機能性表示食品による食品事故に関する会長声明


本年3月22日、小林製薬株式会社は、同社が製造販売する「紅麹」の成分を含む機能性表示食品を摂取した方から、腎疾患等が発生したとの報告を受けたとして、紅麹関連製品を自主回収するとの発表をした。その後も、死亡事例を含む被害報告が相次いでなされ、同社は機能性表示食品の撤回届出を提出したとのことである。


現時点で被害の原因は解明されていないものの、複数の死亡及び多数の入院事例が報告される重大な食品事故となっており、消費者庁も本年4月1日付けで機能性表示食品の在り方を検討する対策チームを発足させ、5月末までに機能性表示食品制度の課題を検証し改善に向けた方向性を取りまとめると発表した。


一刻も早い原因究明と、迅速かつ十分な被害救済がなされるべきことは当然であるが、今般の事故により、機能性表示食品制度の様々な問題点も明るみになり、これを機に抜本的な改正をすることは不可欠といえる。


そもそも、同制度は、一定の要件のもと、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要事項を販売前に消費者庁長官に届け出れば機能性を表示できるものであり、機能性に関する事業者の自主的情報開示を基に消費者が商品選択を行うことが前提となる制度である。


当連合会は、このように機能性の表示について事業者の自主性に委ねるのは相当ではないとして、機能性表示食品制度の創設自体に反対してきた(2013年11月22日付け「arrow_blue_1.gifいわゆる健康食品の表示・広告規制の在り方についての意見書」)。その後も、同制度には様々な問題点があることを当連合会では複数回にわたり意見書で指摘してきた(2015年5月9日付け「arrow_blue_1.gif機能性表示食品制度に対する意見書」、2024年1月18日付け「arrow_blue_1.gif機能性表示食品の表示規制や制度の在り方についての意見書」など)。例えば、届出制では事前に不適切な製品を排除できないだけでなく、事後的な機能性表示の禁止や表示資格の取消しをすることもできないこと、安全性・品質を確保する制度が義務付けられていないため安全性・品質の確保の仕組みが不十分であること、事業者に危害情報公表体制の整備や行政に対する報告が義務付けられていないこと、そもそも同制度は食品表示基準の中に定められたものであって、表示と直接に関わりのない義務を明記することには限界があることなど、問題点は多岐に及ぶ。今般の健康被害事例においても被害の公表や行政への報告の遅さ、製品回収の遅さ、行政の事後的監督機能の不十分さが問題視されているが、これらは制度運用当初から当連合会において指摘してきた懸念が現実化したものであり、これらを踏まえた抜本的な改正は必至である。


また、今回の事案にとどまらず、食品事故における原因究明、健康被害や後遺症を発生させた医学的機序及び因果関係の解明には相当の時間が必要であり、最終的に明らかにならない場合もあり得る。このような場合であっても、死亡又は難治性の症状など一定の被害を受けた消費者に対しては早期救済が図られる必要があり、そのため被害者救済制度創設の検討も行うべきである。


そこで、当連合会は、国に対し、機能性表示食品制度の抜本的な改正として、①国の監督機能確保のため、届出制ではなく登録制とし、安全性及び機能性の要件を満たさないことが明らかになった場合には国による登録の取消しが可能な制度とすること、②事業者に対して十分な安全性及び品質確保の体制を整備すること並びに被害情報の公表及び行政に対する報告を義務付けること、③消費者庁による事後的監視監督結果が十分に情報開示されるようにすること、④同制度を食品表示基準の中に位置付けるのではなく、法律に直接の根拠を置くことを改めて求めるとともに、過去にも繰り返されてきた深刻な食品事故を踏まえ、食品事故の被害者救済制度創設を検討することを求める。



2024年(令和6年)4月11日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子