貸金業の規制等に関する法律の改正に関する意見書

2001(平成13)年12月21日
日本弁護士連合会


本意見書について

第1 意見の趣旨

貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)の一部を改正し、貸金業に関し、別紙記載の内容による営業保証金制度を創設すべきである。

 

第2 意見の理由

1. 開業規制強化の必要性

(1) ヤミ金融の激増


最近、出資取締法5条所定の上限金利を大幅に超える割合による利息の契約をし、これを超える割合による利息を受領している貸金業者(以下「ヤミ金融」という。)が激増している。

かつては、「トイチ」(利息が10日で1割)が高利貸しの代名詞であったが、現在ではむしろ、「トニ」(利息が10日で2割)、「トサン」(利息が10日で3割)がヤミ金融の主流であり、「トヨン」(利息が10日で4割)、「トゴ」(利息が10日で5割)も珍しくない。


(2) ヤミ金融の被害


出資取締法の上限を超える約定利息を定めた金銭消費貸借契約は、利息制限法所定の制限利率超過部分のみならず、契約全体が民法90条にいう公序良俗に反する暴利行為として無効であり、借主が受領した金員は不法原因給付となるから、原則として支払義務を生じない(民法708条)と考えられる。


しかしながら、ヤミ金融の違法な取立行為等が横行し、借主はその法律上義務のない支払いを事実上強制され、わずか2、3か月の間に受領額の2、3倍もの金員を支払うことを余儀なくされる。


このようなヤミ金融による違法な取立行為は、枚挙に暇がない。


数分おきに反復継続して電話で督促をする、自宅に押し掛け長時間居座る、支払義務のない家族・親戚等に対し請求する、自宅玄関に張り紙等をする、勤務先に押し掛け上司との面談を強要する等の事例は、ヤミ金融においては日常茶飯事であり、債務者を事務所に呼びだし、現金を用意するまで、または新たに保証人をつけさせるまで監禁する、債務者の自宅を占拠し家具等を勝手に運び出すといった極めて悪質な例も後を絶たない(貸金業規制法21条、金融監督庁事務ガイドライン第三分冊3-2-2を参照)。


その結果、借主が退職を余儀なくされ、家族が離散し、夜逃げや自殺、一家心中等に追い込まれるなどの深刻な被害が続出している。


(3) 責任追及の困難さ

これらの場合、資金需要者等は当該ヤミ金融業者に対し不当利得返還請求権や不法行為による損害賠償請求権を取得するが、その権利を実現することは、不可能ないし著しく困難であることが少なくない。


ヤミ金融は、頻繁に社名変更・事務所移転等を繰り返しているため、責任追及をしようとしたときには既に所在不明となっている場合が少なくないこと、新住所等が判明しても新旧業者の同一性を立証するのは困難であること、そのような事情がなくても、ヤミ金融自体が無資力であり、強制執行しうる財産を有しないこと、などがヤミ金融に対する責任追及の障害となっている。


(4) 開業規制強化の必要性


現在、違法ヤミ金融の跋扈により資金需要者等に甚大なる被害を与える事例が続出し、「貸金業者の業務の適正な運営を確保し、もって資金需要者等の利益の保護を図るとともに、国民経済の適切な運営に資することを目的とする」貸金業規制法の趣旨(同法1条)が没却されている。


現行貸金業規制法では、貸金業に関し種々の業務規制措置が講じられており、違反した場合につき内閣総理大臣又は都道府県知事による監督(同法第5章)や刑事罰(同法第7章)が定められているが、それにもかかわらず貸金業者による違法行為が横行しているという現状に鑑みると、上記貸金業規制法の趣旨を実現するためには、現行貸金業規制法における業務規制措置だけでは不十分であり、貸金業者の違法行為により損害を被った者や貸金業者の不当利得により損失を受けた者に対し、その損害(損失)を補填する途を開くとともに、そもそも貸金業を営むにふさわしくない者が貸金業を営むことを防止することを目的として、貸金業に関する開業規制を強化すべきである。


2. 営業保証金制度の創設

(1) 営業保証金制度創設の目的


貸金業に関する開業規制強化の具体的方策としては、別紙記載の内容による営業保証金制度を創設し、貸金業者は営業保証金を供託し、その旨をその登録を受けた内閣総理大臣又は都道府県知事に届け出た後でなければその事業を開始してはならないものとす貸金業に関する開業規制強化の具体的方策としては、別紙記載の内容による営業保証金制度を創設し、貸金業者は営業保証金を供託し、その旨をその登録を受けた内閣総理大臣又は都道府県知事に届け出た後でなければその事業を開始してはならないものとするのが相当である。


営業保証金は、a)貸金業者がその業務に関連して負担した債務の支払いを担保し、もって資金需要者等の保護を図るとともに、b)貸金業者が貸金業を健全に遂行するに足りる財産的基盤を有することの証拠金の意味をもち、もって貸金業者の社会的信用を高めることを目的とするものである。

以下、上記a)及びb)について詳述する。


(2) 貸金業者がその業務に関し負担した債務の担保


ア. 損害賠償義務


貸金業規制法21条に違反する取立行為等、貸金業者による違法行為が横行していることは、ヤミ金融に限らず、貸金業者一般の傾向でもある。

最近では、刑事事件としては商工ローン最大手の㈱日栄の元社員の取立行為につき、平成12年1月27日東京地方裁判所において有罪判決(恐喝未遂罪)が出された事例などがあり、民事事件としてはサラ金大手アイフルの社員の取立行為につき、平成11年10月26日大阪高等裁判所において不法行為による損害賠償請求が認められた事例などがあり、しかもこれは氷山の一角に過ぎない。


貸金業者は、その違法行為により資金需要者等に対し損害を与えた場合、その損害を被った者に対し、不法行為による損害賠償義務を負担する。


イ. 不当利得返還義務


また、貸金業者はほぼ例外なく利息制限法所定の制限利率を超える割合による利息の契約をし、これを超える割合による利息を受領しており、その際貸金業規制法43条に定める要件を満たしている業者はほとんど存在しない。


その結果、貸金業者に対し完済した場合はほぼ例外なく、また取引継続中であっても取引開始より6~7年以上経過している場合の多くは、債務者の貸金業者に対する支払いは法律上の原因を欠くものである(最高裁判決昭和39年11月18日、最高裁大法廷判決昭和43年11月13日、最高裁判決昭和44年11月25日)。


貸金業者は、法律上の原因なく受領した金員につき、その支払いをした者に対し、不当利得返還義務を負担する。


ウ. 営業保証金と債務の担保


このように、貸金業はその業務に関連して不法行為による損害賠償義務や不当利得返還義務等種々の債務を負担することが極めて多い業種である。


しかしながら、貸金業はその営業に格別の施設や在庫の商品を要しないため、貸金業を営む者は、実質上これら損害賠償義務や不当利得返還義務の支払いの担保となりうるような施設や在庫品を営業上当然に備えているものではない。


このような実情に鑑みると、貸金業者と取引をする資金需要者等に対し、その損害(損失)を補填する途を開き、もって資金需要者等の保護を図るためには、新たに営業保証金制度を設け、貸金業者は、その業務を開始するに当たって営業保証金を供託しなければならないものとし、その営業保証金をもって貸金業者がその業務に関連して負担した債務の支払いを担保することが必要である。


(3) 財産的基盤を有しない者が貸金業を営むことの防止


ア. 貸付金利との関係


平成12年版貸金業白書によれば、大手貸金業者と小規模業者との間では営業収益や営業費用の構造に大きな格差があり、小規模業者になるほど貸付残高に対する営業費用の割合が高くなっている。


また、貸金業者の平均調達金利は、貸付金残高5000億円以上の大手貸金業者では2~3%であるのに対し、貸付金残高3000万円未満の小規模貸金業者では20%前後と、小規模業者になるほど資金調達環境は厳しい。


このような条件下において、十分な資力を有しない者が貸金業を営むことによって利益を上げようとした場合、必然的にその貸付金利は高利とならざるを得ない。


ヤミ金融の中には、その経済的基盤が脆弱であるため、そもそも出資取締法の上限金利の範囲内で貸付を行ったのでは利益を上げることができず、経営が成り立たないという者も多く含まれていることが推認される。


イ. 違法な取立行為等


また、経済的基盤の極めて脆弱な者が貸金業を営む場合、大手貸金業者から融資を断られ窮した資金需要者等を顧客とすることが多くなるため、返済能力を超えた過剰融資が常態化する危険を内包している。


実際、平成12年版貸金業白書によれば、貸付金残高3000万円未満の小規模業者においては、情報センターを利用せず、独自の資料に基づき与信を行う業者が35.9%を占めている。


貸付金残高に対する延滞比率は小規模業者ほど高く、貸付金残高5000億円以上の大手貸金業者における延滞比率が5.6%であるのに対し、貸付金残高3000万円未満の小規模貸金業者における延滞比率は実に44.9%となっており、延滞期間も長期化している例が多い。


ヤミ金融の場合、借主のほとんどが高金利の負担に耐えきれず、早晩遅滞に陥り、その場合法律で禁止された強引・違法な取立行為等に及ぶ可能性が極めて高い。


ウ. 営業保証金と貸金業者の財産的基盤


このように、貸金業を健全に遂行するためには相当程度の資力を有することが不可欠の条件である。


貸金業を健全に遂行するに足りる財産的基盤を有しない者については、そもそも出資取締法における金利規制、貸金業規制法における業務規制措置規定等を遵守することが期待できず、貸金業を営むこと自体を防止するための措置を講じることが必要である。


営業保証金は、貸金業者が最低限度の資力を有することの証拠金の意味をもち、営業保証金の供託を貸金業者の事業開始の要件とすることによって、貸金業を健全に遂行するに足りる財産的基盤を有しない者が貸金業を営むことを防止し、もって貸金業者の社会的信用を高めることを目的とするものである。


(別紙)
営業保証金制度の概要(案)
  1. 貸金業者は、営業保証金を主たる事務所の最寄りの供託所に供託しなければならない。
  2. 前項の営業保証金の額は、主たる事務所及びその他の事務所ごとに、貸金業者の取引の実情及びその取引の相手方の保護を考慮して、政令で定める額とする。
    ※ 主たる事務所につき1000万円、その他の事務所につき事務所ごとに500万円の割合による金額の合計額とするのが相当である。

(参考)

  • (1) 事務所数に応じて算出する方法(宅建業法、職業安定法)
  • (2) 取引額に応じて算出する方法(旅行業法)
  • (3) 資本金に応じて算出する方法(信託業法)
  • (4) (1)を原則としつつ(2)を加味する方法(割賦販売法における前受業務保証金)
  1. 第1項の営業保証金は、内閣府令の定めるところにより、国債証券、地方債証券その他内閣府令に定める有価証券をもって、これに充てることができる。
  2. 貸金業者は、営業保証金を供託したときは、その供託物受入れの記載のある供託書の写しを添付して、その旨をその登録を受けた内閣総理大臣又は都道府県知事に届け出なければならない。
  3. 貸金業者は、前項の届出をした後でなければ、その事業を開始してはならない。
  4. 内閣総理大臣又は都道府県知事は、貸金業規制法第3条第1項の登録をした日から3か月以内に貸金業者が第4項の規定による届出をしないときは、その届出をすべき旨の催告をしなければならない。
  5. 内閣総理大臣又は都道府県知事は、前項の催告が到達した日から1か月以内に貸金業者が第4項の届出をしないときは、その登録を取り消すことができる。
  6. 貸金業者は、事業の開始後新たに事務所を設置したときは、当該事務所につき第2項の政令で定める額の営業保証金を供託しなければならない。
  7. 第1項及び第3項から第5項の規定は、前項の規定により供託する場合に準用する。
  8. 貸金業者と貸金業に関し取引をした者は、その取引により生じた債権に関し、当該貸金業者が供託した営業保証金について、その債権の弁済を受ける権利を有する。
  9. 貸金業者が貸金業規制法又はこれに基づく命令の規定に違反することによって損害を受けた者は、当該貸金業者が供託した営業保証金から、その損害の賠償を受ける権利を有する。
  10. 第10項及び第11項の権利の実行に関し必要な事項は、内閣府令で定める。

(参考)

宅建業では、「還付を受ける権利を有することを証する書面」(確定判決、和解調書、公正証書、私署証書、債務確認書等)を供託物払渡請求書に添付することによって、個々に、随時に還付請求権の存在を証明して営業保証金の還付を受けることができる。

投資顧問業では、金融庁長官に対する権利の実行の申立により、金融庁長官が、当該営業保証金につき権利を有する者に対し一定期間内に権利の申し出をすべきこと及びその期間内に申し出をしないときは配当手続から除斥されるべきことを公示し(官報掲載)、当該期間経過後に権利の調査を行い(予め期日及び場所を公示し、申立人、当該期間内に権利の申し出をした者及び当該供託者が証拠を提示し意見を述べる機会を与える)、その結果に基づき作成した配当表の公示を経て、配当が実施される。


  1. 貸金業者は、第10項又は第11項の権利を有する者がその権利を実行したため、営業保証金が第2項の政令で定める額に不足することとなったときは、2週間以内にその不足額を供託しなければならない。
  2. 貸金業者は、前項の規定により営業保証金を供託したときは、その供託物受入れの記載のある供託書の写しを添付して、2週間以内に、その旨をその登録を受けた内閣総理大臣又は都道府県知事に届け出なければならない。
  3. 第3項の規定は、第13項の規定により供託する場合に準用する。
  4. 事務所移転により最寄りの供託所が変更した場合における営業保証金の保管替え、営業保証金の取り戻し、その他営業保証金に関し必要な事項は、内閣府令で定める。

(業務停止)
現行貸金業規制法36条
内閣総理大臣又は都道府県知事は、その登録を受けた貸金業者が次の各号の一に該当する場合においては、当該貸金業者に対し、1年以内の期間を定めて、その業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。
→ 第1号に「第5項(第9項において準用する場合を含む。)、第13項」の規定に違反したとき、を追加する。


(罰則)
現行貸金業規制法48条
 次の各号の一に該当する者は、1年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
→ 「第5項(第9項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者」を追加する。