精神保健福祉制度の抜本的改革を求める意見書~強制入院廃止に向けた短期工程の提言~

2023年2月16日
日本弁護士連合会

本意見書について

日弁連は、2023年2月16日付けで「精神保健福祉制度の抜本的改革を求める意見書~強制入院廃止に向けた短期工程の提言~」を取りまとめ、同年2月21日付けで厚生労働大臣に提出しました。


本意見書の趣旨

1 精神保健福祉法上の入院制度の改正について

  (1) 精神保健福祉法上の入院要件を次のように厳格化する法改正をすべきである。

   ① 措置入院について、自傷他害のおそれの即時性又は切迫性を要件とし、法益権衡の観点から、他害行為については、軽微な法益の侵害行為を除外すべきである。

   ② 医療保護入院について、重篤な精神疾患があるため援助を尽くしても入院判断について自己決定を行える状態にないこと、入院しなければ、深刻な状態の悪化が起こる高度の蓋然性があり、症状の改善を期待できる適切な治療を受けられないこと、及び、入院より制限的でない他の代替手段が存在しないこと、を充足することを要件とし、家族等の同意という要件を廃止すべきである。

   ③ 任意入院の際に求められる同意は、積極的に入院を拒んでいない状態では足りず、入院者本人の自由意思に基づくものでなければならない旨を明記すべきである。


   (2) 任意入院について、入院者本人の自由意思に基づくべきものであることを法に明記し、退院制限の制度を廃止すべきである。また、閉鎖病棟での処遇及び行動制限(隔離、身体拘束)の禁止を明記すべきである。


   (3) 措置入院及び医療保護入院の入院期間の上限を法定すべきである。



2 適正手続の保障について

  (1)  精神医療審査会について、委員構成の変更、事務局の行政部局からの独立、審査会の審査結果の拘束力等、審査会の独立性及び公正性確保のための抜本的改革を行うべきである。

  (2) 精神科病院(精神科病院以外の病院での精神病室を含む。以下同じ。)の入院者の手続的権利の保障及び精神医療審査会の審査手続について、次のような抜本的改革を行い、その内容を、精神保健福祉法に明記すべきである。

   ① 弁護士に依頼する権利の保障と国費による弁護士費用援助制度の創設

     ア 入院者の退院請求・処遇改善請求(以下まとめて「退院請求等」という。)の手続における弁護士に依頼する権利の保障

     イ 入院者に対する国費による弁護士費用援助制度の創設

     ウ 都道府県知事(措置入院の場合)及び精神科病院管理者(医療保護入院の場合)の入院者に対する上記ア及びイの内容に関する告知義務の規定

     エ 精神科病院管理者の入院者に対する上記ア及びイの内容に関する周知義務の規定

     オ 精神医療審査会の入院者に対する上記ア及びイの内容に関する告知義務の規定

   ② 退院請求等の手続における入院者本人及びその代理人の記録の閲覧謄写権、証拠の提出権、聴聞への出席・関与と聴聞を受ける権利、聴聞への特定の者の出席を要求する権利の保障

   ③ 入院届及び定期病状報告の書類審査を実質化するための措置(現地審査制度、合議体数の増加、定期病状報告の期間短縮等)の導入

   ④ 精神医療審査会の審査結果の理由明記義務の規定

   ⑤ 精神医療審査会の審査結果に対する入院者の不服申立権の保障



3 地域における社会資源の充実を図ることについて
精神障害のある人がインクルーシブな地域社会で平穏な生活を送るために必要な社会資源の在り方について、当事者の参画を踏まえた実態調査及び検証を行うとともに、入院医療に配分されてきた予算や人的資源を地域生活中心の医療と福祉に移行させ、地域における社会資源を質量ともに充実させるべきである。



4 人権侵害の実態等に関する検証・調査について
損なわれた尊厳と被害を回復させるための法制度創設へ向けて、強制入院による人権侵害及び差別偏見の実態について、調査・検証を行うべきである。



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