衆議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明
2023年1月25日、最高裁判所大法廷は、2021年10月31日に施行された第49回衆議院議員総選挙に対し、一票の較差が最大で2.079倍となった小選挙区選出議員選挙の選挙区割りを定めた公職選挙法の規定の違憲性及び選挙無効が争われた訴訟において、「合憲」判決を言い渡した(多数意見14、反対意見1)。
これまで最高裁判所は、2009年の衆議院選挙をめぐる2011年大法廷判決で、各都道府県に1議席を割り振る1人別枠方式が較差の大きな原因であり合理性がないと指摘し、2.304倍の最大較差を違憲状態と判断し、さらに2012年及び2014年の各衆議院選挙においても2倍以上の最大較差を違憲状態と2013年及び2015年大法廷判決で判断してきた。
一方、2018年大法廷判決では、2017年の衆議院選挙について、2020年の国勢調査後に都道府県の人口比を基に定数を配分するアダムズ方式が導入されることで選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させ、その状態が安定的に持続するよう立法措置を講じたこと、同方式による定数配分がなされるまでの較差の是正措置として各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採るとともに選挙区割りの改定を行い、同選挙当日の選挙人数の最も少ない選挙区を基準として較差が2倍以上となっている選挙区が存在しなくなったことなどを総合的に判断して、投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)は解消されたと評価できると判断した。
2021年衆議院議員総選挙は、2017年9月27日に施行された第48回衆議院議員総選挙と同じ選挙区割りで実施されたが、較差が2倍以上の選挙区が29と大幅に増加した点や、2022年11月に各都道府県の選挙区数の10増10減の措置を採るとともに140選挙区の区割りの改定を行った国会の対応を最高裁がどのように評価するのかなどが注目されていた。
本判決は、アダムズ方式を肯定的に評価した上、「本件選挙当時における選挙区間の投票価値の較差は、自然的な人口異動以外の要因によって拡大したものというべき事情はうかがわれないし、その程度も著しいものとはいえないから、上記の較差の拡大をもって、本件選挙区割りが本件選挙当時において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものということはできない。」として合憲との結論を導いている。
しかしながら、本件選挙の2.079倍という較差は、決して容認することができない。選挙は国民が国政にその政治的意思を表明することができる機会であり、選挙権は国民の政治参加において最も重要な権利である。そのため、一票の投票の価値は、徹底した人格平等の原則を基礎として、形式的に理解されるべきである。そこで、国民の意思を公正かつ効果的に代表するために非人口的要素を考慮する場合も、人口数に比例して定数配分を行うべきことを原則とし、投票価値の平等は可能な限り1対1でなければならず、それに沿って選挙区割りが設定されるべきである。本判決は、1.979倍であった2017年衆議院議員選挙から較差がさらに拡大していることについて、上記のとおり「自然的な人口異動以外の要因によって拡大したものというべき事情はうかがわれない」とするが、そもそも当初から可能な限り1対1に近づけるべく選挙区割りを設定していれば、このような較差は生じ得ないものであった。
当連合会は、裁判所が積極的にその憲法保障の機関としての役割を果たすことを強く希望するとともに、国会に対し、直ちに抜本的な選挙制度の見直しを行い、衆議院議員選挙区画定審議会に選挙区別議員1人当たりの人口数を1対1にできる限り近づけるよう、選挙区割りを見直すことを求めるものである。
2023年(令和5年)1月27日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治