日弁連新聞 第576号

充実した2年間~感謝を込めて
日本弁護士連合会会長
荒   中


新型コロナウイルス感染症の発生、拡大、そしてまん延という状況下で始まった会長としての任期ですが、この2年間「波状攻撃」のように感染拡大の波が何度も押し寄せ、市民生活はもちろんのこと、中小企業を含むさまざまな方々の経済活動にも甚大な影響が生じる中で、私たちは日弁連の活動を止めることなく継続し展開していくという非常に困難な役割を果たすことを求められました。


しかしながら、幸いにも2020年度と2021年度は多彩な実績と経験を持ち、臨機応変に対応できる極めて有能な副会長の皆さんに恵まれ、渕上事務総長と事務次長、嘱託弁護士、職員の皆さんの身を粉にした献身的なご尽力により、コロナ禍でも適時に適切な役割を担うというミッションを遂行できたことは、後々まで語り継ぐべき素晴らしい功績であると心より感謝しています。


特に、災害等が発生した場合にも日弁連の意思決定のシステムが機能するように会則・会規等の改正を行ったことは、将来的にも極めて有益であったと思います。


さらに、この2年間、最大の課題とされた法曹人口の検証についても、理事会において、最終的な取りまとめ案をご審議いただいています。法曹人口検証本部(川副正敏本部長、市川正司事務局長)の皆さんはもちろん、すべての副会長、すべての理事、そしてすべての弁護士会の知恵と力を結集した、次への橋渡しと言い得る意義深い取りまとめになると確信しています。


そのほか、少年法改正問題(適用年齢と全件家裁送致の維持)、検察庁法改正問題(検察幹部の特例的な定年延長の否定)、入管法改正問題(抜本的な改正をしない限り廃案とする)、障害者差別解消法の改正問題(民間事業者等における合理的配慮提供の義務化)、災害義援金の差し押さえを禁止する恒久法の制定などについて、関係者の皆さんのご尽力によって大きな成果を残すことができました。弁護士記章のネジ式からタイタック式への基本仕様の変更(第76期司法修習生の一斉登録から)、いわゆる若手チャレンジ基金制度の創設と運用開始、そして一般会費の大幅な減額と特別会費の減額、法律援助事業の支払額の増額等についても、任期中に実現できたことを大変嬉しく思っています。


最後に、重ねてとなりますが、この2年間荒執行部にご支援、ご協力をいただいた全国の会員の皆さまに感謝の気持ちを込めて「ありがとうございました」。


2021年度
若手チャレンジ基金制度実施報告

表彰式には12人の受賞者が出席し、楯が贈呈された

第1回となる2021年度の若手チャレンジ基金制度には、合計500件を超える申請があった。


公益的活動への支援には、外国人問題、労働問題、貧困問題、消費者問題に関するプロボノ的な活動や、多様な分野の弁護団事件についての申請が多数あった。


研修・学習費用の支援については、語学学習のほか公認会計士や中小企業診断士等の資格取得を目指す会員も多く見られた。


弁護士業務における先進的な取り組みの中からゴールドジャフバ賞、シルバージャフバ賞、ブロンズジャフバ賞を選出し、表彰した。


ゴールドジャフバ賞を受賞した一人は、コロナ禍で職や住居を失うなどして困っている人を支援する「年越し支援・コロナ被害相談村」を開村し、実質的な事務局として支援・相談活動を行ったことが評価された。もう一人の受賞者は、法人税法施行令23条1項3号は一定の限度において「法人税法の趣旨に適合するものではなく、同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効」との最高裁判決を獲得した事件で中心的な役割を担った会員である。


シルバージャフバ賞とブロンズジャフバ賞も、教員の労働環境に関する判決を獲得した会員、障がい者刑事弁護支援団体の理事を務める会員など、多岐にわたる分野で先進的な取り組みを行う会員に贈られた。


表彰式では、荒会長が若手のチャレンジは日弁連の宝物だと祝辞を述べ、受賞者からは取り組みに対する高い志や今後の活動への強い意気込みが語られた。


また、将来実現が期待される先進的な取り組みへの助成については、弁護士業務の効率化を図るソフトウェアの開発、女性難民申請者への支援活動などが選ばれた。今後の活動に期待したい。 日弁連は、若手会員の積極的なチャレンジを支援すべく、今後も本制度を含めた若手支援策を着実に進めていく。


(研修・業務支援室  嘱託 小寺悠介)



「刑事訴訟法附則第9条に基づく3年後見直しに関する意見書」を取りまとめ

arrow_blue_1.gif刑事訴訟法附則第9条に基づく3年後見直しに関する意見書


日弁連は1月20日、刑事訴訟法附則第9条第1項・第2項に基づく3年後見直しに向けた提言を取りまとめ、法務大臣等に提出した。


取りまとめの経緯

検察不祥事に端を発した2016年の刑訴法改正は、取調べの可視化、被疑者国選の拡大など、えん罪を生まない刑事司法の実現に向けて前進した面があるものの、なお不十分で改善を要するものであった。改正法の附則第9条第1項および第2項には、施行後3年を経過した時点(2022年6月)での見直し条項が設けられた。


そこで、日弁連は、取調べの可視化本部および改正刑訴法附則第9条第2項対応ワーキンググループが中心となり、全国の会員から収集した事例や統計数値などを基に改正法の運用状況を踏まえた改正提言を取りまとめた。


意見書の内容

意見書では、①取調べの録音・録画の対象を全事件・全過程に拡大すること、②取調べに弁護人を立ち会わせる権利の明定、③保釈に関する裁判で否認や黙秘などを被告人の不利益に考慮してはならない旨を規定すること、④被疑者国選弁護制度の逮捕段階への拡大、⑤被疑者に対する弁護人選任に係る事項の教示内容の改善、⑥公判前整理手続請求権の強化と同手続の証拠開示制度の改善、⑦有罪答弁制度の導入を提言している。


今後の課題

この3年後見直しは、「人質司法」と言われる日本の刑事司法を憲法と国際的な人権水準に照らして改革する上で重要な意義がある。今、その作業が新たなスタートラインに立った。 6月以降に行われる見直し作業に日弁連の意見が生かされるよう、関係省庁やメディア等への働き掛けを強化するとともに、引き続き会員の協力を得ながら立法事実となる事例収集を行う必要がある。

 

(改正刑訴法附則第9条第2項対応ワーキンググループ 座長 内山新吾)



青森刑務所における男性受刑者の丸刈り強制に関する人権救済申立事件(勧告)

arrow_blue_1.gif青森刑務所における男性受刑者の丸刈り強制に関する人権救済申立事件(勧告)


青森刑務所に収容されていた申立人が、調髪を拒否していたにもかかわらず、職員6人から髪を短く刈り上げられたという事案である。青森刑務所への照会に対する回答によると、少なくとも5人の職員が申立人の手首・腕・肩・足をつかみ頭部を押さえるなどして申立人を椅子に固定し、電動バリカンを用いて申立人に対する調髪を実施した。


本件では、丸刈りを強制し、髪型の自由と自己の意思に反して身体の一部である頭髪の処分を強制されない自由を不当に侵害している。また、刑事被収容者処遇法は受刑者に調髪の義務を課しているとの解釈もあるが、その義務を実現するための手続は法に定められていない。それにもかかわらず申立人の意思に反して有形力を行使して調髪を実施することは、法の定める手続によらず権利を制限するものであり、人権侵害が認められる。


そこで、日弁連は1月21日、法務大臣および青森刑務所長に対して、申立人の意に反して調髪し、短髪(前五分刈り)を強制したことは人権侵害に当たるとした上で、すべての受刑者について、①丸刈りを直接にも間接にも強制しないこと、②受刑者の意思に反して有形力を行使して調髪を実施しないことを勧告し、法務大臣にはその旨を刑事収容施設において周知徹底するように勧告した。


(人権擁護委員会  特別委嘱委員 本多広高)


令和4年度同5年度
日弁連会長選挙開票結果

令和4年度同5年度日本弁護士連合会会長選挙の投票および開票が2月4日に行われました。 2月14日の選挙管理委員会において開票結果を確定し、当選者を決定しました。


(当選者)

小林 元治(こばやし もとじ)
(東京弁護士会)


2021年懲戒請求事案集計報告

日弁連は、2021年(暦年)中の各弁護士会における懲戒請求事案ならびに日弁連における審査請求事案、異議申出事案および綱紀審査申出事案の概況を集計して取りまとめた。


各弁護士会が2021年に懲戒手続に付した事案の総数は2554件であった。


懲戒処分の件数は104件であり、前年と比べると3件減っているが、会員数との比では0.23%(前年は0.24%)で、ここ10年間の値との間に大きな差はない。


懲戒処分を受けた弁護士からの審査請求は31件であり、2021年中に日弁連がした裁決内容は、棄却が39件、処分取消が1件、軽い処分への変更が4件等であった。


弁護士会懲戒委員会の審査に関する懲戒請求者からの異議申出は32件であり、2021年中に日弁連がした決定内容は、棄却が39件、決定取消(懲戒しないから戒告)が1件等であった。


弁護士会綱紀委員会の調査に関する懲戒請求者からの異議申出は819件、綱紀審査申出は358件であった。日弁連綱紀委員会および綱紀審査会が懲戒審査相当と議決し、弁護士会に送付した事案は、それぞれ8件、2件であった。


一事案について複数の議決・決定(例:請求理由中一部懲戒審査相当、一部不相当など)がなされたものについてはそれぞれ該当の項目に計上した。

終了は、弁護士の資格喪失・死亡により終了したもの。日弁連においては、異議申出または綱紀審査申出を取り下げた場合も終了となるためここに含む。


表1:懲戒請求事案処理の内訳(弁護士会)

新受 既済
懲戒処分 懲戒しない 終了 懲戒審査開始件数
戒告 業務停止 退会命令 除名
1年未満 1~2年
2012 3898 54 17 6 2 0 79 2189 25 134
2013 3347 61 26 3 6 2 98 4432 33 177
2014 2348 55 31 6 3 6 101 2060 37 182
2015 2681 59 27 3 5 3 97 2191 54 186
2016 3480 60 43 4 3 4 114 2972 49 191
2017 2864 68 22 9 4 3 106 2347

42

211
2018 12684 45 35 4 1 3 88 3633 21 172
2019 4299 62 25 0 7 1 95 11009 38 208
2020 2254 61 28 7 8 3 107 4931 22 142
2021 2554 63 27 6 6 2 104 2281 38 176


日弁連による懲戒処分・決定の取消し・変更は含まれていない。

新受事案は、各弁護士会宛てになされた懲戒請求事案に弁護士会立件事案を加えた数とし、懲戒しないおよび終了事案数等は綱紀・懲戒両委員会における数とした。

2012年は、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1899件)あった。

2013年の新受事案が前年に引き続き3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1701件)あったこと等による。

2016年の新受事案が3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1511件)あったこと等による。

2018年の新受事案が前年の約4倍となったのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が4例(4例の合計1777件)あったこと、特定の会員に対する同一内容の懲戒請求が8640件あったこと等による。

2019年の新受事案が3000件を超えたのは、関連する事案につき複数の会員に対する同種内容の懲戒請求が合計1900件あったこと等による。


表2:審査請求事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受(原処分の内訳別) 既済 未済
戒告 業務
停止
退会
命令
除名 棄却 原処分
取消
原処分
変更
却下・終了
2019 15 13 2 0 30 23 3 1 3 30 27
2020 24 14 3 0 41 25 2 4 1 32 36
2021 19 10 2 0 31 39 1 4 2 46 21


原処分取消の内訳
【2019年〜2021年:戒告→懲戒しない(5)】【2019年:業務停止1月→懲戒しない(1)】

原処分変更の内訳
【2019年:業務停止1月→戒告(1)】
【2020年:退会命令→業務停止9月(1)、業務停止3月→業務停止2月(1)、業務停止2月→業務停止1月(2)】
【2021年:業務停止6月→業務停止3月(3)、業務停止2月→業務停止1月(1)】


表3:異議申出事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受 既済 未済
棄却 取消 変更 却下 終了 速やかに終了せよ
2019 48 36 0 0 2 0 6 44 27
2020 41 31 1 1 0 1 2 36 32
2021 32 39 1 0 0 0 2 42 22


取消の内訳
【2019〜2021年:懲戒しない→戒告(2)】

変更の内訳
【2019〜2021年:戒告→業務停止1月(1)】


表4:異議申出事案の内訳(日弁連綱紀委員会)

新受 既済 未済
審査相当 棄却 却下 終了 速やかに終了せよ
2019 1271 16 1041 13 8 655 1733 456
2020 856 4 908 18 46 53 1029 283
2021 819 8 726 18 5 94 851 251


2019年の新受事案のうち、同一の異議申出人による計502件の異議申出事案を含む。


表5:綱紀審査申出事案処理の内訳(日弁連綱紀審査会)

新受 既済 未済
審査相当 審査不相当 却下 終了
2019 479

2

475 7 2 486 218
2020 372 1 357 11 1 370 220
2021 358 2 403 49 2 456 122



日弁連短信

日弁連事務次長にエールを!

2年前の菰田前総長の日弁連短信では次の会長が決まっておらず、引き継ぎもできない状況と記載されていた。今回は新会長選出後、速やかに次の事務総長も決まったことから、しっかりと引き継ぎを行っている。


次期総長が同じ事務所の谷眞人会員に決まったのは、奇遇というしかない。総長の選任は、実質的には新会長の推薦によるため、いつの間にか決まっていた。


事務総長は日弁連の事務方トップとして、事務次長および嘱託、職員など総勢三百人弱の組織を運営することになる。東京弁護士会の会長として、百数十人の職員がいる組織運営の経験はあったが、役割の違いに始めは戸惑ったものだ。


さらに、就任当初に新型コロナウイルス感染症が拡大し、有名人の訃報も報道されるなど、世の中に不気味な不安が渦巻いた。困窮する市民や中小企業のための無料法律相談の実施や、自然災害債務整理ガイドラインのコロナ特則を適切に運用するための体制整備など、社会で生じている問題の解決に努めた。裁判所機能も停止し、困難に直面した会員に向けても、法律事務所の運営に役立つ情報などを発信してきた。


また、コロナ禍でも委員会が開催できるように、いくつものウェブ会議システムを試行し、脆弱性に関する調査を重ね、最終的にはZoomに一本化した。これにより、委員会は2020年度途中からスムーズに開催することが可能となった。総会や理事会、法定委員会についても、2020年度臨時総会で会則・会規の改正を行い、コロナ禍でも対応できるようにしたことはすでに日弁連新聞等で報告のとおりである。


次に2年間過ごした総次長室の役割について紹介したい。総次長室は会長の掲げる政策を副会長と共に委員会等に諮り実現に向けて活動するだけではなく、理事会や正副会長会に上げる議案に関し、委員会の意図を伝える役割を担う。そのため次長らは時に間に入って苦労することもあり、次長らが大変なときにアドバイスするのが総長の役割でもあった。


このような様子が会員の目にどう映っているか分からないが、日弁連のため、会員のために日夜、獅子奮迅の努力をしている次長らにエールを送ってもらえればありがたい。


最後に、会長と同い年の事務総長でも職務を全うできたことは皆さまのおかげと感謝を申し上げたい。


(事務次長 渕上玲子)



実効性のある消費者被害回復制度の実現を目指すシンポジウム
1月25日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif実効性のある消費者被害回復制度の実現を目指すシンポジウム


2016年10月に消費者裁判手続特例法が施行され、内閣総理大臣が認定した消費者団体が、消費者に代わって集団訴訟を提起し、消費者の被害回復を図る被害回復裁判手続が整備された。しかし、このような制度によっても実効的な被害回復が困難な事例は多い。実効性のある消費者被害回復制度をいかにして実現するかを検討すべく本シンポジウムを開催した。


現行制度の課題

被害回復裁判手続の手続追行主体である特定適格消費者団体の理事等を務める3人の会員が、それぞれの団体の活動状況を報告した。その中で、事業者の違法な利得が個人に移転しているケースでは個人を訴えることができない、行政機関が保有する情報の提供が不十分など、現行制度の抱える課題が浮き彫りになった。


参考になる諸外国の制度

ベルギーにおけるオプトアウト方式の集団訴訟制度について報告した大西洋至会員(京都)は、より多くの消費者の参加という観点から、日本でも対象消費者からの授権を受けなくても代表者が訴訟を追行できるオプトアウト方式を導入することが望ましいと述べた。


米国の制度を活用して日本の被害者の被害回復を図った事例を紹介した五十嵐潤会員(第二東京)は、日本の制度の下では同様の解決は不可能であったと振り返り、法制度の国際化が必要だと訴えた。


パネルディスカッション

三木浩一教授(慶應義塾大学大学院)が加わり、被害額が少額であることが多く費用倒れになりがちな消費者被害特有の困難を乗り越える方策としてのオプトアウト方式の有用性や課題のほか、違法収益吐き出し制度について議論した。三木教授は、事業者が不当に得た利益を徴収できる制度がなければ同種事案が繰り返されてしまうとして違法収益吐き出し制度の必要性を強調した。



シンポジウム
入管被収容者死亡事件
-独立した人権機関の必要性を考えよう
1月25日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「入管被収容者死亡事件-独立した人権機関の必要性を考えよう」


本シンポジウムでは、入管収容の問題を通じて日本における人権政策の問題点を指摘し、政府から独立した人権機関(国内人権機関)設立の必要性と重要性を訴えた。


名古屋入管被収容者死亡事件

事件の経緯を語る駒井会員名古屋入管収容中に死亡したスリランカ人女性の遺族代理人である駒井知会会員(東京)は、女性の健康状態の著しい悪化にもかかわらず適切な医療を受けることができなかったこと、ベッドから冷たい床に転落したまま3時間近く放置するといった職員らによる非人道的な行為があったことなど、多くの問題があったと指摘した。また、今回の事件は氷山の一角に過ぎず、この女性を最後の犠牲者にするためにできることを考えなければならないと訴えた。


仮放免支援活動を行っていた千種朋恵氏(START〜外国人労働者・難民と共に歩む会〜)は、最後の面会の際も、女性は「頑張って食べる」と言って生きようとしていたと悔しさをにじませた。事件後も被収容者が適切な医療を受けられない事例は複数生じており、何ら問題は改善されていないと報告した。


国内人権機関の必要性・重要性

国内人権機関実現委員会の白承豪委員(兵庫県)は、入管収容問題をはじめとした国内の人権問題を解決するためには、「パリ原則」にのっとった権限と独立性を有する国内人権機関の設立が必要であることを、裁判等の方法では十分でないことや海外の国内人権機関の活動を示して訴えた。


出席した石橋通宏参議院議員(立憲民主党)、伊藤孝江参議院議員(公明党)からは、国内人権機関設置の早期実現に賛同する力強い意見が寄せられた。


パネルディスカッションでは、国内人権機関の果たすべき役割について議論を交わし、国際水準の人権保障の確立のため引き続き声を上げていくことの重要性を共有した。



ビジネスと人権に関する行動計画1周年記念シンポジウム
〜救済へのアクセスの実現に向けて〜
1月26日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif ビジネスと人権に関する行動計画1周年記念シンポジウム〜救済へのアクセスの実現に向けて〜


国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を履行するため日本政府が「ビジネスと人権に関する行動計画」(NAP)を公表してから1年が経過した。そこで、指導原則の中核的テーマの一つである「救済へのアクセス」実現に向けて必要な方策等を議論した。


「ビジネスと人権に関する指導原則」は、国家の人権保護義務、企業の人権尊重責任、救済へのアクセスの三つの柱で構成される。日本においては、とりわけ人権侵害に対する救済の取り組みの遅れが指摘されている。


シンポジウムでは、まず、マレーシア・韓国・アメリカの弁護士らが、救済へのアクセス実現に向けた国内人権機関の役割やOECD多国籍企業行動指針連絡窓口(NCP)への申し立て、政府・企業・市民・弁護士に求められる具体的取り組みについて基調講演を行った。


パネルディスカッションでは、技能実習生を含む外国人労働者は、言語の点で情報へのアクセスが困難であることに加え、脆弱な立場に置かれやすいことが救済へのアクセスにおける障壁となっているとの指摘があった。また、マレーシアの国内人権機関による企業への情報提供や研修の事例のほか、韓国における個人通報制度の活用事例からも、日本における国内人権機関や個人通報制度の早急な整備の必要性を再認識した。さらに、日本のNCPは申立件数が少なく、その活性化が課題であることや、救済の実現に向け、弁護士自身も企業の社会的責任や価値を理解した上でアドバイスすることが必要であるとの意見が出た。


救済の申し立てにおいて、立証責任を負う当事者の負担や企業側の情報開示など取り組むべき課題は多い。多様なステークホルダーの協働による実効性のある救済の枠組みの策定に向けて、充実したシンポジウムとなった。


(国際人権問題委員会  幹事 佐藤暁子)



シンポジウム
地方公共団体における第三者調査委員会での弁護士の役割と課題について
〜調査委員として何をすべきか〜
1月12日 オンライン開催

地方公共団体において、第三者調査委員会(以下「調査委員会」)が設置される案件はさまざまな分野にわたり、弁護士が調査委員に選任されることも増えている。日弁連は、2021年3月に会員向けに「地方公共団体における第三者調査委員会調査等指針」(以下「指針」)を策定した。弁護士が調査委員会において果たすべき役割や、今後の課題に関する認識を深めるきっかけとすべく本シンポジウムを開催した。


調査委員会の中核は弁護士

前滋賀県大津市長の越直美会員(第二東京)は、自身が市長に就任する約3か月前に発生した、市内の中学校に通う男子生徒が自ら命を絶った事件について、学校と教育委員会による調査の内容に疑問を感じ、設置に反対する声も上がる中で調査委員会を設置した経験について語った。越会員は、学校や教育委員会ではなく、事実調査を専門とする調査委員会が独立性を保って調査を行うことの重要性を強調し、事実解明のために弁護士が調査委員として果たす役割は非常に大きいと述べた。


指針の有効活用を

越会員のほか、指針の策定に関与した藤井輝明会員(富山県/法律サービス展開本部自治体等連携センター委員)、ハラスメント事案で調査委員を経験した畠田健治会員(大阪/日弁連行政問題対応センター副委員長)、いじめ事案で調査委員を経験した渡邊徹会員(大阪/子どもの権利委員会幹事)が参加し、調査委員会の設置に際して検討されるべき事項や実際に調査を進めていく上で直面した課題等をテーマに意見交換を行った。藤井会員は、弁護士調査委員の役割は大きく負担も重いが、調査手順や注意点等を広く網羅する指針の活用は負担軽減にも有効であると指摘した。



第4回
LGBTの権利に関する取組についての意見交換会
1月13日 オンライン開催

2021年の通常国会でLGBT理解増進法案の提出が見送られ、日本におけるLGBTの権利を巡る法整備は進まない状況にある。一方、性的少数者の問題は日々変化しているため、LGBTの権利に関する現状や課題を共有し、相談対応のポイントを議論した。


各弁護士会の取り組み ―事前アンケート結果報告

両性の平等に関する委員会LGBTの権利に関するプロジェクトチームの寺原真希子特別委嘱委員(東京)は、会員間の意識の差、相談需要の見通しが立たないこと、慢性的な人員不足など、LGBTの権利に関する取り組みにおいて各弁護士会が抱える課題を紹介した。規則改正のひな型や研修の素材の提供、定期的なアンケートの実施により他会の取り組みを知る機会を提供してほしいとの各弁護士会の要望を踏まえて、日弁連の果たせる役割について検討を続けたいと述べた。


基調講演「SOGIハラスメントとその対応」

SOGIとは、性的指向(好きになる性)と性自認(心の性)のことをいう。 神谷悠一氏(LGBT法連合会事務局長/一橋大学客員准教授)は、当事者自身も性的指向と性自認に関する情報共有の範囲についての認識があいまいなことが多いため、相談を受ける際は善意のアウティングやプライバシー侵害などの二次被害を招かないよう、誰にどの範囲で情報を伝えていいのか、丁寧に確認を行うことが重要だと説いた。また、同様の観点から、書類等への不必要な情報の記載は避けるべきと注意を促した。


加えて、相手の性的指向・性自認のいかんを問わず、性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うこと自体がSOGIに関するハラスメントに該当することに留意すべきと強調した。そして、いわゆるパワハラ防止法はSOGIに関するハラスメントの防止措置を講じることを求めているが、相談窓口で適切に対応して二次被害を起こさないためには、SOGI、ハラスメント、相談対応それぞれに関する十分な知識が必要であり、これは弁護士会の相談窓口でも求められると指摘した。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.167

2021年度 日弁連の広報
「伝わる」広報の強化・促進を

日弁連は、会務執行方針で「広報の充実」を重要課題に挙げており、2013年度からは市民向け広報活動の充実・強化にも努めています。2020年から続くコロナ禍においても、できる限りの「伝わる」広報の展開を目指しました。  本稿では、2021年度に日弁連が実施した広報施策の概要を紹介します。

(広報室)


マスメディアへの対応

日弁連の施策実現に向け、会長声明や意見書等の公表に併せて記者会見の開催やプレスリリースの発信を適時に行うとともに、新聞社やテレビ局等からの問い合わせに対応しました。本年度は特に、新型コロナウイルスのワクチン接種を巡る差別の問題について、日弁連のホットラインに寄せられた相談事例が媒体を問わず連日多くのメディアで取り上げられました。


また、特定の問題を掘り下げて記者に情報を提供するプレスセミナーを4回開催しました。テーマに刑事手続のIT化、人質司法・侮辱罪、刑事裁判における証拠開示、子どもの権利基本法の提案、改正刑事訴訟法の3年後見直し、成年年齢引き下げに伴う消費者被害の防止を取り上げ、大きな反響がありました。


さらに、報道各社論説委員等とオンライン形式による意見交換を行いました。民事・刑事手続のIT化、少年法改正など多岐にわたるテーマで踏み込んだ議論を行うことにより、日弁連の提言や活動の趣旨をより深く理解してもらえるよう注力しました。


ぺりかん社書籍『弁護士になるには』制作への協力

2021年10月25日にぺりかん社から発刊された書籍『弁護士になるには』の制作に協力しました。主に中高生に向けて、弁護士へのインタビューを交えながら、弁護士の社会的役割や活躍の場、法曹を目指す方へのメッセージなどが紹介されています。


マイナビ学生の窓口ウェブタイアップ企画の継続

2020年3月に実施した「マイナビ学生の窓口」のウェブタイアップ企画の掲載を継続し、改めてTwitter等での広告を実施しました。大学生等が遭遇しそうなトラブル、弁護士の業務や日常生活に関するQ&A、弁護士の経験談を通して大学生を中心とする若者に弁護士の魅力を伝え、法曹を目指すきっかけにしてもらうとともに、相談先としての弁護士の認知向上を目的としています。


仕事体験テーマパーク「カンドゥー」への協賛継続

2019年3月から協賛する、千葉県のイオンモール幕張新都心内にある仕事体験テーマパーク「カンドゥー」では、子どもたちが弁護士の仕事を体験できるアクティビティを提供し、学校等の団体にも多く利用されています。全国のイオンモール等で弁護士に関するクイズを提供する「出張カンドゥー」も継続しています。この体験を通して、子どもたちや保護者に弁護士の社会的役割を理解してもらい、弁護士を職業選択の候補にしてもらうことを目指しています。日弁連新聞第571号(2021年10月号)の特集もぜひご覧ください。


「法曹という仕事」の共催

2021年8月17日に、最高裁判所、法務省と共催し、法曹に関心がある若者に法曹の役割や魅力を紹介するイベント「法曹という仕事」を司法調査室を中心に実施しました。初のオンライン開催となりましたが、全国から多数の学生が参加し、裁判官・検察官・弁護士と交流しました。


CM動画のリニューアル

新CMのフルバージョンは日弁連ウェブサイトでご覧いただけます 2016年度から配信している武井咲さんを起用したCM動画を全面的にリニューアルしました。ブランドスローガン「いつでも、どんなことでも、弁護士。」を基に、弁護士が問題解決に向けて依頼者と共に歩む姿を描いており、身近な相談相手としての弁護士・弁護士会をアピールする動画です。日弁連ウェブサイトへの掲載のほか、3月からYouTube TrueⅤiew、TVerなどに出稿し、今後も各種メディアやイベントで放映する予定です。動画の最後に各弁護士会名を加えたバージョンも作成していますので、ぜひご活用ください。


CM動画の展開

CM動画リニューアル作業と並行し、リニューアル前のCM動画を、YouTube TrueⅤiew、TVerに出稿したほか、JR東日本(首都圏・新潟県)・JR西日本(近畿圏)・JR九州(福岡県)の電車内ビジョンや、JR東海(名古屋駅)の駅ビジョンでも放映しました。


ウェブ広告、ポスター等

武井咲さんを起用したスペシャルサイトをランディングページとするバナー広告を、Yahoo!ブランドパネル、同ディスプレイ広告、Googleディスプレイネットワーク、Twitterに展開し、ランディングページへのアクセス数が大きく増加しました。


このほか、武井咲さん起用の全国統一ポスターを、各弁護士会、関係官庁(最高裁判所、法務省、警察庁等)のほか、全国の自治体や公立図書館、文化会館・センター・ホールなどの公立文化施設へ継続的に掲出するとともに、新たにデジタルサイネージ広告(ディスプレイ等の表示機器を用いた広告)をJRタワー札幌ピラービジョンに出稿しました。


弁護士業務広報

中小企業経営者に向けた「ひまわりほっとダイヤル」、高齢者やその家族に向けた「ホームロイヤー」のバナー広告を、Yahoo!ディスプレイ広告、Googleディスプレイネットワーク等に出稿しました。ウェブに馴染みのない高齢者などに向けては、全国各地の郵便局にポスターを掲示しました。


法の日スペシャルページの更新

法の日(10月1日)に合わせた最高裁判所、法務省・最高検察庁との共催企画「法の日週間記念行事」は、本年度も実施を見合わせましたが、市民の方に自宅や学校等で法や弁護士の役割・重要性を考えてもらえるよう、2020年に公開した「法の日スペシャルページ」を更新しました。


法律相談その他の動画配信

話題となった法律相談ムービー「戦国法律相談アニメ」や「偉人が駆け込む法律相談所」、「ハラスメントA面・B面」をはじめ、各委員会が工夫を凝らした動画を「NICHIBENREN TV」(YouTube公式動画チャンネル)にて配信しています。


弁護士会との連携強化

全国広報担当者連絡会議をオンラインで開催し、コロナ禍や災害等の有事での広報をテーマに弁護士会の取り組みを報告してもらう等、情報共有や意見交換を行いました。各地の意見を参考に、今後も弁護士会と連携し、よりよい広報活動につなげます。


日弁連広報キャラクター「ジャフバ」の活用

ジャフバ 本年度も各種イベントの中止やオンライン開催が重なり、参加者との触れ合いやグッズ配布などの「ジャフバ」の活躍が制約される状況が続きました。一日も早く、全国各地で多くの皆さんに会える日を心待ちにしています。




ブックセンターベストセラー
(2022年1月・手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務

片岡 武、管野眞一/編著 日本加除出版
2 即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務 松本哲泓/著 新日本法規出版
3 新労働相談実践マニュアル 日本労働弁護団/編集 日本労働弁護団
4 有斐閣判例六法Professional 令和4年版 2022 長谷部恭男、佐伯仁志、酒巻 匡、大村敦志/編集代表 有斐閣
5 判例による離婚原因の実務 中里和伸/著 LABO
6 模範六法 2022 令和4年版 判例六法編修委員会/編 三省堂
7 携帯実務六法 2021年度版 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 東京都弁護士協同組合
8 新・個人情報保護法の逐条解説 宇賀克也/著 有斐閣
9 遺言執行者の職務と遺言執行の要否 片岡 武/著 日本加除出版
10 弁護士会照会制度〔第6版〕 東京弁護士会調査室/編集 商事法務




海外情報紹介コーナー⑬
Japan Federation of Bar Associations

人による裁判を受ける権利(欧州)

欧州弁護士会評議会(CCBE)は、2021年4月21日に公表された欧州委員会の人工知能(AI)規制法案(Artificial Intelligence Act)について、同年10月8日、ポジションペーパー(意見表明)を公表した。


同ペーパーでは、司法手続の全過程において「人による裁判を受ける権利(a right to human judge)」が保障されるべきであり、AIが司法判断を行うことのみならず、AIが判決等を起案して人は署名するだけで済んでしまうようなAIシステムの使用も禁止されるべきと主張している。


AIの登場により、これまで当然の前提だったことが新たな権利として認識・提案されたといえよう。


(国際室室長 片山有里子)