日弁連新聞 第578号

刑事手続IT化検討会
報告書を取りまとめ

法務省に設置された「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」が、本年3月15日、報告書を取りまとめた。


報告書では、①起訴状、令状、不服申立書などの「書類」を電子データ化し、オンラインにより「発受」すること、②取調べ、弁解録取・勾留質問、証人尋問、公判期日への出頭などの「手続」を非対面・遠隔化することが提言されている。


この提言が実現すれば、保釈請求書や準抗告申立書などをオンラインにより発受することが可能になる。証拠開示については、一定のセキュリティ措置が前提となるが、オンラインによる閲覧・謄写が可能になる。接見交通に関しては、「権利」と位置付けられていない点は不十分だが、「アクセスポイント方式」による外部交通が現実的に検討し得る選択肢であることは共通認識とされており、実現の見込みがある。


他方で、ビデオリンク方式による証人尋問の要件が緩和されると、証人喚問権・証人審問権が制約されるおそれがある。また、被告人の意思に反してビデオリンク方式による弁解録取・勾留質問や公判期日への出頭等が強制されると、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利等が制約されかねない。このように刑事手続のIT化には、被疑者・被告人の権利利益の保護実現に資する可能性と制約するおそれの両面がある。


日弁連は、同日、会長談話を発表し、報告書には賛同するとした上で、今後、法改正の議論が開始される際には、ITが国民の権利利益の保護・実現のために活用されること、証人喚問権・証人審問権などの憲法上保障された権利が制約されることがないよう慎重に検討すること、ビデオリンク方式による接見交通に関しては速やかに関係機関による協議を開始することなどを求めている。


(日弁連刑事弁護センター刑事手続IT化プロジェクトチーム  座長 田岡直博)


*報告書は法務省のウェブサイトでご覧いただけます。



「法曹人口政策に関する当面の対処方針」を公表

arrow_blue_1.gif法曹人口政策に関する当面の対処方針~司法試験合格者数の更なる減員に関する検証結果~


日弁連は、3月17日、「法曹人口政策に関する当面の対処方針~司法試験合格者数の更なる減員に関する検証結果~」(以下「本方針」)を取りまとめた。


取りまとめの経緯

本方針は、2012年3月15日付け「法曹人口政策に関する提言」および2016年3月11日付け「法曹養成制度改革の確実な実現のために力を合わせて取り組む決議」を踏まえ、司法試験合格者数1500人が実現した後の対処として、改めて検討すべきとされた合格者数のさらなる減員について、現時点における対処方針を表明したものである。


取りまとめに当たり、2020年7月に法曹養成制度改革実現本部内に法曹人口検証本部を設置し、「業務量・求人量」、「司法基盤整備の状況」、「法曹の質」という三つの論点項目についてデータを収集・分析し、議論を重ねた。また、議論状況は理事会へ逐次報告した。


2021年9月、法曹人口検証本部で本方針の案を取りまとめ、弁護士会・関連委員会への意見照会を行った。その回答として寄せられたさまざまな意見を可能な限り取り入れて修正したものを本年1月理事会で提示し、2月理事会を含め合計4日間、8時間以上の議論を行い、3月理事会で本方針が承認された。


本方針の内容

本方針では、現時点における司法試験合格者数に関する検証結果と、今後の法曹人口政策の検討方法について述べている。さらに、現状を静的に捉えるだけではなく、法の支配を社会の隅々まで行き渡らせるために、制度的・人的の両面から司法基盤の整備に取り組む中で法曹人口の問題に対処していく決意を示している。


日弁連は、今回の検証を経て明らかになった諸課題をはじめ、法曹志望者の増加に向けた取り組みについて、関係機関・団体とも連携しながら、今後も注力していく。会員の皆さまにも種々ご協力を賜りたい。


*本方針の全文は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。


弁護士になるキミへ
3月28日 日本国際紛争解決センター・東京(オンライン併用)

arrow_blue_1.gif弁護士になるキミへ


高校生・大学生等を対象として弁護士の魅力を発信するイベントを開催した。オンラインを併用し、300人を超える学生らが参加した。会場では、真っすぐなまなざしで弁護士に質問を投げ掛ける学生の姿が見られた。


座談会~弁護士の仕事や現役学生の学生生活

若手弁護士の座談会の様子

3人の若手弁護士が登壇し、弁護士を目指したきっかけや法科大学院・司法修習で取り組んだことなどを振り返った。三宅千晶会員(第二東京)は、弁護士は司法を通じて社会を変えることができる職業であるとその魅力を語った。


法学部生・法科大学院生による座談会では、4人の現役学生が志望動機や勉強方法などについて話し、参加者は熱心に耳を傾けた。



講演~国際的な仕事・社会を変える仕事

自身の経験を語る杉山会員

杉山翔一会員(第二東京)は、日本スポーツ仲裁機構の仲裁調停専門員に就任した経緯や留学経験について語った。2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックでは、選手のスポーツ仲裁裁判所への申し立てに関わったことを紹介し、弁護士の仕事は、理不尽な状況を世に知らしめ、打開していく仕事であると述べた。


亀石倫子会員(大阪)は、SNS等での情報発信や裁判費用捻出のためのクラウドファンディングの実施など、精力的な活動の末に無罪判決を獲得したタトゥー彫り師医師法違反事件などを概説した。偏見を払拭して当事者や事件と向き合い、社会をより良い方向に変えることにやりがいを感じると参加者に熱いメッセージを送った。



ビデオメッセージなど

座談会等の合間にビデオメッセージが放映され、弁護士過疎地や海外などで働く弁護士が仕事内容ややりがい、日常生活の様子を紹介した。また、ドラマで弁護士を演じた俳優の阿部寛さんからのビデオメッセージでは、弁護士を目指す学生のチャレンジを応援する力強いエールが送られた。


その後、三つの部屋に分かれ、弁護士が参加者からの質問に答えた。イベント終了後には、「活躍している弁護士の話を聞けてよかった」などの感想が聞かれ、参加者たちは大いに刺激を受けた様子であった。



2022年度会務執行方針(要約)

(全文は日弁連ウェブサイトをご覧ください。)


はじめに

ロシアのウクライナ軍事侵攻により犠牲となった多くの方々に心から哀悼の意を表し、主権国家への侵害行為を強く非難するとともに、速やかな軍事侵攻の中止、撤退及び平和的解決が行われることを求めます。


会務執行の基本方針

第1―憲法的価値を守り、コロナ禍での市民社会の期待に応え、全ての人の人権が尊重される公平・公正な社会の実現を目指します。


第2―弁護士自治等の議論を深め、弁護士の多様性や地域性を踏まえた施策を提言・推進し、丁寧な会内合意形成を目指します。


第3―若手会員、女性会員の活躍機会を更に拡充し、多様な会員が直面している諸問題への具体的な施策の提案と実現に努めます。


第4―業務上・経済上の基盤を整備し、会員が業務に邁進できるよう取り組み、市民に利用しやすく頼りがいある民事司法を実現すべく、多角的・総合的な民事司法改革を一層推し進めます。


第5―いまだ道半ばである多くの刑事司法の諸課題への取組を進めます。



第1 立憲主義・平和主義と基本的人権の擁護~コロナ禍での市民社会の期待に応える

安全保障法制の廃止・改正を求める取組を推し進めます。


新型コロナウイルスや災害への対策及び復興支援として、被災者などに寄り添う施策を実施します。


引き続き脱原発・脱炭素社会に向けた研究・提言を推進し、SDGs、ESGに関する活動を続けます。


生活保護法改正を求め、低賃金・不安定労働を解消し、貧困の再生産に歯止めをかけることを目指します。適正な労働条件の確保、ハラスメントの予防・対処等の労働問題に取り組みます。


外国にルーツを持つ人々との共生社会の実現を目指し、司法アクセスの拡充や人権救済に取り組むほか、国際人権法等を遵守する入管・難民制度の実現に取り組みます。


ヘイトスピーチや誹謗中傷への対応として、表現の自由の保障と規制の濫用の危険性に配慮した法整備等に尽力し、被害者の迅速な救済に努めます。


性的指向や性自認による偏見や差別をなくすための法律相談や、選択的夫婦別姓の早期実現などに向けた啓発活動や政府への働き掛けを行います。


子どもの意見表明権を保障する仕組みの構築を目指し、虐待防止といじめ根絶への取組を更に進めます。改正少年法が適切に運用されるよう取り組みます。


高齢者・障がい者が自分らしい生き方を選択できる社会の実現のため、各種制度構築と運用改善に取り組みます。


消費者市民社会の実現に取り組み、脆弱な消費者の被害の防止及び救済を図ります。


犯罪被害者法律援助事業の国費・公費化に向けた取組を一層強め、犯罪被害者支援条例制定の働き掛けと関係機関との連携構築を更に進めます。


国に対して死刑制度廃止を訴え続けるとともに、被害者遺族の心情等に寄り添いつつ、議論を深化させます。


「『ビジネスと人権』に関する行動計画」のフォローアップ等に関与し、企業活動における人権保護・促進に関する研修などの充実にも努めます。


国内人権機関の設置と個人通報制度の導入に向けた活動を更に進めます。 法教育に関する具体的な施策を国に求め、会員による法教育授業を支援する取組を進めます。


情報化・デジタル化に伴う問題点を指摘し、啓発活動に力を注ぎます。



第2 弁護士自治を基盤とする弁護士会の組織力と弁護士の一体感の向上

弁護士自治に関する弁護士会活動の情報発信、新人研修などの取組を更に充実させます。


会員に対し、依頼者の本人特定事項の確認・記録の保存・年次報告書の提出の履行徹底を要請し、弁護士会が監督者の役割を果たす支援を行います。


隣接士業の権限逸脱行為や無資格者による他人の法律事件への介入に対して厳正に対処します。


預り金等の適正管理を更に進め、依頼者見舞金制度の適切な運用と会員の倫理意識の向上に努めます。


濫用的懲戒請求への対応として懲戒請求者に事務費負担等を求める可能性等について検討を行います。


地域の実情を踏まえた弁護士会運営に向け、地域のニーズに対応するための財政的負担の軽減や弁護士会への支援の在り方を検討します。


法曹志望者増加のため弁護士の魅力を幅広く伝えるとともに、法曹コースや法科大学院在学中の司法試験受験を認める制度が適切に運用されるか注視し、法学未修者教育にも関与していきます。


組織内弁護士の公益活動や研修受講の在り方等について検討を進めます。


社会が必要とする情報を的確に捉えて広報するだけでなく、会員の利益に資する広報や法曹の魅力を発信する広報にも引き続き取り組み、より効果的な広報活動を推進します。


弁護士会のニーズも把握しつつ、日弁連のIT化、デジタル化を推進します。現在の運用状況も見ながら、総会のウェブ開催の検討を進めます。


中長期的な財務計画を検討し、予算の適正な配分の実現等に取り組みます。



第3 若手・女性弁護士等の多様な会員の活躍の推進

弁護士の活動領域を拡大し、公平・公正な社会の実現を目指します。


若手弁護士に多様な活躍の場を提供し、若手チャレンジ基金制度を活用して若手弁護士が担う公益活動等を支援します。


貸与制世代の経済的負担の問題について必要な施策を国に求める運動を進めます。


女性弁護士の活躍の場を広げ経済基盤を強化し、誰もが生きやすい社会を実現するため、ダイバーシティ&インクルージョンを推進します。


弁護士のプロフェッション性を向上させ、市民の信頼獲得・維持につなげるべく、研修の充実に取り組みます。


第4 会員の業務・経済的基盤の拡充と民事司法改革

日本司法支援センターの民事法律扶助制度を応能負担の原則給付制に移行させ、利用者の負担を軽減しつつ持続可能な制度とすることを検討します。


より多くの保険会社に日弁連LAC協定への参加を働き掛けるとともに、報酬の適正化等の運用面の改善を進めます。


民事訴訟における証拠等の収集手続の拡充、違法収益吐き出しを内容とする賠償制度の構築を目指します。


裁判手続IT化の制度設計などに関与し、公的機関による本人サポート体制の構築等を求め、日弁連としても取り組みます。


地域のニーズをきめ細かく汲み取り、地域における裁判所という司法サービスの拠点の必要性を訴え続けます。


新たなスキームの導入などADRの更なる充実を検討し、ODRの健全な制度構築にも取り組みます。


中小企業の国際業務支援、在外邦人・在日外国人への法的支援、国際仲裁・調停の拡充活性化等に取り組み、それに携わる弁護士の育成・支援も進めます。


中小企業の法的ニーズを更に掘り起こし、弁護士へのアクセスを容易にする仕組みづくりや事業承継問題への対応としてM&Aに弁護士の関与を拡大する施策に取り組みます。


国や地方公共団体における弁護士任用の促進、条例制定支援等、行政との連携を一層推進します。


AIを含む新技術の研究に着手し、それを用いた法的サービスが利用しやすく適正なものとなるよう検証等を行います。


第5 刑事司法制度の改革

取調べの全件・全過程の録音・録画、取調べへの弁護人の立会い等、えん罪防止のための刑事訴訟法改正に向けて活動します。


全面的な証拠開示の制度化や検察官による不服申立て禁止を含む再審法改正に向けて粘り強く取り組みます。


刑事手続のIT化が被疑者・被告人の権利を不当に制約しないよう注視するとともに、国選弁護活動の報酬引上げ等に向けた取組を継続し、日弁連からの財政的支援等も検討します。


罪に問われた高齢者や障がい者の円滑な社会復帰のために福祉と連携した支援を拡大し、費用を援助する制度の検討等を行います。


中小企業の事業再生・事業承継に関する4つのガイドラインが公表されました

本年3月、中小企業庁等から、中小企業の事業再生・事業承継に関する4つのガイドライン等が公表された。概要は以下のとおりである。


①中小企業の事業再生等に関するガイドライン

中小企業の「平時」や「有事」の各段階において、中小企業者・金融機関それぞれが果たすべき役割を明確化し、事業再生等に関する基本的な考え方を示すとともに、より迅速に中小企業者が事業再生等に取り組めるよう、新たな準則型私的整理手続である「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」を定めた。また、4月には同ガイドラインのQ&Aも公表されている。


②廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方

中小企業の廃業時に焦点を当て、中小企業の経営規律の確保に配慮しつつ、現行の「経営者保証に関するガイドライン」の趣旨を明確にした。


③事業承継ガイドライン改訂第3版

中小企業経営者の高齢化が進む中、国による各種税制や補助金の創設・拡充、中小M&Aガイドラインの策定などを踏まえ、当該企業の経営環境や実態に合った事業承継を推進するべく、約5年ぶりに改訂された。


④中小PMIガイドライン

中小企業におけるM&A実施後の経営統合(PMI)について、譲受側におけるPMIの目的・必要性、各フェーズにおけるポイントやゴール、具体的な取り組みの手順などが整理され、ガイドラインとして取りまとめられた。


いずれも中小企業等への法的支援を行う際の参考となることから、ぜひご活用いただきたい。なお、①・②は、5月11日開催予定の「事業再生シンポジウム」で解説等を行い、その動画は日弁連ウェブサイトに掲載する予定である(動画の掲載は本年6月末まで)。


*①・②は全国銀行協会のウェブサイトでご覧いただけます。
*③・④は中小企業庁のウェブサイトでご覧いただけます。


第71回市民会議
3月14日 弁護士会館

2021年度最後の市民会議では、①チャレンジする若手会員の支援、②罪に問われた障がい者の自立支援に関する日弁連の取り組みについて報告し、議論した。


チャレンジする若手会員の支援について

十河弘副会長(当時)が、いわゆる若手チャレンジ基金制度の概要、応募された活動や表彰対象となった活動を紹介した。原章夫副会長(同)は、小規模事業者の事業承継にも弁護士の積極的な関与が求められていることを指摘し、事業承継・引継ぎ支援センターとの連携パイロット事業として、事業承継を担う若手会員の養成を行っていることを報告した。


市民会議委員からは、社会課題の解決に資する有意義な取り組みであるので、広く社会と共有を図ることが必要ではないか、事業承継の支援は日本経済にとって非常に重要な事業であるから、公的な資金を獲得することも検討するべきとの意見が出た。


罪に問われた障がい者の自立支援に関する取り組みについて

土井裕明副会長(同)が、地域生活定着支援センターや社会福祉士との連携などの各弁護士会の取り組み、研修やシンポジウムの開催、人権擁護大会決議などの日弁連の取り組みを紹介した。また、日弁連が福祉的な弁護活動の費用等を支援する制度の創設を検討していることを報告した。日弁連刑事弁護センターおよび日弁連高齢者・障害者権利支援センターの辻川圭乃委員(大阪)は、罪に問われた障がい者等を一貫して支援できるよう、両センターが連携して取り組んでいることを説明した。


市民会議委員からは、精神障がいのある人の強制入院問題の背景とこれを解消する方法を地域社会で考えていく必要があるとの声や、アルコール依存や薬物依存の人も地域で暮らすことを考える必要があるので同様に取り組んでほしいとの声が上がった。


市民会議委員(2022年3月14日現在)五十音順・敬称略

 井田香奈子 (朝日新聞論説委員)
太田 昌克 (共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
北川 正恭 (議長・早稲田大学名誉教授)
吉柳さおり (株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
河野 康子 (一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金事務局長)
清水 秀行 (日本労働組合総連合事務局長)
浜野  京 (信州大学理事(ダイバーシティ推進担当)、元日本貿易振興機構理事)
舩渡 忠男 (東北福祉大学健康科学部学部長)
村木 厚子 (副議長・元厚生労働事務次官)
湯浅  誠 (社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)



第16回 災害復興支援に関する全国協議会
3月8日・9日 東京都

さまざまな災害が全国各地で発生する中、災害復興支援は弁護士・弁護士会にとって必須の課題である。全国の弁護士会の災害担当者らが参加し、今後の支援活動につなげるべく、情報共有・意見交換を行った。本稿では3月9日の模様をお伝えする。


被災者生活再建カードの活用

参加者は「被災者生活再建カード」を用いたゲームで、仮想相談者の意向や状況を踏まえて必要な支援を選択することを学んだ。カードは実際の支援現場でも使用されており、その発案者である永野海会員(静岡県)は、被災者の意向は状況の変化によって変容するため、被災者が情報不足により適時に適切な支援を受けられないという事態を防ぐためには弁護士による支援が不可欠だと訴えた。


支援活動の報告

永田豊会員(千葉県)は、2019年の台風・豪雨災害の支援活動について、発災前からの関係に基づいたボランティアセンターとの連携実践を報告した。大井基弘会員(長野県)は、令和元年東日本台風による災害発生直後、迅速に会内組織を設置し、各種支援活動を開始した経験を語った。高山功会員(静岡県)は、熱海市伊豆山地区土砂災害に関し、現行の制度では対応できない事態にも、行政に働き掛けて支援を実現した実績を報告し、弁護士による支援活動の必要性を実例で示した。


日弁連からの報告

日弁連からは、新型コロナウイルス感染症への対応や自然災害債務整理ガイドラインの現状等について報告した。さらに、官民が連携して被災者一人一人の実情に応じた支援を行う「災害ケースマネジメント」の体制構築例として、全国で初めて災害ケースマネジメントを条例で制度化した鳥取県や、16の専門家団体が防災や災害復興に参画する仕組みを構築した広島県の取り組みを紹介し、各地に恒常的な支援体制を整備することが喫緊の課題であると説明した。



農水知財イベント
地方から考える高付加価値農業の将来と弁護士の役割
3月24日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif農水知財イベント「地方から考える高付加価値農業の将来と弁護士の役割」


農水知財分野の最新の情報を提供するとともに、地方において農水知財関連の法的サービスを提供する際の視点を共有し、農産品の高付加価値化を後押しするために弁護士がどのように関与できるかを議論した。


改正種苗法の概要と判定制度の創設

三浦あや氏(農林水産省輸出・国際局知的財産課首席審判官)は、本年4月1日施行の改正種苗法では、登録品種に対する知的財産権である育成者権が侵害された場合の立証上の課題を解決するため、推定規定が設けられたことを紹介した。さらに、農林水産大臣による判定制度も侵害立証の円滑化に資することから、示談交渉やADR等で活用してほしいと呼び掛けた。


パネルディスカッション

中小企業の国際業務の法的支援に関するワーキンググループの長友慶徳委員(宮崎県)は、適切な知的財産権の選択や契約の提案など、多岐にわたる支援をできるのが弁護士の強みであると語った。水上宏二氏(福岡県農林業総合試験場企画部知的財産活用課課長)は、技術開発の過程で提供を受けた技術やノウハウ、データの取り扱いに関する相談も増えるであろうと述べ、紛争になる前でも気軽に弁護士に相談できるシステムを要望した。福井逸人氏(農林水産省輸出・国際局知的財産課課長/当時)は、地域独特の資源を活用することが重要であり、第一次産業側が正当な利益を得るための交渉や商標等の権利関係を整理してくれるパートナーとして弁護士が役立ち得ると述べた。日弁連知的財産センターの早川尚志委員(愛知県)は、弁護士は農産物の高収益化・高付加価値化が達成困難なものであることを理解した上で現実的なビジネス展開や農家にとって報いの多い体制を考えることが求められており、契約書や権利行使の支援はその先の話であると語った。


国際仲裁・調停セミナー
埼玉から国際仲裁・調停 ~日々の業務に役立つ国際仲裁・調停の基礎知識
3月8日 オンライン開催

国境を越えた取引や海外投資は年々増加し、弁護士にとっても、国際紛争に関する予防法務的助言や顧問先が国際紛争に巻き込まれた場合の緊急対処を求められる場面が増えることが予想される。 中小・中堅企業の国際仲裁・国際調停の利用を促進することを目的としてセミナーを開催した。


中小企業にとっての国際紛争

国際商事・投資仲裁ADRに関するワーキンググループの武藤佳昭委員(東京)は、国際取引紛争において訴訟ではなく仲裁を選択するメリットを解説し、国際仲裁という最終解決手段を確保しつつ、それをテコとして交渉による和解解決を目指すのが中小企業にとって最善であり、このような解決を目指す際には弁護士の国内業務の知見と能力が大いに役立つと指摘した。


国際仲裁・調停の実務

一般社団法人日本商事仲裁協会(以下「JCAA」)仲裁調停部課長の小川新志氏は、具体的な事例を挙げながら、取引契約書にあらかじめ確実な仲裁条項を盛り込むことが重要であると詳述した。矢野雅裕会員(大阪)は、仲裁人の選任に当たっての留意事項や仲裁費用に関する原則が日本の訴訟とは異なることなど実務的に検討が必要な事項を解説したほか、すべての手続をオンラインで実施するバーチャル国際調停の特色や利用しやすさについて説明した。


続いて行われた質疑応答では、「取引額が1千万円程度と比較的少額の紛争の場合、仲裁手続を利用するのは非現実的ではないか」との質問に対し、JCAAにおいて過去に取り扱った事案の中には取引額が1千万円以下の事案が約1割程度あったと回答がなされるなど、国際仲裁・調停の利用に高い関心が示された。


JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.168

傷ついた子どもに切れ目のない支援を
NPO法人     子ども支援センターつなっぐ

コロナ禍により社会に閉塞感が広がる中、悲惨な虐待事例が後を絶ちません。被害に遭った子どもの相談支援活動を行っているNPO法人子ども支援センターつなっぐ(以下「つなっぐ」)を訪問し、代表理事である飛田桂会員(神奈川県)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 花井ゆう子)


組織の概要

 新井事務局長(左)と飛田会員。「付添犬」のぬいぐるみと


つなっぐは、子どもの支援を行うワンストップセンターです。初期対応から自立生活支援まで、多角的・包括的に中長期の支援を行います。虐待や性被害、いじめ等を受けた子どもの権利擁護や被害からの回復に寄与することを目的として、関係機関との連携や司法面接の実施・普及、啓発活動をはじめとしたさまざまな事業を行っています。



設立のきっかけ

つなっぐのパンフレット

私は児童相談所の非常勤職員やいじめ被害者の代理人、DV事案など、もともと子どもに関わる業務を多く取り扱ってきました。司法面接の勉強会で誘われたアメリカの研修で、子どもの権利擁護センター(CAC)を見学したのが、つなっぐの設立を考えるようになった最初のきっかけです。CACでは、相談内容はその後の関連手続においても共有されるため、つらい体験を何度も話さなくてよいという「本当のワンストップ」を体感しました。CACの多くは病院やNPOが運営していますが、トレーラーハウスから始めて大きな活動につなげたという方の話が印象に残り、日本でも同じようなことができないかと考えるようになりました。


その後、同じ熱意を持つ田上幸治医師(共同代表)と意気投合し、相談した周囲の方々にも背中を押され、つなっぐの立ち上げに至りました。事務局長の新井香奈さんにはその頃からずっと二人三脚で支えていただいています。運営資金の面でも、ボランティア活動に対する神奈川県の助成金のほか、応援してくださる方々の寄付金やカンパなどに支えられ、活動を軌道に乗せることができました。弁護士同士のつながりや、同期からの応援は本当にありがたかったです。


司法面接の普及・啓発

司法面接(フォレンジックインタビュー)は、虐待や被害を受けた疑いのある子どもから、できるだけ正確な情報を子どもにとって最小限の負担で聴取することを目的としています。つなっぐでは、司法面接を実施できる面接者や虐待の被害に遭った子どもの支援者を養成するため、司法面接の背景にある考え方や司法面接を実施する際に必要となる多職種連携について、研修や普及・啓発事業を行っています。


被害に遭った子どもと最初に接する職域の方(児童相談所職員、警察官、教職員、医師等)に司法面接を広く習得してもらうことは、子どもの権利擁護において非常に重要です。また、弁護士や検察官など法律の専門家が司法面接を理解した上で面接を行ったり、面接者をサポートしたりすることで、繰り返しの聴取を防ぐことができます。この面接技法は、一般的な弁護士業務においても、正確に事実関係を聞き取ることが必要な場面で応用することができ、さまざまな業務に使える技能です。


既に多くの関係機関の方々に熱心に研修を受けていただいていますが、つなっぐでは引き続き普及・啓発活動に力を入れていきたいと思っています。


「付添犬」によるサポート等

つなっぐは、刑事手続における事情聴取や証言等で子どもが受ける心理的負担を軽減するため、子どもに犬が付き添う「付添犬」の普及活動を行っています。裁判所の理解も得られ、適切な訓練を受けていることを前提に法廷への同伴が許可されています。この制度をさらに普及、推進していくためのロビー活動も積極的に行っています。


また、虐待を受けてシェルター等に避難している大学生・専門学校生等が、他の保護要件を満たしているにもかかわらず、学生であるという理由だけで生活保護を受けられない問題についても、NPOとして声を上げています。


会員へのメッセージ

つなっぐを訪ねてくる子どもたちは、被害を受け、すべてをなくし、持ち物は夢と希望だけということも少なくありません。その大切な持ち物を守るため、つなっぐは活動を続けていきたいと思っています。


弁護士は、改善すべき社会の問題に最初に気が付くことができる立場にあります。時には正義を実現するために権力と対峙することもありますが、同じ思いを共有する皆さまにぜひ活動を支えていただき、導いていただきたいと思います。


日弁連委員会めぐり115
民事介入暴力対策委員会

今回の委員会めぐりは、民事介入暴力対策委員会(以下「委員会」)です。尾﨑毅委員長(第二東京)、大野徹也副委員長兼事務局長(東京)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 木南麻浦)


40周年を迎えた委員会

委員会は、1980年に9人の委員で発足し、翌年に現在の委員会名になりました。暴力団による民事紛争への介入が社会秩序に脅威を与えていた時代です。


現在は70人の委員、24人の幹事が所属し、4つの部会を設置しています。年に8回全体委員会を開催するほか、各弁護士会の協力の下、年に2回全国各地で民暴大会を開催しており、毎回600人から800人に参加していただいています。


先輩方の地道な努力によって、民事介入暴力、すなわち民事紛争事件における暴行・脅迫等の不相当な行為への対策が進められ、今では民事介入暴力対策に関する警察との強固な信頼関係を築くこともできています。


民事介入暴力の根絶に向けて

 尾﨑毅委員長(左)と大野徹也副委員長兼事務局長この十数年で反社会的勢力の取引社会からの排除が強力に推し進められ、大きな成果を上げました。他方で、暴力団から真に離脱した人をどのようにして社会復帰させるかという問題が生じています。こうした人々の銀行口座の開設など取引社会への復帰を支援することは、暴力団を辞めたいと考えている人の後押しになり、暴力団の勢力を削ぐことに直結します。私たちは、暴力団離脱者の社会復帰支援を究極の暴力団対策と位置付けて取り組んでいます。


近年は、暴力団が特殊詐欺への関与を深めている状況を踏まえた活動にも力を入れています。例えば、年間約300億円の被害を生む特殊詐欺では多くの事例で転送電話が用いられています。そこで、2021年2月には「電話転送役務の不正な利用を防止する法整備等を求める意見書」を公表し、総務省に新たに設置された連絡会でも取り上げてもらいました。その他、郵便物受取サービス(私設私書箱)の適正化など、関係機関に対する提言等の取り組みを推進しています。


会員へのメッセージ

弁護士業務を行っていると、暴力団等反社会的勢力が関与する事案に遭遇することもあると思います。それが民事介入暴力事案かどうかはっきりしなくても、対応に困ったら、一人で抱え込まずに民事介入暴力対策委員会に相談してください。一緒に取り組み、適切な解決策を一緒に考えましょう。


ブックセンターベストセラー (2022年3月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

Q&A若手弁護士からの相談203問 企業法務・自治体・民事編

京野哲也/編著 日本加除出版
2

第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務

片岡 武、管野眞一/編著 日本加除出版
3

新労働相談実践マニュアル

日本労働弁護団/編集 日本労働弁護団
4 即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務 松本哲泓/著 新日本法規出版
5 弁護士報酬基準等書式集〔改訂3版〕 弁護士報酬基準書式研究会/編 東京都弁護士協同組合
6 裁判書類作成・尋問技術のチェックポイント 髙中正彦、加戸茂樹、市川 充、岸本史子、安藤知史、吉川 愛、寺内康介/著 弘文堂

民事事実認定の技法

加藤新太郎/著 弘文堂
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時間外労働時間の理論と訴訟実務

井上繁規/著 第一法規

令和2年改正個人情報保護法Q&A〔第2版〕

田中浩之、北山 昇/著 中央経済社

改訂版 やさしくわかる!すぐできる!企業の個人情報対策と規程・書式

齋藤義浩、鈴木雅人/共著 日本法令

実務解説 資金決済法〔第5版〕

堀 天子/著 商事法務


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eラーニング人気講座ランキング(コンパクトシリーズ) 2022年 2月~3月

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順位 講座名 時間
1 戸籍の仕組み・読み方の基本 30分
2 不動産登記の基本 31分
3 弁護士報酬の基本 29分
4 戸籍・住民票等の取得(職務上請求)の基本~戸籍、住民票の写し、固定資産評価証明書、自動車の登録事項等証明書の取得について~ 34分
5 弁護士会紹介の基本 32分
6 地図の読み方の基本~ブルーマップ・公図の利用方法~ 31分
7 商業登記の基本 21分
8 内容証明の基本 30分
9 公正証書の基本~概要と利用法~ 37分
10 和解条項の基本 26分


お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9927)