日弁連新聞 第550号

第62回
人権擁護大会開催
10月3日・4日 徳島市

10月4日、徳島市において、第62回人権擁護大会を開催した。1000人を超える会員が参加し、「弁護人の援助を受ける権利の確立を求める宣言」、「個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を求める決議」、「えん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議」を採択した。


大会前日には、これらに関連して3つのシンポジウムを開催し、合わせて1500人を超える会員・市民の参加を得た。次回大会は、鹿児島県で開催される。(2面に各シンポジウムの記事)


弁護人の援助を受ける権利の確立を求める宣言

取調べへの立会いが刑事司法を変える

憲法で保障された弁護人の援助を受ける権利を実質的に確立するために、取調べを受ける前に弁護士の助言を受ける機会の保障、逮捕直後からの国選弁護制度の実現、身体拘束制度の改革、起訴前を含む証拠開示制度の拡充と併せて、弁護人を取調べに立ち会わせる権利の確立の実現に向けて全力を挙げて取り組むことを決意するとともに、①国に対し、検察官、検察事務官または司法警察職員は、被疑者または弁護人の申し出を受けたときは、弁護人を取調べおよび弁解の機会に立ち会わせなければならない旨を刑事訴訟法上に明定するよう改正すること、②検事総長および警察庁長官に対し、①の法制化がなされるまでの間、各捜査機関の捜査実務において、被疑者または弁護人が求めたときは、弁護人を取調べおよび弁解の機会に立ち会わせることを求めることを宣言した。


個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を求める決議

大会の様子 国際人権条約には、国際人権条約で保障された権利を侵害された者が、国内において裁判等の救済手続を尽くしてもなお権利が回復されない場合に、人権条約機関に直接救済の申し立てができる手続である個人通報制度が付帯されているが、日本は、批准している国際人権条約に付帯された個人通報制度をいずれも導入していない。また、日本には、居住する者であれば国籍の有無にかかわらず、侵害された人権の回復を求めていくことのできる国内人権機関も設置されていない。このような現状を踏まえ、社会の深刻な問題となっている子どもの人権、女性差別、障がい者差別、外国人の人権およびヘイトスピーチなどの諸問題の解決を大きく前進させるため、国に対し、①個人通報制度を直ちに導入すること、②国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)にのっとった国内人権機関を早急に設置することを求めると決議した。


えん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議

再審開始決定を得た事件の多くでは、再審請求手続またはその準備段階において開示された証拠が再審開始の判断に強い影響を及ぼしている。また、長い年月をかけて再審開始決定を得たとしても、それに対する検察官の不服申立てによって、えん罪被害者の救済が長期化し、深刻な状況となっている。そこで、えん罪被害者を一刻も早く救済するため、国に対し、①再審請求手続における全面的な証拠開示の制度化、②再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止を含む再審法の改正を速やかに行うよう求めることを決議した。また、引き続き再審支援活動を行うとともに、在るべき再審法の改正に向けて、全力を挙げて取り組むとした。


事業活動報告と特別報告

新たな外国人労働者受入れ制度に伴う多文化共生の問題など2018年度下期から2019年度上期までの人権擁護活動について報告した。また、「人権のための行動宣言2019」策定に関する件、第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)に関する件について特別報告を行った。



IBA年次大会
9月22日〜27日 韓国・ソウル

IBA(国際法曹協会)の年次大会が韓国のソウルで開催され、世界中から約5000人が参加した。年次大会の期間中は、人権、公益活動、ビジネス法、弁護士業務等の幅広い分野のセッションと数多くのレセプションが実施され、参加者の研さんや交流が活発に行われた。


菊地裕太郎会長をはじめとする日弁連の代表団は、ドイツ、韓国、ベトナムの弁護士会との間で二者間会合を行い、それぞれが抱える外国人労働者の司法アクセス、懲戒制度、法曹志望者の減少問題等の共通課題について意見を交換した。


9月23日には日弁連のレセプションを開催した。外国弁護士会や国際法曹団体などの代表者等多くのゲストが参加し、終始盛況であった。


9月24日には「アジアにおける死刑制度および刑事司法」をテーマとする朝食会をオーストラリア弁護士連合会と共催した。日本、オーストラリア、米国からのパネリストが各国における死刑制度の現状、世論、弁護士会の政策等について紹介したほか、死刑存廃についての政策論を検討する上での視点や、死刑制度廃止国の国民が米国等の死刑制度存置国において死刑に処せられてしまうケースの人権上の問題について意見交換を行った。死刑制度は国際的にも関心が高いテーマであるためか、ほぼ満席となるほど多数の参加者を得た。


来年の年次大会は、11月1日から6日まで米国のマイアミで開催される。

(国際室長 松井敦子)



非正規滞在者の強制送還に関する人権救済申立事件
法務大臣および出入国在留管理庁長官に対し警告

日弁連は9月24日、計12人からの人権救済申立てについて、非正規滞在者の裁判を受ける権利を侵害する強制送還や、家族に対する恣意的な干渉の禁止に違反する態様での強制送還をしないよう警告した。


本件は、2014年12月、チャーター機でベトナムとスリランカに強制送還された非正規滞在者32人中29人の難民申請者のうち、26人が難民不認定に対する異議申立ての棄却決定を告知され、難民不認定処分の取消訴訟を提起できる旨の教示を受けた直後に身体を拘束され、同処分について裁判所で争う機会を与えられずに翌日強制送還された事案である。


被送還者である申立人の中には、弁護士に連絡することをいったんは許されたものの、約30分のうちに連絡がつかないと連絡を遮断された者や、送還前に家族と連絡を取ることさえ許されなかった者もいた。


難民不認定に対する異議申立ての棄却決定の告知直後にチャーター機により強制送還したことは、憲法32条の裁判を受ける権利を侵害し、送還前に家族に連絡を取ることを認めなかったことは、家族に対する恣意的な干渉を禁ずる自由権規約17条に違反するものである。


国は、多くの外国人労働者を受け入れ、国際化と多文化共生社会を目指す姿勢を示している。しかしその一方で、さまざまな事情で生じている非正規滞在者の長期収容の問題や、チャーター機により強制送還する者の選定基準の不透明さ、送還プロセスにおける人権侵害の問題など課題は多い。

(人権擁護委員会 委員 滑川和也)



民事裁判手続のIT化における本人サポートに関する基本方針を決定

日弁連は9月12日の理事会において、「民事裁判手続のIT化における本人サポートに関する基本方針」を決定した。


民事裁判手続のIT化、とりわけ裁判申立てのオンライン化の導入については、当事者の裁判を受ける権利を阻害することがないよう国などにより十分な対応が講じられることが不可欠である。


基本方針は、①本人訴訟でIT技術の利用が困難な当事者本人に対して、裁判を受ける権利を実質的に保障して必要な法律サービスを提供することを可能とするため、日弁連がIT面についても必要なサポートを提供すること、②そのサポートの内容は、裁判所・法テラス等の公的機関によるサポート体制の充実度との調整を図り、また各弁護士会の実情に応じて人的・物的体制等も含めて、IT化の実施時までに具体的に検討を進めること、さらに対外的に③国に十全なサポート体制の構築や支援を求めるとともに、最高裁、法務省、法テラス等の関係機関と緊密に連携協議していくことを方針としている。


基本方針では、弁護士、弁護士会が具体的にどのようなサポートをするかは決定していない。今後、民訴法改正の議論においてIT化の方向性が明らかになり次第、改めて具体的な支援内容を検討することになる。


なお、日本司法書士会連合会も、9月17日、「民事裁判手続のIT化における本人訴訟の支援に関する声明」を公表している。

(事務次長 大坪和敏)



人権擁護大会シンポジウム
10月3日 徳島市

第1分科会
取調べ立会いが刑事司法を変える
弁護人の援助を受ける権利の確立を

公判前整理手続、被疑者国選弁護制度、裁判員制度、一部の対象事件における取調べの可視化など、日本の刑事手続は近年大きな変革を遂げた。しかし、供述調書に過度に依存した捜査・公判、人質司法と呼ばれる身体拘束制度・運用は、いまだに日本の刑事手続の根幹であり続けている。本分科会では、憲法が保障する弁護人の援助を受ける権利を実質的なものとするため議論した。


取調べの現場で起きていること

自らの取調べ体験を語るえん罪被害者えん罪被害者であるSUN―DYU氏(大阪コンビニ窃盗事件)、川畑幸夫氏(志布志事件)が、厳しい取調べの実体験を語った。SUN―DYU氏は、「おまえがやった」と言われ続けると徐々に自分自身の記憶を疑うようになり、そのような中で黙秘を貫くことは想像以上につらかったと語った。続いて、村木厚子氏(郵便不正事件)および青木惠子氏(東住吉事件)のビデオメッセージの紹介、本年7月に発生した愛媛誤認逮捕事件の被害者代理人である安藤陽介会員(愛媛)による事例報告があった。


その後、神谷慎一会員(岐阜県)、飛田桂会員(神奈川県)、城水信成会員(大阪)が、在宅被疑者の取調べへの立会い、勾留中の被疑者の犯行再現への立会いの経験をそれぞれ語り、弁護人が隣にいたことが勇気や安心感に繋がったなどの依頼者の感想を紹介した。


諸外国では実現している弁護人立会権

EU調査報告では、半田望会員(佐賀県)、出口聡一郎会員(佐賀県)、髙見健次郎会員(金沢)が、弁護人の取調べへの立会いが行われているベルギー、オランダ、フランス、ドイツの弁護人立会権の具体的な内容について報告した。


柳光玉氏(大韓弁護士協会人権委員会幹事)は、韓国で弁護人立会権が法制化され、現実に多くの事件で弁護人が取調べに立ち会うようになった経過を説明し、刑事弁護のエキスパートとして活躍する2人の弁護士、検事のほか、弁護人立会いのもとで取調べを受けた経験のある男性のインタビューを紹介した。


日本でも弁護人立会権の実現を

パネルディスカッションでは、葛野尋之教授(一橋大学大学院法学研究科)、青木理氏(ジャーナリスト)、坂根真也会員(東京)および稲田知江子会員(高知)が、日本の刑事司法の現状と課題、諸外国の状況との比較、弁護人立会権の理論的根拠、立会いが実現した場合に予想される捜査の在り方の変化、考えられる制度設計などについて、それぞれの立場から発言し、活発な議論を行った。



第2分科会
今こそ、国際水準の人権保障システムを日本に!
個人通報制度と国内人権機関の実現を目指して

国際人権条約、世界の現状、日本における人権諸課題を確認し、日本の人権保障システムを国際水準とするために、個人通報制度(※1)と国内人権機関(※2)の導入について検討した。


国際人権条約と個人通報制度・国内人権機関

朗読劇の様子冒頭で個人通報制度と国内人権機関(以下あわせて「両制度」)が日本に存在した場合の人権保障を題材とする朗読劇が実演された。

申惠丰教授(青山学院大学)は基調講演で、裁判所に国際人権条約の規定や解釈への注意を促す個人通報制度、人権全般の政策勧告・調整機能を果たす国内人権機関の意義を解説した。また、南慎二氏(外務省総合外交政策局人権人道課長)、大橋光典氏(法務省人権擁護局調査救済課長)が各省庁の取り組みについて特別報告を行った。


世界の現状と日本における人権諸課題

曺永鮮氏(韓国国家人権委員会前事務総長)が特別講演を行い、毎年1万件の陳情があり、勧告受容率は90%に達することなど、韓国国家人権委員会の現状を説明し、予算、人事、組織の独立性確保が課題であると述べた。


また、元最高裁判事の泉徳治会員(東京)はビデオレターで、国際人権条約を国内で実現するために両制度が重要と語った。


続いて海外調査報告、尾上浩二氏(DPI日本会議副議長)が障がい者問題、柚木康子氏(女性差別撤廃条約実現アクション共同代表)が女性差別問題、野村武司会員(埼玉)が学校いじめ問題、田中喜美子氏(牛久入管収容所問題を考える会代表)が入管難民問題、師岡康子会員(東京)らがヘイトスピーチ問題について語るなど、人権諸課題の実情報告が行われた。


人権が守られる国、日本をめざして

表題のパネルディスカッションに加わった元国連女性差別撤廃委員会委員長の林陽子会員(第二東京)は、個人通報では国が相手方となるので、人権条約機関からは、申立人個人に対する措置だけでなく、国に対する法改正等の措置も勧告され、これらの措置を実現するためにも国内人権機関が必要とし、両制度の意義を訴えた。藤原精吾会員(兵庫県)は、人権諸課題の問題解決のためにも両制度の必要性を共通の認識としていきたいなどと総括した。



  • ※1 個人通報制度
    国内で裁判などの救済手続を尽くしても権利が回復されない場合に、個人が人権条約機関に直接救済の申し立てができる手続。
  • ※2 国内人権機関
    当該国の居住者であれば国籍にかかわらず侵害された人権の回復を求めることができる、政府から独立した国家機関。


第3分科会
えん罪被害救済へ向けて
今こそ再審法の改正を

えん罪は、国家による最大の人権侵害の一つであり、再審はえん罪被害救済の最終手段といえる。本分科会では、えん罪事件に取り組む弁護士のほか、えん罪被害者や有識者を交え、再審における証拠開示制度の新設と検察官不服申立ての禁止を柱とする再審法(刑訴法第4編再審)改正の必要性について議論した。


現行法の問題点〜再審法改正の必要性

塚越豊会員(東京)は基調報告で、再審事件の歴史的経過を振り返り、検察官や裁判官により証拠開示への対応が統一されていないこと(いわゆる再審格差)、再審開始決定に対する検察官の不服申立てにより最終決定までに長期間要することなど、再審制度の問題点を指摘した。その上で、現行刑訴法には再審に関する規定が19条しかなく改正されるべき点は多いが、中でも、検察官の証拠開示義務に関する規定の整備、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止が喫緊の課題であると整理した。


司法の外から見た刑事裁判

江川紹子氏(ジャーナリスト)と周防正行氏(映画監督)が対談を行い、刑事裁判について感じた違和感やえん罪事件に対する思いを語った。江川氏は、えん罪救済までに時間がかかりすぎる点を問題視した。周防氏は、再審請求人が置かれた状況から一刻も早く救済するためにもルール作りが必要であると述べた。


えん罪被害とその闘い

えん罪被害者はそれぞれの体験や思いなどを語ったトークセッションでは、捜査機関の証拠開示に関連し、布川事件の櫻井昌司氏が捜査機関の証拠隠しの実態を語った。東住吉事件の青木惠子氏は、再審開始決定後に検察官の抗告により刑の執行停止が取り消され、天国から地獄に落ちた思いがしたと振り返った。最終的な判断までに長期間要することについて、湖東事件の西山美香氏や足利事件の菅家利和氏が当時の思いなどを語ったほか、袴田事件の袴田巖氏の姉であるひで子氏は、家族は一家心中まで考え、人目につかない夜にしか外出できない日々が続いたと語った。


再審法改正に向けて

パネルディスカッションで元裁判官の安原浩会員(兵庫県)は、再審格差をなくすためには証拠開示に関する法改正が必要だと強調した。元検察官の市川寛会員(第二東京)は、検察官は、現行法に従って不服申立てをする、証拠開示は現行法に規定がないことを理由に拒絶すると語った。


笹倉香奈教授(甲南大学)と斎藤司教授(龍谷大学)は諸外国の例を紹介し、日本における再審法改正の方向性を探った。伊藤孝江参議院議員(公明党)は、議員立法を目指すための超党派の議連結成も考えたいと力を込めた。



消費者庁・消費者委員会10周年記念集会
9月28日 主婦会館プラザエフ

消費者庁、内閣府消費者委員会の創設10周年を記念して集会を開催し、これまでの消費者行政を振り返り、今後の課題を検証した。 (共催:全国消費者行政ウォッチねっと、一般社団法人全国消費者団体連絡会/後援:消費者庁、内閣府消費者委員会、独立行政法人国民生活センター)


冒頭、菊地会長の挨拶に続き、消費者庁等の創設を推進した福田康夫元首相のビデオメッセージが紹介された。福田元首相は、創設当時の理念である国民の立場に立った行政機関として、消費者行政の司令塔としての役割を果たしてほしいと語った。


ウォッチねっと10周年を迎えて

パネルディスカッションの様子第1部では、全国消費者行政ウォッチねっとの活動や消費者行政評価の報告の後、記念対談「消費者行政と消費者団体〜これまでの10年とこれからの10年〜」を行った。及川昭伍氏(元経済企画庁国民生活局長)は、消費者庁ができて消費者の権利を守るための法改正は進んだが、その実効性を確保するための制度や体制の整備が不十分であると指摘した。宇都宮健児会員(東京/ウォッチねっと代表幹事)は、消費者庁の創設は消費者運動の成果だが、その後消費者運動は弱体化しているとの懸念を示し、行政や政治を変える力を持つ消費者運動の必要性を唱えた。


消費者庁・消費者委員会創設
10周年を迎えて

第2部では冒頭、落語家の立川平林氏が落語「笑って楽しく消費生活」で、さまざまな詐欺の手口を分かりやすく紹介した。


パネルディスカッション「消費者庁・消費者委員会の10年と展望」では、松本恒雄氏(独立行政法人国民生活センター理事長)、今井純子氏(NHK解説委員)、加納克利会員(大阪/消費者庁消費者制度課長)、河村真紀子氏(ウォッチねっと副代表幹事)が、消費者庁・消費者委員会の設置により情報発信が増えて消費者問題に対する国民の意識も変わったと評価しつつ、人員や予算、消費者行政の司令塔としての機能などの課題を挙げ、今後も弁護士や消費者団体との連携が重要であることを確認した。



取調べの可視化フォーラム
その自白、本当ですか?
供述心理の分析から虚偽自白の真実に迫る
9月13日 弁護士会館

取調べの録音・録画を義務付ける改正刑事訴訟法が本年6月に施行されたが、その対象事件は、全事件の3%弱にすぎない。本フォーラムでは、放火犯と被告人の同一性が争点となり、被告人の自白の信用性に疑問があるとして放火殺人について無罪となった広島市介護施設事件(以下「本件」)を取り上げて虚偽自白に陥る心理を分析し、全事件における取調べの可視化の実現に向けて、今後の刑事司法の在り方を議論した。当日は135人が参加した。

(共催:東京三弁護士会)


パネルディスカッションの様子第1部では、本件の弁護人を務めた芥川宏会員(広島)による弁護団報告の後、被告人の供述分析鑑定を担当した村山満明教授(大阪経済大学人間科学部)が、本件で採用した供述分析の方法を具体的に説明した。村山教授は、本件では警察官による取調べの大部分の録音・録画がなかったものの、詳細な取調べメモが存在したことから供述過程の検討ができたと語り、供述過程の詳細な検討のためには取調べの可視化が必要であると訴えた。


第2部のパネルディスカッションで、芥川会員は無実にもかかわらず自白をしてしまう理由として、日常から切り離されて誰も支えてくれる人がいない環境に置かれること、自分の話を全く聞いてもらえないこと、無実なのだから裁判になればきっと分かってもらえると考えてしまうことなど、さまざまな要因を挙げた。前田裕司会員(宮崎県)は、現在可視化の対象になっている事件以外でも違法不当な取調べが行われ、えん罪事件が発生しているとして、可視化の対象になる事件が限定されていることは大きな問題であると指摘した。木谷明会員(第二東京/元裁判官)は、録画が逮捕勾留下での取調べに限定されていることについて、任意の取調べは場合によっては何か月も続くこともあり、被疑者にとって過酷な状況だと指摘し、任意の取調べを録画の対象から外したことは大きな間違いであると批判した。



ひまわりほっと法律相談会
中小企業を弁護士が応援します!

本年も、中小企業に関する無料法律相談会とシンポジウムなどを、9月20日を中心に全国一斉で行った。


日弁連は2010年4月、中小企業に対して組織的かつ全国的に法的サービスを提供するため、全国52の弁護士会とともに「ひまわりほっとダイヤル」を開設し、本年8月末までに合計5万1741件の相談を実施した。


また、2008年から全国の弁護士会との共催で、「ひまわりほっと法律相談会―中小企業を弁護士が応援します!―」と題して中小企業に関する全国一斉無料法律相談会と、シンポジウムなどを開催している。この相談会は、中小企業の法的サービスへのアクセスを改善し、さらなる法的ニーズを発掘することを目的として、中小企業庁をはじめとする中小企業支援機関や各地の商工団体等と連携し開催しているものである。


本年も、各地で、卸売業・小売業・製造業・建設業・サービス業など、さまざまな業種の事業者から、債権回収・保全、雇用・労務、契約・取引に関する事項、事業承継、損害賠償など、企業経営に関して多岐にわたる相談がなされた。


また、シンポジウムなども、創業から事業承継まで中小企業が直面するさまざまな問題について、それぞれの弁護士会でテーマを定めて開催された。今年も昨年と同様、働き方改革や民法改正など話題性のあるテーマが多く見られ、これらの問題への弁護士の関わり方について、広く中小企業の理解を得る機会となった。


日弁連は今後も、中小企業分野への弁護士業務の一層の拡充を図るとともに、中小企業関係者の暮らしと権利が守られる社会の実現を目指し、法律相談会やシンポジウムなどを開催していく予定である。

(日弁連中小企業法律支援センター  副本部長 酒井俊皓)



国際分野で活躍するための法律家キャリアセミナー
9月14日 弁護士会館

法務省・外務省の共催、一般財団法人国際法学会・法科大学院協会の後援を得て、10回目となるキャリアセミナーが開催された。国際分野での活躍を目指す若手弁護士や司法修習生、学生などが多数参加した。


午前のセッションでは、板倉由実会員(東京)が在日外国人の人権問題をはじめとする活動に取り組む様子を紹介し、国際労働機関(ILO)駐日事務所の田中竜介氏が国連機関での業務の様子や法律家としての活躍の可能性について説明した。


ランチセッションでは、法律サービス展開本部国際業務推進センターの矢吹公敏センター長(東京)から国際法曹団体が主催する国際会議での人脈づくりとその重要性等について、日弁連国際室からは海外ロースクール推薦留学プログラム等の会員向け支援制度について説明があった。


午後のセッションでは、長沼善太郎氏(外務省国際法局国際裁判対策室長)、近藤亮作会員(東京/外務省経済局国際経済紛争処理室課長補佐)、関善貴氏(法務省訟務局国際裁判支援対策室長)、島田紗綾氏(同室局付)、高柴優貴子教授(西南学院大学法学部国際関係法学科)が、政府や国際機関における国際公法の活用や法律家の活躍について紹介した。


インハウスロイヤーとして国際的な業務を手がけてきた三村まり子会員(第二東京/日本組織内弁護士協会理事)は、自身のキャリアを踏まえてこれからのインハウスロイヤーの活躍について語り、国際交流委員会の佐藤直史副委員長(第二東京)は、国際司法支援の歴史と展望、弁護士の貢献について説明した。最後に、法律サービス展開本部国際業務推進センターの山本晋平事務局長(第二東京)が、国際分野で活躍するために目指すべき道と心構えについて説明し、締めくくった。


セミナー終了後の懇親会では、受講生が講師を囲んで熱心に質問する姿が見られた。


今回のセミナーで実務の実際に触れた受講生が、将来国際分野に羽ばたくことを期待したい。

(国際室嘱託 尾家康介)



第11回
貧困問題に関する全国協議会
9月21日 弁護士会館

各地の貧困問題につき全国的に情報を共有して意見交換を行うため、弁護士会の関連委員会委員等の参加を得て協議会を開催した。


佐藤靖祥会員(仙台)は、「あるべき滞納処分とは」と題する報告の中で、差押禁止債権である児童手当や年金の送金口座を差し押さえるなどの過酷な滞納処分の実態を紹介した上で、弁護士が相談を受けた場合には、考えられる対応方法のうち、職権による換価の猶予か滞納処分の停止の手続をとることが現実的であるケースが多いと説明した。


房安強会員(鳥取県)と猪股正会員(埼玉)は、協議会に先立ち弁護士会に対して行った貧困問題に対する取り組み状況に関するアンケート結果を報告した。


森弘典会員(愛知県)は、日弁連が取りまとめた生活保護法改正要綱案(改訂版)の5本柱(①「生活保障法」への名称変更等による権利性の明確化②水際作戦を不可能にする制度的保障③生活保護基準決定に対する民主的コントロール④生活保護一歩手前の生活困窮層に対する積極的支援⑤ケースワーカーの増員と専門性の確保)の内容を解説した。さらに弁護士会で可能な取り組みとして、自治体の生活保護窓口訪問、福祉職の団体との連携の深化などを挙げた。


続いて舟木浩会員(京都)は、生活困窮者自立支援法に基づく支援事業を行う自治体への弁護士会の関わり方に関するアンケートの結果を報告し、自治体との連携促進をはかるためのチラシの一例を紹介した。


吉田雄大会員(京都)は、生活保護受給者に準ずる程度に生計が困難であるときに民事法律扶助の立替金の償還が猶予・免除される制度(準生活保護猶予・免除制度)の活用状況に大きな地域差がある実情を指摘し、制度を活用する必要性と活用促進に向けた取り組みを訴えた。参加者は事例の共有や日弁連に対する要望など活発に意見交換を行った。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.147

消費者機構日本
消費者被害の防止・被害回復に向けて

近時、消費生活相談件数は高い水準で推移しており、2018年には101万8千件と11年ぶりに100万件を上回り深刻な社会問題となっています。今回は、特定適格消費者団体として消費者問題に取り組む消費者機構日本(以下「COJ」)を訪問し、代表理事の佐々木幸孝会員(東京)と磯辺浩一専務理事にお話を伺いました。

(広報室嘱託 本多基記)


COJ設立の経緯

架空請求に関する相談件数が増加した2003年ごろから消費者被害の深刻化が顕在化し、消費者団体訴訟制度の実現が課題になっていました。しかし、当時日本には消費者団体訴訟制度を担える団体は存在しませんでした。そこで、日本消費者協会、日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会、日本生活協同組合連合会の3団体が弁護士・司法書士等の専門家や学識者、消費者団体関係者に呼び掛けて2004年に設立されました。


COJの会員

佐々木幸孝代表理事(左)と磯辺浩一専務理事 COJは、議決権のある団体正会員8団体(設立時の3団体を含む)、個人正会員122人、および議決権はないものの事案検討、訴訟活動支援等に参加することのできる協力会員62人、賛助会員49団体で組織されています。個人正会員および協力会員のうち25人が弁護士であり、ほかには消費生活相談員、消費者団体関係者などが主なメンバーです(取材日現在)。


差止請求による是正の実現

消費者契約法の改正による適格消費者団体の差止請求制度が2007年6月に施行され、COJは同年8月に第1号の適格消費者団体として認定されました。


COJでは、事業者の不当な勧誘行為、不当な契約条項の使用、誤認表示等の行為に対して差止請求をしてきました。事業者に対して裁判外交渉を申し入れた事例の多くは事業者側で不当条項を削除するなどして是正されていますが、是正されなかった事案5件で訴訟提起しました。差止請求の対象は多業種にわたりますが、各種学校等の教育役務提供、建設業界が比較的多い傾向にあります。とりわけ建設会社等に対する差止請求については、17事業者に対して不当条項の差止請求を裁判外で行い、13事業者が条項削除等の是正をしました。COJが指摘した不当条項の中心は違約金条項に関するもので、事業者の義務(引渡義務、瑕疵担保責任違反等)に関する責任軽減条項も問題になります。


特例法による被害回復実現

2016年10月に消費者裁判手続特例法(以下「特例法」)が施行され、特定適格消費者団体による被害回復請求制度が開始されました。COJは同年12月に第1号の特定適格消費者団体に認定されました。


被害回復関係業務として訴訟外で請求・要請した事案のうち、交渉段階で解決した案件が3件あります。また、特例法を利用した訴訟として、東京医科大学、順天堂大学に対し、募集要項において女性や浪人生に対する不当な得点調整を説明せずに入学試験を実施したことが不法行為に当たるなどとして入学検定料相当額の損害賠償を求める共通義務確認訴訟を提起しています。そのほかにも、情報商材の販売にあたり、確実に儲かる趣旨の文言で勧誘した事業者らに対して代金相当額の損害賠償義務の確認訴訟を提起しています。


COJの果たす役割

これまで差止請求や被害回復請求により事業者の不当行為を是正することで、消費者救済を実現してきました。被害が少額の場合、消費者は手間や費用負担を考え泣き寝入りをするケースがありますが、特例法の活用により対応できる事案もあると思います。


また、COJでは、年間1~2回程度の公開学習会を開催し、消費者、消費生活相談員や消費者団体向けに消費者運動や消費者政策に関する周知を行っています。また、事業者には消費者政策に関する消費者志向経営セミナーを実施し、消費者志向の経営を促進しています。差止請求等の直接的な活動と相まって、消費者被害の未然防止、拡大防止につなげています。


弁護士・弁護士会に対するメッセージ

COJの取り組みは、例えば事業者に対する差止請求をすることにより条項が削除・訂正されるなど成果が見える活動であり、やりがいを感じながら業務に携わることができます。全国には適格消費者団体が21団体(うち特定適格消費者団体は3団体)あります。関心がある弁護士の皆さんには積極的に参加してもらいたいと思います。


また、特例法制定の際には日弁連・弁護士会の支援が大きな力になりました。現行制度では取り扱える事件の範囲が狭いことや、悪質事案への対応が十分にできないこと、さらには財政基盤の強化など解決すべき課題もあります。今後、課題を解決し、よりよい制度を作り上げるために、日弁連・弁護士会の協力を期待しています。




日弁連委員会めぐり102
民事裁判手続等のIT化に関する検討ワーキンググループ

今回の委員会めぐりは、民事裁判手続等のIT化に関する検討ワーキンググループ(以下「WG」)です。斎藤義房座長(東京)、鷹取信哉副座長(東京)、本田正男副座長(神奈川県)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 木南麻浦)


WG設置の経緯や特徴

2017年6月の閣議決定を受けて内閣官房に設置された裁判手続等のIT化検討会が、2018年3月に3つのフェーズに分けて裁判手続等のIT化(以下「IT化」)を実現していくという内容の取りまとめを公表しました。日弁連では当初民事司法改革総合推進本部内の裁判所の基盤整備部会がIT化の問題に対応していましたが、2018年8月に本WGが設置されました。12の母体から推薦された委員と会長指名の委員の合わせて約40人の委員が、将来の民事裁判を今よりもっと利用しやすいものにするという思いで活発に意見交換をしています。ほぼ毎回30人以上の委員が出席しており、出席率の高さも特徴です。


現在の活動内容

左から斎藤座長、鷹取副座長、本田副座長現在、公益社団法人商事法務研究会に設置された民事裁判手続等IT化研究会では、IT化に関する民事訴訟法上の各論点について法制審議会での諮問を視野に入れた議論をしています。WGは研究会に委員として出席している会員のバックアップのほか、関連委員会や各弁護士会への意見照会、最高裁など関係諸団体との協議等を行っています。また、IT化の論点をコンパクトにまとめた「民事裁判手続が変わる−『IT化の準備状況と検討課題』Q&A−」を作成したほか、2020年2月ごろに始まるウェブ会議等を活用した争点整理手続の運用(フェーズ1)に向けた会員向けマニュアルを作成し、日弁連ウェブサイト内会員専用ページに掲載しています。今後eラーニング講座も配信する予定です。


会員へのメッセージ

間もなく始まるフェーズ1では、現行法の下でウェブ会議等の運用を行いますが、準備すれば難しいことではありません。実際に運用して、便利だと分かれば広がっていくと思います。WGでは、デジタルデバイドへどう対応するか、真実発見が妨げられることにならないかなどといった懸念事項をいかに乗り越えるかについても熱心に議論しています。より良い民事裁判は裁判所任せでは実現しません。ぜひフェーズ1の手続を経験していただき、皆さまのご意見をWGにフィードバックしてほしいと思います。



ブックセンターベストセラー

(2019年8月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名・発行元名
1 弁護士職務便覧 令和元年度版 東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会 編 日本加除出版
2 東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運用 東京家庭裁判所家事第5部 編著 日本加除出版
3 我妻・有泉コンメンタール民法[第6版]−総則・物権・債権− 我妻榮・有泉亨・清水誠・田山輝明 著 日本評論社
携帯実務六法 2019年度版 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編 東京都弁護士協同組合
5 別冊ジュリストNo.244 特許判例百選[第5版] 小泉直樹・田村善之 編 有斐閣
6 破産実務の基礎[裁判実務シリーズ11] 永谷典雄・上拂大作 編著 商事法務
7 労働関係法規集 2019年版 労働政策研究・研修機構 編 労働政策研究・研修機構
Before/After 相続法改正 潮見佳男・窪田充見・中込一洋・増田勝久・水野紀子・山田攝子 編著 弘文堂
9 一問一答 新しい相続法 堂薗幹一郎・野口宣大 編著 商事法務
10 陸軍中野学校と沖縄戦 川満 彰 著 吉川弘文館



日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング(刑事編) 2019年7月~9月

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順位 講座名 時間
1 交通事故刑事弁護士費用保険について 22分
2 刑事弁護の基礎(捜査弁護編) 136分
3 裁判員裁判法廷技術研修 152分
4 刑事弁護の基礎(公判弁護編) 132分
5 尋問技術 240分
6 少年事件 172分
7 少年事件の付添人活動に必要な知識と技術 156分
8 【コンパクトシリーズ】公判前整理手続の基本 30分
9 【コンパクトシリーズ】控訴審弁護(刑事)の基本 23分
10 外国人の法律実務~外国人の刑事事件と在留資格 120分

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