日弁連新聞 第588号

担保法制の見直しに関する中間試案について

2022年12月6日、法制審議会担保法制部会から「担保法制の見直しに関する中間試案」(以下「中間試案」)が公表され、意見募集(パブリックコメント)が本年3月20日まで実施されている。現在、日弁連では、これに対応すべく意見書案の取りまとめを行っているが、本稿では中間試案の内容について解説する。


中間試案の概要

中間試案では、これまで明文上の規定はなかった動産譲渡担保・所有権留保売買といった動産を目的とする非占有型担保や債権譲渡担保、集合動産や集合債権を目的とする譲渡担保権等を明文化するため、その効力や対抗要件、実行方法について過去の判例等を踏まえた整理を行いつつ、新たな制度の提案も試みている。


具体的な内容

動産譲渡担保の対抗要件については、占有改定を含む引き渡しを対抗要件とするほかに登記ができるものとし、登記された場合は引き渡しがあったものとみなすとされている。そして、その優劣関係は、対抗要件具備の先後で決めるという考えに加え、登記による対抗要件を備えた場合は占有改定により対抗要件を備えたものに優先するというルールが提案されている。

実行方法については、私的実行として帰属清算方式と処分清算方式を定め、さらに民事執行法上の動産競売手続を利用できるようにしている。私的実行については、担保権者による実行通知と一定期間の経過を要件とするか否かや、目的物の引き渡しと同時履行の関係に立つ清算金の範囲について暫定的な清算金とするか否かなどは両案が提案されている。一方、集合動産譲渡担保については、実行通知を必要とし、実行通知後に加入した動産には担保権の効力が及ばない(いわゆる固定化)とされた。


倒産手続においては、別除権あるいは更生担保権として整理されたほか、動産の私的実行が短期間で終了するため、担保権実行手続中止命令の対象とすることや担保権実行手続禁止命令の新設などが提案された。

また、事業のために一体として活用される財産全体を包括的に担保目的とする事業担保制度の創設が検討されているほか、ファイナンスリースや預金担保等についての規定を設けることも検討されている。


会員向け研修

中間試案の内容は、これら以外にも多岐にわたるが、2022年12月に開催した「担保法制に関する全国勉強会」にて詳しく解説し、日弁連総合研修サイトのeラーニングに掲載している。


(司法制度調査会特別委嘱委員 板垣幾久雄)



シンポジウム
ダイバーシティ&インクルージョンの最前線に学ぶ
1月26日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「ダイバーシティ&インクルージョンの最前線に学ぶ」


近年、多様な人材がそれぞれの能力や個性を発揮して活躍するダイバーシティ&インクルージョン(以下「D&I」)の考え方が社会に浸透している。本シンポジウムでは、D&Iの取り組みに注力する方々を招き、さまざまな視点から日弁連におけるD&I推進について議論した。


開会挨拶

小林元治会長は、日弁連として男女共同参画推進に継続的に取り組んできたが、さらに広い視野を持ってD&Iを推進していくため、本シンポジウムをそのキックオフとしたいと挨拶した。


基調講演

後援する柄澤康喜氏

柄澤康喜氏(MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社取締役会長、一般社団法人日本経済団体連合会審議員会副議長・ダイバーシティ推進委員長)、菊池桃子氏(女優、戸板女子短期大学客員教授)が、D&I推進とその課題について講演した。


柄澤氏は、潜在的成長率の伸び悩みなど課題を抱える日本経済が安定的・持続的に成長するためには、多様な人材や価値観を受容していくD&Iの推進が不可欠であると語った。近時、D&IはDE&Iとも言われるが、EはEquity(公平・公正)であってEqual-ity(平等・均等)ではないことを意識し、一人一人の個性を最大限に発揮するために多様性を受容した環境整備と組織作りが必要だと強調した。


パネルディスカッション

柄澤氏、菊池氏、小林会長が登壇し、日弁連におけるD&Iについて議論した。小林会長からは、弁護士の男女別年齢構成や所得分布などの報告がなされた。その上で、日弁連の会務におけるジェンダー・ギャップの解消は大きな課題であるとともに、D&Iはさまざまなバックグラウンドや価値観を持つ個人および企業からの多種多様なニーズに応える弁護士にとって、重要な理念であると締めくくった。



衆議院選挙定数配分に関する最高裁大法廷判決についての会長声明

arrow_blue_1.gif衆議院選挙定数配分に関する最高裁大法廷判決についての会長声明


日弁連は1月27日、「衆議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明」を公表した。


本年1月25日、最高裁大法廷は、1票の較差が最大で2・079倍となった2021年10月31日の衆議院議員総選挙について、都道府県の人口比を基に定数を配分するアダムズ方式が導入されることを肯定的に評価した上で、「本件選挙当時における選挙区間の投票価値の較差は、自然的な人口異動以外の要因によって拡大したものというべき事情はうかがわれないし、その程度も著しいものとはいえない」として、合憲であるとした。


日弁連は、再三にわたり、選挙権は国民の政治参加において最も重要な権利であり、1票の投票の価値は、徹底した人格平等の原則を基礎として、可能な限り1対1でなければならないと主張してきた。今回の較差は2倍を超えるものであり、決して容認できるものではない。判決を受け、日弁連は、直ちに抜本的な選挙制度の見直しを求める会長声明を公表した。


2022年12月に示された新たな衆議院小選挙区の区割りでは、1票の較差は1・999倍となることが決まっている。かろうじて2倍は切っているが、ほぼ2倍であることに変わりはない。引き続き、選挙区別議員1人当たりの人口数を1対1にできる限り近づけるよう、選挙制度の見直しを求めていく必要がある。

(憲法問題対策本部  事務局長 千木良正)



「包括的性教育」の実施とセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツを保障する包括的な法律の制定及び制度の創設を求める意見書

arrow_blue_1.gif「包括的性教育」の実施とセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツを保障する包括的な法律の制定及び制度の創設を求める意見書


日弁連は、1月20日付けで「「包括的性教育」の実施とセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツを保障する包括的な法律の制定及び制度の創設を求める意見書」を取りまとめ、文部科学大臣、厚生労働大臣等に提出した。


概要

本意見書は、性に関わるさまざまな人権問題を解決するために、国および地方公共団体に対して、①学校教育における「包括的性教育」の実施、②セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(以下「SRHR」、「性と生殖に関する健康と権利」と訳されることが多い。)を保障する包括的な法律の制定および制度の創設を求めている。


包括的性教育の実施

本意見書では、日本国内の性に関するさまざまな人権問題や課題について、日本の性教育に政治や行政が介入するなどの歴史的経過によって、学校教育における性教育が極めて不十分な状況にあることが背景要因になっていると指摘している。


国際的には、ユネスコ等の国際機関が性教育の国際水準となる「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を策定し、国連子どもの権利委員会や女性差別撤廃委員会は包括的性教育の実施を求めている。同ガイダンスは、科学的に正確で人権やジェンダー平等を基盤とした性に関する知識、スキル、態度や価値観を年齢や成長に即して包括的なカリキュラムに基づき学習することを目的としている。


こうした国際的背景を踏まえ、日本の学校教育においても同ガイダンスに準拠した「包括的性教育」を実施するよう提言している。


SRHRを保障する包括的な法律の制定・制度の創設

本意見書は、SRHRの定義を概説した上で、日本における避妊・人工妊娠中絶へのアクセスの現状と課題を中心に、SRHRに関する誤った認識・無理解と保障する法律や制度の欠如を指摘し、包括的性教育とSRHRは相互に補完的な関係にあるとした。


SRHRの保障に必要な本質的な要素は「利用可能性」「(物理的、経済的、情報的)アクセス可能性」「受容可能性」「質」である。そのため、経済的補助等の財政的裏付けを伴った大胆な制度設計、正しい知識の普及、相談・指導体制の整備、関連施策との連携と各施策におけるSRHRの主流化を提言した。


(両性の平等に関する委員会委員    藤井 豊  同特別委嘱委員 鈴木隆文)



2022年懲戒請求事案集計報告

日弁連は、2022年(暦年)中の各弁護士会における懲戒請求事案ならびに日弁連における審査請求事案・異議申出事案および綱紀審査申出事案の概況を集計して取りまとめた。


各弁護士会が2022年に懲戒手続に付した事案の総数は3076件であった。


懲戒処分の件数は102件であり、前年と比べると2件減っているが、会員数との比では0.22%(前年は0.23%)で、ここ10年間の値との間に大きな差はない。


懲戒処分を受けた弁護士からの審査請求は30件であり、2022年中に日弁連がした裁決内容は、棄却が22件、処分取消が3件、軽い処分への変更が3件であった。


弁護士会懲戒委員会の審査に関する懲戒請求者からの異議申出は44件であり、2022年中に日弁連がした決定内容は、棄却が26件、決定取消(懲戒しないから戒告)が2件、重い処分への変更が3件等であった。


弁護士会綱紀委員会の調査に関する懲戒請求者からの異議申出は1740件、綱紀審査申出は586件であった。日弁連綱紀委員会および綱紀審査会が懲戒審査相当と議決し、弁護士会に送付した事案は、それぞれ4件、0件であった。


一事案について複数の議決・決定(例:請求理由中一部懲戒審査相当、一部不相当など)がなされたものについてはそれぞれ該当の項目に計上した。

終了は、弁護士の資格喪失・死亡により終了したもの。日弁連においては、異議申出および綱紀審査申出を取り下げた場合も終了となるためここに含む。


表1:懲戒請求事案処理の内訳(弁護士会)

新受 既済
懲戒処分 懲戒しない 終了 懲戒審査開始件数
戒告 業務停止 退会命令 除名
1年未満 1~2年
2013 3347 61 26 3 6 2 98 4432 33 177
2014 2348 55 31 6 3 6 101 2060 37 182
2015 2681 59 27 3 5 3 97 2191 54 186
2016 3480 60 43 4 3 4 114 2872 49 191
2017 2864 68 22 9 4 3 106 2347

42

211
2018 12684 45 35 4 1 3 88 3633 21 172
2019 4299 62 25 0 7 1 95 11009 38 208
2020 2254 61 28 7 8 3 107 4931 22 142
2021 2554 63 27 6 6 2 104 2281 38 176
2022 3076 62 27 5 6 2 102 3145 51 196


日弁連による懲戒処分・決定の取消し・変更は含まれていない。

新受事案は、各弁護士会宛てになされた懲戒請求事案に弁護士会立件事案を加えた数とし、懲戒しないおよび終了事案数等は綱紀・懲戒両委員会における数とした

2013年の新受事案が3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1701件)あったこと等による。

2016年の新受事案が3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1511件)あったこと等による。

2018年の新受事案が前年の約4倍となったのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が4例(4例の合計1777件)あったこと、特定の会員に対する同一内容の懲戒請求が8640件あったこと等による。

2019年の新受事案が3000件を超えたのは、関連する事案につき複数の会員に対する同種内容の懲戒請求が合計1900件あったこと等による。

2022年の新受事案が3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が4例(4例の合計1097件)あったこと等による。


表2:審査請求事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受(原処分の内訳別) 既済 未済
戒告 業務
停止
退会
命令
除名 棄却 原処分
取消
原処分
変更
却下・
終了等
2020 24 14 3 0 41 25 2 4 1 32 36
2021 19 10 2 0 31 39 1 4 2 46 21
2022 18 11 1 0 30 22 3 3 0 28 23


原処分取消の内訳
【2020年〜2022年:戒告→懲戒しない(6)】

原処分変更の内訳
【2020年:退会命令→業務停止9月(1)、業務停止3月→業務停止2月(1)、業務停止2月→業務停止1月(2)】
【2021年:業務停止6月→業務停止3月(3)、業務停止2月→業務停止1月(1)】 
【2022年:退会命令→業務停止2年(1)、業務停止6月→業務停止4月(1)、業務停止2月→業務停止1月(1)】 


表3:異議申出事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受 既済 未済
棄却 取消 変更 却下 終了 速やかに
終了せよ
2020 41 31 1 1 0 1 2 36 32
2021 32 39 1 0 0 0 2 42 22
2022 44 26 2 3 0 5 2 38 28


取消の内訳
【2020〜2022年:懲戒しない→戒告(4)】

変更の内訳
【2020〜2022年:戒告→業務停止1月(3)、業務停止3月→業務停止4月(1)


表4:異議申出事案の内訳(日弁連綱紀委員会)

新受 既済 未済
審査相当 棄却 却下 終了 速やかに
終了せよ
2020 856 4 908 18 46 53 1029 283
2021 819 8 726 18 5 94 851 251
2022 1740 4 1194 427 5 86 1716 275


2022年の新受事案のうち、同一の異議申出人による計836件の異議申出事案を含む。


表5:綱紀審査申出事案処理の内訳(日弁連綱紀審査会)

新受 既済 未済
審査相当 審査不相当 却下 終了
2020 372 1 357 11 1 370 220
2021 358 2 403 49 2 456 122
2022 586

0

407 6 3 416 292



研修会
自治体法務に関する総合研修
(令和4年度) 1月16日・25日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif研修会 自治体法務に関する総合研修(令和4年度)


弁護士や自治体職員、地方議会議員などを対象に、条例制定等に関する実践的な情報の提供や実務的なスキルの向上を目的として、自治体法務に関する研修会を開催した。
本稿では、2日間にわたる研修会のうち、前半日程の様子を紹介する。


多文化共生の推進に向けた基本法と条例制定

山脇啓造教授(明治大学)は、各地で制定されてきた多文化共生の推進に向けた条例を挙げ、自治体が1970年代から地域の実情に応じて多文化共生を巡る課題に率先して取り組んできたことを紹介した。


そして、多文化共生社会を総合的かつ計画的に推進するためには根拠法たる基本法が必要だが、国の取り組みは遅れているとし、政府が2022年6月に公表した「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」の最大の問題点は、基本法や体制整備への言及がないことであると指摘した。


また、自治体が多文化共生社会の推進に取り組む地域の学校やNPOなどと協力し、条例制定や体制整備を検討することが重要であると述べ、地域における関係者との連携や役割分担を示すことが住民の理解を深めることにもつながると、参加者に呼びかけた。そして、各自治体での活発な動きが基本法の制定を後押しすると期待を寄せた。


ケアラー支援条例の制定

2020年3月、埼玉県は全国で初めてのケアラー支援条例を制定した。


吉良英敏氏(埼玉県議会議員)は、高齢化のスピードが特に速い埼玉県では、介護者に対する社会的・政策的な支援を求める市民団体の活動が活発であり、市民と協力して調査等を進め、議員提案条例として議会に提出したことが円滑な条例制定につながったと説明した。条例を制定したことによる効果として、ケアラーが新型コロナウイルスに感染した場合にケアを継続できる体制の構築など、コロナ禍の緊急支援策として約4億円の予算化を実現できたと紹介した。


また、ケアラー支援は社会全体で行うべきであり、県内での支援体制を充実させるとともに、国に対する法制化の働き掛けも進めていきたいと語った。



シンポジウム
「袴田事件」から、死刑えん罪を考える 1月17日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif「袴田事件」から、死刑えん罪を考える


死刑制度の廃止を考える際の重要な視点として、死刑えん罪の問題がある。
今回のシンポジウムでは、袴田事件に焦点を当て、死刑制度に関する問題や死刑えん罪などをテーマに講演を行った。多くの国会議員からもメッセージが寄せられた。


弁護団報告

袴田事件弁護団事務局長の小川秀世会員(静岡県)が、袴田事件の有罪判決および再審開始を棄却した裁判所の認定、2022年12月まで東京高裁で行われた差し戻し審の審理の経過を紹介した。差し戻し審では、新証拠や他の証拠から検察官が証拠として提出した5点の衣類が犯行着衣であると認定できておらず、再審開始を確信していると力強く語った。そして、人は不完全な存在であり絶対の刑(死刑)を科すことは許されないことを袴田事件は示していると指摘した。(差し戻し審の決定は、3月13日に予定されている。)


特別講演

講演する佐藤大介氏佐藤大介氏(共同通信社編集委員兼論説委員)は、日本の死刑囚は死刑の確定によって外部との接触が厳しく制限されるため、社会的な生命が絶たれ、いわば「二度死ぬ」ことになると述べた。1980年代に4件の死刑再審無罪判決が出たにも関わらず、それらは例外的な事案と捉えられ、原因などの議論が十分になされてこなかったと指摘した。


また、諸外国と比べて日本では、死刑執行という究極の国家刑罰権の行使に関して、法務省が執行経過や実態を公表してこなかったと述べ、死刑廃止に向けた議論を進める前提として、死刑に関する情報公開制度の見直しに取り組むことを提案した。


ドキュメンタリー上映

上映された映像ドキュメンタリー「凍り付いた魂-袴田巖に襲いかかった死刑えん罪」の中で、浜田寿美男名誉教授(奈良女子大学)と精神科医の中島直氏は、袴田巖氏が自白するに至ったのはなぜなのか、自白プロセスの問題点、拘禁症を患った背景などを解説した。また、拘禁中の巖氏と面会を続け、現在は一緒に生活している姉の袴田ひで子氏は、再審開始決定がなされることを切に願っており、釈放された今も死刑囚のままである巖氏に、無罪判決によって本当の自由を与えて欲しいと強く訴えた。



〜障害者権利条約から〜
精神障害のある人の未来をひらく集い
1月26日 衆議院第一議員会館多目的ホール

arrow_blue_1.gif精神障害のある人の未来をひらく集い


国連の健康の権利元特別報告者で精神科医のダニウス・プラス氏を招いて、入院中心ではなく、精神障害のある人が地域で自分らしく生活しつつ必要な医療を受ける体制の整備などを検討するため、院内集会を開催した。
日弁連では、精神障害のある人の強制入院に関する現状や課題、強制入院の廃止に向けたロードマップなどを掲載したリーフレットを作成し、ウェブサイトに掲載している。


基調講演

ダニウス・プラス氏は、世界の精神医療の現状を調査報告してきた立場から、強制入院など現在の日本における精神医療の問題点を指摘し、人権を尊重した精神医療へとパラダイムシフトする必要性を説いた。


第二次大戦後における抗精神病薬の開発によって、精神医療は投薬や入院治療に偏向し、精神障害のある人(心理社会的障害のある人)の同意に基づかない強制入院や身体拘束が容認された結果、精神障害のある人は、市民としての、あるいは人間としての存在意義や尊厳などの主体性を一方的にはく奪され、苦しめられていると指摘した。


そして、日本も強制入院を廃止し、心理社会的支援やピアサポートなど自立生活を支える質の高い地域精神医療を確立すべきであり、日弁連が第63回人権擁護大会の

arrow_blue_1.gif精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」で示した強制入院の廃止と尊厳確立を実現するためのロードマップを高く評価して、その実行を求めた。


パネルディスカッション

リーフレット「精神障害のある人の強制入院をなくそう 日弁連の提言」

当事者である鷺原由佳氏(DPI日本会議)や堀合悠一郞氏(神奈川精神医療人権センター)、当事者の家族を支援する小幡恭弘氏(公益社団法人全国精神保健福祉会連合会)が体験談を語った。八尋光秀会員(福岡県)は、被害実態に関する状況を報告し、ハンセン病患者への人権問題と類似性があると解説した。また、日本の精神科病院で身体拘束中に亡くなったケリー・サベジ氏の母親であるマーサ・サベジ氏のビデオメッセージも放映された。


(日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員 佐々木信夫)




シンポジウム
技能実習制度の廃止とあるべき外国人労働者受入れ制度
1月23日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif技能実習制度の廃止とあるべき外国人労働者受入れ制度


技能実習制度は、日本の技術移転による国際貢献という目的と、外国人労働者の受け入れ制度になっているという実態が乖離しており、現在、法務省の有識者会議で制度の在り方が議論されている。

本シンポジウムでは、人権保障にかなった外国人労働者の受け入れ制度の構築について議論した。


基調報告等

人権擁護委員会の髙井信也委員(第一東京)は、技能実習制度の即時廃止、特定技能制度の改革、外国人労働者の権利保障などを求めた日弁連の2022年4月15日付け「arrow_blue_1.gif技能実習制度の廃止と特定技能制度の改革に関する意見書」の概要を説明した。実習実施者による悪質な法令違反が発生していることに触れ、国際的にも「人身売買」であると批判されている技能実習制度は廃止すべきであると強調した。


技能実習生の受け入れのみならず、監理団体としての業務も行う今井裕氏(レインボー事業協同組合代表理事)は、送り出し機関に支払う手数料を捻出するために、母国で多額の借金を背負った技能実習生の実態を目の当たりにし、制度の適正な運用の必要性を痛感したと語った。技能実習生は「安価な労働力」ではなく一人の人間であるとした上で、人権を侵害する現行制度は即時廃止すべきと訴えた。


パネルディスカッション

パネルディスカッションに登壇した鈴木江理子氏(NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク共同代表理事

安河内賢弘氏(JAM会長)は、在日ビルマ市民労働組合に寄せられる相談の約7割が技能実習生に関連した相談であると報告し、受け入れ企業の変更が構造的に禁止されていることが、深刻な人権侵害を引き起こしていると指摘した。


覧具雄人氏(日本経済新聞社)は、特定技能制度では転職の自由が一定程度認められているが、外国人労働者に対して転職先の情報収集の手段が周知されていないことや、登録支援機関が十分に機能していないことを指摘し、外国人労働者を支援する仕組みの構築が必要であると語った。


登壇した国会議員からは、民間のブローカーが介在することで労働者が搾取されるようなことがあってはならないとの意見や、外国人労働者の入国時に雇用許可を与え、一定期間の経過後、労働許可に切り替えることで移動や家族帯同を段階的に認める制度設計があり得るのではないかとの発言があった。



来たれ、リーガル女子!
〜女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!〜
1月21日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif来たれ、リーガル女子!〜女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!〜


近年の司法試験合格者に占める女性の割合は30%に満たず、女性法律家の割合は依然として少ない。多くの女性に法律家の魅力を伝え、法曹志願者の増加につなげるため、主に女子中高生を対象としたイベントを開催した。
イベントでは、法科大学院を舞台としたフジテレビ系ドラマ「女神(テミス)の教室~リーガル青春白書~」主演の北川景子さんから、法曹を目指す参加者に向けた応援メッセージ動画も上映された。


女性法律家の多様な働き方と魅力

パネルディスカッションで女性の弁護士・裁判官・検察官が、それぞれの立場から仕事の内容や普段の生活、魅力を紹介した。


寺西環江会員(広島)は、弁護士は弁護人や代理人としての業務以外に、企業等での研修の講師や弁護士会等で社会的な活動を行っていることや、企業内弁護士などさまざまな働き方の選択肢があることを紹介した。また、弁護士に相談することによってトラブルや悩みが解決し、依頼者が元気になっていく様子を間近で見られることが弁護士の仕事の魅力であり、大きな喜びであると述べた。


三村三緒裁判官(広島地裁)は、社会からどう受け止められるのかを考えながら結論を出すのは難しいが、悩み抜き、他の裁判官と議論を重ねて結論にたどり着くことにやりがいを感じると述べた。また、裁判官は転勤があるが、出産・育児や介護など個別の事情に配慮して配置されるため、働きやすい職場であると語った。


望月栄里子検察官(広島地検)は、犯罪者や被害者など、さまざまな立場の人と関わりながら事実を追求していく検察官の仕事は、苦労がある分、達成感も大きいと魅力を語った。そして、法曹の仕事は社会から必要とされており、ぜひ仲間になって欲しいと呼びかけた。


グループセッション

女性法曹と参加者が少人数のグループに分かれ、活発に質疑応答がなされた。


参加者からは、現在の進路を選択した動機、担当している事件の数、法曹三者の関係性など、仕事や生活にまつわる内容から、法的な視点を持つためには何をしたらよいのか、法学部や法科大学院はどのような基準で選択し、何を学べるのかなどの進路に関するものまで、さまざまな角度から質問が出された。


質疑を通じて、参加者は法曹を身近に感じ、法曹への関心を高めた様子であった。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.178

2022年度 日弁連の広報
より効果的に「伝わる」広報を目指して

日弁連は、会務執行方針の一つに「広報の充実」を掲げ、2013年度からは市民向け広報活動にも力を入れています。2022年度もコロナ禍の影響による制約はありましたが、可能な限り「伝わる」広報の展開を目指しました。本稿では、2022年度に日弁連が実施した広報施策の概要を紹介します。

(広報室)


マスメディアへの対応

日弁連の施策実現に向け、意見書や会長声明等の公表に合わせて記者会見の開催やプレスリリースの発信を適時に行うとともに、新聞社やテレビ局等からの問い合わせに対応しました。再審事件や霊感商法等の被害に関する法律相談事例収集(第1次集計報告)などの案件について臨時記者会見も開催しました。


また、特定の問題を掘り下げて解説するプレスセミナーを3回開催しました。民事裁判手続等のIT化、刑事司法改革、旅館業法の改正などをテーマに取り上げ、記者への情報提供等を行いました。


さらに、報道各社の論説委員・解説委員等との意見交換を行いました。再審法改正問題をはじめ、霊感商法等の被害救済、民事法律扶助制度、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に関する取り組みなど多岐にわたるテーマについて議論を行い、日弁連の提言や活動の趣旨をさらに深く理解してもらえるよう注力しました。


CM動画の展開

2016年度から配信している武井咲さんを起用したCM動画をリニューアルし、昨年3月に配信を開始しました。ブランドスローガン「いつでも、どんなことでも、弁護士。」のもと、弁護士が問題解決に向けて依頼者と共に歩む姿を描き、身近なパートナーとしての弁護士・弁護士会をアピールしています。


日弁連ウェブサイトへの掲載のほか、YouTube TrueView、TVerなどで展開しました。また、本年度の新たな取り組みとして、法科大学院を舞台にしたフジテレビ系ドラマ「女神(テミス)の教室〜リーガル青春白書」のTVer等の見逃し配信サービスに出稿を行いました。加えて、JR東日本(首都圏)・JR西日本(近畿圏)・JR九州(福岡県)の電車内ビジョンでも放映しており、今後も各種メディアやイベントで放映する予定です。


動画の最後に各弁護士会名を加えたバージョンも用意していますので、弁護士会でのイベントなどでもご活用ください。


ウェブ広告・ポスター等

イオンモールに出稿したモールスケープ広告 武井咲さんを起用したスペシャルサイトをランディングページとするバナー広告を、Yahoo!ブランドパネル、同ディスプレイ広告、Googleディスプレイネットワークに展開し、ランディングページへのアクセス数が大きく増加しました。


武井咲さん起用のポスターについて、本年度は新たに全国229店舗のイオンモール等で1946面のモールスケープ広告(ショッピングモールの大型ポスター広告媒体)を出稿しました。モールの入り口や広場など多くの方の目に留まる場所に掲出することができました。また、各弁護士会、関係官庁(最高裁判所、法務省、警察庁等)のほか、全国の自治体や公立図書館、文化会館・センター・ホールなどの公立文化施設への掲出も継続しています。


弁護士業務広報

中小企業経営者に向けた「ひまわりほっとダイヤル」、高齢者やその家族に向けた「ホームロイヤー」のバナー広告をYahoo!ディスプレイ広告等に出稿しました。いずれも「ひまわりほっとダイヤル」と「ホームロイヤー」のランディングページにおいて、中小企業経営者からの相談事例や傾向を紹介したり、ホームロイヤーの役割を分かりやすく解説して、弁護士をより身近で利用しやすく感じてもらえるよう取り組んでいます。


マイナビ学生の窓口タイアップ企画

2020年3月から「マイナビ学生の窓口」への記事掲載を継続していますが、本年度は夏期に「『弁護士』について ウワサとホント」、「私のシゴト 弁護士として働くことを選んだワケ」のタイアップ掲載(サイト内の見やすい場所で記事を紹介する)を再度行いました。弁護士の業務や日常生活に関するQ&A、経験談などを掲載し、大学生を中心とする若者に弁護士の魅力を伝え、法曹を目指すきっかけにしてもらうことを目的としています。


仕事体験テーマパーク「カンドゥー」への協賛

2019年3月から、千葉県のイオンモール幕張新都心内にある仕事体験テーマパーク「カンドゥー」で、子どもたちが弁護士の仕事を体験できるアクティビティを提供しています。いまだコロナ禍の影響は続きますが、学校等の団体利用を含む来場者数は大幅に回復しています。また、全国のイオンモール等で弁護士に関するクイズを提供する「出張カンドゥー」も継続しています。これらの体験を通じ、子どもたちや保護者に弁護士の社会的役割を理解してもらい、弁護士を職業選択の候補にしてもらうことを目指しています。


「法曹という仕事」の共催

本年度も8月16日に、最高裁判所、法務省と共催して、法曹に関心がある若者に法曹の役割や魅力を紹介するイベント「法曹という仕事」を、司法調査室が中心となって実施しました。昨年度に続きオンライン開催となりましたが、全国の高校生らが多数参加し、現役の弁護士・裁判官・検察官と交流しました。


法の日週間記念行事

「法の日スペシャルページ」にはジャフバも登場します。 法の日(10月1日)に合わせた最高裁判所、法務省・最高検察庁との共催企画「法の日週間記念行事」として、地方裁判所・家庭裁判所・地方検察庁・弁護士会を巡るスタンプラリーを都内で実施し、幅広い年代の市民が参加しました。また、自宅や学校等でも法や弁護士の役割・重要性を考えてもらえるよう、2020年に公開した「法の日スペシャルページ」を全面的にリニューアルしました。


法律相談などの動画配信

法律相談が市民により身近で親しみやすくなるよう日弁連公設事務所・法律相談センターが制作した新たな法律相談ムービー「どうぶつ法律相談アニメ」や、国選弁護本部が制作した当番弁護士制度に関する動画などを配信しています。「NICHIBENREN TV」(YouTube公式動画チャンネル)では、各委員会が工夫を凝らした動画を配信していますので、各地のイベントなどでもご活用ください。



弁護士会との連携強化

7月7日、全国広報担当者連絡会議をオンラインで開催しました。駒橋恵子教授(東京経済大学コミュニケーション学部)を講師に招き、「広報の機能・役割と近時の課題」をテーマとした講演を行いました。また、ブロック協議会ではSNS、動画等、近時の広報ツールの活用法などについて、弁護士会の取り組みを共有し、意見交換を行いました。各地からの意見を参考に、今後も弁護士会と連携し、より良い広報活動につなげます。


日弁連広報キャラクター「ジャフバ」の活用

本年度も参加者との触れ合い、グッズ配布など「ジャフバ」の活躍場面は制約されましたが、一日も早く、全国各地で多くの皆さんに会える日が来るよう心待ちにしています。



ブックセンターベストセラー
(2023年1月・手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1 調停等の条項例集―家事編― 星野 雅紀/著 司法協会
2 面会交流―裁判官の視点にみるその在り方― 松本 哲泓/著 新日本法規出版
3 離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点 武藤 裕一、野口英一郎/共著 新日本法規出版
4 新版 注解交通損害賠償算定基準 高野真人/編著 園 高明、古笛恵子、松居英二、髙木宏行、末次 弘明、北澤龍也、垣内惠子/著 ぎょうせい
5 模範六法 2023 令和5年版 判例六法編修委員会/編 三省堂
6 有斐閣判例六法 Professional 令和5年版 2023  佐伯仁志、酒巻 匡、大村敦志 道垣内弘人、荒木尚志/編集代表 有斐閣
7 Q&A 遺産分割事件の手引き 山城 司/著 日本加除出版
8 最高裁破棄判決 田中 豊/著 ぎょうせい
9 有斐閣判例六法 令和5年版 2023 佐伯仁志、酒巻 匡、道垣内弘人、荒木尚志/編集代表 有斐閣
10 法律事務職員「基礎講座」テキスト 2022年度 東京弁護士会弁護士業務改革委員会/編 東京弁護士会
即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務 松本哲泓/著 新日本法規出版




海外情報紹介コーナー⑰
Japan Federation of Bar Associations

国家緊急事態宣言解除による学生ローン返済免除をめぐる争い (米国)

米国政府は2023年1月30日、新型コロナウイルスに関する国家緊急事態宣言を5月11日に解除すると発表した。バイデン大統領は、宣言期間中に発表した最大2万ドルの学生ローン免除計画は宣言解除後も維持するとしている。しかし、これを違憲とする州や団体が差し止めを求める訴えを起こし、うち2件は最高裁に係属中である。


本計画を正当化する根拠が、「国家緊急事態」における教育省のローン免除を認める「HEROES法」(同時多発テロ後に成立)とされているため、同宣言解除後にも同省に法的権限が認められるかが争点の一つとなっている。


(国際室嘱託 小野有香)