破産者情報を拡散するウェブサイトによる個人の権利利益の侵害を防ぐため、抜本的な対策をとることを国に求める会長声明


2022年6月、「新・破産者マップ」なるウェブサイトが公開されていることが報道された。同サイトは、地図上のピンに付随する形で破産者の住所・氏名を表示するとともに、そのピンに付随する破産者の個人情報を非表示にするためには6万円を、ピンごと非表示にするためには12万円を、手数料として、ビットコインで支払う必要があるとしている。また、「このウェブサイトの運営は海外で行われており、現地の法律が適用されます。基本的な問合せは受け付けておりません。」としている。


インターネット上に破産者の個人情報を掲載した「破産者マップ」と称するウェブサイトが開設されていることが広く知られるに至ったのは、2019年3月のことであった。個人情報保護委員会は、同月15日以降、破産者マップやこれに類似するウェブサイトについては、個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)に違反するおそれがあるとして、行政指導を行い、その後、あらかじめ本人の同意を得ないまま、官報に掲載された破産者情報をウェブサイトに掲載して拡散する事業者らに対し、個人情報保護法に基づき、勧告をし、停止命令をするなどの対応を行った。


しかし、あるウェブサイトが閉鎖されても、また新たな類似のウェブサイトが現れるということが繰り返され、この度、改めて、前述のような「新・破産者マップ」という極めて悪質なウェブサイトが登場するに至ったのである。


2022年7月20日、個人情報保護委員会は、「新・破産者マップ」の運営者(氏名不詳・所在不明)に対し、同ウェブサイトでは、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報が利用されていることから個人情報保護法第19条に違反する事実などがあることを認め、公示送達の方法により、同ウェブサイトを通じた個人データの提供を直ちに停止するよう勧告を実施した。たとえ公開された情報を対象としているとはいえ、「破産者マップ」のようなウェブサイトにアクセスした不特定の者により、個人情報が拡散されるなど、破産者に対する財産的・人格的差別を誘発してしまう事態が発生している。このような事態は、個人情報保護法においても禁止されている。しかし、同ウェブサイトは閉鎖されず、今も公開され続けている。


そして、このところ、前述の「破産者マップ」及び類似ウェブサイトの存在により、過去に破産した事実を知人に知られるなどし、多大な精神的苦痛を受けたという事例だけでなく、破産した場合の情報拡散を恐れるあまり、債務者が債務整理の手段として自己破産手続を選択することができないという事態も生じている。このような状況を放置することは、破産制度の「経済生活の再生の機会の確保」(破産法第1条)という趣旨を失わせるに等しく、到底看過できない。


当連合会は、2020年7月16日、「arrow_blue_1.gif公告された破産者情報を含む『本人が破産、民事再生その他の倒産事件に関する手続を行ったこと』に関する情報の拡散を防止する措置を求める意見書」を公表しているが、不当な金銭の要求まで求める「新・破産者マップ」の出現に見られるように、その後も同様の被害が生じていることを深刻に受け止めるものである。このように、個人情報保護法改正による不適正な個人情報の利用の禁止条項の制定にもかかわらず、破産公告と個人の人格尊重に照らした権利利益保護の要請との対立問題は残されており、その解決が求められている。


そこで、当連合会は、改めて国に対して、公告により公表された破産者情報を拡散するウェブサイトによる個人の権利利益の侵害を防ぐために、インターネット時代における破産公告の在り方を検討しつつ、更に抜本的な対策をとることを求める。



2022年(令和4年)8月25日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治