憲法改正による緊急事態条項の創設及び衆議院議員の任期延長に反対する会長声明
新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を機に、国会の憲法審査会等において、これらの事態に対応するために、憲法の改正により、緊急事態条項を創設することや衆議院議員の任期延長を検討すべきとの意見が強まっている。
この点、当連合会は、2017年2月17日に「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」を公表しており、また、2015年から2017年にかけて、全国の34の弁護士会及び弁護士会連合会が、災害を理由とすることも含めて日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書や会長声明を発出している。
緊急事態条項は、権力分立を停止し、政府に立法権や予算議決権を認めるものであることから、極度の権力集中による政府の権力濫用の危険性が高い。さらに、人権保障を停止することから、営業の自由や財産権のみならず、表現の自由や報道の自由等、民主主義の根幹をなす人権が大幅に制限される危険性もある。日本国憲法は、過去の緊急事態条項の濫用の歴史にも鑑みて、あえてこれを設けることをせず、緊急事態には、あらかじめ平時から個別法を制定して対処するという立場をとっているものと解される。
新型コロナウイルス感染症についても、平時の法律である検疫法及び感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律と緊急時の法律である新型インフルエンザ等対策特別措置法によって対処することは十分に可能であり、緊急事態条項の創設の必要はない。
また、憲法を改正し、衆議院議員の任期延長を認めるべきであるとの議論についても、当連合会は前記意見書において、内閣の権限濫用のおそれと国民主権の原理への弊害を理由に反対している。2017年12月22日に公表した「大規模災害に備えるために公職選挙法の改正を求める意見書」においては、大規模災害が発生した場合であっても選挙を実施できる制度に改めるべきことを提言している。新型コロナウイルス感染症という一種の災害下においても、任期延長という国民主権の原理に反するおそれのある制度ではなく、確実に選挙が実施できる制度を構築すべきである。
よって、当連合会は、立憲主義の堅持と国民主権原理の尊重を求める立場から、憲法改正による緊急事態条項の創設及び衆議院議員の任期延長に反対する。
2022年(令和4年)5月2日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治