日弁連新聞 第553号

「民事裁判手続等IT化研究会報告書」について

昨年12月、公益社団法人商事法務研究会の「民事裁判手続等IT化研究会報告書―民事裁判手続のIT化の実現に向けて―」が取りまとめられた。同報告書の概要を紹介する。


報告書は、オンラインによる訴訟等の提起について、まずは民事訴訟法(以下「法」)132条の10の規則を制定するなどしてオンラインによる申立てを可能とし、国民におけるITの浸透度、本人サポートの充実、さらには新たに作られる事件管理システムの利用環境等の事情を考慮して、国民の司法アクセスが後退しないことを条件として、オンライン申立てを原則義務化することを目指しつつ、その過程において、士業者に限り義務化することを提案している。


訴訟記録については全面的に電子化するとされる。


また、現行法上、弁論準備手続においてウェブ会議等を行うためには、少なくとも一方当事者が裁判所に現実に出頭していることが要求されているが(法170条3項ただし書)、この要件を廃止するとともに、争点整理手続等をより利用しやすくするため「当事者が遠隔の地に居住しているとき」(法170条3項等)という要件を廃止することが提案されている。


さらに、新たに濫用的な訴えを防止するための方策、ITツールを十分に活用して計画的かつ適正迅速に紛争を解決するための特別な訴訟手続、和解に代わる決定の制度(法275条の2)と同様の制度を簡易裁判所の訴訟手続以外の訴訟手続にも導入することなどの検討が提案されている。


今後は法制審議会に諮問がなされ、部会で法改正の議論が開始される。民事裁判のIT化については、今年2月からマイクロソフト社のアプリケーション「Teams(チームズ)」を利用して、主にウェブ会議による争点整理を行うフェーズ1の運用が始まったところである。現在の書証中心の証拠方法を社会の急速なデジタル化を見据えて抜本的に見直すことや、訴訟記録の公開の在り方など検討未了の課題も存在する。実務家として引き続き法制審部会での議論に注意を払っていく必要がある。


(元事務次長 大坪和敏)



所有者不明土地等問題について

法制審議会民法・不動産登記法部会は、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」を取りまとめた。概要を紹介する。


①共有制度の見直し

通常の共有(民法252条以下)における共有物の管理及び解消方法(共有土地を対象とした管理者制度の創設、共有関係の解消を目的とする所在不明共有者等の共有持分の取得制度等)が提案されている。


②財産管理制度の見直し

所有者が不明である場合や所有者が管理していない土地建物の管理命令制度の創設、特定の財産を対象とした管理も可能とする不在者財産管理制度の見直しのほか、相続人が数人ある場合における遺産分割前や相続人のあることが明らかでない場合における、相続財産の保存のための相続財産管理制度の見直し等の検討が提案されている。


③相隣関係の見直し

相隣する土地の合理的な使用を図るために、隣地使用権や越境した枝の切除に関する規律を改め、また、新たに電気・ガス・水道等のライフラインの設置権や接続権を認めるほか、隣地の所有者に対する土地の管理不全を理由とした管理措置請求制度を設けること等が提案されている。


④遺産の管理と遺産分割の見直し

遺産共有における遺産の管理、遺産分割を促進するために、遺産分割に期間制限を設ける方法や具体的相続分を主張できる期間を制限する方法などの検討が提案されている。


⑤土地所有権の放棄

一定の要件の下で土地所有権の放棄を認めることとし、放棄できる場合の実体法上の要件や事前審査手続の在り方等の検討が提案されている。


⑥不動産登記法等の見直し

登記所における他の公的機関からの死亡情報の入手の仕組み、登記名義人が死亡した場合の登記申請の義務付け及び違反の場合の制裁、相続登記申請義務の実効性を確保するための方策、相続等に関する登記手続の簡略化、登記名義人の氏名・名称、住所の情報の更新を図るための仕組み、登記義務者の所在が知れない場合等における登記手続の簡略化等が提案されている。


今後の議論について

所有者不明土地等問題については、2020年中に民事基本法制の見直しを定める対策推進のための工程表が閣議決定されている。部会では今後、この中間試案に関する意見募集の結果を踏まえ、今年夏ごろの要綱案策定に向けた議論が進められる。


(元事務次長 大坪和敏)



多文化共生総合相談
ワンストップセンターへの対応
多文化共生社会の確立に向けて

    新たな外国人労働者受入れ制度の創設に係る改正出入国管理及び難民認定法等が2019年4月1日に施行され、日本に在留する外国人数が増加することが見込まれている。これを踏まえ、政府の「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(2018年12月25日)により全国に開設される多文化共生総合相談ワンストップセンターを中心として、生活者としての外国人に対する支援が強化されることになる。


    日弁連は、2018年の人権擁護大会および2019年の定期総会で宣言を採択し、弁護士会や関係機関と連携の上、外国人への法的サービスの確保・さらなる拡充に取り組むことを表明しており、2019年4月以降、弁護士会に対し、各地における態勢整備に関する要請を行っている。


    具体的には、各地の弁護士会・弁護士会連合会において、多文化共生総合相談ワンストップセンターを中心とした外国人相談窓口と連携し、弁護士による法律相談の態勢を整備することにより、外国人の司法アクセスを充実・強化することが必要である。


    2019年7月17日に開催した各弁護士会との「多文化共生総合相談ワンストップセンター構想に関する全国連絡協議会」では、民事法律扶助や法律援助事業を活用した連携モデルの構築や通訳人の確保が課題であることが確認された。続く8月には日弁連にプロジェクトチームを設置し、出入国在留管理庁との意見交換を実施するなどの活動を行っている。


    全国各地における連携促進や法律相談の実施にご協力をお願いしたい。


    (事務次長 奥 国範)



    裁判員制度10周年記念ムービーを制作・公表しました


    裁判員制度が施行されて10年が経過し、制度の成果とともにさまざまな課題も浮き彫りになってきています。その中で、刑事裁判とはどのようなものか、刑事裁判の基本原則を改めて市民の皆さまに理解していただき、裁判員裁判では市民の常識に基づいた意見が求められているということを実感して積極的に参加したいと思っていただけるような親しみやすい動画を作成しました。


    動画は全3話で構成され、第1話は童話「桃太郎」をモチーフに鬼が被告人という設定で、「鬼=悪いことをする」という先入観を裁判員が少しずつ払拭していく過程を描きました。第2話は童話「赤ずきん」をモチーフに、赤ずきんが被告人という設定にしました。童話の中では悲劇のヒロインである赤ずきんが、共犯者とされる狩人らの証言によって窮地に追い込まれる様子を描きました。そして、第3話では、第2話の裁判に裁判員として参加しているモモタロウが評議室でさまざまな議論をし、刑事裁判のルールへの理解を深めながら、意見を述べる様子を描きました。


    動画は、YouTubeの日弁連公式動画チャンネルにアップされていますので、ぜひ会員の皆さまもご覧いただき、広く拡散してください。一人でも多くの市民の皆さまの目に触れることを期待しています。


    blank NICHIBENREN TV―日弁連公式動画チャンネル


    (刑事調査室嘱託 趙 誠峰)



    ひまわり

    中学生の頃、英語がペラペラになることに憧れていた。しかし、主な勉強方法が中学1年生の時に視聴したテレビの初級者向け英会話講座だったから、その程度で英会話に習熟できるはずもなく、結局そのまま中年になってしまった▼プロレベルを目指す勉強量としては1万時間必要だと聞いたことがある。これも単に時間をかけるだけではなく、集中して3年程度でこなさなければ意味はないだろう。1万時間というのは、どの分野でもプロレベルを確保する最低時間のようで、ギターのような楽器でもプロレベルになるには、1万時間は必要らしい。司法試験の合格レベルに達するには、毎日8時間勉強して3年かかると言われたことがあるが、これも同じ意味に思える▼さて、そのような勉強を経てプロになった後も、そのレベルを維持するには研さんが必要である。特に法律家は、維持だけではなく、新しい法律や事象に対応しなければならず、絶えず勉強をすることが肝要である。弁護士に「継続研修」が必要と言われるゆえんである▼弁護士向け研修はあまたあるが、日弁連総合研修サイトでは、現在430を超えるeラーニングが無償で提供されている。自分のため、市民の信頼を確保するため、ぜひ「継続研修」に活用していただきたい。 

    (M・K)



    「インターネット・通信企業において透明性報告を公表することを求める要望書」を提出

    arrow インターネット・通信企業において透明性報告を公表することを求める要望書


    日弁連は昨年12月19日、「インターネット・通信企業において透明性報告を公表することを求める要望書」を取りまとめ、一般社団法人日本IT団体連盟および一般社団法人新経済連盟に提出した。


    透明性報告とは、行政機関から企業に対する顧客データの提出要求やそれに対する企業の対応の概要を、提出要求を受けた企業が一般市民に対し明らかにするために作成する報告書のことである。


    透明性報告は、グーグル社が2010年に取り組みを始め、いわゆるスノーデン事件により米国家安全保障局(NSA)が大手通信企業から日々の通話記録を全米規模で大量収集していることが明らかになって以降、米国企業を中心に広まった。


    本来、行政機関による市民監視の実態を明らかにするためには、行政機関自身か、その監督機関が関連情報を適切に公表するのが妥当である。しかし、それが期待できない現状では、提供を求められた側の企業が、自主的に関連情報を公表することが重要な意味を持つ。


    国連でも、私企業に対して透明性報告の公表を呼びかける総会決議が2016年に採択された。しかし、日本で透明性報告を公表しているのは、LINE株式会社くらいである。


    要望書は、インターネット・通信企業やポイントカード事業を運営する企業など大量の個人情報を取り扱う企業に対し、個人情報を要求した行政機関の種類(警察・検察など)、要求件数・対象顧客数、要求に応じた件数(令状・捜査関係事項照会などの別)、拒否した件数などを明らかにするよう要望するものである。


    この要望書を一つの契機として透明性報告が広まり、行政機関による市民監視の実態の一端が明らかになっていくことを期待したい。


    (情報問題対策委員会 委員長 二関辰郎)



    日弁連短信

    民事司法制度改革こぼれ話

    菊地執行部における重要課題の一つであった民事司法制度改革は、関係府省庁連絡会議による取りまとめが間近である。日弁連は国際化・IT化に対応する強靭な民事司法の整備とグローバル化に対応できる司法機能の充実を基本的方向性とし、重要課題の実現に向けて関係機関との折衝を重ねてきた。ここでは日弁連が検討を求めている今後の課題のうち重要なものを2つ紹介したい。
     
    まず、消費者被害救済における紛争解決機能の強化である。違法収益の吐き出しなどの損害賠償制度の見直しと2016年10月1日施行のいわゆる消費者裁判手続特例法の見直しなどを内容とする。この点については同法附則に基づく施行3年後の検討に委ねられたが、連絡会議においても係争額が少額な越境消費者紛争の急増を受け、国民生活センター越境消費者センター等の態勢強化およびODR(IT・AI技術を活用した裁判外紛争解決手続)の導入に向けた検討が盛り込まれている。ODRについては、そのニーズと課題を踏まえ、日弁連自らプラットフォームを構築することも検討すべきとも考えられる。
     

    次に裁判所の施設改善、家庭裁判所等の体制整備である。少子高齢化により、当面は成年後見事件などの増加が見込まれるが、それを扱う体制は十分とはいえない。他方で、日本は今後確実に人口減少が見込まれているが、東京一極集中と地方の人口減少により、地域格差は拡大し、将来47都道府県を維持することは難しいともいわれている。超高齢化する東京においてもビジネス中心の都市計画から、バリアフリー化など高齢者に合わせた街づくりが必要とされる(河合雅司『未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること』(講談社現代新書))。その意味するところは、高齢者に配慮した裁判所の施設改善のみならず、人口減少を踏まえた体制見直しの必要性である。
     

    民事訴訟法は1998年の施行から20年以上を経過し、実務運用の停滞傾向がみられる。近時の事件数や争点整理の長期化はその現れともいえる。民事訴訟離れへの危機感が、裁判のIT化や、ODRなどの新たな紛争解決制度への期待につながっているとすれば、弁護士としても民事訴訟手続の現状を深刻に受け止める必要があろう。令和の時代の民事司法制度はここ数年の取り組みにかかっているといっても過言ではない。

    (元事務次長 大坪和敏)



    全国一斉
    生活保護ホットラインを実施

    arrow 2019年12月17日に「全国一斉生活保護ホットライン」を実施します


    例年行っている全国一斉生活保護ホットラインを、2019年も12月17日を中心とした日程で、全国50の弁護士会で実施した。


    相談件数は601件と、前回と同程度であり、「持ち家があるので申請できないと言われた」「借金があるので受給できないと言われた」「3か月に30回以上家庭訪問され『働け、働け』と何度も言われた」「5時間ほど家に居座られ、地元外の就職先の書類にサインするよう求められた」といった、福祉事務所の対応が明らかに違法な事案や違法の可能性が高い事案が相談の1割近くに上るなど、生活保護問題の深刻さも例年と何ら変わらない。


    また、生活保護基準の引き下げの影響もあってか、生活の厳しさや不安を訴える声も多く聞かれた。


    そのほか、地方では自動車の保有について心配する声も多く、「自動車を保有し続けられるのか」との質問や、「通院で必要なのに自動車を処分するよう言われている」「自動車の借用を認めてくれない」などの相談もあった。この自動車保有問題などは、現行法の下でも運用次第で解決できることもある。


    日弁連としては、今後も継続して相談者の声に耳を傾け、個別に解決を図っていくのみならず、日弁連が提案している生活保護法改正要綱案の実現やあるべき運用についての意見表明などを行っていきたい。


    (貧困問題対策本部 委員 長坂貴之)



    日弁連新聞モニターの声

    日弁連新聞では、毎年4月に全弁護士会から合計71人のモニター(任期1年)をご推薦いただき、そのご意見を紙面作りに生かしています。


    昨年は少年法の適用年齢引下げや民事執行法、消費者契約法、独占禁止法など法改正に関する記事に高い関心が寄せられました。特に7月号の「 来週施行!事例で学ぶ改正消費者契約法」は内容が具体的であるなど高評価でした。民事裁判手続のIT化関連の記事も注目を集めました。第21回弁護士業務改革シンポジウムについては大きく紙面を割いて記事を掲載したところ「出席していない分科会の様子を知ることができた」など、好意的なご意見をいただき、第62回人権擁護大会についても「シンポジウムの概要を知ることができた」「現在の人権問題と課題がよく分かった」など、当日参加できなかった会員に有意義な情報提供ができたようです。


    4面の「JFBA PRESS」では、広報室嘱託がタイムリーな情報発信を目指して毎号特集記事を掲載しています。5月号「 国際公務のススメ」、7月号「 草野耕一最高裁判事を訪ねて」は、特に高い評価をいただきました。


    3面は、主にシンポジウム等のイベントを取り上げています。直近に開催されたイベントの中から、日弁連の幅広い取り組みを知っていただくことに重きを置き、新聞全体のバランスを考えながら掲載しています。
    広報室として、今後も会員のニーズにお応えし、分かりやすい紙面作りに努めたいと考えています。


    (広報室嘱託 本多基記)



    新事務次長紹介

    大坪和敏事務次長(東京)が退任し、後任には、2月1日付で藤原靖夫事務次長(東京)が就任した。


    藤原 靖夫(東京・52期)

    日弁連では、委員として若手支援や過疎・偏在対策などに携わるとともに、長らく非常勤嘱託も務めてきました。多様化する会外・会内からのニーズに対応することの難しさも実感していますが、一層誠実に職務に取り組み、会務執行を適切に補佐してまいります。よろしくお願い申し上げます。


    家事法制シンポジウム
    今改めて「親権」について考える
    子の最善の利益の視点から
    12月21日 弁護士会館

    arrow家事法制シンポジウム 今改めて「親権」について考える~子の最善の利益の視点から~


    近時、子の監護者指定、子の引渡し、親権者の決定等の場面における監護権・親権の判断の在り方が改めて問われている。本シンポジウムでは、法的および心理的側面から、改めて「子の最善の利益」の内実を問い直し、司法判断のみならず、当事者間で監護・親権に関する合意を形成する場面等にも焦点を当て議論した。


    第1部では、家事法制委員会の村本耕大委員(札幌)が、弁護士に対して実施した事前アンケートの集計結果を報告して事例を共有し、芝池俊輝事務局次長(東京)が、諸外国における親権制度の概要について基調報告を行った。

    第2部のパネルディスカッションでは、親権者を決める際に大きな判断ポイントになる「子どもの意思」について、小田切紀子教授(東京国際大学)が、子どもの意思は時間の経過、そのときの状況、誰に対して話をしているかにより異なるが、そのどれもが本当の気持ちなのだと説明し、笠松奈津子氏(公益社団法人家庭問題情報センター東京ファミリー相談室)は、子どもの意思を尊重しつつ、親権者の決定は最終的には親か裁判所が判断すべきであり、子どもに責任を負わせてはならないと述べた。


    芝池事務局次長が、日本の裁判所でも外国法が準拠法になる事案で共同親権となる例が既に扱われており、共同親権制度は日本においても不可能ではないと指摘すると、床谷文雄教授(奈良大学)は、共同親権制度について議論を開始すべき時期にきている、子どもが両方の親と繋がる権利をきちんと制度化したいと力を込めた。


    会場からも監護権・親権の判断に関する現在の実務やあるべき姿について質問・意見が多数寄せられた。



    シンポジウム
    カナダとの比較で考える
    難民の認定と受入れ
    12月12日 弁護士会館

    arrow シンポジウム「カナダとの比較で考える~難民の認定と受入れ~」


    日本の難民認定が極めて限定されている現状を踏まえ、長く難民を受け入れているカナダの難民認定実務と比較し、難民の認定と受入れについて考えた。


    両国の難民認定手続き

    高田俊亮会員(第二東京)が日本の難民認定の概要と問題点を指摘した後、カナダ移民難民委員会前議長のピーター・ショウラー氏が基調報告を行い、カナダの難民申請プロセスを紹介した。ショウラー氏は、独立の審判所である移民難民委員会(IRB)の審尋では、代理人の活動範囲が広いこと、IRBが保有する出身国情報が活用されることなどを説明した。また、認定に当たっては、証拠については「蓋然性の優越」の基準、リスク(十分に理由のある恐怖)については「可能性の評価テスト」による2段階の評価システムを用いていることを、クルド難民などの具体的な事案を通じて説明した。さらに、難民認定率が日本(0,19%)とカナダ(62,8%)で大きく異なる理由については、申請者に与えられる主張立証の機会、立証責任や認定基準の違いを検討すべきと示唆した。


    パネルディスカッション

    パネリストにショウラー氏、ヒラリー・エヴァンス・キャメロン氏(ヨーク大学難民研究センター博士研究員)、阿部浩己教授(明治学院大学国際学部)、駒井知会会員(東京)を迎え、安藤由香里招へい准教授(大阪大学国際公共政策研究科)と鈴木雅子会員(東京)の司会により、各論点について日本とカナダの比較を行った。日本の難民認定基準の不透明さや申請者の立証責任の負担などが浮き彫りになる一方、カナダでも具体的な裁判事例を通じて認定実務が大きく改善されたとの説明があり、日本でも世論に訴えつつ難民認定実務を変えていく必要があることが指摘された。



    国際人権活用法連続講座
    ITと国際人権
    12月16日 弁護士会館

    日弁連では、弁護士実務において「国際人権」をどのように活用できるかについて議論するべく講座や研究会を開催している。2019年度連続講座の4回目となる今回は、ITと国際人権をテーマに、実際に生体認証事業等の実務に携わる有識者を招いて新技術がもたらす人権侵害のリスクなどについて議論した。


    日本電気株式会社(NEC)デジタルトラスト推進本部長の野口誠氏が、同社の生体認証関連事業について、最新の生体認証技術や活用事例等を紹介した。顔認証等の生体認証技術は高精度の本人確認を可能にするなど利便性が高く、利用場面も広がっている一方で、プライバシー等の人権に対する配慮が必要になってきている。野口氏は、顔認証に関する世界の動向について説明し、弁護士やアカデミア、消費者団体等の有識者の意見も取り入れるなど、人権リスク低減を図りながら事業展開を行っている同社の取り組みを紹介した。

    情報問題対策委員会の二関辰郎委員長(第二東京)は、委員会で取り扱う3つのテーマ(情報公開・個人情報保護・公文書管理)の概要について説明し、プライバシーの意義や個人情報保護をめぐる法制度、顔認証における問題点を解説した。二関委員長は、高精度監視カメラの前を歩くだけで顔認証データを容易に収集でき、多数の監視カメラの連続的な日時情報や位置情報との組み合わせにより、特定の人の行動や私生活をのぞき見るのと同じようなことができるという問題点を指摘した。


    質疑応答では、人権侵害等のリスクを避けながら利便性の高い先端技術を使用できる方法などについて質問があり、野口氏からは、技術やシステムの提供側が利用場面も考慮して提案することが必要であるなどの回答があった。



    第17回
    高齢者・障害者支援センター等全国情報交換会
    1月7日 弁護士会館

    2018年1月、高齢・障がい等で認知機能が十分でない方を対象に、資力にかかわらず、福祉機関等の支援者からの申し入れで、弁護士等が出張法律相談を行う援助(以下「特定援助」)が法テラスで開始された。特定援助の現状について情報を共有し、利用促進の方策を検討した。


    日弁連高齢者・障害者権利支援センターの常田学委員(高知)は、特定援助の申し入れの3分の1超が地域包括支援センター(以下「地域包括」)から、2割超が地方公共団体からなされていると述べ、福祉の専門家との連携を推進する手段として、特定援助の積極的な活用を呼びかけた。


    利用実績の多い地域について、その理由が報告され、徳田暁委員(神奈川県)は、法テラスや弁護士会が地方公共団体等と顔が見える関係を築き、特定援助の周知を図っているからであると分析した。平井喜一委員(函館)は、2016年に名簿の整備と法テラスによる広報を実施したところ出張相談が急増し、2017年に地域包括との連携を深め、2018年に「高齢者・障がい者権利擁護の集い」を開催するなど、福祉関係者とのコミュニケーションが段階的に増加していたからであると説明した。小谷真由香委員(大阪)は、滋賀では、法テラスの巡回相談を活用していた関係機関の職員が、積極的に特定援助も利用していることが大きな理由の一つであると語った。西尾史恵委員(岡山)は、岡山の法テラスにはスタッフ弁護士がいないが、副所長や事務局長が熱心に説明を行ったことを理由に挙げた。谷口英一委員(徳島)は、香川ではスタッフ弁護士が福祉機関等と顔の見える関係を築いており、直接相談を受けるからであると説いた。


    鏑木信行幹事(第二東京)は、特定援助の利用を促すためには情報や心理上の壁を取り払うべきと主張し、スタッフ弁護士として、連続法律講座を開催して関係を構築したり、広報誌を自主発行したりした経験を語った。



    カジノ解禁実施法に関する意見交換会(第14回)
    12月12日 弁護士会館

    カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)の設置に反対する全国各地の団体等が集まり、現状と今後について意見を交換した。


    消費者問題対策委員会の新里宏二幹事(仙台)は、カジノ誘致の最終判断は住民が行うべきであると述べ、日弁連として住民の各種運動をサポートする必要性について強調した。


    続いて、鳥畑与一教授(静岡大学人文社会科学部経済学科)は、2019年3月に閣議決定されたいわゆる「カジノ解禁実施法」施行令が10万平方メートル以上の客室総面積を要求するなど大都市部が候補地の本命であることが事実上明確になる中、横浜市が新たに立候補し、北海道が断念するなど候補地の動きを概説した。また、横浜市については、一日で複数の観光地を巡る場合に延べ人数として計上される日帰り客数と、宿泊客数とを比較し、日帰り客が全体の約9割と結論付けるなど、根拠資料が正確でないこと、IRで先行するシンガポールでは、日本と比べて外国人観光客が増えていない反面、詐欺横領事件や自己破産免責の件数が急増していること等を指摘した。


    意見交換では、東京都江東区については、都が従前より誘致を検討していたことが判明してきており、今後市民運動を本格化することが述べられた。横浜市については、民間による市民意向調査によると約3分の2の市民が誘致に反対し、約4分の3の市民が住民投票を実施すべきとしているとの報告があった。大阪市については、2025年の大阪万博との関係でスケジュールを早めたいとの意向が強く、2020年が市民運動の正念場になると語られた。長崎県佐世保市については、県議会も市議会もIR推進派が大多数を占めるため、市民運動の盛り上げが肝要であることが主張された。北海道については、投資に見合う効果等を疑問視する声が実は根強く、道議会の意見がまとまらなかったとの報告があった。



    JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.149

    日本でもっと国際仲裁を!
    一般社団法人
    日本国際紛争解決センター(JIDRC)の活動

    国境を越えた取引が当たり前のものとなり、日本企業が国際仲裁の当事者となることが増えています。今回は一般社団法人日本国際紛争解決センター(JIDRC)事務局長の早川吉尚会員(東京)にお話を伺いました。

    (広報室嘱託 木南麻浦)


    そもそも国際仲裁とは

    仲裁は、仲裁人の判断に確定判決と同一の効力が生じるなど、訴訟と非常に類似した手続です。一方で、準拠法・仲裁地・仲裁人・言語を当事者が事案に応じて選択できる、手続や判断が非公開である、一審制で早期解決が図れる、国際的な執行力があるなど、訴訟とは異なる特徴を有しており、国際仲裁は、国際ビジネス紛争の解決手段として広く利用されています。


    JIDRC設立の経緯

    2017年6月に閣議決定されたいわゆる骨太の方針に対応して、同年9月に内閣官房に「国際仲裁の活性化に向けた関係府省連絡会議」が設置され、同年12月に民間団体を中心とした「日本国際仲裁センター(仮称)設立検討協議会」が設置されました。そこでの検討を受けて、2018年2月に設立されたのがJIDRCです。


    JIDRCの活動

    仲裁、ADRのための施設の提供が活動の根幹です。既に2018年5月に大阪の中之島に最先端の施設を開設していますが、この3月にはいよいよ東京の虎ノ門に世界トップレベルの国際仲裁・ADR専用審問施設を開設します。


    そのほか、国際仲裁の普及、啓発や国際仲裁に関わる人材の育成を目的としたセミナー、シンポジウムの開催等にも力を入れています。
     

    日本が仲裁地になる場合は

    日本が仲裁地になるケースとして、日本企業が一方当事者になっている場合と、第三国として選ばれる場合がありますが、いずれも非常に少ないのが実情です。


    特に、日本企業が一方当事者になる国際仲裁が日本で行われていない大きな理由として、日本独特の和解文化があると思います。


    今や中小企業においても海外との取引は普通のことになっており、仲裁合意条項のある契約書も一般的になりました。


    ところが、日本企業は仲裁合意条項の内容を十分検討しないまま海外企業と契約書を交わしてしまい、いざ紛争が起きてから仲裁地が海外であることを知る、ということが起きます。こうなると日本企業は相手の設定した土俵で戦うか、戦うこと自体を諦めざるを得なくなってしまうというわけです。これにより失われたGDPは相当なものでしょう。この状況を改めなくてはいけないと思います。


    虎ノ門の専門施設について

    最新鋭のインテリジェントビル内に大小の審問室、当事者の打合せ室等を備えています。テレビ会議システムはもちろん、同時通訳用ブースや、AIによる速記での議事録作成など各種サービスの利用も可能です。

    中之島の施設ができるまで、日本を仲裁地とする国際仲裁は、一流ホテルの宴会場・会議室を数室借りて行われていました。しかし、仲裁を行うのに適したホテルを仲裁に必要な期間確保することは非常に難しく、仮に予約できたとしても費用がかさみます。

    虎ノ門の施設は大会議室の半日利用で5万円と、一流ホテルはもちろん海外の仲裁施設と比較しても利用しやすい料金設定となっています。


    なお、概ね同等の料金設定の中之島の施設にはアジアと欧米の企業間の仲裁案件について利用問合せが複数寄せられており、虎ノ門も日本企業を一方当事者としない第三国仲裁を行う施設としても注目を集めるのではないかと期待しています。


    国際仲裁は特殊な分野なのでは?

    必ずしも一部の弁護士のみが取り扱う特殊な分野ではありません。


    まず考えられるのは契約書の締結の場面です。どのような仲裁合意条項を盛り込むかが非常に重要であるにもかかわらず、その重要性が十分に理解されているとは言い難いのが実情です。


    また、顧問先企業が突然国際仲裁に巻き込まれるという場合があり得ます。そのときには国際仲裁に精通している弁護士とその企業の顧問弁護士がチームを作り、一丸となって戦うことで良い結果に繋がると思います。


    会員へのメッセージ

    あなたの依頼者が取引先から国際仲裁を申し立てられるかもしれません。


    国際仲裁についての基本的な知識を身に付けるためにも、まずはJIDRCで開催している各種セミナーに参加してください。また、eラーニング研修を準備しており、3月には第1弾の講座を配信できる予定ですので、こちらもぜひ活用していただきたいです。


    *2020年3月12日、JIDRC-Tokyoの開業を記念してセミナーを開催します(共同主催:JIDRC・法務省・日弁連・日本仲裁人協会)。

    詳細は、blank JIDRCのウェブサイトをご覧ください。



    続・ご異見拝聴❼

    湯浅 誠
    日弁連市民会議委員

    今回は、社会活動家で東京大学先端科学技術研究センター特任教授の湯浅誠氏にお話を伺いました。湯浅氏は、1990年代からホームレス支援に従事し、現在はNPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長でもあります。日弁連市民会議では、2009年から委員を務められています。

    (広報室嘱託 白石裕美子)


    市民会議委員として

    貧困・格差問題という視点から日弁連の活動に意見を述べてほしい、と声がかかりました。会議では、一般の方々に日弁連の活動や主張が伝わっているか、市民の目線からはどう見えるか、ということを意識して議論に臨んでいます。

    その意味では、日弁連の情報発信にはまだまだ課題があると思います。私は情報発信の際、常に受け手、しかも6000万人目を意識します。日本の人口が1億2000万人、全体が自分の意見に賛同する人から反対する人まで順に並んでいるとして、ちょうど中間の6000万人目に向けて話をする、そういうイメージです。

    1つの活動を形にするには仲間を作る必要がありますが、社会を動かすには関心がない人にも興味を持ってもらわなければなりません。一般の方々に身近な問題だと感じてもらう工夫が必要だと思います。


    こども食堂の活動について

    貧困問題におけるイノベーションだと思って取り組んでいます。こども食堂は、生きるか死ぬかという厳しい状態ではないけれど生活が困難な層の存在を可視化し、支援を広げたことに大きな意味があります。しかも、こども食堂を運営する側にとっても生きがいの場となっていて、人と人が繋がる社会インフラとなっています。これが1年間で1400か所もこども食堂が増えている原動力なのです。


    日弁連や弁護士、弁護士会に期待すること

    自治組織の存在は重要です。こども食堂も同じですが、国に頼らない民の力は社会を変え得るのです。日弁連は伝統もあり全国組織でもあり、その存在の意味と価値は大きいです。


    ただ、今後も日弁連が自治組織としての自律性を守るためには、今までのように内部で完結するのではなく、これまで以上に、外部の意見や仕組みを取り入れたり、外部組織との連携を強める必要があると思います。外部の人に日弁連の役割や活動の意義を理解してもらうことは、自分たちがその必要性を再検討することにもなります。それによって自律性を守るということを、考えていくべきだと思います。



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    (2019年11月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

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    2 契約類型別 債権法改正に伴う 契約書レビューの実務 滝 琢磨 著 商事法務
    3 契約書作成の実務と書式[第2版] 阿部・井窪・片山法律事務所 編 有斐閣
    4 情状弁護アドバンス 季刊刑事弁護増刊 編 現代人文社
    5 改正相続法と家庭裁判所の実務 片岡 武・管野眞一 著 日本加除出版
    6 携帯実務六法 2019年度版 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編 東京都弁護士協同組合
    7 有斐閣判例六法 Professional 令和2年版 中里 実・長谷部恭男・佐伯仁志・酒巻 匡・大村敦志 編集代表 有斐閣
    8 離婚調停・離婚訴訟[三訂版] 秋武憲一・ 岡健太郎 編著 青林書院
    9 若手法律家のための民事尋問戦略 中村 真 著 学陽書房
    10 東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運用 東京家庭裁判所家事第5部 編著 日本加除出版



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    3 中小企業の事業承継支援の全体像(入門編)連続講座 第1回「事業承継支援の概要」
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    5 中小企業の事業承継支援の全体像(入門編)連続講座 第2回「法務・税務・経営のポイント」
    6 証拠の収集と効果的な提出~損害賠償請求を中心に~
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