商業登記規則等の一部を改正する省令における代表取締役等の住所非表示措置に関し、弁護士による職務上請求制度の創設等を求める会長声明


本年4月16日、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号、以下「本省令」という。)が公布された。本省令は、一定の要件を満たした場合には、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」という。)の住所の一部について、申出により、登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないこととする措置を定めたものである。当連合会としては、本年1月17日付け「arrow_blue_1.gif商業登記規則等の一部を改正する省令案に対する意見書」(以下「本意見書」という。)で述べたとおり、代表取締役等のプライバシーを保護するという本省令の趣旨には賛成である。


しかし、商業登記における代表取締役等の住所は、①会社に事務所や営業所がない場合の普通裁判籍を決する基準としたり、本店所在地への送達が不能となった場合の送達場所としたりするものであるほか、②会社を悪用した詐欺商法を含む消費者被害等の救済に当たっての調査や被害回復のため、一定の場合に公開されることが必要であるところ、本省令では、②について特段の手当てがなされていない。


昨今、SNS型投資詐欺等の詐欺商法が社会問題化している中、被害金の振込先として、会社名義の預金口座等が悪用される例は後を絶たない。詐欺商法を敢行する者は、本人確認規制がない又は規制の緩い通信手段等を悪用する傾向があるところ、上記②について特段の手当てを設けない場合には、代表取締役等の住所を表示しない措置を講じた会社を悪用した詐欺商法が一層増加することが懸念される。このような事態を招来することは、現在、国が、犯罪対策閣僚会議等で様々な犯罪対策プランの策定をしている中にあって、犯罪被害予防という観点からも、決して望ましいことではない。


そこで、商業登記よりもプライバシー情報の量が多い戸籍や住民票について、弁護士による職務上請求が認められていることに鑑み(戸籍法第10条の2及び住民基本台帳法第12条の3)、代表取締役等の住所についての弁護士による職務上請求制度の創設がなされるべきである(本意見書のほか、2018年3月15日付け「arrow_blue_1.gif会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案に対する意見」、本年3月22日付け「arrow_blue_1.gif「不動産登記規則等の一部を改正する省令案」に対する意見書」(以下「不動産登記規則等意見書」という。)。


この点、本省令のパブリックコメントの結果において、「犯罪収益移転防止法の本人確認の関係があるため、特に士業の特定事業者は閲覧できるようにしてほしい」との意見に対して「士業のみ無条件に閲覧可能とするようなことは困難と考えますが、今後の参考とさせていただきます。」との回答がなされている(「商業登記規則等の一部を改正する省令案に関する意見募集の結果について」No10)。しかしながら、職務上請求であれば、受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要があることや、代表取締役等の住所の利用目的等を明らかにしなければならず、無条件の閲覧を可能とするものではない。


なお、本年4月22日、不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第32号)により、商業登記簿の附属書類又は登記申請書の閲覧がウェブ会議システムを利用した非対面の方法でも可能となった。当該改正自体は、利害関係を有する者やその代理人が遠方の法務局にわざわざ赴く手間と時間を省けるものとして有用であるが、今般の住所非開示措置が施行されればより重要となる。上記閲覧方法を実効的なものにするためにも、当連合会が不動産登記規則等意見書で求めているように、「利害関係」を有する者について柔軟に解釈される運用が併せて必要となる。


一方で、会社を悪用した詐欺商法を含む消費者被害の回復を図るためには、保全の手続が求められたり、消滅時効が問題になったりすることもある。このような場合には、法的責任(会社法第429条第1項等)を負う代表取締役等の住所をより迅速に特定することが必要であり、附属書類の閲覧にあたってウェブ会議システムを利用し得たとしても十分ではない。


以上より、当連合会は、国に対し改めて、弁護士が職務上必要な場合に、代表取締役等の住所を迅速に把握することを可能とするため、商業登記法を改正し、商業登記においても弁護士による職務上請求制度を創設することを強く求める。



2024年(令和6年)5月27日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子