日弁連新聞 第573号

第63回 人権擁護大会開催
10月14日・15日 岡山市

arrow_blue_1.gif第63回人権擁護大会・シンポジウムのご案内


10月14日・15日、岡山市において、第63回人権擁護大会を開催した。14日に開催した三つのシンポジウムと15日の大会、いずれにおいてもウェブ配信を実施し、全国から多数の会員・市民の参加を得た。15日の大会では三つの決議と二つの宣言を採択した。

次回大会は、旭川市で開催される。(2面に各シンポジウムの記事)


精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議

arrow_blue_1.gif精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議


三つの決議と二つの宣言を採択精神障害のある人に対する障害を理由とした人権侵害を根絶するために、国や地方自治体に対し、①精神保健福祉法による強制入院制度の廃止など、精神障害のある人に対する医療法・医療制度の抜本的改革、②精神障害のある人の入院に伴う尊厳確保のための手続的保障、③精神障害のある人の地域生活の実現、④精神障害のある人の尊厳の回復と差別偏見のない社会の実現、⑤障害者権利条約の求める国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)にのっとった国内人権機関の創設と個人通報制度の導入を求めることを決議した。また、日弁連もこうした権利保障システムの実現に向けて必要な施策を講ずるとした。


超高齢社会において全ての消費者が安心して安全に生活できる社会の実現を推進する決議

arrow_blue_1.gif超高齢社会において全ての消費者が安心して安全に生活できる社会の実現を推進する決議


高齢化の進行に伴い、高齢者の消費者被害が深刻な状況にあり、今後も増加していくことが懸念される。そこで、高齢者を含むすべての消費者が安心して安全に消費生活を送ることができる社会の実現のため、国や地方公共団体に対し、①消費者被害の予防・救済のための法制度を整備すること、②消費者被害の予防・早期発見・救済を目的とする消費者支援のための見守りネットワーク作りを推進する措置を講じること、③本人の意思を尊重した成年後見制度の運用により消費者被害の予防・回復を促進し、併せて、権利擁護と地域福祉に関する他の施策との連携を促進していくこと、④特殊詐欺等による被害の防止と回復のための措置・取り組みをより一層強化すること、⑤高齢者等の脆弱な状況にある消費者が日常生活に必要な取引から排除されることのないよう、消費者に対する積極的な支援を行い、必要な施策の推進と法制度の整備を行うことなどを求めると決議した。また、日弁連も、国・地方公共団体やさまざまな団体と連携し、諸施策の実現に向けて取り組むとした。


地方自治の充実により地域を再生し、誰もが安心して暮らせる社会の実現を求める決議

arrow_blue_1.gif地方自治の充実により地域を再生し、誰もが安心して暮らせる社会の実現を求める決議


地域の個性の尊重と自主性の発揮により地域を再生し、誰もが個人として等しく尊重され安心して暮らせる社会の実現に向けて、国や地方自治体に対し、①地域における人間らしい労働と生活の確立、地域間格差の解消、②地域経済の好循環サイクルの確立による地域経済の持続的発展、③地方自治体の運営基盤の強化と地方自治の充実を求めることを決議した。また、日弁連も、市民、市民団体、地方自治体と協働して、誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けて全力を尽くすとした。


弁護士の使命に基づき、被災者の命と尊厳を守り抜く宣言
~東日本大震災から10年を経て~

arrow_blue_1.gif弁護士の使命に基づき、被災者の命と尊厳を守り抜く宣言 ~東日本大震災から10年を経て~


東日本大震災・原発事故から10年という節目に、基本的人権の擁護を使命とする弁護士にとって、被災者支援が重要な本来的業務であることを改めて確認し、被災者の命と尊厳を守るために、今後も被災者支援、復興支援の活動に全力を尽くすことを宣言した。


気候危機を回避して持続可能な社会の実現を目指す宣言

arrow_blue_1.gif気候危機を回避して持続可能な社会の実現を目指す宣言


気候危機による人類への切迫した危険を回避するため、2050年までに脱炭素を実現し、平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以下に抑えることが世界共通の目標となっている。そのために、国に対し、2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で50%以上削減し、電力供給における再生可能エネルギー割合を50%以上とする目標を設定し、持続可能な経済社会の構築に向けて主導的な役割を果たすべきことを求めた。また、日弁連としても2050年脱炭素に向けて最大限努力することを宣言した。


事業活動報告と特別報告

少年法適用年齢引き下げ問題への対応など、2020年7月から2021年6月までの人権擁護活動について報告した。


また、ハンセン病問題についての岡山弁護士会における取り組み等について特別報告を行った。



フランチャイズ取引適正化法の制定を求める意見書を提出

arrow_blue_1.gifフランチャイズ取引適正化法の制定を求める意見書


日弁連は10月19日、「フランチャイズ取引の適正化に関する法律(フランチャイズ取引適正化法)の制定を求める意見書」を取りまとめ、経済産業大臣および公正取引委員会委員長に提出した。


経緯と背景

これまでフランチャイズ取引を巡っては、本部による更新拒絶や不当な競業禁止条項に関する問題、実情よりも過大な売上高や利益が提示されて加盟に至るという本部の事前情報提供義務を巡るトラブルなど、さまざまな紛争が発生している。2019年12月には、24時間営業をやめた加盟者に対して本部が解約通知を出した事件が社会問題化し、経済産業省や公正取引委員会も実態調査を行ってきた。


しかし、フランチャイズ取引全般について実効的に適正化を図る法律は存在しない。加盟者募集時の規制としては、中小小売商業振興法で小売業の本部について一定の情報提供義務が定められていることと、公正取引委員会のガイドラインで不十分な情報開示は独占禁止法上のぎまん的顧客誘引となり得るとされていることのみである。また、取引関係に入った場合の規制としては、独占禁止法上の不公正取引の禁止のみであり、実効的な規制はなされていない。


そこで、紛争を未然に防止し、本部と加盟者の対等で適切な関係を構築するため、今回の立法提言に至ったものである。


求められるフランチャイズ取引適正化法の内容

内容は多岐にわたるが、特に重要な点は、初期事業撤退制度の創設と不当条項の無効の提案である。前者は、加盟者が事業の実態を見極めることができるよう、開業日から1か月間を初期事業撤退可能期間とし、加盟者が無条件で解約して返金を求められる制度である。後者は、加盟者に一方的に不利益な営業時間を定める条項、過大なロイヤルティを定める条項、加盟者による正当事由がある中途解約を妨げる条項、通常の損害を超える過大な違約金条項など、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度を超えて不公正な条項を無効とするものである。その他、加盟希望者に対する情報提供義務の明文化、加盟者団体設立の権利の保障と本部の誠実交渉義務、フランチャイズ取引全般についての専門的紛争解決制度の創設なども提言している。


(消費者問題対策委員会  幹事 中野和子)



人権擁護大会シンポジウム
10月14日 岡山市

第1分科会
精神障害のある人の尊厳の確立をめざして
〜地域生活の実現と弁護士の役割〜

arrow_blue_1.gif第63回日本弁護士連合会人権擁護大会シンポジウム第1分科会 「精神障害のある人の尊厳の確立をめざして~地域生活の実現と弁護士の役割~」


日本では精神障害を抱え入院している人が約27万人おり、うち約半数が法的強制の下での入院を強いられている。入院期間の長さや隔離拘束の多さ、院内虐待など、精神障害のある人の尊厳はいまだ確立されておらず、現行法制度の改革や強制入院制度の廃止について議論した。


精神科医療のいま

座談会の様子

約45年間の入院生活を経験した伊藤時男氏がビデオトークに登場した。伊藤氏は「家庭を持てなかったことが一番悔しい」と語り、長期に及ぶ入院生活で退院することを諦めてしまう人も多いと訴えた。


続いて、精神科への入院経験を有する方々への実態アンケート・インタビュー調査の結果として「体を縛られ、おむつをつけられ、無理やり薬を飲まされた」「通路から丸見えの状態で着替えや排泄をせざるを得なかった」など医療の名のもと重大な人権侵害が起きている実情が紹介された。


座談会では、自らも入院経験を有する鷺原由佳氏(ピア・サポーター)、家族会の立場で精神保健福祉法改正への提言を行った滝沢武久氏、伊藤順一郎氏(精神科医)が意見交換を行った。


劇から考える「こんなとき、あなたならどうする!?」

強制入院に関する三つの寸劇の動画が上映され、それぞれの場面に沿って意見交換が進められた。


一つ目の強制入院前の場面では、強制入院に代わる方法として精神障害を有する人同士が自らの経験に基づいてお互いを支え合うピアサポートの仕組みが紹介された。関常夫氏(当事者団体スピーカーズ・ビューロー岡山前会長)は「当事者を孤立させない仕組みを作ることが重要だ」と指摘した。二つ目の入院中の場面では、治療の必要性ではなく家族の負担という理由で退院が実現しない、いわゆる社会的入院の実情が浮き彫りにされた。三つ目の精神医療審査会の場面では、退院希望について可否を判断する精神医療審査会での審議の状況が紹介された。太田順一郎氏(医師/岡山市こころの健康センター所長)は「精神科医療の分野で弁護士の果たす役割に期待している」と述べた。


国内外からの応援メッセージ

テレジア・デゲナー氏(国連障害者権利委員会前委員長)をはじめ国内外の13人からの日本における強制入院廃止に向けたビデオメッセージが上映された。



第2分科会
超高齢社会における消費者被害の予防と救済を考える
〜誰一人取り残さない社会をめざして〜

arrow_blue_1.gif第63回日本弁護士連合会人権擁護大会シンポジウム第2分科会 「超高齢社会における消費者被害の予防と救済を考える~誰一人取り残さない社会をめざして~」


内閣府の「高齢社会白書」(令和元年版)によれば、日本では2036年に3人に1人が65歳以上(以下「高齢者」)になると推計されている。超高齢社会で誰一人取り残すことなく、すべての人が安心で安全な生活を送るための消費者被害の予防・救済制度の在り方等について検討した。


高齢者の被害実態

高齢者の消費者被害に現場で対応する多田充宏氏(岡山市中区地域包括支援センターセンター長)、矢吹香月氏(岡山県消費生活センター消費者教育コーディネーター)、消費者問題対策委員会の中村新造委員(第二東京)は、被害実態を具体例とともに報告し、被害防止や関係機関の連携による見守りの重要性を説いた。


消費者・福祉行政の取り組みと対策

阿部龍斗氏(消費者庁地方協力課課長補佐)は、地方公共団体と地域の関係者が連携して高齢者等を見守る消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)の設置推進の取り組みを紹介した。また、唐木啓介氏(厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室長/地域共生推進室長)は、本年度から新たに創設された重層的支援体制整備事業について説明した。


リレー報告

オンライン中継により、各地の見守りネットワークの取り組みが報告された。


野村裕子氏(北海道士別地区広域消費生活センター消費生活相談員)は、周辺町村との広域連携による消費生活相談の取り組みを、三田拓史氏(野洲市市民部市民生活相談課)は、消費者庁・警察からの提供情報に基づく見守りリストの活用をそれぞれ紹介した。


超高齢社会において浮き彫りとなる消費者の脆弱性

菅富美枝教授(法政大学)は基調講演で、脆弱性を本人属性でなく社会的障壁と捉え、障壁除去への合理的配慮を的確に行うという発想を取引に取り入れて、高齢者を含むあらゆる人々が脆弱性を有しながらも消費生活・取引に主体的に参加できる社会を目指すべきと説いた。


パネルディスカッションでは、磯辺浩一氏(消費者機構日本理事)が、被害の速やかな救済のために消費者契約法や特定商取引法の改正も課題であると語ったほか、本分科会実行委員による海外調査報告等が行われた。



第3分科会
人口減少社会を乗り越える地域再生の社会保障
〜地域で安心して暮らすために〜

arrow_blue_1.gif第63回日本弁護士連合会人権擁護大会シンポジウム第3分科会 「人口減少社会を乗り越える地域再生の社会保障~地域で安心して暮らすために~」


公共サービスの提供機能が低下する地方自治体の現状や地域における社会保障の危機について考察した。その上で、地域の個性を生かして再生する各地の取り組みを参考に、地域で安心して暮らすことができる社会を構築する方策等について議論した。


基調講演

中山徹教授(奈良女子大学大学院)は、人口減少が深刻化する現状やこれを踏まえた自治体政策の在り方について論じた。人口減少に伴う市街地中心部への集約化は周辺部の無秩序な衰退を招きかねないため、住み慣れた地域に住み続けられるよう日常生活圏の整備を進めていくべきだと指摘した。また、人口減少時代にふさわしい自治体の在り方を考えていくことが必要だと述べた。


第1部 特別・基調報告

橘田亜由美氏(医師/東大阪生協病院院長)は縮小の一途をたどる地域の医療・介護・保健行政の現状を報告した。藍野美佳氏(元広島県竹原市婦人相談員)は、地方自治体における非正規公務員の不安定な雇用の現状を訴えた。平澤文江氏(NPO法人まちづくりネットワークWILL理事長)は、旧水窪町が浜松市と合併してさまざまな弊害が生じている現状を語り、多様性の時代に逆行する「一市一制度」の是非などを訴えた。


濱中香理氏(島根県隠岐郡海士町役場人づくり特命担当課長)は、合併を選ばなかった町で地域再生に向けて取り組みを行っていることを報告した。吉川真嗣氏(新潟県村上市むらかみ町屋再生プロジェクト会長)は、住民主導のまちづくりと地域活性化の取り組みを紹介した。


日弁連からは、社会保障の地域間格差や公共サービスの提供機能低下等について報告し、公的医療機関の維持・増設等を提言した。


第2部 パネルディスカッション

西粟倉村や宝塚市の独自の取り組みも報告された

パネリストとして伊藤周平教授(鹿児島大学)、上山隆浩氏(西粟倉村役場地方創生特任参事)、岡田知弘教授(京都橘大学・京都大学)、高端正幸准教授(埼玉大学)、山﨑晴恵氏(兵庫県宝塚市長)が登壇し、地方財政の苦境や住民と自治体の連携等について議論を交わした。

最後に、中山教授は、地域の豊かな実践を支えるのは住民自治であり、まちづくりの最終的な目的は自治能力の高い住民を育てることであると総括した。



若手弁護士カンファレンス
九州弁護士会連合会
10月21日 オンライン開催

若手弁護士カンファレンスは、若手会員から会務や業務に関する悩み、日弁連に対する意見を聞き、若手会員にとって必要とされる支援策等について意見交換を行う機会として2015年度から弁連大会前日等に開催されている。今回は九州で開催された同カンファレンスの様子を取材した。九州では、荒会長以下日弁連執行部や九弁連理事長らが67期から73期までの若手会員と意見交換を行った。なお、11月18日には近畿で開催された。


若手会員の公益的活動等に対する支援制度について

十河弘副会長が若手チャレンジ基金制度などの若手支援の概要を説明した。その後、8グループに分かれて意見交換が行われた。日弁連新聞の記事で基金のことを知ったという会員からは、若手にとって有益な制度なのでもっと積極的に広報すべきとの意見があった。若手会員の会務活動への関心の低下が指摘される中、公益活動への関心を高める契機になると評価する声もあった。対象者を新65期から70期の会員に限定している点、研修・学習費の支援について10万円以上の実費を支出した場合に限定している点について、それぞれ対象範囲を拡大してほしいとの要望があった。さらに、支給対象となった弁護士業務における先進的な取り組みについては日弁連ウェブサイト等で紹介すべきとの意見もあった。


若手会員の就業環境とコロナ禍の影響

新人弁護士の就職先が東京と大阪に集中している点について、各地の魅力を伝えながら地方にも就職場所があることをアピールすべきとの意見があった。


コロナ禍の影響について、本庁から離れた事務所で勤務する会員からは、研修や会務がオンライン開催になり参加しやすくなったとの意見があり、多くの会員からも同様の意見があった。荒会長は、確かにオンラインは便利であり有効に活用すべきだが、実際に依頼者や先輩弁護士と会うことの重要性も考えて、コロナ収束後はオンライン方式だけでなく、対面方式も上手に組み合わせてほしいとアドバイスした。



シンポジウム
死刑廃止の実現を考える日2021
10月12日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif死刑廃止の実現を考える日2021


日弁連は、2008年から毎年「死刑を考える日」(その後名称変更)を開催し、市民と共に死刑の問題点について考えてきた。本年は、7月1日に米国で連邦レベルでの死刑執行停止の通知が公表されたことを受け、日本での死刑廃止への道筋について議論した。


基調講演「死刑制度について」

芥川賞作家の平野啓一郎氏は、死刑制度を廃止すべきと考えるようになった理由として、警察の捜査への不信感と冤罪事件の実態、罪を犯した人にすべての責任を負わせることへの疑問、人を殺してはいけないとの原則に国家による死刑制度という例外を設けるべきではないこと、政治動向により死刑制度が運用される危険、犯罪抑止論や死に直面させることで更生を促すとの理論に懐疑的であることなどを挙げた。そして、日本には死刑制度の存置を支持する人も多いが、死刑制度について冷静に話し合うことが民主主義社会に生きる市民に課された課題であると締めくくった。


パネルディスカッション

井田香奈子氏(朝日新聞論説委員)は、死刑廃止の国際的潮流に日本が乗り遅れているのは、権利としての人の命の大切さと死刑の残虐さや不可逆性を結び付けて論じてこなかったからであると指摘し、政治家には強いイニシアティブをもって死刑廃止に向けて取り組むことを求め、報道機関としてそれを下支えする議論の場を作っていきたいと力強く語った。死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部の大川哲也副本部長(札幌)は、被害者と加害者の人権保障を両立させる必要があるとの観点から、犯罪被害者給付制度の充実など、犯罪被害者の精神的・経済的損失を社会全体で支える仕組みの整備が不可欠であると指摘した。


平野氏は、これまでの死刑廃止運動では被害者支援の視点が不十分であり、被害者のケアを充実させない限り死刑廃止への流れは進まないと述べた。



弁護士の国際業務シンポジウム
~国際業務支援の新しい形~
10月26日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif弁護士の国際業務シンポジウム~国際業務支援の新しい形~


弁護士による国際業務の拡大に向け、求められる弁護士の国際業務と今後の展望等について議論した。


(共催:東北弁護士会連合会、仙台弁護士会)


近時の東北地方の中小企業の海外展開の取り組み

伊藤亮一氏(JETRO地域統括センター長/仙台貿易情報センター所長)は、急速に少子高齢化が進む中、日本の企業は国内の限られたパイを奪い合うか、海外に進出して大きなチャンスを狙うかの選択を迫られており、このことは地方の中小企業にとっても例外ではないと語った。新型コロナウイルスの影響で世界の情勢が一変する中、宮城県のコメ生産者が海外に商機を見つけ輸出に挑戦し成功した事例等を紹介し、弁護士はこのような事業者を支える重要な役割を担うことができる存在だと述べた。


ビジネスと人権

国際人権問題委員会の佐藤暁子幹事(東京)は、国際的な取引に関するビジネスと人権の問題について講演した。具体的な事例を挙げつつ、強制労働や差別など人権リスクへの対策を怠ることが経営リスクにつながると強調した。そして、人権リスクをゼロにはできないという大前提に立ち、どこにどのような人権リスクがあるのかを発見してその芽を早期に摘み取る仕組みを作ることが重要であると指摘し、この分野において弁護士は中小企業の力になることができると述べた。


パネルディスカッション「中小企業の国際業務支援の新しい形」

企業の国際業務支援に携わる3人の会員と伊藤氏が登壇し、地方の弁護士の国際業務への取り組み方、スキル構築の方法論等をテーマに意見交換を行った。法律サービス展開本部国際業務推進センターの武藤佳昭センター長(東京)は、日弁連総合研修サイトに中小企業の海外展開業務やビジネスと人権などに関するeラーニング講座が多数掲載されているので活用してほしいと述べた。



シンポジウム
いま問いただす!日本にカジノは必要か
~IR認定申請期間の開始にあたって~
10月8日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「いま問いただす!日本にカジノは必要か」


本年10月1日、IRを誘致しようとする自治体からの認定申請の受付が始まった(来年4月28日まで)。改めて現在の情勢を共有し、カジノ施設を含むIRの誘致と開設の是非を市民と共に検討すべくシンポジウムを開催した。


基調講演

鳥畑与一教授(静岡大学人文社会科学部)は、「いま、日本にカジノは必要か~コロナ禍後の日本社会の持続的発展を見据えて~」と題した講演で、各地で示された事業計画の内容はカジノ中心のIRであり、成長戦略の要として国際観光を推進するために世界最高水準のMICE型IR(国際会議・展示場等が中心のIR)を建設するという当初の構想は崩壊していると批判した。


さらに、コロナ禍で加速するビジネスのオンライン化の中、大規模施設の集客型カジノの収益性・持続可能性やMICE施設自体の必要性・価値に疑問を呈するとともに、世界で広がるESG投資ではギャンブルを主事業とする企業が投資対象から除外されることを指摘した。


そして、依存症生産ビジネスという経済的本質をもつカジノの収益に地域経済の未来を委ねることの危険性を再検討し、カジノ依存の経済政策と決別しなければならないと訴えた。


誘致候補地の情勢報告

カジノ誘致候補地とされる東京、横浜市、大阪、和歌山および長崎の会員・関係者が各地の情勢を報告した。


本年8月の選挙で誕生した新市長によりIR誘致が撤回された横浜市の報告では、消費者問題対策委員会の松岡泰樹幹事(神奈川県)が、誘致撤回という成果は2014年10月からの住民反対運動が結実したものだと言葉に力を込めた。


総括「カジノ誘致の是非に住民自治の貫徹を」

新里宏二幹事(仙台)は、コロナ禍等でカジノを取り巻く状況が一変しても、政府はカジノ推進に固執しているが、横浜市の誘致撤回という住民自治貫徹のエネルギーを力に、各地の特徴を生かした運動をさらに盛り上げていきたいと締めくくった。



第11回審査補助員・指定弁護士のための全国経験交流集会
検察審査会における審査の在り方などを議論
10月21日 オンライン開催

基調講演や審査補助員の経験報告等を通じて、検察審査会における審査や制度の在り方などについて議論した。


基調講演

上田信太郎教授(北海道大学大学院)は「検察審査会は『どう張り切る』べきか」と題し、起訴基準、検察審査会の審査の在り方および検察審査制度の意義と問題点について解説した。上田教授は、検察審査会は、起訴相当・不起訴不当の議決の数ではなく、議決内容が国民の納得を得られるだけの質を備えているかを問うことに「張り切る」べきであると指摘し、合理的な議決内容を獲得するために必要な審理過程の在り方を検討すべきと述べた。


報告

百武大介会員(青森県)は、不起訴不当の議決となった監禁致死事件の検察審査会に審査補助員として関与した経験について報告した。審査補助員は争点に関する重要証拠の抽出と整理を担い、証拠の全体像を把握している立場にあるが、審査員の判断を誘導してはならないため議論の進行役となることはできず、審査会への関わり方に難しさを感じたと語った。


検察審査会に関する委員会の山下幸夫委員長(東京)は、2016年9月15日付け「検察審査会制度の運用改善及び制度改革を求める意見書」の取りまとめや「検察審査会法における審査補助員・指定弁護士のためのマニュアル(2021年版)」の発行など、これまでの委員会の活動実績を報告した。


パネルディスカッション

パネリストとして上田教授、百武会員、村田典子会員(青森県)、コーディネーターとして竹本真紀副委員長(青森県)が登壇し、「より良い検察審査会制度のために何が求められているか」をテーマに意見交換を行った。検察審査会における議論の具体的な進め方や被疑者側の意見陳述を認めるかなどの審査や制度の在り方を巡る論点について議論を交わした。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.164

スポーツ仲裁のさらなる活用に向けて
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)

杉山会員(左)と前田氏(右)

2021年は東京でオリンピック・パラリンピックが開催され、スポーツに注目が集まった1年でした。そこで、スポーツに関する紛争解決を通じてスポーツの健全な振興を図ることを目的に活動している公益財団法人日本スポーツ仲裁機構を訪問し、調停仲裁専門員である杉山翔一会員(第二東京)、事務局の前田卓朗氏にお話を伺いました。

(広報室嘱託 花井ゆう子)


機構の成り立ち

 新国立競技場の目の前に事務所を構える1999年、ドーピングに対する規制強化の動きを受けて、機構の前身である日本スポーツ仲裁研究会が日本オリンピック委員会内に立ち上がりました。翌2000年のシドニーオリンピックの際に競泳選手の代表選考を巡る紛争が生じましたが、国内にはその紛争を解決する機関がなく、スイスのスポーツ仲裁裁判所で解決が図られました。しかし、渡航費や通訳費など多大な費用が必要となることから、これを契機として国内に紛争解決機関を設立する要請が高まり、2003年、日本スポーツ仲裁機構(JSAA)が任意団体として設立されました。その後、法人格を取得して公益認定を受け、現在の公益財団法人の姿となりました。


調停・仲裁

JSAA発行のガイドブックJSAAでは、スポーツに関する紛争解決手段として、調停・仲裁を行っています。スポーツ調停(和解あっせん)手続は、2009年に法務省からADR法に基づく第1号の認証を受けています。


中心的に利用されているのは仲裁手続です。代表選考を巡る紛争や規則違反等を理由とする競技者等に対する不利益処分を巡る紛争が多くを占めていますが、近時は指導者等によるハラスメントの問題も増えています。年間10件前後の申し立てがありますが、設立当初は年に1、2件ということもありました。当時はスポーツの世界になぜ法律を持ち込むのかという空気があり、競技団体に仲裁は受け入れられていなかったのです。しかし、2011年にスポーツ基本法が制定され、スポーツ団体はスポーツに関する紛争の解決に努めるものとされたこと(5条3項)、日本相撲協会などスポーツ団体の不祥事が問題になりガバナンスを強化しなければならないという意識が醸成されてきたこと、東京オリンピックの招致が決まりスポーツに注目が集まったことなどの複合的な要因から、徐々に状況に変化が生まれました。


JSAAの理解増進活動も功を奏し、仲裁合意に関する自動受諾条項を採択する団体も増加してきました。スポーツ分野では、自分が所属する団体に対して声を上げることへの心理的ハードルが高く、申し立てをしても応じてもらえないかもしれないという不安が障壁となります。このため、自動受諾条項の採択はアクセス拡充の点で非常に重要です。


仲裁手続は、簡易迅速に専門家の判断を得られる利点があります。申立手数料は5万5千円と低廉です。団体側に代理人が選任されているケースが多いため、申立人側(競技者等)にも代理人選任を勧めています。資力・案件に応じて上限30万円の手続費用支援が受けられる制度もありますので、会員の皆さまも、相談を受けた際にはぜひ助言をしてください。申し立ては、書面または電子メールで行うことができます。また、オンライン審問を可能とする規則改正を行い、地理的なハードルは下がりました。一方で、証人の証言に第三者の関与がないかなど手続の公正性確保が今後の課題です。


今後の取り組み

わが国でスポーツ分野のガバナンスが強く意識されるようになって10年になります。スポーツ事故防止や競技者の権利擁護、暴力根絶など、セーフガーディングへの要請は高まっています。紛争解決制度の認知向上・利用促進に向けた啓発と同時に、紛争予防のための啓発活動にいっそう力を入れていきたいと考えています。ゴールは、JSAAに持ち込まれる紛争が無くなることです。


弁護士の活動領域として

スポーツ仲裁を扱える弁護士はいまだ少なく、ジェンダーバランスの確保も課題です。スポーツ仲裁に多くの法律家が関わることが多様性の確保につながるため、オンライン研修等を通じて人材の裾野を広げていきたいと考えています。また、東京オリンピック・パラリンピック開催期間中は、スイスのスポーツ仲裁裁判所の臨時事務所が東京の日本国際紛争解決センターに置かれ、JSAAはその手続代理を行う弁護士の研修や待機弁護士の当番管理を行いました。国際仲裁に関心のある方には、スポーツ仲裁は活躍できる領域の一つとなるはずです。国際仲裁の活性化は政府のいわゆる骨太の方針にも掲げられていますので、特に若い方々にはぜひ挑戦していただきたいと思います。



日弁連委員会めぐり112
災害復興支援委員会

日弁連は、災害により被害を受けた地域の早期かつ円滑な復興や被災者の人権保障に取り組んでいます。今回は、災害復興支援委員会(以下「委員会」)の吉江暢洋委員長(岩手)、今田健太郎副委員長(広島)、津久井進前委員長(兵庫県)に活動内容等を伺いました。

(広報室嘱託 本多基記)


委員会の沿革と活動内容〜災害地域の復興と被災者の人権保障

吉江委員長

1991年の雲仙普賢岳噴火災害以降、弁護士が災害復興に関わりを持つようになりました。日弁連としては、2003年に「全国弁護士会災害復興の支援に関する規程」が制定され、その内容を実行する災害復興支援に関する全国協議会ワーキンググループが立ち上げられ、2007年に委員会に改組されました。活動内容も、当初は市役所等の所定の相談場所での相談や宣言的な立法提言にとどまっていましたが、新潟県中越地震(2004年)、中越沖地震(2007年)を経て、東日本大震災(2011年)においては、避難所での法律相談や、その内容を立法事実としたロビー活動を行い、その結果いくつもの法改正や制度改善を実現してきました。被災者の生活再建をはじめとする被害復興のための立法提言や制度改善提案は活動の大きな柱です。


災害復興に取り組む意味〜弁護士だからこそできること

今田副委員長委員会では、被災者一人ひとりの視点に立った「人間の復興」のため、被災者個人の生活再建から地域の復興まで全体的な支援を進めてきました。


災害時に行う弁護士の相談活動には、①精神的支援機能、②パニック防止機能、③紛争予防機能、④情報提供機能、⑤立法事実収集機能があり、相談者の問題を解決するだけでなく、立法提言等により同様の問題を抱える被災者の支援にもつながります。また、被災地の住民によるまちづくり支援にも弁護士が積極的に関与しており、各士業の専門性を生かしながらオールラウンダーとして円滑に復興を進めています。こうした幅広いトータルな支援は、弁護士・弁護士会ならではのものと言えます。


会員へのメッセージ

津久井前委員長

被災地での活動は、困っている人を助けるという弁護士としての原点に立ち返る活動だと感じます。早期の被災地復興と被災地で困っている被災者の人権保障を実現するためにも、各地で支援の体制を作っていく必要があります。会員の皆さまにはぜひ復興支援に関心を寄せていただき、一緒に取り組んでほしいと思います。



ブックセンターベストセラー (2021年10月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター


順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

携帯実務六法 2021年度版

「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 東京都弁護士協同組合
2

訟廷日誌 合冊 2022 付・訟廷便覧

大阪弁護士協同組合出版委員会/編集 全国弁護士協同組合連合会
3

即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務

松本哲泓/著 新日本法規出版
4

訟廷日誌 分冊 2022 付・訟廷便覧

大阪弁護士協同組合出版委員会/編集 全国弁護士協同組合連合会
5

懲戒をめぐる諸問題と法律実務

第一東京弁護士会労働法制委員会/編・著 労働開発研究会
6

模範六法 2022 令和4年版

判例六法編修委員会/編 三省堂
7

民事保全の実務〔第4版〕(上)

江原健志、品川英基/編著 きんざい
8 弁護士会照会制度〔第6版〕 東京弁護士会調査室/編 商事法務
9 民事保全の実務〔第4版〕(下) 江原健志、品川英基/編著 きんざい
10 弁護士の周辺学〔第2版〕 髙中正彦、市川 充、堀川裕美、西田弥代、関 理秀/編著 ぎょうせい
弁護士職務便覧 令和3年度版 東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会/編 日本加除出版



海外情報紹介コーナー⑫
Japan Federation of Bar Associations

未成年者を対象とするトランスジェンダー医療ケア禁止法(米国)

2021年、米国の21の州で、未成年者に対するホルモン投与等のトランスジェンダーの医療ケアの提供を禁止する法案が州議会に提出された。


アーカンソー州では、州議会の法案可決に対して州知事が拒否権を発動したものの、州議会が再可決して成立に至ったが、連邦裁判所が施行直前にこれを差し止めた。法案の中には、トランスジェンダーの医療ケアを行った医師に刑事罰を課すものもある。


法案については、トランスジェンダーの未成年者は自殺やうつ病発症のリスクが高く、医療ケアを禁止すると精神的健康に悪影響を及ぼす等の反対意見も少なくない。


(国際室嘱託 小野有香)