日弁連新聞 第579号
「特定商取引法等の書面交付義務の電子化に関する政省令の在り方についての意見書」を公表
特定商取引法等の書面交付義務の電子化に関する政省令の在り方についての意見書
日弁連は5月9日、「特定商取引法等の書面交付義務の電子化に関する政省令の在り方についての意見書」を取りまとめ、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)、経済産業大臣、消費者庁長官等に提出した。
背景
2021年6月、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、特定商取引法および預託法において交付義務のある契約書面等について、消費者の承諾があれば電子データで提供することが可能となった。政府は、現在、承諾の要件および具体的な提供方法について政省令事項の在り方を検討している。
電子化の問題点
特定商取引法等が適用対象とする取引類型では、不意打ち勧誘や利益誘導によって消費者の主体的な意思形成が歪められ、被害につながりやすい。契約内容やクーリング・オフ事項が記載された契約書面等の交付義務は、消費者がクーリング・オフ制度を認識して行使する機会を保障し、被害の予防と救済に重要な機能を果たしている。
しかし、電子データで提供された契約書面等では記載内容を認識しにくく、クーリング・オフの起算点となる交付時期にも争いが生じ得る。
意見の趣旨
消費者被害を防止するためには、①消費者の真意に基づく明示的な承諾を得ることや、②クーリング・オフ事項の告知や起算点の明確性を確保し消費者保護機能を維持することが重要である。
本意見書では、①の観点から、電子データで提供される契約書面等の内容や承諾の効果の説明、適合性の確認、承諾の取得方法の制限など、②の観点から、消費者は電子データを閲覧・保存した上で事業者に対して確認メールを返信するものとし、この日をクーリング・オフの起算日とすることなど、政省令に盛り込むべき事項を具体的に提示した。
(消費者問題対策委員会 元副委員長 小林由紀)
年次報告書の提出期限迫る!
―未提出の方は速やかにご提出を―
弁護士業務におけるマネー・ローンダリング対策の観点から、会員には、依頼者の本人特定事項の確認・記録の保存義務等の履行状況について、所属する弁護士会に年次報告書を提出することが義務付けられています(依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程11条1項)。
提出期限は6月30日
今回の年次報告書の提出期限は本年6月30日です。2021年4月1日から2022年3月31日までの期間の執務状況等について、書式に基づき報告が必要です。
速やかに所属する弁護士会へのご提出をお願いします。
全会員に提出義務があります
弁護士、弁護士法人、外国法事務弁護士、外国法事務弁護士法人等、すべての会員に年次報告書の提出義務があります。
例えば、組織内弁護士や高齢・育児・疾病・留学などで弁護士等の職務を行っていない会員にも提出義務がありますのでご注意ください。
弁護士によるマネー・ローンダリング対策については、弁護士自治の下、日弁連会則により定められています。年次報告書の提出は、同対策における極めて重要な取り組みです。
参考資料はウェブで
依頼者の本人特定事項の確認・記録の保存等に関連する各種資料は、日弁連ウェブサイトの「依頼者の本人確認―年次報告書の提出を!―」のページで確認することができます。
年次報告書の作成・提出の際にご参照ください(東京三会は独自の書式を設けていますので、詳しくは各会にお問い合わせください。)。
年次報告書の書き方を解説したeラーニング「簡単!依頼者の本人確認と年次報告書の作成(2019年12月改訂版)」(総合研修サイトに掲載)もご活用ください。
最低賃金の引き上げを求める会長声明の公表と全国的な取り組みの要請について
低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために、最低賃金額の引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明
日弁連は4月13日、「低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために、最低賃金額の引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明」を公表し、5月理事会においても全国的な取り組みに協力いただくよう要請した。
会長声明の内容
2021年10月の公益財団法人連合総合生活開発研究所の調査によれば、1年前と比較した世帯収入について「やや減った」「かなり減った」と回答した者が30・7%に及んでいる。労働者の生活を守るために、最低賃金額を大きく引き上げることが重要である。
会長声明では、最低賃金の引き上げを求めるだけではなく、最も高い東京都(時間給1041円)と最も低い高知県および沖縄県(同820円)の格差の是正も求めている。2020年2月20日付け「全国一律最低賃金制度の実施を求める意見書」でも述べたとおり、労働者の最低生計費に大きな地域間格差は存在しないことが明らかになっており、賃金格差に根拠はない。また、社会保険料の事業主負担部分の免除・軽減といった使い勝手のよい中小企業への支援策も求めている。
全国的な取り組みの要請
昨年は、35の弁護士会において、最低賃金の引き上げを求める会長声明が公表された。最低賃金の引き上げは、コロナ禍で苦しくなった労働者の生活基盤の確保に資することに加え、都市部への労働力の集中を緩和し、地域経済の活性化、地域社会の維持に貢献するものである。本年も、各地で地域別最低賃金の引き上げに関する議論の始まる7月頃までに、全国の弁護士会において意見書・会長声明の公表や地方最低賃金審議会への要請など、ご協力をお願いしたい。
第74期 司法修習終了者
1136人が一斉登録
二回試験に合格した司法修習終了者1456人のうち1136人が、2022年4月21日、日弁連に一斉登録した(うち女性は283人・24.9%。)。
判事補任命者(73人)および検事任官者(72人)を除いた一斉登録日時点の未登録者数は175人(12.0%)であった。
また、一斉登録日から約1か月後の2022年5月16日時点の登録者数は1226人、未登録者数は85人(5.8%)であった。
日弁連では、引き続き若手弁護士サポートセンターを中心に、新規登録者を含む若手弁護士への各種支援を行うとともに、未登録者への採用情報提供、即時独立支援、さらには登録後のフォローアップを行い、今後の推移を見守りたい(若手弁護士サポートセンターの活動については、同送の委員会ニュース参照。)。
修習終了者数 |
登録者数 (一斉登録日時点) |
未登録者数 (一斉登録日時点) |
|
---|---|---|---|
67期 | 1,973 | 1,248 | 550 |
68期 | 1,766 | 1,131 | 468 |
69期 | 1,762 | 1,198 | 416 |
70期 | 1,563 | 1,075 | 356 |
71期 | 1,517 | 1,032 | 334 |
72期 | 1,487 | 1,032 | 315 |
73期 | 1,468 | 1,047 | 286 |
74期 | 1,456 | 1,136 | 175 |
※登録者数・未登録者数は各期一斉登録日時点
ひまわり
十年一昔という。コロナ禍の影響もあるが、オンライン会議やテレワークなど、数年前にすら考えられなかった社会が実現している。十年前となると、まだスマートフォンが普及し始めたころである。ITの発展で、十年前は一昔どころか、二昔も三昔も前のことと感じられる▼十年一日という。民事・刑事の裁判手続IT化の議論が進んでいる。民事裁判手続での書面のファクシミリ提出導入は1998年。四半世紀を経ての手続改革、二十年・三十年一日か。民法大改正は120年ぶりであった。百年一日。社会の流れが加速する中、司法・法曹界には悠久の時が流れているようにも感じられる▼もちろん、基本的人権や社会正義は、時代により直面する課題は移ろっても、その根本がころころ変わるようなものではない。悠久の流れは必然ともいえる▼裁判手続IT化や、弁護士業務におけるIT活用にどう向き合うべきか。依頼者や被告人らの権利擁護や利便性が重要な視点となろう。例えば、コロナ禍で実施されたオンライン法律相談はIT活用が権利擁護に資することを示す好例である▼百年一日の人権・社会正義を守るためにも、数年一昔の社会に適応する。セキュリティなど対処すべき課題も少なくないが、目を背けることはできない。
(K・I)
「技能実習制度の廃止と特定技能制度の改革に関する意見書」について
日弁連は4月15日、「技能実習制度の廃止と特定技能制度の改革に関する意見書」を取りまとめ、内閣総理大臣等に提出した。
意見書では、国に対し、人権保障にかなった外国人労働者受け入れ制度を構築するため、次の施策を実施することを求めている。
技能実習制度の廃止
職場移転を制限する制度の構造が悪質な人権侵害の温床となっているため、直ちに廃止すべきである。
特定技能制度の改革
技能実習制度廃止後の制度を考えるに当たっては、短期ローテーション制度に内在する人権保障の脆弱性を克服すること、具体的には定住化の可能性を高めて労働者の地位の安定を図ることが重要である。
このため、①特定技能1号と2号を一本化して、特定技能制度により、現在は技能実習生として受け入れている技能レベルの非熟練分野の外国人労働者の受け入れを開始し、在留期間更新を可能とする制度を導入して定住化を進める、②受け入れ当初から、家族帯同の可能性を認めた上で、永住審査の要件である就労資格をもった在留の期間に含める、③転職の実効性を確保する、④ブローカーによる労働者からの中間搾取の禁止を前提とすることを求めている。
外国人労働者の権利保障のための施策と定住化支援の実施
賃金等の労働条件における国籍や民族を理由とする差別禁止の徹底や、相談・紛争解決の仕組みの充実などを求めている。
現在、法務大臣も「特定技能制度・技能実習制度に係る法務大臣勉強会」を設置し、制度の見直しに向けた議論が進んでいる。本意見書が、人権保障にかなった外国人労働者受け入れ制度実現の方向での見直しに影響を与えることが期待される。
(人権擁護委員会外国人労働者受入れ問題プロジェクトチーム 座長 髙井信也)
日弁連短信
刑事司法改革の動き
改正刑訴法の3年後見直し
度重なるえん罪事件をきっかけに成立した改正刑事訴訟法の完全施行(2019年6月)から3年が経過し、同法附則9条に基づく見直しの時期を迎えた。
今後、法務省の協議会において、改正法の施行状況など実務の運用状況について検証がなされる予定である。日弁連としては、さらなる改正への動きをリードしていく必要がある。
刑事手続のIT化
法務省に置かれた「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」は、本年3月に取りまとめを行い、「書類の電子データ化、発受のオンライン化」「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」について、考えられる方策を示した。今後は、法制審において法改正の議論がなされ、また、実務上のセキュリティ方策やビデオリンク方式による接見交通の運用について、検討がなされていく見込みである。
情報通信技術が国民の権利利益のために活用されるのは望ましいが、便宜の名の下に被告人等の権利が制約されることがあってはならない。弁護人の援助を受ける権利の実効化のため、オンライン接見を拡大していくことも重要である。日弁連としては、IT化が被疑者・被告人の権利利益の保護・実現に十分資するものとなるよう、不断の働き掛けを継続していく必要がある。
人質司法の解消
日弁連は、2020年11月に「『人質司法』の解消を求める意見書」を取りまとめ、日本の刑事手続の実態がいまだ人質司法を脱していないことを指摘し、勾留・保釈の運用の改善を求めるとともに、身体拘束より制限的でない代替措置の一種としてのGPS等の活用の検討も提言した。
本年秋以降において、保釈制度等の法改正についての国会審議も始まる見込みであり、改めてその動きを注視し、対応を図っていく必要がある。
まとめ
いずれの課題についても、積極的な対応と国民の理解の獲得が必要である。私の事務次長の任期は5月で終了したが、今後も日弁連の活動を見守っていきたい。
(元事務次長 畑中隆爾)
2021 第2回 憲法動画コンテスト表彰式
伝えませんか?あなたの瞳に映る人権の姿
4月26日 オンライン開催
2021 第2回憲法動画コンテスト~伝えませんか?あなたの瞳に映る人権の姿~
日本国憲法の基本原則の一つである「基本的人権の尊重」を考える契機とするため、人権の大切さを伝える動画(ショートムービー)のコンテストを開催した。表彰式では入賞作品を上映し、審査員が講評を行った。
2019年に引き続き2回目の開催となる今回のコンテストでは、13歳から85歳まで幅広い年齢層の方々から114作品(高校生以下の部75作品、一般の部39作品)が寄せられ、金賞・銀賞・銅賞・入選の合計12作品が選ばれた。
高校生以下の部の金賞『他者がいる意味』は、主人公が小さな箱を手にしているカットから始まる。
落ちた手袋を拾うと、相手から「ありがとう」という言葉とともに小さなハートが差し出される。箱の中には、小さなハートが次々にたまっていく―。
作者である前川涼歌さんは、「誰かの役に立てたことが自信となり、その積み重ねが自分を作っている。伝えたかったことが届けられて嬉しい」と受賞の喜びを語った。
一般(学生、専門学校生、社会人など)の部の金賞『私が内定を辞退した理由』では、採用の最終面接の様子が描かれている。ジョブローテーションや転勤に関する質問に続いて「あなたのお父さんは何のお仕事をしているの?」、「宗教とか大丈夫?」などと問われる。笑顔が消えた就活生は意を決して「あの、すみません」と声を上げる―。
作者である伊藤雄太さんは、「基本的人権の尊重には、立場の弱い人たちへの理解が大事。私たちの身近にも人権侵害で傷ついている人がいるかもしれない」と気付きの重要性に言及した。
審査員を務めた松島哲也氏(映画監督/日本大学芸術学部映画学科教授/日本映画監督協会常務理事)は、世界初の映画といわれる『工場の出口』を例に動画制作の心得を語り、応募者の次なる挑戦に期待を寄せた。また、世界で起きている理不尽な人権侵害は決して人ごとではなく、自分や家族、友達の人権の延長線上にある問題として考えることが大事だと述べた。
*入賞作品は「NICHIBENREN TV」(YouTube公式動画チャンネル)でご覧いただけます。
新事務次長紹介
畑中隆爾事務次長(神奈川県)が退任し、後任には、6月1日付けで亀井真紀事務次長(第二東京)が就任した。
亀井 真紀(かめい まき) (第二東京・54期)
弁護士を取り巻く課題や社会的な役割は年々増すばかりだと感じています。そのような中で日弁連の執行部を支える事務次長に就任することは、私にとって大きなチャレンジです。責務の重さを感じるばかりですが、いろいろな方のお話を丁寧に聞き、誠実に職務に努めたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
第2回
被疑者取調べに対する苦情申入れ経験交流会
4月1日 オンライン開催
捜査機関への苦情申し入れ制度は、不当な取調べを防止するだけでなく、事例を集積することにより、取調べの可視化対象の拡大に向けた立法事実となることが期待されている。
苦情申し入れ制度の意義を確認し、その積極的な活用を促進するとともに、本年から始まる予定の改正刑訴法3年後見直しにおいて全事件・全過程の可視化を実現すべく経験交流会を開催した。経験交流会には約120人が参加し、情報や経験を共有した。
苦情申し入れ制度の概要
苦情申し入れの制度的根拠としては、検察庁の「取調べに関する不満等の把握とこれに対する対応について」(2008年5月1日付け最高検依命通達)や、警察庁の「被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則」がある。これらの通達・規則では、捜査機関に所定の調査・措置を講じる義務が規定されている。なお、警察官による事前承認のない夜間または長時間の取調べを監督対象行為とみなしていた同規則の規定は、犯罪捜査規範への組み入れに伴い削除されたが、これらを苦情対象とすることが禁じられるものではない。
このほか、国家公安委員会等に対する苦情申し出(警察法79条)や最高検監察指導部への情報提供による苦情申し入れもある。
取調べに関する事例報告
松本卓也会員(熊本県)は、少年審判で不処分(非行事実なし)となった条例違反事件で、取調べ担当警察官から「やっていない証拠はあるのか」、「黙っていても何も前に進まんぞ」などの発言があった事例を報告した。松本会員は、警察からは苦情対象行為がなかった旨の回答がなされたが、後の国家賠償訴訟では違法な取調べが認定されたと指摘し、警察の自浄作用について批判した。
出口聡一郎会員(佐賀県)は、窃盗共犯事件で、取調べ担当警察官が「共犯者はすべて話している」、「話をしたほうが判決は重くならない、うまくいけば罰金で終わるかも」などと発言して自白を要求した上、被疑者が話していない内容の供述調書を事前に用意し署名を求めるなどした事例を報告した。出口会員は、苦情申し入れは取調べへのけん制のほか、公判で自白の任意性を争う場合や国家賠償訴訟の立証でも活用できると述べた。
押送に関する事例報告
田中拓会員(香川県)は、押送担当警察官の言動に問題があった香川県と秋田県の事例について、前者では「なんで黙秘するんや」などの発言が、後者では「いつまでも終わんないからね、早くしゃべったほうがいい」などの発言がなされたと報告した。田中会員は、取調べ以外の場面でも圧迫があれば取調べへの影響が懸念されるとして、弁護人は取調室外での不適切な働き掛けもあることを念頭に置いて、被疑者に助言する必要があると指摘した。
公開講座
ESGの取組みにおける社外取締役の関わり
4月8日 弁護士会館
2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂でESGに関する重要課題が示されたが、企業が取り組む事項は多岐にわたり、社外取締役が果たすべき役割の重要性も増している。上場企業がESGに根差した持続的経営戦略を打ち出すために、社外取締役がどのように後押しできるか、現役の社外取締役や経営者と共に議論した。
社外取締役が知っておきたいESGの潮流
吉高まり氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社経営企画部プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト)は、コロナ禍において、長期的な視点を持つESGなどの非財務情報が企業価値により深く結び付くようになったと指摘した。そして、企業は環境や社会に関する情報(ES情報)が将来の事業リスクや競争力に与える影響を積極的に開示することが重要であり、社外取締役にはESG情報と資本効率をどのように評価できるかを説明することが求められると強調した。
パネルディスカッション
佐藤光紀氏(株式会社セプテーニ・ホールディングス代表取締役/株式会社FOOD&LIFE COMPANIES社外取締役)は、社外取締役としては、どこまで関与することが企業の価値向上に資するのか難しく感じるが、CEOとしては、社外取締役に力を発揮してもらえるよう社内のリソースを提供して直接指示できる仕組みを構築していると、社外取締役を生かすための企業側の工夫を説明した。
竹内美奈子氏(株式会社TM Future代表取締役)は、多くの上場企業では人事評価制度が企業戦略や業績上昇につながることが理解されていないと指摘し、リスクを発見しイノベーションを生み出す「オピニオンダイバーシティ」(意見の多様性)の必要性を納得してもらえるよう、社外取締役としてアプローチしていると語った。
司法制度調査会の市毛由美子特別委嘱委員(第二東京)は、企業が新しい制度を取り入れる際、社外取締役は他社の取り組みとの比較を客観的に示すことで、経営陣の理解を深めることができると述べた。
吉高氏は、機関投資家は社外取締役に対して、企業が将来のリスクやビジネスチャンスについて企業価値を向上させるビジネス戦略を有しているか監督することを求めており、社外取締役は情報を開示して機関投資家と対話する役割を果たすことが重要だと語った。
シンポジウム
多様化する支払手段の光と影 ―キャッシュレス時代の消費者保護を考える―
4月8日 オンライン開催
シンポジウム「多様化する支払手段の光と影 -キャッシュレス時代の消費者保護を考える-」
支払手段としての決済サービスが多様化する中、さまざまな問題事例も報告されている。本シンポジウムではこれらの問題事例を踏まえ、決済法制の在り方について考察した。
問題事例の報告
萩原規子氏(公益社団法人全国消費生活相談員協会金融サービス研究会代表)は、相談現場にも多様な決済手段が用いられた問題事例が寄せられていることを報告した。①サービス自体の複雑性による問題(サービスを退会・解約しにくい仕組みやアプリの不具合への不対応など)、②サービスの複合化による問題(プラットフォーム、携帯電話キャリア、クレジット会社が関与しているが責任を問うことが困難など)、③不正利用やその補償制度の問題(心当たりのない請求や引き落としへの対応など)、④容易な利用による問題(未成年者が安易なネットショッピングを重ねることによる多重債務化など)、⑤法規制の欠如による問題(海外サイトから代引きで購入した商品が偽物だったが収納代行に法規制が及ばず返金を求められないなど)を示し、早急な対応が必要だと問題提起した。
キャッシュレス時代の消費者問題と実体法規定
消費者問題対策委員会の桜井健夫幹事(第二東京)は、支払い(金銭債務の履行)の意義と構造を法的に整理した上で、取引経路の複雑化に伴う問題、法規制の隙間を突いた悪質商法の助長、多重債務問題のほか、決済情報の集積とそれを活用したターゲティングによる過剰消費など、消費者問題と決済法制の課題について解説を加えた。
金昌宏委員(旭川)は、クレジット取引の仕組みと割賦販売法による消費者保護規定の改正経緯について整理し、多様化した決済手段を用いた消費者被害を防止するためには、割賦販売法と同様の規制が必要であると指摘した。その上で、苦情の適切処理や加盟店調査、既払金返還ルールなど、被害救済に有効な「割販ルール」を多様な決済手段に導入することを提言した。
日弁連における取り組み状況と課題
坂勇一郎委員(第二東京)は、2019年および2022年の日弁連意見書に言及し、利用者資金の保全、不正利用の補償、個人情報等の保護、加盟店管理、過剰与信規制など、機能別・横断的な法規制が必要であり、利用者保護の観点を制度に結び付けることが大切であると訴えた。
小野仁司委員(神奈川県)は、キャッシュレス決済は現金決済に代わる手段として非常に便利なものであるが、消費者保護の安全性が担保されなければ社会のインフラとして機能することができないとして、預金に準じた安全な決済制度の構築等が不可欠だと指摘した。
人種等を理由とする差別を撤廃するための取組に関する意見交換会
4月22日 オンライン開催
ヘイトスピーチは憲法13条が保障する個人の尊厳を傷つけ、社会全体に差別意識をまん延させ、ひいては多民族・多文化の共生する社会の構築を阻害するものであり、許されない。
弁護士会および日弁連の関連委員会の委員が出席し、取り組むべき課題や連携の方法等について活発な意見交換を行った。
自治体における条例の運用・制定の状況
2016年6月3日に施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(以下「解消法」)を受けてヘイトスピーチに関する条例を制定した自治体から運用状況や課題が報告され、条例の制定に向けて検討中の自治体からは条例案の内容や活動状況等が報告された。
意見交換では、解消法が対象を「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」のみに限定していることから、条例でも解消法と同様に対象を限定している例が多くみられるが、対象を広げる検討もすべきではないかとの問題提起がなされた。
ヘイトクライム対策に関する意見交換
師岡康子会員(東京/外国人人権法連絡会事務局長)は、在日コリアン等に対するヘイトクライムが繰り返されているにもかかわらず、これまで日本政府が対策をとってこなかったことを指摘し、刑法改正の必要性を訴えるとともに、国に対して、専門的な審議会を設置してヘイトクライム対策に関する包括的な制度設計を行うことなどを強く求めた。
豊福誠二会員(京都)は、ヘイトスピーチが名誉毀損罪に問われた刑事事件において「公益目的があった」と認定された事例を紹介し、刑法改正以前の問題として解消法の運用に大きな課題があると指摘した。
インターネット上の規制
インターネット上の差別的書き込みについて自治体や弁護士会が監視するモニタリングの実施状況や、自治体や弁護士会から通報を受けた法務局の対応状況が報告された。また、プロバイダーへの削除要請が功を奏した事例の分析や考察結果も共有された。
JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.169
若手チャレンジ基金制度受賞者インタビュー
年越し支援・コロナ被害相談村
第1回となる2021年度の若手チャレンジ基金制度において、弁護士業務における先進的な取り組みに対する表彰でゴールドジャフバ賞を受賞した大久保修一会員(第二東京)は、コロナ禍で仕事や住居を失った人を支援する相談村の開設・運営に携わった実績が評価されました。相談村開設までの経緯や具体的な活動についてお話を伺いました。
(広報室嘱託 李 桂香)
「年越し支援・コロナ被害相談村」開設に至るまで
2020年3月以降、コロナ禍は人々の生活に大きな打撃を与え続けています。私はコロナ禍の労働問題に関するホットライン活動等に参加する中で、電話相談もできずに困っている人も多いだろうから対面での相談活動もやるべきではないか、特に年末年始は仕事もなくなるため、所持金もなく寒空の下で路上生活を余儀なくされる人への支援活動が必要ではないか、他方で、対面での相談活動と感染対策を両立させることはできるのか、と悩むようになりました。
そこにヒントをくれたのが2020年12月に日比谷公園で開催された「なんでも相談会」でした。そこでは、医療従事者により十分な感染対策を講じた上で相談会が開催され、食料等の支援も行われていました。参加者の感染リスクを抑えつつ、支援や相談活動ができる仕組みは、私のやりたかったことのイメージと重なったのです。
また、時期を同じくして、コロナ禍で住居を失った人などに対し、年末年始、東京都が借り上げたビジネスホテルを一時宿泊場所として提供する「TOKYOチャレンジネット」の取り組みの報道に接しました。この制度を利用することで、年末年始の住まいを確保することができ、また、相談者に対するその後の支援にもつなげられます。こうして、TOKYOチャレンジネット事務所の前にある新宿区立大久保公園で相談村を開くことを決めました。
肌で感じたコロナ禍の深刻な影響
「年越し支援・コロナ被害相談村」は2020年12月29日・30日、翌年1月2日の3日間で実施しました。事前の広報が十分にできなかったにもかかわらず、3日間で延べ334人という、予想を大きく上回る人々が訪れたのは、コロナ禍による貧困の深刻さを物語っています。
相談者は30代~60代が多く、3分の1が無収入、所持金が千円以下の方が3割弱と、極めて逼迫していました。女性のための相談ブースも設置したところ、女性の相談が約18%(62人)を占めました。子連れでの利用もあり、女性の困窮がより表面化していると実感させられる光景でした。
相談者の多くは、職を失い、再就職もままならず、貧困から抜け出せない状況にありました。約65%の人が携帯電話を持っていない、もしくは、料金の滞納で使用できない状態でした。携帯電話がないと就職活動だけでなく住居の賃貸借契約も難しくなります。年明けに生活保護の申請に同行したケースもありましたが、相談村では、報道だけでは知ることができない、「公助」が機能していない現実を目の当たりにしました。
相談村での経験から、コロナ禍で困窮する人たちは、日々の生活に必死で、将来を見据えて相談に行く余裕がなく、適切な相談窓口にたどり着けていないのだと身をもって知りました。私自身、日頃、労働相談を受けていますが、事務所での相談で接することができていたのは、困っている人の中のごく一部だったと改めて感じました。
その後の展開~支援に終わりはない
相談村を立ち上げた当初から、コロナ禍はしばらく収束しないだろう、一度で終わりではなく、その後も支援を継続する必要があると考えていました。このため、2021年の年末年始にもコロナ被害相談村を開設するなど活動を続けています。
相談会はすべてボランティアで運営しています。問題意識を持って相談会の運営に参加した人が、支援の手法や相談会で見聞きしたものを糧として、新たな支援や取り組みにつなげるという良い循環が生じています。これも活動を続けてきた成果だと感じています。
受賞の感想と会員へのメッセージ
弁護士は、自らが必要だと思うことを実践することで、社会の困難な現実を打開できる存在だと思います。
今回の受賞は、家族をはじめ、支えてくれる周囲の人が喜んでくれたことが何より嬉しかったです。今回の受賞を今後の活動の励みにしたいと思います
第22回
弁護士業務改革シンポジウムのご案内
「愛知から拓くぞ!―弁護士業務最前線」をメインテーマに、11の分科会を開催します。新型コロナウイルス感染症の終息が見込めない中での開催となるため、定員管理の都合上、現地会場への来場による参加については、事前申し込み制(原則会員のみ)とさせていただきます。多くの分科会がライブ配信を行います。ぜひ、多数ご参加、ご視聴ください。
(第22回弁護士業務改革シンポジウム運営委員会委員長 伊東 卓)
【日時】2022年9月3日(土)
12時00分~12時30分 全体会
12時45分~18時00分 分科会
(開始時刻・終了時刻は分科会によって異なります。)
【会場】愛知大学名古屋キャンパス
(名古屋市中村区平池町4-60-6 あおなみ線「ささしまライブ」駅下車徒歩2分)
*全体会、分科会ともに、現地会場への来場参加(原則会員のみ)は事前申し込み制です。
【申込期限:7月31日(日)】
*全体会と、第2分科会を除くすべての分科会でライブ配信を実施する予定です。
*全体会、第1分科会、第3分科会~第9分科会のライブ配信は、会員でない方も視聴いただけます
(事前申し込み不要。詳細は日弁連一般サイトをご覧ください。)。
*第10分科会および第11分科会(参加対象:会員のみ)のライブ配信は事前申し込み制です。
【申込期限:7月31日(日)】
*各分科会の概要、申し込み方法等の詳細は日弁連会員専用サイトのご案内をご覧ください
全体会
12時00分~12時30分(ライブ配信あり)
分科会
第1分科会:13時00分~17時00分(ライブ配信あり)
裁判手続のIT化と新時代の法律事務所 ~変わる弁護士業務とセキュリティ~
第2分科会:13時00分~16時00分(ライブ配信なし)
法律事務所の経営安定化のための顧問契約獲得と維持
第3分科会:13時00分~16時00分(ライブ配信あり)
司法アクセスを推進する弁護士費用保険の新たな展開
第4分科会:12時45分~18時00分(ライブ配信あり)
やれる!行政弁護
第5分科会:13時00分~18時00分(ライブ配信あり)
「顧問契約」にイノベーションを!~弁護士は中小企業の成長・発展にもっと貢献できる~
第6分科会:13時00分~18時00分(ライブ配信あり)
民事信託と後見制度
第7分科会:12時45分~18時00分(ライブ配信あり)
企業内弁護士のキャリアの実相 ―60期~62期会員アンケート結果から考える―
第8分科会:12時45分~18時00分(ライブ配信あり)
スポーツにおける移籍制限
第9分科会:13時00分~16時00分(ライブ配信あり)
こうすりゃよかった!事務職員活用 ~経営環境、IT化、コロナ禍と事務職員活用の変化~
第10分科会(会員対象):13時00分~17時00分(ライブ配信あり)
包括外部監査への弁護士会・弁護士の取組 ~弁護士が包括外部監査人・補助者として果たすべき役割~
第11分科会(会員対象):13時00分~17時30分(ライブ配信あり)
入管施設及び精神科病院における支援活動
ブックセンターベストセラー (2022年4月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編集者名 | 出版社名・発行元 |
---|---|---|---|
1 |
弁護士報酬基準等書式集〔改訂3版〕 |
弁護士報酬基準書式研究会/編 | 東京都弁護士協同組合 |
2 |
令和3年度重要判例解説 |
有斐閣 | |
3 |
新注釈民法(8)債権(1) |
磯村 保/編集・大村敦志、道垣内弘人、山本敬三/編集代表 | 有斐閣 |
4 | インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル〔第4版〕 | 中澤佑一/著 | 中央経済社 |
5 | 新労働相談実践マニュアル | 日本労働弁護団/編集 | 日本労働弁護団 |
6 | 弁護士の現場力 破産事件編 | 破産事件の現場力研鑽会/編 | ぎょうせい |
7 |
労働関係法規集 2022年版 |
労働政策研究・研修機構/編 | 労働政策研究・研修機構 |
8 |
プライバシーポリシー作成のポイント |
白石和泰、村上諭志、溝端俊介/編集代表・小林央典、野呂悠登/編著 | 中央経済社 |
即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務 |
松本哲泓/著 | 新日本法規出版 | |
第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務 |
片岡 武、管野眞一/編著 | 日本加除出版 |
海外情報紹介コーナ⑭
Japan Federation of Bar Associations
組織内弁護士が増加(英国)
イングランドおよびウェールズで、組織内弁護士が増加している。
同地域のソリシター(主に法廷の弁論以外の法律事務を扱う弁護士)で組織内弁護士として働く者の数は、3万1千人を超え(ローソサエティによる2019年の報告書)、20年前の約3倍となった。ソリシター全体に占める組織内弁護士の割合も、直近10年間で16%から24%に増加した(ロビー団体The City UKによる2021年12月の報告書)。特に金融、製薬、電気通信等、規制の厳しい分野で増加が大きい。
新型コロナウイルスのパンデミックによる企業の事業モデルの変化やサイバーセキュリティへの対応のため、組織内弁護士の需要が高まっている、との指摘もある。
(国際室嘱託 坂野維子)