地方自治の充実により地域を再生し、誰もが安心して暮らせる社会の実現を求める決議




地方では、シャッター通り化した商店街の光景が広がっている。基盤産業の後退や就業機会の縮小などが進み、住み慣れた地域を離れる者が後を絶たず、多くの地域で人口減少が加速している。他方、東京都には上場企業の半数以上が集中し、千葉県、埼玉県及び神奈川県を含む首都圏に多くの若者が転入して総人口の3割近くが集中するなど、東京圏への一極集中が進んできた。コロナ禍の到来や近年の大災害は、一極集中が致命的な弱点を抱えていることを浮き彫りにした。


このような地方を中心とした地域の衰退は、グローバル化の中で経済性や効率性を優先した国主導の政策によって、雇用や社会保障の不安定化・地域間格差の広がり、大規模店の規制撤廃等による地域産業の後退、人員削減等による自治体の公共サービスの低下がもたらされたことなどが要因である。国は、今後も続く人口減少への対応として、低密度化する地域の効率的な運営のため、公共施設等の機能を地域の中心部に集中させる政策など地方自治体の在り方に関わる方針を打ち出しており、今後、憲法が保障する地方自治制度が歪められ、取り残された地域の住民の生存権が脅かされる危険もある。


憲法では、人権保障と民主主義を実現するべく、地域の住民が地方政治に参画して地域のことを自ら決定すること(住民自治)が不可欠であり、そのために地方自治体の自律権を保障(団体自治)している(憲法第92条「地方自治の本旨」)。地域は「人間の生活の場」であるから、住民の参画により、地域の実情に応じた住民のニーズを充たす施策や自治体の在り方を実現し、また、住民生活が向上するよう地域経済の持続的発展を図ることが必要である。そこで、当連合会は、地域の個性の尊重と自主性の発揮により地域を再生し、誰もが個人として等しく尊重され安心して暮らせる社会の実現に向けて(憲法第13条、第14条、第25条)、国及び地方自治体に対し、次の諸施策の実施を求める。


1 地域における人間らしい労働と生活の確立、地域間格差の解消

病院の統廃合・病床数の削減、福祉分野の労働者や施設の不足、保育施設や学校の統廃合等を背景に、地域によって、医療・福祉サービスや保育・教育を受ける機会が減少するなど、コミュニティの基盤が脆弱となっていることから、住民が人間らしく働き生活できる地域づくりを目指した施策が重要である。

 (1) 地域によって医療・介護・障害福祉サービスにアクセスできないことのないよう、①地域医療構想を見直し、地域に不可欠な公立病院・公的医療機関を維持・増設し、②地域の需要に見合う入所・通所介護施設を公的責任で新設・増設するとともに、③医療・介護・障害福祉サービスの担い手不足を解消するため、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービスの事業者報酬を見直して、労働条件を大幅に改善し、地域に安定した雇用を創出すべきである。


 (2) ①役所、保育所や小学校、中学校、高校の統廃合等を見直し、②公営住宅の整備・家賃支援、給食費・未成年者医療費の無償化、起業・就業支援、移住・定住支援等を充実させ、③空き家を活用して、不足する高齢者・障害者・子育て施設、コミュニティ施設などに転用し、若者をはじめ住民が暮らしやすい地域づくりを進めるべきである。


 (3) 社会保険料の軽減等の実効的な中小企業支援を図りつつ、最低賃金法を改正して全国一律最低賃金制度を実施するとともに、公契約法・公契約条例を制定し、賃金の引上げと賃金の地域間格差の解消を図るべきである。


2 地域経済の好循環サイクルの確立による地域経済の持続的発展

地域経済の好循環サイクルを確立し、地域内の労働者や事業者の生産と生活を維持・拡大して、グローバル経済に大きく左右されない、地域経済の持続的発展を図ることが重要である。

 (1) 地域経済の状況把握、自然環境や歴史的建造物を含む地域資源の再評価とビジョンの構築、地域における雇用の確保とマッチング、起業の支援等を、行政だけでなく地域の事業者や市民が参画する検討会議を設置して進めるなど「協働」を重視しつつ地域主体で推進すべきである。その際、農林漁業などの第1次産業、小水力発電・木質バイオマスなどの再生可能エネルギー事業、教育・福祉分野の事業の推進など、各地域の個性を活かし、環境・社会・経済のバランスの良い統合的取組による相乗効果の創出を目指すべきである。


 (2) 中小企業振興基本条例を制定し、条例の理念を具体化する実践により、地域経済の基盤をなす中小企業を積極的に育成、支援すべきである。


3 地方自治体の運営基盤の強化と地方自治の充実

公共サービスを担う地方自治体は、地方交付税の削減等により財政が圧迫され、人員削減・非正規化・業務の外注化が進み、コロナ禍で露見した保健所の削減に見られるように、公共サービス水準の維持が困難になっている自治体があり、平成の大合併により役場が大幅に縮小した自治体もある。自治体が、住民のニーズを充たし、地域経済を支え、住民の意思を反映した質の高い公共サービスを提供できるよう、自治体の在り方を整備し地方自治を充実させる必要がある。

 (1) 財政面においては、財政を健全化し財政運営の自主性を高めるため、地方交付税の大幅な増額、地方税の拡充などの地方税制改革が必要である。


 (2) 人員体制においては、①国は定員抑制の誘導を止め、恒常的な職務に就く職員は常勤職員として採用することを原則とし、②地方公務員においても同一労働同一賃金、均等(均衡)待遇のルールに依拠して、会計年度任用職員の賃金その他の労働条件を改善し、③行き過ぎた民間委託を見直していくべきである。


 (3) 国の審議会等で提起されてきた中心市主導型の自治体間連携や自治体の役割をサービス提供主体から「プラットフォーム・ビルダー」へ転換するとの方針等は、住民自治と団体自治を脅かすことが強く懸念されることから、地方ごとの課題を具体的に把握し、かつ、地方自治体の平等性・自律性を尊重して、その課題を住民自身が民主的過程を通じて自律的に解決できる仕組みを構築するよう取り組んでいくべきである。

 (4) 住民の多様な意見の反映により住民自治を実効化するため、社会的弱者・少数者を含む多様な意見を反映できる仕組みを整備すべきである。そのための方策として、議会における女性のクオータ制の導入も含めた諸施策について、今後具体的な検討を進めるとともに、永住外国人への地方参政権の付与を実現すべきである。


当連合会は、地域の再生のためには、そこで生活する人の多様性を尊重し、住民自治と団体自治により、地域から人権保障と民主主義の実現を目指す住民自らの取組が不可欠であるとの認識に立ち、地域の構成員である全国の弁護士会及び弁護士とともに、国主導の政策の問題点の是正を求めつつ、市民、市民団体、地方自治体と協働して率先して地域づくりに取り組み、誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けて全力を尽くす決意である。

 

以上のとおり決議する。



2021年(令和3年)10月15日
日本弁護士連合会

 

提案理由

第1 はじめに

地方を中心に多くの地域の衰退が進んでいる。


地域とは、社会の一部を構成する一定の特徴をもった空間領域を意味する。生存権保障の観点からは、地域を「人間の生活の場」として捉えることが重要であり、国内各地の多様な地域が積み重なって全体としての社会が形成されている。なお、地方は、中央ないし都市部の対語として用いる。


今、地域という日本社会の土台が衰退し地域における人間の営みが危機に瀕している。それは、商店街のシャッター通り化、地域の基盤産業の後退と就業機会の縮小、地域における不安定就労と低賃金労働の拡大、課税対象所得の減少、病院・学校数の減少や交通アクセスの悪化など医療・福祉や教育面における地域間格差等、様々な事象として現れている。


地域の衰退は、その地域における人口減少や少子高齢化の問題との関連で論じられてきている。例えば、2014年には、日本創成会議が「ストップ少子化・地方元気戦略」というレポートを公表し、「消滅」が避けがたい自治体名を公表し、その周辺にある地域拠点都市に行政投資や経済機能の「選択と集中」を進めるべきなどとした(いわゆる地方消滅論)。


しかし、地方の衰退は、これまでの様々な政策に起因するものであり、人口の自然減のみに起因するものではない。地方衰退の現状を改善するためには、これまでの政策の見直しが必要であり、本来、自然環境、公共交通の在り方、都市計画、歴史的建造物、地域コミュニティを支える文化や倫理の伝承を含む環境問題への提言・取組も重要である。また、人口減少問題を検討する際には、雇用の不安定化に加え、地域コミュニティにおける伝統的な性別役割分担の解消、地域活性化のための施策や活動における男女共同参画の推進などの視点も重要である。本決議においては、生存権保障の観点から、主には、地域における労働条件の改善や社会保障の充実、地域経済の持続的発展、地方自治の充実等の問題に焦点を当てて検討し提言することとした。



第2 地方を中心とした地域の衰退の現状

1 商店街のシャッター通り化等

  地方都市では、駅前に全国チェーンの居酒屋や多国籍企業の珈琲店などが進出し、郊外には大手企業の大規模店舗が増える一方で、地域の中小企業は淘汰され駅前の商店街は衰退してシャッター通り化している地域が多い。農山村の過疎化も進み、それに伴い、国土の7割を占める森林の荒廃も進み、食糧自給率も低下している。地域の産業別就業人口の推移を見ると、生産機能を担ってきた第1次産業及び第2次産業が大幅に後退し、第1次産業及び第2次産業を基盤産業としてきた地方の地域経済が疲弊し、就業機会が縮小している。

市町村は、大規模な雇用を擁する地域経済の一大投資主体であるが、その数は、平成の大合併を経て、3229(1999年4月)から1718(2014年4月)にまで減少した。


2 地域における不安定就労と低賃金労働の拡大

  都道府県別の非正規雇用比率を見ると、40%を超える都道府県が、2007年の2府県から2017年には10道府県に増加している。日本全体の非正規雇用比率は、1997年の24.6%から2017年には38.2%となり、特に、女性は56.6%となっている(総務省就業構造基本調査)。短時間、有期又は間接雇用である非正規雇用の増大は、地域における就労の不安定化、正規雇用を含む賃金水準の低下を招来し、消費の低迷、地域における生活の不安定化、賃金が高い地域への人口流出などをもたらしている。


3 進む地方の貧困

  都道府県別の貧困率を見ると、年々悪化する傾向にあり、特に、京都府以西と秋田県以北の地域で貧困率が高くなっている。例えば、岡山県では、1997年の11.5%から2012年には20.6%へと約2倍に悪化している(戸室健作「都道府県別の貧困率、ワーキングプア率、子どもの貧困率、捕捉率の検討」)。


4 地域の衰退と人口減少・少子高齢化

  バブルが崩壊した1991年以降、人口が減少する都道府県の数は増加を続け、総務省の「人口推計(2019年10月1日現在)」によれば、40道府県で人口が減少しており、26道県で人口減少率が前年に比べ拡大している。総人口(外国人を含む)は、2008年の1億2808万人(高齢化率22.1%)をピークに減少を続け、2019年には1億2616万人(同28.4%)となり、年間の人口減少率は過去最大の0.22%となっている。

国の「推計」では、今後も、急速に人口が減少し、2050年には、約1億人となり、高齢化率が37.7%まで急激に上昇し、全国の居住地域(1㎞メッシュベース)の約半数の地域で人口が50%以上減少し、約20%の地域が人の住まない「無居住化地域」となる可能性があるとされ(国土交通省「国土の長期展望」中間取りまとめ参考資料)、コロナ禍により人口減少が一層加速する可能性が指摘されている。


5 東京圏への一極集中 

   東京都には、上場企業数の53.4%、外資系企業の65.1%が立地しており、特に、情報通信産業の付加価値額の73.8%を占めている(2020年)。投資収益と貿易収益を合計した海外売上高の7割が東京都に集中し(2000年)、東京都にある企業の「本社部門」への他府県からの利益移転が大きく、それぞれの産業部門の生産額をはるかに上回る5割以上の法人企業所得が東京都に集中している(2015年)。

また、大学は、全国の28.8%が首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)、18%が東京都にあり、大学生の40.4%が首都圏の大学へ、26%が東京都の大学へ通っている(2020年)。

人口は、全国比で、東京都は総人口の11%と最も高く、埼玉県、千葉県及び神奈川県を含む首都圏の人口は総人口の3割近くに及ぶ(2019年)。国土交通省の「国土の長期展望」中間取りまとめによると、東京圏への一極集中傾向は継続する見込みであり、東京圏への転入超過数の大半を10代後半から20代の若者が占めており、進学や就職が一つのきっかけになっていると考えられるとされる。東京都は全国で最も出生率が低いため、人口が東京に集中すればするほど日本全体の出生率が下がり、人口減少が進むとの指摘もある。

なお、国は東京圏への一極集中の是正を地方創生のための基本方針として掲げてきており、全国町村会は「コロナ下・コロナ後社会を見据えた町村からの日本再生に関する提言」において、東京一極集中の是正と地方の活性化は車の両輪であるとして東京一極集中是正の重要性を強調している。


6 社会保障・労働分野における地域間格差

(1)地域における医療・福祉・教育の危機

   ①  地域における医療の危機
病院の統廃合、病床削減と平均在院日数の短縮等による国の医療費抑制、それにより増大する退院患者の受け皿として、より安上がりな介護保険サービスや互助(ボランティア、地域の助け合い)からなる受け皿としての地域包括ケアシステムの構築が進められている。2015年3月には、国民健康保険の主な財政運営主体を都道府県とした上で、保険料の賦課徴収・保険事業などは市町村が行うとする法改正が行われた。その結果、都道府県ごとに保険料負担と医療費が直結する仕組みが作られ、医療費の抑制を都道府県単位で競わざるを得ない状況が生まれるなど、医療サービスの質の低下や削減など地域医療の危機が問題となっている。

②  地域における介護の危機
低賃金や過重労働等の労働条件悪化を背景に介護労働者が不足し、また、介護保険の施設給付費への国の負担の減少などにより特別養護老人ホームも不足し、「介護難民」の増加が問題となるなど、高齢化がますます進む地域においては、高齢者が安心して住み続けることが困難になりつつある。

③  地域における子ども・子育ての危機
児童数の減少を背景とする公立小・中・高等学校の統廃合が止まらない。平成の大合併時に減少した公立の小学校及び中学校は、その後も、平成の大合併の間と同様のペースで減少を続け、公立高校が地域に存在しなくなった市町村も増加している。2018年度文部科学省調査でも、統合に伴い通学や地域コミュニティの維持が困難となることへの課題や懸念が多くの教育委員会から示されている。


(2) 最低賃金の地域間格差

   非正規雇用では最低賃金近傍の賃金で働く者が多い。2021年の地域別最低賃金の審議状況を見ると、最も低い沖縄・高知が820円、これに次いで岩手・鳥取・愛媛・佐賀・長崎・熊本・宮崎・鹿児島の8県が821円で答申されている。最も高い東京都は1041円であり、その差は220円ないし221円である。最低賃金の地域間格差は、過去15年で約2倍に拡大している。

最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係が認められ、特に若年層では、最低賃金の低い地域から最低賃金の高い地域へと流出する傾向が見られる。その結果、最低賃金の低い地域の経済が停滞し、地域間の格差が固定、拡大されるという悪循環が生じている。


7 地方自治体の公共サービス提供機能の低下

   公共サービスを担う地方自治体は、地方交付税の削減等により財政が圧迫され、国による定員管理等による人員削減・非正規化・業務の民営化や外部委託化が進み、サービス水準の維持が困難になっている自治体があり、平成の大合併により役場が大幅に縮小した自治体もある。


(1)追い詰められる自治体財政-地方財政の自立性が損なわれている現状

   国と地方の歳出割合は、地方の歳出が約6割、国の歳出が約4割である。

ところが、国税収入と地方税収入は、歳出とは逆に、国税が約6割、地方税が約4割となっている。地方自治体の基幹的収入になるはずの地方税収は、歳入の39.9%しか賄うことができていない。これに一般財源である地方交付税を含めても、ようやく56.1%にすぎない(2019年。総務省令和3年版「地方財政の状況」参照)。

その上、地方交付税は、2000年度の21.4兆円規模から、2020年度には16.6兆円規模にまで縮減されている。国は、民間委託等の歳出効率化に向けた自治体の業務改革の実施状況を見える化して進行を管理し、達成状況を評価して交付金額を増減させるという財政誘導を行っている。

このように、「大きな地方自治体支出」「税収の国への集中」「国から地方自治体への財源移転」が日本の特徴であり、地方自治体に割り当てられた事務に要する経費の大きさに対し、地方の収入が不足し、国による財政誘導も行われ、地方財政の自立性、あるいは歳入の自治が損なわれている現状がある。


(2)地方公務員の削減・非正規化等

   ①  人員削減
地方自治体一般職常勤職員(再任用職員、任期付職員、任期付研究員、配偶者同行休業代替職員、育児休業代替職員を含む)の数は、1994年の約328万人をピークとして、それ以後、民間委託の推進、定員管理の適正化等を目指した集中改革プランの推進などにより削減され、2020年には約276万人となり約52万人減少した。

②  非正規化
上記に含まれない臨時・非常勤職員(2020年度からはその大部分が会計年度任用職員と位置付けられた。)の数は、2020年は約69万人となり2005年からの15年間で約24万人増加し、一般事務のほか、保育、教育、医療分野等、住民にとって恒常的に必要な行政サービス分野に広く及んでいる。

③  民営化・外部委託化
「昨今の厳しい財政事情の中で、国民に対して、より良質かつ低廉な公共サービスの提供」をするという目的の下、公共サービスの「改革」が進められ、2003年9月には地方自治法改正による指定管理者制度が導入された。2006年7月には「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(いわゆる公共サービス改革法・市場化テスト法)が制定されるなど、公共サービスの民営化・外部委託化が加速している。全国の都道府県・指定都市・市区町村で指定管理制度が導入されている施設数は、2018年4月1日時点で7万6268施設あり、例えば、都道府県では公の施設の約6割で導入されている。民営化については、庁舎の清掃、夜間警備、学校給食、窓口業務などの事業で民営化が進んでいる。

④  官製ワーキングプアの増加と公共サービスの水準の低下
このような人員削減、非正規化、業務の民営化・外部委託化により、賃金等の労働条件が悪く継続雇用の保障もない「官製ワーキングプア」が増加した。地方自治体で働く職員や委託先労働者は、その地域の住民であり、労働者であると同時に生活者であり納税者である。常勤職員の採用は地域に安定的雇用を生み出し、人材流出を防ぎ、経済循環に資する。しかし、「官製ワーキングプア」を増やしてもそのような効果は期待できない。

また、会計年度任用職員や委託先の労働者が、社会保障の入口とも言える相談業務(生活困窮者自立相談支援員、家庭児童相談員、婦人相談員等)を担当することが増えたが、業務の専門性の高さや責任の重さに全く見合わない労働条件や先の見通しが立たない有期雇用のために離職を余儀なくされる者が多い。その結果、公共サービスの専門性や継続性を維持することが困難な事態が生じている。


8 新型コロナウイルス感染症による社会の危機

  新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、保健所の削減等によって行政機能の劣化が進んでいたことを浮き彫りにした。例えば、全国の保健所数は、1997年の706か所から2016年の480か所に減少し、常勤職員のうち医師数も1173人から728人に、臨床検査技師数も1353人から746人に削減されていた。また、サービス業や飲食業を中心とした休業等に際し、非正規労働者、なかでも、女性の非正規労働者数が顕著に減少するなど、非正規雇用の不安定性、特に、地域において女性が安定的に就労を続けるのが困難になっている社会構造が改めて確認された。

また、感染者数は大都市圏に集中し、パンデミックや大災害の襲来に対し、一極集中が致命的な弱点を抱えていることが顕在化した。


9 地域社会の持続可能性の危機

  このままでは、地方を中心に多くの地域の衰退が進み、地域産業の衰退、就業機会の縮小、不安定就労・低賃金労働の拡大、公共サービスの縮小、財政破綻、地方都市の空洞化等の一連の事象が複合的に生じ、日本社会は持続可能性を失うおそれがあり、地域の再生は喫緊の課題である。

京都大学の広井良典教授らのグループが行った、AIを活用した日本社会の未来に関するシミュレーションでは、このまま都市集中型が進むと、地方が衰退し、格差は拡大し、日本社会の持続可能性が低くなり、2024年頃に、都市集中型と地方分散型の分岐が発生し、以降は両シナリオが再び交わることはなく、後戻りできなくなると予測されている(2021年2月「AIの活用により、ポストコロナの望ましい未来に向けた政策を提言」)。


第3 地域衰退の要因

このような地方を中心とした多くの地域の衰退を止め、地域の活性化へと転換するためには、地域が衰退した要因を直視する必要がある。


地域における人々の生活を支えるのは、労働と社会保障であり、その在り方に密接に関わるのは地域産業や地方自治体の政策等である。


ところが、労働と社会保障については、当連合会が繰り返し指摘してきたとおり、市場中心主義の下における規制緩和と政府活動の見直しを進める政府の構造改革政策により、労働基準が切り下げられ、社会保障が縮減された。そして、大規模店の規制を撤廃するなどの政策により、地方都市に大企業の支社、大型店などが進出して地域で生み出された経済的果実が本社に還流されるなどして地域産業が後退した。平成の大合併によって大きな都市に統合され、大きな都市の周辺部となった地域などで、役場機能の大幅な縮小などによって地域産業の後退や人口減少が加速した。また、地方自治体における人員削減、業務の民営化等が誘導され、コロナ禍で露見したように、地方自治体の公共サービスの水準の低下を招いた。このように、グローバル化の中で構造改革政策を引き続き推進してきたことが地域衰退の大きな要因である。


地域の衰退は、出生数減少という「少子化」によって人口減少がもたらされたことに起因するとの指摘がある。確かに、地域の持続性を損なうほどの「少子化」は放置できない問題であるが、「少子化」の要因や2008年をピークに人口減少局面に入った理由こそが重要である。若者にとって、結婚や出産がリスクのある選択になっているのは、労働規制の緩和により不安定就労・低賃金労働が大都市部でも地方でも広がって若者の貧困化が進み、高額な学費、奨学金債務の負担、子育てにかかる費用が大きいにもかかわらず子育て支援も乏しいこと、性別役割分担などにより女性が構造的に不利な状況に置かれていることなどが要因となっている。こうした労働や社会保障の在り方が地域の衰退をもたらしていることが看過されてはならない。そもそも、町村などの地域の方が出生率は高く、地域の人口減少は、大都市への人口集中などといった日本全体の経済構造の変化が大きく起因している点も考慮に入れる必要がある。



第4 地域における生存権保障と地方自治の重要性

地方自治体の運営等に関する国の動向を見ると、地方消滅論が社会的な注目を集めてから、2015年には、地方自治体等の公共サービスの産業化の推進、民間委託等の推進、公共サービスに関わる業務の簡素化・標準化の推進などを内容とする「経済財政運営と改革の基本方針2015」が閣議決定された。それに続き「本格的な人口減少社会に初めて正面から取り組む国土計画」を謳い文句に、第二次国土形成計画(全国計画)が閣議決定され、「『コンパクト』にまとまり、『ネットワーク』でつながる」という基本構想の下、都市部では「コンパクトシティ」とそれをつなぐ「連携中枢都市圏」の形成、中山間地域における「小さな拠点」の形成、グローバル競争に勝ち残るための成長戦略の一環として三大都市圏を結合した「スーパーメガリージョン」(超広域経済圏)の形成等の内容が盛り込まれた。また、総務大臣主催による「自治体戦略2040構想研究会」が2018年に報告書を公表し、市町村の行政のフルセット主義から脱却し圏域単位で行政を進める法律上の枠組設定、都道府県・市町村の二層制を柔軟化、従来の半分の職員でも機能を発揮できるようAI等を使いこなすスマート自治体への転換、自治体の役割を「サービス・プロバイダー」から公・共・私が協力し合う場を設定する「プラットフォーム・ビルダー」へ転換することなどを提案した。今後、憲法が保障する地方自治の在り方が大きく歪められ、取り残された地域の住民の生存権が脅かされる危険もある。


グローバル化の中で、国が主導する成長戦略の下では、経済や効率性が優先され、中心部や「小さな拠点」への集約化等により、その周辺部に残された住民の生存権が脅かされるなど、地域に生きる一人ひとりの住民の生活が踏みにじられるおそれがある。国主導の政策によって招来された地域における雇用や社会保障が不安定化している状況を改善し、地域産業と自治体の公共サービスの後退の流れを転換する必要がある。


地域は「人間の生活の場」であり、その地域ごとの生活様式、祭事、景観、自然環境などの基盤があり、人間の生活は、そこにおける衣食住の営み、労働、地域産業等によって成り立っている。また、男性中心の伝統などが地域で暮らす女性、性的少数者、外国人などに対する差別意識や社会的排除を助長・固定化させるということのない、多様性が尊重される地域社会の在り方が求められている。こうした地域における生活の基盤が維持されてこそ、健康で文化的な尊厳ある生存が可能となる。


地域の活性化のためには、住民が、このような内実を持つ地域において、誰もが等しく個人として尊重されて人間らしい労働と生活を維持できることが第一に重要である(憲法第13条、第14条、第25条)。


憲法では、人権保障と民主主義を実現するべく、地域の住民が地方政治に参画して地域のことを自ら決定すること(住民自治)が不可欠であり、そのために地方自治体の自律権を保障(団体自治)している(憲法第92条「地方自治の本旨」)のであるから、住民の参画により、地域の実情に応じた住民のニーズを充たす施策や自治体の在り方を実現し、また、住民生活が向上するよう地域経済の持続的発展を図ることが必要である。



第5 提言

以上を踏まえ、当連合会は、地域の個性の尊重と自主性の発揮により地域を再生し、誰もが等しく個人として尊重され安心して暮らせる社会の実現に向けて(憲法第8章、第13条、第14条、第25条)、国及び地方自治体に対し、次の諸施策の実施を求める。


1 地域における人間らしい労働と生活の確立、地域間格差の解消

(1) 医療は、国の医療費抑制策の下、病院の統廃合や病床数の削減が進められ、国の地域医療構想により、公立・公的病院のうち約3割に相当する424病院が「再編統合の必要性について特に議論が必要」とされてきたが、コロナ禍はこの政策の弱点を露わにし、地域に不可欠な公立病院・公的医療機関(医療法第31条)を維持・増設する必要性を明らかにした。

介護は、介護保険の度重なる法改正によって、特別養護老人ホームへの入所要件が要介護3以上になる等の保険給付の削減と利用者負担の増大が進んできた。このような中で高齢者人口の増加に応じた地域の需要に見合う入所施設や通所施設の整備が十分になされていない状況にある。

また、地方は高齢化率が高いことから、特に介護や障害福祉の分野の仕事は地方において需要の高い分野である。ところが、医療、介護、障害福祉サービスは、報酬が公定されているため賃金が上がらず、企業参入の促進に伴う人件費削減等の労働条件の悪化が進み、他の職業と比較して不安定でかつ低賃金となっている現状があり、人手不足が改善されない。

そこで、住んでいる地域によって医療・介護・障害福祉サービスにアクセスできないことのないよう、①地域医療構想を見直し、地域に不可欠な公立病院・公的医療機関を維持・増設し、②地域の需要に見合う入所・通所介護施設を公的責任で新設・増設するとともに、③医療・介護・障害福祉サービスの担い手不足を解消するため、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービスの事業者報酬を見直して、労働条件を大幅に改善し、地域に安定した雇用を創出すべきである。


(2)  地方では人口が減少し、保育施設や学校の統廃合が進み、教育機会が減少して、子育てがしにくくなるなど、コミュニティの基盤が脆弱となり、若者をはじめ都市部へ移住する者も少なくない。

児童生徒数の減少や施設老朽化を理由とする公立小・中・高等学校の統廃合が相次ぎ、進学後に通うべき学校が地域にない事象も生じている。地域に学校があることは、地域コミュニティを構成し住民アイデンティティを醸成する極めて重要な要素であるし、地域文化の維持発展の基盤でもある。地域に学校がなければ子育て世帯の定着は困難であるし、教職員の雇用や関連業者の経済活動による地域経済への波及効果も言うまでもない。歩いて移動できる日常生活圏内に学校を整備して地域の核とすることを重視し、学校を安易に統廃合することは見直し、2018年度以降5か年計画で進められている学校におけるICT(情報通信技術)環境の整備計画を地域の実情に応じ遂行するなどして、小規模校の維持存続を図る必要がある。また、地方での生活を躊躇させる不安要因は、住居などの生活コスト、買物や交通、仕事、医療・福祉施設の充実、子育てのしやすさなどであることが、各種のアンケートでも明らかになっている。当連合会は、2018年「若者が未来に希望を抱くことができる社会の実現を求める決議」を採択し提言したところであるが、地域においても、雇用の安定をはじめ、住宅、教育、子育てなど、若者への幅広い支援が非常に重要である。

特に地方では、人口減少等により、住宅、商店、小中学校、観光施設などの空き家、空き施設が増加しているので、各地の実践例を参考に、官民連携で、これらを地域活性化の資源として積極的に活用すべきである。例えば、空き家情報の収集・登録、入居希望者への情報提供、改修費用や家賃補助、自治体による借上住宅の提供などの工夫により、若者や女性らが良質な住環境を求めて移住する流れを作ることが可能になる。また、デイサービス施設、学童保育施設、都市と農村の交流施設、空き店舗を活用し住民がワークショップやイベントなどを行うコミュニティ施設、古民家を活用したカフェやレストランなど、住民の福祉、交流、居場所作りなどに活用することができる。

そこで、①役所、保育所や小学校、中学校、高校の統廃合等を見直し、②公営住宅の整備・家賃支援、給食費・未成年者医療費の無償化、起業・就業支援、移住・定住支援等を充実させ、③空き家を活用して、不足する高齢者・障害者・子育て施設、コミュニティ施設などに転用し、若者をはじめ住民が暮らしやすい地域づくりを進めるべきである。


(3)  最低賃金付近の賃金で働く非正規雇用が増加し、最低賃金の地域間の格差が拡大し、地域からの労働力の流出や経済の停滞を招来している。

最低賃金制度については、従来、労働者の生計費が地域によって異なることが地域別最低賃金制度の主要な根拠とされてきた。しかし、地方では公共交通の利用が制限され、自動車の保有・利用を余儀なくされることなどから都市部と地方の間で最低生計費には大きな差がないため、地域別最低賃金を廃止して全国一律の最低賃金制度に移行し、全体の引上げを図るべきである。同時に、最低賃金引上げにより大きな影響を受けることになる中小企業に対しては、充実した支援が必要不可欠であるから、社会保険料の負担軽減等の実効的な中小企業支援策を構築すべきである。

また、国や自治体が、建設工事の発注、公共施設の清掃等の業務委託などの公契約を締結する際に、公契約法・公契約条例により、国や自治体が定めた賃金額より高い賃金をそこで働く労働者に義務付けることにより、労働者に対する適正な賃金の支払いを実現することができ、公共サービスの質の向上、消費の活性化による地域経済の発展という効果も期待できる。

そこで、社会保険料の軽減等の実効的な中小企業支援を図りつつ最低賃金法を改正して全国一律最低賃金制度を実施するとともに、公契約法・公契約条例を制定し、賃金の引上げと賃金の地域間格差の解消を図るべきである。


2 地域経済の好循環サイクルの確立による地域経済の持続的発展

(1)資金の域外流出と地域経済の後退

   地域経済の縮小→雇用縮小→消費力低下→地域経済の縮小という悪循環に陥らないようにするため、地域から漏れ出すお金を減らし、地域に入ったお金を滞留・循環させて、地域内で付加価値を創出し、事業者の利潤、雇用者の可処分所得、税収を創出していく取組が必要である。例えば、東京に本社がある企業の工場や大規模ショッピングモールを地方に誘致すると、雇用が生まれ消費が促進される面があるが、売上の多くは東京の本社に移転され地域には残らない。


(2)地域経済活性化の実践例

   例えば、岡山県の東部の山間部に位置する西粟倉村は、合併をしない決断をし、地域の最大資源である森林に着目し、「百年の森林(もり)構想」を核にした百年の森林事業、再生可能エネルギー事業、地域に人材と仕事を呼び込むローカルベンチャー事業を推進し、また、地域における教育・福祉分野の社会資本の充実を目指した取組にも着手している。再生可能エネルギー事業は、地域主体で、小水力発電と木質バイオマス発電によりエネルギーの地域内循環を図るものであり、このうち小水力発電は、村の税収約1億2000万円に対し1億1000万円もの売電収入を得るまでに発展している。ビジョンとプロジェクトの見える化によって共感を広げ、若者の移住や起業へとつなげ、行政と民間の強みを掛け合わせ、環境・社会・経済のバランスの良い統合的取組による相乗効果の創出を目指した取組を続け、Iターン者の増加に伴い、若者や子どもが着実に増えた。

北海道帯広市では、民間と行政の協働と徹底した議論を経て中小企業振興基本条例が策定され、条例の理念を具体化する実践として、農業を軸にした経済圏である「十勝」地域のネットワークと農業を活かしたビジョン、政策作りが進められ、酪農等の産物の生産だけでなく、チーズ産業等、加工工程を担う産業の振興を重視し、そこで雇用を創出し、付加価値が地域内に循環する取組を、行政、中小企業者、市民の「協働」により進め、地域経済の好循環を生み出している。そこでは、中小企業振興基本条例が、中小企業を支援、育成し、地域経済の持続的発展のためのグランドデザインを描き実践していくための大きな武器となっている。


(3)地域経済の好循環サイクルの確立に向けて

   こうした実践例に見られるように、雇用、原材料・部品、サービス等をできる限り域内で調達するようにし、域内の住民の所得を増やし、その所得が地域内で消費され、域内で再投資されていく割合を増やし、地域経済の好循環サイクルを確立し、地域内の労働者や事業者の生産と生活を維持・拡大して、グローバル経済に大きく左右されない、地域経済の持続的発展を図ることが必要である。
①  そのために、地域経済の状況把握、自然環境や歴史的建造物を含む地域資源の再評価とビジョンの構築、地域における雇用の確保とマッチング、起業の支援等を、行政だけでなく地域の事業者や市民が参画する検討会議を設置して進めるなど「協働」を重視しつつ地域主体で推進すべきである。その際、農林漁業などの第1次産業、小水力発電・木質バイオマスなどの再生可能エネルギー事業、教育・福祉分野の事業の推進など、自然豊かな各地域の個性を活かし、地域内経済循環に加え、国土や自然の保全、食料及びエネルギー自給率の向上等、環境・社会・経済のバランスの良い統合的取組による相乗効果の創出を目指すべきである。
②  中小企業振興基本条例を制定し、条例の理念を具体化する実践により、地域経済の基盤をなす中小企業を積極的に育成、支援すべきである。


3 地方自治体の運営基盤の強化と地方自治の充実

地域の活性化のためには、自治体が、住民のニーズを充たし、地域経済を支え、災害時も含め専門性・自主性を発揮して、住民の意思を反映した質の高い公共サービスを提供する役割を十全に果たすことが重要である。特に、福祉・教育政策等は、社会保険、公的扶助、児童手当などの現金給付のほか、医療・保育・介護・障害者福祉・教育などの対人社会サービス(現物給付)により行われているが、対人社会サービスにより住民のニーズを充たす自治体の役割はとりわけ重要である。全国一律の基準で現金を給付する年金等と異なり、対人社会サービスの需要は高齢化率等の地域の実情に大きく左右されることから、サービスが提供される現場及び現場に近い地域の単位で計画・管理・運営される必要があり、また、複合的なニーズに対応するため、地域に密着した自治体によって、総合的・一体的に計画・実施されることが望ましいからである。そして、ニーズに応じたきめ細かなサービスが提供されることにより、住民の受益感が高まり、自治体への信頼も醸成され、租税負担への同意も促される。

そこで、財政、人員体制など公共サービスを担う自治体の在り方を整備し、住民の多様な意思が反映される地域民主主義の確立や実践により地方自治を充実させることが重要である。


(1)地域のニーズを満たす地方財政

   財政の健全性を確保し、地方財政運営の自主性を高めるため、次の施策を実施すべきである。
①  地方交付税の大幅な増額
国から地方自治体への財源移転において、使途が予め定められた特定補助金である国庫支出金は、一定の行政水準の維持や特定の施策奨励のための政策手段として重要だが、地方財政運営の自主性を高めるためには、地方税に次ぐ主要な一般財源である地方交付税の増額が必要である。また、地方交付税は、どの地域に住む国民にも一定の行政サービスを提供できるようにし(財源確保機能)、地域間の財政力格差を是正する(財源調整機能)「地方の固有財源」であるから、その重要性に照らしても地方交付税は増額されるべきである。そして、近年の地方交付税においては常に財源が不足しているところ、毎年度分として交付すべき普通交付税の総額が引き続き各地方団体について算定した財源不足額の合計額と著しく異なることとなった場合においては、地方行財政制度の改革又は交付税率の変更を行うものと定められており(地方交付税法第6条の3第2項)、ここで本来とるべき方法は交付税率の変更であることに鑑みれば 、交付税率(=国税の一定割合)を引き上げて、国税のうち地方交付税の財源とする割合を高めることにより、その財源の充実を図るべきである。

また、地方交付税は本来「地方の固有財源」であることから、その運用に深く関わる総務省、財務省などと地方自治体の代表が対等な立場で参加し、地方交付税の運用に関する協議・決定を行うシステムを整えるなど、地方自治体の参加を保障することも検討されるべきである。

②  地方税の拡充
地方税は自主財源かつ自治体が自らの裁量で自由に使い道を決定できる一般財源であり、「歳入の自治」を支える最も重要な財源である。

地方税の中軸となる個人住民税の所得割については、利子、配当、株式等譲渡所得は道府県民税として税率5%の分離課税となっていることから、税源調達機能の強化、負担の公平のため、総合課税枠へ組み入れるべきである。

また、自治体は、独自の政策目的のために、超過課税、法定任意税の賦課、法定外税の創設などにより課税自主権を発揮することができる。このうち、産業廃棄物税などの例がある法定外税については、その創設を認める制度はあるものの実際の適用には高いハードルがあるとも指摘されているところであるため、事前協議における総務大臣の同意要件の緩和などの改革を検討すべきである。


(2)人員体制の整備・充実

   ①  国による定員抑制の誘導を止め、恒常的職務に就く職員は常勤職員としての採用を原則とすること
国は、地方交付税の算定に人件費削減の行革努力を反映させるなど、定員管理の適正化の名の下に、自治体職員の人員削減、定員抑制を強力に推し進めてきた。この定員管理の対象となる職員は臨時・非常勤職員以外の常勤職員である(地方自治法第172条第3項参照)。その結果、常勤職員は減少し、その代替として臨時・非常勤職員が増加した。常勤職員は複雑化・多様化する住民ニーズに少ない人数で対応することに疲弊し、臨時・非常勤職員は業務の専門性や責任の重さに比して労働条件があまりにも悪く、また有期雇用という不安定な身分であることに苦慮している。2020年4月、会計年度任用職員制度がスタートし、従前曖昧かつ不統一であった臨時・非常勤職員の任用根拠が明確化されたことは一定の前進であったが、同職員らの労働条件の改善や身分保障はほとんどなされなかったに等しい。

国は、定員管理の適正化を進めれば進めるほど、定員管理の外にいる会計年度任用職員が増えていくことを直視し、常勤職員が疲弊する一方で会計年度任用職員が常勤職員の代替として恒常的かつ専門的な公共サービスを担うことになる事実を正確に把握すべきである。そして、恒常的な職務に就く職員は常勤職員として採用することを原則とし、常勤するほどの業務量がない場合でも任期の定めのない短時間職員として採用するという方針を明確に打ち出すべきである。

②  同一労働同一賃金、均等(均衡)待遇に依拠した労働条件の改善
現在の会計年度任用職員は、常勤職員に比して労働条件があまりにも悪い。常勤職員とほぼ同じ仕事をしている者も多く、多少の違いがあるとしても、その違いを考慮してもなお説明できない不合理な格差がある。2020年4月1日、パートタイム労働者や有期雇用労働者と正社員との均等(均衡)待遇を定めた「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)が施行された。地方公務員にはこの法律の適用はないが、その趣旨は当然に適用されるべきであり、民間労働者と同じく、同一労働同一賃金、均等(均衡)待遇のルールに依拠して、賃金その他の労働条件を改善すべきである。

③  民間委託の見直し
民間委託は、民間事業者の利益や役員報酬の確保のために、公の財政(税金)から現場のサービスの質や働き手の雇用の質・条件の維持向上に充てる経費が削減される傾向もみられる。

こうした点を検証し、公共サービスの質の維持向上、働き手の雇用の質や労働条件の維持向上のため、専門性や継続性が必要な公共サービスは自治体が直営で実施するなど、行き過ぎた民間委託を見直していくことが求められる。


(3)地方自治体の在り方に関し国の審議会等で提起されてきた方針への懸念

   上記第4記載の「自治体戦略2040構想研究会」の2018年報告書は、「都道府県・市町村の二層制を柔軟化」し「圏域」が主体となって、「行政のフルセット主義から脱却し、圏域単位での行政をスタンダードに」するとしている。その後、中心市が近隣市町村を主導するという関係性を前提とした広域連携制度の法制化に向けた検討が進められるなどしている。

しかし、このような制度は、中心市に権限と財源を集中し、市町村の対等・平等を損ない、中心市と周辺市町村との間に格差を生じさせ、周辺部の衰退を助長してしまう可能性があり、地方自治の基礎的単位である市町村の住民自治と団体自治を脅かすおそれがある。

また、上記2018年報告書は、自治体の役割を「サービス・プロバイダー」から公・共・私が協力し合う場を設定する「プラットフォーム・ビルダー」へと「転換」するとしている。

しかし、このような自治体の役割の転換は、地域住民の「共助」の名の下に、住民に対する公共サービスを提供すべき公的責任を後退させるなど、さらなる公共サービスの劣化をもたらすことが強く懸念される。当連合会は、「地域包括ケアシステム」について、その構築に当たっては、「『共助』の名の下に、公的責任で実施すべき施策を後退させ、これを地域住民の互助によって補うことがあってはならない。」との意見を表明している(2014年4月17日付け「『地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案』における介護保険体制に関する意見書」)ところであるが、現在進められている地域包括ケア、地域運営組織、エリアマネジメントなどの「公共私の連携」ないしコミュニティ組織の再編は、自治体(公)の役割を縮小・限定させ、他方で営利企業を肥大化させ、自治会、社会福祉法人、NPO、協同組合などを疲弊させるおそれがある。貧困が拡大するなど地域が疲弊し、多様化した住民のニーズに対応するため、公共私の連携は重要であるが、行政責任を後退させて「共」や「私」に依存するのではなく、行政とコミュニティ組織とが地域の諸問題を解決する車の両輪となる「行政の地域化」の仕組みを構築すべきである。例えば、韓国のソウルでは、自治体職員を地域住民の日常生活圏内に配置し、住民組織と連携して、アウトリーチ活動を行い、生活困窮者支援や新型コロナウイルス感染症対応などの住民支援を行うチャットン(出かける福祉)という取組が行われており参考になる。

本来、自治体の在り方、役割等は、住民の民主的な議論を通じて住民自身によって決定し実現していくべきものである。

そこで、国は、これまでの自治体の合併の推進を止めるとともに、圏域化あるいは中心市主導型の自治体間連携については、これを一方的に押しつけるのではなく、また、「プラットフォーム・ビルダー」への「転換」ではなく、まずは全国市長会及び全国町村会等、実際に公共サービスに携わる者たちの意見を聴取するなどして地方ごとの課題を具体的に把握し、かつ、地方自治体の平等性・自律性を尊重して、その課題を住民自身が民主的過程を通じて自律的に解決できる仕組みを構築するよう取り組んでいくべきである。


(4) 住民の多様な意見の反映により住民自治を実効化するため、社会的弱者・少数者を含む多様な意見を反映できる仕組みを整備すること

   住民自治の実効性を高めるには、政策決定の民主的過程への住民参加を実現し、多様な住民自身の声が反映されることが必要である。

ところが我が国の政治への女性参画は世界水準にほど遠く、女性の意見が反映されづらい状況が続いている。2021年3月に世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数」では、我が国は政治分野で156か国中147位と最低ランクである。女性の政治参画を促進するべく、2018年5月23日には、「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」(以下「候補者男女均等法」という。)が施行されたものの、同法施行後の2019年4月21日に行われた統一地方選挙(294の市議選)でも女性立候補者の割合は17.3%、女性当選者の割合は18.4%にとどまった。2021年6月10日、候補者男女均等法の一部が改正されたが、男女の候補者数の目標については政党等の自主努力を定めるだけで、実効性が伴っていない。クオータ制とは、割当を意味し、一定数の議席を女性に割り当てる議席リザーブ型と候補者の一定割合を女性に割り当てる候補者リスト型があり、既に世界の約3分の2に当たる130か国で様々な形のクオータ制が導入されている(民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)調べ)。日本においても、地方議会に女性議員を増やし、政策決定に女性の声を反映させるため、男女共に育児・介護と議会活動が両立できるような環境を整備しつつ、クオータ制の導入も含めた諸施策を具体的に検討すべきである。

また、地域に生活の本拠を有し、地域社会の構成員として、地域で学び、働き、各種の納税義務を履行し、地域に貢献している外国人が増加している。住民自治という民主主義の理念に照らし、住民を日本国民に限定する理由はなく、国際人権(自由権)規約も、「すべての市民(every citizen)」に選挙権、被選挙権を保障していることから、永住外国人に対し、選挙権及び被選挙権を法律をもって付与する措置を講ずるべきである。

さらに近年、性的指向や性自認に関わらず平等に人権を享有できる社会を構築することの喫緊の必要性が認識されるようになり、パートナーシップ制度を設ける自治体や、性的指向や性自認に起因する差別の解消に向けた条例を制定する自治体が増えている。このような取組は、誰もが暮らしやすい社会の実現にも繋がる。今後も、社会的弱者・少数者が地域住民として平等に人権を保障されるための取組を推進するとともに、その声を政策に反映させるための仕組みの整備に努めるべきである。


第6 弁護士及び弁護士会の取組

当連合会は、地域の再生のためには、そこで生活する人の多様性を尊重し、住民自治と団体自治により、地域から人権保障と民主主義の実現を目指す住民自らの取組が不可欠であるとの認識に立ち、地域の構成員である全国の弁護士会及び弁護士とともに、国主導の政策の問題点の是正を求めつつ、中小企業振興基本条例をはじめ地域活性化を目指す条例制定・都市計画立案、条例等を推進するための協議会への参画、空き家対策・災害対応等の課題解決に向けた法的支援・相談活動、憲法が保障する地方自治制度や地域の諸課題に関する住民学習の場の設定・参加など、住民自治の実践を広げ、市民、市民団体、地方自治体と連携・協働して、率先して地域づくりに取り組み、誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けて全力を尽くす決意である。