最高裁判所第11回「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」に対する意見書
本意見書について
2025年7月11日付けで最高裁判所が公表した第11回の「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」(以下「第11回意見書」という。)に対し、日弁連は、2025年12月18日付けで意見書を取りまとめ、最高裁判所、内閣総理大臣、衆議院法務委員会委員長・理事・委員、参議院法務委員会委員長・理事・委員、法務大臣、検事総長、高等検察庁検事長、地方検察庁検事正、高等裁判所長官、地方裁判所長、家庭裁判所長へ提出しました。
本意見書の趣旨
1 最高裁判所による迅速化検証全体に対する意見の要旨
(1) 最高裁判所は、各回の迅速化検証においては、期日における争点整理や当事者間の認識共有などの裁判の運用面に係る検証だけでなく、迅速化法第8条第1項の規定どおり、これを支える制度面や、人的、物的な体制の整備に関しても行われるよう努められたい。
(2) 国及び政府は、これまでの11回に及ぶ検証の報告を踏まえて、司法基盤の人的、物的な体制の整備に関して、司法を通じた権利利益の実現が適切に行われ、司法が求められる役割を十全に果たすために公正かつ適正で充実した裁判が迅速に行われることについての国民の要請に応えるためには、裁判の迅速化が、充実した手続の実施とこれを支える制度及び体制の整備という運用面、制度面、体制面にわたる総合的な方策の推進によって行われなければならないとする迅速化法第1条ないし第2条の基本的な枠組みに従って、必要な法制上の措置及び十分な財政上の措置など(同法第3条、第4条参照)を講じられたい。
(3) 最高裁判所は、迅速化法の立法目的(同法第1条)、各回の報告書で報告されている地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情、地方裁判所における刑事通常第一審事件の概況及び実情並びに家庭裁判所における家事事件及び人事訴訟事件の概況及び実情等などの検証の結果並びにこれからの検証の重要性などについて、広く国民一般に周知されるような措置を採るべきである。
(4) 裁判手続のデジタル化を進めるに当たっては、裁判所支部の統廃合や裁判官の非常駐化といった国民の司法へのアクセスを縮小する施策につながらないように留意されるべきである。
2 第11回報告書に対する意見の要旨
(1) 第11回報告書の民事のパートについては、今回の実情調査は全国に先駆けてフェーズ1の運用を開始した庁を対象に行われたところ、これらの庁では、特に先進的な取組が行われているため、実情調査の結果は全国の平均的な「実情」とは必ずしも一致しない点に留意が必要である。同様の事情により、実情調査の対象となった裁判所の裁判官からの聴取内容が、そのまま一般的な裁判官に求められているものではないことは報告書の記載からも明らかである上、弁護士会所属の弁護士からの聴取結果が、他の地域を含めた一般的な弁護士の見解を代弁するものであるとも言い切れない点について留意が必要である。
(2) 刑事のパートについては、被告人の防御権を保障しつつ更に公判前整理手続の期間、審理期間を短縮するためには、機材等も含めた体制面の拡充、より積極的な保釈の運用、身体拘束されている被告人の公判対応準備の環境整備などを視野に入れた検証と検討を行うことが求められる。さらに、全面証拠開示を含め、証拠開示に関する法的・制度的な改正の必要性も検討されるべきである。
(3) 家事のパートについては、家庭裁判所の繁忙度が高く負担が増していること、期日間隔が長くなっていることが、検証の結果からもうかがえる。家庭裁判所に関する検証については、手続の運用改善のみならず、裁判官、書記官はもとより、家裁調査官、調停委員の人数や繁忙度など人的な体制についての検証、調停室・待合室などの部屋の確保や、各種機材の充実など物的な体制についての検証にも観点を広げ、子ども・高齢者・障害者を含む住民の人権保障のために、家庭裁判所全体の紛争解決機能の強化、体制の拡充を視野に入れた検証と検討を行うことが必要不可欠である。
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