会長からのご挨拶(2023年7月1日)

会長からのご挨拶

1 オンライン接見に向けて


近年、逮捕・勾留された被告人等を収容するための刑事施設である拘置支所について、各地で廃止や収容業務の停止が相次いでいます。拘置支所の廃止等によって、被告人等の収容場所と弁護人の活動拠点が地理的に隔絶されると、交通移動の負担増等により、接見交通権が大きく制約されます。また、同様に家族や更生を支援する福祉関係者等との面会も制約されると、裁判終了後の被告人等の社会復帰や更生を妨げることにもなりかねません。


日弁連では、これらの問題点を指摘し、拘置支所の廃止等に際しては、必ず事前に当該施設所在地の弁護士会と協議を行い、弁護士会の同意のもとに行うよう求める→ 要望書を、本年2月24日付けで法務大臣宛てに提出しています。


一方で、警察署・拘置所にいる被疑者・被告人と弁護人とがオンラインで接見を行えるようにすることは、当該施設と弁護人の活動拠点が遠く離れている場合のアクセス向上にもつながり、身体拘束を受けた被疑者・被告人が早期に弁護人の援助を受けられるようになります。それにより、被疑者・被告人の黙秘権行使を実現させ、また、事件の対応や早期釈放に向けた相談が迅速に行われるなど、えん罪防止を含む充実した弁護活動につながります。


このオンライン接見を含む刑事手続のIT化については、現在、法制審議会において検討されています。情報通信技術が真に国民の権利利益の保護・実現のために活用されるよう、引き続き関係諸機関とも連携しながら検討を行ってまいります。


2 再審法改正に向けて


また、いわゆる「袴田事件」の第二次再審請求事件について、本年3月13日には、東京高等裁判所において、静岡地方裁判所の再審開始決定を支持して、検察官の即時抗告を棄却する決定がなされ、その後、検察官が特別抗告を断念したことにより再審開始が確定しました。


袴田事件は1966年に発生した事件であり、ここに至るまで実に57年が経過しています。静岡地方裁判所が再審開始決定を行った2014年3月から実際に再審開始が確定するまでにも、9年もの歳月を要する結果となりました。


死刑事件以外でもえん罪被害はこれまでに度々繰り返されています。これらを踏まえると、証拠開示の制度化や検察官不服申立ての禁止などの再審法改正が急務です。


日弁連では、これまでもこの問題に関する取組を継続してきており、直近では本年6月16日の定期総会において、「えん罪被害者の迅速な救済を可能とするため、再審法の速やかな改正を求める決議」を採択しました。今後も、この決議などに基づき、再審法改正に向けた取組を一層進めていく所存です。


そのほかにも重要課題が山積しておりますが、一つひとつの課題に真摯に取り組んでまいる所存ですので、市民の皆様におかれましても、引き続き、ご理解とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。



2023年(令和5年)7月1日
  日本弁護士連合会会長     

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