日弁連新聞 第549号

第21回
弁護士業務改革シンポジウム
伝統の都から未来を視る
〜新たな弁護士業務の展開〜
9月7日 同志社大学今出川キャンパス

第21回弁護士業務改革シンポジウムを開催し、11分科会に分かれて弁護士業務に関する課題等を議論したほか、国際調停をテーマとしたセミナーを実施した。本稿では、これらのうち4つの分科会とセミナーの模様を報告する。その他の分科会では、法律事務所の事業承継、自動運転と弁護士費用保険、eスポーツ、行政手続における弁護士の関与、事務職員の活用、公金債権管理における弁護士の関与、「おひとりさま」支援がテーマとされた。


第2分科会
やっときた!もうすぐ実現、e裁判。次はAI考えよう。

各地の裁判所で模擬裁判が行われ、電子裁判の実現が目前に迫っている。本分科会では、電子裁判の現状報告と効果的な電子裁判に向けた課題の抽出を行うとともに、AIの現状や弁護士業務における利用について報告し検討した。


裁判のIT化に向けて

模擬e裁判の実演 分科会長を務める内野真一会員(東京)らが裁判のIT化の現状について報告し、IT化に向けた3つのeである①訴状等書面のe提出、②提出された書面等をデータベースに格納し電子的な閲覧に供するe事件管理、③TV会議やWeb会議を用いて期日等を実施するe法廷について説明した。今後は、まず法改正を要しない範囲で取り組むことが可能なフェーズ1(Web会議など)が実施され、その後、法改正は必要となるが本格的なシステム構築等の環境整備を要しないフェーズ2、法改正と環境整備を要するフェーズ3が順次実施されると解説した。


会場では東京都内の法律事務所とインターネット経由で接続して模擬裁判を実演した上で、電子化に対応できない当事者への配慮、システムトラブルやなりすましへの対策なども必要であると警鐘を鳴らした。


AIと弁護士業務

後藤大会員(東京)らが、AIの現状とAIに関する法的課題について説明した。AIの開発者や利用者に対する法的助言のためには、①法的課題の把握とアップデート、②従来のシステム開発とAI開発との違いの把握が必要であると唱えた。また弁護士業務におけるAIの利用例を挙げ、契約書の作成を行うAIや判例を検索するAIなどを紹介した。世界中で文献調査や書類作成などにおけるAIの活用が進んでおり、今後、弁護士業務にAIが活用されるようになると予想した。


第6分科会
「事業承継」その先へ

事業承継は中小企業にとって最大の関心事の一つであり、前回の弁護士業務改革シンポジウムでは他士業・関連団体との連携の重要性を確認した。本分科会では、現状の課題や新たな解決策を共有するとともに、事業承継後のサポートを含めた一体的支援について議論した。


松本宗大会員(第一東京)らは、弁護士業務改革委員会企業コンプライアンス推進PTが作成し、前回のシンポジウムで公表した「事業承継トラブル・チェックシート」の改訂版や、後継者向けに新たに作成したチェックシートについて紹介した。


基調講演では、製造業のグループ化による技術継承や、事業承継後の事業整理などの試みが具体例として紹介された。また、松井拓郎氏(中小企業庁事業環境部財務課長)は、弁護士による相続、M&A、経営者保証に係る対応や他士業・関連団体とのネットワーキング、後継者の新たな挑戦への支援に期待を寄せた。


パネルディスカッションでは、事業承継後に後継者が取り組む経営課題への理解を深めるとともに、そこから遡る形で円滑な事業承継を実現するための支援の在り方等について検討を加えた。竹口尚樹氏(京都信用金庫理事・価値創造本部副本部長兼企業成長推進部長)は、高齢化が進む事業者と面談を繰り返して事業承継に関する課題を洗い出し、弁護士などの専門家と連携して親族間承継や従業員承継をサポートしたり、金融機関同士の垣根を超えオール京都でM&Aに取り組むなど、事業承継の促進に努めていると語った。


第8分科会
真の企業競争力の強化に向けた企業内外の弁護士実務の在り方

本分科会では、戦略的法務と予防的法務の両面において、企業内外の弁護士による日本企業への法務支援の在り方について議論した。


桝口豊氏(経済産業省経済産業政策局競争環境整備室長)は基調講演で、経済産業省が2018年4月に公表した「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」について解説した。企業で求められる法務機能として、企業価値を守る「ガーディアン機能」と、企業価値を最大化する「パートナー機能」があること、社内に有効な法務機能を実装する方法や法務人材の育成・獲得・活用が課題となることなどについて言及した。


パネルディスカッションでは、桝口氏、野島嘉之氏(三菱商事株式会社法務部長)、三村まり子会員(第二東京)が本分科会の表題をテーマに議論した。


野島氏は、海外を含めた自社の法務部門の体制、人材育成方針、外部弁護士との役割分担などに言及した上で、法務の役割は支援とけん制であり、これらは車の両輪であると語った。


三村会員は、社内弁護士として外資系企業で勤務した経験を踏まえ、日本企業では経営陣の意思決定後に法的判断を求められることが多いが、外資系企業では経営陣による意思決定過程に法務が組み込まれており、ビジネスを理解して会社の意思決定を支援し、場合によっては阻止することで法務の役割を果たす必要があると指摘した。


本間正浩会員(東京/日清食品ホールディングス株式会社)は、法務は単にアドバイスをするのではなく、企業の意思決定に影響を与え、結果に対して責任を負うことが求められるなどと総括した。


第10分科会
民事信託の実務的課題と弁護士業務

家族の財産管理および財産承継を目的とする民事信託の利用は、ここ数年で非常に増えている。超高齢社会に突入した日本において老後の備えに有効なツールとして期待されている民事信託の分野で弁護士が果たすべき役割と課題について議論した。


パネルディスカッションの様子佐久間毅教授(同志社大学教授/京都大学名誉教授)が「民事信託における専門家の役割」と題する基調講演を行った。佐久間教授は、民事信託の類型的特徴として、①委託者の真意に基づかない信託が設定されるおそれ、②受託者の不正のおそれ、③受託者の不正への備えの軽視の3点を挙げ、民事信託の適切な運営のための体制構築に専門家が関与する必要があると述べた。その上で信託に関しては決着していない解釈問題が非常に多く、専門家は、信託法の規定と異なる信託行為の定めの効力は不安定であることを前提に民事信託に関与することが重要であると指摘した。

パネルディスカッションでは、日弁連信託センターの伊庭潔センター長(東京)をコーディネーターとして、佐久間教授、田中和明氏(三井住友信託銀行法務部アドバイザー)、同センターの伊東大祐委員(東京)、西片和代副センター長(兵庫県)が、民事信託の限界や信託の設定・変更・終了の各場面における後見人の権限との関係について事例を題材に議論した。そのほか民事信託を普及させるための工夫や受託者による不祥事、民事信託の健全な発展のために必要なことなどについてもそれぞれの立場で意見を述べた。


セミナー
国際調停の最新潮流

日本で行われているADRの多くは「評価型」と言われる司法型ADR(裁判所の調停等)だが、国際的には当事者の自発的な交渉による解決を目指す「交渉促進型ADR」が盛んに行われている。2018年11月に京都国際調停センターが開設された同志社大学で、交渉促進型ADRの理論と実務を紹介するセミナーを開催した。


山田文教授(京都大学大学院法学研究科)が基調講演を行い、日本のADRの課題を指摘した上で、交渉促進型ADRで用いられる交渉理論・技術、交渉促進型ADRの課題などを紹介した。交渉促進型ADRは、当事者双方の利益を模索し、早期に履行率の高い解決ができることに言及し、日本において交渉促進型ADRを普及させる必要性を説いた。


西原和彦会員(大阪)は、交渉促進型調停の手続や調停人の技法について、模擬ケースを用いてオープニング(調停人挨拶)を実演した。また調停の各場面において調停人に求められる交渉技術について具体例を示しながら解説した。


大中有信教授(同志社大学大学院司法研究科長)は、京都国際調停センターの役割、その中でも主に国際調停人の養成やセミナーの開催について、日本の調停の実態や実務家の関心を踏まえた工夫がなされていると評価した。


最後に岡田春夫会員(大阪)が、国際的手法を取り入れたADRの普及・利用促進が、日本のADRの活性化につながると総括した。



キャンプ・シュワブにおける
邦人身体拘束に関する人権救済申立事件
第11管区海上保安本部に対し勧告

日弁連は8月29日、A氏から申し立てられた人権救済申立事件について、相手方である第11管区海上保安本部(以下「相手方」)に対し、アメリカ合衆国軍隊の裁判権に服さない日本人の身体を拘束した米海兵隊から、拘束されている日本人の引き渡しに関する通知を受けた場合は、直ちに身体の引き渡しを受けるよう勧告した。


本件は2016年4月1日、沖縄県名護市の辺野古新基地建設に反対する運動に参加していたA氏が、辺野古崎付近において、正当な理由なく入ることを禁じられた臨時制限区域に不法に侵入したことを理由にアメリカ合衆国海兵隊(以下「海兵隊」)に身体を拘束され、相手方に身体を引き渡されるまで約8時間を要したという事案である。


相手方に引き渡されるまでの間、A氏は濡れたウエットスーツ姿のまま海兵隊キャンプ・シュワブ内の憲兵隊事務所に留め置かれ、日本の弁護士と接見することもできず待ち続けた。


日本人であり合衆国軍隊の裁判権に服さないA氏の場合、日米地位協定についての合意事項にのっとり、日本側の司法機関となる相手方は「直ちに」その身体の引き渡しを受けるべきとされている。


海兵隊から連絡を受けているにもかかわらずA氏の引き渡しを受けるまで約8時間を要したことについて、相手方は、身体の引き渡しを受ける前に情報収集のため捜査を行う必要があった、反対運動参加者の抗議行動による混乱が予想され警備態勢を整える必要があったなどと説明した。しかしいずれの説明も正当な理由とは認められないと判断できるものであった。


相手方の行為は、A氏の身体の自由を奪い、弁護人または弁護人となろうとする者と接見し、助言や援助を受ける権利を侵害するものである。日弁連として、このような人権侵害が今後再び繰り返されることがないよう、適切な対応を求めるため、今回の勧告を行った。


(人権擁護委員会第2部会 副部会長 小塚陽子)



日弁連短信

日弁連の地球温暖化対策

(事務次長 大坪和敏)日弁連では、「環境方針」を定め、日弁連のすべての活動に係る環境への影響を改善するために、①環境問題に関する政策提言および啓発活動、②電力使用量削減の推進、③事務用紙使用量削減の推進、④ゴミの排出量の削減およびリサイクル活動の推進を重点テーマとして環境マネジメント活動に取り組んでいる。

2018年度の電力使用量は2008年度比約20%の削減を達成し、その後も毎月、順調に目標を達成している。日弁連では、膨大な枚数の事務用紙を使用しており、2018年度の使用量は1406万枚であった。1575万枚使用した2017年度比約10%の削減だが、それでも他の団体に比べかなりの使用枚数とのことである。例えば日弁連知的財産センターでは早くから会議資料のペーパーレス化を導入しているが、日弁連でそのような取り組みをしている委員会は少ない。

温室効果ガスの排出削減については、日弁連もたびたび意見書を公表するなどして積極的に活動しているところである。最近では5月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)に関する意見」を公表した。

気候変動に関しては国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)において、世界各国が採るべき対策について協議されており、今年は12月にチリ共和国のサンティアゴで第25回会議が開催される。日弁連からも会員を派遣してオブザーバー参加を予定している。参加の成果が、脱炭素化に向けた効果的な提言などの日弁連の活動に還元されることが期待される。

今年も、佐賀・福岡・長崎を襲った大雨や台風15号など地球温暖化の影響と考えられる気象現象により各地で甚大な被害が発生した。日弁連では、特定非常災害特別措置法に規定する特定非常災害に該当する大規模災害が発生すると、必要に応じて災害対策本部を設置して法律相談などの支援活動を行っている。本部が設置されない場合でも、日弁連は、被災地弁護士会に対して、見舞・照会文書の発信、被災地弁護士会からの要請に基づき被災者からの法律相談に関する研修の講師派遣などをしている。研修に際しては、費用の一部補助もある。大規模災害の発生自体は今後も避けられないことであり、災害発生時の弁護士会、弁護士による支援活動への期待は高くなると考えられる。

地球温暖化対策や災害復興支援は、個々の弁護士の努力では限界があり、日弁連による組織的な活動が不可欠である。今後も会員のご理解とご支援をお願いしたい。

(事務次長 大坪和敏)



司法試験に1502人が合格

9月10日、2019年の司法試験の合格発表があり、1502人が合格した。受験者数は4466人で、昨年から772人減となっている。


単年合格率は3年連続の上昇で33.63%であった。予備試験合格の資格に基づく受験者数は385人、合格者は315人である。


司法試験の合格者数は、2016年以後、1500人台で推移してきたところ、本年は、昨年の合格者数1525人から23人の減少となっている。近年の推移に鑑みれば、2015年に法曹養成制度改革推進会議が決定した「1500人程度」に至ったと考えられ、引き続き傾向を注視していく必要がある。


なお、受験者の平均点は810.44点で、昨年の平均点を約20点上回った。
また、合格者のうち、女性は366人で、全体の24.37%であった。


日弁連では、合格発表に合わせて「令和元年司法試験最終合格発表に関する会長談話」を公表している。



第30回POLA(アジア弁護士会会長会議)
7月31日−8月2日 中国・昆明市

POLAは、毎年1回、アジア太平洋の国と地域の弁護士会や国際法曹団体のトップが一堂に会する会議である。日弁連からは、菊地会長が参加した。


ACLAのWang Junfeng会長(右)と今回の会議がACLA(中華全国律師協会)の主催であり、昆明市が中国の「一帯一路」計画の始点でもあることから、会議の冒頭で一帯一路フォーラムが開催された。

これに続く本会議のテーマは、①法律実務とAI、②国際取引とADR、③法律扶助と公的法サービスの3つで、菊地会長は、日弁連によるリーガルエイド(法律扶助)の取り組みと課題について発表した。日本では、国による補助でカバーされない分野について、日弁連が弁護士からの会費を主な財源としてリーガルエイドに取り組んできたことに対し、参加した弁護士会会長らから強い関心が寄せられた。日本以外の国のリーガルエイドは、弁護士らのボランティアと国の補助によって行われているとのことであった。

法律実務とAIの活用については、中国、マレーシア、シンガポールなどアジア諸国において特に進んでいる。契約書チェックやデューディリジェンスなどは、5年以上の実務経験のある弁護士よりも、AIの方がはるかに正確で早いという調査結果も報告された。アソシエイトやパラリーガルが行う仕事はAIを活用した方が事務所経営の観点からも顧客サービスの観点からも良いと考えられ、今後は、若手弁護士やパラリーガルの仕事がなくなっていくのではないか、その中でいかに若手弁護士を育てるかも問題となるなどの指摘があった。

(国際室嘱託 小野有香)



新事務次長紹介

小町谷育子事務次長(第二東京)が退任し、後任には、10月1日付で佐熊真紀子事務次長(第二東京)が就任した。


佐熊 真紀子(第二東京・51期)

佐熊 真紀子(第二東京・51期)目まぐるしく変化する社会において、弁護士を巡る環境も、弁護士が果たすべき役割も変わりつつあります。弁護士および弁護士会が、社会の信頼を得ながら、時代の要請に的確に応えていけるよう、力を尽くして参ります。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。



シンポジウム
ESG投資において評価されるダイバーシティのあり方
9月6日 弁護士会館

ESG投資とは、機関投資家が環境(E)・社会(S)・企業統治(G)の観点から高く評価される企業に投資することである。ESG投資で重要視されるダイバーシティを中心に検討した。


吉高まり氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社環境戦略アドバイザリー部チーフ環境・社会(ES)ストラテジスト)は基調講演で、海外の投資家は日本企業の一番のリスクをダイバーシティと捉えているため、今後日本企業の最大の関心はダイバーシティに移る可能性があると指摘した。


男女共同参画推進本部の金野志保事務局員(第一東京)は、ダイバーシティの重要性を踏まえ、日弁連が推進している女性弁護士社外役員候補者名簿の提供事業を紹介した。


パネルディスカッションで、吉高氏は、ダイバーシティの推進や情報開示について、いまだに一部門に任せる日本企業が多いが、トップを含め全社的に取り組まなければ世界に通用しないと警鐘を鳴らした。


青井浩氏(株式会社丸井グループ代表取締役社長CEO)は、顧客や社員などすべての人のインクルージョンを店づくりや働き方において進めた結果、業績拡大のみならず、積極的な企業文化の醸成、株価をはじめとする企業価値の向上に結びついたと語った。


小野塚惠美氏(ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社運用本部スチュワードシップ責任推進部長)は、金融機関がダイバーシティを含む「S」に注目するのは、ダイバーシティ推進に取り組む企業は、そうでない企業と比べ株価のパフォーマンスが良い傾向が見られるという調査結果もあり、かつ金融機関の顧客もダイバーシティに高い関心を示しているからであると説明した。


大村恵実会員(東京)は、男女の賃金格差の問題点は、同じ職種の男女が異なる賃金であることよりも、同じ年次の男女が異なるポストや職種に就いていることにあるが、前者の問題と勘違いしている日本企業が多いと指摘した。その上で、ダイバーシティを推進するならば、正しい現状把握が重要であると主張した。



死刑制度に関する勉強会
8月19日 弁護士会館

死刑制度に関する議論を深めるため、笹倉香奈教授(甲南大学法学部)と長野宏美氏(毎日新聞社会部副部長)を講師として勉強会を開催した。テレビ会議による参加者を含む約130人の会員のほか、「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」に所属する国会議員(本人1人、代理3人)が参加した。

 

『アメリカ人のみた日本の死刑』(デイビッド・T・ジョンソン著)の翻訳者でもある笹倉教授は「アメリカにおける死刑制度・アメリカ人のみた日本の死刑制度」と題する講演の中で、アメリカでは、過去の冤罪事件の「発見」や死刑執行の失敗が起こった結果、「死刑は特別である」との前提に立ち、死刑事件の手続は特別なものでなければならないとしてスーパー・デュー・プロセスが保障されていると述べた。スーパー・デュー・プロセスによる慎重な手続はコストの高額化をもたらし、結果的に死刑判決が減り、死刑の衰退につながっていると報告した。また、死刑廃止が実現した州のほとんどでは政治主導による廃止であったことを踏まえ、死刑廃止への「戦略」として、政治家や有権者を説得するための論理の構築や政治的に中立な「死刑廃止の理由」を見いだすことが重要であると示唆した。


長野氏は「取材体験に基づくアメリカの死刑制度について」と題して、2019年5月に州知事が死刑執行停止を宣言したカリフォルニア州の例などを取り上げ、議会や世論との関係や著名人による反対運動の影響などについて講演した。

◇   ◇

(死刑廃止及び刑罰制度改革実現本部

事務局長 小川原優之)



全国消費者問題委員会委員長会議
9月6日 弁護士会館

日弁連消費者問題対策委員会の正副委員長と弁護士会の消費者問題委員会の委員長が一堂に会し、消費者問題に関する最新の重要論点について議論した。

 

特定商取引法の執行強化

日弁連から本年7月19日付意見書に基づき、特定商取引法の執行を担当する自治体職員の研修、執行に関して自治体職員が弁護士に相談できる弁護士アドバイザーの有効性、自治体担当職員の適切な配置のための予算確保の必要性が指摘された。


クレジット
過剰与信規制緩和の検討状況

日弁連から経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会の中間整理の問題点を指摘し、16の弁護士会が規制緩和に反対する内容の意見書等を取りまとめたことが報告された。


カジノ問題

日弁連が最新の動きを報告し、本年3月に発行したパンフレット「カジノ設置に関するQ&A」を活用した運動を呼びかけた。各弁護士会からは、それぞれの活動や取り組みについて報告があった。


「地域で防ごう!消費者被害」の取り組み

高齢者の消費者被害を予防・救済するための見守りネットワークの構築・強化を目的とした連続シンポジウムについて、日弁連は、これまで開催されたシンポジウムやその後の取り組みを紹介し、さらなる開催を呼び掛けた。今後シンポジウムの開催を予定している弁護士会からは準備状況の報告があった。


弁護士会における消費者問題関連委員会の運営

会議の様子日弁連消費者問題対策委員会での議論を弁護士会の消費者問題委員会の活動に生かす方法や、若手弁護士に委員会活動へ参加してもらうための方策などについて、活発な議論がなされた。



子どもの権利委員会夏季合宿
8月27日・28日 弁護士会館

子どもの権利委員会(以下「委員会」)は2日間の夏季合宿を開催し、子どもの権利に関する諸問題を検討するため4つの企画を実施した。
本稿では、第1企画と第4企画について報告する。


第1企画
子どもの権利条約採択30周年記念シンポジウム
子どもの権利〜いまとこれから〜

田沢茂之氏大谷美紀子会員(国連子どもの権利委員会委員/東京)は基調講演で、国連子どもの権利委員会が本年2月1日に発表した総括所見や勧告を日本政府は真摯に受け止め、改善に向けた施策を講じるべきであるとした。その上で、施策を講じるためには、子どもの権利保障を目的とする常設機関の設置が不可欠であると指摘した。
パネルディスカッションでは、田沢茂之氏(NPO法人子どもすこやかサポートネット代表理事兼コーディネーター)、松宮徹郎会員(NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事/東京)、渡辺由美子氏(NPO法人キッズドア理事長)がそれぞれの活動を報告し、体罰・子どもの貧困・意見表明権について議論した。いずれも子どもの権利保障の視点から、関係団体が連携して取り組むべきであることが確認された。


第4企画
子どものための司法面接の在り方を考える

第4企画の様子委員会の木田秋津幹事(東京)は、児童相談所、警察および検察のうち代表者1人が被害者または参考人である子どもの面接を行う協同面接の運用と課題について解説し、多機関連携チームの制度化や訓練を受けた専門家による聴取など、子どもの聴取に伴う二次被害を軽減する取り組みを推進する必要があると説いた。


藤田香織事務局次長(神奈川県)は、全国の児童相談所に実施した司法面接アンケートの集計結果を報告した。


シンポジウムで足立由紀子氏(横浜市こども青少年局こども家庭課児童虐待・DV対策担当係長)は、面接手法を用いさえすれば被害のすべてを話すというわけではなく、子どもに応じた工夫が必要であると述べた。根ケ山裕子会員(名古屋市西部児童相談所主幹/愛知県)は、子どもが安心して話せる人と場所を選ぶことが、子どもの支援や適切な司法手続につながると語り、飛田桂幹事(神奈川県)は、被害者代理人として面接の様子を別室でモニターするバックスタッフを担当した経験から、事案によっては子どもの二次被害軽減のために有益な方法であると説いた。



弁護士に会ってみよう!
夏休み特別企画
8月21日 弁護士会館

将来の進路として弁護士に関心のある高校生や大学生の参加を募り、仕事の内容・活躍の場や生活ぶりなどを若手会員が直接説明し質問を受ける企画を実施した。全3回の企画のうち、今回取材した回には7人の学生が参加した。

 

青野博晃会員(東京)は、ある弁護士の1日を題材に、自身が普段取り扱っている案件の種類や、常に十数件以上の案件に同時並行で対応している弁護士が多いことなどを説明し、弁護士は自ら関心がある分野を掘り下げていくことができる仕事であり、その働き方も多様であると強調した。


山縣史也会員(東京)は、多くの弁護士が受けたことがある質問として「なぜ罪を犯した人の弁護をするのか」との問いを挙げ、推定無罪や適正手続の保障という考え方について自身の担当している刑事事件での体験を交えながら説明した。


「きちんとした法律が整備されていれば法律に当てはめて紛争を解決することは容易ではないか。なぜ弁護士が必要なのか」との質問に対し、市原麻衣会員(東京)は「法律は言葉で書かれたもので解釈をする必要がある。法律に書かれた言葉が持っている意味の幅と具体的に起こった事実関係とを突き合わせてみて、はみ出した部分やずれた部分をどう考えるべきか、依頼者のために解釈を導くのは弁護士の仕事である」と弁護士が紛争解決において果たしている役割を説明した。


その後希望者は、弁護士会館内を見学した。会長室では菊地会長が「弁護士はやりがいのある魅力的な仕事。ぜひ頑張ってチャレンジしてほしい」と参加者に励ましの言葉をかけた。参加した学生からは「法、弁護士という職業に対する理解、興味が深まった」などの感想が寄せられた。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.146

薬物依存者の適切な治療を目指して
―薬物依存症センターの取り組み―

2016年6月、薬物使用等の罪を犯した人に対する刑の一部執行猶予制度が始まり、薬物依存症へのさらなる理解と対応が求められています。依存症対策の中心的役割を担う国立精神・神経医療研究センター(以下「NCNP」)の精神保健研究所薬物依存研究部部長であり、薬物依存症センターのセンター長である松本俊彦氏にお話を伺いました。

(広報室嘱託 柗田由貴)


薬物依存症センター設立の経緯

2009年、NCNPは薬物依存症の専門外来を立ち上げました。その後、患者数が増加し、他の医療機関にない特色を前面に出そうという院内の機運が高まり、2017年9月に薬物依存症センター(以下「センター」)が設立されました。


薬物依存症問題の本質

「弁護士は薬物依存者にとって重要な支援者」と語る松本俊彦氏薬物依存症問題は健康問題です。

この問題の解決策について、途上国を含めて世界は刑罰から治療的な処遇に移行していますが、日本は重い刑罰の対象のままであり、刑事政策の観点からは後進国扱いを受けています。日本の覚せい剤取締法違反は、事件数は横ばいですが、刑務所の再入所者数が増加し、再入所者の平均年齢も上がっています。これは、同じ人が繰り返し刑務所に入っていることを意味しており、問題の解決にあたって、刑罰が功を奏していないことを示唆しています。刑罰の対象とされるだけで薬物依存症の治療が進まないことが、この問題の本質です。


むしろ刑罰が治療の障害に

薬物使用による幻覚妄想が原因で暴れる人が減少し、注射器の回し打ちが減ることでC型肝炎の感染者も減りました。また、C型肝炎やHIVなど薬物使用者に多い病気についても、新薬が登場したり治療法が進歩したりして、病気としての脅威は減少しつつあります。このような中で、薬物使用によって刑罰を受けることは、治療をためらわせたり治療を受けられなかったりする理由となっており、むしろ障害になっているといえます。薬物を規制するのは、国民の健康を守るためですが、刑罰によって医療アクセスが悪くなり、健康を取り戻すことにつながらないのでは本末転倒です。


効果的な薬物対策は?

薬物対策には2つの柱があると言われます。供給を断つサプライ・リダクションと、需要を減らすデマンド・リダクションです。これらは同時に進める必要がありますが、日本は後者が非常に遅れ、先進国の最低レベルで、途上国にも追い越されている状況です。


後者について、2006年にSMARPP(*)を開発し普及に努めています。これは典型的な薬物依存を念頭に置いた集団療法です。特に重症の人と軽症の人はプログラムから離脱しがちで、離脱者については、感染症やメンタルヘルスといった薬物使用による二次的被害を減らしながら、関わりを断たないようにすることが重要です。このような関わりは、最近よく耳にするようになったハーム・リダクション(被害低減)の考え方に近いかもしれません。最も現実的かつ最大のハーム・リダクションは、犯罪行為だからといって治療をためらうことのないよう、安心して相談できる環境を作ることと考えています。


*Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program
(スマープ)


治療を支援する機関

薬物依存者の治療を支援する機関としては、厚生労働省の依存症対策総合支援事業で登録された依存症専門医療機関と依存症治療拠点機関があります。精神保健福祉センターも有用です。SMARPP等の実施機関も信頼できます。特別重症の人にはダルク(民間の薬物依存症リハビリ施設)、軽症の人には自助グループもあります。


うまくいかなくても、こうした支援機関との関係を断つのではなく、新たな関係先を作りながら治療を続けることが肝要です。


弁護士は人生に影響を与える重大な局面で薬物依存者に接するのであり、ぜひ正確で充実した情報をご提供いただきたいです。


センター内外の課題・展望

センターはこれまで医師の診察とSMARPPを中心に対応してきましたが、これだけですべての問題を解決できるわけではありません。トラウマを抱えた女性など、オーダーメイドの治療が必要な人も多数います。ダルクや自助グループとも連携しつつ、オプションを増やし、各人の各問題に沿った形の治療を目指したいです。


また、SMARPP等の実施機関を増やす必要があります。実施機関は随分増えましたが、不十分です。


さらに、医療関係者を含め、薬物依存者に対する偏見を払拭したいです。医師が捜査機関に通報して治療を妨げることは、本来あってはならないと思います。


弁護士に対するメッセージ

弁護士は、薬物依存者にとって重要な支援者であり、私たちにとっては治療スタッフの一員です。弁護士が関わる時期は、薬物依存者が治療を受ける最大の機会ですので、正確な情報提供等にご協力ください。私も、弁護士のニーズを聞き意見書を作成する等尽力します。




日弁連委員会めぐり101
2020年コングレス日本会議対応ワーキンググループ

今回の委員会めぐりは、2020年4月に京都で開催される第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)に向けた活動を行っている2020年コングレス日本会議対応ワーキンググループです。活動内容等について、田邊護座長(山梨県)、山下幸夫副座長(東京)、磯井美葉副座長(第一東京)にお話を伺いました

(広報室嘱託 白石裕美子)


コングレスとは

コングレスは、国連が1955年から5年ごとに開催している犯罪防止および刑事司法分野における最大の国際会議です。コングレス自体は政府代表の会議で、刑事司法に関する政治宣言を採択しますが、NGOも本会議への出席やサイドイベントの開催が可能です。日弁連は、在野法曹のNGOとして、これまでのコングレスにも代表団を派遣し活動してきました。


このコングレスの次回会議が、2020年4月20日〜27日に京都で開催されます。


WGの設置と活動

左から田邊座長、山下副座長、磯井副座長本WGは、2020年の京都コングレスに対応すべく、2016年10月に設置されました。

WGの活動の1つの柱は、京都コングレスで採択される政治宣言に日弁連の意見を反映させることです。このため、2019年4月18日に意見書をとりまとめ、国連に提出しました。

もう1つの重要な活動が、サイドイベントの準備です。コングレス期間中、各国のNGOが数多くのサイドイベントを開催し、さまざまな論点について研究者や実務家を招いたミニシンポ等を行います。日弁連から提案した、被害者の権利、司法アクセス、刑罰改革、刑事司法における弁護士の役割、死刑廃止の5つをテーマにしたサイドイベントが採用されており、加えて法教育のテーマについても準備しています。

さらに、コングレス開催中である2020年4月25日には、日弁連主催で、死刑廃止、弁護士の役割をテーマにした国際シンポジウムの開催を企画しています。


会員へのメッセージ

国際会議に参加すると、日本では当たり前に保障されている権利が、海外では決して当たり前ではないなど、日常業務では実感できない世界の情勢をリアルに体感することができます。しかも、コングレスに参加しているのは各国のトップクラスの研究者や実務家なので、彼らの議論を生で聞くのは大いに刺激になるはずです。コングレスは参加登録料も無料ですし、このような国際会議が日本で開催されるのはめったにない機会なので、国際会議の雰囲気を味わうだけでも貴重な経験になります。ぜひ、2020年の京都コングレスにご参加ください。



ブックセンターベストセラー

(2019年7月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名・発行元名
1 携帯実務六法2019年度版 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編 東京都弁護士協同組合
2 東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運用 東京家庭裁判所家事第5部 編著 日本加除出版
3 Before/After 相続法改正 潮見佳男 他 編著 弘文堂
4 一問一答 新しい相続法 堂薗幹一郎・野口宣大 編著 商事法務
5 弁護士のための遺産相続実務のポイント ―遺産分割・遺言無効・使途不明金ほか遺産分割の付随問題 森 公任・森元みのり 著 日本加除出版
6 民事訴訟等の費用に関する書記官事務の研究 裁判所職員総合研修所 監修 法曹会
7 破産実務の基礎[裁判実務シリーズ11] 永谷典雄・上拂大作 編著 商事法務
8 重要論点 実務 民法(債権関係)改正 鎌田 薫・内田 貴・青山大樹・末廣裕亮・
村上祐亮・篠原孝典 著
商事法務
9 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編) 新装版 婚姻費用養育費問題研究会 編 婚姻費用養育費問題研究会
10 逐条解説 不正競争防止法〔第2版〕 経済産業省知的財産政策室 編 商事法務
民法(相続関係)改正法の概要 潮見佳男 編著 きんざい



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eラーニング人気講座ランキング 2019年6月~8月

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順位 講座名 時間
1 交通事故刑事弁護士費用保険について 22分
2 改正相続法と家裁実務~遺産分割事件を中心として~ 104分
3 早わかり 相続法改正2~遺産分割・遺言・遺留分 46分
4 早わかり 相続法改正1~配偶者保護・特別の寄与 40分
5 離婚事件実務に関する連続講座 第5回 財産分与・年金分割・(税務) 97分
6 中小企業の事業承継支援の全体像(入門編)連続講座 第1回「事業承継支援の概要」 90分
7 中小企業の事業承継支援の全体像(入門編)連続講座 第2回「法務・税務・経営のポイント」 86分
8 重要論点 実務 民法(債権関係)改正2018年度ツアー研修 第1回 カウントダウン!債権法改正① 158分
9 離婚事件実務に関する連続講座 第1回 総論~相談対応・受任から調停(調停における代理人のあり方)審判・人訴・離婚後の手続(氏の変更等) 117分
10 労働問題の実務対応に関する連続講座(2018) 第1回 労働契約の終了を巡る紛争 154分

お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9902)