日弁連新聞 第558号
少年法の適用年齢等に関する「たたき台」示される
少年法適用年齢問題にかかる法制審議会少年法・刑事法部会の事務局「取りまとめに向けたたたき台」に関する会長声明
会長声明を公表
2017年2月の法制審議会への諮問以来、少年法の適用年齢および非行少年を含む犯罪者に対する刑事政策的措置に関し、約3年半にわたり議論を続けてきた法制審議会少年法・刑事法部会(以下「部会」)において、8月6日、事務局から「取りまとめに向けたたたき台」(以下「たたき台」)が示された。日弁連は翌7日、これに対する会長声明を公表した。
たたき台の概要
たたき台では、民法上成年とされる18歳・19歳の者についても全件を家裁に送致し、調査や鑑別を実施した上で、保護観察処分や施設収容処分を行うとする現行少年法に近い枠組みを採用した。他方で、原則検察官送致(以下「逆送」)の対象事件を強盗罪や強制性交罪を含む短期1年以上の罪の事件に拡大し、逆送後、公判請求された段階で推知報道の禁止が解除されることとしている。さらにぐ犯については18歳・19歳の者に適用しないこととしている。
18歳・19歳の者を少年法上の少年と位置付けるか否かについては、「今後の立法プロセスにおける検討に委ねる」として結論を出していない。
会長声明の内容
会長声明では、全件家裁送致等の枠組みは極めて重要であり、最終取りまとめにおいても維持すべきであるが、原則逆送対象事件の拡大、推知報道の一部解禁、ぐ犯の除外等については、現行少年法の機能を大きく後退させるものであり、容認できないとした。
年齢区分については、7月30日に公表された自民党・公明党の与党PT合意において「18・19歳の者は、少年法の適用対象」と明示していることを評価し、最終的な取りまとめでは「少年」と明確に位置付けた上で、少年法の理念を及ぼすべきであるとした。
その上で、日弁連としては、たたき台のまま部会での取りまとめを行うことには反対し、引き続き、少年法の役割が維持されるよう、諸団体と連携して運動を進めていく決意を表明した。
今後の予定
今後、9月の部会での取りまとめを受け、法制審総会において答申がなされ、これに基づく改正法案が来年の通常国会にも提出されることが見込まれる。引き続き少年法の理念を守るための取り組みを継続することが必要である。
(子どもの権利委員会少年法・裁判員裁判対策チーム座長 須納瀬学)
*会長声明は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。
令和2年7月豪雨 災害対策本部を設置
7月3日から断続的に各地を襲った記録的な豪雨による河川の氾濫、浸水、土砂崩れなどの災害により、多数の方が犠牲になり、広範囲に甚大な被害が発生した。
日弁連は、7月14日に災害対策本部を立ち上げ、被災者の生活再建のために、被災地の弁護士会等と連携してさまざまな取り組みを実施している。
緊急会長談話を公表
7月14日付で、被災地弁護士会、各地の弁護士会、弁護士会連合会、各自治体や法テラスなど関係諸機関と連携し、被災者の支援に全力で取り組む旨の緊急会長談話を公表した。
フリーダイヤルによる無料法律相談の実施
熊本県をはじめとした被災地弁護士会では、発災直後から無料電話法律相談を実施し、市民向けのニュースを発行するなど、さまざまな支援を開始している。
今回の災害の特徴として、被害が九州地方から東北地方の広範囲にわたっていることが挙げられるが、被災地域によっては相談体制を構築することが困難な場合もある。そこで、日弁連は、各地の被災者の方々が一律に無料で法律相談を受けられるよう、東京三弁護士会の協力を得て、フリーダイヤル(0120―254―994)による全国統一の電話相談窓口を設け、7月20日から運用を開始した。
なお、弁護士会独自に電話相談の窓口を設けている場合でも、当該弁護士会からの要請があれば、日弁連への電話転送を受けている。
義捐金を募集
7月15日から被災地弁護士会の被災者支援の費用等に充てるために義捐金の募集を開始した。ぜひ、多くの会員にご協力いただきたい。
日弁連は、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震のほか、平成30年7月豪雨災害等における支援活動の経験を生かし、各地の弁護士会や関係機関等と連携し、被災者の方々が一刻も早く元の生活を取り戻せるよう、的確な情報提供、法律相談、立法提言などを行っていく。
(事務次長 藤原靖夫)
*義捐金の振込先等については、日弁連ウェブサイト内会員専用ページをご覧ください。
ひまわりほっと法律相談会
中小企業を弁護士が応援します!
日弁連は、2008年から、中小企業の弁護士へのアクセス障害を解消するため、中小企業庁をはじめとする中小企業支援機関や各地の商工団体等と連携を図りつつ、中小企業に関する全国一斉無料法律相談会およびセミナー等を開催している(弁護士会と共催)。
例年9月に実施していたが、中小企業庁が中小企業基本法の公布・施行日である7月20日を「中小企業の日」としたことを受け、本年は同日を中心に全国各地の弁護士会において無料法律相談会やセミナーが開催された。
本年は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、電話相談のほかオンライン相談も実施された。また、近時の情勢によるものか、宿泊業、飲食サービス業からの相談が目立った。
セミナーもオンラインで実施され、テーマとして「中小企業者が新型コロナウイルスを乗り切るための支援制度・法制度」などが取り上げられた。
日弁連は今後も、中小企業分野での弁護士業務の一層の拡充を図るとともに、中小企業関係者の暮らしと権利が守られる社会の実現を目指し、法律相談会やシンポジウムなどを開催していく予定である。
(日弁連中小企業法律支援センター 副本部長 酒井俊皓)
ひまわり
この夏、旅行や帰省の自粛が求められている。自由な移動がままならないという前代未聞の事態の中、旅への想いが募る▼旅の醍醐味は、強烈な疎外感から始まる。これまでに訪ねた離島などでもそうだ。遠路はるばる上陸し、島内を目いっぱい移動し、いっとき冒険したかのような気分になる。しかしふと目を向けると、そこにも集落があり、商店があり、学校がある。暮らす人たちがいて、普通に事が運ばれている。まさに泰然として在り続けてきた日常の風景。その風景の中に私が割り込んでしまっている。私だけが異分子。これこそ強烈な疎外感▼つまるところ、旅人は謙虚にあらねばならないのだと思う。しかるべき経緯により厳然としてそこに在る風景を、出し抜けに他所からやって来て見させてもらっているのだから。その無遠慮さを知り、疎外されていることを認識しておくべきなのだと思う▼そして、謙虚な旅人に対しては、風景は次第に優しくなってくれる。少しずつ自分が風景の中に受け入れられると言うべきか。風景と馴染み、一体化したような感覚を持てたとき、旅は自分なりに完成の域に達する▼仕上げにその土地の食べ物とお酒があれば言うことなし。旅の醍醐味がそこに極まる。ああ、旅に出たい。
(R・H)
破産者等に関する情報の拡散を防止する措置を求める意見書取りまとめ
公告された破産者情報を含む「本人が破産、民事再生その他の倒産事件に関する手続を行ったこと」に関する情報の拡散を防止する措置を求める意見書
2019年3月、インターネット上に破産者の個人情報を掲載した「破産者マップ」と称するウェブサイトの存在が広く知られるに至った。破産者マップは、誰でも無料で閲覧できる官報情報のインターネット配信(以下「無料インターネット版官報」)を情報源とし、これを包括的・網羅的にプログラム等により自動収集し、データベース化した上で地図に表示して、インターネット上で公開したものであると推測される。
このウェブサイトは、個人情報保護委員会による行政指導等を受けて2019年3月19日に閉鎖された。しかし、その後も類似のウェブサイトが複数存在し、同様の情報を拡散して破産者のプライバシー等の人格的利益を侵害し続けている。
そこで日弁連は国に対し、①「本人が破産、民事再生その他の倒産事件に関する手続(以下「破産等手続」)を行ったこと」に関する情報(官報に掲載される範囲の情報)を、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に当たるものと定めること、②官報掲載の委託に際しては、無料インターネット版官報を構成するファイル(「本人が破産等手続を行ったこと」に関する情報を含むものに限る)がプログラム等によって自動取得されることを防止する技術的措置を講ずることを条件とすること、を求める意見書を7月16日に取りまとめ、7月28日に執行した。
くしくも翌29日、個人情報保護委員会は、破産者マップ類似のウェブサイトを運営する2事業者に対し、個人情報保護法42条2項に基づく措置命令を行った。
このような類似のウェブサイトによる被害の拡大や再発を防止するため、意見書の趣旨を実現する速やかな措置を期待する。
(消費者問題対策委員会 副委員長 板倉陽一郎)
*「公告された破産者情報を含む『本人が破産、民事再生その他の倒産事件に関する手続を行ったこと』に関する情報の拡散を防止する措置を求める意見書」は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。
日弁連短信
会務づくし
2018年10月1日に事務次長に就任してから間もなく2年を迎えようとしている。この間とても貴重な経験を積ませていただいている。
これまでに総会・代議員会・理事会などの基幹会議、法テラス、子ども、少年法改正、高齢者・障害者、災害復興支援、弁護士倫理、司法修習、国選弁護、登録関係、研修、市民会議、COVID―19対策本部など、延べ数で40以上の所管項目を担当してきた。どれも重要課題が満載である。ここで振り返るには紙幅が不足するため、思いつくままにいくつか紹介する。
◇弁護士成年後見人信用保証制度
就任直後の理事会から導入に向けた議論を開始し、2019年2月理事会で基本方針を承認。翌年度は毎月の理事会で進捗状況を報告、各弁護士会で規則整備を進めていただいた。無事に導入準備が整い、本年10月から運用開始の予定である。退任と同時の運用開始は感慨深い。
◇多文化共生の取り組み
就任直後の人権擁護大会で多文化共生社会の構築に向けた宣言を採択し、多文化共生総合相談ワンストップセンターでの法律相談の実施に向けた取り組みを進めてきた。本年7月には外国人在留支援センター(FRESC)が東京・四谷に開設された。連携強化が期待される。
◇スタッフ配置協議
各地に出張して法テラスのスタッフ弁護士の配置協議を行った。配置ありきではなく、地元の法的需要と懸念について丁寧な協議を繰り返し、スタッフ弁護士の有用性を認識・共有することで新規配置・増員となったケースが複数ある。本年10月に法テラス兵庫に法律事務所が新設される。楽しみだ。
◇司法修習
本年4月の緊急事態宣言により司法修習が自宅学修となった。日弁連はeラーニングのコンテンツ提供などで分野別修習を援助した。現在実施中の選択型修習では分野別修習の補完が期待される。オンラインで実施されている集合修習の充実度も気になる。
◇叙勲の祝賀
日弁連は、最高裁を通じて内閣府賞勲局に叙勲候補者の推薦を行っており、春秋叙勲の伝達式にあわせて受章者を祝う会を開催している。永年会務に貢献された先進会員の晴れやかなお顔を拝見し、思い出話を拝聴する席はとても贅沢な時間だ。本年は新型コロナの影響により開催できていない。心残りだ。
(事務次長 奥 国範)
太平洋・ビキニ環礁における水爆実験で被ばくした元漁船員らの健康被害に対して救済措置を
太平洋・ビキニ環礁における水爆実験で被ばくした元漁船員らの健康被害に対する救済措置を求める意見書
ビキニ事件の概要
1954年にアメリカ合衆国が太平洋・ビキニ環礁およびその周辺において合計6回にわたり行った水爆実験により、ビキニ環礁等付近を航行していた第五福竜丸を含む多くの漁船の乗組員が被ばくした(以下「ビキニ事件」)。1955年、日本政府は、合衆国から200万ドル(当時の7億2000万円)の慰謝料を受領することと引き換えに、合衆国の法律上の責任を不問とする日米合意を締結した。しかしながら、日米合意成立以降、日本政府は、第五福竜丸を除く漁船の乗組員に対し、マグロの廃棄処分等に関するわずかな補償金を支払ったものの、被ばくによる健康被害についての金銭的補償を実施してこなかった。また、現在に至るまで、健康被害に関する被害救済のために必要なその他の措置もなされていない。
意見書の取りまとめ
ビキニ事件の被害者ら(元漁船員およびその遺族)に対して適切な救済を実施するため、日弁連は7月16日、「太平洋・ビキニ環礁における水爆実験で被ばくした元漁船員らの健康被害に対する救済措置を求める意見書」を取りまとめた。
意見書は、憲法や国際人権規約などに基づき、①関連する資料の保全・開示および被ばくした元漁船員らの実態調査、②被ばくによる健康被害等に対する補償や生活支援などの金銭的補償の実施、③生存する元漁船員らに対する専門医による健康相談の実施、の3つの政策を実現するよう政府に求めている。
意見書が指摘するとおり、被ばくによる健康被害について適切な救済措置を講じてこなかった日本政府の対応は、自由権規約6条1項が保障する生命に対する固有の権利の観点から問題がある。
本年10月12日からスイスのジュネーブで開催される国連自由権規約委員会第130会期において、日本政府の同規約の実施状況に関する報告審査が予定されている。意見書の取りまとめを受けて、自由権規約委員会に提出する日弁連報告書にもビキニ事件に関する記述が盛り込まれ、事件の概要や日弁連の意見等が同委員会に示される予定である。
(国際人権問題委員会 事務局次長 大野鉄平)
連続講座
―COVID―19と国際人権―(第1回)
パンデミックと人権制約基準
7月16日 オンライン開催
COVID―19に係る国際人権機関の対応を概観し、緊急事態と人権制約に関する各国の対応について報告を受けた。
国際人権問題委員会の佐藤暁子幹事(東京)は、国連人権高等弁務官事務所のCOVID―19に関するガイダンスが、緊急措置について、リスクとの関係で、採られる措置が比例し、必要で、差別的でない方法で適用されるという比例原則によるべきとしていると報告した。また国連事務総長の報告では、緊急事態脱却後、それ以前より良い状況になるような措置であるべきとしていることを紹介した。
憲法問題対策本部の上柳敏郎事務局次長(第一東京)は、日本のような要請と同意による人権制約の問題点として、同意への圧力がかかったり、要請する側による証拠や説明責任の欠如を許容したりしやすいことを指摘した。
葦名ゆき会員(静岡県)からは、州による外出禁止令が適正手続違反を理由に違法無効と州最高裁で判断されたり、連邦移民局によるビザ渡航と滞在の制限に対し一時差止命令を求めて提訴がなされ、政府側が方針を撤回したりするなど、米国における司法の活発な動きについて報告があった。
金塚彩乃会員(第二東京)は、フランスでは、公衆衛生上の緊急事態宣言に基づく行政の措置は行政裁判所の緊急審理手続による違法性審査に服し、6月時点で300件以上の申し立てがあり、行政裁判所が人権擁護の砦として機能していると説明した。
国際人権問題委員会の金昌浩幹事(第二東京)は、韓国では隔離措置違反者の起訴や、自治体による個人情報の収集と感染者の特定がなされているが、国家人権委員会が過度なプライバシー公開等に係る声明を公表したり、大韓弁護士協会が法律相談のQ&Aを公表するなど、人権保障の観点から活動していると述べた。
ブックセンターベストセラー
(2020年7月・手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編集者名 | 出版社名・発行元 |
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1 | 携帯実務六法2020年度版 | 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 | 東京都弁護士協同組合 |
2 | 婚姻費用・養育費の算定〔改訂版〕 | 松本哲泓/著 | 新日本法規出版 |
3 | 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版 | 婚姻費用養育費問題研究会/編 | 婚姻費用養育費問題研究会 |
4 | 新型コロナウイルス影響下の法務対応 | 中央経済社/編 | 中央経済社 |
5 | ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 | 三平聡史/著 | 日本加除出版 |
6 | 養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 | 司法研究所/編 | 法曹会 |
7 |
「会社法」法令集〔第十二版〕 |
中央経済社/編 | 中央経済社 |
8 | 弁護士になった「その先」のこと。 | 中村直人・山田和彦/著 | 商事法務 |
9 | 民法Ⅲ〔第4版〕 | 内田 貴/著 | 東京大学出版会 |
判例による不貞慰謝料請求の実務 最新判例編vol.1 | 中里和伸/著 | LABO |
海外情報紹介コーナー⑨
Japan Federation of Bar Associations
インターネット上のヘイトスピーチ規制法の一部に違憲判断
フランスの憲法裁判所は、本年5月13日に成立したインターネット上のヘイトスピーチを規制する法律が違憲であるとの判断を示した。同法は、ヘイトスピーチに該当する投稿を24時間以内に削除しなかった場合、ソーシャルメディアの運営者に対して罰金を科することを可能としていた。憲法裁判所は、同法がフランス憲法中の複数の原理に違反しているとし、思想の自由市場の重要性を強調するとともに、ソーシャルメディアにおける自由な言説が民主的な社会にとって不可欠であると判示した。なお、同法の一部については合憲であるとの判断がなされている。
(国際室嘱託 三崎拓生)