ヤミ金融対策法の制定を求める意見書

2002年11月22日
日本弁護士連合会


本意見書について

意見の趣意

貸金業登録の有無を問わず、出資法第5条1、2項の金利を大幅に上回るトゴ(10日で5割、年利1825%)等の超高利で貸付を行う金融業者がばっこし、市民への脅威となっていること、また、そこで吸い上げられた巨利が暴力団の新たな資金源となるなど、法無視の異常な事態が発生しているのに対し、警察の摘発が進んでいない現状に鑑み、被害者救済とヤミ金融摘発を進める観点から出資法第5条に違反する貸付の民事無効やヤミ金融業者の広告・勧誘・取立を刑事罰をもって規制をする等の別紙「ヤミ金融対策法要綱」記載の緊急立法を求めるものである。


意見の理由

1. ヤミ金融被害の実態

(1) ヤミ金融の定義


2000年6月1日から出資法の上限金利が年29.2%に引き下げられた。しかし、それにもかかわらず、「10日で5割(トゴ)、10日で8割(トハチ)」という超高金利で貸金業を営む「ヤミ金融」による被害が多発している。


ここで「ヤミ金融」とは、貸金業登録の有無を問わず、またいかなる取引形態を仮装しようとも、出資法の金利規則に違反する高金利で貸金業を営む金融業者すべてを意味する。


(2) ヤミ金融でも貸付の対象が分かれている


ヤミ金融の中でも、中小零細事業者に手形小切手を振り出させ食い物とする業者と、消費者にダイレクトメールや電話で勧誘をし、契約書面を交付しないで3~5万円程度の少額の貸付を行っている業者に分かれている。


さらに、九州を中心に、携帯電話一本で貸付を行う「090」金融と称する貸金融業者の被害が多発している。


ヤミ金融業者の中には、貸金業としての登録を行っている者もある。スポーツ紙等への広告を行うためには、登録が条件となっていることから登録を得ているにすぎず、実質は出資法の上限金利を大幅に上回っている。


(3) 超高金利と暴力的取立


前述のとおり、「トゴ、トハチ」等の超高金利で営業を行っている。


また、手形小切手で不渡を出した場合、または支払を怠った場合には電話等で暴力的・脅迫的取立を行っており、市民の平穏な生活や営業に極めて脅威となっている。


(4) ヤミ金融が暴力団の資金源となっていること


ヤミ金融の全てが暴力団関係者とはいえないとしても、ヤミ金融が暴力団の資金源となっている。暴力団の資金源を断つという意味でもヤミ金融の対策を強める必要がある。警察庁の調べでは、金融事犯の2000年摘発177件の内、暴力団の関与が顕著なもの47件、26.6%、昨年216件の内、60件で27.7%である。実態はそれを相当上回るものと考えられる。


2. どうしてヤミ金融がはびこるのか

(1) 短期の利得


端的に言うと、摘発を受けることなく短期間に大もうけができることにある。


現在、長引く不況で中小零細事業者の経営は極めて逼迫している。特に平成8年7月に成立した「金融機関の経営の健全性確保のための関係法律の整備に関する法律」(通称「健全化法」)により、銀行に対する新しい監督手法が導入されたことにより、一斉に銀行は貸し渋りに走った。そこに、巧みに商工ローン等の高利貸がつけ込んで行き、商工ローントラブルといわれる社会問題が発生した。


商工ローン等の高利に追われた中小零細事業者をターゲットにしているのが、システム金融と称するヤミ金融であり、その経済的困窮につけ込んで、出資法違反の超高利でさらに荒稼ぎをしているのである。それを支えているのが、金融機関を利用した手形小切手交換のシステムである。


他方、消費者相手のヤミ金融は、利息制限法違反の高利に追われ支払困難になった者をターゲットとして、少額ながら超高利で貸付をし、多大な利益をあげている。短期で数億から数10億単位の利益を上げているのが実情である。


(2) 摘発が少ない


それに対して、後述の通り摘発が進んでいない。警察当局でも、「借りた方が悪い」「借りた者は返すのが当然」との意識から、民事不介入等として摘発を怠っているのが現状であり、ヤミ金融を野放ししてきたと言っても過言ではない。警察庁発表によると、2000年の金融事犯の摘発は177件、2001年216件であり、検挙数540名、無登録営業・高金利事案の被害者数47,364人、被害額80億円とされている。


警察庁は昨年7月、各県警本部に対し、ヤミ金融の積極的な取り締まりを求める「金融事犯に対する取り締まりの推進について」という通達を出しているが、それでも摘発件数は216件に留まっており、十分な警察の取り締まりがなされていない状況にある。


さらに、摘発に至った事件でも、数億から数10億単位の不当な利益を上げながら、罰金で終了するケースが多く、刑罰の威嚇力も不十分である。


なお、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の収受等に関する法律(組織犯罪対策法)2条では「犯罪収受等」について定義され、出資法5条(高金利規制)、貸金業規制法11条(無登録営業)により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産も犯罪収受に該当するとされ、同法10条で犯罪収受等隠匿、同法11条で犯罪収益等収受が禁止されている。


ヤミ金融につき、犯罪収益等隠匿で摘発のケースも報告されており、同法を適用した摘発も今後さらに検討されてよい課題である。


3. ヤミ金融対策の取り組み

当連合会では、2001年3月14日、警察庁に対しヤミ金融業者に対する集中的、かつ徹底的な取り締まりを求める要請書を提出している。


また、2001年12月には貸金業登録に営業保証金制を導入すべき意見書を採択している。


貸金業の登録を受けるには、現在4万3000円の登録料が必要なだけであり、登録を受け、各種媒体を利用して、広告を行い、被害を多発させるヤミ金融業者が後を絶たないことから、その対策のために意見書を採択したものである。


本年7月に北海道弁護士会連合会、10月に中国弁護士会連合会において、ヤミ金融の徹底的な取り締まりを求める決議を採択している。また、10月に採択された九州弁護士会連合会の決議では、「ヤミ金による超高金利の違法な貸付に対し、『返済しない』という基本方針を堅持し、毅然として事件処理にあたること」とされている。


4. 行政の動き

登録したヤミ金融業者が集中している東京都に苦情が殺到した。2002年6月の第 2回都議会の定例会における所信表明において、石原都知事は、「悪質な貸金業 者を集中的に摘発し、業務停止など大規模な行政処分を行う方針」を明らかにした。


その後、同年6月から8月までに7業者について、業務停止、登録取消などの 行政処分を行った。


また、同年3月には東京都議会は、


  1. 現行法の登録制度から営業許可制度に改善すること
  2. 業務改善命令制度を創設すること
  3. 営業保証金制度を創設すること

等を内容とする「貸金業の規制等に関する法律の改正に関する意見書」を採択している。


5. 総合的なヤミ金融対策の必要性

ヤミ金融がはびこるのは、前述のとおり短期間に暴利を上げられ、かつ摘発がほとんどなされない現状にある。


さらにいえば、ヤミ金融の貸付が暴利行為であるのに、摘発する側にも「借りた金は返すのがあたりまえ」との意識があり、それが摘発を躊躇させている原因である。従って、対策も、暴利を上げさせないこと、摘発をしやすくする仕組みを考える必要がある。そこで、


  1. ヤミ金融の貸付契約を無効とし、不法原因給付として、金員の返還をできなくすることにより、利益を上げさせないこと。
  2. 出資法第5条1、2項の金利規制に違反、貸金業規制法第11条 無登録営業違反の罰金を強化することともに、ヤミ金融業者の行為規制を細かく定め摘発がしやすくすること。
  3. 貸金業の登録にあたって、1000万円程度の営業保証金制度を導入することにより、実質的に開業規制を加重し、登録貸金業者の浄化を図るとともに、無登録業者について、行為規制を加えることで、摘発を容易にすること。

以上の対策が必要不可欠である。


6. ヤミ金融業者の貸付無効の法理

(1)ヤミ金融の実態は、多重債務者(破産者を含む)の生活困窮に乗じ、または中小零細事業者の経営難に乗じ、トゴ等の暴利で貸し付ける。また、貸付の当初から債務者が支払ができなくなることを見越して、家族、友人、知人の連絡先を聞き出しておき、一旦支払いが滞るや、電話などによる執拗な取立を行う。また、新たな暴力団の資金源となっており、法治社会で決して存在自体を許してはならないものである。


裁判所もヤミ金融の債権回収を支援してはならない。


ヤミ金融の貸金自体を無効とし、債権回収の権利を一切認めないとするのが、今、求められている。


(2)出資法第5条1、2項、日賦貸金業者についての特例⑧違反の貸金契約の無効、不法原因給付として一切の金員の返還を認めないとすべきである。


出資法は、昭和29年制定されたが、当時、その民事的効力については、十分論議されず、同年に先立って成立した利息制限法の解釈から、出資法違反の場合でも利息制限法の制限金利に違反する部分のみを無効にすれば足りるとの解釈もないわけでなかった。


しかし、それでは、出資法第5条1、2項に違反した場合、刑事罰が科されるのに、貸金自体は有効であり、その返還に国が協力することとなる。


一方で、刑事罰で禁止しながら、他方貸し金の返還に国が協力するとするのは、法の建前として不徹底である。


一律に、出資法第5条1、2項違反については、民事無効と返還請求を認めないとすべきは当然であり、現状の違法行為が蔓延し、摘発が進まない現状の打破のためには、民事無効と返還請求権を認めない立法が求められている。


また、前述のヤミ金融加害の実態からすれば、もうすでに「貸金契約」として全く保護に値しない。


高利貸金契約が全体として、暴利行為で無効であるか否かにつき、「利率はそれ自体から暴利であるといえるほど著しく高い場合であるか、又は利率自体はそれ程でなくとも、債務者の窮迫無経験等に乗じて債権者を搾取した(独民法第138条2項参照)というような動機に不法の存する場合であることを要すると考える」(昭和29年判例解説165頁)と述べられており、さらに、「出資法第5条は『金銭の貸付を行う者が、百円について1日30銭を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む)の契約をし、又はこれを超える割合による利息を受領したとき』に罰則をもってのぞむことになったので、今後は日歩30銭が公序良俗違反に反するか否かの一基準となるであろう」(同上167頁)とすることも参考となる。


また、アメリカ合衆国ニューヨーク州では年利25%をもって、民事(契約自体無効)、刑事両方の違反金利と定めていることも参考となる。


よって、出資法第5条1、2項違反について、契約全体を無効と一切の金銭の返還を認めないとすべきである。


(3) 行為規制


ヤミ金融業者の出資法第5条、貸金業規制法第11条無登録営業の予備的な行為、事後行為を刑事罰をもって規制すべきである(要綱3、4項)。


(4) 警察官の責務


ともすれば、警察官の対応が甘く、被害を放置していたことが、批判されてきたことから、要綱5の警察官の責務を明示すべきである。


(5) 営業保証金制度


これについては、別紙、→日弁連意見書のとおり


(6) 罰則の強化


摘発が進まない原因のひとつに、警察官も、刑罰との関係で重大犯罪と理解していないこと、他方、前述のとおり、せっかく摘発されたのに、罰金で終了しているため、ヤミ金融をばっこさせている。従って、罰則の強化は是非必要である。


(7) 脱法を許さず


現在でも、「動産リース」、「動産レンタル」、「金券チケット販売」、その他の名称を使用した契約を行い、出資法の脱法行為を行っているケースを多発している。


緊急立法では、脱法行為を許さないとの視点も不可欠である。


7. まとめ

今、ヤミ金融被害がマスコミでも取り上げられ、ヤミ金融撲滅の気運がもり上がろうとしている。


この問題を警察と協力しながら解決するためにも、ヤミ金融対策法の成立は急務の課題である。

以上


ヤミ金融対策法要綱

1. 契約の無効・不法原因給付


出資法第5条1、2項、及び同法の日賦貸金業者についての特例⑧に違反する金利の約定を含む貸金契約は無効とする。


前項の貸金契約をした貸主は、貸金契約によって交付した金員の返還を請求することはできない。


2.「ヤミ金融業者」の定義


出資法第5条2項、又は貸金業規制法第11条に違反する行為を行う者をヤミ金融業者と称する。


3. ヤミ金融業者が、その営業に関し以下の行為を行った場合には、その行為を罰則をもって禁止する。


  1. 新聞、雑誌、その他の方法で広告を行う行為。
  2. 郵便、FAX、電話、その他の方法による融資を勧誘する行為。金融機関(郵便局も含む)に自ら又は第三者をして口座を開設すること、及び開設した口座を譲り受け、又は貸借する行為。

4.ヤミ金融業者、同従業員、及び同者らから債権の取立の依頼を受けた者(又は受けたと自称する者)又は債権譲渡を受けた者(又は受けたと自称する者)が、借主、その保証人及びその他の者に対し、ヤミ金融業者が貸付けた金員の返還を求める行為を行った場合には、その行為を罰則をもって禁止する。


5.警察官の責務


警察官は通報等により、債務者又はその親族等の関係者がヤミ金融業者などから取立を受けている疑いがある場合には、取立の制止等債務者らが取立によって被害を受けることを防止するために必要な措置を講じなければならない。


6.営業保証金制度 (既に日弁連として意見書が採択されている)


→別紙意見書のとおり。


7.罰則の強化


出資法第5条1、2項違反、貸金業規制法第11条違反の各罰則を強化する。