死刑制度に関する政府世論調査に対する意見書


icon_pdf.gif意見書全文 (PDFファイル;317KB)

2024年1月19日
日本弁護士連合会

 

本意見書について

日弁連は、2024年1月19日付けで「死刑制度に関する政府世論調査に対する意見書」を取りまとめ、同年2月16日付けで岸田文雄内閣総理大臣及び小泉龍司法務大臣宛てに提出しました。


本意見書の趣旨

当連合会は、死刑制度に関する政府の世論調査について、国民の意識をより正確に把握するという観点から、これまで2013年(平成25年)11月及び2018年(平成30年)6月に意見書を公表し、改善を求めてきた。2013年意見書の一部の提案が2014年(平成26年)世論調査に採用されたものの、当連合会の意見が十分には反映されたとは言えない。


政府は、死刑制度に関する世論調査の目的は、「死刑制度に対する賛否」の国民意識の把握ではなく、「制度としての死刑を全面的に廃止すべきであるか否か」についての把握であるとして、「死刑は廃止すべきである」と「死刑もやむを得ない」という非対称の主質問の選択肢には問題は無いとしている。しかし、これでは、「死刑もやむを得ない」の選択者(全回答者の約8割)の意見の内実は多様であるにもかかわらず一括りにされ、「国民の8割が死刑制度を容認している。」という評価がなされ、これが一人歩きし、死刑制度存置の根拠として用いられている現状にある。


2019年(令和元年)実施の政府世論調査の結果について、将来の死刑廃止の当否という観点から集計すると、死刑廃止を許容する者が41.3%、死刑廃止を許容しない者が44.0%となる(13頁表6)。つまり、将来の死刑制度存否に関する世論は拮抗していると評価できるのである。「死刑もやむを得ない」と回答している者の割合を一括りにした上、国民の8割が死刑制度を容認しているとする政府の評価は、国民の誤解を招く不適切なものであることは明らかである。


本来、上記調査目的自体を再検討すべきとも言うべきところであるが、その点を措くとしても、死刑に関する国民の意識をより正確に把握するために、質問内容を見直すべきである。そこで当連合会は、2024年(令和6年)に実施が予想される政府世論調査に向けて、サブクエスチョンの追加(意見の趣旨1(1))、死刑制度関連情報の認知度に関する質問の追加(同1(2))、及び世論調査結果の評価・公表・利用の在り方(同2)について、以下のとおり意見を述べる。


政府においては、本意見を踏まえ、質問の追加等に限らず、現在の調査目的を維持することの当否等の課題も含め、当連合会との間で協議する場を設けられたい。


1 質問の追加

  (1) サブクエスチョン(以下「SQ」という。)の追加
死刑制度に関する主質問で「死刑もやむを得ない」を選択し、将来の廃止の可否に関するSQで「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」を選択した者に対し、「状況が変われば」の具体的な中身を問う質問を追加すべきである。質問案としては、以下のようなものが考えられる。

   問 「状況が変われば」の具体的中身を教えてください。この中から、あなたの考えに近いものを挙げてください(複数回答可)。

    ア 犯罪被害者・遺族に対する支援が一層充実したものとなること

    イ 死刑に代えて、現在の無期懲役刑より重い刑が導入されること

    ウ 犯罪予防のための取組がより充実すること

    エ 犯罪者の更生支援がより充実すること

    オ 国際社会から我が国に対し死刑廃止を強く求められること

    カ 凶悪犯罪が減ること

    キ その他(    )

  (2) 死刑制度関連情報の認知度に関する質問の追加
国民の死刑制度に関する情報の認知度を把握するための質問(死刑執行方法及び死刑執行数、凶悪事件発生数、死刑廃止に関する国際的動向等に関する知識を問う質問)を追加すべきである。


2 世論調査結果の評価・公表・利用の在り方

  (1) 2019年世論調査における回答回収率は、2014年世論調査の回答率 60.9%を一層下回る52.4%にすぎず、これまでの中で最低の回収率であった。また、性・年齢層・都市規模別の回収率に大きな差異があり、回収標本は国民の縮図とは言い難い。これからして、世論調査の結果を国民の意見として扱うことはできず、政府は、このような世論調査の結果を死刑廃止に関する議論をしないための根拠に使うべきではない。

  (2) 政府は、世論調査結果の公表・利用の際、死刑制度に関する世論調査の目的が、「死刑制度に対する賛否」の国民意識の把握ではなく、「制度としての死刑を全面的に廃止すべきであるか否か」についての国民意識の把握であること、及び、その結果として、主質問の選択肢(二択)の「死刑は廃止すべきである」に対置する選択肢が「死刑は残すべきである」ではなく、将来の死刑廃止を容認する立場をも包摂する「死刑もやむを得ない」という選択肢になっていること、すなわち、「死刑もやむを得ない」という回答をする者の中に、将来の死刑廃止を容認する者を含むことを明確に説明すべきである。


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