弁護に関する日弁連の取組
 第2部  逮捕段階の国選弁護制度構想・実現に向けた課題                                  
 第3部   「取調べ前」における接見交通権の確保
 第4部  取調べへの弁護人立ち会いへの展望


詳細は日弁連ウェブサイトのイベントページに後日掲載します。
お問合わせ先:日弁連法制部法制第二課(TEL:03-3580-9948)



ブックセンターベストセラー (2021年5月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター


順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

株式会社法〔第8版〕

江頭憲治郎/著 有斐閣
2

法律事務職員研修「基礎講座」テキスト 2021年度

東京弁護士会弁護士業務改革委員会/編 東京弁護士会
3

法律事務職員研修「中級講座」テキスト 2021年度

東京弁護士会弁護士業務改革委員会/編 東京弁護士会
4 第4版 離婚調停 秋武憲一/著 日本加除出版
5 民事弁護の起案技術 民事弁護実務研究会/編著 創耕舎
6

会社法〔第3版〕

田中 亘/著 東京大学出版会
7

そこが知りたい!事件類型別 紛争解決への決算書活用術

広島弁護士実務研究会/編著 第一法規

婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版

婚姻費用養育費問題研究会/編 婚姻費用養育費問題研究会
9

我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権〔第7版〕

我妻 榮・有泉 亨・清水 誠・田山輝明/著 日本評論社
10

インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式

神田知宏/著 日本加除出版



日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング 2021年5月~6月

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順位 講座名 時間
1 LAC制度の概要 12分
2 交通事故を中心とした偶発事故対応弁護士費用保険について 38分
3 中小企業向け弁護士費用保険について 9分
4 自然災害債務整理ガイドライン(コロナ特則含む)調停条項案作成の実務 69分
5 交通事故刑事弁護士費用保険について 22分
6 できる!インターネット被害対応2020-入門編- 113分
7 弁護士のためのメンタルヘルスケア~こころ軽やかヒント集~ 61分
8 相続法改正後における遺留分侵害額請求訴訟の実務(遺留分計算シートの活用方法~提訴から証拠調べまで~)

169分

9 改正会社法解説2021 165分
10 自然災害債務整理ガイドライン-新型コロナウィルス感染症への適用- 88分

お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9902)