日弁連新聞 第597号

旧統一教会に対する解散命令の請求についての会長談話・実効的な被害の救済を求める会長声明

arrow_blue_1.gif旧統一教会に対する解散命令の請求についての会長談話

arrow_blue_1.gif旧統一教会に対する解散命令の請求に関する実効的な被害の救済を求める会長声明


日弁連は、本年10月13日付けで「旧統一教会に対する解散命令の請求についての会長談話」を、11月2日付けで「旧統一教会に対する解散命令の請求に関する実効的な被害の救済を求める会長声明」を公表し、次の趣旨を指摘・表明した。


解散命令請求と深刻な被害実態

本年10月13日、文部科学省は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令の請求を東京地方裁判所に行った。この大きな決断について、日弁連としても重く受け止め、今後を注視していく。


もっとも、宗教法人に対する解散命令請求は、それ自体が直接に霊感商法等の被害救済につながるものではない。


日弁連が実施したフリーダイヤル等の無料法律相談の集計結果報告によれば、旧統一教会による財産的被害を申告する相談のうち、1000万円以上の被害額を訴えるものが約4割あった。また、既に全国統一教会被害対策弁護団が被害総額約39億5000万円にも上る集団交渉等を行っている。日弁連としては一日も早く被害者が救済されるよう、同弁護団と積極的に連携し、その支援を継続していく決意である。


今後の課題と取り組み

宗教法人に対する解散命令は、宗教団体の法人格を失わせ、税制上の優遇措置をなくすなど、その事業活動に大きな影響を及ぼす。裁判においては、慎重かつ適正な審理が求められるが、長期化すればその間に財産散逸の可能性もあり、迅速な進行も求められる。


実効的な被害救済のためには、当該宗教団体の財産保全等を現実的に可能とする仕組みが必要である。宗教団体の財産権や宗教活動を行う権利との関係が問題となり得るが、個人の権利と自由を侵害することはあってはならない。国には、被害の回復に向けて最大限努力する責任と義務がある。


日弁連は、人権擁護を使命とする法律家団体として、引き続き、国に対して実効的な被害の救済および防止に向けた提言等を行っていく所存である。


(霊感商法等の被害の救済・防止に関するワーキンググループ  座長 釜井英法)



IBA年次大会
10月29日~11月3日 フランス・パリ


世界最大の法曹団体である国際法曹協会(IBA)の年次大会がフランス・パリで開催され、日弁連からは松田純一副会長らが代表団として出席した。本年は約120の法域から約6000人が参加した。


大会では、世界的に弁護士が直面している課題である①生成AIの活用方法、②ロシアのウクライナに対する軍事侵攻に伴う業務への影響(ロシア企業等への民事法律サービス提供の是非)、③社会的相当性を欠く行為(気候変動に著しい悪影響を与える企業活動やマネー・ローンダリングなど)を弁護士が助長しているという批判への対応などが議論された。③を巡っては、弁護士が依頼者の民事代理人を務める場合に、依頼者利益の追求だけでなく、社会的正義をも順守すべきことを、倫理的な規範に相当するIBA行動原則の解釈として追記するかどうかで激論が交わされた。この追記はIBA理事会に諮られる予定であったが、反対の声も強く、理事会への付議が見送られることとなった。


セッションのほか、他国の法曹との交流の場として、連日、弁護士会や法律事務所主催のレセプションが開催された。


日弁連も在フランス日本国大使館と共催で、2019年の年次大会以来4年ぶりにレセプションを開催した。同大使公邸で行われたレセプションには、イギリス、ドイツ、韓国など各国弁護士会の執行部を含む多数のゲストが集まり、日弁連と日本の弁護士のプレゼンスを高める良い機会となった。


次回の年次大会は、2024年9月15日から20日までメキシコ市(メキシコ)で開催される。


(国際室嘱託 津田顕一郎)



技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の最終報告書


2022年11月に設置された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」)は、本年11月24日までに計16回の議論を重ね、11月30日付けで最終報告書を取りまとめた。


本年5月11日に公表された有識者会議の中間報告書では、技能実習制度を廃止し、人材確保および人材育成を目的とする新制度の創設を検討すべきとされ、その後も最終報告書の取りまとめに向けた議論が続けられてきた。


10月18日に示された最終報告書たたき台では、日弁連が技能実習制度の問題として指摘してきた点について、本人の意思による転籍を就労開始後1年経過すれば可能とするなど、改善に向けてある程度の前進が見られた。一方で、転籍に一定の技能や日本語能力の条件が付されていたり、技能実習制度と同様に送り出し機関による労働者からの手数料徴収も許容される枠組みが維持されたりしていた。また、家族帯同についても、新制度と特定技能1号において従前と同様に認めないこととされており、長期間の家族分離を強いる制度設計とされていた。このほか、受け入れ先企業からの監理団体の独立の確保などを含め、日弁連は、最終報告書たたき台を受けて、10月26日付けで会長声明を公表していた。


この会長声明の公表後も、就労開始後2年間は転籍を制限することを可能とする案が示されるなど、有識者会議の議論状況は流動的であった。最終報告書では、転籍制限の期間(1年間)は維持されたものの、受け入れ対象分野によっては「当分の間」これを延長し得るとする経過措置が追加された。技能実習制度廃止後の新制度「育成就労」(仮称)が、来日する外国人労働者の人権を真に保障するものとなるよう、今後も法改正等を注視していきたい。


(人権擁護委員会外国人労働者受入れ問題プロジェクトチーム  特別委嘱委員 中村優介)



ひまわり

早いもので、今年も12月に入った。大みそかをゆっくりと迎えたいがために、12月はいつにも増して忙しくなる▼大みそかといえば「紅白歌合戦」。小学生の頃は、親戚一同そろって見たのが懐かしい。この日だけは夜更かしが許されていたので、楽しみにしていたものだ(今は早く寝たいので、当時の心情が理解できないが)▼中学生になると家族でテレビを見る習慣もなくなり、テレビ以外の楽しみも増えたので、すっかり紅白歌合戦からも遠のいていた。しかし、ここ数年は年のせいか、紅白歌合戦を見る習慣が戻ってきた。知っている歌は口ずさみ、そうでない歌はそれなりに。テレビ画面の向こう側にいる人たちと一緒に、にぎやかな年越しを迎える気分を楽しんでいる▼そんな紅白歌合戦だが、第1回は1951年にラジオ番組として開始。意外なことに第1回から第3回までは正月番組だったそうだ。第4回になって初めて大みそかに放送枠が移り、同時にテレビ放送も開始された。視聴率調査が始まったのは第13回(1962年)以降で、この年の視聴率は80%を超えている▼1台のテレビを家族全員が囲むような時代ではなくなったが、今年も家族に声をかけてみようと思う。最後まで見ているのは自分一人かもしれないが。

(S・N)


こども大綱の策定に向けた中間整理に対する意見書

arrow_blue_1.gif 「今後5年程度を見据えたこども施策の基本的な方針と重要事項等~こども大綱の策定に向けて~(中間整理)」に対する意見書


こども家庭庁において、本年9月29日に「今後5年程度を見据えたこども施策の基本的な方針と重要事項等〜こども大綱の策定に向けて〜(中間整理)」が取りまとめられ、意見募集(パブリックコメント)に付された。これに対し、日弁連は、10月20日付けで意見書を取りまとめ、こども家庭庁に提出した。


意見の趣旨

「こどもの権利条約」および総括所見・一般的意見への言及について

これまで政府が「児童の権利に関する条約」と称していた条約を、こどもへの分かりやすさの観点などから「こどもの権利条約」と表記したことを評価するとともに、こども大綱(以下「大綱」)ではより広く浸透している「子どもの権利条約」と表記することも検討するよう要望した。


子どもの権利条約の順守について、国連子どもの権利委員会の総括所見や一般的意見に踏み込んだ言及をしたことを高く評価し、次回の政府報告および報告書審査に向けて施策の一層の推進を図り、締約国としての国際的な責任を果たしていくことを要望した。


「基本的な方針」および「こども施策に関する重要事項」について

中間整理が「こどもまんなか社会」を目指し、「こども・若者を権利の主体」と明記したことは高く評価する。また、地方自治体が設置する相談救済機関の実態把握や事例の周知を行い、取り組みを後押しすると言及したことはある程度評価できる。


大綱ではさらに、いわゆる「子どもコミッショナー」の設置を国の責務であると明確にしてこれに取り組む旨を掲げること、個人通報制度の導入も速やかに検討することを要望した。


その他、日弁連が本年7月13日付けで取りまとめた「子どもの権利条約に基づくこども大綱の策定を求める意見書」で指摘した個別の課題等への言及・検討、宗教等二世の問題について具体的な方策を伴う言及を強く要望した。


今後について

大綱は、今後、こどもや若者などの意見聴取を経て本年中に閣議決定される予定である。2024年は、日本が子どもの権利条約を批准して30年の節目の年である。子どもの権利条約にのっとったこども施策が実施されるよう、活動をさらに進めていきたい。


(子どもの権利委員会  幹事 栁 優香)



第7回自殺対策ネットワークづくりに関する全国協議会・シンポジウム
10月21日 弁護士会館

1998年に年間3万人を超えた全国の自殺者数は、2012年に年間3万人を下回って以降、総数には減少傾向が見られる一方で、児童生徒や若年層では増加している。本協議会・シンポジウムでは自殺問題への弁護士会の取り組みや自治体等との連携、SNS相談等について意見交換を行った。


各弁護士会の活動状況

貧困問題対策本部自殺対策プロジェクトチームの山田治彦委員(大阪)は、自殺者数の動向を概説した上で、自殺はさまざまな社会的要因によって追い込まれた末の「強いられた死」であるとして、関係分野の専門家らが相互に、行政とも連携して対策に当たるべき人権・社会問題であると指摘した。


山口亮委員(京都)は、各弁護士会の自殺対策に関する取り組みについて、弁護士会による組織的な活動がこの10年で進展していることや、臨床心理士等の専門職や関係団体との連携、研修会等の実施が広がっていることを報告した。その上で、各地域の自殺対策協議会や自殺対策計画策定などへの弁護士のより積極的な参画・関与が必要だと述べた。


「生きることの包括的な支援」の実践

根岸親氏(NPO法人自殺対策支援センターライフリンク副代表)は、自殺対策基本法2条が掲げる「生きることの包括的な支援」とは、生きることの阻害要因を取り除き、生きることの促進要因を積み重ねることであると述べた。また、若年層などの支援のために、SNS相談のプラットフォーム「生きづらびっと」を活用して相談へのアクセスを拡充するとともに、相談者の自殺リスクに応じてその先の支援を行う自治体等につなぐなどの取り組みを紹介した。


SNS相談等を実施する各弁護士会による意見交換では、運用上の工夫のほか、文字情報のみで表情や息づかいなどが分からないといったSNS相談特有の難しさを踏まえた対応例等を共有した。



罪に問われた障がい者等の刑事弁護の体制整備等に関する研修・意見交換会
10月13日 山形県弁護士会館

障がい者等の刑事弁護における留意点や課題を共有すべく、研修・意見交換会を開催した。
本稿では、福祉関係者との連携をテーマにした会員向け研修の様子を紹介する。


福祉との連携による刑事弁護の充実

日弁連刑事弁護センターの田中拓事務局次長(香川県)は、地域生活定着支援センターや社会福祉士などの福祉関係者から、逮捕後の被疑者が置かれた状況や事実関係を把握できないまま刑事手続が進むため、提供可能な支援があるにもかかわらず福祉が関与できていないとの声が寄せられていると述べた。


さらに、罪に問われた障がい者等の刑事弁護において、その社会復帰を支援し、再犯のない地域生活へとつなげていくためには、障がい特性・福祉的支援の状況の早期把握、支援体制の調整、再犯防止に向けた更生支援計画の準備など、支援者である福祉関係者と常に連携して活動していくべきだと語った。


福祉関係者との連携事例

①別件で支援していた地域生活定着支援センターが逮捕直後に弁護士会に当番弁護士を要請し、ケース会議の結果も踏まえた弁護活動により、逮捕時の見通しよりも軽微な処分となった事例、②一審で実刑判決が出された事件の控訴審で、再犯の被告人について基幹相談支援センターと再犯防止に向けたサービス等利用計画を立てた上で、これまで必要な社会的支援を受けられていなかったことを指摘し、再度の執行猶予を獲得した事例が報告された。このほか、弁護人が不起訴後のケース会議に関与した事例も紹介された。


田中事務局次長は、弁護士が障がい特性に対する理解を深め、福祉関係者と協力することで、より充実した刑事弁護が可能になるとして、本研修を弁護士・弁護士会と福祉関係者との連携体制を考える契機としてほしいと力を込めた。



第5回全国一斉「障害年金法律相談会」
34都道府県で実施

arrow_blue_1.gif 第5回全国一斉障害年金法律相談会


本年11月2日、「全国一斉障害年金法律相談会」を実施した。(共催:各弁護士会)


障害年金の受給は、障害のある人の生活を支える基本的権利である。しかし、その受給率は約25%に留まっている。障害により働けず所得がない人でも受給が認められない場合があり、多くの障害のある人が貧困状態に置かれている。2018年5月以降、障害年金の大量支給停止問題、障害があり職場の特別な配慮がなければ働けない人の年金の支給停止問題などが明らかになるなど、障害のある人の生存権が脅かされている。


日弁連は2018年から統一ナビダイヤルによる「全国一斉障害年金法律相談会」を実施し、毎回、全国各地で多くの相談を受け付けてきた。受給手続きや要件に関する相談だけでなく、さまざまな法的論点に関する相談も少なくない。


今回で5回目を迎えた相談会でも全国から多岐にわたる相談が寄せられ、本人のみならず家族や支援者からの相談もあった。


実施弁護士会のご協力に心から感謝申し上げる。今後は、これまでに寄せられた相談の分析を進めて、ニーズの多い相談事項の洗い出しなどを行う予定である。障害年金の受給を必要とする方々にさらに利用してもらえる相談会となるよう、相談実績とその分析結果を活用するとともに、弁護士会への支援体制の充実等も検討していきたい。


(日弁連高齢者・障害者権利支援センター  事務局次長 徳田 暁)



国際知財司法シンポジウム2023
~アジアにおける知的財産紛争解決~
10月17日~19日 弁護士会館

arrow_blue_1.gif 国際知財司法シンポジウム2023~アジアにおける知的財産紛争解決~


国際的な知的財産紛争の司法判断や近時の知財トピックに関して、アジア各国の法曹実務家らを招いてシンポジウムを開催した。本稿では、1日目の裁判所パートの模様をお伝えする。(共催:最高裁判所、知的財産高等裁判所、法務省、特許庁、弁護士知財ネット)


開会挨拶

最高裁判所の深山卓也判事は、知財分野の国際化が進み、自国のみならず各国の法制度を知ることが不可欠であるとし、司法におけるアジア各国の相互理解や緊密な協力が重要となっていると語った。


模擬裁判

知財分野で活躍する日本、韓国、インドの現職裁判官や弁護士らが参加し、共通の模擬事例を用いて各国の特許権侵害訴訟手続に基づく模擬裁判を行った。


模擬事例は、物品分包装置に用いられるロールペーパ(原告製品)の発明を巡り、A国の特許権者である原告P社が、同国において、B国から輸入した同種製品(被告製品)を販売する被告D社に対し、特許権侵害を理由にその輸入・販売の差し止めを求めた事案である。被告製品は、原告P社の子会社であるB国法人C社が原告P社の許諾を受けた発明の実施としてB国で製造・販売した原告製品について、被告D社の子会社であるB国法人T社が、B国ユーザーから使用済み原告製品の芯管部分を回収し、これに新たに分包用シートを巻き直して製造した製品である。


争点は、国際消尽による特許権行使の許否であり、各国における技術説明会の質疑応答などが実演された。


判決では、消尽による権利行使制限の対象となるのは特許製品そのものに限られるとした上で、日本・韓国の裁判所は、被告製品は原告製品と同一性を欠く特許製品の新たな製造であるとして請求を認容した。他方、インドの裁判所は、被告製品は原告製品の修理の範囲内で原告製品との同一性を失っていないとして、消尽による権利行使制限を認めて請求を棄却した。


パネルディスカッション等

模擬事例を題材に、日本、韓国、インドの裁判官や実務家を交えて、各国における国際消尽の判断の枠組みや考慮要素の違い、審理の在り方を比較して議論した。


デジタル化をはじめ各国の民事紛争解決手続の実情等も紹介され、知的財産高等裁判所の本多知成所長は、IT技術を駆使して、迅速かつ効率的な紛争解決を実現していきたいと締めくくった。



院内集会
地域で支え合う精神保健福祉~WHOと考える共生社会~
10月17日 衆議院第一議員会館

arrow_blue_1.gif院内集会「地域で支え合う精神保健福祉~WHOと考える共生社会~」


世界保健機関(WHO)は、2030年までに加盟国が到達すべき精神保健福祉改革のアクションプランを定めている。
WHOの精神保健福祉法制度・政策ユニットの責任者であるミシェル・ファンク氏を招き、精神病床数が多く長期入院等の課題もある日本で、精神障がいのある人が地域で暮らすために必要な法政策・地域づくりを検討するため、院内集会を開催した。


地域に根差した精神保健福祉の構築に向けて

ファンク氏は、多くの国の精神保健システムが、薬物治療に重点を置いた生物医学的モデルを採用し、施設への収容などによって精神障がいのある人の決定権を否定する構造になっていると指摘した。その上で、当事者の人権を尊重する、地域に根差した精神保健福祉サービスの拡大が喫緊の課題であると語った。さらに、変革のためには社会の根本的な意識改革が不可欠であるとして、WHOが開発した学習ツール(e―トレーニング)やその効果のほか、世界のグッドプラクティスをまとめたガイダンスを紹介した。ファンク氏は、ピアサポートの充実など法整備のポイントを挙げ、日本でも強制入院が廃止され、変革が進むことに強い期待を寄せた。


パネルディスカッション

当事者の権利や意思を尊重した制度整備が必要であるとの共通認識の下、精神保健福祉に携わる登壇者らが、地域生活への移行に向けた課題などを議論した。


竹島正氏(川崎市総合リハビリテーション推進センター所長・精神科医)は、精神障がい者の入院先となる精神科病院の数の多さが地域移行の阻害要因として挙げられることがあるが、既存の精神科病院や精神医療専門職を貴重な地域資源として、必要な医療体制を含めた地域での生活支援の整備に活用すべきとの見解を示した。


鈴木卓郎氏(社会福祉法人府中えりじあ福祉会西府いこいプラザ・ソーシャルワーカー)は、地域生活のサポートの中で医療の専門家の必要性を感じる場面は多く、医療部門との連携は重要であると述べた。


池原毅和会員(第二東京)は、世界のグッドプラクティスを参考に、日本におけるさまざまな特質を考えながら、精神医療分野の専門職らと共に当事者を支えて地域移行を実現していきたいと語った。



シンポジウム
技能実習生の妊娠・出産ケースから制度廃止後の新制度のあり方を考える
10月18日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「技能実習生の妊娠・出産ケースから制度廃止後の新制度のあり方を考える」


2022年11月に設置された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」)では、新たな制度などについて検討された。
本シンポジウムでは、特に困難な状況に置かれやすい技能実習生の妊娠・出産ケースを通じて、新制度の在り方を検討し、多数の参加を得た。


技能実習制度が抱える構造的な問題

人権擁護委員会外国人労働者受入れ問題プロジェクトチーム(以下「PT」)の髙井信也座長(第一東京)は、人材育成を通じた国際貢献という技能実習制度の名目上の目的ゆえに転籍が許されない技能実習生は、現在の雇用主の下での実習ができなくなれば在留資格を失って帰国しなければならない状況に置かれていることを指摘した。有識者会議による議論状況を紹介しつつ、人権侵害を生む技能実習制度の構造的な問題を解消する新制度の必要性を訴えた。


報告―元技能実習生双子死産事件から新制度を考える

元技能実習生双子死産事件(最二小判令和5年3月24日)の弁護人を務めた石黒大貴特別委嘱委員(熊本県)は、労働者の権利に対する雇用主や監理団体等の無理解や実習生の経済状況に加え、地域社会からの隔絶が実習生を孤立させていると述べた。出入国在留管理庁の調査によると、妊娠が明らかになれば退職・帰国に追い込まれるという認識が技能実習生に広まっており、実際に強制的に帰国させられた事案も存在するとして、出産後に親子が共に暮らせるよう、子どもの在留資格を検討する必要性にも言及した。


講演―新制度検討に求められる「移民政策」の視点

髙谷幸准教授(東京大学大学院)は、日本の外国人労働者受け入れ政策は、専門的・技術的労働者以外の外国人労働者の定住化を制限し、家族帯同を否定してきたと述べた。家族帯同を認める特定技能2号も、現状ではこれに該当する労働者の割合は極めて低く、定住化につながる在留資格として機能していないと評した。


特定技能制度は人材を選別して育成する側面を有し、組織や業界のジェンダー慣行と結び付いて移民女性を脆弱な立場に固定化する恐れがあるとした上で、あるべき制度を作り上げるためには、移民の権利と尊厳の保障という視点が必要だと語った。



シンポジウム
障害者の自立生活を阻むものは何か?~障害者の普通の暮らしを知ろう~
10月31日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「障害者の自立生活を阻むものは何か?~障害者の普通の暮らしを知ろう~」


日本は2022年8月に初めて、国連障害者権利委員会(以下「委員会」)による審査を受けた。
同年9月に公表された委員会による総括所見を踏まえ、障害者の地域における自立生活のための課題を確認し、今後の具体的な取り組みについて検討するためのシンポジウムを開催した。


脱施設と地域での自立生活に向けた課題

委員会による審査に参加した田中恵美子教授(東京家政大学)は、総括所見では日本の現状に対する93の懸念と92の改善勧告が示され、特に地域社会での自立生活への移行とインクルーシブ教育を受ける権利の保障について早急な措置が要請されたことを指摘した。


2022年に委員会が公表した「緊急時を含む脱施設化に関するガイドライン」では、条約締結国に対して施設収容の廃止が求められていると説明し、分離ではなく、障害者が地域の中で暮らすためのサービス拡充に向けた検討を進めるべきことを強調した。


パネルディスカッション

殿村久子氏(CILくにたち援助為センター代表)は、自身の経験を交えて施設生活の実態を語り、障害者自身が社会の一員だと実感を持てる社会を目指したいと語った。


上東麻子氏(毎日新聞記者)は、2019年の毎日新聞の調査結果として、全国で68の障害者施設が住民の反対で建設中止等になったことを報告した。主な反対理由は治安の悪化や地価の下落等の地域への悪影響をあげるものであったが、いずれも抽象的な懸念であり、社会に根強く残る健常者優位の考えを福祉制度に落とし込まないよう社会全体で考える必要があると述べた。


下山順会員(群馬)は、障害者の自立した生活のために必要な介護サービス支給量の認定について、特に、重度訪問介護では比較的長時間の支援が想定されているにもかかわらず、実際に自治体が認定する介護サービス支給量が低い水準に抑制されることが多いことを指摘した。また、介護サービス支給量の認定に係る訴訟を提起した際、インターネット上で障害者の尊厳を著しく毀損する誹謗中傷があったことを報告し、権利行使を萎縮させないためにも、法整備をはじめとする厳然とした社会的対応が求められると訴えた。



JFBA PRESS-ジャフバプレス- Vol.186

患者とドナーをつなぐ
公益財団法人 日本骨髄バンク

公益財団法人日本骨髄バンク(以下「日本骨髄バンク」)は、白血病などの重い血液疾患のため骨髄・末梢血幹細胞(以下「骨髄等」)の移植が必要な患者と、それを提供するドナーをつなぐ骨髄バンク事業を行う機関です。ドナーコーディネート部長の中尾るか氏にお話を伺いました。

(広報室嘱託 枝廣恭子)


骨髄バンク事業

骨髄バンクは、骨髄等の移植を必要とする患者への第三者からの骨髄等の提供を仲介する公的事業です。


日本骨髄バンクは、日本における骨髄バンク事業を担い、今年で設立から32年を迎えます。国際協力として、全米骨髄バンクとの提携をはじめ国際的なネットワーク構築に長年取り組み、世界骨髄バンク機構(WMDA)の認定も受けています。


早期提供の実現を目指して

現在のドナー登録者数は約55万人です。骨髄等の提供を希望する登録患者への1年以内の移植可能率は約55%であり、この数値は設立当初からほとんど増加していません。移植には患者とドナー候補者の白血球の型(HLA型)が一致する必要がありますが、その確率は数百から数万分の一ほどです。型が一致しても、ドナー候補者の健康上の理由のほか、仕事や家庭の都合で移植実現に至らないケースも少なくありません。


移植可能率の向上とともに、コーディネート期間(患者が骨髄等の提供を希望して登録してから実際に移植を受けるまでの期間、あるいはドナー候補者の型が患者に適合してから骨髄等を採取するまでの期間)の短縮が課題になっています。


こうした現状を改善すべく、ドナーが提供時に仕事を休みやすい「ドナー休暇制度」の推進や、ショートメッセージサービスによるドナー候補者への適合通知、ウェブ問診の導入など、ドナーの利便性向上の工夫と事務効率化を重ねています。


そのほか、スワブ検査法(綿棒を用いた口腔粘膜採取)によるドナー登録の導入に向けて、トライアルを進めています。各地の受付窓口で採血する現在の登録方法に加え、キットを用いて自宅等での登録を可能にすることで、特に若い世代のドナー登録の推進を期待しています。


ドナーの安心・負担軽減と十分な理解のために

HLA型が適合し、確認検査を経て最終候補に選ばれると、ドナー候補者の提供意思を最終確認する最終同意面談が実施されます。


近時、最終同意の確認書面から「同意後は撤回いたしません」という一文を削除しました。ルールだからではなく、撤回による患者への影響などを事前に説明し、同意の意味を十分に理解してもらうことが望ましいという考えからです。最終同意におけるドナー候補者や家族の負担を少しでも軽減できるよう、家族のオンライン同席なども始めています。


最終同意を経ると、患者は移植準備を進め、引き返すことは難しくなります。ドナー候補者にその役割と責任を十分に理解してもらうためにも、最終同意は極めて重要な場面です。日本骨髄バンクは現在、東京弁護士会、広島弁護士会および札幌弁護士会と協定を締結し、弁護士に最終同意の立会人を依頼しています。弁護士が立ち会うことによるドナー候補者の安心感は大きいと感じています。


理解と支援を広げていく

移植が必要な患者への適時の提供を実現するためには、骨髄等の提供に対する社会の理解が深まり、ドナー候補者が安心して提供に応じられる環境の整備が必要です。ドナー資格は55歳で終了となりますが、現在のドナー登録者は40代・50代が多く、若年世代の登録増が急務になっています。


日本骨髄バンクでは、事業の意義や重要性を発信する広報・啓発活動にも力を入れ、ドナーにとっても周囲の理解が得やすい社会づくりを目指しています。また、若い世代への認知向上を目指して「#つなげプロジェクトオレンジ」を立ち上げ、SNS等での情報発信などにも取り組んでいます。


会員へのメッセージ

最終同意への立ち会いに参加している弁護士の中には、骨髄バンクの活動への理解が深く、啓発活動などを独自に行っている方もおり、最終同意への立ち会いの場面以外でも骨髄バンクに関与してもらっていることに非常に感謝しています。


家族の在り方や社会状況が大きく変化する中、骨髄バンクは新たなコーディネートの在り方を模索する時期を迎えています。社会生活のあらゆる場面で活動される弁護士の皆さんの知見を借りることも多くあります。今後も骨髄バンクの活動へのご理解とご支援をよろしくお願いします。



日弁連委員会めぐり126 
中小企業の国際業務の法的支援に関するワーキンググループ

今回の委員会めぐりは、中小企業の国際業務の法的支援に関するワーキンググループ(以下「WG」)です。淵邊善彦座長(第一東京)、新田裕子副座長(栃木県)に、活動内容等についてお話を伺いました。

(広報室嘱託 荒谷真由美)


人材育成のための取り組み

WGは、中小企業の国際業務の法的支援に関する活動をしています。


主な活動の一つは、国際業務の法的支援を担う人材の育成です。弁護士会での研修やライブ実務研修の実施、eラーニングの制作等を行っています。弁護士会研修では、基礎研修・応用研修・ワークショップの3種のプログラムを用意し、各地に講師を派遣して弁護士会の要望に応じた研修を実施しています。eラーニングでは、中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題や、現地法の基礎知識、英文契約書作成の実務など、さまざまなテーマの講座を公開しています。どれも実務に役立つ内容ですので、ぜひご活用ください。


中小企業国際業務支援弁護士紹介制度

中小企業国際業務支援弁護士紹介制度は、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)等の外部団体から紹介があった中小企業に対して、国際的な企業法務・取引法務の豊富な経験を持つ弁護士を紹介する制度です。海外展開や国際取引における、相手国側の企業等との契約書チェックのほか、多岐にわたるトラブルについて、支援弁護士が助言等をしています。弁護士からの紹介でも本制度の利用が可能ですので、会員ご自身での対応が難しい場合などにもご活用ください。


会員へのメッセージ

地方のグローバル化が進んでいる今、中小企業の国際業務の法的支援に関するニーズはますます高まっています。しかし、中小企業は、国際的な取引法務等を取り扱う弁護士が身近にいないことも多く、早期に国際業務に関する相談ができる環境はまだまだ整っていません。会員の皆さんには、弁護士会研修やeラーニング等を活用していただき、国際業務に関する知識を習得・アップデートして、中小企業の支援に役立てていただければと思います。各弁護士会からの研修実施のご依頼もお待ちしております。



ブックセンターベストセラー(2023年10月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

遺留分の法律と実務―相続・遺言における遺留分侵害額請求の機能〔第三次改訂版〕 

埼玉弁護士会/編 ぎょうせい
2

有斐閣コンメンタール 新注釈民法(11)Ⅱ 債権(4)

渡辺達徳/編集 大村敦志、道垣内弘人、山本敬三/編集代表 有斐閣
3

第2版 インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式

神田知宏/著 日本加除出版
4 模範六法 2024 令和6年版 上原敏夫、判例六法編修委員会/編 三省堂
5

ポケット六法 令和6年版

佐伯仁志、大村敦志、荒木尚志/編集代表 有斐閣
6

調停等の条項例集―家事編―

星野雅紀/著 司法協会
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弁護士法第23条の2照会の手引〔七訂版〕

第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会/編 第一東京弁護士会

弁護士の交渉学―事例にみる実践的交渉スキル

髙中正彦、川口智也、西田弥代/著 ぎょうせい
9 事例でわかる リアル破産事件処理 永野達也/著 学陽書房
リーガル・プログレッシブ・シリーズ 離婚調停・離婚訴訟〔四訂版〕 秋武憲一、岡健太郎/編著 青林書院



海外情報紹介コーナー⑳
Japan Federation of Bar Associations

米国法曹協会がAIへの対応を強化

米国法曹協会(ABA)は、本年2月に採択した「決議604」において、①AIの開発者はAIが人間によるコントロール下にあることを保証するべき、②AIを使用した個人や法人が当該使用に関連する結果につき責任を負うべき、③AIの開発者が当該AIのリスク等に関する主要な決定を記録することでAIの透明性などを確保し知的財産権侵害を防止するべき、というガイドラインを示した。


また、近時、生成AIが急速に浸透していることを受け、本年8月にはAIタスクフォースを設置し、AI時代における弁護士倫理・司法アクセス・法曹教育、AIのガバナンスやリスク管理への対応を検討している。


(国際室室長 坂野維子)