日弁連新聞 第555号

就任のご挨拶
日本弁護士連合会会長
荒    中

3月11日に実施された日弁連会長選挙(再投票)において、全国の1万人を超える会員の支持をいただき当選いたしました。この選挙では、全国52弁護士会のうち4分の3以上の40の弁護士会において多数を占めることができました。会員の皆さまのご支援に心より感謝申し上げます。

さて、新型コロナウイルスの感染被害が拡大しています。私たち弁護士・弁護士会は、これまでに集積した災害対応等の経験と調査・研究により蓄積した英知を最大限活用して、この事態にあたらなければならないと考えています。

また、政府・中央省庁では法の支配を形骸化させかねない事態が起きています。私たちは日本最大の法律家団体として問題点を明らかにし、法の支配の確立に向けた対応を促していく必要があります。


さらに、立憲主義の堅持と憲法の基本原理の尊重について、日弁連の立場とは異なる動きがあります。会内のコンセンサスを十分得ながらこのような動きに適切に対応していきたいと思います。


死刑制度の廃止についても、引き続き取り組みを進めていく必要があります。一方、犯罪被害者に対する法的支援の拡充に向けた努力も必要です。


法科大学院制度の改革も実践の時を迎えています。私たちは、志願者の増加や教育の質の向上についてしっかり見極めつつ、適切な措置を講じていく必要があります。司法試験の合格者数については、4年連続1500人台になったことで減員はほぼ実現したものと考えられます。そこで、さらなる減員については、検証を行い、今後の方針を決める時期にきていると思います。


民事司法の改革については、全力で取り組まなければならないと思っています。


いわゆる谷間世代の支援については、不公平を是正するという視点を持って活動したいと思います。


また、弁護士の業務基盤の確立についても法テラス事業拡充への取り組み、弁護士費用保険の拡充、国・自治体との連携による公益的活動の拡大などできることをしっかりと行っていきたいと思います。


司法過疎問題への取り組みも引き続き行います。特に都市型公設事務所の支援は極めて重要であると考えています。


15人の副会長、渕上玲子事務総長以下事務次長・職員が一丸となって、日弁連の政策実現に向けて全力を尽くしたいと思っています。


会員の皆さまのご支援とご協力を心よりお願いいたします。



全国一律最低賃金制度の実施に向けて

arrow 全国一律最低賃金制度の実施を求める意見書


日弁連は2月20日、地域別最低賃金を廃止し全国一律最低賃金制度を導入すること、同制度の導入には一定の猶予期間を設けるとともに、充実した中小企業支援策を構築することなどを内容とする「全国一律最低賃金制度の実施を求める意見書」を取りまとめた。


地域別最低賃金を決めるに当たっては、中央最低賃金審議会において、全国を4つのランクに分け、ランクごとに示す「目安」を参考とする方法が長年踏襲されてきた。しかし、地域間の最低賃金の格差は解消されず、むしろ拡大しており、最低賃金の低い地方から高い地方への人口流出が続いている。こうした状況を受け、地方を中心に各地の議会で、全国一律最低賃金制度の確立を求める意見書や請願が採択されている。


一方で、公共交通機関が十分整備されていない地方では、就業や日常生活のために自動車の保有を余儀なくされており、こうした事情を考慮すると、最低賃金を決定する上で重要な「労働者の生計費」の水準は、都市部でも地方でも大きく変わらないことが近時の研究で明らかになってきた。


また、全国一律最低賃金制度を導入した場合、中小企業の経営に大きな影響を与えることから、その支援も重要である。日本商工会議所が昨年実施したアンケート調査では、税・社会保険料負担の軽減が、最低賃金引き上げに対応するために必要と考えられる支援策のトップであった。


今回の意見書の公表を機会に、現行制度の改正を実現する活動を全国で展開していくことが必要である。


(貧困問題対策本部  委員 兒玉修一)



フィリピン統一弁護士会との友好協定締結・共同セミナーの開催
2月14日 主婦会館プラザエフ

arrow フィリピン統一弁護士会との共同セミナー「友好協定締結記念セミナー~フィリピンの投資法について~」


日弁連は2月14日、フィリピン統一弁護士会との間で友好協定を締結した。

同弁護士会は、1970年に設立された歴史ある弁護士会で、フィリピン国内の法曹全員が強制的に加入する団体である。

同弁護士会とは2016年に定期的な交流を開始し、過去3回にわたって両国の家族法に関する共同セミナーを開催したほか、2016年および2019年には調査団を派遣し、交流を深めてきた。

今回、友好協定締結に際し、同弁護士会からはドミンゴ・エゴン・カヨサ会長を含む11人が来日し、友好協定締結記念式典および日弁連との共同セミナー「友好協定締結記念セミナー~フィリピンの投資法について~」に参加した。

セミナーでは、マリア・ベルナディタ・アンガラ・マサイ氏(フィリピン貿易投資センター東京 コマーシャルカウンセラー)およびフェルモ・アヴィラⅡ世氏(フィリピン弁護士・フィリピン証券取引委員会証券カウンセラー)から、フィリピンにおける投資を巡る状況について講演があり、法律サービス展開本部国際業務推進センターの岡﨑友子幹事(東京)からは、日本企業のフィリピン進出等における日比弁護士の協働についての講演があった。

友好協定締結を機に、日比法律案件サポートプロジェクトを含めて同弁護士会との相互連携・協力を一層深めていきたい。


(法律サービス展開本部国際業務推進センター  センター長 矢吹公敏)



「実効性ある包括的ハラスメント禁止に向けた法制度の整備を求める意見書」を公表

arrow 実効性ある包括的ハラスメント禁止に向けた法制度の整備を求める意見書


日弁連は2月21日、「実効性ある包括的ハラスメント禁止に向けた法制度の整備を求める意見書」を取りまとめ、厚生労働大臣に提出した。


2019年6月21日、国際労働機関(ILO)は総会で、仕事の世界における暴力とハラスメント撤廃に関する条約(以下「ILO条約」)と勧告を採択した。ILO条約は、暴力とハラスメントについて定義し、各加盟国にハラスメントの法的禁止等を求めている。


日本でもいわゆるセクハラ、マタハラ、パワハラ、SOGIハラ(性的指向または性自認に関するハラスメント)などのハラスメントが社会問題になっている。しかし、行為規範としてハラスメントを禁止する明文規定は存在せず、被害者救済のための実効的な法制度も整備されていない。


2019年の労働施策総合推進法の改正により、いわゆるパワハラについて定義され、事業主がパワハラの防止措置義務を負うことが定められた。もっとも、同法に基づく指針では、禁止されるハラスメントの範囲が著しく限定されており、ILO条約の仕事の世界におけるあらゆるハラスメントの根絶を目指す方向性から逸れる内容である。


本意見書では、国に対し、社会におけるあらゆるハラスメントを根絶するため、ILO条約を批准するとともに、仕事の世界において禁止されるべきハラスメントを適切に定義し、ハラスメントの包括的禁止や被害者救済を明記した実効的な法制度を整備することを求めている。


(両性の平等に関する委員会第1部会  部会長 細永貴子)



令和2年度同3年度
日弁連会長選挙開票結果

令和2年度同3年度日本弁護士連合会会長選挙の再投票および開票が3月11日に行われました。
3月18日の選挙管理委員会において開票結果を確定し、当選者を決定しました。


(当選者)

荒   中(あら ただし)
(仙台弁護士会)



ひまわり

2月末、トイレットペーパー等の紙製品が突如として店頭から消えた。発端はインターネット上のデマらしい。本当に必要とする事情を抱えている者には一大事である。このような買い占めについて経済学の「ゲーム理論」に基づく解説があった▼「通常頻度で購入する」という選択を全員がとれば、社会の利益は最大化するが、全員がこの選択をしなければ「皆が使える」というメリットは成立しない。他方、「買い占める」という選択は自分ひとりで成立するだけでなく、「買い占めない」選択をした人の分まで効用が得られる。したがって、たとえデマを信じていなくても、不安が生じた時点で「買い占める」選択をするのが合理的というものである▼確かに、経済的合理性だけの観点からすればそうなのかもしれない。しかし、現実の社会では、このような独善的行動に対し、法や教育などによってその合理性を打ち消す対策がとられている▼「デマを信じた人が買い占めに走っても、十分な補充が可能」という情報とエビデンスの公開が対策として重要との指摘もある。それに加え、やはり他者への配慮は忘れたくない▼「うばい合うと 足らないけれど わけ合うと あまっちゃうんだなあ」(相田みつを『生きていてよかった』角川文庫)


(Y・F)



2020年度役員紹介

3月13日に開催された代議員会(本人出席242人、代理出席326人)において、2020年度役員が選出された。就任に当たり、15人の副会長の抱負と理事および監事の氏名を紹介する。

 

冨田 秀実(東京・34期)

[出身]愛知県
[抱負]登録、綱紀・懲戒、刑事弁護センター、取調べの可視化本部、司法修習、日本弁護士政治連盟などを担当します。会長を補佐し、基本的人権の擁護と社会正義の実現のために尽力します。



寺前 隆(第一東京・37期)

[出身]鹿児島県
[抱負]財務・経理、民事司法改革総合推進本部、民事裁判手続等に関するIT化、FATF対応、会館運営・地代問題などを担当します。会員の皆さまの期待に応え、かつ、市民社会に広くその活動が認められるよう、会長を補佐して頑張ります。



岡田 理樹(第二東京・40期)

[出身]京都府
[抱負]法曹養成、法科大学院センター、弁護士倫理、研修、依頼者と弁護士の通信秘密保護、会則改正、年金基金、法務研究財団などを担当します。内外の声をよく聞いて、弁護士・弁護士会を取り巻く諸課題に全力で取り組みます。



延命 政之(神奈川県・42期)

[出身]神奈川県
[抱負]高齢者・障害者権利支援センター、市民のための法教育、市民会議、国際人権問題、災害復興支援、総合法律支援本部などを担当します。課題に誠実に対峙し、解決に向けて尽力します。会長を補佐して頑張ります。



關本 喜文(山梨県・48期)

[出身]東京都
[抱負]労働法制、行政訴訟センター、人権擁護委員会、法律サービス展開本部などを担当します。基本的人権の擁護に取り組む会員の皆さまの日頃の活動に役立つよう日弁連の諸課題実現に会長を補佐して取り組みます。



川下 清(大阪・33期)

[出身]大阪府
[抱負]新型コロナウイルスを巡る困難な状況ですが、会長を補佐し、日弁連の円滑な運営に努めたいと考えます。リーガル・アクセス・センター(LAC)、男女共同参画推進本部関係を主として担当します。



白浜 徹朗(京都・39期)

[出身]佐賀県
[抱負]弁護士業務改革、同シンポジウム、信託センター、公設事務所・法律相談センター、接見交通、業際・非弁・非弁提携問題などを担当します。弁護士の業務拡大に取り組み、若手が将来展望を持てるような道筋ができるよう努力します。



山下 勇樹(愛知県・39期)

[出身]愛知県
[抱負]若手弁護士サポートセンター、総合法律支援本部、民事介入暴力対策、弁護士業務妨害対策などを担当します。弁護士がその使命を果たせるよう、多くの会員の皆さまとともにより活力ある日弁連実現のために努力します。



西村 依子(金沢・37期)

[出身]石川県
[抱負]両性の平等、犯罪被害者支援、人権擁護の各委員会、刑事拘禁制度改革実現本部、男女共同参画推進本部、人権擁護大会、司法シンポジウムなどを担当します。会長を補佐し、委員会と執行部のより良き意思疎通を図っていきたいと思っております。



舩木 孝和(広島・36期)

[出身]広島県
[抱負]民事裁判手続、家事法制、法科大学院センターなどを担当します。日弁連が直面する諸課題について、誠心誠意取り組みます。



上田 英友(福岡県・40期)

[出身]福岡県
[抱負]国際関係(国際戦略、国際活動、国際交流、中小企業の国際業務支援、国際仲裁)、弁護士職務の適正化、憲法問題などを担当します。国際戦略を視野に入れ、日弁連が国民の期待に応えるために、会長を補佐して全力で取り組みます。



鎌田 健司(仙台・48期)

[出身]岩手県
[抱負]子どもの権利、消費者問題、人権擁護大会シンポジウム(第2分科会)、国選弁護本部、国選弁護シンポジウム、災害復興支援、令和元年台風災害対策本部などを担当します。執行部と委員会の調整を図り、活発かつ円滑な会務運営のために尽力したいと思います。



狩野 節子(秋田・44期)

[出身]新潟県
[抱負]貧困問題、国内人権機関実現、人権擁護大会シンポジウム(第3分科会)、男女共同参画推進本部、公害・環境、広報などを担当します。人権擁護と社会正義の実現のため、また信頼される日弁連のために、会長を補佐して頑張ります。



大川 哲也(札幌・44期)

[出身]北海道
[抱負]司法制度調査会、死刑廃止、裁判迅速化法問題、裁判官制度改革・地域司法計画、知的財産などを担当いたします。昨今の社会情勢の中、日弁連が憲法の価値実現の担い手となり続けるよう尽力いたします。



五葉 明徳(愛媛・44期)

[出身]愛媛県
[抱負]情報問題、所有者不明土地問題、倒産法制、弁護士任官等推進センター、秘密保護法・共謀罪法対策本部、検察審査会に関する委員会などを担当します。会員の声に耳を傾けて、市民社会の発展に寄与していきたいと考えています。



理事

  • 伊藤 茂昭(東京)
  • 緒方 孝則(東京)
  • 秋田  徹(東京)
  • 山内 一浩(東京)
  • 木村 英明(東京)
  • 田中みどり(東京)
  • 米田 龍玄(東京)
  • 吉岡  剛(東京)
  • 三原 秀哲(第一東京)
  • 長尾  亮(第一東京)
  • 相原 佳子(第一東京)
  • 芳仲美惠子(第一東京)
  • 日下部真治(第二東京)
  • 緑川 由香(第二東京)
  • 藤井 麻莉(第二東京)
  • 剱持 京助(神奈川県)
  • 野崎  正(埼玉)
  • 眞田 範行(千葉県)
  • 小沼 典彦(茨城県)
  • 澤田 雄二(栃木県)
  • 久保田寿栄(群馬)
  • 白井 正人(静岡県)
  • 深澤  勲(山梨県)
  • 中嶌 知文(長野県)
  • 水内 基成(新潟県)
  • 田中  宏(大阪)
  • 三木 秀夫(大阪)
  • 澤田 有紀(大阪)
  • 櫛田 和代(大阪)
  • 日下部和弘(京都)
  • 道上  明(兵庫県)
  • 友廣 隆宣(兵庫県)
  • 宮坂 光行(奈良)
  • 西川真美子(滋賀)
  • 山崎 和成(和歌山)
  • 井口 浩治(愛知県)
  • 竹内 裕美(愛知県)
  • 中西 正洋(三重)
  • 山田  徹(岐阜県)
  • 八木  宏(福井)
  • 宮西  香(金沢)
  • 西川 浩夫(富山県)
  • 足立 修一(広島)
  • 上田 和義(山口県)
  • 猪木 健二(岡山)
  • 野口 浩一(鳥取県)
  • 鳥居 竜一(島根県)
  • 多川 一成(福岡県)
  • 上地 和久(福岡県)
  • 富永 洋一(佐賀県)
  • 中西 祥之(長崎県)
  • 吉田 祐治(大分県)
  • 鹿瀬島正剛(熊本県)
  • 新倉 哲朗(鹿児島県)
  • 成見 暁子(宮崎県)
  • 村上 尚子(沖縄)
  • 十河  弘(仙台)
  • 槇  裕康(福島県)
  • 阿部 定治(山形県)
  • 大和久政也(岩手)
  • 山口 謙治(秋田)
  • 竹中  孝(青森県)
  • 樋川 恒一(札幌)
  • 砂子 章彦(札幌)
  • 堀田 剛史(函館)
  • 林  孝幸(旭川)
  • 岩田 圭只(釧路)
  • 徳田 陽一(香川県)
  • 志摩 恭臣(徳島)
  • 松本 隆之(高知)
  • 森本 明宏(愛媛)



監事

  • 加納小百合(東京)
  • 長沢美智子(第二東京)
  • 海老原夕美(埼玉)
  • 三野 岳彦(京都)
  • 浅井 直美(岐阜県)



新事務総長紹介

3月31日付で、菰田優事務総長(第一東京)が退任し、後任には、渕上玲子事務総長(東京)が就任した。

 

渕上 玲子(東京・35期)

2017年度東京弁護士会の会長兼務で日弁連副会長を務め、さまざまな課題に直面しながら、一年間を過ごしました。これで終わりのはずが、今度は裏方全体を担当し、全職員とともに荒執行部を支えていくことになりました。円滑な会運営に努めてまいりたいと思います。  

 


 

弁護士任官者の紹介

4月1日付で次の会員が裁判官に任官した。

 

糸井 淳一氏

55期(元神奈川県弁護士会)
司法修習終了後、三井安田法律事務所、外国法共同事業法律事務所リンクレーターズ、木村良二法律事務所での勤務を経て、糸井総合法律事務所を開設。
〈初任地 東京高裁〉


河野 申二郎氏

63期(元東京弁護士会)
橋元綜合法律事務所、東京法務局に勤務。
〈初任地 大阪高裁〉



塩谷 真理絵氏

63期(元埼玉弁護士会)
司法修習終了後、弁護士法人けやき総合法律事務所(埼玉県熊谷市)、サライ法律事務所(さいたま市)に勤務。
〈初任地 東京高裁〉



公営住宅の連帯保証人・保証人に関する意見書を公表

arrow 公営住宅の連帯保証人・保証人に関する意見書


日弁連は2月20日、公営住宅に入居を希望する際に連帯保証人・保証人を求めている地方公共団体は、関連する条例を改正し、連帯保証人・保証人を不要とすべきとする「公営住宅の連帯保証人・保証人に関する意見書」を取りまとめた。


公営住宅は、民間の賃貸住宅に比して低廉な家賃が設定されていて、住宅に困窮する低額所得者であっても入居が可能となっており、いわゆる「住宅セーフティネット」の中核として機能している。


総務省が2018年1月に行った調査および日弁連が同年8月に行ったアンケート調査では、調査により状況を確認できた全ての地方公共団体において、公営住宅の入居に当たり連帯保証人・保証人(以下「連帯保証人等」)を要求していた。


住宅確保が困難な低額所得者、高齢者、障害者にとって、連帯保証人等を見つけることは容易ではない。


国土交通省は、2018年3月30日付国土交通省住宅局長通知において、保証人を確保できないために公営住宅に入居できないといった事態が生じることがないようにとの趣旨で、公営住宅の入居に際して連帯保証人等を不要とする条例案を全国の地方公共団体に示した。


既に複数の地方公共団体では、これらの指摘を踏まえ、公営住宅の入居に際して連帯保証人等を不要としたり、不要とすることを検討したりしているところである。しかし、最近の新聞報道によれば、約半数の府県が保証人規定の存置を表明している。


公営住宅が住宅セーフティネットの中核としてその役割が期待されていることに鑑み、公営住宅の入居に際しては連帯保証人等を不要とする条例改正が行われるべきである。


(貧困問題対策本部 委員 澤田仁史)



日弁連短信
日弁連による各省庁との連携

多文化共生施策

2019年4月に新たな外国人労働者受入れ制度が創設され、日本に在留する外国人数が増加することが見込まれている。

日弁連は、2018年の人権擁護大会および2019年の定期総会で多文化共生社会の確立に向けた宣言を採択し、外国人への法的サービスの確保とさらなる充実に取り組んでいる。

具体的には、政府が推進する多文化共生総合相談ワンストップセンター構想に従って全国各所に開設される一元的相談窓口におけるアウトリーチ型の法律相談の実施である。多文化共生社会の実現には外国人の司法アクセス拡充が不可欠であって一元的相談窓口での法律相談の実施が有益である。


各弁護士会では、従前から国際交流協会等において外国人向けの法律相談を定期的に実施しているところも多数あるが、この機会に新規に行政の予算を確保して定期的な法律相談が実現した弁護士会もあり、一層の取り組みが期待される。



スクールロイヤー


学校現場では、いじめ、不登校、体罰、事故等のさまざまな問題が発生しており、学校の特殊性を前提にしながら法的な視点を踏まえた対応を行うことができるスクールロイヤーの有益性が認知されつつある。


日弁連は、子どもの最善の利益を念頭に置きつつ、教育や福祉等の視点を取り入れながら、法的観点から継続的に学校に助言を行う弁護士を「スクールロイヤー」と呼び、その整備を求める意見書を2018年1月に公表している。


そのような中、都道府県・指定都市教育委員会における弁護士等への法務相談経費について、令和2年度の普通交付税措置が講じられることとなった。


これを踏まえて日弁連は、文部科学省の「初等中等教育局スクールロイヤー配置アドバイザー」として弁護士を派遣し 、同省との連携を強化している。


今後、各自治体の教育委員会と各弁護士会においてスクールロイヤーの派遣等に関する連携が深まることを期待する。


◇   ◇


日弁連としては、全国規模の政府施策について 弁護士の関与が進むように各省庁と連携している。具体的な取り組みは弁護士会において実施していただくことになるが、法の支配を社会の隅々に行き渡らせるために精力的な取り組みをお願いしたい。


(事務次長 奥 国範)



技能実習生の労働環境に関する人権救済申立事件(勧告)

arrow 技能実習生の労働環境に関する人権救済申立事件(勧告)


勧告の要旨

技能実習生の労働環境に関する人権救済申立事件について、日弁連は2月26日、法務大臣および出入国在留管理庁長官に対し、①技能実習生に帰責性なく実習継続が困難になったとして実習先の変更について申し出があった場合、速やかに在留資格変更の許否について判断を示すこと、判断までの間、就労を許容する等の措置を講じることを勧告した。さらに、法務大臣および厚生労働大臣に対し、②このような申し出があった場合には、技能実習生に対する情報提供等の援助、関係者に対する適切な監督を行い、より根本的には、③技能実習制度を直ちに廃止するよう勧告した。



事案の概要

技能実習生は、技術習得を図る名目により実習先変更の自由が保障されていないが、本件では、技能実習生が予定していた職種と、実際に従事した職種が全く異なっていたため、当該技能実習生(以下「事件本人」)が入国管理局(当時)に実習先変更の許可を求めた。しかし、9か月以上にもわたる審査の間、事件本人は就労できない在留資格しか許可されず、収入が途絶え、生活に困窮し、生存権を侵害されたものである。



技能実習制度廃止に向けて

日弁連は、これまで技能実習制度廃止を求める意見を繰り返し公表している。現状では、約37万人の技能実習生が日本で働いているため、今後も同様の事例が発生する可能性は十分にある。少なくとも現行制度が続く間は、実習先変更が認められるような場面において、長期間、就労できない状況で審査を待たされることにより、生活に困窮したり、実習先の変更を諦めて帰国したりすることがないよう、勧告どおりの運用が期待される。



(人権擁護委員会 特別委嘱委員 大坂恭子)



社債管理補助者に関する指針策定

日弁連は2月21日、昨年12月に成立した会社法の一部を改正する法律によって新設される「社債管理補助者」に関する指針を策定した。


社債管理補助者とは

社債管理補助者は、社債管理者の設置が義務付けられていない社債を社債権者が管理をすることを補助するものである。破産手続参加等のほかは、委託契約により認められた範囲内で行為し、支払請求その他の法的手続は社債権者集会の決議に基づいて行うなど、その権限と責任が限定されている。


社債管理補助者の資格要件は、銀行等の金融機関や信託会社等に加え、法務省令により弁護士および弁護士法人(以下「弁護士等」)にも拡大される予定である。



弁護士等が社債管理補助者になる場合の規律

弁護士等が社債管理の補助を適切に行うためには、実務対応のルールが必要となる。弁護士等は、社債権者の法定代理人として、委託契約を締結した社債発行会社に社債権を行使するため、社債発行会社は「依頼者」かつ「相手方」という関係に立ち、利益相反に関する適切な規律を及ぼす必要がある。また、自然人である弁護士や社員が一人である弁護士法人が社債管理補助者に就任し、社債の償還期間中に死亡するなどして業務を継続できなくなる場合に備え、委託契約において事業を承継する者を定めておく必要がある。


このような必要性に対応するため、弁護士職務基本規程の解釈を明らかにすることなどにより、社債管理の補助を行う態勢を整えたのが本指針である。


本指針が、弁護士等はもちろん、社債管理補助者の選任を検討している企業等においても、広く参照されることを期待している。



(司法制度調査会法制審会社法部会バックアップチーム 座長 梅野晴一郎)



国際水準の人権保障システムの実現を目指す院内集会
障がい者の人権、ヘイトスピーチ、子どもの人権などを踏まえて考える
2月19日 衆議院第二議員会館

arrow 国際水準の人権保障システムの実現を目指す院内集会~障がい者の人権、ヘイトスピーチ、子どもの人権などを踏まえて考える~


日弁連は、2019年10月4日の第62回人権擁護大会で「個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を求める決議」を採択し、その実現を目指して活動している。個人通報制度と国内人権機関(以下合わせて「両制度」)について、障がい者の人権・ヘイトスピーチ・子どもの人権の観点から理解を深め、実現の機運を高めるべく、院内集会を開催し、86人が出席した(うち国会議員本人出席11人、代理出席18人)。


国際人権問題委員会の小川政治副委員長(広島)は、第62回人権擁護大会について報告し、個人通報制度が導入されれば、日本の裁判実務等においても人権救済が国際人権法の基準に平準化され、また、国内人権機関が設置されることで、迅速な人権救済が図られると期待を寄せた。


人権擁護委員会障害者権利条約パラレルレポート作成プロジェクトチームの野村茂樹座長(東京)は、障がい者の入店拒否などの事例について、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律では、地方自治体に対応が委ねられているため人権救済に地域格差が生じているとし、格差を解消し迅速な救済を図るためにも身近な裁判外救済機関が必要と述べた。師岡康子会員(東京)は、日本でヘイトスピーチ等が解消されないのは歴史的構造的要因に基づくと分析し、人種差別撤廃条約を締結しながら長年にわたり人種差別禁止法の整備がされない問題などを指摘して、両制度の必要性を訴えた。国内人権機関実現委員会の後藤睦恵副委員長(愛知県)は、子どもの人権に関し、虐待死・体罰・教育委員会などの不適切な対応が後を絶たず、文部科学省によれば2018年度のいじめの認知件数は54万件で前年度比31%増であるなど、深刻な事態となっており、両制度の実現が急務であると報告した。


出席した国会議員からは、国際水準の人権が保障されない状況が放置されれば人材流出や国力低下にもつながりかねないなど、危機感を示す声が上がった。



SBS(揺さぶられっ子症候群)仮説をめぐるセミナー
虐待を防ぎ冤罪も防ぐために、いま知るべきこと
2月14日 弁護士会館

arrow SBS(揺さぶられっ子症候群)仮説をめぐるセミナー「虐待を防ぎ冤罪も防ぐために、いま知るべきこと」


近時、無罪判決が相次いでいる揺さぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome, 以下「SBS」)が問題となる事件について、硬膜下血腫・脳浮腫・眼底出血の三徴候があれば揺さぶり行為を推定するSBS仮説の問題点と今後の課題を議論するためセミナーを開催し、168人が参加した。(共催:関東弁護士会連合会ほか6団体)


小児脳神経外科の専門医として多数の症例を扱う埜中正博診療教授(関西医科大学医学部)は、乳幼児を暴力的に揺さぶったとの診断を招く三徴候(硬膜下血腫、脳浮腫、眼底出血)について画像を示しながら説明し、三徴候は転倒事故や頭の大きさなどの性質、疾患も原因となり得るため、虐待であると認定するには科学的根拠が不十分であると医学的見地から指摘した。

日弁連刑事弁護センターの川上博之幹事(大阪)は、保護者が揺さぶり行為により虐待したとして傷害致死罪等に問われた事件について、国内の無罪事例と裁判の状況を整理して説明した。三徴候があるから揺さぶりに違いないとの検察官の主張は、近時減少しているものの、いまだえん罪を生む可能性は除去されていないと述べ、医学的検討に加えて、事件当時の被告人、被害者等の関係者の状況や、事件現場の状況など医学的視点以外からの検討も必要であると強調した。


続いて、子どもの権利委員会の岩佐嘉彦委員長(大阪)を加えたパネルディスカッションを行った。


岩佐委員長は自身が携わる児童相談所の実情や児童相談所が意見を求めることができる医師が少ないなどの悩みを述べた。


笹倉香奈教授(甲南大学法学部)は、スウェーデンにおける無罪判決などを紹介し、諸外国においてもSBS仮説に疑問が投げかけられている状況について報告するとともに、SBS仮説の見直しを訴えてセミナーを総括した。



さらなる多様化「企業・法律事務所間の双方向 キャリアパス」の可能性
企業内弁護士に関するキャリアセミナー
2月12日 弁護士会館

arrow 企業内弁護士に関するキャリアセミナー「さらなる多様化『企業・法律事務所間の双方向キャリアパス』の可能性」


近年、弁護士が法律事務所・企業間で転職するケースが増えている。企業内弁護士への転身のほか、企業から法律事務所に転籍した例を紹介し、法律事務所、企業での経験がそれぞれどのように生かされているか等について情報共有するためセミナーを開催した。


舟串信寛会員(東京)は、法律事務所勤務を経てから企業内弁護士に転身し、企業退職後に法律事務所を開設した自身の経験を踏まえ、法律事務所でも企業内でも弁護士である以上求められる能力は基本的に共通していると述べた。その上で、企業内で組織における意思決定の過程を目の当たりにした経験が法律事務所において役立つこと、法律事務所で弁護士として同種の法律問題に異なる立場で携わった経験が企業内で生かせることなど、一方での経験やスキルを他方でも存分に活用できると強調した。


五反田美彩会員(第一東京)は、自身のキャリアを考える上で連続性を常に意識してきたとして、規模の異なる二つの企業で、グループ内組織再編、事業譲渡、ベンチャー出資業務等に携わった経験を生かすため、現在はベンチャー企業等に対する法的支援を重点的に取り扱う法律事務所に所属していると語った。また、弁護士は自由に生き方を選択できる魅力ある職業なので自分自身でキャリアの幅を狭めずにあらゆることに挑戦してほしいと参加者に呼びかけた。


企業内弁護士を経験した後、法律事務所に転籍した重富智雄会員(東京)を加えたパネルディスカッションでは、具体的な転職活動の方法、弁護士同士のネットワークの重要性など、事前に質問として寄せられたさまざまなテーマについて率直で活発な意見交換が行われ、参加者は熱心に耳を傾けた。



弁護士と一緒に考える
〜起業家のためのリーガル・リスク・マネジメント〜
2月19日 TOKYO創業ステーション

arrow 弁護士と一緒に考える~起業家のためのリーガル・リスク・マネジメント~


起業を志している方や起業したばかりの方を対象に、弁護士による法的サポートを身近に感じてもらうため、創業時によくある法律問題を解説するセミナーを開催した。


創業者向けセミナー

日弁連中小企業法律支援センターの樽本哲事務局次長(第一東京)が講師を務め、まず、法人設立のメリットや法人の種類、各法人の設立手順など法人設立の基礎知識を解説した。

次に、起業家を目指すなら知っておきたい五つのリーガル・リスクとして、契約リスク、消費者取引リスク、スタッフの労務リスク、経営者・出資者の仲違いリスク、事業者を標的にした詐欺的取引リスクがあると指摘した。また、起業家には法律(規制)や契約の重要性を認識できていない人が少なくないこと、労使間トラブルは経営者の精神的負担にもなるため事前予防が不可欠であること、創業メンバー間で不公平感が生じないような役割と権利の分配が必要であることなど、樽本会員がこれまでの創業支援や自身が起業した際の具体的な経験を交えて説明した。


続いて、リーガル・リスクを乗り越えてビジネスを実現する方法として、新技術等実証制度(いわゆる「規制のサンドボックス制度」)、グレーゾーン解消制度、新事業特例制度等を解説し、リーガル・リスクのマネジメント手法として、行政や業界団体の提供する書式の活用や先輩への相談が考えられるが、専門家である弁護士への相談も積極的に検討してほしいと語りかけた。



弁護士による無料法律相談

セミナー終了後には、日弁連中小企業法律支援センターの弁護士5人が法律相談を行った。計10組の相談希望者がさまざまな法律問題について相談し、弁護士からのアドバイスを熱心に聞いていた。



ブックセンターベストセラー
(2020年1月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名・発行元名
1 養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 司法研修所 編 法曹会
2 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)
新装補訂版
婚姻費用養育費問題研究会 編 婚姻費用養育費問題研究会
3 弁護士はこう表現する 裁判官はここを見る
起案添削教室
牧田謙太郎・柴﨑哲夫 著 学陽書房
4 契約類型別 債権法改正に伴う 契約書レビューの実務 滝 琢磨 著 商事法務
5 模範六法 2020 令和2年版 判例六法編修委員会 編 三省堂
6 労働法実務 使用者側の実践知 岡芹健夫 著 有斐閣
7 有斐閣判例六法 Professional 令和2年版 中里 実・長谷部恭男・佐伯仁志・酒巻 匡・大村敦志 編集代表 有斐閣
8 契約書作成の実務と書式〔第2版〕 阿部・井窪・片山法律事務所 編 有斐閣
9 東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運用 東京家庭裁判所家事第5部 編著 日本加除出版
10 Q&A 改正債権法と保証実務 筒井健夫・村松秀樹・脇村真治・松尾博憲 著 きんざい



日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング 2019年12月~2020年2月

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順位 講座名 時間
1 LAC制度の概要 12分
2 交通事故を中心とした偶発事故対応弁護士費用保険について 38分
3 中小企業向け弁護士費用保険について 9分
4 交通事故刑事弁護士費用保険について 22分
5 民事裁判手続IT化フェーズ1実務対応 99分
6 業務妨害行為対応弁護士費用保険について 12分
7 2018年度ツアー研修 第1回 カウントダウン!債権法改正① 158分
8 成年後見実務に関する連続講座 第3回 成年後見人の事務2~医療同意、死後事務、保佐・補助、後見制度支援信託 39分
9 よくわかる最新重要判例解説2019(民事) 113分
10 成年後見人実務に関する連続講座 第2回 成年後見人の事務1 64分

お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9902)