特定商取引法等の書面交付義務の電子化に関する政省令の在り方についての意見書

2022年5月9日
日本弁護士連合会


本意見書について

日弁連は、2022年5月9日付けで「特定商取引法等の書面交付義務の電子化に関する政省令の在り方についての意見書」を取りまとめ、同月10日付けで内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)、経済産業大臣、消費者庁長官、内閣府規制改革推進会議議長、内閣府消費者委員会委員長及び特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会座長宛てに提出しました。


本意見書の趣旨

特定商取引に関する法律及び特定商品等の預託等取引契約に関する法律の書面交付義務の電子化に係る政省令を定めるに当たっては、他の法令における書面の電子化の承諾要件及び提供方法の例とは考え方を峻別し、不意打ち的な勧誘又は利益誘引型の勧誘等により消費者被害が現に多発している対象取引分野の特性を十分に踏まえ、電子化によって書面交付義務が有するクーリング・オフ制度の告知を中心とする消費者保護機能が低下することがないよう、以下の内容の規定を設けるべきである。


1 真意に基づく明示的な承諾の確保
書面交付義務の電子化を認める場合を消費者が真意に基づく明示的な承諾の意思表明を行った場合に限定するため、事業者による消費者の承諾の取得について、次のように定めること。


  (1) 書面交付義務の電子化の意義・効果の説明
事業者は、消費者の承諾の取得の前提として、消費者に必ず次の事項を説明するものとする。

   ① 原則として書面の交付を受けることができること

   ② 書面交付に代えて提供する電子データ(書面に記載すべき事項を電磁的に記録したもの)が契約内容やクーリング・オフ制度を記録した重要なものであること

   ③ 電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(又は事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日となること

  

  (2) 適合性の確認
事業者は、消費者の承諾の取得の前提として、消費者に次の事項を確認する手順を踏むものとする。

   ① スマートフォン・パソコン等の電子機器を操作して、電子メールの受信及び送信ができること

   ② 電子メールの添付ファイルを閲覧し、電子データを保存できること

   ③  WebサイトにアクセスしてID・パスワードによりログインし、電子データを閲覧し保存できること


   (3) 承諾の取得方法の制限
消費者の明示的な承諾の意思表明を確保するため、事業者が消費者の承諾を取得する方法について、次のように定める。

   ① 書面による承諾を要する類型

   ア 次の取引類型については、必要事項を記載した承諾書面への消費者の署名及び承諾書面の控えの消費者への交付を要する。

    (ア)  訪問販売、電話勧誘販売及び訪問購入

    (イ)  連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引及び預託等取引

    (ウ)  特定継続的役務提供のうち、②アの類型を除く契約類型


   イ 本類型における承諾書面には、次の事項を明記する。

    (ア) 対象契約を特定する事項(契約申込日・商品名・代金額・事業者名)

    (イ) 提供する電子データが契約書面に代わる重要なものであること

    (ウ) 電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(又は事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日であること


   ② 電子メールによる承諾を認める類型

   ア 特定継続的役務提供のうち、オンラインで契約を締結し、オンラインで役務提供を行う類型(オンライン完結型取引)については、電子メールによる承諾を認める。


   イ 本類型における承諾は、事業者が①イの承諾書面の記載事項と同様の記載をした電子メールを消費者に送信し、消費者がその内容を確認した旨の電子メールを事業者に返信することによる。


  (4) 不適正行為の禁止
事業者が消費者の承諾を取得するに際しては、次に掲げる不適正な行為を行ってはいけないこととする。

   ① 電子データの提供の意義・効果等についての虚偽・誇大な説明及び表示

   ② 困惑させる行為による承諾の要請

   ③ 書面交付に比して対価その他の取引条件で有利に扱う告知

   ④ 書面交付に比して契約締結手続が迅速化する旨の告知

   ⑤ 家族その他の第三者への同時提供を希望しないようにする高齢者への働き掛け


  (5) 高齢者の家族等の関与の確保
事業者は、高齢者である消費者の承諾を得る際には、家族その他の第三者への電子データの同時提供を希望するかどうかの意思確認をするものとする。


  (6) 立証責任及び違反の効果の明確化
消費者の真意に基づく承諾を得たことの立証責任は事業者が負うこと及び事業者が(1)から(5)の義務又は禁止のいずれかに違反した場合は書面交付義務を履行したものとは認められず、クーリング・オフの起算日が到来しないことを明記する。


2 電子データの提供方法とクーリング・オフ制度の告知機能等の確保
事業者が契約条項を電子データで提供する場合の方法は、クーリング・オフ制度の告知機能を始めとする書面交付義務が担う消費者保護機能を確保するため、次の内容とすること。


  (1) 電子データの提供方法

   ①  電子メールにPDFファイルを添付する方法
事業者が契約条項全体の一覧性を確保し改ざん防止措置を講じたPDFファイル形式の電子データを添付した電子メールを消費者に送信し、閲覧及び保存を促し、消費者が電子メールを受信して添付ファイルを閲覧し、かつ保存した上で、その旨の確認メールを事業者に返信するものとする。


   ② 事業者のWebサイトの電子データにアクセスさせる方法
事業者がWebサイトに契約条項全体の一覧性を確保し改ざん防止措置を講じたPDFファイル形式の電子データを掲載し、アクセスのためのURLを電子メールで消費者に通知し、閲覧及び保存を促すとともに、消費者がこれを閲覧しかつ保存した上で、その旨の確認メールを事業者に返信するものとする。


  (2) 電子メール本文における告知
事業者は、電子データ又はURLを送信する電子メール本文に、①契約を特定する事項(契約申込日・商品名・代金額・事業者名)、②添付した電子データが契約書面に代わる重要なものであること、③電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(又は事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日であることを明記する。


  (3) 電子データの提供とクーリング・オフの起算日
事業者が電子データを提供した場合のクーリング・オフの起算日は、事業者の送信した電子メールが消費者のメールサーバに到達した日ではなく、消費者が受信した電子メールに添付された電子データを閲覧・保存した上で、事業者に対し確認メールを返信した日とする。
事業者がWebサイト上で電子データを提供した場合のクーリング・オフの起算日は、消費者が電子データを閲覧・保存した上でその旨の確認メールを事業者に送信した日とする。
ただし、仮に政省令によって起算日自体について以上のように規定することができない場合は、消費者が電子データを閲覧・保存したことを事業者において確認する手順を加えることとする。そして、事業者がその手順を履行しないときは、電子データの到達日をもってクーリング・オフの起算日であることを主張できないものとする。


  (4) 高齢者の家族等への提供方法
事業者は、高齢者である消費者が電子化を承諾するに際し、家族その他の第三者への電子データの提供を希望することを表明した場合は、当該家族等に対しても同時に電子データを提供するものとする。


  (5) 概要書面の電子データによる提供における契約概要の説明
事業者は、概要書面の交付に代えて電子データを提供する場合、消費者が当該電子データを閲覧している状態であることを確認の上、契約の概要を説明するものとする。


  (6) 契約書面等の電子データによる提供における再提供義務
事業者に対し、契約書面等の交付に代えて電子データを提供した場合、消費者が電子データの再提供を請求したときは再提供する義務を課す。


  (7) 契約条項の保存措置義務
書面交付義務の電子化を実施する事業者に対し、契約締結時の契約内容の電子データについて、改ざんが生じないよう対策を講じて保存する措置をとる義務を課す。




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