最高裁判所第10回「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」に対する意見書


icon_pdf.gif意見書全文 (PDFファイル;1059KB)

2024年2月16日
日本弁護士連合会

 

本意見書について

2023年7月28日付けで最高裁判所が公表した第10回の「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」に対し、日弁連は、2024年2月16日付けで意見書を取りまとめ、最高裁判所、内閣総理大臣、衆議院法務委員会委員長・理事・委員、参議院法務委員会委員長・理事・委員、法務大臣、検事総長、高等検察庁検事長、地方検察庁検事正、高等裁判所長官、地方裁判所長、家庭裁判所長宛てに提出しました。


本意見書の要旨

1 迅速化法は司法制度全体の基盤整備法であり、裁判の迅速化のみではなくその充実の観点から司法基盤の整備をも求める法律であるが、これまで10回にわたる検証においては、司法基盤整備や制度改革の必要性の観点からの検証が十分になされたとは言い難い。


2 最高裁判所は、第1回から第5回の検証において、裁判の迅速化に係る総合的、客観的かつ多角的検証を行うとして、裁判外の社会的要因をも対象として多角的・実証的な分析を行った。迅速化法の趣旨に則り、客観的で有意義な検証が実施されたものと評価される。


3 第3回ないし第4回の報告書では、裁判所の人的・物的態勢の整備の必要性を最高裁自らが述べていたが、これらは、現在まで、国の政策の策定、実施に当たって十分に活用されるところまで至っておらず迅速化法第3条の趣旨にそぐわない状況となっている。


4 第6回以降の迅速化検証は、手続の運用改善に力点を置いて、第10回まで5回合計10年間に及んだ。この間、検証とそのフィードバックを通じて、民事、刑事、家事のいずれの分野においても手続の運用改善・創意工夫が進み、現場でも様々なプラクティスが見られるようになり、意識付けが進んでいると評価できる。しかしながら、第6回以降の検証で明らかにされた取組、創意工夫が、その当否も含めて法曹三者で十分に意識が共有され、どの事件でも、どの裁判所でも等しく適切かつ十分に理解、活用されているとまでは、評価し難い。また、司法基盤整備や制度改革の必要性の観点からの具体的検証事項が見られなくなっていることは遺憾である。


5 一審民事事件については、統計データでは、近時の新受件数は減少傾向にありながら、審理期間は長期化傾向となっていることが示された。この原因については、報告書の中で、紛争内容の質的な困難化が争点整理期間、全体の審理期間に影響を及ぼしていることがうかがえるとされており、このような質的に困難化している事件に対しては、争点整理手続など既存の手続の運用改善の視点のみならず、専門的知見の取得、証拠収集方法の拡充、証拠偏在案件への方策などを検討する必要がある。


6 刑事事件においては、大量の客観的証拠の整理・検討など既に多大な負担があって手続進行への圧迫要因が生じており、証拠開示請求の現状があたかも長期化要因であるかのような受け止め方が見られたのは不当である。被告人の防御権を保障しつつ更に公判前整理手続の期間、審理期間を短縮するためには、機材等も含めた態勢面の拡充、身体拘束の改善、身体拘束されている被告人の公判対応準備の環境整備が求められる。さらに、全面証拠開示も含め、証拠開示に関する法的・制度的な改正の必要性も検討されるべきである。


7 家庭裁判所の繁忙度が高く負担が増していること、期日間隔が長くなっていることは、検証の結果からもうかがえる。当連合会も、2023年(令和5年)10月6日に開催した人権擁護大会において、家庭裁判所の人的、物的基盤整備を求め、「arrow_blue_1.gif子ども・高齢者・障害者を含む住民の人権保障のために、地域の家庭裁判所の改善と充実を求める決議」を採択した。家庭裁判所に関する検証については、手続の運用改善のみならず、裁判官、書記官はもちろん、家裁調査官、調停委員の人数や繁忙度などにも観点を広げ、子ども・高齢者・障害者を含む住民の人権保障のために、家庭裁判所全体の紛争解決機能の強化、態勢の拡充を図る観点が必要不可欠である。


8 毎回の検証報告書に対する国民の関心、反響は低調と言わざるを得ず、その改善並びに裁判手続の充実に向けた問題意識の喚起・浸透が必要である。


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