少年法適用年齢問題にかかる法制審議会少年法・刑事法部会の事務局「取りまとめに向けたたたき台」に関する会長声明



昨日、法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会(以下「法制審部会」という。)において、事務局から審議結果の「取りまとめに向けたたたき台」(以下「たたき台」という。)が示された。本声明は、「たたき台」のうち「罪を犯した18歳及び19歳の者に対する処分及び刑事事件の特例等」について、当連合会として以下のとおり意見を表明するものである。


2017年2月、法務大臣から法制審議会に対し、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることの是非及び非行少年を含む犯罪者に対する刑事政策的措置について諮問されたことを受けて、その後約3年半にわたり法制審部会で議論が続けられてきた。


当連合会は、公職選挙法の選挙権年齢や民法の成年年齢が18歳に引き下げられたとしても、各法律の適用年齢はその法律の目的ごとに定めるべきであること、少年法は有効に機能し、少年による犯罪は凶悪犯罪も含めて大幅に減少しているところ、適用年齢の引下げはかえって再犯増加につながりかねないこと、18歳及び19歳は未成熟で可塑性に富み、教育的な処遇が必要かつ有効であること等の理由から、少年法の適用年齢引下げに反対してきた(2015年2月20日「少年法の『成人』年齢引下げに関する意見書」、2018年11月21日「少年法の『少年』の年齢を18歳未満とすることに反対する意見書」等)。


法制審部会では、当初、18歳及び19歳の者を少年法上の「成人」と位置付けた上で、刑事処分の対象とすることを原則とし、検察官が起訴・不起訴の判断をした後に(検察官先議)、起訴猶予相当とされた者についてのみ家庭裁判所に送致して新たな処分の対象とする案が検討されてきた。


これに対して、今回の「たたき台」は、18歳及び19歳の者についても、まず、全ての事件を家庭裁判所に送致し(以下「全件家裁送致」という。)、家裁調査官の調査や少年鑑別所の鑑別を実施した上で、施設収容処分や保護観察処分等を行うこととし、家庭裁判所が刑事処分を相当と認めたときは検察官に送致して起訴するという、現行少年法に近い枠組みを採用することを提案している。少年法において全件家裁送致の仕組みが果たす役割は極めて重要である。自民党・公明党の与党・少年法検討プロジェクトチームが本年7月30日に公表した「少年法の在り方についての与党PT合意(基本的な考え方)」(以下「与党PT合意」という。)においても18歳及び19歳の者について全件家裁送致を行う旨が提言されているところであり、最終取りまとめにおいてもこのような枠組みは維持されるべきである。


しかしながら、「たたき台」では、いわゆる「原則逆送」事件の対象範囲を強盗や強制性交罪も含む短期1年以上の懲役禁錮(新自由刑)の罪の事件にまで拡大することが提案されている。現行少年法上は、「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた」という重大な生命侵害事件に限定されているいわゆる「原則逆送」の範囲を、犯情の幅が極めて広い事件類型にまで拡大することは、家庭裁判所において諸事情を考慮した上で対象者の立ち直りに向けた処分をきめ細かく行うという現行少年法の趣旨を没却し、その機能を大きく後退させるものであり、到底許容できない。また、推知報道の禁止については、家庭裁判所により検察官に送致され公判請求された後には禁止が解除されるとしているが、未成熟で可塑性を有する18歳及び19歳の者の社会復帰を極めて困難にするものであって、許容することはできない。


さらに、「たたき台」においてぐ犯を対象としないとされていることは、罪を犯してはいないが反社会的集団に引き込まれるおそれ等がある少年(特に女子少年)に対する、いわば「セーフティネット」の役割が失われることを意味する。また、検察官送致後に刑事裁判となった場合について、不定期刑の適用がないことや、資格制限の特例の適用がないとされていることも、現行少年法の内容から大きく後退させるものであり、問題である。


そして、「たたき台」においては、18歳及び19歳の者を少年法の中に位置付けるか否かに関して、「年齢区分の在り方やその呼称については、今後の立法プロセスにおける検討に委ねるのが相当である」とされており、結論を出していないが、18歳及び19歳の者に対し、未成熟で可塑性があることに着目し、その立ち直りのために国家が後見的に介入をするのであるから、これらの者をあくまで少年法の対象として「少年」とすることを明確にすべきである。この点、与党PT合意において「18歳・19歳の者は、少年法の適用対象」と明示していることは評価すべきであり、最終的な取りまとめにおいては、18歳及び19歳の者を少年法の適用対象である「少年」として明確に位置付けた上で、少年法の理念を及ぼすべきである。


法制審部会における議論が、適用年齢の引下げを前提とした議論から大きく変化してきた背景には、当連合会及び全国の弁護士会のみならず、元少年院長、元調査官、元裁判官等の少年司法・矯正の現場に関わった方々をはじめ、子どもの教育、福祉、医療や立ち直り支援、被害者支援などに関わる諸団体から、次々と少年法の適用年齢引下げに反対する意見が表明され、その声が広がったことが大きく寄与している。


当連合会としては、この「たたき台」のまま法制審部会において取りまとめを行うことには反対し、今後も引き続き、非行のある少年の健全な成長発達と再犯防止に果たしている少年法の役割が維持されるよう、諸団体と連携して運動を進めていく決意である。





 2020年(令和2年)8月7日

日本弁護士連合会
会長 荒   中