日弁連新聞 第595号

坂本堤弁護士一家メモリアル追悼訪問

オウム真理教被害者の救済活動を行っていた坂本堤弁護士は、1989年、オウム真理教幹部らによって、妻の都子(さとこ)さんと長男の龍彦さんとともに殺害された。1997年には一家のご遺体が発見された各地にメモリアルが建立され、「坂本弁護士と家族を救う全国弁護士の会」等による慰霊が毎年続いている。
本年8月26日・27日、小林元治会長や弁護士業務妨害対策委員会委員をはじめとする会員30人が各地を訪れ、一家を追悼した。


26日、小林会長一行は坂本弁護士が発見された新潟県上越市に向かった。現場は車1台が辛うじて通れる大毛無山の険しい山道の奥にある。一行は、メモリアルの前で坂本弁護士への黙とうをささげた。


続いて訪問した富山県魚津市は、都子さんが発見された場所である。現場の僧ヶ岳は林道が崩落したため、メモリアルは麓の片貝山ノ守キャンプ場に移されている。キャンプをする人の姿もある中、一行は都子さんに黙とうをささげた。


翌27日には長野県大町市を訪れた。龍彦さんのメモリアルがある高瀬渓谷緑地公園で黙とうをささげた後、発見現場へ移動して改めて冥福をお祈りした。


いずれのメモリアルも、各自治体の皆さまによってきれいに管理されており、小林会長は、各地の長年の厚情への深い感謝と、日弁連が一丸となり業務妨害と対決していく決意を述べた。


坂本弁護士一家殺害事件は弁護士業務妨害対策の原点である。この事件を契機に弁護士業務妨害対策委員会の立ち上げや各弁護士会での取り組みが始まった。一行は、事件を風化させず、後進に語り継いでいかなければならないとの思いを新たにした。


(弁護士業務妨害対策委員会 委員 横井克俊)



いわゆる「参院選大規模買収事件」における不正な検察権の行使に関する会長声明

arrow いわゆる「参院選大規模買収事件」における不正な検察権の行使に関する会長声明


日弁連は、本年8月2日付けで「いわゆる「参院選大規模買収事件」における不正な検察権の行使に関する会長声明」を公表した。


報道の内容

2019年に実施された参議院議員選挙に関する公職選挙法違反事件に関して、罪に問われている元広島市議会議員に対し、東京地検特捜部の検察官らが不起訴にすることを示唆した上で、検察の描いた事件の構図に沿って記憶と異なる供述をさせるような録音データが存在することなどが報道された。報道によれば、元法務大臣から受領した現金が買収資金であるとの認識を否定する供述をしていた市議会議員に対し、検察官らが①取調べにおいて、否認しなければ不起訴にすることや、否認すれば強制捜査の可能性があることを示唆して、買収資金と認める内容の供述調書に署名押印させ、その後、修正に応じず、②買収資金の認識を否認する供述を意図的に記録せずに、取調べの一部を録音・録画し、③12回にわたって実施した元法務大臣に対する被告事件の公判の「証人テスト」において、供述調書のとおり「買収された」と証言するよう繰り返し誘導し、証人尋問のリハーサルを行ったほか、口止めをするような発言も行っていたとされる。


会長声明の概要

一連の検察官らの行為は、検察の描いた事件の構図に沿って有罪判決を獲得するために、検察官に与えられた訴追や強制捜査の権限を濫用して虚偽の証拠を作出したものであり、不正な検察権の行使である。2010年に無罪判決が確定した郵便不正・厚生労働省元局長事件(村木事件)で発覚したものと同様の不正の繰り返しであり、事案の真相をゆがめ、市民の自由を侵害するものである。これを抑止することは刑事司法の喫緊の課題である。


日弁連は、改めてすべての事件について取調べの録音・録画を義務付けるなどの刑事司法制度の改革を進めるとともに、検察官、弁護人および裁判所が、それぞれ本来期待されている役割を果たすことによって、同様の事態の再発防止に全力で努めることを求めている。


(刑事調査室  嘱託 須﨑友里)



区分所有法制の改正に関する中間試案に対する意見書

arrow_blue_1.gif区分所有法制の改正に関する中間試案に対する意見書


区分所有法等改正の趣旨は、区分所有建物の老朽化、所有者不明化や非居住化の進行等に鑑み、その管理および再生の円滑化を図ることなどにある。法制審議会区分所有法制部会の「区分所有法制の改正に関する中間試案」が公表され、本年7月に意見募集に付された。
日弁連は、8月17日付けで意見書を取りまとめ、法務省に提出した。本稿では、区分所有建物の管理・再生に係る意見の概要を紹介する。


区分所有建物の「管理」に係る事項

中間試案では管理の円滑化を図る方策として、裁判所の決定により所在等不明者を集会の決議の母数から除外できる制度と、所有者不明専有部分管理制度などが提案された。本年4月から施行された改正物権法と同旨であり賛成した。共用部分等に係る請求権については、中間試案では、原則として管理者が前区分所有者の請求権も含めて代理行使できるとしつつ、別段の意思表示をした者は除外される。しかし、共用部分侵害者への損害賠償請求権を管理者が代理行使できず修補費用が不足する場合があるため、共用部分等に係る請求権は各権利者が個別に行使できない旨を明記すべきとの意見を述べた。


区分所有建物の「再生」に係る事項

再生の円滑化を図る方策のうち、建て替え決議の多数決要件の緩和については、基本的な多数決割合を現行法(5分の4以上)どおりとしつつ、一定の客観的事由(耐震上等の危険性)がある場合に限りこれを4分の3以上に緩和する案に賛成した。区分所有権の重要性を否定できないこと、建て替えにおける余剰床販売による収益確保が困難なため区分所有者の負担額が高額化し、建て替えが建物再生の現実的な選択肢ではなくなっていることなどがその理由である。


建て替え決議がされた場合の賃借権の消滅については、区分所有者の意向のみで賃借居住者が当然に利用権を失うのは、建物賃借人保護の観点から妥当ではないため、建物に耐震上等の危険性がある場合で、かつ、適正な補償と引き換えに、消滅請求ができるとすべきとの意見を述べている。


(司法制度調査会  委員 児玉隆晴)



ODR実証事業に関する活動報告

本年9月1日から公益財団法人日弁連法務研究財団とADR(裁判外紛争解決機関)センターは、ODR(オンラインでの紛争解決)実証事業「ONE」を開始した。この実証事業は、法律相談と紛争解決をオンラインでシームレスに提供するシステムの有用性を確認し、ODRの社会実装に向けた課題の抽出等を目標としている。


対象となる事案は養育費や賃料、貸金等の金銭債権の紛争である。時限的な実証事業で、利用者の手数料は無料とし、法律相談の利用申し込みは12月初旬までを予定している。9月28日現在、法律相談は合計47件寄せられ、そのうち8件がODR手続に移行している。


法律相談はチャットで行い、ODR手続に移行した後もまずは調停人と各当事者とのチャットによる事実整理を行って和解案の検討に入る。面談の実施が早期解決に資すると調停人が判断すれば、オンライン面談を実施することも可能である。


「ONE」は、日中に時間が取りにくい方や裁判所・弁護士会に出向くのが難しい方でも、時間的・場所的な制約を受けることなくスマートフォンが1台あれば利用できる。これを機にODRの認知度が高まることが期待される。


(ADR(裁判外紛争解決機関)センター  委員長 河井 聡)



ローエイシア福岡人権大会
大会テーマ 国境を越える:人権侵害と弁護士による保護
9月2日〜4日 福岡市

arrow ローエイシア福岡人権大会


ローエイシア(LAWASIA)人権大会は、アジア太平洋地域の人権に関わる法律家がさまざまな人権課題を議論し、交流する機会として、2019年にインド・ニューデリーで第1回が開催された。
第4回となる今回は、日本で初めての開催となり、現地での対面開催は4年ぶりである。日弁連からは、小林元治会長らが参加した。


ウェルカムレセプション・開会式

大会初日には福岡市内のホテルでウェルカムレセプションが行われ、国内外から多数のゲストが参加した。4年ぶりとなる対面での交流は終始盛況となった。

翌日の開会式は、福岡県弁護士会館で開催された。福岡県の服部誠太郎知事の挨拶に始まり、海外からの参加者を含めて250名超が参加し、厳粛な中にも熱量が感じられる式典となった。


(福岡県弁護士会 ローエイシア福岡人権大会準備委員会委員長 上田英友)


セッション

開会式に続き、2日間にわたって全体会および分科会セッションが行われた。「武力紛争や大規模人権侵害」、「移民・難民に対する人権侵害」、「アジア地域の死刑廃止に向けて」、「子どもの権利と環境破壊」、「オンライン上での女性への暴力」、「ビジネスと人権」の6つのテーマについて、10か国から集まった38名の登壇者による報告と議論が行われた。


小林会長は、全体セッションである「武力紛争や大規模人権侵害」に登壇し、日本の弁護士会が、戦争への深い反省から、基本的人権の擁護と平和のために取り組んできた歴史を紹介した。その上で、現在のロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対しても、2022年のG7バーリーダーズ会議で採択された共同声明に触れ、法の支配の観点からロシアの行動を非難し、ウクライナの弁護士との連帯を改めて求めた。


多くの参加者の熱気に包まれ、いずれのセッションも成功裏に終わった。大会のテーマである「人権侵害に対する国境を越えた弁護士の連帯」の必要性がすべてのセッションで強調され、ローエイシアの存在意義を改めて確認する大会となった。


ローエイシアは、本年11月24日から27日までインド・ベンガルールにおいて年次大会が開催される。


(国際人権問題委員会  副委員長 北村聡子)



日弁連短信

日弁連におけるダイバーシティ&インクルージョンの取り組み


ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂性)(以下「D&I」)は、近時、多様な生き方と社会の在り方を調和させる概念として、また、多様な人々がそれぞれの能力や個性を発揮できる環境を目指すものとして重視されている。


日弁連においては、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命を果たすため、これまで、さまざまな人権擁護活動を行ってきた。これらには人権救済活動のほか、女性、障がい者、LGBTQ、外国籍の方々等の権利向上のための活動も含まれる。


他方で、日弁連という組織に目を向けたとき、男女共同参画の取り組みの進展に比べると、D&Iの視点での活動は必ずしも十分とは言えないと思われた。前述した日弁連の人権擁護活動を、D&Iの観点から組織的・横断的に捉えることも必要である。


このような現状を踏まえ、日弁連は、2022年6月、「ダイバーシティ&インクルージョンの推進に関するワーキンググループ」(以下「WG」)を設置した。WGでは、日弁連におけるD&Iを実現して、多様な会員の活躍を推進すること、それをさらなる社会貢献につなげることを目指している。そのために、ジェンダーバイアスの除去、弁護士会内からのD&Iに関するハラスメント等の根絶、性別・障がい・国籍等の多様な背景を有する弁護士の活躍の推進、性別等による弁護士の経済的格差の是正に取り組むほか、これらを実現するための研修・啓発プログラムの作成等を行うこととしている。


これまでにWG内勉強会を複数回開催し、LGBTQ、障がい者、外国人・民族的少数者とD&I、法曹における多様性の必要性、経済団体や大学等におけるD&Iの取り組み等を学んだ。本年1月にはシンポジウム「ダイバーシティ&インクルージョンの最前線に学ぶ」を開催したほか、日弁連のこれまでの活動についてD&Iの視点で整理・把握を行った。本年度は、ハラスメントおよび差別的取扱いの実態把握のため、全会員を対象にしたアンケート調査を実施した。この調査結果も日弁連がD&Iを進めるに当たっての基本方針の作成、施策の立案に生かしていきたい。


今後も、日弁連におけるD&Iの取り組みを深化させていく必要がある。

(元事務次長 服部千鶴)



拘置支所等の刑事施設の廃止や収容業務停止について反対し、長期的・広域的な整備計画の立案とともに協議を求める意見書

arrow_blue_1.gif拘置支所等の刑事施設の廃止や収容業務停止について反対し、長期的・広域的な整備計画の立案とともに協議を求める意見書


近年、拘置支所等の廃止や収容業務停止(以下「廃止等」)が相次いでいる。
日弁連は、本年8月18日付けで「拘置支所等の刑事施設の廃止や収容業務停止について反対し、長期的・広域的な整備計画の立案とともに協議を求める意見書」を取りまとめ、法務大臣に提出した。本稿では、その要旨を報告する。


拘置支所の廃止等の撤回・見直し

拘置支所等の廃止等は、被告人等と弁護人が地理的に隔絶し、被告人等が弁護人の援助を受ける権利、弁護人の防御権を大きく制約する。警察の留置施設は、あくまで代用にすぎず、医療体制も不十分で自白強要などの弊害も大きい。廃止等ではなく、拘置所への勾留体制の整備が本来のあるべき姿である。よって、施設の老朽化や収容人員の減少、費用削減等を理由に、拘置支所等の廃止等を行うべきではない。すでになされた収容業務停止の決定や計画は撤回し、または必要性や時期を見直すべきである。


長期的・広域的な整備計画の立案・実行

拘置支所等の廃止等は、被告人等と、同人が生活の本拠を置く地域の社会資源との分断を生じさせ、早期の社会復帰を阻害する。地域司法を充実させ、被告人等の社会復帰のための社会資源との連携による再犯防止の観点からも、拘置支所等の維持が必要である。個別の施設の収容人数や老朽化のみの短期的展望による廃止等ではなく、既存施設の存続(修繕・建て替え)を前提とした、長期的・広域的な整備計画を立案し実行すべきである。


地元弁護士会等との協議

刑事司法の役割を十全に果たすためには、被告人等の権利擁護等に携わる弁護士らの意見を踏まえ、再犯防止推進の一端を担う地方自治体の理解を得つつ、長期的・広域的視野に立った整備計画を策定することが不可欠である。


補完措置の導入

長期的・広域的な計画に基づく拘置支所等の建て替え等のため一時的に被告人等が遠方の施設に収容される場合、弁護人の防御活動の一層の充実のために補完措置(テレビ電話等)の導入を図るとともに、可及的速やかにオンライン接見を実現させるべきである。


(刑事拘禁制度改革実現本部本部長代行 青木和子)



弁護士任官者の紹介

10月1日付けで次の会員が裁判官に任官した。


内海 雄介氏


59期(元東京弁護士会)
菊地綜合法律事務所にパートナー弁護士として勤務。
〈初任地 東京高裁〉





石本 恵氏


新63期(元福岡県弁護士会)
弁護士法人女性協同法律事務所に勤務。
〈初任地 大阪高裁〉





新事務次長紹介

服部千鶴事務次長(愛知県)が退任し、後任には、10月1日付けで籔内正樹事務次長(兵庫県)が就任した。


籔内 正樹(兵庫県・54期)

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兵庫県弁護士会から初めて事務次長に就任することとなりました。社会の大きな変化が続く中、市民の期待に応えて様々な課題に取り組む全国の会員の皆さまの活動を支えるべく、日弁連の執行部の一員として、力を尽くして誠実に職務を務めます。どうぞよろしくお願いします。


集まれ! 未来の法曹たち!! 「法曹という仕事」
8月16日 最高裁判所

arrow 集まれ! 未来の法曹たち!! 「法曹という仕事」


高校生を対象に、法曹三者の職業の魅力や社会的役割を紹介するイベントを開催した。
4年ぶりの対面開催となり、学生ら約270人(オンライン参加を含む)が参加した。(共催:最高裁判所、法務省・最高検察庁)


最高裁判事による講話

岡正晶最高裁判事は、憲法と裁判の重要性を指摘した上で、法曹は、社会や人間と向き合い、そのために力を尽くすプロフェッショナルであると、その社会的意義を語った。自身が弁護士であった経験を踏まえ、一票の格差訴訟や同性婚違憲訴訟等の弁護士による活動にも触れ、社会正義を実現すべく奮闘する弁護士の仕事は、困難も多いが依頼者の人生を豊かにできると述べるとともに、次世代の法曹への期待を寄せた。


法曹三者による刑事裁判の解説

NHK・Eテレの「昔話法廷・三匹のこぶた」(被告人である弟ブタによるオオカミの殺害が、正当防衛行為であったかを争点にした裁判員裁判ドラマ)を題材に、法曹三者がそれぞれの立場から訴訟活動を解説した。


加地裕武会員(東京)は、弁護人の立場から、反対尋問では証人供述の信用性に疑問を持たせるために必要な事項を組み立てて尋問に臨んでいると解説した。遠藤かえで会員(東京)は、弁護人は被疑者・被告人の味方として活動する唯一の存在であり、その意義とやりがいを感じていると語った。


解説の中では、裁判員の適格年齢が18歳以上に引き下げられたことを踏まえ、予断を持つことなく証拠によって判断するという、裁判員の姿勢にも言及があった。


法曹が語る仕事の魅力


法曹三者がおのおのの仕事の意義や魅力を語るパートで、ベンチャー企業等の企業法務に携わる三井睦貴会員(東京)は、自身の関わる企業が生み出す新たなサービスや製品といった価値を法的側面から支援し、その価値が社会に受け入れられたときに大きな充実感を得られると話し、先端技術や経済発展の分野でも社会貢献できる弁護士業務の魅力を語った。出口俊太郎会員(東京)は、弁護士業務のオンライン化が進んでいることに触れ、柔軟な働き方ができることも弁護士の魅力であると紹介した。


参加者は、質疑も交えて法曹三者の話に熱心に耳を傾けていた。



シンポジウム
いまこそ犯罪被害者のための補償法をつくろう
8月7日 弁護士会館

arrow_blue_1.gifシンポジウム「いまこそ犯罪被害者のための補償法をつくろう」


日弁連は、本年3月16日付けで「arrow_blue_1.gif犯罪被害者等補償法制定を求める意見書」を取りまとめた。本シンポジウムでは、犯罪被害者等が置かれた厳しい現状を改めて共有し、犯罪被害者等補償法(以下「補償法」)制定に向けた課題について議論した。


補償法制定の意義

犯罪被害者支援委員会の今枝隆久事務局委員(愛知県)は、犯罪被害者等は、被害に起因して収入の減少や途絶、医療費をはじめとするさまざまな経済的負担を余儀なくされると指摘した。その上で、犯罪被害者等の多くは、時間や費用の問題から加害者への損害賠償請求を断念したり、債務名義を得ても債権の回収ができない事態に直面するなど、被害回復が困難な現状にあると述べた。


今枝委員は、連帯共助を旨とする現行の犯罪被害者等給付金支給法による給付金では、犯罪被害者等の経済的回復に十分ではないとし、犯罪被害者等基本法(以下「基本法」)の理念にのっとり、国の責務として犯罪被害者等の損害を回復し、その権利を保障する補償法制定が必要だと語った。

犯罪被害者本人や家族からもビデオメッセージが寄せられた。事件後の生活での苦心や支援が十分に受けられないことへの憤りを率直に語り、「当事者の声を反映した制度づくりを」と強く訴えた。


泣き寝入りのない制度を

委員らによるパネルディスカッションでは、あるべき制度について意見を交わした。加害者への債務名義に基づき、国が被害者等へ立替払いを行って加害者に求償する北欧の制度を取り上げ、被害者等が自ら回収に動かなければならない現状制度の抜本的見直しが必要とした。登壇者らは、補償法制定によって、被害者等に認められた「個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利」(基本法3条1項)の実現を果たすべきと締めくくった。



第16回高校生模擬裁判選手権
8月5日 東京・大阪・金沢・高松・オンライン

arrow_blue_1.gif第16回高校生模擬裁判選手権


16回目を迎えた本選手権は、オンラインのほか、全国4会場で4年ぶりの対面開催となった。全国各地の32校・30チームが参加し、実践型の刑事模擬裁判に挑戦した。
本稿では、関東大会の模様をお伝えする。(共催:最高裁判所、法務省・検察庁ほか)


共謀共同正犯の成否~大麻取締法違反を題材に

事案は、被告人が共犯者と共謀し、営利目的で大麻草の栽培・販売を行ったというものである。被告人は、実行行為者である共犯者による大麻草栽培・販売の認識がなく共謀していないと主張する。争点は共謀の有無である。



模擬裁判は、実際の刑事手続と同様に進められた。参加校は東京地裁の法廷で各校2試合ずつ(検察官役・弁護人役各1試合)行った。


現役の裁判官・検察官・弁護士のほか、学者やジャーナリストが審査員を務めるとともに、支援弁護士は、大会前から各校の準備をサポートした。


訴訟活動の実践

証人尋問、被告人質問では、事前の綿密な準備がうかがわれる訴訟活動が展開された。ポイントとなる質問では、書証を提示するなどの工夫が凝らされたほか、手控え資料に頼ることなく臨機応変な質問を重ねる生徒も見られ、審査員をうならせた。


論告・弁論では、証拠構造を整理して主張の要旨をまとめた模造紙を提示するなど、伝わりやすさを意識したプレゼンテーションが繰り広げられた。


講評・表彰

審査員による講評では、「実際の裁判に引けを取らない出来栄えである」、「法廷に顕出された証言を踏まえた主張が展開され、分析能力の高さに驚かされた」など、各生徒への賞賛の声が上がった。


閉会式では、優勝・準優勝校と審査員特別賞の表彰が行われ、生徒らは互いの奮闘をたたえ合った。



2023年日弁連子どもの権利委員会夏季合宿第2企画
子どもの被害者等への聴取を中心とした支援の在り方
~刑法・刑事訴訟法の一部改正法を踏まえて~
8月23日 弁護士会館

arrow シンポジウム「子どもの被害者等への聴取を中心とした支援の在り方~刑法・刑訴法改正を踏まえて~」


本年6月、性犯罪等に関する刑法・刑事訴訟法の一部改正法が成立した。
本シンポジウムでは、法改正の経緯や概要、子どもの発達や性被害を受けた子どものトラウマに関する理解を深めるとともに、子どもへの聴取の在り方や課題について議論した。


刑事訴訟法321条の3の新設

改正刑事訴訟法では、被害者等の聴取結果に係る録音・録画記録媒体に関する321条の3(以下「特則」)が新設された。司法面接的手法による聴取結果の録音・録画記録媒体について、反対尋問の機会を保障した上で特別に証拠能力を認めるもので、本年12月以降、子どもが性被害者の事案等で適用される見通しである。


木田秋津会員(東京)は、特則をめぐる法制審議会の議論を概説し、特則では対象者が子どもに限定されておらず、拡大解釈のおそれがあることを指摘した。また、法改正後は、子どもの負担軽減と供述の信用性確保の観点から、子ども特有の認知、言語発達等への理解を深めることが、弁護士にも一層重要になると述べた。


講演「性犯罪被害が子どもにもたらす影響について」

齋藤梓准教授(上智大学)は、子どもの発達段階、性被害を受けた子どものトラウマや刑事手続が子どもの心理に及ぼす影響について解説した。また、性被害を受けた子どもと接する際の留意点について、具体的な会話の方法を例示しながら説明し、子どもである被害者の心理状態や特有の認知・発達上の課題などへの理解と配慮を求めた。


子どもからの聴取に関するガイドライン策定の必要性

飛田桂会員(神奈川県)は、米国の子ども権利擁護センター(National Children's Advocacy Center)における司法面接の運用や、自身が関与するNPO法人を通じた研究成果を報告した上で、子どもたちにとって司法面接は有用であり、その導入が進められるべきと述べた。また、特則の前提として、子どもからの聴取自体が適正に行われることが不可欠であり、そのためには、関係機関・団体等が連携して、誰が、どこで、どのように行うかなどを含めた聴取の在り方に関するガイドラインの整備・策定が必要であると訴えた。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.184

児童相談所における弁護士業務
弁護士の配置義務化から7年

2016年の児童福祉法改正により、すべての児童相談所(以下「児相」)に弁護士配置(弁護士の配置またはこれに準ずる措置)が義務化され、本年10月で施行から7年が経過しました。2024年4月からは、一時保護の開始に司法審査が導入されるなど、児相での弁護士の活躍場面はますます広がっています。
今回は、神奈川県児相の嘱託弁護士である藤田香織会員(神奈川県)と、奈良市児相の常勤弁護士である浦弘文会員(奈良)に、児相に携わる弁護士の業務や、児相が抱える課題等についてお話を伺いました。

(広報室嘱託 長瀬恵利子)


児相とのかかわり

(藤田)2009年4月から横浜市児相で嘱託弁護士を務めた後、神奈川県児相の非常勤弁護士を経て、本年4月から同所の嘱託弁護士として児相の業務を続けています。神奈川県児相は以前から非常勤弁護士を配置していましたが、オンコールでいつでも相談できる制度も導入して体制を強化しました。これにより、緊急性が求められる相談への速やかな対応や、判断が難しいケースで複数の弁護士による多角的な視点での検討を行っています。


(浦)本年3月に公募で奈良市に採用され、児相の常勤弁護士として執務しています。奈良市児相は、児童虐待の相談等に地域で切れ目のない対応をすべく、中核市の児相として2022年4月に新設されました。もう1名の常勤弁護士とともに業務に励んでいます。奈良市に採用される前は、兵庫県明石市の職員として約6年間、同市児相や政策部署等で執務していました。


業務の内容

(藤田)児相職員からの相談への助言が中心ですが、子どもから直接話を聞き、児童福祉司等と連携してケースワークを行うこともあります。相談事項は、児童福祉法28条の審判を申し立てる場合の見込み、親権の考え方や親が逮捕された場合の刑事手続の説明など多岐にわたります。


(浦)自らケースワークを行うほか、法律やケースに関する職員からの相談への対応、援助方針会議への出席、審判手続など、児相業務全般を担っています。


弁護士配置による効果

(浦)常勤弁護士は職場の一員であり、同じ目線、スピード感で業務を行います。困り事が生じたら即座に助言・対応できるのは常勤弁護士の強みだと思っています。また、児相職員として多くの事例に触れる機会があり、法的に問題がないと思われていても、弁護士の目が入ることで、こちらから主体的に担当者に働きかけることもあります。制度の構築や拡充といった面に関与できることも、常勤弁護士ならではだと思います。


(藤田)弁護士配置によって児相の業務における弁護士への相談等がある程度浸透してきたことで、児相と弁護士が互いの専門性をよく理解し、協働して問題を解決しようという意識が高まってきたことを実感しています。法的な問題がクリアになれば、児相職員それぞれが専門職としての本来の業務に専念することもできます。児相が弁護士を配置するメリットの一つは、忌憚のない意見交換ができるところです。弁護士の立場からも、常勤だけでなく、非常勤や嘱託といった柔軟な働き方ができるのはありがたいです。


児相が抱える課題

(藤田)児相は、弁護士以外にも児童福祉司や児童心理司など、専門的な知見を持った職員がチーム一丸となって業務に取り組んでいますが、業務の担い手が慢性的に不足しています。職員が本来の力を発揮して一つ一つのケースに適切に対応できるよう、専門性に見合う待遇への見直しなど、人材確保策の整備が必要です。


(浦)常に人材不足が叫ばれる環境に加え、法改正により業務が増えることもあり、私も人材確保は大きな課題だと考えています。また、常勤弁護士については、組織体制の継続性という観点から後進のことも考えていかなければならないと思っています。


会員へのメッセージ

(藤田)子どもが関係する事件では、子どもが権利主体であることに配慮した対応をお願いできればと思います。また、児相の業務は、一時保護をはじめとする行政処分を扱うもので、弁護人や代理人の業務とは大きく異なりますが、関心を持って仲間になっていただける方がいたら嬉しいです。


(浦)私自身、児相に勤務して初めて得た知識や視点が多く、それと同時に弁護士人生の中で得難い経験をしていると実感しています。児相の常勤弁護士になるために、児童福祉に関する深い知識があることは必要条件ではありません。子どもの権利擁護に興味がある方は、ちゅうちょせずに飛び込んでみてください。



日弁連委員会めぐり124
ADR(裁判外紛争解決機関)センター

今回の委員会めぐりは、ADR(裁判外紛争解決機関)センター(以下「センター」)です。河井聡委員長(第一東京)、蓑毛誠子事務局長(第二東京)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 枝廣恭子)


弁護士会ADRの支援

センターは、弁護士会ADR間の連携を図り、各地での活動を支援しています。例年、全国弁護士会ADRセンター連絡協議会で最新トピックを共有し、各地の事務局等が参加する実務懇談会では運営上の工夫や課題の意見交換をしています。


オンラインADR(ODR)の実証事業

法務省に設置されたODR推進検討会は、2022年3月に「ODRの推進に関する基本方針〜ODRを国民に身近なものとするためのアクション・プラン」を公表し、同方針に基づいてODRの実証事業の実施を決定しました。公益財団法人日弁連法務研究財団(以下「財団」)が実証事業を受託し、センターがその運営を担っています。


センターではチャットを使って法律相談から調停までを行うシステムを整備し、本年9月1日から法律相談の受け付けを開始しました。この実証事業の結果は、財団を通じて、2024年3月に法務省に報告されます。


改正ADR法の影響

本年4月28日に公布され、1年以内に施行される改正ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律)では、認証ADRにおける和解合意で執行認諾合意があるもの(特定和解)に、裁判所の執行決定を経て執行力付与が可能となります。


これにより、ADRの利用に当たって、強制執行までを見据えた紛争解決への当事者ニーズの高まりが予想されます。その影響は特定和解制度がない非認証ADRにも及ぶと考えられ、非認証ADRでも、手続全体への理解を深める必要があります。例えば、あっせん事件でも、仲裁合意を得て仲裁手続に移行し仲裁決定をすることで、いわば特定和解の代替手段としての仲裁の活用が考えられます。研修などで会員の皆様にも必要な情報を提供していく予定です。


会員へのメッセージ

近年、急激に裁判のIT化が進み、ADRもIT化・オンライン化が促進されるなど、紛争解決の制度は大きく変わってきています。変革への対応をいとわず、ODR実証事業で取り入れているような新しいシステムも積極的に試してください。訴訟よりもADRが適している事件も多く存在します。ADRを、紛争解決手段の選択肢の一つとして、ぜひご活用ください。



ブックセンターベストセラー (2023年8月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

利用規約・プライバシーポリシーの作成・解釈 

松尾博憲、殿村桂司、逵本麻佑子、水越政輝/編著  商事法務
2

ChatGPTと法律実務

松尾剛行/著 弘文堂
3

弁護士法第23条の2照会の手引〔七訂版〕

第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会/編 第一東京弁護士会
4 リーガル・プログレッシブ・シリーズ 離婚調停・離婚訴訟〔四訂版〕  秋武憲一、岡健太郎/編著 青林書院
5 M&Aを成功に導く 法務デューデリジェンスの実務〔第4版〕  長島・大野・常松法律事務所/編 中央経済社
6 新基本法コンメンタール 相続〔第2版〕  松川正毅、窪田充見/編 日本評論社
7

調停等の条項例集―家事編―

星野雅紀/著 司法協会

弁護士はこう訊く 裁判官はこう聴く 民事尋問教室 

牧田謙太郎、柴﨑哲夫/著 学陽書房

弁護士職務便覧 令和5年度版

東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会/編 日本加除出版
10

Q&A 相続における金融資産の法律実務 

本橋総合法律事務所/編 新日本法規出版



日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング(総合) 2023年7月~8月

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順位 講座名 時間
1 民事裁判手続IT化実務対応 これだけ受ければなんとかなる 79分
2 相続分野に関する連続講座2022(第4回)遺言執行 109分
3 民事裁判書類電子提出システム「mints」操作説明会(第3次運用開始対応) 119分
4 よくわかる最新重要判例解説2023(家事・相続編) 115分
5 令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント 118分
6 離婚事件実務に関する連続講座 第4回 婚姻費用・養育費(2022) 90分
7 民事信託入門-民事信託を正しく活用するために 119分
8 2022年度ツアー研修 第2回 相続分野に関する連続講座2022(第1回)遺産分割1(相続人確定、遺産範囲・評価、遺産分割の手続等) 148分
2022年度ツアー研修 第4回 相続分野に関する連続講座2022(第3回)遺言書作成、遺留分 147分
成年後見実務に関する連続講座 第2回 成年後見人の事務1 64分
債務整理事件処理における留意事項~多重債務者の生活再建のために~ 87分


お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9826)