名古屋出入国在留管理局における被収容者の死亡事件に関する会長声明



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本年3月6日、名古屋出入国在留管理局の収容場において、30代のスリランカ国籍の女性が死亡した。


亡くなった女性は留学生として来日し、その後、学費が払えずに退学して在留資格が失効し、2020年8月から収容されていた。


報道によれば、本年1月頃から体調が急変して嘔吐を繰り返し、食事も歩行もできないほど衰弱していた。本人も支援団体も、入院又は点滴をすることや、即時に仮放免許可を出すことを繰り返し求めてきたという。「ほんとう に いま たべたい です」と書かれた本人の手紙も残され、「死ぬかもしれない」と支援団体に話していたという。


2007年以降出入国在留管理局の施設で被収容者が死亡したのは、本件を含めて確認されているだけで16人にも上る。これまで、施設内で死亡事件が生じた際、法務省は内部調査しか行わず、「明らかに誤った判断であったとは言い難い」「本人を救命すること(死亡結果を回避すること)が困難であった可能性も否定できない」(2017年11月「東日本入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」)、「センターの対応が不相当であったと評価することは困難」「健康状態の悪化を食い止められなかったことはやむを得ない」(2019年10月「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」)といった調査結果が公表されてきた。


しかし、入管施設内での死亡事件が繰り返されていることは極めて深刻な事態である。出入国在留管理局は、自ら被収容者の自由を奪い、被収容者を出入国在留管理局の施設内に拘束する以上、被収容者の生命・身体の安全を守るべき責任を負っており、被収容者を誰一人として絶対に死亡させてはならない。死亡に至った原因を徹底して究明し、再発防止のための万全の体制を構築するべきである。


そのためには、もはや内部調査で終わらせるのでなく、独立した第三者委員会を設置し、迅速かつ徹底的に、透明性の確保された方法で、死亡原因、収容の経過、医療体制の問題、入通院治療のための仮放免の必要性などの調査を実施すべきである。


現在、通常国会に上程されている出入国管理及び難民認定法等の改正法案について、当連合会はその問題点を指摘している(本年2月26日付け「出入国管理及び難民認定法改正案(政府提出)に対する会長声明」、同年3月18日付け「出入国管理及び難民認定法改正案に関する意見書」)。


政府は、度重なる入管施設内での死亡事件の調査結果も踏まえ、同法案を抜本的に見直し、収容を必要最低限度に限るべきである。その上で、それでもなお避けられない収容に対しては、保安部門からの医療部門の独立とともに、医師が被収容者の健康のため保安部門に必要な報告をする制度を設けることや、医療を含む処遇に関する独立した審査機関による不服申立制度の整備、死亡事件の調査のための第三者による検証システムを創設することなど、被収容者の尊い命が失われるような事態を永遠に根絶するために、抜本的な再発防止策を講じ、万全の体制を整えるべきである。



 2021年(令和3年)3月30日

日本弁護士連合会
会長 荒   中