日弁連新聞 第575号
デジタル改革関連6法について
プライバシー・個人情報の保護を求める意見を提出
デジタル改革関連6法についてプライバシー・個人情報保護の観点から、必要な法改正と法の適正な運用を求める意見書
日弁連は2021年12月17日、「デジタル改革関連6法についてプライバシー・個人情報保護の観点から、必要な法改正と法の適正な運用を求める意見書」を取りまとめ、内閣総理大臣等に提出した。
意見書の背景
2021年5月にデジタル改革関連6法(以下「本6法」)が成立し、デジタル庁はガバメントクラウド(政府共通のクラウドサービス)の活用等を促進している。しかし、本6法はプライバシー・個人情報の保護が十分ではなく、プライバシー権を侵害し、個人情報がデジタル庁の長である内閣総理大臣の下に集中するおそれがある。
意見書の概要
意見書では、①デジタル社会形成基本法および個人情報保護法に自己情報コントロール権の保障を明記すること、②デジタル庁の強大な権限や組織体制に鑑み、デジタル庁を内閣ではなく内閣府(の外局)に置き、デジタル庁の長は特命担当大臣であるデジタル大臣とするとともに、デジタル大臣の勧告については尊重義務規定(デジタル庁設置法8条5項)を削除すること、③改正個人情報保護法について、行政機関等による保有個人情報の目的外利用等を認める「相当の理由」(69条2項2号、3号)を「特別の理由」にするなど、目的外利用等が許される場合を限定すること、④個人情報保護委員会の組織を拡大し、その権限を抜本的に強化するとともに、個人情報保護委員会に行政機関に対する立入調査と命令の権限を付与する法改正などを行うこと、⑤預貯金口座と個人番号(マイナンバー)とのひも付けは事実上の強制とならないよう配慮すること、⑥内閣情報調査室など政府の情報機関の活動を、個人情報保護委員会または別個に独立した専門の第三者機関が監視する制度を創設することなどを求めている。
(秘密保護法・共謀罪法対策本部 本部長代行 三宅 弘)
*同送の委員会ニュースに詳細な報告記事を掲載しています。
第9回日韓バーリーダーズ会議
12月14日 オンライン開催
日韓バーリーダーズ会議が開催され、日弁連および大韓弁護士協会(大韓弁協)の各執行部や、日韓の弁護士会連合会の代表らが参加し、活発な議論が行われた。
本会議は、1987年から行われてきた両国の弁護士会間の交流会を前身とし、日韓の弁護士会の代表らが一堂に会する形となって今回で9回目の開催となる。当初は韓国・ソウルでの開催が予定されていたが、新型コロナウイルス感染症の影響によりオンライン開催となった。日弁連執行部は、2020年に東京・虎ノ門に設置された日本国際紛争解決センター・東京(JIDRC―Tokyo)の審問室から参加した。
会議では、日弁連および大韓弁協の会長による冒頭挨拶と、事務総長による会務報告が行われた後、二つのテーマについて、それぞれ報告と質疑が行われた。
セッション1は「刑事裁判手続におけるIT化」をテーマに、日本からは法務省の「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」の検討状況を報告した。これに対し、韓国からは、既に同国において運用が開始されているビデオリンク方式による被疑者・参考人らの取調べおよび証人尋問等に関し、法整備の経緯や運用状況について詳細な説明があった。
セッション2は「司法取引の現状」をテーマに、日本からは2018年施行の改正刑訴法で創設された司法取引制度(協議・合意制度)の運用状況を報告した。他方、韓国においては同制度の導入が今まさに検討されているとのことであり、その検討状況や想定される問題点等について説明が行われた。
(国際室嘱託 津田顕一郎)
職務上の氏名を使用する口座開設について
金融庁から業界団体宛てに通知
日弁連が2020年8月から10月にかけて108の金融機関に対し「職務上の氏名(旧姓・通称)使用の実態に関する照会」(以下「本照会」)を行ったところ、回答のあった57の金融機関のうち13の金融機関が職務上の氏名での口座開設が「できない」と回答した。
そこで、2021年4月には、各弁護士会に対して、本照会や「職務上の氏名使用における問題事例に関するアンケート」(2019年実施)の結果を活用し、口座開設ができない金融機関に対して交渉を行うなどの対応を依頼した。
そして今般、日弁連の要請により、2021年10月12日付けで金融庁監督局総務課長通知「弁護士の職務上の氏名を使用する口座開設について(周知依頼)」が8つの業界団体宛てに出された。この中では「職務上の氏名を使用した口座を開設することは、法令上特段差し支えない」ことが明記され、傘下の金融機関に対して適切に対応するよう周知することが、各業界団体に依頼された。
今後、各弁護士会において金融機関と交渉する場合や、各会員が職務上の氏名を使用した口座の開設に際して交渉を要した場合には、金融庁の本通知もぜひ活用していただきたい。本照会に回答していない金融機関も少なくなく、支店・窓口担当者によって対応が異なる場合もあるため、引き続き積極的な働き掛けが必要である。
(職務上の氏名制度に関するワーキンググループ 座長 佐藤倫子)
選択的夫婦別姓制度の導入を求める議員要請を実施
日弁連は、1993年10月29日付け「選択的夫婦別氏制導入及び離婚給付制度見直しに関する決議」をはじめ、折に触れ、夫婦同姓を定める民法750条を改正して選択的夫婦別姓制度を導入することを求めてきた。
しかし、1996年に法制審議会が選択的夫婦別姓制度を導入する「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申してから四半世紀がたった現在も、導入は実現しておらず、2021年6月23日には最高裁判所が民法750条を合憲とする2度目の判断を示した。
選択的夫婦別姓制度は、同姓・別姓のいずれかを強制することなく、個人の尊重と両性の本質的平等の観点から、同姓を希望する者、別姓を希望する者それぞれに選択の自由を認めるものである。
日弁連は、改めて2021年8月19日付けで「選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書」を公表し、制度の速やかな導入を訴えるべく、2021年12月中旬からの約1か月間、理事により国会議員に対する要請活動を実施した。
これまでに約300人の議員(秘書を含む)と面会し、「早期に選択的夫婦別姓制度を実現すべき」といった力強いメッセージなど、さまざまな意見をいただいている。
日弁連は、今後も法改正の意義についての理解を広め、実現に向けた活動を続けていく所存である。
コロナ禍の影響続く 全国一斉生活保護ホットラインを実施
全国一斉生活保護ホットライン
例年行っている全国一斉生活保護ホットラインを、2021年も12月9日を中心とした日程で、全国49の弁護士会で実施した。相談件数は713件であり、前年より100件近く増加した2020年とほぼ同程度の相談件数となった。
2020年と同様、コロナ禍と関連する相談が多く見られた。コロナ禍が落ち着くまで生活保護の活用による生活再建の必要性はますます高まると思われる。しかし、「生活は苦しいが生活保護は受けたくない」と生活保護への抵抗を訴える相談、「持ち家があると生活保護は受けられないのでは」と誤った情報で申請をためらう相談が複数あった。生活保護の受給は権利であることなど、正確な情報を発信することの重要性が再認識された。
また、福祉事務所の対応について、「所持金がゼロにならないと受給できないと言われた」「別の自治体に転居しようとしたところ転居費用は出さないと言われた」など、明らかに違法な対応と思われる相談も寄せられた。
日弁連としては、今後も相談を続け、生活保護法の適切な運用等に関する意見表明などを適時行っていきたい。
(貧困問題対策本部 委員 澤田仁史)
賃金ペイ払いの導入に反対する意見書を提出
日弁連は2021年12月16日、「資金移動業者の口座への賃金の支払に関する意見書」を取りまとめ、厚生労働大臣等に提出した。
経緯と背景
厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会において、資金移動業者の口座への賃金支払い(以下「賃金ペイ払い」)の導入が議論されている。資金移動業とは、銀行に認められた業務(預金・貸付・為替取引)のうち為替取引を緩やかな規制の下で営むものであり、「〇〇ペイ」等と呼ばれる多様なデジタル決済方式で、多数の店舗を網羅する統合的な決済サービスを提供している。
意見書の概要―賃金ペイ払いの問題点
分科会では、賃金ペイ払いを認める場合には、現行の資金決済法に基づく資金移動業の規制に、労働法制上の規制を上乗せするとしている。しかし、資金移動業には銀行業のような厳格な財務規律や参入規制はなく、不適切な業者の参入排除や安全性確保が十分とは言い難い。資金保全、出金の自由についても、銀行預金口座と同程度の利用者保護の仕組みが整備されておらず、不正利用の際の補償も預金者保護法の水準に達していない。
また、定期的に賃金が振り込まれ、為替取引と関連がない資金の滞留が常態化した場合、預金に準ずる機能を事実上許容することになりかねず、出資法の預り金規制に抵触するおそれがある。さらに、資金移動業者に支出のみならず収入の情報が集積され利活用されることは、個人情報やプライバシー保護上の問題も生ずる。その他、悪質取引の決済への使用を防ぐ仕組みも不十分である。
このように賃金ペイ払いは、労働者の同意を要件とするとしても、労働者保護が確保されておらず、多くの問題が残されている。このため、これらの問題を解決せずに賃金ペイ払いを導入することについて反対の意見を表明した。
(消費者問題対策委員会 委員 加藤了嗣)
日弁連短信
進む民事司法改革
民事司法改革の経過
2001年6月の司法制度改革審議会意見書では、さまざまな観点から民事司法制度の改革が提唱されたものの、多くの課題が積み残されたままとなっていた。そのような中で日弁連では、2011年5月の定期総会で「民事司法改革と司法基盤整備の推進に関する決議」を採択し、2012年2月には「民事司法改革グランドデザイン」を策定して、民事司法改革の推進に取り組んできた。また、2013年10月には、日弁連もその発足に大きく寄与した「民事司法を利用しやすくする懇談会」が最終報告書を取りまとめ、民事司法改革に関するさまざまな提言、問題提起を行った。このような取り組みや関係機関等に対する働き掛けを継続した結果、2019年4月に「民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議」が発足し、2020年3月の取りまとめで民事裁判手続等のIT化や国際化社会への対応等に関する具体的政策が示されるに至った。
民事裁判手続等のIT化
2020年2月から争点整理手続へのウェブ会議導入が順次開始され、本年からは一部書類の電子提出も可能となっていく。さらに2020年6月から法制審部会において調査審議されてきたIT化等に関する民事訴訟法改正が本年の国会で審議される予定であり、裁判所でも法改正を踏まえた事件管理システムを構築した上で2025年以降の運用開始が想定されている。また、昨年12月からは家事調停手続におけるウェブ会議の試行も開始された。今後は、民事執行・保全、倒産、家事事件等の各種手続法のIT化に関する法制審部会も設置される見込みである。
その他の民事司法改革
IT化以外にも家族法の分野については法制審の二つの部会で法改正の検討が進められてきた。また、「民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会」では、情報・証拠収集制度の拡充について検討が重ねられ、今後、研究会や法制審部会での調査審議を経て法改正につなげていくことが期待される。さらに、日弁連法務研究財団においては、年間約20万件ともいわれる民事判決情報のオープンデータ化に関する検討が進められているなど、民事司法の改革は多岐にわたって進められている。日弁連としても、利用者である市民のためにより良い改革を追求していかなければならない。
(元事務次長 藤原靖夫)
法曹志望者増に向けた日弁連の取り組みと全国的な取り組みの要請について
法曹志望者の減少が指摘されており、法曹の仕事の魅力・やりがいなどを潜在的な法曹志望者へアピールする活動の重要性は増している。そこで、各弁護士会に対し、法曹志望者の確保に向けた取り組みを行うことを改めて要請し、2021年12月の理事会においても、積極的に協力いただくよう依頼した。
これまで日弁連では、多様な弁護士の活動を紹介するパンフレット「弁護士になろう!! ☆8人のチャレンジ☆」の作成や、弁護士から実際の仕事や生活の様子を直接聞くことのできる「弁護士に会ってみよう!」企画の実施など、法曹志望者増に向けた各種活動を行ってきた。その他、法科大学院協会が主催する「ロースクールへ行こう!!☆列島縦断☆ロースクール説明会&懇談会」への協力や、最高裁・法務省との共催イベント「法曹という仕事」の開催、女性法曹志望者の増加を目指した、各弁護士会等との共催イベント「来たれ、リーガル女子!」などを開催している。
各地でも同様の活動が実践されているものの、有為な法曹志望者を確保するためには、全国で法曹志望者増に向けた取り組みを展開していく必要がある。
そこで、法曹三者、文部科学省や法科大学院協会との間で、法曹志望者増に向けて関係機関が連携して取り組んでいくことを確認し、併せて各弁護士会においても法曹志望者増に向けた取り組みを行うよう、改めて要請した。取り組みに当たっては、各地の実情に応じて、裁判所や大学などの関係機関と協力することも効果的である。
なお、各地での取り組みについては、今後、法曹養成制度改革実現本部全体会議において、半期に一度程度、集約・整理して公表する予定である。
(司法調査室 嘱託 青野博晃)
*学生向けコンテンツとして、ウェブサイト「マイナビ学生の窓口」には「世の中のピンチを救う 弁護士の魅力、続々!」も掲載しています。
新事務次長紹介
藤原靖夫事務次長(東京)が退任し、後任には、2月1日付で杉村亜紀子事務次長(東京)が就任した。
杉村 亜紀子(東京・55期)
委員や非常勤嘱託として会務に携わるたびに、社会や市民のために、多くの会員が多種多様な活動をなさっていることに、敬服するばかりでした。これからは、社会や市民のため、そして会員の皆さまのため、誠実に職務を務め、会務執行を補佐するように努めてまいります。
第22回弁護士業務改革シンポジウム分科会プレシンポジウム
行政手続における弁護士の関与業務の展開を目指して
12月7日 オンライン開催
-第22回弁護士業務改革シンポジウム分科会プレシンポジウム-行政手続における弁護士の関与業務の展開を目指して
日弁連は、行政手続において弁護士が代理人として関与し、国民や企業の正当な利益を擁護する活動を「行政弁護」と捉え、弁護士業務の一分野としての確立を目指している。本プレシンポジウムでは保険医等に対する指導・監査における弁護士の関与について議論を行った。
報告・対談
報告者として日弁連行政問題対応センターの山本哲朗副委員長(福岡県)、コメンテーターとして曽和俊文特別客員教授(同志社大学法科大学院)が登壇し、保険医等に対する指導・監査における弁護士の関与について意見を交わした。
保険医等に対する指導については健康保険法73条1項に規定があり、その指導指針である厚労省の指導大綱では「指導は(中略)懇切丁寧に行う」とされているが、実際には指導と称した調査・証拠収集が行われており、不正の疑いありと判断された場合には直ちに監査が行われ行政処分に至るという流れが定着している。山本副委員長は、処分の前段階である指導・監査に弁護士の関与が必要であるが、現状では弁護士の立会いは条件付きで容認されているにすぎず、保険医等の権利としての弁護士立会権は認められていないと指摘した。また、保険医等に過大な負担を強いる指導・監査が弁護士の関与なく行われることにより、多くの問題が生じていると述べた。曽和教授は、これらの現状については行政手続法の趣旨にのっとった適正手続の確保が求められるとした上で、行き過ぎた行政の運用から市民を守ることと併せて、指導・監査制度の目的である不正診療をなくすことも重要な国民の利益であるから、これらの利益を両立し得る弁護士の関与であるべきだと指摘した。
弁護士会の活動報告
広島、福岡県、静岡県、京都弁護士会の会員から、この問題に関する研究会の立ち上げや保険医等との勉強会の開催、全国キャラバンの実施状況などについて報告があった。
第22回弁護士業務改革シンポジウム分科会プレシンポジウム
顧問弁護士の価値向上と弁護士会の役割
12月7日 オンライン開催
本プレシンポジウムでは、弁護士が顧問契約を通じて中小企業や小規模事業者に提供し得る価値を検証し、その価値をさらに向上させるために必要なことや弁護士会が果たすべき役割について検討した。
基調報告
日弁連中小企業法律支援センターの乾とも委員(金沢)が、近年の中小企業の弁護士ニーズ全国調査などの結果を踏まえ、顧問契約の現状と課題を分析した。乾委員は、顧問契約への満足度は高い一方、顧問先を持つ弁護士数や平均顧問件数は減少傾向にあり、顧問契約というサービスの利点の訴求が不十分ではないかとの問題を提起した。
田中浩三副本部長(徳島)は、中小企業は弁護士に対し新たな法制度・法改正の知識を求めていることに触れ、本年4月から中小企業にもパワハラ防止措置義務を課す改正労働施策総合推進法を例に、法令の周知や啓発によるコンプライアンス推進が顧問弁護士の重要な役割の一つだと説いた。
パネルセッション
「顧問契約の価値向上に向けた弁護士及び弁護士会の取り組み」をテーマに議論を交わした。飯田匡祟事務局員(愛知県)は、顧問弁護士の価値向上のためにはサービスの可視化が必要であり、企業のニーズを把握した提案型の顧問サービスが求められていると指摘した。富永高朗幹事(第二東京)は、弁護士が他分野の紛争対応を個別に依頼された際にも、雇用問題など当該企業が潜在的に抱える問題に触れることで企業に気付きを与え、継続的な顧問契約につなげることができると説いた。
弁護士業務改革委員会の牛見和博幹事(山口県)は、先進的な顧問契約の実践例としてEAP(従業員支援プログラム)を活用する顧問契約モデルなどを紹介し、従業員に法律相談サービスを提供することは弁護士にアクセスしやすい社会を実現する有用なツールにもなると述べた。
日弁連中小企業法律支援センターの樽本哲事務局次長(第一東京)は、顧問弁護士の価値向上に向けた積極的な取り組みを行う弁護士会は少数に留まっており、弁護士会の役割も検討すべき課題であると語った。
家事法制シンポジウム
家事調停による解決の意義を改めて考える
12月18日 オンライン開催
家事法制シンポジウム「家事調停による解決の意義を改めて考える」
1939年の人事調停法により発足した家事調停制度は、家族制度や家族観の多様化、権利意識の変化に応じて、さまざまな運用の工夫と努力が重ねられてきた。
コロナ禍やIT化への対応も求められる中、調停制度の意義と目的を改めて考察し、現状の問題点や今後の課題について検討した。
講演
細矢郁東京家庭裁判所家事部総括判事(家事部所長代行)は、家事調停制度は、国民のニーズや批判を踏まえて、制度と運用の両面で改善を積み重ねてきており、関係当事者は、これまでの積み重ねが適切であったかを厳しく検証し、適切な紛争解決のための制度を構築する責務を負っていると指摘した。そして、調停の時間管理の在り方の検討など、コロナ禍を契機とした東京家裁における最近の取り組みを紹介した。また、手続代理人には、調停前置主義の意義を正しく理解し、法的視点を踏まえて適切な距離を保ちながら当事者のサポートを行うこと、人事訴訟や審判の結論について正確な見通しをもって調停に臨むことを求めた。
パネルディスカッション
雪本可人氏(大阪家事調停協会副会長)は、調停委員、裁判所、手続代理人が一体となって、手続の効率化・迅速化と当事者の納得感が両立するよう取り組むべきと述べた。大阪家庭裁判所家事調停委員の山本香織会員(大阪)は、調停手続における書面の作成等について、書面は法的な主張や数字が関わる議論の場面では有用であるが、手続代理人は書面化することの影響、相手方当事者の受け止め方に常に留意すべきと指摘した。横浜家庭裁判所川崎支部家事調停委員の本田正男会員(神奈川県)は、調停委員は双方当事者の時間配分が公平になるように注意しつつ、話を聞くときは当事者に寄り添うことで、当事者の信頼を得るとともに、手続代理人が整理してきた情報の核心に迫ることができるとの考えを述べた。
第70回市民会議
弁護士費用保険制度と「子どもの権利基本法の制定を求める提言」について議論
12月22日 弁護士会館
2021年度第3回の市民会議では、①弁護士費用保険制度(LAC制度)の現状と今後、②「子どもの権利基本法の制定を求める提言」について報告し、議論した。
弁護士費用保険とLAC制度について
田中宏副会長は、LACの広報動画を紹介した後、弁護士費用保険やLAC制度の概要、弁護士費用保険の販売件数とLAC取扱件数が約20年の間に飛躍的に増加していることなどを説明した。
市民会議委員からは、弁護士費用保険制度が周知されれば、裁判や権利行使を諦めてしまう市民が減らせるとの意見のほか、同制度における弁護士紹介制度が交通事故以外のさまざまな分野にも広がっていることを評価する声が聞かれた。また、制度の利用実績や有用性を客観的なデータに基づいて説明し、社会に広く普及させるべきとの意見が出た。
「子どもの権利基本法の制定を求める提言」について
相原佳子副会長は、2021年9月に日弁連が「子どもの権利基本法の制定を求める提言」を取りまとめたことを報告した。日本において児童虐待や子どもの自殺など子どもの権利侵害が深刻であるという現状の背景には、子どもを一人の尊厳ある権利主体として尊重することが社会全体の共通認識となっていないことなどがあり、これを根本から変えるためには、子どもの権利基本法の制定が不可欠であると説明した。
市民会議委員からは、日弁連が子どもの権利基本法案を提案し今回の提言を行ったことは非常に重要な取り組みであり、このような活動が子どもの権利基本法の制定に向けた大きな推進力になるはずであるという意見のほか、今後も子どもの権利主体性について積極的に声を上げ続けてほしいなどの要望があった。
市民会議委員(2021年12月22日現在)五十音順・敬称略
井田香奈子 (朝日新聞論説委員)
太田 昌克 (共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
北川 正恭 (議長・早稲田大学名誉教授)
吉柳さおり (株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
河野 康子 (一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金事務局長)
清水 秀行 (日本労働組合総連合事務局長)
浜野 京 (信州大学理事(ダイバーシティ推進担当)、元日本貿易振興機構理事)
舩渡 忠男 (東北福祉大学健康科学部学部長)
村木 厚子 (副議長・元厚生労働事務次官)
湯浅 誠 (社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)
日弁連新聞モニターの声
日弁連新聞では、毎年4月に全弁護士会から71人のモニター(任期1年)をご推薦いただき、そのご意見を紙面作りに生かしています。
本年度は、新型コロナウイルス・ワクチン予防接種に係る人権・差別問題ホットラインに関する記事のほか、所有者不明土地問題、少年法、出入国管理及び難民認定法、民事訴訟法(IT化関係)など法改正に関する記事に高い関心が寄せられました。特に9月号の改正プロバイダ責任制限法のシンポジウムに関する記事は、実務に関係する改正法の内容や課題が分かりやすくまとめられていたと好評でした。
10月号で若手チャレンジ基金制度について紹介したところ、制度が分かりやすく説明されている、知らなかった制度を知ることができたなどの反響をいただきました。
3面では、主にシンポジウム等のイベント記事を掲載しています。「より詳しい内容を知りたい」との声を受けて、取り上げるイベントの数を絞り、詳細な内容を紹介するようにしたところ、好意的な評価をいただきました。引き続き、具体的な議論を紹介するなど工夫したいと思います。
4面の「JFBA PRESS」では、広報室嘱託が会員に役立つ情報の発信を目指して特集記事を掲載しています。8月号「性暴力救援センター・東京(SARC東京)」、10月号「仕事体験テーマパーク『カンドゥー』」、11月号「渡邉惠理子最高裁判事を訪ねて」は、特に高い評価をいただきました。
今後とも、会員のニーズに応え、より有意義な紙面作りに努めてまいります。
(広報室嘱託 木南麻浦)
JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.166
地域生活定着支援センター
矯正施設を退所した高齢者・障がい者の更生支援と全国のセーフティネットの構築に向けて
厚生労働省の地域生活定着促進事業の一環として、高齢者や障がい者の更生支援を行う地域生活定着支援センターの活動について、一般社団法人全国地域生活定着支援センター協議会の理事(関東・信越ブロック長)で群馬県地域生活定着支援センター所長の高津努氏にお話を伺いました。
(広報室嘱託 枝廣恭子)
地域生活定着支援センター設立の経緯
刑務所などの矯正施設に入所している高齢者や障がい者の中には、必要な福祉の支援を受けずに入所し、行き場のないまま退所する人が多いことがかねてから指摘されていました。そこで、矯正施設退所直後から必要な福祉サービス等につなぐ機関として、2009年度から各都道府県に「地域生活定着支援センター」(以下「センター」)が順次設置され、2012年3月には全国に整備されました。
センターは国と都道府県が予算を支出し、医療法人や社会福祉法人などが委託を受けて運営しています。矯正施設を退所した高齢者や障がい者(以下「退所者」)が適切な福祉サービスを受けることで、地域社会の中で孤立せず安心して生活できるようにすることが活動の目的であり、結果として再犯防止にもつながっています。
私が所長を務める群馬県地域生活定着支援センターは、2016年3月から弁護士会・司法書士会・社会福祉士会・精神保健福祉士会とでチーム「つなごうネット」を作って支援活動を行っているのが特徴で、定期的に事例検討会や勉強会を開催して相互の連携を深めています。また、前橋地方検察庁から依頼を受け、県内の社会福祉士・精神保健福祉士と連携して、矯正施設に入所する前の被疑者・被告人の段階からの支援にも早くから取り組んできました。
業務の概要
センターは、①保護観察所の依頼に基づき、矯正施設退所後の受け入れ施設等のあっせんや福祉サービスの申請支援等を行う「コーディネート業務」、②退所者やその受け入れ先への支援助言等を行う「フォローアップ業務」、③被疑者・被告人の福祉サービス等の利用調整や継続的な援助を行う「被疑者等支援業務」、④退所者の福祉サービスの利用に関する助言等を行う「相談支援業務」を、矯正施設や保護観察所などの関係機関と連携しながら実施しています。
矯正施設の入所者が退所後に福祉の支援を必要とする場合、センターの担当者が保護観察所の担当者と共に入所者と面談し、必要に応じて他の地域のセンターとも連携しながら出所後の受け入れ先の調整を行うのが①のコーディネート業務です。センターの活動初期に比べて理解が深まり、協力体制や支援するためのルールが全国的に整いつつあると感じています。
退所者とその受け入れ先等を継続的に支援する②のフォローアップ業務は、退所者が地域社会に定着するために、そして地域が安心して退所者を受け入れるために重要な業務です。一方で、地域に任せきれずにセンターによるフォローアップが長期化することも課題となっています。
被疑者・被告人支援
被疑者・被告人段階でのいわゆる「入口支援」は、一部のセンターでは相談支援業務の一環として実施していましたが、本年度から保護観察所の依頼に基づく被疑者・被告人の支援がセンターの業務として位置付けられることとなりました。被疑者・被告人の段階から支援を受けて矯正施設に入所することにより、出所後の生活に向けて時間を掛けて調整することが可能となります。入所者にとっても早い段階から出所後の生活が見通せるため、この支援の意義は大きいと感じています。
メッセージ
実刑を回避するためではなく、本人が福祉サービスの利用を希望していることがセンターの支援の前提となります。本人には、支援を受ける目的が地域で安定した生活を送ることだと理解し、納得してもらう必要があります。弁護士はこの目的を踏まえ、被疑者・被告人等から、これまでどのような生活上の苦労があったのか、今後どういった生活を送りたいのかをしっかりと聞き取っていただきたいです。そうすることで、福祉関係者も、本人の希望に応える形で本人の支援につながる提案ができます。また、入口支援の段階で関わっていた弁護士が、出所後の支援にも関わっていただけると本人や受け入れ先の安心感につながり、センターとしても心強いです。
司法と福祉の関係者が相互の実情を知ることで、具体的な案件の相談もしやすくなります。弁護士会と連携しているセンターでは、弁護士や弁護士会経由の相談が多いので、ぜひセンターに対して「このようなことをやりたい」と積極的にお声を掛けていただければと思います。
日弁連委員会めぐり114
日弁連税制委員会
今回の委員会めぐりは、2006年に設置され、精力的に活動を展開している日弁連税制委員会(以下「委員会」)です。
関戸勉委員長(東京)、菅原万里子副委員長(東京)、藤田耕司副委員長(第二東京)にお話を伺いました。
(広報室嘱託 花井ゆう子)
活動状況
委員会では、弁護士会や弁護士に関わる税務問題・会計問題等に関する調査・研究等を行っています。40人の委員と6人の幹事で構成され、近年は研修の実施に力を入れています。より充実した活動を展開するため、委員会には三つの部会を設置しています。
特色ある三つの部会
①弁護士税務部会では、弁護士業務や弁護士会に関わる税務問題を扱い、会員への情報提供や支援を行っています。
②研修・研究部会では、eラーニングやライブ実務研修の企画を行うほか、委員会内で研究会を開催し、今まさに動いている事件について情報交換するなどしています。研修において特に注力しているのは税務調査への対応方法です。納税者の利益を守るためには税務訴訟や審査請求の前段階である税務調査の段階で弁護士が関与し、不利な処分を受けないよう対応することが重要です。ケーススタディを通じて、多くの弁護士が適切に対応できるよう活動していきたいと考えています。
③租税手続・訴訟・税制部会では、一般的な税制の問題について扱っています。これまで、国税通則法の改正や行政不服審査法の改正に当たり、適正手続・手続保障の観点からさまざまな意見を公表してきました。2011年の国税通則法大改正では、それまで明確な規定がなかった税務調査について新たな規定が設けられ、また白色申告の更正処分の際の理由付記や更正請求期間の1年から5年への延長などの要求事項も反映されました。オンブズマン制度の導入などまだ実現できていない事項もありますが、今後も積極的に活動を続けていきます。
現在は、国税通則法大改正から10年が経過したことを踏まえ、税務調査に関する部分についてコンメンタールの執筆を進めています。実務上、理論的な解釈に役立つ文献としたいと考えています。
会員へのメッセージ
会員の皆さまにはぜひ日弁連の意見書に目を通していただき、税務・税制について問題意識をお持ちいただければと思います。
ブックセンターベストセラー (2021年12月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編集者名 | 出版社名・発行元 |
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1 |
第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務 |
片岡 武、管野眞一/編著 | 日本加除出版 |
2 |
有斐閣判例六法Professional 令和4年版 2022 |
長谷部恭男、佐伯仁志、酒巻 匡、大村敦志/編集代表 | 有斐閣 |
3 |
模範六法 2022 令和4年版 |
判例六法編修委員会/編 | 三省堂 |
4 | 携帯実務六法 2021年度版 | 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 | 東京都弁護士協同組合 |
5 |
即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務 |
松本哲泓/著 | 新日本法規出版 |
6 |
若手弁護士・パラリーガル必携 委任状書式百選 |
第一東京弁護士会若手会員委員会委任状研究部会/編集 | 新日本法規出版 |
7 |
一問一答 令和3年改正個人情報保護法 |
冨安泰一郎、中田 響/編著 | 商事法務 |
8 |
弁護士会照会制度〔第6版〕 |
東京弁護士会調査室/編集 | 商事法務 |
9 |
民事訴訟マニュアル〔第3版〕[上] |
岡口基一/著 | ぎょうせい |
10 | 判例による離婚原因の実務 | 中里和伸/著 | LABO |
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順位 | 講座名 | 時間 |
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1 | 交通事故刑事弁護士費用保険について | 22分 |
2 | 外国人の法律実務~外国人の刑事事件と在留資格・退去強制手続 | 122分 |
3 | 刑事弁護の基礎(公判弁護編) | 132分 |
4 | 刑事弁護の基礎(捜査弁護編) | 136分 |
5 | 【コンパクトシリーズ】控訴審弁護(刑事)の基本 | 23分 |
6 | 刑事弁護のひやりはっと | 142分 |
7 | 実践 障がい者の刑事弁護における留意点と福祉職との連携 | 116分 |
8 | よくわかる最新重要判例解説2019(刑事) |
103分 |
9 | 知ってますか?新時代の刑事司法!-2016年刑訴法改正による取調べの録音・録画と通信傍受手続の効率化をめぐって | 149分 |
お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9927)